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第二十三話 饗宴の始まり その二

お疲れ様です!!


引き続きの投稿になります!!


深夜の投稿になってしまい、大変申し訳ありませんでした。


それでは、御覧下さい。




 体の奥に存在する食欲を多大に刺激する馨しき食料の香り、鼻腔の奥へと静かに侵入する酒の香。


 大勢の客人達が放つ素敵な会話がうねり上昇し、会場内は陽性な感情の坩堝と化していた。



 そして、その中央。



 此度の主役であられる彼女はこの雰囲気の中でも気負う事無く、堂々とした振る舞いで皆と慎ましい会話を継続していた。



「是非、今度は我が屋敷へとお越しください。息子共々、贅を尽くしたお料理でお迎えしますので」


「まぁ……。ふふっ、機会があれば是非」



 何処かの議員さんだろうか。


 上等な背広に身を包み、当たり障りの無い笑みを浮かべて彼女のご機嫌伺いを続けている。


 政治家らしい所作だな。


 感情が籠っていない笑みが良い証拠です。



 もっと感情を籠めて笑みを浮かべればいいのに……。


 まっ、選挙活動で得た処世術なのでしょうね。俺がアレコレ言える立場でもありませんので、このまま任務を継続させましょう。




「これはこれは……。ようこそおいで下さいました、タンドア議員」



 ベイスさんの声が左前方から聞こえて来たので、レシェットさんの背中から其方へと視線を移すと。



「わははは!!!! 暇だったからなぁ!! 貴様の娘の晴れ舞台を見に来てやったぞ!!」


「あなた……。声が大きいですよ……」


「そうか?? これが普通だ!!」



 あれが、アイシャさんが仰っていた議員さんか。


 会場内に蠢く人々よりも頭一つ抜けた背、政治家らしからぬ体格、そして耳の奥にズンっと響く豪胆な声。


 確かに、嫌でも目に付くな。



 彼の隣にはまるで爪楊枝みたいな体の細さの女性が立ち、おろおろとした表情で彼を御そうと悪戦苦闘。


 その背後には目元がちょっとだけ鋭い女性が静かに立ち、呆れた瞳でタンドア議員の大きな背を見つめていた。



 娘さんかな?? 顔立ち、そして立ち振る舞いからして俺と同年代であろう。



 暫くの間、彼女に視線を送り続けていると。




「…………」



 彼の背中から視線を外し此方へ視線を送ると。ふと目が合ってしまった。



 黒みがかった明るい茶の長髪、すっと伸びた鼻筋に細い顎。


 端整な御顔と判断しても宜しいでしょう。



 と、言いますか。


 どうやったら彼からあんな細い体の子が生まれるのだろう。


 人体の不思議ですよねぇ。




 タンドア議員とベイスさんのやり取りに飽きたのか。


 その彼女が、使用人の皆様が配布し続けている血よりも赤い酒の入ったグラスを手に取り。此方へと歩み来た。



「久しぶりねっ!! レシェット!!」


「お久しぶりですね。ロレッタさん」



 ほぉ。


 レシェットさんの御友人なのか。



 ロレッタと呼ばれる彼女が気さくに声を掛けると……。


 彼女の周囲に群がっていた、ある程度権力を御持ちになった男性の方々が蜘蛛の子を散らす様に去って行った。




「何よ――。その白々しい態度はぁ??」


「――――――――。ふぅ、ありがとっ。助かったわ……」



 レシェットさんが肩の力を抜き、ふぅっと大きく息を吐く。



「鬱陶しい連中に囲まれて大変だったわねぇ……」



 お、おいおい。


 そんな堂々と話しても良いのか??



 ロレッタさんがそう話すと。



「「「…………」」」



 周囲の男性達が鋭い瞳で彼女を睨みつけた。



 地位ある者達をも寄せ付けない雰囲気と、堂々たる姿は父親譲りでしょうかね。


 皆さんも彼の娘と知って近付かないのかも知れないな。




『こらっ。例え本当の事だとしても、もうちょっと包んで話してよ』


『あはっ。私が助けてあげたのよ?? 少しは感謝しなさい』



 レシェットさんがある程度信頼している御方か。


 お互い体を接近させて耳打ちしていますからねぇ。



「と、言う訳で!! 助けた代わりに……。彼を紹介してよ」


「彼??」


「レシェットの後ろで、睨みを利かせている彼よ」



 彼女が顎でクイっと俺を指す。



『私の飼い犬よ!!』

「私を護衛してくれている兵士さんよ」



 あらっ??


 真っ当な説明をして頂けましたね?? 想像した台詞とは真逆の言葉に驚きを隠せないでいた。



「護衛、ね。ねぇ!! こっちおいでよ!!」


「申し訳ありません。現在、任務中ですので」



 無難な返答を返し、周囲へと視線を送った。



「あっそ。じゃあ私から向かうわね」



 そう話し、父親譲りの堂々とした足取りで此方の手の届く距離で足を止め。



「初めまして、兵隊さん?? 私の名前はロレッタ=タンドアよ」



 酒の入ったグラスを左手に持ち替え、細い右手を此方へと差し出した。


 流石にこれは無視できないでしょう。



「レイド=ヘンリクセンです」



 差し出された右手をきゅっと掴む。



「へぇ……。男らしくて、カッコイイ手ねぇ」


「あの……。手を放して頂けますか??」



 甘く指を絡め、マジマジと俺の手を見下ろす彼女にそう話す。



「ふふっ、ごめんね?? 私。男らしい体にメがなくて……」


「はぁ」



 女性の曲線を強調させる漆黒のドレスに身を包み、怪しい色を滲ませた瞳で此方を見上げる。



 ――――――。


 凶器となる物は所持していないな。


 これならレシェットさんの側に居ても脅威とはならないか。


 例えレシェットさんの御友人だとしても、必要最低限の確認は怠りませんよっと。これが俺に与えられた任務なのです。



「ねぇねぇ!! レシェットの護衛が終わったらさ!! 今度は私の屋敷に来てよ!!」


「申し訳ありません。私は与えられた任務を忠実に遂行する身ですので、そういった指令が無い限り。其方の屋敷に赴く事はありません」


「今の給料の四倍出す!! それなら良いでしょう??」


「好条件ですが、私の一存では決められませんので」




 そして、ど――かお願いします。


 そろそろ一歩……。いいや、三歩程下がって頂けますか??




「……っ」



 街中で暴れる狂暴な牛も尻尾を巻いて逃げる恐ろしい顔を彼女が浮かべていますので……。



 レシェットさんに睨まれ、冷たい汗が背肌にじんわりと湧いてしまった。



「あはは!! 堅物な態度も良いわね!! 調教し甲斐がありそうねぇ……」



 唾液をたっぷりと含んだ舌で舌なめずりを始める。



 昨今の御令嬢様の間では調教が流行っているのでしょうかね。


 そして、その実験台には俺みたいな身分の低い者が生贄として捧げられるのでしょう。



「ちょっと、ロレッタ。離れて」



 今現在の飼い主様が素の感情を籠めてそう話すと。



「え――。離れて、だって?? どうする?? 私、離れた方がいいかな??」


「出来ればお願いします。正常な男女間の距離を見誤っていますので」



 仕方がないなぁ。



 嬉しそうな言葉を残し、そして。男性の悪い部分を刺激してしまう女性の香を残して漸く正常な距離へと身を置いて頂けた。



「ちょっと、こんな可愛い子犬を飼い始めたのなら教えてくれれば良かったのに」



 えっと……。


 その子犬って俺の事ですかね。



「最近飼ったのよ」



 ほら、当たった。


 全く……。


 うら若き女性達が交わす会話じゃあありませんよ。



 それから暫くの間。



「ん?? レシェット、ちょっと胸大きくなった??」


「えへへ――。いいでしょ――。育ち盛りなのよ」


「はぁん?? 私に喧嘩売って、タダで済むと思っているのかっ!?」


「ちょっと!! 止めてよ!!」



 慎ましい?? お互いの近況報告を続けていると、アイシャさんが客人の合間を縫って現れた。



「レシェット様。そろそろ挨拶が始まりますので、御着替えを……」



 もうそんな時間か。


 これで漸く式典の折り返しですね。



「分かったわ。じゃあ、着替えて来るから」



 此方へとクルリと振り返り、そう話す。



「いってらっしゃいませ」


「うん。直ぐ帰って来るから、大人しく待っているのよ??」



 横着な犬に留守番を任せるんじゃないのですから……。


 それとも何?? 俺ってそんなに頼りないのかしらね。



「ねぇ!! 私もついて行っていい??」


「構わないけど……。絶対、変な所触らないでよ??」


「分かってるって!! 前のはおふざけみたいなものだからさっ」



 キャイキャイとうら若き乙女の声色を放ちつつ、カエデが警護を続ける扉の方へと向かって行った。






 ふぅ――――。


 取り敢えず、一息付けそうかな??


 あ、でも。


 ベイスさんの側で待機していよう。


 彼の周囲には使用人の方が常に控えていますけど、万が一に備えてね。



「すいませ――ん。この料理、切れちゃったから新しい料理持って来てくれる??」


「あ、は、はいっ!! 只今ぁ!!」



 あはは。


 使用人でも、アイシャさんみたいに冷静沈着な方ばかりじゃないのかな。


 丸々とした御顔の額に大粒の汗を浮かべ、ふぅふぅと息を切らし。


 あわてんぼうさん丸出しの表情を浮かべて料理のお代わりを貰いに、厨房へと駆けて行ってしまった。



 あぁやって頑張っている人を見るとこっちも頑張らなきゃって思うよね。


 お陰様でやる気が出て来ましたよ??




 萎みかけていた体と気力に喝を入れ、肩の関節をグルリと回し。


 彼の下へと進む為、踏み心地の良い赤き絨毯の上を歩き始めたが……。


 残念ながら足の裏は絨毯を捉える事は叶わず、代わりに。頬が捉えてしまったとさ。



「あいたっ!!」


「あ、ごめんねぇ?? つい、足が伸びちゃったよ」



 つい伸びるとは一体全体どういう状況で伸びるのか。


 小一時間程問い詰めたいですけども……。



「申し訳ありません。私の前方不注意でした」



 鼻に付く笑みを浮かべ、厭味ったらしく此方を見下ろす金髪の男性へとそう述べた。



「おいおい。ルパートさんの足を踏んでおいて、その態度は無いだろう??」


「はい??」



 彼の御供、だろうか??


 彼の直ぐ後ろに控える二人の男性の内、黒髪の長髪の男性がそう話す。



「いや、だから。俺の話ぃ、聞いていたのか??」


「えぇ。伺っていましたよ??」


「だったら!! 謝るのが筋だろうって言ってんの!!」


「ですから。申し訳ありませんと、謝意を述べたではありませんか」



 それに。


 足を伸ばしたのそっちだろ。


 そう言えたらどれだけ楽か……。角が立つ真似はいけませんからね。


 我慢ですよっと。



「態度だよ、態度!!」


「態度、ですか??」


「そうそう!! 地べたに額くっ付けて謝れよ」



 お、おぉ……。


 身分の低い者にそこまで求めるのですか。



 いや、身分の低い者にだからこそソレを求めるのだろう。


 高見の見物とでも言うのかな?? 弱者を虐げるのが好きなのだろう……。


 厄介な奴らに絡まれちゃったな……。



「差し出がましい様ですが……。皆様、少々酔っていませんか??」



 ルパートと呼ばれた男性を筆頭に、皆一様に顔が真っ赤ですし。



「それがどうしたってんだよ!! ほら、さっさと……。頭を下げろ!!」



 黒髪の長髪が硬い革靴の先で此方の額をコツンと蹴り飛ばす。



「いたっ!!」


「大体……。君みたいな庶民がこんな場所にいたら駄目だろう?? それに……。何だよ、その服。小汚いなぁ……」



 ルパートさんが相変わらずの笑みを浮かべて此方を見下ろす。



「えっと……。私は今現在、レシェット様の護衛の任に就いています。当然、私も見当違いな場所に身を置いて居ると考えていますが……。与えられた任務ですので、どうか御了承して頂けると助かります」



 ほら、これならいいでしょ。


 酔っ払いにも分かり易い様に親切丁寧に説明してあげた。




 ですが……。


 この真摯な態度が鼻に付いたのか。



 口角を上げ続けていたルパートさんの鼻頭に大変宜しく無い皺が寄せられてしまった。



「おい。お前……。僕の言っている事が理解出来ていないのか??」


「場違いな場所に居るのは理解していますよ??」




「だったら!! 早く出て行けって言っているんだよ!! 君みたいな蛆虫が彼女の周りに集っていると思うだけで虫唾が走るんだ!!」



 蛆虫って……。


 せめて、人として扱って下さいよ。



「いや、ですから……」



 激昂する彼を宥める様に釈明を始めるのだが……。



 ヤレ、お前が悪い。


 ヤレ、そっちが向かって来た。堂々巡りの始まり始まり。



 勘弁して下さい……。こっちは仕事なんだから。


 あなた達みたいに好き放題飲み食い出来る訳じゃないのよ。



「分かった。どうしても下らない任務を続けたいのであれば土下座をしたら許してあげるよ」



 はぁ……。


 俺の安い頭で済むのなら御の字だ。



 床に手を着き、腰を折ろうとした刹那。





















『おい、ボケナス。頭、下げんな』



 大変恐ろしい声色の龍の念話が届いた。



『そ――そ――。さっきから黙って見ていたけどさぁ……。あたしの堪忍袋ももう破裂寸前だ』


『右に同じくです。あ、いや。正面に同じくですね』



『皆、落ち着けって。彼は酩酊状態なんだ。それに……。此処で事を起こせばそれこそアーリースター家の名に傷を付けてしまう。それは了承出来ない。だから……』



 相手を威嚇させない、ゆっくりとした速度で。




「――――――。大変、申し訳ありませんでした」



 フワフワの絨毯へと額をくっ付けた。




「ふふ……。あはは!! コイツ!! 本当にやりましたよ!?」


「情けない男だなぁ。ほら、庶民が口に出来ない高級なワインを飲みなよ……」



 頭上から降り注ぐ冷たい液体にも挫ける事無く、頭を垂れ続け。


 行き場の無い憤怒を誤魔化す為。自分の爪で手の皮を切り裂く勢いで拳を握り続けた。



 これで、いいんだ……。


 俺が嘲笑を、そして辱めを受けるだけでこの家の名声が保てるのなら……。


 自分の行動の正当さを信じ、顔の曲線を伝い口角の端に到達したクソったれな液体を噛み締めていた。




最後まで御覧頂き、有難うございます。


遅い時間まで態々待って頂いた方には何んとお詫びを申したら良いのか。


本当に有難うございます。


夜も遅い時間ですので、皆様早めに就寝して下さいね。

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