第二百四話 不吉な発言 その一
お疲れ様です。
本日の前半部分の投稿になります。
青く澄み渡った空に光り輝く太陽から三ノ月とは思えない程の温かな日差しが大地に向かって降り注ぐ。
地上で暮らす生物達は空からの恵みの光を浴びて今日という時間を過ごす為の力に変えてそれぞれの一日に向かって行く。
誰しもが朗らかな笑みを自然に浮かべてしまう様な好天に恵まれた温暖な気候の中。
空に浮かぶ天空の戦士は一人静かに強力な力を持つ敵達と対峙していた。
「いい加減にくたばりやがれ!! この死にぞこないがぁぁああああ!!」
戦いの強烈な緊張感から生じる呼吸の乱れが男の集中力を揺るがせ、上空から襲い掛かる槍の鋭い穂先が男の頬を微かに掠めた。
「くっ!!」
その痛みは僅かなモノであるが武の道に長く携わる男にとってその一撃を許す事自体が己の状態が真面で無い事を示す。
「真面に動けるのはテメェ一人だけなんだぞ!? さっさと降参した方が身の為なんだよ!!」
「その通りよ、こっちには人質も居るし……。貴方の行動が自ら首を絞めている事に何故気付かないのかしらねぇ」
「例え一人でも女王の御身を守護する黒翼の戦士として抗い続けてみせる!! はぁっ!!!!」
背に生える美しい黒色の翼が強力な風を纏うと男の前に立ち塞がる強力な敵に向かって長剣の切っ先を振り翳した。
「ちぃっ!! 速さだけじゃなくて膂力も相当なものだな!! だけど……」
「多勢に無勢。こっちは貴方の倍以上の手数でお相手しましょう!!」
「グァァアアッ!?!?」
男の剣が空に浮かぶ女性の鋭い槍技によって跳ね除けられると、男を取り囲む女性兵達から無数の風の刃が襲い掛かる。
一つ一つの威力は致命傷に至らぬ程度の威力だが剣で、体捌きで防ぎきれぬ風の刃は確実に男の肉を食み食い千切って行く。
「はぁっ……。はぁぁっ……」
「お、おいおい。テメェ、死ぬ気か??」
鬼気迫る表情と男が纏う強烈な覇気によって僅かに慄いた女性兵が呆れた口調で話す。
「この体の血が全て流れ出ようとも、心臓が止まろうとも、魔力が尽きて地に堕ちようとも……。魂がある限り俺は女王を守る。それが空の騎士に与えられた宿命なのだから!!」
体中の至る所から夥しい量の血を垂れ流す男が勇気を籠めた口調でそう話すと。
「抵抗を止めなさい!! それ以上戦闘を続ければ貴方は死んでしまいます!!」
地上から空の戦いを見守り続けていた一人の女性が両目に微かな涙を浮かべて彼に戦いを止める様に強く懇願した。
「レオーネ様!! し、しかし……」
「人質は私だけではなくルミナの街に住む人々も彼女達に囚われているのです。それが分からない貴方ではありませんよね!!」
「わ、分かりました。それがレオーネ様の御意思ならば従いましょう……」
彼女の命に従った黒翼の騎士が右手に掴む剣を手放すと鋭い切っ先が重力に引かれて地上に向かって落ちて行った。
「けっ!! 最初からそうしていれば余計な怪我を負う事もなかったのによ!!」
「漸く降伏しましたか。これでこの里の戦士と住民、更に街の人々も掌握出来た。後は……」
空に浮かぶ女性兵が厭らしい角度で口角を上げると地上で囚われの身となっている一人の女性へと視線を送る。
「そいつを南の島まで運びなさい。いい?? 私達に反抗したら女王の命は無いものと知れ」
「そういう事さ!! 分かったなのらさっさと私達に上等な蜂蜜を用意しやがれ!!!!」
「「「「わははは!! あ――はっはっはっは――――――!!!!!!」」」」
地上に突き刺さった剣の刃面に映る女性兵達の笑みは空高く昇り癪に障る笑い声も相俟って歪に映る。
「くそ……。私の力が及ばない所為で……」
戦場に虚しく響く女達の高笑いが男の憤怒を刺激して己の未熟な力に歯ぎしりを続けていた男は己の手を強力に握り締め、指が皮膚を突き破り肉の隙間から血が滴り落ちても力を収める事は無かった。
それ程に男が胸に抱く憎悪や激怒は強烈なものであったのだ。
勝者と敗者の間には覆せぬ程の戦力差がありそれは戦場を見る限り明らかであった。
破壊し尽くされた里を守る壁、強力な風によって吹き飛ばされた屋根、そして倒壊した家屋の数々。
その惨状は筆舌に尽くせぬ程に酷く、敗者は項垂れ嘆き勝者の高笑いは瓦礫と敗北者達の上でいつまでも鳴り続けていたのだった。
お疲れ様でした。
現在、後半部分の編集作業中なので次の投稿まで今暫くお待ち下さいませ。




