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今日も今日とて、隣のコイツが腹を空かせて。皆を困らせています!!   作者: 土竜交趾
過去編 ~素敵な世界に一時の終止符を~
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第二百十四話 間も無く南の島へと出発 その一

お疲れ様です。


本日の前半部分の投稿になります。




 真っ赤に燃えていた炭が徐々にその熱量を失い蛍の瞬きの様な火の揺らめきを見せる様に、頭上で強烈に光り輝いていた太陽は力を失いつつ西の果てへと沈んで行く。


 これが日常生活の一場面なら俺達が住む星を照らしてくれた彼若しくは彼女に対して礼を述べて安らぎが待ち構えている家へと向かい明日に備えるのですが、いかんせん本日は非日常の中なのでそれは許されない。


 そう、俺達は気を抜く許可は一切与えられていないのだ。


「んっ!! はぁ――…………。取り敢えず用意は出来たし、後は出発を待つのみだな」


 フウタが背筋をグゥンと伸ばし、体の中から溢れ出て来る欠伸を抑える事無く自由に解き放つ。


 適度に気を抜くのは構わないけども完全にだらけるのはおよしなさい。この後に激戦が控えているのですからね。


「だな。どうする?? 軽く飯でも食っておくか??」


 南の島への出発予定時刻は夜の八時。つまり俺達には残り数時間の猶予が与えられている。


「おっ!! いいねぇ――。古米を使ったおじやでも作りやがれ!!」


 そこは命令口調じゃあ無くて遜る場面ですぜ??


 まっ、そう言ってもコイツは俺の話を聞きやしないし。戦いに備えて体力を温存しておきたいので反論もしませんっ。



「へいへいっと。荷物の中に確かまだ残っていた筈だよな……」


 普遍的な家屋の玄関脇に一塊に置いてある荷物に向かって歩んで行く。


「むっ……」


 荷物の脇には腕を組み仏頂面で目を瞑ってこれから始まるであろう戦いを想像している相棒が座り。


「ふぅむ……。島の全体像は頭に入ったが敵の戦力が少し流動的になりそうだな」


 その直ぐ近くにはマリルさんから頂いた地図を念入りに頭の中に叩き込んでいる人の姿のシュレンが居た。


「よぉ――。お前さん達も軽く食っておくか――??」


「あぁ、頂こう」


「これから始まる戦いに備えて少しでも栄養を摂っておきたい。俺は大盛だ」


「んじゃあ残っている古米を全部使っちまうか」


 残っている調味料も残り僅か。戦いを終えたら直ぐに発つだろうし此処で食料を残す必要も無いからね。



「お――い!! そっちはどうだった!?」


「駄目だ!! 壁が崩れて真面に暮らせないよ!!」


 街の主大通りを忙しなく行き交うハーピーの方々の大声と。


「お兄ちゃん達有難うね――!!!!」


 まだまだ元気一杯のお子ちゃまの声を背に受けつつ準備を整えて行く。



「あはは。気を付けて帰るんですよ――」


「うん!! お兄ちゃん達もはやく帰りなよ――!!」


 俺が軽く手を振って上げると笑顔が素敵な男児は西方向へと小さな足を器用に動かして駆けて行ってしまった。



 彼の元気な笑みと街の人々の活気溢れる姿を捉えると頑張った甲斐があるなぁっと思わず双肩の力を抜きそうになってしまうが、それは許されていない。


 何故なら南の島には恐ろしい力を持った魔物達が此処を狙って目を光らせ、更に里の最重要人物である女王様が拘束されているのだから。


 だけど……。取り敢えず彼等の生まれ育った街を、そして笑顔を守られて良かったといった所でしょうかね。


 里の方々の漲る活力、頑是ない子供の笑みが最終戦に備えての活力となりましたよっと。



「無理矢理働かされていたってのに元気一杯だよなぁ」


「拘束期間が短かった事、それと解放された事による陽性な感情がそうさせているのだろう」


 フウタとシュレンがいつもと変わらない表情で通りへと視線を送っている。


 その瞳の色は俺と同じく温かい色が含まれていた。


「彼等の真の安寧はまだ訪れていない。それを忘れるな」


 うちの相棒は忍ノ者と違い険しさそのものを表すかの様に鋭く尖っている。


 こういう時位気を抜けよと突っ込みたくなるがハンナの放った言葉は確実に的を射ているので流しますっ。


「古米は水に浸す時間が大切なのですよ――っとぉ」


 使い古された土鍋に満たした水の中に用意した古米を投入しようとした刹那。



「「「「……ッ」」」」


 仮初の平和が蔓延る里に不釣り合いな殺気を振り撒く五人の男共が此方にやって来る姿を捉えてしまった。


 携帯している武器は見当たらないが双肩から滲み出る怒気や瞳に宿る憎しみの炎の色は戦地に足を下ろす戦士そのものであり、何か切っ掛けがあれば此処で直ぐにでも殺し合いが始まってしまいそうな物々しさを他者に与える。



「お、おい。どうしたんだよ」


 修羅の圧を纏う彼等を捉えた里の者達は何事かと考え声を掛けようとするが……。


「気にするな」


「そ、そっか。分かった」


 彼等の圧に気圧されてしまい自分が向かっていた方向へと速足で進んで行ってしまった。



 あらあらまぁまぁ……。既に敵は無力化しているってのに随分と殺気だっていますなぁ。


 一体全体彼等は何故あぁも怒っているのだろうか??


 余り深く考えなくてもその理由は容易く理解出来てしまう。それは俺達の後方にある家屋に拘束されている彼女達の存在だろうさ。


 俺の考えが正しいと証明するかの如く、彼等は戦士の圧を身に纏いつつ俺達の前に到着した。



「よぉ兄ちゃん達!! そんな殺気を振り撒いて一体どうしたんだよ!!」


 フウタが彼等を刺激しない様に明るく努めて第一声を放つ。


「貴方達が我々の里を守ってくれたのはランドルトさんから聞いたよ。改めて礼を言わせて貰う」


「礼は別にいいって!! その代わり可愛い子を紹介してくれよ!!」


「お兄さん達、そいつは常軌を逸した威力の不能を罹患しているから女の子を紹介しても無駄だぜ??」


 両手に付着した汚れをパパっと払いちょいと筋疲労が目立つ足を動かして立ち上がると先頭に居る目付きの恐ろしい男性にそう言ってやる。


「不能とか言うな!! 楽しいお出掛けをすれば治るかも知れねぇだろう!?」


「その程度で治るならもうとっくに治っているさ。お兄さん達が此処に来た理由は多分……」


 大雀蜂ちゃん達が拘束されている家屋に向けてクイっと親指を指してやると。


「察しが早くて助かる。我々が受けた痛みをそのまま返すつもりで此処に来た」


「その通りだ。俺達の故郷を滅茶苦茶にした奴等は絶対に許せない」



 でしょうねぇ……。奴隷から解放されてすんなり終了って訳にもいかねぇし。


 彼等の怒る気持ちは痛い程理解出来るけども、このまま彼等をすんなり通す訳にもいかない。


 何故なら憎しみの連鎖は此処で断たないといけないからだ。


 憎しみが憎しみを呼び、血で血を洗う戦いを此処で起こす訳にはいかない。



「いやいや!! お兄さん達が怒る理由は重々承知しております!! しかしですね?? 彼女達を殺して憎しみが晴れたとしても、彼女達を殺された仲間は更に怒り狂って此処に舞い戻って来る可能性がありますぜ??」


 さり気なく俺の脇を通り過ぎようとした男性の前に体をきゅっと捻じ込んで話す。


「その時は今よりも力を付けて迎え撃つ」


「お主達で対処しきれぬ物量で向かって来たらどうするつもりなのだ?? 此処には素晴らしい命が輝いている。それを脅かす行動を取るのなら某達は黙って見過ごさないぞ」


 まぁっ!! シュレンちゃんったら嬉しい事を言っちゃってくれて!!


「だったらどうすればいいんだよ!! 俺達の里を滅茶苦茶にした奴等を黙って見送れって言うのか!?」



 彼等の気持ちは痛い程理解出来る。誰だって生まれ故郷を破壊されたら負の感情が湧くだろうし。


 だけど、この里に血の雨を降らす訳にはいかない。


 血生臭い戦よりも春の温かさを感じられる雰囲気が良く似合う里になって欲しいのだから。


 俺達と殺気だった里の兄ちゃん達とちょいと激しめの言い合いを続けていると東の方向からこの雰囲気にちょっと浮いた空気を身に纏う女性が静かな足取りでやって来た。



「ダンさん、準備は整いましたか??」


 柔和に弧を描く美味しそうなマリルさんの唇ちゃんから放たれた柔らかい言葉がこの物々しい雰囲気を少しだけ丸くしてくれる。


 相も変わらず朗らかな空気を纏っていますなぁ。


「え、えぇ。今から軽食を取ろうと考えていたんですけども……」


「まぁそうなのですか。所で此方の方々は??」


「実はですね……」


 数分前に起こった出来事を簡潔に話して行くと。


「……」


 マリルさんの笑みはあっと言う間に消え失せ、その代わりに悪鬼羅刹も慄く大変こわぁい表情に変化してしまった。


「――――。と、言う訳でちょっと揉めているんですよ」


「成程。皆さん、お気持ちは分かりますけど此処は一つ、その怒りの気持ちを抑えてくれないでしょうか??」


「マリル殿の頼みでもこればかりは流石に見逃せない」


「あぁ、その通りだ。俺の妻子は奴等に酷い仕打ちを受けたんだ。その報いは必ず受けて貰う」


 あの表情を受けても胸の中に渦巻く怒りの炎は鎮火しませんか。


 俺なら恥も外聞もかなぐり捨てて尻尾捲って地の果てまで逃げ遂せる怖さですけども……。



「皆さん、良く聞いて下さい。遥か彼方から訪れた侵略者達に報いの刃を向けたくなる気持ちは痛い程理解出来ますよ。しかし、今から貴方達が行おうとしている事は近い将来必ずこの里に降りかかります。派遣した戦士達がその地で惨たらしく命を落としたのなら確実に向こうは兵を増員させてこの地に向かわせるでしょう。そうなれば血で血を洗う戦いは必至。想像してみて下さい。素敵な平和が溢れるこの里で阿鼻叫喚の悲惨な地獄絵図が描かれる事を」


「「「……」」」


 彼女がそう話すと彼等の間に刹那の沈黙が広がる。



「里は破壊し尽くされ、愛する者達が亡き者になり、己自身も無念の非情を抱いて土に還る。そんな状況を招こうとしているのですよ?? 貴方達は」


 マリルさんの話す事は一字一句間違っていない。でも、彼等の気持ちは十二分に理解出来てしまう。


 余所者である俺がそう感じるのだから彼等は此方の数十倍の葛藤に苛まれている事だろう。


 奥歯を噛み締め、悔しさをぐっと堪えて輝かしい未来に備えるのか。将又怒りに身を委ねて刹那の暴力を揮うのか。


 対照的な両者に両腕を引っ張られて心が揺らいでいる彼等を見守っていると一人の男性が決意を籠めた瞳を浮かべて声を放った。



「それでも俺はあいつらを許せない!!!!」


 どうやら彼の心の中では修羅の力が勝ってしまった様ですね。


 怒りの炎を瞳に宿し、大雀蜂ちゃん達が拘束されている家屋の扉へと向かって大股で向かって行ってしまう。


「待って下さい。いけませんよ」


 彼を止めようとしてマリルさんが男の右肩に手を掛けた刹那。


「放せ!!!! 俺は皆の代わりにアイツ等に鉄槌を下してやるんだ!!!!」


 何んと振り向きざまにマリルさんの顔を殴ろうとするではありませんか!!


 こりゃ不味い!! お前さんは最も手を出しちゃあ不味い相手に攻撃を加えようとしていますぜ!?


「ッ!!」


 頭で考えるよりも早く体が動き、彼の拳の軌道上に無理矢理体を捻じ込んでやった。


「アベチッ!?」



 あ、あはは。この人、本気で殴ろうとしていましたね。


 頬肉が潰れるジンとした痛み、そして口の中にふわぁっと広がって行く血の味が彼の怒りの尺度並びに憎悪の大きさを表していた。



「い、いちち……。お兄さん。怒るのは分かるけどさ、憎しみの連鎖は此処で絶たなきゃいけないんだ」


 大変痛む頬を抑えつつ話す。


「マリルさんが言った通り、このままアイツ等を殺せば取り返しのつかない事になる。それを理解しているから彼女は貴方の肩に手を掛けたんだ」


「だったらどうすればいいんだよ!! 黙ってアイツ等を見逃せって言うのか!?」


「よぉ、兄ちゃん。安心しなって。俺様達がアイツ等を故郷に送り返す前にケジメを付けさせるからさ。それでも納得しないのなら俺様達が気の済むまで相手になってやるぜ??」


 いつでも事を始められる様に構えているフウタがドスの利いた声を出す。


「マリル殿が言っている事は正しい。里の大勢の命を脅かすつもりなら……。この刃が黙っていないぞ」


 これが最終警告だと言わんばかりに相棒が愛剣の柄に手を添えた。



「御二人共、そこまでです。貴方達が憤る理由は御尤もです。誰だって愛する土地を穢されたら怒り狂い凶刃を振り翳す事でしょうから。しかし、それでは幾重にも重なり合った憎しみの鎖からは抜け出せません。ですからどうかお願いです……。この里の未来を願うのであればその拳を仕舞って頂けないでしょうか??」


「「「……」」」


 マリルさんが彼等に向かって腰を折り静かな願いを込めたお辞儀をすると彼等の拳は徐々に開き双肩に纏っていた殺気は静かなる風が押し流して行った。


「分かった。マリルさんの言う事を聞くよ……」


「本当ですか!?」


「その代わり……。俺達が受けた痛みを奴等の体に刻み込んでやってくれ。それが唯一の条件だ」


「程度にもよりますがそちらの条件を飲みましょう」


 彼等がマリルさんに条件を提示して去って行くと一触即発の雰囲気が霧散。


 里に流れている温かな雰囲気が俺達を包み込んだ。


「ふぅ――……。何んとか収まったな」


 西の方角へと去って行く彼等の背を見送りつつ双肩の力をフっと抜いた。


「ダンさん有難う御座いました」


「いえいえ。咄嗟に体が動いたので痛みは致し方ないかと」


 これにていざこざは終了っと。腹を空かせたワンパク坊主達の胃袋を満たしましょうかね。


「あ、ちょっと待って下さい」


 中途半端に終えた食事の準備に取り掛かろうとしたのだが、マリルさんが俺の右肩をやんわりと掴んでそれを阻んだ。


「怪我の治療をします」


 彼女がそう話すと通常あるべき男女間の距離から親しい男女中の距離に近付き、まだじぃんと痛む頬に向かって右手を翳して治療を始めてくれた。


「直ぐに終わりますから動かないで下さいね……」


 青みがかった黒き髪からふわぁっと漂って来る大人の女性の香りと見えない空気を伝って来る素敵な体温がもう一人の悪い俺の肩をトントンと叩き始めてしまった。



 う、うぅむ。控え目に言ってもいい雰囲気だとは思わないかい??


 人の目がありますが此処は一つ、大人の冒険の第一歩を踏み出そうじゃあありませんか!!



「結構腫れていますね」


「そ、そうですか!? じゃ、じゃあもっと近づかないといけませんよねっ!!」


 自分に体の良い言い訳を放ちだだでさえ近い距離を更に削り互いの服が擦れ合う位置にまで近付いてあげた。


「ふふ、治癒魔法に距離は関係ありませんよ??」


「俺は傷よりもこの心を温めて欲しいですね……」


 彼女の左手を柔らかく手に取り己の胸に添え、空いている己の左手をマリルさんの背にそっと回した。



 親しい恋人同士が取る姿勢に移行した訳なのですが、彼女から一切の拒絶は感じられぬ。


 い、いや。寧ろ受け入れてくれると言った方が良いかも知れませんね!!


 俺の横着を振り払う姿勢も取らないし、距離を取ろうとしないもの!!


 こ、これは…………。イケるッ!!!!



「ん――――っ」


 心に渦巻く厭らしい声に従い、静かに瞳を閉じて彼女の美味しそうな唇に向けて接近を開始。


 マリルさんの体を左手でキュっと抱き締めて女体を体の前部で楽しむと期待に胸を膨らませながらイケナイ接近を続けた。


 さ、さてさてぇ決戦に向けての手向けじゃあないけども!! 大人の時間をじっくりとそしてねっとりと味わいましょうかね!!


 もう間も無く唇に感じるであろう至高の柔らかさを想像していると、ズンっ!! という轟音共に地面が微かに揺れ動いた。



 うん?? 何で地面が揺れたのかしら??


 震源を確認しようとして恐る恐る瞳を開くと。



「カロロロ…………」


 マリルさんの体越しに憤怒に塗れた龍のドデカイ顔面を捉えてしまった。


「おい、何してんのよ」


「え、えっとですね……。今現在、治療中で御座いまして動けないんです」


 誰が聞いてもそれはちょっと無理があり過ぎるだろうと思われる言い訳を皺だらけの龍の鼻頭に向かって放つ。


「先生!! さっさとその馬鹿から離れてよ!!」


「フィロ、ダンさんは私を守ってくれたからこうして治療をしているのですよ??」


「守ったぁ?? 一体何があったのか知らないけども……。卑猥な行動は御法度ですよ――っと!!!!」


「イヤァァアアアアアア――――ッ!! ドデカイ龍に食われるぅぅうう!!!!」


 フィロの大きな手が俺の胴体だけを器用に掴むと勢い良く天に向かって掲げてしまう。


「食うか!! あ、でもぉ……。馬鹿な行動をした愚か者にはそれ相応のお仕置きが必要よねっ!!」


 真っ赤な龍鱗を身に纏う龍が大きな口をあんぐりと開き、俺の頭蓋を鋭い牙の上にキチンと収めた。


「ほぉらっ。反省しないと龍の牙があんたの頭蓋を噛み砕くわよ――」


「や、やめろ!! 戦いが始まる前に大怪我なんてしたら洒落にならないだろうが!!!!」


「他所の土地で卑猥な空気を垂れ流す馬鹿野郎にはこれ位のお仕置きが丁度良いのよ」


「ギャハハ!! おい、ダ――ンっ!! 早く抜け出さないと頭を噛み砕かれちまうぞ!!」


「ふっ、馬鹿は死んでも直らんと言われているからな。例え頭蓋を噛み砕かれてもソイツの馬鹿は直らんぞ」


「「「あはははは!!!!」」」


 忍ノ者の二人が軽快な笑い声を放つと俺達のやり取りを眺めて居た里の人達からも大きな笑い声が零れて来た。


 一日の終わりに相応しい夕焼け空に良く似合う光景なのですが、生憎此方は生死の境を彷徨っていますので笑える余裕は無いのです!!!!



「あははっ!! お兄ちゃん、かっこ悪いね――!!!!」


「そ、そこの君!! 笑っていないでこの龍の横着を止めてよ!!」


 フィロの足元でケラケラと笑う女児に向かって勢い良く叫ぶものの。


「やだ――!! かっこいい龍のお姉ちゃんの方が好きだもんっ!!」


 時に子供は残酷だ。


 頑是ない子供の笑みを浮かべた女児は龍の足を小さな腕でキュっと抱き締めてしまったのだから。


「おぉ!! あんたはさっき私が背中に乗せてあげた子か!!」


「うんっ!! 自分で飛ぶのも楽しいけど龍の背中に乗るのも楽しかったよ!!」


「そうかいそうかい!! 南の島から帰って来たらまた乗せてあげるわね!!」


「いでぇ!! フィロ!! 俺の頭を甘噛みしたまま話すな!! テメェの牙が頭皮を傷付けているんだよ!!!!


 頭からツツ――っと垂れて来る深紅の液体を必死に手を動かして拭うものの龍の咬筋力は伊達では無く、喋る力と同調する様に俺の頭皮を悪戯に傷付け続けていた。


 だがまぁ暗い雰囲気のまま決戦地に発つのもアレだし。身を挺して笑いを取るのも必要な行為なのかも知れない。


「下手に動くと勢い余って呑み込んでしまうかも知れないからジっとしていなさいよねぇ――」


「ひゃ、ひゃい。分かりました」


 龍の牙に挟まれ、死に至りそうな微妙な甘噛みをされながら悔し涙に近い雫を両の瞳から零しつつそんな事を考えていたのだった。



お疲れ様でした。


現在、後半部分を執筆中ですので次の投稿まで今暫くお待ち下さいませ。

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