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今日も今日とて、隣のコイツが腹を空かせて。皆を困らせています!!   作者: 土竜交趾
過去編 ~素敵な世界に一時の終止符を~
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第二百四話 不吉な発言 その二

お疲れ様です。


後半部分の投稿になります。少々長めの文となっておりますので予めご了承下さいませ。




「ん――、ふっふん。此処の壁をキチンと釘で打ってぇ完成っと!!」


 右手に握り締めた金槌で目的の場所に釘を的確な角度で打ち込むと満足気に鼻息をむふぅんと漏らして出来立てホヤホヤの背の高い壁を見上げた。



 何処にでもある材質の木材で作った壁だけど見てくれは悪くないよな??


 確固たる基礎の上に建てられた家は地震や強風にも強く、脆弱な基礎の上に建てられた家は脆い。


 今回の場合は後者に当たるが夏の嵐の様な風は周囲の森によって遮られ、強力な地震によって家屋が倒壊しても簡易家屋としての機能が消失するのみなのでまた建てればいいだけの話。


 それに俺達はあくまでも居候の身なのでいつまでも此処に留まる訳にはいかない。


 地図に印された丸の意味、そしてフィロ達が一人前になって旅立つ日のいずれかが訪れたのなら新たなる冒険に旅立つ予定だからそこまで強固な守りを持つ家を建てる必要は無いからね。



「ふぅ――。こっちは終わったぞ――。そっちはどうだ??」


 額から顎先に到達した汗を右手の甲でクイっと拭い、南側以外の壁で作業を続けている野郎共へと声を掛けた。


「俺様はもう少しだ!!」


「某は終了した」


 北側を担当しているフウタは残り僅かで西のシュレンは終了っと。


「相棒、終わったか??」


 背の低い草が方々に生える地面に金槌を静かに置いて東側の壁にひょいと顔を覗かせた。


「あぁ、もう少しだぞ」



 俺と同じく満足な表情を浮かべて不慣れな金槌で釘を壁に向かって打ちこんでいるのですけども……。


 基礎部分の胴縁を外した釘、微妙に傾いた壁の角度、そして傾きを無理矢理修正しようとしてその上から不必要な壁の役割を果たす板を打ち込む。



「よし、完成だ!!」


 いやいや!! 完成処か補修すべき箇所が滅茶苦茶ある超絶不細工な壁の出来上がりなんだけど!?


「え、っと……。どうやったらこんな風にあべこべで歪な壁が出来るんだい??」


 初めての建築作業に感嘆の息を満足気に漏らした大馬鹿野郎にそう言ってやった。


「不格好でも構わぬだろう。どの道この家は取り壊す予定なのだから」


 ううん、お母さんが言いたいのはそういう事じゃないの。不細工な造りでは雨風は凌げないでしょう??


「俺はこの家の行き着く結果じゃあなくて機能性の話をしているんだよ。これじゃあ室内に雨風が入って来るだろうが」


「ふん。では貴様が室内の東側を使用しろ」


 こ、この横着白頭鷲めが!!


 優しいダンちゃんでも我慢の限界があるんだぞ!?


「はぁ!? テメェが責任を持って使用しろよな!!」


 心にポっと湧いた憤怒に身を委ねて取り敢えず身近にあった相棒の左肩に右の拳を捻じ込んでやった。



「こっちは終わったぜ!! ハンナも終わった……。ギャハハ!! お、お前不器用にも程があるだろうが!!!!」


「ふっ、戦い以外はとことん不器用な奴だな」


 壁の打ち付けの作業を終えた忍ノ者達がハンナが作り上げた壁擬きを捉えると軽快な笑い声を上げる。


「五月蠅いぞ。気に要らないのなら自分達で板を打ち付けろ」


 彼等の声を受け手ほんの僅かに頬を朱に染めたハンナが金槌を乱雑に地面に置くと愛刀と愛剣を持って森の中に歩いて行ってしまった。


「へいへい、お母さんが修復しておきますからね。お昼御飯までには帰って来るんですよ――!!!!」


 若干の憤りを双肩に宿す相棒の背に向かって叫ぶと。


「喧しいぞ!!!!」


 静かな森に似合わない怒気を含めた声で叫びそのまま緑の中へと姿を消してしまった。



 さてと……。俺は今日中にこの壁を直さないといけないなぁ。


 何で相棒の分まで俺が働かなきゃいけないんだと思う一方、己の鍛える事以外に力を割いてくれた相棒の優しさに硬い心がちょいと綻んでしまう。



「何ニヤニヤしてんだよ」


 そのどうにも表しようのない心の空模様が顔に現れたのか、フウタが少しだけ首を傾げて俺の横顔を見つめる。


「ん?? あぁ、相棒も随分と丸くなったなぁって。出会った当初のアイツなら絶対手伝ってくれなかったし」


「だろうなぁ。ハンナは強さにしか興味が無いって感じだし。俺様達と出会った頃からそれは変わらないけど、徐々に砕けた感じになって来てくれたよな」


 フウタも俺と同じ感情を抱いたのか。


 森のずぅっと奥から聞こえて来る剣を振る甲高い音の発生源らしき場所を見つめつつ話す。


「それが里の戦士に課せられた課題だから。アイツはそれを自分の人生だと決めつけて生きて来たんだ。いきなり変われって方が難しいさ」



 そのカチコチに固まった考えは俺達と行動を続ける内に、太陽の光が氷塊を溶かす様に遅々足る速度で変化している。


 このままアイツの硬い心が溶け落ちてくれれば良いのだがそれは恐らく決して叶わないだろう。


 ハンナの心は鋼よりも硬化質で出来た武人そのものであり、人の本質はそう易々と変わらないからだ。


 それに、ハンナが俺達みたいに阿保面を浮かべて大笑いをする姿が想像出来ねぇし。その姿を捉えた俺達は口を揃えてこう言い放つだろう。



『お前、何か変な物でも食ったのか??』 と。



 相棒の馬鹿笑いを浮かべる決して有り得ない姿を脳内で想像しつつ、壁に立てかけてある木製の梯子に足を乗せようとしたその時。



「ダン!! おるか!?」


 狐のお子ちゃまの声が近付いて来たので梯子に乗せようとしていた右足の方向を転換させて茶の地面に着けた。


「ここに居ますよ――」


 北側に居るであろうイスハに向かって森の静寂を保つ声量を放つ。


「おぉ!! 此処に居た……。ブッ!! なはは!! お、お主!! 不器用にもほどがあるじゃろう!!!!」


 俺達を捉え、次に不細工な壁に視線を移すと同時に大笑いを放つ。


「あのねぇ。この壁を作ったのはハンナだぜ??」


「ハンナ先生が!?」


 背に見える三本の尻尾が天に向かってピンっとそそり立つ。


「アイツは何でも出来そうに見えてその実、戦い以外はすっげぇ不器用なんだよ。それで?? 何か用かい??」


「うむっ!! マリル先生が呼んでおるから来い!!!!」



 俺はその用が聞きたかったんだけどねぇ……。まぁ恐らく昼食の用意手伝いでしょう。


 五名の生徒に指導しつつ昼食の用意をするのは本当に骨が折れますし。


 俺もそれを見越して何度か彼女のお手伝いをさせて頂いたので粗方の用件は察せますよっと。



「ん――、分かった。フウタ、シュレン。悪いけど借りた道具を片付けておいてくれ」


「貸し一つだからな!!」


「了承した」



 フウタの言葉には一切合切頷かず、俺の御願いを簡単に聞いてくれたシュレンに一つ頷いて本日も魔法の授業に精を出すマリルさんの下へと向かって行った。



「お邪魔しま――っす」


「うむっ、入れ!!」


 先導の役目である顎下に居る活発少女の命令口調を受けると同時に古ぼけた扉を開けてお邪魔させて頂く。



 先ず目に飛び込んで来たのは真正面の大きな長方形の机だ。


 大きなと言っても此処で暮らす十名を何んとか収められる面積であり、俺達は食事の際この食卓を利用させて頂いている。


 机の上には授業で使用するのか、古ぼけた古書や難解な術式が描かれた古紙が所狭しと並べられていた。


「つまり、我々魔物が持つ第二の心臓とも呼ばれる魔力の源から体の各所へと魔力を流して己が力に変える。そうすれば普段の倍以上の力を発揮する事が可能となる訳なのです」


 机の左右にはフィロ達が腰掛け、入り口から最も遠い机の面の前で熱弁を振るっているマリルさんの御言葉を美味しそうに……。


「……」


 基、唐紅の髪の女性はうつらうつらと頭を動かしているのでそれ以外の者が彼女の言葉を咀嚼して噛み砕き己が糧としていた。


 フィロの奴め、マリル先生の前で堂々と居眠りなんて大した度胸じゃねぇか。


「あっ!! ダンさんお仕事中に御免なさい!!」



 マリルさんが俺の姿を捉えると軽快な足取りで此方に向かって小走りで向かって来る。


 良い風に言えば機能性に富んだ服、悪い風に言えば超ダサイ服の胸元がぽわぁんと揺れてくれましたね!!


 今のたった数秒の光景を拝めただけでも此処に来た甲斐があるってもんさ。



「いえいえ構いませんよ。それで?? 自分は何をすれば宜しいのでしょうか」


 まぁ十中八九、入り口から向かって左側に見える作りかけの料理のお手伝いでしょうけども。


「お忙しい所申し訳ありません。実は授業が長引きそうなのでまな板の上の豚肉を一口大に切り分けて頂けないでしょうか」


 ほら、当たった。


「全然構いませんよ。こっちも丁度一段落付いた所なので。それでは作業を開始させて頂きます!!」


 左右に広い台所の片隅に乱雑に置かれている前掛けを装備。


 長袖をクイっと男らしく捲り、まな板の脇の包丁を手に持ち早速司令官の指示に従い豚肉の解体作業に取り掛かった。


「宜しくお願いしますね。さて、授業の続きをしますよ」


「のぉ、先生。先に食事をすませてからにせぬか?? わしの腹はかなりふきげんなのじゃが」


「午前中の座学はもう少しだから頑張りなさい。さっきも話した通り、魔力の源から体の各所に向かって魔力は流れています。種族によって差異はありますが普段は清流のせせらぎの様に清らかなものであり人体に害をなす事は先ず見受けられません」



 右後方から聞こえて来るマリルさんの声を力に変えて中々の大きさを誇る豚肉の塊を切り分けて行く。


 大人だけの食事なら適当な大きさで構わないのですが食事には子供達が同席する。


 といっても?? フィロやフォレインは子供と位置付けられる体付きでは無いので正確に言えばエルザード達、年少組の口の大きさに合わせなければならない。


 その中でも特にミルフレアちゃんは体付きも、力の弱さも他の生徒達よりも劣るので噛み応えのある食べ物には細心の注意を払わなければいけないのだ。



「幅はこれ位で――、小さな御口ちゃんでも食べられる様に――切って行くのさ――っと」



 自分では完璧な音程具合の鼻歌を奏でつつ解凍済みの豚肉に包丁を入れて歌詞通りに一口大に切り分け、まな板の直ぐ隣に置かれているすり鉢状の木製のお皿に入れてあげた。


 ふふ、我ながら完璧な大きさ加減じゃないか。これなら小さなお子ちゃまでも余裕で噛み切れるでしょう。


 世の中の主婦は毎日こうして子供が笑みを浮かべて御飯を食べる姿を想像しつつ台所に向かうのだ。


 沢山の子供を持つ主婦は全く以て大変で御座いますわねぇ。



「ちょっとダン。集中したいから少し黙ってくれない??」


 此方側から見て対面の席に着いているエルザードが大変にがぁい声で俺の鼻歌に釘を差してくる。


「そんなに集中しなきゃいけない授業なの??」


 流して聞いているけども、本日の授業内容は俺でも理解出来る魔力操作っぽいし。


「私は聞く必要無いけど脳味噌まで筋肉で出来ている馬鹿狐や居眠りをしているフィロには必要なのよ」


「わしの頭は筋肉で出来ておらぬぞ!!!!」


「すぅ……」


 あぁ、そういう事。


「イスハとフィロは非詠唱型だから特に聞く必要があるって訳ね。聞く必要があるのに居眠りしていていいのかよ」


 台所の上に転がっていた野菜の皮らしき物体を指でひょいと摘まみ、コクっコクっと頭が上下に動いているお馬鹿さんの後頭部に目掛けて放り投げてやった。


「むっ……。むぅ??」


「寝起きの気色悪い顔を此方に向けないで頂けます??」


 髪の毛に違和感を覚えて目覚めたフィロが左に座るフォレインの横顔をじぃっと見つめ。


「むぅぅ……」


「気色悪い顔じゃなぁ……。口の端からねんどの高い液体がこぼれておるぞ」


「っ!!」


 右隣りに腰掛けるイスハに顔を向けるとほぼ同時に右手で手の甲を恐るべき速度で拭き始めた。


「あら、フィロ。漸くお目覚め??」


 まぁあれだけ頭が動いていれば当然気付いているよね。


「ち、違うしっ。今のは……、そ、そう!! 集中していたのよ!!」


『何に??』

「何に??」


 おぉ!! 俺の心の声と全く同じ声を出してくれましたね!!


 マリル先生との完璧な同調具合に思わず顔が綻んでしまいますよっと。


「ほ、ほら!! 魔力を留めるのは難しいって授業中に出てきたじゃん?? そ、その練習を頭の中で思い浮かべていたのよ」


「口から零れ落ちて来た涎の量からしてそうは考え難いんだけど」


 エルザードが机の上に頬杖を付くと溜息混じりにそう話す。


「想像も大切な練習ですからねぇ。それではその練習の成果を見せてくれる??」


 懸命に言い逃れを続ける寝坊助龍に対し、マリルさんが普段の声色よりも数段低い声で脅しに近いお願いを放つ。


「お、おぉ!! 勿論よ!! それでは練習の成果を御覧あれっ!!」


 フィロの体からかなりの魔力の波動が迸ると家屋全体が微かに震えた。


 へぇ、その年頃でもうそこまでの魔力を纏える様になっているのか。龍一族の力は侮れませんねぇ。


「どう先生!? 私の魔力は!!」


「それは馬鹿みたいに魔力を高めて体に纏っているだけです。私が一時間前に述べたのは高めた魔力を一箇所に留める事でしたよね??」



 一時間前……。


 つまり寝坊助龍は約一時間もの間、夢の世界にお散歩に出掛けていた事になるね。



「それでは馬鹿の一つ覚えで高めた魔力を右の拳に集約させて留めてみなさい」


「先生!! さっきから馬鹿って連呼し過ぎ!! これを右手に宿すんでしょ?? ちょ、超余裕――じゃん」


 誰が聞いてもかなり無理をしているんだなと確知出来る口調でそう話すと、家屋を微かに揺らしていた魔力が徐々に縮小されて彼女の右手へと移動して行く。


 豚肉の解体作業を続ける傍ら、体を半身の姿勢で捩じってフィロの様子を確かめてみるが……。



「ぐ、ぐぬぬぬぬぅ……。だ、駄目だ。隙間の多いボロ家みたいに魔力が逃げて行っちゃう」


 右手に集約された魔力の塊は十秒ともたず霧散してしまった。



「力を高めるのは初歩的な技術です。人の姿から魔物の姿に魔物から人の姿に変わる時も使用しているのでこれは分かり易いかと思います。しかし、高めた魔力を一箇所に留める作業は見た目以上に大変難易度の高い技術であると証明されましたね」



 魔力の源から流れ出る魔力を一箇所に留める作業には俺も最初は戸惑ったもんなぁ……。


 生まれた時から魔物であった者達なら誰しもが出来ると思っていたけどもフィロの様子を見る限り、そしてマリル先生の言葉通りかなりの高等技術であると判断出来た瞬間であった。



「纏った魔力よりも一箇所に留めた方が一点を通す攻撃力が高い。例えば敵対する相手が強力な装甲を持っている場合を想像してみて。薄い魔力の膜を張った攻撃は相手の装甲により直ぐに剥がれてしまいますが、重厚な膜を纏った攻撃は相手の装甲に左右され難いですよね??」


 右手をキュっと握り締めたマリル先生が生徒達に視線を向けると。


「「「「「……」」」」」


 全員が静かに一つ頷いた。


「強力に高めた魔力を一箇所に留める技術は確かに難しいですが近接戦闘を主にする者にとって必須。当然、相手も然り。生半可な技術ではその道を極めし者には全く通用しないのですよ」



 仰る通りで。


 力の森でその技術を高める事に成功したけども、ビビバンガの野郎には後一歩の所で及ばなかったし……。


 俺の力も武の道を極めし者から見ればまだまだといった感じなのかしらねぇ。


 もう間も無く豚肉の塊を捌き終える所まで作業を進めつつ巨龍との激戦を頭の中で思い出していると。



「ではダンさん。大変申し訳ありませんがそのお手本を見せて頂けます??」


「へっ!?」


 マリル先生から思いもよらない提案を背に受けて手元が狂ってしまいそうになってしまった。


 いきなり無茶振りですね!? 危うく包丁で指を切る所だったぜ。


「え、えぇ。それは構いませんけど……」


 まな板の側に包丁を置き、その場でクルっと反転。


 主婦の戦場から俺の方へ向かって興味津々といった感じで煌びやかに瞳を輝かせている生徒達が待つ勉強の場に体の正面を向けた。


「そこまで得意では無いですけどもそれでも宜しければ」


「ふふ、そう御謙遜なさらずに」


 いや、これは結構本気で言ってますぜ?? 武の道に長きに亘って携わっている相棒に比べれば俺の技術なんて月とすっぽんですし。


 すっぽん処か道の端に転がる塵芥よりも惨めで小さな物かも知れないな。


「それでは失礼して。すぅ――、ふぅぅ――……」



 目を瞑り、心を落ち着かせ、魔力の源から体全身に流れている魔力の流れを右手でせき止めてやる。


 その状態のまま魔力を高めて行くと清らかな清流は激流へと変わり、一箇所にせき止める力も魔力の流れの強さと比例する様に高まって行く。


 幾つもの支流から合流した川の本流は強力である様に右手に宿す力もまた強烈だ。



「――――。ふぅっ、これ位でどうでしょうかね??」


 右手に宿る烈火の力を生徒達に見易い様に掲げてあげた。


「流石ですね!! 皆さん、よく見ておきなさい。アレが本物の力という奴ですよ」


 そこまで褒める事じゃないと思いますけど……。


 相棒にはやれ力を発動させるまでの時間が長い――、だとか。もっと強烈な力を籠めろ――、だとか。


 褒めると言うよりも叱るという言葉の数々を体全身に浴びせて来ますからねぇ。


「ふんっ!! 主夫のわりにはやるではないか!!」


「へぇ、変態野郎のクセにそれ相応の技術を会得しているのね」


 そこの狐と龍のガキンチョ。貴女達の先生を見習ってもっと褒めやがれ。


「有難う御座いました。もう力を解いても宜しいですよ」


「へい、畏まりました」


 マリル先生のお許しの声を頂いて力を解除するともう殆ど切り終えたお肉の塊をお皿の中に丁寧に盛り始めた。



「貴女達の力は確かに強い、でも今はそれだけ。強者、達人、超越者。この世には途轍もなく強い力を持った猛者達がごまんといます。その者達と刃を交える事になっても負けない様、若しくは安全に逃げられる様に常日頃から勉学と研鑽に励む。それが今の貴女達に与えられた課題なのよ??」


「強敵上等!! 私は強くなる為に大陸を渡って来たんだからね!!!!」


 龍のお嬢さん?? 話をよぉぉく聞いた方が身の為で御座いますわよ??


 今、彼女の言葉の中に安全に逃げられる様にって言葉も含まれていましたよね??


「フィロ。貴女だけが戦えても仲間や友人達が危険に晒される場合もあるの。窮地に陥っても決して状況判断を見誤らない様にして欲しいから私はこうして教えているのよ??」



 ほら、思った通りだ。


 この危険と不思議が蔓延る冒険に出てからというものの……。俺は自分の力が本当にちっぽけであると何度も思い知らされた。


 正確に言えば生き残る事がこれほど困難であると痛烈に感じたと言えばいいのか。


 思わず頭を垂れて両膝を地面に着けてしまう力を持つ理の外側に存在する超越者。


 そんなべらぼうな奴等に喧嘩を売ればどうなるのか?? それは考えるまでも無い。


 マリル先生はフィロ達に生き残って欲しいが為にこうして毎日熱弁を揮っているのでしょうね。



「わ、分かったからその顔は止めて……」


 んっ?? その顔??


 フィロの震える声を受けてマリルさんにチラっと横目を送るが。


「では午前の授業は此処まで。昼食までの間、休憩して下さい」


 普段通りの可愛らしい顔しか捉える事は叶わなかった。


 何だったんだろう?? 今の慄く震える声は……。


「昼食の用意を手伝ってくれて有難う御座いますね」


 マリルさんがニコっと明るい笑みを浮かべつつ台所の前に立つ俺の直ぐ隣まで来てくれる。


「いえ、俺達も食事の世話を受けていますので手伝うのは当たり前かと」


「本当に助かっていますよ?? さてっ!! 昼食のシチューの隠し味を用意しましょうか!!」


 彼女が軽快な声を上げて台所の下の棚を開けて琥珀色の液体が詰まった硝子製の瓶を取り出すものの……。


「あっれ?? も、もうこれだけしか残っていないの??」


 数秒前の明るさは何処へやら。


 燦々に光り輝いていた表情は立ち処に曇り空へと変化してしまった。


「それは蜂蜜ですか??」


「えぇ、そうです。シチューの隠し味としてハーピーの里で獲れた蜂蜜を入れていたのですけど……」



 ほぅ!! ハーピーの里の蜂蜜ですか!!


 ハーピー製の蜂蜜は王都や中々の規模を誇る街でたまぁに見かける程度であって人の市場ではあまり流通していない。


 その事もあってか運良く発見出来た者はかなりの出費をする代わりに極上の甘さを享受する事が出来るのだ。


 俺も見かけた事あるけど庶民がおいそれとは手を出してイケナイ値段設定だったもんなぁ。



「ん――……。最近は目が回る様に忙しかったので在庫管理を疎かにしていたからなぁ」



「さぁってもう直ぐ昼食よ!! 食って食って食いまくるわよ!!!!」


「フィロ、もう少し静かにしてくれない?? あんたの馬鹿声は脳の奥まで響くから」


「淫魔のガキンチョの言う通りじゃ。もう少し静かにせい」


「あんたらに言われたく無いわよ!!」


「そういう所ですわよ」


「わたしもそう思う」


「フォレイン!! ミルフレア!! あんた達は私の味方をしなさいよね!!!!」



 先生が一人静かに悩んでいる直ぐ後ろで生徒達がもう間も無く出来るであろう昼食を想像して心を逸らせている。


 お昼御飯が楽しみなのは重々分かりますけども、もう少し静かにしません?? ほら、マリルさんの眉の角度が秒を追う毎にキュゥっと鋭角に尖って行っていますので。



 さて、どうやって彼女達の喧噪を鎮めてやろうかと考えていると。



「あっ!! そうだ!! 良い事を思い付きました!!」


「「「「「ッ!!!!」」」」」



 マリルさんが一つ柏手を打ち、酷い便秘を解決出来た瞬間に出てくる軽快な言葉を放つとほぼ同時に喧噪が鳴りやんだ。



「そうだ、ダンさん達も居る事ですし。最初からそうすれば良かったのよね……」


 五名の生徒達が何やら一人で盛り上がっている彼女の様子を捉えると、皆一様に口を紡ぎ双肩をガックシと落としている。



『おい、イスハ。急に黙りこんで一体どうしたんだよ』


 直ぐ近くで三本の尻尾をシュンっと垂れている狐のお子ちゃまに耳打ちをする。


「お、お主は当然知らぬじゃろうが先生が今の声色であの台詞を吐く時は大抵の場合。わしらにとんでもない仕打ちが襲い掛かって来るのじゃよ……」


「はい?? どういう事??」



「ある時は高高度からの救助と称してわしらを地上から空高い位置まで空間転移させて自由落下させた」


「ブハッ!?」


「そうそう、あの時は私が龍の姿に変わって死ぬ思いで全員を助けたのよねぇ」


 そ、そんな危ない訓練を子供に課したの!?


「ある時は私とエルザードに地上で結界を張らせて海底まで空間転移させましたわ」


「その気圧を維持したまま海底から砂浜に帰って来いってね。結界に亀裂が入った時は本当に死を覚悟したわよ……」


 魔法操作が得意なフォレインとエルザードが辟易する水深って……。


「中でも強烈に厳しかったのは南の無人島まで強制連行されて体中の水分が蒸発するまで走らされた事かな」


「アレはまだマシじゃろうが。走らされた後に鮫がウヨウヨいる海に放り出されたじゃろう??」


「はいはい!! そうだったわね!! 私が何匹も蹴っ飛ばしてやったからあんた達は助かったのよ??」


「フィロのそばにいなかったら私はさめにたべられていた」



 う、ううむ……。彼女達から話を聞く限りとても子供に課す訓練では無い事は理解出来てしまった。



「ダンさん達に協力して貰う事を前提としてぇ……」


 今も楽しいお出掛けを想像して胸を膨らます子供の様に楽し気な様子を醸し出している彼女から一体どのような激烈な指導が飛び出て来るのか。


 楽しみな様で慄いてしまう様な。


 そんな複雑な感情を胸に抱きつつ、その時を待っていると考えを纏め終えた鬼指導官から遂に強烈な指導が彼女達に与えられた。


「うんっ!! 決まった!! 皆さん、よぉく聞いて下さいね!! 貴女達は明日の早朝から……」


「「「「「「えぇ――ッ!?!?」」」」」」


 マリルさんの御言葉を受け取ると俺を含む六名から驚嘆と辟易が混ざり合った声が飛び出してしまった。


 お、おいおい。俺達もそれに強制的に参加させられるのかよ……。


 居候の身で従わざるを得ないのは頷けますけども、横着坊主達に説明をしなきゃいけない俺の事も少しばかり考えて欲しかったのが本音で御座います。


「明朝、起床と同時に各自は支度を済ませて……」


 目を瞑り、得意気に訓練内容を話して行く彼女達に対して俺達は一言も発せず只々マリルさんの口からジャブジャブと溢れ出て来る言葉を半ば強制的に浴び続けていたのだった。




お疲れ様でした。


もう間も無く始まる年末年始ですが、皆様の御予定は既にお決まりですか??


私の場合はそうですね、やはり買い物が優先事項となりそうです。年始の大安売りには惹かれますからねぇ……。


勿論、プロット執筆もしますよ!!!! 執筆の休憩中に買いに行くという感じです。


大安売りに出掛ける前に体調管理も気を付けなければいけないですし、それに大掃除も控えています。


休みがある分やる事が多くなるので今から四苦八苦してしまいそうですね。



いいねを、そしてブックマークをして頂き有難う御座いました!!!!


執筆活動の嬉しい励みとなりましたよ!! 本当に嬉しいです!!!!



それでは皆様、体調管理に気を付けてお休み下さいませ。

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