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今日も今日とて、隣のコイツが腹を空かせて。皆を困らせています!!   作者: 土竜交趾
過去編 ~素敵な世界に一時の終止符を~
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第二百十五話 激戦地に到着!! その一

お疲れ様です。


本日の前半部分の投稿になります。




 厚い雲の隙間から差す月光とそれを受けた夜の海の白波から返って来る反射光が俺達の行く手を微かに照らす。


 空に漂う雲の多さからして海上は完全な闇かと思われたが天然自然の光は俺が思っているよりも強く、未だ見えて来ない横着者達が跋扈する島に通じる空の道の視界を確保してくれていた。


 強い自然光と言っても?? 人が不安を覚えてしまう暗さは健全であり夜の海を見下ろしていると奈落の底へと吸い込まれて行ってしまう様な有り得ない錯覚を感じてしまう程だ。


 不安な闇が蔓延るこんな日はベッドの上で互いの心を温め合う様に嫋やかな女性と肌を合わせていたいけども残念ながらそれはお預けである。


 何故なら俺達には絶対に達成せねばならぬ重い使命が課せられているから。



「よぉ!! 相棒――!!!! 見えて来たか――!!」


 俺達の随分と前を飛翔し続けている相棒の翼に向かって吠える。


 空から差し込む月光の怪しい色も相俟って神々しい翼はやたらと神秘的に見えるぜ。


「まだだ!! それと現在は作戦行動中だからその五月蠅い口を閉じていろ!!」


 まぁ!! お母さんが折角緊張感を解そうとして叫んであげたのに貴方はそうやって邪険に扱うつもりなのね!?


 お母さんは貴方をそんな風に育てた覚えはありませんっ!!


「それはテメェもだろうが!! もうちょっと大人しく飛びやがれ!!」


 猛禽類特有のおっそろしい瞳で俺を睨み付けて来やがった相棒に叫ぶと大人しく籠の中に身を顰め、真正面から吹き荒ぶ風から身を守った。


 四ノ月の夜風は大変体に沁みますなぁ……。


 毛布の一枚でも持ってくれば良かったぜ。


「なはは!! 何じゃ、お主ハンナ先生にしかられたようじゃな」


 籠の中でモッフモフの尻尾を軽快に揺らしながらイスハが話す。


「叱られると言うよりもいつものやり取りだって。大体、アイツはいっつも俺の事を……」


 何だ、毛布は別に要らなかったじゃん。


「いつもお主の事を?? 続きはどうした」


「小馬鹿にしないと気が済まないんですよ――っと!!!!」


 俺の体の前でピッコピッコと揺れる尻尾を力強く抱き締め毛布代わりにしてやった。


 んぉぉおお!! 何コレ!? めっちゃ温かいんですけど!?


「んぎゃぁ!? 何をするのじゃ!!!!」


 一頭の狐が背後からの突然の拘束を逃れようとしてジタバタと暴れるものの、それを上回る力で強烈に拘束してやる。


「寒いから毛布代わりにしてんだよ。はぁ――……。ぬくい、ぬくいっ」


「わしを毛布代わりにするな!!!! ハンナ先生が言った通りおぬしはもう少しきんちょう感を持つのじゃ!!!!」


 世界最高峰の柔らかい尻尾を持つ狐ちゃんが何を思ったのか、憤り全開の声色を放つと俺の左腕に思いっきり噛みつくではありませんか!!


「いっっっってぇぇええ――――!!!! テメェ!! 犬歯で噛むんじゃねぇ!!!!」


「お主がわふぅいんじゃろうふぁ!!!!」


「はぁ――……。頼むからもう少し集中してくれよな……」


 俺達の他愛の無いやり取りを眺めて居たハーピーのあんちゃんの溜息混じりの声が背に届く。


 これから始まるであろう激戦に向けてじゃあないけども多少の横着は見逃して欲しい次第であります。


「もう少し離れろ!!」


「いいや離れないね!!!!」


 ヤレ引っ付くな、ヤレ温ませてくれ等々。


 大変狭い籠の中で狐のお子ちゃまと小格闘を繰り広げていると急に飛翔速度が緩んだ。



「ダンさん、もう間も無く島に到着します。作戦は手筈通りに進めて下さいね」


 ん?? ランドルトさんの声だ。


「勿論ですとも!!」

「だから離せと言っておるじゃろうが!!」


 俺の拘束から逃れようとして相も変わらず暴れ続けている狐を腕の中で抱きつつ籠から顔を覗かせて返事をする。


「相棒とフィロが並んで島の北側へと突撃を開始。東西南に奇襲を掛ける俺達は相棒達の背に隠れ、海上すれすれにまで降下しそれぞれの目的地へと向かって行く。作戦開始地点に降下したのなら各自敵線を突破して中央に向かって突撃を始める……。こう見えてもちゃんと作戦の全体像は頭の中にしっかりと入っていますので御安心下さいませっ」


 何やら不安気な瞳の色で俺を見つめている黒翼の戦士ちゃんに親切丁寧に作戦の概要を復唱してあげた。


「それなら結構です。繰り返しますが本作戦の敵は一つではありません」


「えぇ、『時間』 という厄介な敵も存在しますからねぇ……」



 敵を無力化するのは容易い……、訳でも無いけど。最も厄介なのは時間だ。


 前線を突破する時間が長ければ長い程、レオーネ女王様に凶刃が襲い掛かる可能性が高まってしまうのだから。



「仰る通りです。命の危険が付き纏う作戦ですがどうか我々に最後まで御助力して下さい」


「はは、畏まらなくても良いですよ。俺達は好きで行動しているのですからね」


「わしは強くなる為じゃぞ!!!!」


「力強い御言葉を頂き励みになります。では……、失礼しますね」


 彼が強き決意の炎を瞳に宿すと西の方角へと向かって飛翔して行った。


 ランドルトさんはシュレンとミルフレアと共に西側で行動する予定で、相棒とフウタは北側で大立ち回りの役割。


 東で単独行動するマリルさんは全く問題が無いと思うのだけれども……。


「ぷはっ!! はぁ――……。ようやく抜け出せた」


 問題はこの狐ちゃんだよねぇ。


「よぅ、イスハ。ちょっといいか??」


「何じゃ!!」


 あ、うん。物凄く近い距離に居るからそこまで叫ばなくてもちゃんと聞こえますからね。


「もう十二分に理解していると思うけど、作戦が始まったら自分の命は自分で守れよ??」


 先程までのお茶らけた感じを一切合切消失させ、真面目そのものの声色で話す。


「わかっておるわ!! 初の実戦を終えたわしなら相手に気圧される事もなかろうて!!」


「ば――か、それを驕りって言うんだ。お前の身は出来る限り守ってやれるが戦いの最中にどうしても守ってやれない場面が訪れるかも知れない。そういう時は覚悟を決めろって意味だよ」



 中途半端な覚悟で戦地に臨み己の窮地に立たされてしまえば体が硬直して動けなくなる恐れがある。それと、万が一俺が命を落とした場合たった一人でその窮地を脱出せねばならなくなる。


 驕り、油断、慢心。


 戦いに不要な精神は捨て置けと、どこぞの大飯食らいの白頭鷲ちゃんがいつも口を酸っぱくして俺に説いてくるものねぇ。


 まさか俺がその役目を担う日がやって来るとは思わなかったぜ。



「うむ……、分かった。わしは強くなると決めたのじゃ。それ相応の覚悟を持って戦地に立つ」


「んっ、分かってくれればそれでいいさ」


 我が子の頭を撫でる様に俺と同じく真面目なキリっとした表情の狐ちゃんの頭をそっと優しく撫でてあげた。


「じゃから子供扱いをするなと言っておるじゃろうが!!!!」


「いでででで!! や、止めろ!! これ以上噛みつかれた禿ちまうってぇ!!!!」


 折角俺が優しく撫でてやったってのに何で頭に噛みついて来るんだよ!!


 人の厚意を無下に扱っちゃあ駄目ってお前さんの先生に習わなかったのかな!?


「おりゃぁぁあああ――!! おっし!! 漸く外れたな!!」


「おい、そろそろ単独行動に移るぞ」


 狐の横着な顎を何んとか外し終えると直ぐ後ろから強面風の声色が届いた。


 単独行動に移るって事はだよ?? 島が見えて来たのかしらね??


「ぐぅぅ……。わしの牙もまだまだ及ばずか」


 何とかしてもう一度噛みつこうとしている狐ちゃんの頭をぎゅっと抑えて籠から頭をひょっこり出すと暗き海上の上に乗っかる黒い塊を捉える事に成功した。


「あそこが……。大馬鹿野郎共が占拠している島か」


 周囲の光が弱くて全体像は掴めないけども影の大きさからしてかなりの面積を有しているだろうな。


 海上線に映る巨大な影がやたらと不気味に映るぜ。


「そうだ。島の周囲は崖と砂浜で覆われ島の中央には険しい森がある。森の中は意外と広いから迷うなよ??」


「了解っと。相棒――――!! じゃあ行って来るわ――!!!!」


 俺達を先導している巨大な白頭鷲の翼に向かって再び叫ぶ。


「分かった!! くれぐれも油断するなよ!?」


 何でチミは俺が油断する前提で話すんだい?? 甚だ疑問が残るばかりだぜ。


「それはこっちの台詞だ!!!! マリルさんも気を付けて下さいね――!!!!」


 東側を担当するマリルさんを運搬している籠に向かって叫ぶと。


「はぁ――い!!」


 彼女は俺の声が聞こえたのか、籠からひょこっと顔を覗かせて返事をしてくれた。



「では皆の者!! これより行動を開始する!! 作戦行動地点に到達したのなら直ぐに行動を開始するように!! 各員、健闘を祈る!!!!」


 ランドルトさんが俺達の気を引き締める意味での檄を飛ばすと。


「「「おおぅっ!!!!」」」


 それに呼応した者達の覇気ある返答が刹那に空気を震わせた。



 さぁってと、藪を突いたら出て来るのは蛇か将又とてつもねぇ邪悪な化け物なのか……。


 それは定かでは無いが此処から先は己の命が一切保証されていない茨の道だ。


 道の途中で足を踏み外せばあっと言う間に闇の底に向かって真っ逆さまに落ちて行ってしまうだろうし、相応の気持ちを持って作戦行動に臨むとしましょうかね!!!!


「降下して島を迂回するぞ!!」


「イスハ、絶対に皆で帰って来ような」


「ふん、当り前じゃろうが。一々小言が多い奴め……」


 狐のお子ちゃまと共に気持ちを切り替えると一寸先の未来が見えない険し過ぎる茨の道へと突入して行ったのだった。


お疲れ様でした。


現在、鍋焼きうどんを食しながら後半部分を執筆しておりますので次の投稿まで今暫くお待ち下さいませ。

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