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今日も今日とて、隣のコイツが腹を空かせて。皆を困らせています!!   作者: 土竜交趾
過去編 ~素敵な世界に一時の終止符を~
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第二百三話 森の賢者様の有難ぁい授業内容 その二

お疲れ様です。


後半部分の投稿になります。一万文字を越えてしまったので分けての投稿になります。



 程々に腹の膨れた状態で心地良い温かさの日差しの下に出たら果たして人はどの様な反応を見せてくれるのか??


 それは誰しもが容易に思い浮かぶ姿に変化する事であろう。


「くぁぁっ、あぁ゛ねっみぃ……」


 鼠の姿のフウタがこれがそのお手本だと言わんばかりに顎の可動域を限界付近まで稼働させて巨大な欠伸を放つ。



 そう、朝の気怠くも嬉しい倦怠感が抜けていない体はもう少し位は眠っても良いのですよと甘い囁き声を放つのだ。


 その声に従い温かな陽光を浴びつつコックコックと頭を上下させて所謂いわゆる二度寝というものを享受すれば体も満足してくれるのでしょうが、生憎俺達が置かれている状況でそれは許されない。


 もしも自分の体の声に従い微睡めば正面に立つ森の賢者様からとんでもねぇ仕打ちが襲い掛かって来る可能性があるのだから。



「はぁい、皆さん。これから授業を始めますよ――」


 マリルさんがニコっと明るい笑みを浮かべ、注意を引く為に小さな柏手を打つ。


「のぉ、マリル先生。いつも通り食堂で授業を始めれば良かったのではないか??」


 背の低い草が生え揃う大地に座るイスハが小さな言葉を漏らす。


「本日はダンさん達も参加してくれます。私の家の食堂ではちょっと狭いので本日は趣向を変えてみました」


「すいませんね、急な申し出で……」


 いつまでもうだつの上がらない御用聞きの様に右手を後頭部に当ててマリルさんにヘコヘコと頭を垂れる。


「いえいえ。大人の男性の方々に授業を施す機会は滅多にありませんからね。私も身が引き締まる思いです」


 まぁ四名の内、既に一人は最後まで授業を受けられるかどうか怪しいのですけどね。


「ふわぁぁ――……。よぉ、マリルちゃんよ。早い所授業を始めてくれね?? 少しでも気を抜いたら眠っちまいそうなんだよ」


 俺の頭上からフウタのだらしない声が響く。


「ちょっとあんた。先生に対してその態度は失礼でしょうが」


「全くその通りね。ふざけた態度を出すならその辺の草でも食んでいなさいよ」



 その声に憤りを覚えたフィロとエルザードが此方に振り返り、怠惰という怠惰を詰め込んだ態度を醸し出す一匹の鼠を睨み付けた。


 そして、その横。



「……」


 ちょっとだけ寝癖が目立つミルフレアちゃんがシュレンの方に向かって意味深な視線を放つ。


 恐らくあの視線はシュレンもフウタと同じ様に鼠の姿になって欲しいという願望が詰め込まれたものでしょうね。


 ほら、ものっすごくキッラキラのお星様が瞳の中で光り輝いていますもの。


「ミルフレア。某は集中して授業を聞きたいのでお主には構っていられん」


 その意味を速攻で理解したシュレンが頑是ない子供からサっと視線を外すものの……。


「んっ」


 純粋無垢の子供は大人の隠れた真意を探る術を持っていないので彼女は必死に言い逃れ、若しくは窮地から遠ざかろうとするズル賢い大人に向かって両手を差し出してしまった。


「だ、だから某は……」


「あはは、シュレンさん。本日の授業はミルフレアにはちょっと難しい内容ですので相手をしてあげて下さい」


 子供同士の温かなじゃれ合いを見つめる母親の瞳を浮かべたマリルさんがそう話す。


「某の意思はどうなるのだ!?」


「大人のお前さんがグッと堪えれば良い話さ。さっさとお人形代わりになって来い」


 右手の拳をギュっと握った彼の背を優しくポンっと叩いてあげる。


「ちぃっ……。言っておくがな!? 某は決して人形では無いのだぞ!!!!」


「わかったからはやくおいで??」


「ギャハハ!! だっせ――。忍ノ者が子供の言いなりかよ」


「ふっ、意外と似合っているぞ」


「だよなぁ――。近い将来イイ感じになるんじゃね??」



 小さな鼠ちゃんと触れ合う麗しい少女の姿は控え目に言っても物凄く似合っているし。


 互いに近い距離で育って行ったのなら心の距離も自ずと近くなり、何でも言い合える素敵な関係を構築出来ますからねぇ。



「某はあくまでも修練の為にこの大陸に渡ったのだ。一箇所に長く留まる訳には……」


「シュレン先生、しぃ――。もう直ぐじゅぎょうがはじまるからしずかにね」


 ミルフレアが手元に収めた小さな鼠の頭を優しく撫でつつ話す。


「くっ!!!!」



 フウタの言った通り、幾つもの修羅場を潜り抜けて来た歴戦の戦士が小さな子供の言いなりになる姿はいつ見ても笑えて来るぜ。


 だけど、この朗らかな光景の中に二人の姿が異常にまで良く似合っているのは内緒にしておきましょう。


 クソ真面目な鼠ちゃんからおっそろしい仕返しを食らいたくないのでね。



「はいっ、では始めますね」


「「「宜しくお願いします」」」


 フィロ達が静かに頭を下げるとマリルさんの表情が温かなものから真面目一辺倒なものに変化。


 俺達野郎三名は最前列に並ぶ生徒達から少し離れた最後列の位置からマリルさんの有難ぁい御言葉を咀嚼し始めた。



「ダンさん達が興味を持ってくれた話をする前に、前回のおさらいをしましょうか。この世界にはマナが満ち溢れ我々魔物はそれを体内に取り込み時に触媒として、時に己の魔力として使用しています。そして魔物が持つ魔力の源には六つの属性があるのですが……。それでは、はい。イスハ、その属性を全て答えなさい」


「むっ!! なんじゃ超簡単な問題じゃな。火と水、土と風、光と闇の六つじゃよ!!!!」


「正解です。良く覚えてくれましたね」


「なはは!! これくらい誰でも解けるじゃろうて!!」


「最近覚えたくせに良く言うわよ」


「なんじゃと!?!?」


「こらっ、授業の邪魔になるから燥ぐなら後にしなさい」



 マリルさんがイスハとエルザードの軽い横着騒ぎを収め、一つ軽く咳払いを始めると授業を再開させた。



「魔物が持つ属性は六つなのは周知の事実。しかし、実はもう一つの属性があるのを御存知でしょうか??」


 マリルさんが俺達に視線を向けるものの。


「「「……」」」


 誰一人として七番目の属性について答えられず静かな沈黙が広がって行った。



「魔物が持つ六つの属性は例えば火の属性が強かったり、風の属性が強かったり。種族が持つ特徴若しくは個人の特徴によって強弱が異なります。それを我々に当て嵌めると……。フィロは火と風が強く、フォレインは水と光。イスハは光が強くエルザードは光と闇が。ミルフレアは水と風が強いですね。そして、ダンさんは光と火がハンナさんは風。シュレンさんは水と風、フウタさんは火の属性の強い傾向が見受けられます」



 フィロ達は当然だが、俺達と生活を続ける内に此方の得意とする魔力の属性を看破しちゃったのかよ。


 特に技や魔法を披露した訳でも無いのに……。



「こうして魔物達は必ずと言って良い程六つの内の一つ若しくは二つ以上の属性が強い傾向が見受けられます」


「はいっ、マリル先生」


 得意気にウンウンと頷いている彼女に向かって小さく挙手した。


「ダンさん、どうかしました??」


「此処に居る全員の属性の傾向は理解出来ましたが、マリルさん自身の魔力の傾向はどうなっているので??」


「あ、ごめんなさい。説明し忘れていましたね。私は闇の属性が強い傾向が見られますよ」


「有難う御座いました!!!!」


「ふふっ、元気が良くて結構ですね。此処まで六つの属性とその強弱の傾向を説明させて頂きましたが、七番目の属性は『聖属性』 と呼ばれています」


 聖属性?? 初めて聞く単語だな。



「七番目の聖属性の特徴としては火から闇までの六つの全ての属性を備えています。強力な反面、一度発動すれば途轍もない魔力を消費してしまう事でしょう」


「どうすればその聖属性を発現出来るのよ」


 フィロが体の前で腕を組みつつ首を傾げる。


「恐らく、現代で発現出来る者は存在しないでしょうね」


「だから何で」


「ちょっと、フィロ。先生が話している途中なんだから話の腰を折らないでよ」


 エルザードが要領を得ない表情を浮かべているフィロに鋭く突っ込む。


「はいはい、黙って聞いていますよ――っと」


「聖属性を発現させる為には六つの属性を一定値に達するまで均等に高めなければなりません。一つの力がほんの僅かでも強ければ発動せず、一切の誤差も許されない非常に繊細な魔力操作が必要とされます」



 マリルさんが両手を腰の位置から肩の位置まで徐々に上げて魔力の高まり具合を分かり易く示してくれる。



「我々魔物は六つの属性の内、いずれかの属性の得手不得手がある。六つの属性を一定値まで高めて行く間にその特徴が必ずと言って良い程発現してしまう。例え、己の得意とする属性の力を抑え込んだとしても他の属性よりも僅かに勝ってしまう。これが現代で発現出来る者がいないと言われている所以です」



「――――。現代では、という事は過去にその聖属性を発動させた者が居るのだな??」


 俺と同じ考えに至ったシュレンが若干興奮気味に小さな鼻をヒクヒクと動かして話す。


「シュレンさんの仰る通りです。詳しい年代まで分かっていませんが、聖属性を発動させた者は確かに存在しますね」


「へぇ、マリル先生も実現不可能な超超高等技術か……。挑戦してみる価値はありそうね」


 明るい雰囲気を身に纏うエルザードがウンウンと小さく頷く。


「自身が持つ得意な属性を伸ばした魔法を使用した方が強力な力を得られます。敢えて六つ同時を鍛えて行くのは物凄い遠回りなので余りお薦めはしませんよ??」


「それでもイイ!! 私は世界最強最高の魔法使いを目指すんだからね!!」


「ふふっ、その心意気を忘れないようにね?? さて!! それでは本題に入りましょうか!!」



 マリルさんが頭上から差し込む陽光よりも明るい笑みを浮かべるとシュレンとエルザードの表情が一気に引き締まった。


 本番がいよいよ始まる事で俺達の間に緊張感が高まって行くのだが……。



「くぅっ……」


 俺の頭上で大胆に俯せになっている馬鹿鼠から小さな寝言が漏れ。


「う、むぅ……」


「……」


 最前列でマリルさんの話を拝聴しているイスハとミルフレアちゃんの様子は非常に危ういものであった。


 フウタの奴はうたた寝をするのもやむを得ないかも知れないが、生徒である君達がうたた寝をしちゃ不味いでしょうが。


 まぁでもイスハは非詠唱型なので魔法の授業よりも体を鍛えていた方が為になるし、ミルフレアちゃんは難しい話を聞くのには少々年齢が足りませんからねぇ。



お疲れ様でした。


この後直ぐに続きを投稿しますので少しの間、お待ち下さいませ。

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