第二百十三話 作戦会議中はお静かに その一
お疲れ様です。
本日の前半部分の投稿になります。
イイ感じに生活感溢れる木の温もりと埃の匂いが混ざり合った普遍的な家の香りが室内に漂う。
仕事で又は遊びに出掛けて家に着き、この香りを嗅ぐとあぁ漸く家に帰って来たのだなぁっと双肩の力を抜いて素敵な明日を夢見てベッドに横たわるのだが本日は力を抜く訳にはいかない。
「ちょっ!? あんた一体何をされたのよ!?」
「そ、そんなマジマジと見ないでよ!!」
そう、大勢の人達に横着を働いた南からの来訪者達の後始末を終えていないからだ。
「はぁ――い。語り合いたい事は沢山あるだろうけども静かにしましょうね――」
頑丈な縄で拘束した女戦士達を一箇所に纏め、更に椅子に拘束されている女性をえっこらよっこらと部屋の端へと運搬する。
勿論、『濡れた』 場所を一切触れずにだ。
「き、貴様!! 私にこんな凌辱を加えてタダで済むと思っているのか!? 我々一族がその気になればこの里の住民を皆殺しにする事は容易いのだぞ!?」
「人前で大恥を掻いて憤るのは理解出来るけどよぉ。そっちがその気ならこっちも黙っちゃいないぜ??」
入り口の扉に背を預けて俺の運搬作業をのんびりと眺めて居るフウタが少しドスの利いた声でそう話す。
随分と楽な姿勢ですなぁ。暇ならこっちを手伝ってくれてもいいのに。
「あぁ、その通りだ。マリル殿の生易しい拷問では無く本物の死を与える事だって出来るのだぞ??」
敵の言葉遣いが癪に障ったのか、相棒がただでさえ鋭い目元を更に尖らせる。
「や、やってみなさいよ!! 私達だってそれ相応の覚悟を持って戦場に来たんだから!!」
まぁまぁこの人達ったら面倒な話を蒸し返して……。
「よっこいしょっと!!」
「きゃあ!? もうちょっと静かに置きなさいよね!!!!」
俺が大袈裟に椅子を床に下ろしてやると若い女性特有の甲高い悲鳴声が室内に響く。
「あはは、わりっ。俺達がお前さん達を殺さない理由は何だと思う??」
軽快に手をパパっと払い口角を少しだけ上げて目元の涙の跡が乾ききっていない虎色の髪の女性を見下ろしてやる。
「これから南の島に向かい私達の本陣を落とそうとしているのは分かっているのよ。旗色が悪くなり、いざという時に盾に使うつもりなんでしょう?? それ位容易に想像出来るわ」
あぁ、そういう使い方もあったか。人質を盾にして相手の油断や隙を誘って敵を倒す。
無力化した敵を有効活用するのは最も効率的かも知れないけどちょぉっとそれは俺の道理に反するんだよねぇ。
「ば――か。俺様達に負けたテメェ等なんか既にお払い箱なんだよ。本陣に居る連中は肉の盾ごと俺様達を剣で穿つだろうさ」
「あっちの口の悪い男が言った通りあんた達は盾の役目すらも果たせないかも知れないぞ??」
「戦場で命を落とすのは戦士としての本望だ!!!!」
「ギャハハ!! 情けなく漏らした野郎がどの口で言うんだよ!!!!」
フウタが決意を籠めた熱い瞳で俺を睨み付けた女戦意を揶揄うと。
「ウッ、ウゥゥッ!!!!」
彼女の丸い瞳端っこに小さな水滴がじわりと浮かんだ。
「ま、まぁアレは仕方が無いよ。特殊な訓練を受けていないと耐えられない代物だし。兎に角!! 俺達は口も悪ければ態度も悪い野郎共だけどさ。根は真面目で天に向かってシャキっと伸びている信念を持った不真面目そうに見える正義の使者とでも言えば良いのかな?? お前さん達が手を出して来ない限り殺しはしない。だから全てが終わるまで此処で大人しくしていてくれ」
相手を労わる訳じゃあないけども、羞恥に塗れて今にも憤死してしまいそうになっている女戦士の右肩を優しくポンっと叩いてやった。
「ちっ!! わ、私はあんた達に負けた訳じゃないからね!! あの女にヤられただけなんだからぁ!!」
はいはい、分かったからそうギャンギャン騒がないの。
女性の金切り声は頭の中に妙に響くから苦手だぜ。
「ダン、マリル殿が待っている。そろそろ行くぞ」
おっと、そうだったな。
早く行かないと俺達も彼女同様、とんでもねぇ刑罰を与えられる可能性があるし。
「と、いう訳で暫くの間此処で休むといいさ」
「不穏な空気を捉えたら直ぐに飛んで来るからなぁ――」
「五月蠅い!! 早く出て行け!!!!」
敵に負けて酷い辱めも受け、更に敵から説教をブチ食らっても折れない心の強さは認めるけども、アレだけ元気な捕虜も珍しいぜ……。
「ね、ねぇ。いい加減何があったのか教えてよ」
「は、話したくない!! 私は世界最悪の拷問を受けてこうなったのよ!!!!」
相も変わらず元気溌剌な辱めを受けた敵の声を背に受けて外に出ると徐々に元気が無くなって来た太陽の笑みを捉えた。
不味いな、早く作戦とやらを決めないとあっと言う間に夕方と夜を迎えてしまいそうだ。
「すいませんお待たせしました!!!!」
御主人様の命令を受けて颯爽と馳せ参じた愛犬宜しくマリルさんが入って行った家の扉を開けた。
「あ、お疲れ様です。今丁度南の島の簡易地図を作成した所でしたよ」
ちょいと痛みが目立つ家に入って先ず目に飛び込んで来たのはマリルさんの笑みと大きな机だ。
机を囲む様に六つの椅子が並べられており、日常生活の中で使用されるであろう食器類は肩身を狭そうにして机の端に寄せられている。
家族団欒を交わす机の中央にドンと腰を据えているのは大きな紙。
机上の主役である食器類の代わりに置かれた紙には南の島の簡易地形が既に描かれており、敵性勢力の配置が正確に記されていた。
「ふふっ、上手に描かれていますでしょう??」
「島全体が俯瞰して見られる様になっているので完璧ですよ。有難う御座いますね」
その地図を満足気に見下ろしている彼女に対して礼と労い、両方の意味を籠めた声を放つと俺達は早速机を囲む様に位置を取った。
「さて、敵さんから入手した情報によると敵の主戦力は島の北側に配置されています」
俺達が配置に就くのを見届けるとマリルさんが軽く咳払いをして第一声を放つ。
「敵性勢力の総数は二十名。その内の約半数である十名が北側に、続いて西、東、南には各二名が。そしてこの深い森の中央には四名の敵が配置されています」
彼女が細い指で言葉と同調する様に順次方角を指差して行く。
「ランドルトさんが仰っていた敵の幹部は何処に配置されているのです??」
ちょいと気になった質問を険しい瞳を浮かべているマリルさんの横顔に問う。
「北側に一名から二名が配置され、北側に一名が配置された場合西、東、南のいずれかに配置されているそうです。そして中央には彼女達を一手に纏める隊長格が陣取りレオーネ女王の監視の任に就いて居るそうですよ」
ほぉ、幹部の一名は流動的に動き他の二名の位置は固定されているのね。
「ちっ、配置が不明瞭な幹部の存在が厄介だぜ」
「あぁ、配置が分かっているのならそこにそれ相応の戦力をぶつければ良いだけの話だからな」
フウタとハンナが真剣そのものの表情で地図を見下ろしつつ話す。
「そればかりはしょうがないだろうさ。向こうは持ち場に異常が無いか確認しなきゃいけないんだし」
「それもそうか。ではどの様な作戦を展開する??」
「「……」」
俺とマリルさんは相棒の声を受け取ると口を塞ぎ、深い思考を凝らした後に声を出した。
お疲れ様でした。
長文となってしまいましたので、分けての投稿になります。
現在後半部分の執筆作業中ですので次の投稿まで今暫くお待ち下さいませ。




