第二百五話 自称隊長のわんぱく龍 その二
明けましておめでとう御座います!!
本日二話目の投稿となります。
空は雲を探すのが難しい程に気持ち良く晴れ渡り世界の果てから届く風は素敵な冒険の香りを私に届けてくれる。
大冒険の始まりに相応しい天候に恵まれ私の心は高揚一色に染まりその感情に呼応したのか、背に生える二つの翼が勢い良く羽ばたき風を掴み速度を増して行く。
生まれ故郷を離れてほぼ一日発ったが翼の疲れや体の疲労感は一切感じられない。
いや、寧ろ生まれ故郷を離れて行くに連れて疲労度が減少して行く感じがするわね。
そりゃあ全く寂しく無い訳じゃないのよ??
少しばかりの寂しさも混ざってはいるけども、初めての大冒険で生まれてしまう高揚感が寂しさを上回っているとでも言えばいいのかしら。
「此処がアイリス大陸か……」
この世に生まれ落ちて約十三年。
自分自身の力で海を越えて発見した大陸に高揚感がこれでもかと湧いて来てしまう。
他所者である私は慎ましい飛翔を続けるべきなのだが、横着な翼は私の感情と反比例するかの如くその動きを増して行く。
青く澄み渡る空に浮かぶ雲が両手一杯に広げて自由気ままに飛ぶ私の行く手を阻もうとするが、そんなちんけな力じゃ龍の飛翔は止められやしない。
「うんっ!! やっぱり外の空気は滅茶苦茶美味いわね!!」
私を必死に止めようとしていた雲を吹き飛ばして眼下に広がる何処までも続く緑の海と空の青の海の中を自由に飛び続けていた。
「あぁもうっ最高ッ!!!! 旅をするのがこんなに気持ちがいいのならもっと早く旅立てば良かったわね」
ちょっとお行儀が悪いかと思いますが、空の中で体をクルっと反転させて地上で言えば仰向けの状態で空に浮かぶ太陽をのんびり見上げつつ言葉を漏らした。
『何故お前は魔法を詠唱出来ぬのだ』
『マルメドラの由緒正しき血を受け継ぐ者が……』
『気味が悪い』
『生まれた時から劣等種の烙印を押された呪われた子』
視界を全て覆い尽くす光を見上げていると生まれ故郷で受けた黒い言葉の数々が脳裏に過って行く。
私は魔法の扱いが得意な種族の長の孫としてこの世に生まれ落ちた。人々は私の誕生に喜んでくれたらしいんだけど……。
洗礼を受けた刹那、魔法が詠唱出来ない子だと分かると手の平を返したそうな。
そりゃあそうでしょう。百人中百人が魔法を詠唱出来るってのに私だけが非詠唱型だったんだから。
歴史を振り返れば私と同じ魔法を扱えない子も生まれたらしいんだけども、それは極々稀な事であり。しかもそれがよりにもよってこの里を背負って行くべき長の子が非詠唱型なんて洒落にならない。
一族の恥、忌子、劣等種等々。
子供の頃から大人達に酷い言葉の数々を浴びせられ続けていたけど、父さんや家族は私を守ってくれた。
『お――い、おいおい。俺の娘に向かってどんな口の利き方してんだ??』
『貴女は魔法が使えなくてもいいのよ?? 人の痛みを理解出来る優しくて素敵な大人になってくれればいいの』
私は里じゃなくて両親にだけ必要とされればいい。そう思える位に両親の言葉が本当に嬉しかった。
でも、両親の言葉だけじゃ里の中で暮らす息苦しさは解消出来ず。ほぼ無理矢理な形で今回の大冒険に向かって羽ばたいたのだ。
「せめて何年くらいで帰って来るって伝えておけば良かったかなぁ??」
太陽の光を背に浴びて何処かに飛んで行く鳥さん達の姿を視線で追いつつ話す。
「でもさぁ――。期間限定の旅ってそれはそれで味気無いし。自分が納得の行く冒険の答えを出したら帰るべきよね!!」
沢山の土産話を両手一杯に持って父さんと母さんに話してあげよう。
そして私の事を馬鹿にした里の奴等を見返してやるのだ。
『どう!? 魔法が詠唱出来なくてもめっちゃくちゃ強いんだからね!!』 と。
「むふふ……。父さんが目玉をひっくり返す位に強くなってやろう」
他者から見れば気持ちの悪い角度の口角だなぁっと思えるニヤケ具合でのんびりと飛翔を続けていると地上付近に物凄く小さな魔力を感知出来た。
むっ?? 何?? 今の魔力は……。
私が近付いて来ると星の瞬きの様に、物凄く静かに魔力を抑えて消えちゃったけど……。
今の魔力の扱いは父さんや母さんに物凄く似ていた。
つまり、魔力の扱いに物凄く長けた者である証拠だ。
「えっと……。確かこの辺りで確認出来たわね」
緑の海の上で飛翔を停止させて集中力を高めて行くが向こうの方が一枚上手なのか、魔力の根源を掴み取る事は叶わなかった。
「ええい!! 面倒だ!! 取り敢えず着陸してこの大陸のじじょ――ってのを教えて貰おう!!」
超絶カッコイイ龍の翼に風を纏って森の木々の合間に無理矢理体を突っ込み、着地と同時に夏の大嵐を彷彿させる暴風を発生させてやった。
どう!? これなら相手も私の場所を楽勝で確認出来たでしょうね!!!!
「ねえ!!!! 魔力を隠した臆病者さん!!!! ちょっと聞きたい事があるんだけどぉぉおお――――ッ!!!!」
蟻の足音も容易に聞き取れてしまう静寂な空気が漂う森の中で正体不明の者の鼓膜をブチ破る勢いで叫んでやるとその数分後。
「――――。あらあら、また随分と大きな子ですね」
森と同一化してんじゃないの?? と感じてしまう物凄く静かな雰囲気を纏う女性が森の影から姿を現した。
少しだけくすんだ灰色の外蓑を身に纏い、その中は控え目に言っても格好悪い服を着用している。
顔の形は綺麗と可愛いの良い所どりって感じで、もう少しお洒落すれば世の男共が群がるだろうなぁっと思える外見だ。
しかし、私は森の中から現れた彼女の外見よりも右肩に掛けている古ぼけた大弓に目を奪われた。
経年劣化した古木で作られているのか、弓全体は灰色で彼女の外見も相俟ってその古臭さが異様に似合っている。
弓に使う矢は一体何処にあるのかと忙しなく彼女の様子を確かめつつ矢の存在を探すが、矢筒処か矢の一本でさえも発見するに至らなかった。
何であの人は矢も持たず大弓を背負っているのだろう?? まぁ今はそれよりも自分が聞きたい事を尋ねてみましょうかね!!
「ねぇあんたでしょ!? さっきのすっごい魔力の扱いをしたのは!!」
この大きな龍を子供扱いした彼女を悠々と見下ろしつつ問う。
「あらぁ、上手く隠したつもりでしたけど看破されちゃいましたか」
やっぱり!!
「私は強くなりたいからこっちの大陸に渡って来たんだけどさぁ!! この大陸に住む強い奴が居る場所を教えてくれない!?」
私を見下した奴等を見返す為に。
その目的を果たす為には強くなるのが一番の近道。
つまり!! べらぼうに強い奴等と拳を交える事によって私の目標が達成されるのだっ!!
「それは何故かしら??」
「あんた私の話を聞いていたの?? 強くなりたいからって言ったでしょう??」
「強くなりたいという貴女の考えは理解出来ていますよ。その考えに至った経緯を知りたいのです」
あぁ、はいはい。そういう事ね。
可愛い顔して回りくどい言い方をする人ね。
「初対面のあんたに色々話すのはちょっとアレだけど……。いいわ、教えてあげる!!」
里の者達を見返す強さを求めに旅に出た。
小さな顎に細い指を当てている彼女に向かって超簡潔に今回の冒険の発端を話してあげた。
「――――。成程、貴女が強くなりたいという気持ちは里の人達を見返す為。という訳ですね??」
「そうよ!! 真の強者になりたいから強い奴と戦わなきゃいけないのよ!!」
さぁ早く強い奴等がうじゃうじゃ居る場所を教えないと言わんばかりに両翼を左右一杯に広げていたのだが。
「ごめんなさい。それは教えられないわね」
「はぁっ!?!?」
彼女の口から出て来た言葉が私の翼を有り得ない方向に曲げてしまった。
「こ、こっちは冒険の目的を話したってのに教えられないの!?」
「えぇ、仰る通りですよ」
「何で!?」
「何でって……。いいですか?? 良く聞きなさい。この大陸には平和が蔓延って居ます。各地には貴女が話す通り強き者がその平和を咀嚼しながら平穏な暮らしを続けています。貴女の様な世の道理を弁えていない愚か者がその地に降り立てばどうなるのか?? それは火を見るより明らか。平和な土地を愚か者の血で染める訳にはいきません」
「ちょ――っと待って。今、私の事を愚か者って言った??」
決して聞き逃せない単語を吐いた人の姿の魔物を見下ろしてやる。
「言いましたね」
うっわ、コイツ……。さらぁっと認めちゃったよ。
「あっそう。じゃあ無理矢理聞き出す事になるけど……、それでもいい??」
相手を威嚇する様に両手の先に生えた龍の爪をちらつかせてあげるものの。
「暴力行為に頼るのは愚者、賢者は対話や相手を思い遣る事で解決策を見出します。果たして貴女が望む真なる強者はどちらの選択肢を取るのでしょうか」
彼女は此方の脅しに一切動じず、まるで癇癪を起した子供を冷たい目線で見下ろす母親の様な視線で私を見上げていた。
「そんな事知れているわ!! 口で言っても聞かない輩には鉄拳制裁って相場が決まってんのよ!!」
龍の爪の恐ろしさを知れば思い改めるだろうと考え、取り敢えず右手を上空に掲げて勢いそのまま無防備な状態の彼女に向かって振り下ろしてやった。
もう間も無く私の爪が体に迫るものの。
「……」
彼女は一切動じず慄く処か興味津々といった感じで私の龍の爪を見つめている。
その癪に障る態度……。果たしてどこまで保っていられるのかしらね!!!!
「食らえぇぇええええ――――!!!!」
「うんっ!! 速さは合格ですっ!!」
「だから何様……。ってぇ!! かったぁぁああああい!!!!」
龍の爪が彼女のクソだっさい服装を切り裂くかと思いきや、私の攻撃は超極厚の結界によって容易に弾かれてしまった。
「ちょっとあんた何よ!! そのふざけた結界の厚みは!!」
弾かれた手に向かってふぅふぅっと息を拭き掛けながら叫ぶ。
今のはマジで痛かったわね。
とんでもなくドデカイ岩を素手でブッ叩いたかと思ったもん。
「え?? この程度で驚く事なのですか?? ご要望であればもっと厚みを増やす事も出来ますけど……」
「は、はぁっ!? そんな事出来る訳ないでしょう!?」
魔力の扱いに長けた父さんと同じ位に厚い結界をそうホイホイ展開されてたまったものか!!
「コホン、お嬢ちゃんよぉく聞きなさい。貴女が私の結界に驚いたのは底が浅いから」
「そ、そ、底が浅い??」
「この世界には私よりも強い人がごまんといます。相手の素性も知らず自分の用件のみを押し付け剰え敵意が無い此方に対して暴力で解決を図ろうとした。それを見て底が浅いと言って何が悪いのです??」
「私の底が浅いかどうか……。これを食らっても言い切れるかしらね!?!?」
彼女から距離を取り、胸一杯に空気を取り込み大火球の発射態勢を整えた。
さぁ、父さんや母さんでさえも驚いた私の一撃を食らいなさい!!
「コォォオオ……。ガァァアアアアアアアア――――――ッ!!!!」
龍の口の前に魔力を一気呵成に集結。
気の向くまま猛った感情のまま魔力を大解放させると空気を、大地を煮沸させる大火球が彼女の結界に向かって一直線に向かって行く。
直撃を免れても熱波の余波で皮膚が爛れてしまう私の最強の一撃よ!!
例え分厚い結界でもヒビ程度は入る筈!!
そしてぇ!! 綻びを生じた結界に龍の爪を無理矢理捻じ込んでブチ破り、あんたのほっそい体に敗北の爪痕を残してやるわ!!
世界最強と呼んでも過言では無い私が放った大火球は思い通りの軌跡を描いて彼女の下へと飛翔。
そして、超分厚い結界に火球が着弾すると天を割る轟音が森の中に轟いた。
「っしゃああああ!! 私の勝利ね!!!!」
後は煙幕が晴れて現れた煤塗れの生意気女に鉄拳を加えてやる。
そう考えて龍の尻尾を左右にブンブンと降り続けていると。
「――――。もぅ、話の途中にこんな攻撃を加えてくるのは反則ですよ??」
特濃の煙幕の中から朱色の矢が私の太腿に飛来。
「いだっ!?!?」
矢の直撃を許してしまった不覚と想像以上の痛さに思わず出したくも無い声を出してしまった。
畜生めが!! やっぱり結界を破れなかったっか!!
かくなるうえは物理でぶっ飛ばしてやる!!
「ぬぎぎぃぃいい!! 矢を抜いたら酷いお仕置きをしてあげるからね!! 待っていなさいよ!?」
モウモウと地面に漂う黒煙に向かってそう叫び、太腿の龍鱗を貫いた矢を引き抜こうとするが……。
幾ら力を籠めて抜こうとしても矢はその場から一切動じず、それ処か時間の経過と共に自分の力が徐々に失われて行く感覚を捉えてしまった。
「ちょ、ちょっと何よこれ……。全然力が……」
「私の家系に代々伝わる魔呪具の力ですよ。貴女がどれだけの力を発揮してもその矢は決して抜けません」
黒煙の中から現れた女性が私に無防備のまま近付きつつ話す。
「ち、畜生。私の負けって訳??」
「ふふ、違いますよ。私は勝負をしたくてこの矢を放った訳ではありません。貴女と真摯な対話を望んでいるから放ったのです」
彼女がそう話すと私の足に小さな手をそっと添える。
「わ、私は負けた訳じゃないからね!! 油断しからこうなったのよ!!」
「ふふ、強情な子。貴女は強くなるよりも先ず処世術を学ぶべきだと思います」
「しょ、処世??」
「貴女は世界を知る為の第一歩を此処に刻んだ。そして、私はその記念すべき一歩目。広い世界を知る為にも先ず貴女は自分の強さの尺度を知る必要があります。その道中で社会に通じる処世術を……」
自分よりも小さな者に完敗した。
生まれてこの方感じる事の無かった屈辱が心に生まれるよりもこの人の下で学べば自分はもっと強くなれる気がした。
だから私は……。
「あらあらぁ……。龍一族の龍鱗って思っていたよりも硬いのですねぇ」
私の龍鱗をヨシヨシと優しく撫で続ける彼女の下で強くなろうと決心したのだ。
お疲れ様でした。
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