第二百六話 目的地に到着!! されど彼女達の苦難は続く その一
お疲れ様です。
本日の前半部分の投稿になります。
地面の上に広がる無限に近い数の細かい砂達は空から降り注ぐ太陽の光を己が力に変えて大変仲良くお互いの手を取り合っている。
たった数粒程度の砂ならば例え砂達が手を取り合おうとも通常歩行になぁんの支障も無い。
しかし、長きに亘る行軍によって体力と気力の擦り減ったヘナチョコの体には只歩くと言う行為がもの凄く辛い行動に変わってしまっていた。
な、何で砂浜の上を歩くだけでこうも汗が垂れて来るのよ……。
しかも!! 大量の砂がこれ以上進ませないとして私の足に絡みついて来るしぃぃいい!!
「あぁうざったい!! 空を飛んでやろうかしら!!!!」
拘束だらけの砂浜から無限の自由が広がる青き空を見上げ、私達の事情を一切知らずニッコニコの笑みを浮かべている太陽を睨み付けて今も私の足をギュっと掴んでいる砂達を踏んづけてやった。
「フィロ、もう間も無くルミナの街に到着する予定ですわ。ですからその鬱陶しい地団駄を止めて頂けます??」
「そ――そ――、後一時間程度で到着だし。それにダン達が何処で監視しているのか分からないのよ?? 阿保な行動が私達に迷惑を掛けるんだから大人しくしていろ」
「何よあんたら!!!! 隊長の私がクッタクタに疲れているのよ!? それを労うのが平の隊員じゃあないの!?」
取り敢えず地面の上に転がっている石を拾い上げ、南方向に向かい地平線の彼方までずぅっと続いて行く紺碧の海に向かって投げやすそうな石を思いっきりぶん投げてやった。
んぉ!! 何気に自己最長記録を更新したかもっ!!!!
美しい放物線を描いて飛んで行った石は重力に引かれて徐々に海へと降下。
二つのお目目ちゃんの視力を最大限にまで高めないと確認出来ない距離にチャポンと落ちた石は大海原に矮小な水柱を発生させた。
「平はそっちでしょ。私がずぅっと行動の指揮と食料を管理していたのにあんたって奴は……」
はい、文句は一切受け付けませ――んっ。
「イスハ――!!!! 見えて来たぁぁああ――――ッ!?」
分隊の斥候の役割を果たして私達のずぅぅっと先を先行している可愛くてモッフモフの三本の尻尾に向かって叫んでやった。
「じゃかましいぞクソたわけが!! 暑いからだまって歩け!!!!」
どいつもコイツも私に汚い言葉を掛けて……。相手を思い遣るって事は出来ないのかしらねぇ。
「どう!? 見えた!?」
大分消耗した体に鞭を打って駆け出して彼女に追い付くと、小さいながらも大地に根を張った巨木の様にしっかりとした重心を持つイスハの背を軽快に叩いてやった。
「見えたのならほうこくするわ!! だまって歩けばか者が!!!!」
「そうカリカリすると早く老けるわよ?? 誰だって疲れているんだからせめて私達だけでも元気を振り撒いて隊を元気付けるべきだと思わない!?」
「思わん!!!!」
あっそう、でも私は止めませ――ん!!
「あんた達――!! もう直ぐ到着だから元気出しなさいよね――!!!!」
先行している私達よりも後方で蟻の歩みよりも遅い速度で砂浜の上をエッコラヨッコラと歩き続けている三名に向かって手を振って上げた。
「はぁぁ……。あの元気が超うざったいわね」
「その意見に同意しますわ」
「フィロのばかはいつもどおり」
「ふぅ――。しっかし、三ノ月だってのに馬鹿みたいに太陽の光が強いわね」
額から零れ落ちて来る汗を右手の甲でクイっと拭い空を見上げる。
所々に浮かぶ雲が時折ニッコニコの笑みを浮かべている太陽を隠しているが、たった数十秒若しくは数分程度の影では大陸に広がる気温を下げる事は叶わず私達の体力を悪戯に奪い続けていた。
気温や天候、そして地理。
日常生活を続ける中では余り気に留めない些細な変化がこうも疲れた体に影響を与えるとは思いもしなかったわね。
マリル先生は私達にこの事を教える為に敢えて馬鹿みたいに長い行軍を課したのでしょう。
その道中で苦難を乗り越え苦行を克服して仲間達との絆を深め、辛い行軍を乗り越えたのなら互いに手を取り合い笑い合う。
うん、その光景を想像すると搾れ掛けた体力が燃えて来たわね!!!!
私と同じ気持ちを胸に抱いているのか。
「ふぅ!! 後少しじゃし、がんばるかのう!!!!」
口角を微かに上げると背嚢を背負い直して元気な足取りで前進を続けた。
出発したての頃は大量の利益を得ようとしている行商人が背負う荷物かと思わず突っ込んでしまいそうになったイスハの荷物は半分以下に減っている。
しかし、それでも齢九つの子が背負う量じゃないわよねぇ……。
「……」
イスハの荷物に視線を送りつつ、その下でフッサフサと左右に揺れ動いている尻尾ちゃんの白い先端をさり気なぁく触れようとした刹那。
「むぅっ!! み、み、見えて来たぞ!!!!」
狐の可愛いお嬢ちゃんがこれでもかと高揚感が含まれた声を叫んだ。
「ほ、本当だ!!」
今は初夏なのですかと首を傾げたくなる気候の中で砂浜のずぅっと先に向かって目を細めて見るとほんの小さな人口建築物の影が見えて来た。
天然自然ばかりに囲まれたまま行動していた所為か文化の影がやたらと懐かしく思えてしまうわね。
「皆――!! 後少しだから頑張りなさいよ――――!!!!」
平の隊員に向かって最後の檄を送り、最終最後の体力を燃焼させて目的地へと強い足取りで向かって行った。
「とぉぉおおおお着ぅ!! 見事全員無事に成し遂げたわね!!!!」
潮風漂うルミナの西口に到着するとほぼ同時に背負っていた背嚢を地面に置き、青き空に向かって両手を勢い良く掲げた。
「ぜぇっ、ぜぇ……。や、やっと着いたわね」
遅れて到着したエルザードが両膝に手を置けば。
「流石に疲れましたわ……」
フォレインは綺麗な頬の線を伝う汗を美しい所作で拭い。
「みんなぶじでなにより」
「ようやく到着したぞ!! わしはもう歩けぬ!!!!」
「何はともあれ皆ぁ!! お疲れ――――ッ!!!!」
最初から最後まで私達に対して気丈に振る舞っていたミルフレアが着くと五人全員で目的達成を祝った。
さてと!! 皆無事に到着して盛大に成功を叫んだし!! 目的地に到着したのならさっさと用件を済ませて帰ろう!!
「先ずは街の誰かにハーピーの里の蜂蜜が売っている場所を聞きましょう!!」
疲れている連中をほぼ無視したまま街の中央へと向かって指を差す。
「分かっておるからもう少し静かにせい。お主の馬鹿声は体のしんにひびくのじゃよ」
「はいはい、分かったから取り敢えず行くわよ!!」
息を上げ続けている四名の平隊員に向かって柏手を打ち、お昼頃にも関わらず何やらシンっと静まり返っているルミナに記念すべき第一歩を踏み出したのだが……。
「あっれぇ――……。住民の姿が全く見えないけど……」
街のそこかしこには気味の悪い静寂が漂い住民の影すらも確認出来なかった。
北側に向かって伸びて行く道の脇には何処にでもある家屋が連なり、玄関脇には使い古された箒や塵取りが立て掛けてあり住民達の温かな生活感が確認出来る。
生活感溢れる家をじっと見つめていると経年劣化した戸が開いて今にも住人の方が顔を覗かせて来そうな雰囲気はあるけども、待てど暮らせどその戸は開く事は無かった。
人の陽性な会話や気持ちを明るくしてくれる眩い笑みは道の何処にも確認出来ず、耳を澄ませても聞こえて来るのは海から届くさざ波の音と地の果てから向かって来る風の音のみ。
人っ子一人居ない廃れた街では無く、人『だけ』 が居なくなった街といった印象を受けた。
恐ろしいまでの静寂が跋扈する街。
これがルミナに抱いた初めての感情だ。
「街の状態は普通と何ら変わりの無いのに人の姿が見えませんわね」
「住民全員で何処かに出掛けてるとか??」
隊長である私が尤もらしい答えを出すが彼女達の口からは想像した通りの答えが返って来た。
「もっと真面な意見を出したら如何です??」
「ばか過ぎてはんろんする気も失せるぞ」
「よくかんがえてからいおうね」
とほほ、辛辣な事ですこと……。
「エルザード。生体反応や魔力反応はありますか??」
フォレインが街の奥へ向かって鋭い視線を向けている彼女の横顔に問う。
「ちょっと待って、集中するから」
淫魔のお子ちゃまが目を瞑り魔力を高めて行く。
そして数十秒後……。
「――――。生体反応並びに魔力反応は全く無し。誰一人として街に存在しないわ」
この街には私達以外に誰一人として存在しない事が結論付けられてしまった。
誰も居ないのは分かったんだけどぉ……。それなら一体誰に蜂蜜の在処を尋ねれば宜しいので??
「誰も居ないのならハーピーの里に直接向かえばいいんじゃない?? ほら、お金を渡すので少し分けて下さい――って」
ここで馬鹿みたいに時間を無駄に消費するよりも行動した方が有益でしょう。
「あんたにしては真面な意見を出したわね。確か、ハーピーの里はルミナから北方向にあった筈」
そこかしこに疲労の色が残る顔のエルザードが私の顔を見上げつつ言う。
「決定ね!! それじゃあ蜂蜜作りの名人でもあるハーピーの里に向かって出発しましょう!!!!」
ちょっとだけ目的地が伸びちゃったけども、誰も居ないのなら仕方が無いわよね。
中々の重さの背嚢を背負い直して北側に進路を取ろうとしたのだが……。
「フィロ、ちょっと待って」
「むっ!?」
エルザードが私の右肩を掴み、最初の一歩を台無しにしてしまった。
隊長の進行を止めるとは一体何事か!! と思わず突っ込んでしまいそうになったのだが淫魔のお子ちゃまの真剣そのものの眼差しを捉えると気持ちを改め、彼女が緊張しているその元凶の元を探す為に此方もずぅぅっと前に視線を送った。
この街の中央を走る道は北へと向かって続いている。
その先に向かって集中力を高めて視線を向けていると私好みの生活感溢れる家々が連なる道の先から何やらとても小さな影が空へと向かって飛び立った。
その影はモヤモヤしていて不明瞭な形なのだがどうやら私達の方へ向かって接近している様であり秒を追う毎にその形を明瞭なモノへと変化。
私が視線を正面に向けてからたった数十秒でモヤモヤの影は人の形を確と形成し、私達を悠々と見下ろす位置に移動を果たした。
お疲れ様でした。
現在、後半部分の編集作業中ですので次の投稿まで今暫くお待ち下さいませ。




