第二百八話 ウソが本当になる時 その二
お疲れ様です。
後半部分の投稿になります。
「フィロ!!!!」
「イスハ!! 今は目の前の敵に集中なさい!!」
「その通り!! ほら!! ミルフレア!! 早く撤退しなさいよ!!!!」
「……」
フィロがてきのこうげきを受けて吹きとばされても私は何も出来ず、きょうふと言う名のくさりにしばられたままその場で只々立ち尽くしていた。
私達の中でいちばんの年長である彼女にはいつも守られ他の友達にも守られて……。
いつも私はだれかに守られている弱いそんざいだ。
だからお母さんは私の事をみかぎったんだよね…………。
『正当な血統を継承した由緒正しき者なのに貴女はこんな簡単な事も出来ないの??』
がんばるからおこらないで。
『どうしていつも泣いてばかりいるのかしら。泣く暇があるのなら術式の構築に時間を割きなさい』
やっているけどぜんぜん出来ないの。
『はぁっ……。私の時間を無駄にしないで』
ごめんなさい。いい子になるからお母さんの子供でいさせて。
頭の中のきおくにいるお母さんはいつも私にたいしておこっている。
おこるりゆうはかんたんだ。私が弱くて、何も出来なくて、足をひっぱっているから。
お母さんは私の事を毎日しかってきびしいしどうを与えて来たけど、マリル先生が私を里からつれだしてくれてからはおこられるきょうふはおそって来なかった。
それどころか毎日がたのしくて仕方がない。
フィロのくだらないじょうだん、フォレインのやさしい目、エルザードのあたたかなおもいやり、イスハのたのしいこえ。
そのどれもが私が生まれたばしょではえられなかったモノだ。
私はこのたからものをまもるためにつよくなろうとけっしんしたんだよ。
だから……、うごいて!! 私のからだ!!
「フィロ!! いまからいくよ!!」
目に見えないきょうふのくさりをとくと、てきのこうげきをうけていえの中にきえて行ってしまった彼女をおおうとしてはしりだす。
「ばかもの!! おぬしはヤルべき事をせぬか!!」
「あんたが向かう先はそっちじゃないでしょう!?」
「ミルフレア!! フィロの体は馬鹿みたいに頑丈に出来ていますので救助は不要ですわ!!」
イスハ達が今もモウモウとたちのぼるほこりの中に入ろうとする私のせなかに向かってきびしい声を掛けてきた。
「で、でも!! このままじゃフィロがしんじゃうよ!!!!」
私はこの温かなくらしを守る為なら何でもする!!
そうじゃないとまたお母さんにしかられちゃうもん!!!!
「たわけぇ!! おぬしが行っても何も……。むっ!?!?」
イスハがおどろいた声を出したからあわててふりかえるとそこには私のからだを再びきょうふのくさりでしばり付けてしまう人がいた。
「餓鬼が。戦いの邪魔だぞ」
フィロの顔をおもいっきりなぐり付けたてきが私の前にしずかにたちつくし、こわい目で見下ろしている。
「ど、どかないもん」
私がこの人をとおしちゃったらフィロがころされちゃう。温かな光がきえちゃう。
そうかんがえるとふしぎなきもちが心の中に浮かび、きょうふのくさりのつよさをよわらせてくれる。
「クソ餓鬼が。どうやら痛い目に遭わないと分からない様だな!!!!」
「んっ!!」
てきが私に向かって細剣をいきおいよくふり下ろすとマリル先生からおしえてもらったけっかいをてんかい。
彼女の剣はするどいきどうをえがいて私のけっかいに当たったが。
「ちっ!!」
剣はうるさい音を立てて後ろにはじかれてしまった。
よ、よし!! これならだいじょうぶ!!!!
かすかにふるえ続ける指先が体のこわさを表し、与えられるきょうふによって奥歯がカチカチと鳴る。
それでも私はこわさにしばられる事なく叫んだ。
「フィロは私がまもるの!! だからあっちに行って!!!!」
「力無き者が何を言う。弱者は強者の前で頭を垂れて這いつくばっていれば良いのだ」
「ううん、違う!! ほんとうにつよい人はよわい人をまもるんだよ!!!!」
シュレン先生が私にそうおしえてくれたんだもん!!
「クク……。あははは!! 馬鹿か貴様は!! 所詮世の中は弱肉強食よ。弱い者は強者に食われるのが世の道理なのだ!!!!」
「それはちがうよ。シュレン先生はつよい人はよわい人のみちをしめすべきだって教えてくれたもん」
私がつかれて皆のしどうをながめているとちょっとだけこわいこえでおしえてくれたんだ。
『愚者は弱者を虐げ、己の強さに奢る者は弱者の肉を只々食らう。真の強き者は弱き者の手本となる道を示す存在である事を忘れるな』
『んっ』
『な、何だその手は。某は鼠の姿にならぬぞ』
そのみちが私にはなにかわからないけど、シュレン先生みたいにつよくなればきっとわかるはずだから。
「餓鬼、良い事を教えてやる。自分の主張が正しいと証明する為にはなぁ……。こうして相手を叩きのめせばいいんだよ!!」
「きゃぁああっ!?」
こわい笑い声をはなつてきがいきおいよく剣をふりおろすと私のけっかいがかんたんにこわれてしまう。
う、うそでしょ。さっきはふせげたのに……。
もういちどけっかいをはらなきゃ!!
「その歳で中々の強度を誇る結界を展開した事だけは褒めてやる。だけどな?? 此処は非情な死が蔓延る戦場だ。自分の力と相手の力を推し量れない無能な者はお呼びじゃないんだよ!!!!」
「ッ!!」
私がまりょくをこめてけっかいをはる前にこわいてきが私に向かって剣をふり下ろしてきた。
人のいのちを断とうとするかたい鉄がくうきを切る高い音が私の耳にとどくとふたたび目に見えないきょうふのくさりが現れ、私の体をしばりつけて動けなくしてしまった。
「ミルフレア――――!!!!」
「何をしているのです!! 早くその場から逃げなさい!!!!」
「馬鹿――!!!! あんた今まで一体何を学んで来たのよ!!!!」
イスハたちの声がきこえても私の体はまったく言うことをきいてくれなかった。
あぁ、そっか。これがシュレン先生が言っていたほんもののきょうふなんだ。
あの剣が私の体をきりさけばたくさん血が出て、こえが出せないくらいのいたさがおそいかかって来るんだろうな。
本当にゆっくりとしたはやさでこわいてつがせまって来ると、マリル先生がねむるまえによんでくれたお話をふとおもいだした。
鼠の王子様がてきにさらわれそうになっている鼠の御姫様を救い出すおとぎ話。
私がシュレン先生みたいなねずみさんだねって言うとマリル先生はほんとうに優しいかおでそうかもねってうなずいてくれた。
こういう時、私が王女様ならかっこいい王子様がたすけに来てくれるんだけど……。私はできそこないだからだれもたすけに来てくれない。
こわいてきが話すとおりこのせかいは自分が思いえがいた甘いウソは決しておこらないの。
でも、私がこの剣をうければそれだけフィロが助かりやすくなるんだ。
うん……、それなら大丈夫。たいせつなともだちをまもれるなら私は何でもできるんだよ。
「そんな細い腕で受け切れる訳が無いだろう!!!!」
「「ミル――――――――ッ!!!!」」
「……っ」
私はりょう手を頭の上にかかげ、これからおそいかかって来るいたみにたえられるように目をおもいっきりギュっとつむってその時にそなえた。
あ、あれ?? いつになったらいたみがおそいかかって来るんだろう??
自分のりょう手からたくさんの血がホトボトと出て来るこわいこうけいから目をそらすようにして目をとじているけど……。そうぞうしているいたさはいつまでたってもおそいかかって来なかった。
ひょっとしてこわいてきは私の相手にあきてもうどこかに行っちゃったのかな??
「……??」
一体なにがおこったのか。
それをたしかめるためにおそるおそる、本当にゆっくりとしたはやさで目をあけるとそこにはしんじられないこうけいが広がっていた。
「――――――。ミルフレア、大丈夫か」
え?? シュレン先生??
私の目のまえにたちふさがった黒くて大きなせなかが私にむかってひくい声でといかけて来る。
「う、うん。大丈夫だよ……」
私はあっけにとられたままシュレン先生のおおきくて本当にかっこいい背に向かってこたえた。
「そうか。それならいい」
できそこないの私を助けてくれる人はいない。
ものがたりの中のような自分につごうの良いウソはけっしておこらないと考えていたけど……。
う、うそがほんとうになっちゃった……。
「誰だ貴様は!!!!」
ものすごくこわいかおのてきがシュレン先生に向かってさけぶ。
「某は忍ノ者。故あって此処に参った」
シュレン先生はてきの剣をうけとめながら小さくもこわい声でそうはなす。
「忍ノ者だぁ!? 何か知らないが私の攻撃を受け止めるその腕力は……」
「これは子供に向けるべきではない剣の威力だぞ。貴様は……。某が必ず倒す!!!!」
「ぐぅぇっ!?!?」
シュレン先生がすばやく体をかいてんさせて私の目じゃおえないはやさでけりをくり出すと、こわいてきはそれをまともにうけてしまいものすごいいきおいで後方にはじけとんんで行ってしまった。
わっ、すごい。
みえないところまでとんで行っちゃった……。
「よく一人で頑張ったな。後の始末は某達に任せろ」
「う、うんっ!! 私がんばったんだよ!!」
こわいてきに向かってすすみ出そうとするシュレン先生のおおきなせなかにぎゅっと抱きつく。
ちょっと汗くさいけどこれも私の大好きなにおいだな。
「む、むぅっ。ミ、ミルフレア。今は戦闘中だ。戦闘の邪魔になるから離れていろ」
「もうちょっとこのままがいい。シュレン先生ならこわいてきから私をまもってくれるよね??」
「自分の身は自分で守るのだ。その事について断言はせぬ」
ふふ、こわい話し方だけどこえのねいろは本当にやさしいよ??
ありがとうね、シュレン先生。できそこないの私をたすけてくれて……。
マリル先生とおなじくらいに大好きな声と本当にかっこいいおとなのせなかにポフンと顔をうずめつつ私は本物のねずみの王子様に向かって本当にあんしんしたといきをはいたのだった。
お疲れ様でした。
さて、次話からはお子ちゃま達の視点から大人達の視点となって冒険が再開されます。
そのプロット執筆にちょっと手間取っていまして……。まだ分かりませんが投稿日が少し伸びてしまう可能性もありますので予めご了承下さいませ。
正月ボケも直り日常が返って来た感覚がするのですが、正月休みの忙しさが祟って若干風邪気味です……。
年末年始の多忙が今になって訪れるとは思いもしませんでしたよ。ゆっくり寝て、四川ラーメンを食べてしっかりと休養しましょうかね。
いいねを、そしてブックマークをして頂き有難う御座いました!!
執筆活動の嬉しい励みとなりましたよ!!
それでは皆様、体調管理に気を付けてお休みなさいませ。




