第二百三話 森の賢者様の有難ぁい授業内容 その三
お疲れ様です。
後半部分の投稿になります。
「本日の授業は、朝食の席でシュレンさんが興味を示してくれた空間転移についてです」
そう、物静かなシュレンが空間転移なる単語を捉えると咀嚼していた物を吹き出す程に驚いていたものね。
『な、何ッ!? 空間転移だと!?!?』
『テメェ!! ふっざけんな!! 俺様の装束にナニかが飛んで来ただろうが!!!!』
一体全体空間転移とはどのような魔法なのか。興味が尽きない一方で俺なんかが理解出来るのどうかという一抹の不安が残りますよっと。
「空間転移の魔法に付いて御話する前に先ずは皆さんに次元という言葉の意味を理解して頂きましょう」
次元、ね……。
魔法関係の小難しい話は興味がある一方でちょいと苦手なのですがマリルちゃんのきゃわいらしい顔をじぃっと見つめて辟易具合を軽減させましょうかね。
「「「……っ」」」
俺達は次元という言葉が出て来たと同時に小難しい顔を浮かべたのか。
「何もそこまで畏まる事はありませんよ」
マリルさんが柔和な笑みを浮かべてカチコチに固まった皆の表情を和らげてくれた。
「次元とは方向の事を指します。それでは此方から質問ですっ。我々が住んでいる次元の世界は果たして何次元でしょうか?? それでは……、ダンさんお答え下さい」
「え゛っ!? 俺!?」
てっきり生徒達の誰かを指定するかと思いきや、いきなり指名されて素直な驚きの声が口から飛び出て来てしまった。
「えぇっと……、次元ってのは方向の事ですよね。俺達が進める方向は前と後ろ、それと左右だろ??」
体の前で腕を組み、これでもかと眉を顰めて深く考える姿勢を取る。
「だから……。あ、いや。上方向もあるな!! ちゅまり!! 俺達が住む世界は三次元です!!」
「正解です。あはっ、凄いじゃないですか。結構難しいかなぁっと思ったんですけどね」
「ふふふ、これ位は答えられますよ」
何んとか正解に漕ぎついた事に安堵の息を漏らしつつ強張っていた双肩の力を抜いた。
「我々が住む世界はダンさんが答えてくれた通り三次元です。では、一次元の世界はどの様な世界に見えると思いますか?? フィロ、答えて」
「ふぇっ!?」
急な振りに俺と同じ様に慌てた声を出す。
「三次元が前後左右、それと上方向でしょ?? だから一次元は前と後ろしか進めないのよね?? つまりぃ……、えぇっと…………」
「簡単な話じゃん。一次元の世界の住人は物体を線としか捉えられないのよ。それは二次元も同じね」
答えを導き出す事に四苦八苦していたフィロの代わりにエルザードがいとも簡単に答えを出す。
「もぅ、私はフィロに答えて欲しかったのよ?? 今、エルザードが言った様に一次元、二次元の世界の住人達は高さという概念が無いので物体を線としか捉えられません。一次元は前後から、そして二次元は前後左右からその物体が何かを推測する術しかありませんからね」
そりゃあ高さという概念がなければマリルさんが言った通りに近付いたり、遠ざかったりという方法でしか物の形を理解する手立ては無い。
高さが存在しないのは結構不便な世界だよなぁ。
「一次元の世界では移動出来る方向は一つだけ。既にある一本の線に直行する別の線を足す事で二次元の世界に。そして、高さの線を足すことによって三次元になります。此処まで何か分からない事はあります??」
マリルさんが今現在何んとか現実世界に意識を留めている者達に質問を投げかけて来るが。
「「「……」」」
起きている者から質問が返って来なかったのでマリルさんは引き続き得意気に口を開いた。
「こうして方向を足す事で世界は複雑に変化する事が分かりました。では、我々よりも高次元の世界にする為にはどうしたら良いと思います??」
いや、そんな目を煌びやかに輝かせながら俺を見つめないで。
全くこれっぽっちも分からないから。
「これも難しく考える必要はありません。前後、左右、上下。この三つの方向全てに直交する別の線を加えればいいだけですから」
「そ、そんな事可能ですかね?? 横軸と縦軸。更に奥行の軸に別の線を加えるんですよね??」
得意気に説明をしていく彼女に向かって挙手しつつ問う。
「不可能ではありませんよ。只、我々がそれを理解出来ないだけですから」
うん?? 三次元の者が四次元の世界を理解出来ないのに概念だけは理解出来るとは一体??
「ダン、二次元の世界の住人も私達の世界を一生掛かっても理解出来ないのよ」
エルザードが此方に振り返りつつ話す。
「だからそれは何でだよ」
「はぁ――、フィロ然りあんた然り。どうしてこうも頭が固いのよ。いい?? 賢い私が説明してあげるから頭を垂れて拝聴しなさい」
畏まりました、淫魔のお子ちゃま。
今だけは遜ってやるからさっさと説明しやがれ。
「二次元の連中には高さという概念が無い。例えばぁ……。丸い形をした物体や四角の物体がここにあるとする」
エルザードが小さな手で地面に円と四角を描く。
「彼等の視点ではさっきも説明した通り丸も四角も全て線に見えるわ。前後左右に移動して何となく形を把握する事は出来るけどね。そこで、高さという概念。つまり私達三次元の世界の視点から見る事によって丸と四角という形が初めて理解する事が出来る。しかし、二次元の住人達には今、何が起こっているのか理解する事は出来ないのよ」
「それは何故??」
首をキュっと傾げて何度も瞬きをしつつ賢いお子ちゃまに問う。
「これだけ丁寧に説明しても理解出来ないの?? 彼等は今まで『線』 でしか物事を捉える事が出来なかったのに、突然『形』 という概念が目の前に現れたのよ?? それで理解出来る方が恐ろしいわね」
「――――。あ、そうか。だから俺達は四次元の世界について一生理解出来ないんだな」
線だけが存在する世界に形という概念が現れても二次元の住人はそれを理解出来ない。何故なら彼等には高さという概念が無いからか。
「そういう事よ」
「もしも三次元の者達が四次元の世界に迷い込んだのなら、初めて目の当たりにする事象に驚愕する事でしょう」
「ち、因みにぃ。四次元の世界は一体どの様な世界が広がっているので??」
再び説明を開始したマリル大先生に問うた。
「実際に見た訳ではありませんが四次元の世界は囲いという概念が無い世界だそうです」
はい?? 囲いが無い??
「世界の全ての物質が透けて見えるんですよ。金庫の中に仕舞った物や樹木の内部に流れる水、そして我々動物の内臓も全て透けて見えてしまいます」
「びっくり驚きの世界ねぇ……。でも、さっき説明した通り私達がどうして透けて見えるのかは一生掛かっても理解出来ないのよね??」
相も変わらず小難しい表情を浮かべているフィロが問う。
「その通りです。四次元の世界の住人達は理解出来ますけど我々は理解出来ません。高次元に住む者と我々との間には途轍もない差異がある。これだけは決して覆せない理なのですよ」
「成程ねぇ……。次元の世界の話は何とか理解出来ましたけども。空間転移の話をする前に何故次元の話をしたので??」
フィロと同じ位に難しい表情を浮かべつつ口を開く。
「空間転移の魔法は一瞬で任意の場所に移動出来る優れた魔法です。移動する間、詠唱者はこの世界から一瞬だけ姿を消してしまうという事になりますよね??」
マリルさんが何やらちょいとこわぁい表情を浮かべながら俺の顔を直視する。
「え、えぇ。今の場所とその場所に一瞬で移動するのならば消えてしまう事になりますね」
「その『消えてしまう』 という事象を理解して欲しかったから説明したのですよ」
「――――。成程!! そういう事か!!」
「はぁ、改めてとんでもない魔法って理解出来るわ」
いやいや、童貞鼠ちゃんと淫魔のお子ちゃま??
賢い君達はナニかを理解出来たかも知れませんけども、生憎俺は一切合切理解していないからね??
「よぉ、シュレン。何が分かったのか理解してくれる??」
「空間転移を詠唱すると高次元の世界を一瞬だけ通過するのだ。だから通る場所を高出力の魔力で固定する必要があったのか」
「それだけじゃないわよ?? 向こうの世界を見ない様にする為にも馬鹿げた魔力が必要になるんだから」
だからそっちで勝手に話を進めないで!!!!
「ふふ、興奮する御二人は兎も角。ダンさんはまだ理解出来ていないようですね」
「仰る通りですよ……。何で空間転移の魔法を詠唱するとこの世界から姿が消えてしまうのか全く理解に及びません。相棒、お前も理解出来な……」
何気無く右隣りに視線を送ると。
「……」
目を開けたまま一切瞬きをせず只一点を注視している相棒の姿を捉えてしまった。
里の戦士は戦士長の説教が長くなると目を開けまま眠れる技術を会得したと聞いたが何も此処でその特殊能力を発揮する必要はあったので??
「んがぁっ……」
頭上で既に夢の世界に旅立って行った変態鼠は兎も角。お前さんまで旅立っちまったのかよ。
「先程の二次元の世界の話を思い出して下さい。彼等は三次元の世界を理解出来ないと申しましたよね??」
「その通りです。高さという概念が無い世界ですからね」
「では、二次元の世界の住人が高さを得て……、そうですね。地面から一メートルの高さから二次元の世界を見下ろしている姿を想像して下さい」
丸や四角が一メートル上空に浮かぶ姿を??
両目をキュっと瞑ってその姿を想像すると、三次元の世界なので容易くその光景が頭の中に浮かぶ。
「一メートル上空に浮かぶその者は生まれて初めて形というものを、高さを得て理解出来ましたよね?? では、ここで視点を変えます。二次元の世界の住人の視点を思い浮かべて下さい」
地べたに這いつくばる二次元の住人の視点、か。
相も変わらず線ばっかりの面白くも何ともない世界しか見えないぜ。
「思い浮かべましたか?? それではつい先程まで直ぐ隣に居た者が超高出力の魔力を使用して三次元の世界に行ってしまった姿を思い描いて下さい」
仲良く話していた者がとんでもねぇ魔力を使用して三次元に??
二次元の世界から、高さという概念がある世界に旅立って行った者は……。
「――――。あっ、そうか!! いきなり高さがある世界に入ったから消えて見えるのか!!!!」
そうだよ、そうじゃん!!
平面しかない世界から高さがある世界に行けば当然、二次元の世界の彼等との間に高低差が生まれる。
隣に居た者が上空に行けば忽然と姿を消した様に見えるって訳ね!!!!
「正解ですっ。三次元に居る者が消えて見えるのは四次元の世界を通るから。空間転移の魔法は四次元の世界を通過して三次元の任意の場所へ移動する魔法になります。そこで先程説明した様に、我々は四次元の世界を理解出来ないという話が出てきます。理解しように理解出来ない世界を見る訳にはいかない。何故なら……」
「四次元には囲いという概念が無く、三次元の者がそれを理解しようとすればする程四次元の世界の影響を色濃く受けてしまう。つまり、それを視覚的に遮断しなければいけないのね」
「それだけでは無いぞ。四次元の世界で受ける風や移動時に受ける運動の力も制御せねばならぬ」
「だよねぇ。マリル先生、改めて思い知らされたわ。やっばい魔法って」
「ふふ、シュレンさんとエルザードはもう完璧に理解出来ましたね」
えぇ、その通りだと思います。
しかし、此処に一人だけ何んとか食らい付こうと足りない頭を必死に働かせている者が居る事をお忘れにならない様に。
「あ、あのぉ――。盛り上がっている所大変恐縮で御座いますが、至らない私めにも教えて頂けますかね??」
何やらキャイキャイと盛り上がっている三名に対しておずおずと声を掛けた。
「あ、ごめんなさい!! コホンっ、四次元の世界は先程も説明した通り囲いという概念がありません。つまり、我々の皮膚は透過して内臓が見えてしまう世界ですね」
うぅむ、柔らかい双丘ちゃんや張りのある双丘ちゃんをじぃっくり見られないのは何とつまらない世界なのでしょう。
俺は何があっても三次元に留まろうと決意した瞬間であった。
「囲いが無いという事は……、何か切っ掛けがあれば中に仕舞った物が外に飛び出てしまう事もあるのです」
「そりゃあ囲われないんですから致し方……、ってぇ!! いやいやいやいや!! それじゃあ俺達の皮膚や肉でキチンと仕舞っている内臓は……」
「その通りです。四次元の世界で強い風がフっと吹けば三次元の世界の者の肉体はその影響を受けて体の内側に仕舞っていた内臓が飛び出てしますまね。そして、そのまま三次元の世界に帰って来ると……」
目玉が眼窩から飛び出し、腹から五臓六腑が零れ出て、頭からは司令塔の役割を果たす脳が抜け出て来るって事かよ……。
「そうならない為に四次元の空間を通る穴を高出力の魔力で形成し固定。更に三次元の者に四次元を認識させない為に視覚を覆います」
「な、成程。それだけの準備をしないと俺達は高次元の世界に足を踏み込めないって事なんですね」
「ダンさんの仰る通りです。記憶に残って居ない程の遥か遠い昔、空間転移の詠唱を可能とした者が興味本位と言いますか己の知識を高める為と言いますか。四次元の空間を通る穴を形成せず、高次元の世界を己が目に収めたいと考えた者が居たと伝え聞きました。その者は一切の処置をせずにある地点から目的地まで空間転移を果たしました。その者の仲間が目的地に到着して目の当たりにしたのは……」
あ、いや。それ以上話さなくても結構ですよ??
マリルさんの意味深な視線と言葉を速攻で理解した俺は彼女の口から次の言葉が出て来ない様に努めようとしたのだが。
「仲間が目にしたのは、皮膚が全て裏返り五臓六腑が全て外に飛び出した人の形と良く似た肉の塊だったそうです。しかもまだその肉の塊は生命活動を僅かばかりに継続させており、地面に大量に横たわる血管は心臓の拍動と連動して細かく震え、眼窩から飛び出た目玉は何かを捉えようとしてギョロギョロと蠢き、口内から抜け出た歯の上に転がる舌は痙攣。食事の残骸を留めていた腸は大量の血液に塗れたまま芋虫の様に動いていたそうです」
「――――。オエッ」
それは叶わず、想像してはイケナイ惨たらしい死体の姿が脳内に鮮明に映し出されてしまった。
「ちょ、ちょっと先生!! 魔法の授業が怖い話になってんじゃん!!」
「ど、同感ですわ」
俺とほぼ同じ考えに至ったフィロとフォレインが堪らず声を上げる。
「私はあくまでも結果を伝えたのみです。その者の勇気、若しくは蛮行が後世に伝わり我々が高次元の世界では生きていけないと知れたのですよ?? これは本当に大きな収穫なのです」
そうかも知れませんがそれを空間転移が出来ない俺達に態々伝える必要はありませんよね??
詠唱出来る者だけが知っていればいい事実だってのに……。
「ふふっ、ごめんなさい。今日はいつもより生徒達が多いから張り切っちゃいました。コホンっ、つまり空間転移の魔法とは三次元の世界で四つの面から任意で伸ばした六つの点で移転先の座標を固定。座標の固定は直方体の中心を思い浮かべれば分かり易いかと思います。 座標を固定したのなら超魔力によって前後左右上下に直交する新たなる線を形成。それから高次元の世界を通る為の穴を固定させ、更に詠唱者若しくは同行者の視界を遮断する。移動地点から目的地までの穴を形成したのなら後は移動するのみ。三次元の世界の住人は俗にいう『瞬間移動』 を果たしたと思うでしょうね」
頭全体がズキズキと痛む頭痛と胃と口の中の嫌悪感を得る代わりに超高等技術の更に上を行くとんでもねぇ魔法って事が漸く出来ましたねっ。
「マリル殿、空間転移の術式を見せて頂く事は可能だろうか??」
「すぅ……。すぅ……」
もう随分と前から夢の世界に旅立っているミルフレアちゃんの手元からシュレンが問う。
「構いませんよ。では、御覧下さい」
彼女が右腕を天に向かって翳すと視界のほぼ全てを覆い尽くす何やら難しそうな記号や式の塊が宙に浮かび上がった。
「何コレ!!!! すっごい術式じゃん!!」
宙に浮かぶ白く淡く光り輝く術式と呼ばれるモノを見上げるとエルザードが驚愕の声を出す。
「あ、有り得ぬ。某の魔力では到底詠唱出来そうにないな……」
「魔力の絶対値が足りなければ詠唱出来ませんからね。それと既に会得した術式と対消滅させない様に術式を構築していかなければいけませんので……。この術式を構築するのに半年も掛かってしまいましたよ」
マリルさんが優しい笑みを浮かべて右腕をスっと元の位置に戻すと俺達の頭上に浮かんでいた巨大な術式が消失した。
「マリル先生!! 私にも今の術式を教えてよ!!」
「エルザードはまだまだ成長段階ですので例え術式を構築したとしても詠唱は出来ないわよ??」
「それでもいい!! いつか役に立つかも知れないでしょう!?」
「ふふっ、成長志向は認めますけど先を見据えるのではなく。今の自分が出来る事を出来る様になってから次の段階に進みましょうか」
「えぇ!? 今からでもいいじゃん!! 少しだけでもいいからさ!!」
「もぅ、仕方が無い子ね。いいわ、簡単な術式だけ教えてあげる」
「やったね!!!!」
魔法が得意な者達がキャイキャイと楽しそうに騒ぐ一方。
それに全く付いて行けない俺は他所の世界の出来事の様にあの光景が見えてしまいますよ。
まっ、餅は餅屋。蛇の道は蛇と言われている様にその世界の者の仕事はその者に任せるべきさ。
「さてと、俺は不細工な簡易家屋の建設作業に向かいますね」
近くの街で壁用の板を購入してそれを張り付ける基礎を完成させなければならないのでね。
「あ、じゃあ私も手伝うわよ。どうせあっちはあっちで勝手に盛り上がっているし」
「相伴しますわ」
最終最後まで起きていたフィロとフォレインが俺の行動に合わせて立ち上がろうとするが。
「駄目です。貴女達二人は引き続き魔法の詠唱と魔力の流れに付いての授業が残っているので参加して貰いますよ??」
「えぇ!! フォレインは兎も角、私は非詠唱型なんだから別に授業を受けなくてもいいじゃん!!!!」
彼女達の先生からお許しの声は頂けなかった。
「はは、引き続き頑張って授業を受けるこった。おら、頭の上と目を開けたまま居眠りを続けている卑怯者。さっさと起きろや」
頭の上の鼠を右手で掴み、相も変わらず目を開けたまま眠っている相棒の顔面に向かって放り投げてやった。
「いでっ!!!!」
「むっ……。終わったか」
「そういう事。不細工な家を完成させるから手伝ってくれ」
「ふわぁぁ――……。面倒だけど完成させないとゆっくり眠れねぇからなぁ」
「同じ姿勢を保持していた所為か体の筋肉が硬直しているな。それを解す為にも体を動かす必要があるぞ」
「能書き垂れていないでさっさと来いよ。時間は待ってくれないんだからなぁ――」
両手を器用に動かして顔を洗っている鼠と座ったまま上半身の筋力を解しているほぼ童貞野郎に声を掛けると、早く完成させてくれと叫んでいる俺達の簡易家屋に向かって歩いて行った。
人は見た目によらないと言われているが……。
可愛い顔と世界最強格の張りのある双丘に騙されそうになるがマリルさんは俺が考えている以上に優秀で尚且つすんげぇ実力の持ち主なんだよなぁ。
今日の授業でそれを改めて思い知らされた気分だぜ。
少しでも彼女の居る高みに昇れる様に俺も俺が出来る事をしましょうかね!!
己の頬を少し強めにパチンと叩くと、自然豊かな森の中にひっそりと佇む超不細工な簡易家屋へと向かって進んで行ったのだった。
お疲れ様でした。
この話を以て過去編最終章の導入部分はお終いです。
次話から彼等と彼女達は不思議と危険が同居する出来事に巻き込まれて行きます。これ以上御話しますとネタバレになりますので後書きは此処までにしますね。
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