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今日も今日とて、隣のコイツが腹を空かせて。皆を困らせています!!   作者: 土竜交趾
過去編 ~素敵な世界に一時の終止符を~
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第二百話 素敵な目覚めと出会い その一

お疲れ様です。


本日の前半部分の投稿になります。




 光さえも呑み込んでしまう強烈な闇の中で一人静かに蹲る。


 自分という存在さえも掻き消してしまう程に闇の力は強く唯一無二の己を守る為に堅牢な防御態勢を維持し続けているが、闇は虚しい抵抗を止めて早く私と同一しろと強烈な誘惑を放ち続けていた。


 その甘美な声に耳を傾ければ体に襲い掛かる寒さから解放されるのか、自分の存在すらも明瞭に知覚出来なくなって来た朧な感覚に別れを告げる事が出来るのかも知れない。


 頭に浮かぶのはこの孤独な闇からの解放を願う言葉の数々のみ。


 耐え難い苦痛から逃れる為に堅牢な防御態勢を解き闇の中でも見えてしまう漆黒の手に向かって腕を伸ばそうとした刹那……。



 誰かに助けを請う事も出来ぬ非情且残酷な孤独のみが存在する闇の中に拙くも温かいたった一つの光の筋が頭上から差し込んだ。



 差し込んだ光が徐々に闇を払い俺は漆黒の手では無く、頭上から燦々と降り注ぐ光に向かって腕を伸ばすと温かな光が俺の体を包み込み重密度の闇から救い上げてくれた。



 あぁ、光という存在はこうも温かくそして人に希望を与えてくれるものなのだと。


 眩く強烈な明かりに包まれながら安堵の息を漏らしていると闇の無音の世界には存在しなかった温かな人の言葉が鼓膜をそっと刺激した。



「むっ!! そいつはまだ起きていないのか!?」


「彼は先日まで生死の境を彷徨っていたのよ?? 生きている事自体が奇跡なのですから早々目は覚まさないわ」


「儂も中々に丈夫じゃが、その男は呆れるほどにがんじょうな奴じゃなぁ」


「えぇ、そうね。ハンナさん達が仰っていた通り驚くべき体の構造を持っています」


 直ぐ近くから大人の女性の女神の様な清らかな声が届き、十やそこらの頑是ない少女の声色がその後ろから聞こえて来る。



 う――む……。此処は現実なのだろか??


 皮膚に感じる現実味のある温かさ、そして聞き慣れ過ぎた相棒の名が聞こえたって事は現実である可能性が高いのですが。万が一、億が一。


 此処が天国若しくはそれに準ずる世界である可能性も僅かに残っているのだ。



「と、言いますか。貴女は何故此処にいるのかしら?? 外ではハンナさん達が態々貴方達に指導を施していると思うのですけど??」


「わ、儂はそいつの様子を見て来いと命令されたから来たのじゃよ」


「ふぅ――ん。じゃあもう一度、今の台詞を言いながら私の目を見て御覧なさい??」


「せ、先生!! その顔はひきょうじゃ!! いつも通りの顔にすべきじゃよ!!!!」



 何だか楽しそうな二人のやり取りを無視して取り敢えず此処が現実である事を証明すべきと判断した俺は物凄く近くから聞こえて来る声の主に向かって右手を伸ばした。



 むぅっ!?!? こ、この柔らかさは!!!!



「きゃあっ!? ちょ、ちょっとダンさん!? 何をしているのですか!!!!」



 俺が右手に掴んだ物体はこの世の柔らかさを全て詰め込んだような幸せを与えてくれるモノだ。


 静か――に擦ると布越しでもモニモニの柔らかさを堪能出来、単純な柔らかさだけでは無く力をちょいとだけ籠めてフニっと握ると中から程よい反発力が返って来て手の平を楽しませてくれる。



 す、すっげぇ!! デカイだけのモノなら何度も掴んで、摘まんで楽しんで来たのだがここまでの感触は今まで経験した事が無いぞ!?


 剛の中に柔が存在し柔は剛と混ざり合っている。


 剛と柔。相対する二つの存在だが両者は反発する処か二人仲良く手を取り合って一つの存在となり、互いを高め合ってこの世の天辺に向かって昇華していた。


 昨今の女神様のお胸はこんなに柔らかくそして極上の掴み心地を与えてくれるの!?


 人生の中で一、二の効用を与えてくれるナニかを確かめるべく重い鎖で封印されている瞼を開こうとしたのですが……。



「な、何をするんじゃボケェ!!!!」


「ウグブッ!?!?」


 いたいけな少女の激昂した声が響くとほぼ同時に顎に激痛が迸り、瞼を開く事は叶わなかった。


「こら!! 怪我人に対して何て事をするの!!!!」


「こ、このクソ戯けが先生の胸を鷲掴みにするからじゃ!!!!」


「言い方が悪いですよ?? 私は常々貴方達に言っていますよね?? 口調と態度を改めるべきだと」


「儂は先生を守るために行動を起こしたのじゃよ!!!!」


 とんでもねぇ痛みが生じた後に大人の女性の声と少女の声のやり取りが始まり、俺の体はそれをおかずにして再び深い眠りに就いてしまった。



 それから何度か今と同じ様なやり取りが聞こえて来たものの。体は覚醒に至らず素敵な空気の中で快眠を貪り続けていた。


 五つ首との死闘、南の大陸での大冒険の数々、そして先日の龍一族達との激闘。


 中々目が覚めないのは恐らく、これまで続けて来た冒険が多大なる影響を与えているのでしょう。


 それに加えて横着坊主達の面倒や家事を率先して片付ければ誰だって倒れるさ。


 自分に体の良い言い訳を与えて交互に押し寄せる微睡と熟睡を楽しんでいると、いい加減に起きないとベッドの上で一生寝過ごす事になるぞと脳が体に強烈な命令を下したのか。



「……っ」


 瞼が自然にスっと開き、汚れがちょいと目立つ木製の見知らぬ天井を視覚が捉えた。



 此処は一体何処だろう??


 俺がぶっ倒れたのは確か……、森の中だった。それから沢山の雑音を咀嚼しながら眠りに就いたから……。


 未だ軽い混濁を続けている頭の中でうろ覚えの出来事が右から左へと流れて行き、その一つ一つを精査しながら何気なく天井から床へ視線を向けると脳に刺激を与える新たなる情報がそこに座っていた。



「すぅ……」


 小さな椅子に腰かけてうつらうつらと頭を揺れ動かしている女性。


 ちょいと汚れた灰色の外蓑コートを羽織り、内側の服は良い風に言えば機能性に富んだ服。悪い風に言えばちょいとダサイ服だ。


 深い青みがかった黒き髪を後ろに纏め、顔全部は窺えぬが顔の中央を走る整った鼻筋からして中々の美人さんだと頷けるな。



 取り敢えず現状を確認する為に行動を開始するとしましょうかね。



「ふわぁ――……。ア゛アァっ。良く寝たな……」



 休日の朝に相応しい台詞を吐いて上体を起こし、体の各部の痛みを確認して行く。


 腕の痛みは無く腰の違和感も背の肉の張りも見受けられない。各関節の熱も無ければ首筋の凝りも無い。


 悪い場所を強いて挙げるのであれば頭のぼぅっとした状態かしら。


 寝過ぎた時に感じるソレがちょいとだけ重たい倦怠感を体に与えるものの体自体に何も問題が無い事にホっと胸を撫で下ろした刹那。



「んっ……」


 俺が眠っていたベッドの隣の彼女がゆるりとした所作で面を上げた。



 深い青みが掛かった髪と同じく彼女の瞳は思わず吸い込まれしまいそうになる澄んだ青色だ。


 丸みを帯びた肩は男性の守ってあげたくなるという欲求を沸々と高め、整った鼻筋に誂えた様に頬の線も美しく清らかに流れる。


 大きな目の上には弧を描く眉に形の良い鼻の下には潤いを帯びた唇。


 顔の印象からそして身に纏う落ち着いた雰囲気からして二十代中頃から後半に突入した大人の女性という印象を与えるのですが……。


 眠気を覚ます為に両手でグシグシと目元を拭く所作も相俟ってやたらと可愛く幼く映った。



「ふわぁ……。よく眠りましたね」


 俺が起きた事に気付かず、ずぅっと目元を拭いている彼女に取り敢えず挨拶をしましょうかね。


「お早う御座います」


 俺が寝起きに相応しい台詞を伝えてあげると。


「ひゃぁっ!?」


 件の女性は目元を拭く仕草の途中で双肩を思いっきり上下に揺れ動かして大変分かり易い所作で驚きを表現してくれた。


「お、お、起きたのですか!?」


 大きな目を更に大きく見開いて此方にグっと一歩近付く。


「えぇ、ですからこうして挨拶をさせて頂いた次第であります」


「何処か痛む箇所はありますか!? 熱はあります?? 倦怠感や嘔吐感、喉の痛みや五臓六腑に激痛は走りません!?」


「あ、あのぉ――。一気に捲し立てる様に話し掛けてくれるのは大変嬉しいのですが。ちょっとだけ距離感を間違っていますよ??」



 患者の症状が気になるのはやむを得ませんが互いの息が掛かる距離まで接近する必要は無いと思いますっ。


 と、言いますか。五臓六腑に激痛が走っていたらこうして真面に会話が出来ないって。



「あ、あはっ。すいません、距離感でしたねっ」


 彼女が俺の心臓を鷲掴みにしてしまう笑みをキュっと浮かべると通常あるべき距離に身を置いてくれた。


「体の状態は驚く程に快調ですよ」


「い、いやいや。あり得ませんから。普通の人なら即死する毒を受けたんですよ?? もう二、三日は絶対安静です」


 絶対安静ねぇ……。じぃっと過ごす事が何よりも苦手な俺にそれは少々酷だぜ。


「それじゃあ絶対安静の患者さんにこれまでの経過観察を聞かせてくれるかしら??」


「ダンさんの御体が普通の魔物よりも丈夫である事はハンナさんから御伺いしました。では、これより此処までに至った経緯を説明させて頂きます!!」



 あ、うん。ちゃんと聞こえているからもうちょっと声量を落としましょう??


 主治医と思しき彼女が病人に対して放つべきでは無い音量で俺の状態を事細かく説明して行く。



 何故だが説明の途中で興奮気味に鼻息をフンっ、フンっと漏らしている彼女曰く。


 俺が絶界の花と呼ばれる蕾に含まれている猛毒の針に刺されてから治療を受ける為、相棒が此処まで運んで来てくれたそうな。


 両目、両耳、鼻の穴。


 彼女が治療を開始したのは良いが、俺の体の穴という穴から大量の血液が噴出してそれはもう手の施しようが無い程に酷い惨状であった。


 徐々に失われつつある魔力を彼女の魔力で補い、抗毒作用のある薬草をこれでもかと俺の口に捻じ込んで経口摂取させると出血が収まりまるで死人の様に眠り続ける昏睡状態へと移行した。


 懸命の治療を終えて本日で十日が経過して今に至るそうな。



 致死性の毒を食らっても生き延びる事が出来たのはモルトラーニと、先日の覇王継承戦で受けた毒の霧の影響を受けて抵抗力レジストが発動したお陰であろう。


 この霊験あらたかな力を与えてくれたルクトには感謝してもしきれねぇって。



「一時は駄目かなと思われましたが毒の効果がダンさんの体の中で中和されて無効化。失われた体力と魔力は眠る事によって回復して目覚めたのでしょう。これまで見て来た中であの毒を受けて生き延びる事が出来たのはダンさんが初めてですよ?? 普通の生命体は針から毒を注入された時点で即死してしまいますので」


「はぁ……」


 得意気に話して行く彼女の端整な顔をじぃっと見つめながら生返事をして取り敢えず気になった点を尋ねてみた。


「所でどうして俺の名前を知っているので??」


 多分、というか確実に相棒が自分達の素性を彼女に話したのだろうけども……。


「ハンナさんからダンさん達の素性を教えて貰いました」


 ほらね?? 大当たりだ。


「今現在、私は此処で五名の生徒に魔法の指導を施しております。術式の構築や所作、この森に生える薬草の効能等が主な教えなのですが……」


 俺を死地から救ってくれた女神ちゃんがそこまで話すとスっと視線を落とす。


「接近戦や徒手格闘等はからっきしでして……。ダンさんが目覚めるまで若しくは回復するまでの間、ハンナさん達は私の代わりに五名の生徒達に格闘術の指導をしてくれています」


「成程、それで……」



 だから先程からこの家屋からちょいと離れた位置で中々に大きな魔力同士がぶつかっているのね。



「ハンナの指導は厳し過ぎる事で有名なんです。五名の生徒達も辟易しているのでは??」


「いえいえ!! ハンナさん達の指導はどれも目新しい様で生徒達も大変気に入っていますよ」



 お、おいおい。あの野郎……。


 俺の時だけ滅茶苦茶厳しくして他の人達には親切丁寧且やさしぃく指導をするってか!?


 指導内容を全て見た訳じゃないが、内容如何では酷い復讐をしてやるぞ。


 まるで自分の事の様に彼等の指導内容を話して行く彼女の二つの瞳をマジマジと見つめていると。



「と、言う訳で。ハンナさんやフウタさんの指導は本当に……。どうかしました?? 私の顔を見つめて」


 彼女がキョトンとした面持ちで此方を見つめ返してくれた。


「俺を救ってくれた本物の女神様の顔に魅入っていたのさ」



 これは正真正銘、偽り無き言葉だ。


 本当はもう少し気の利いた言葉や冗談交じりに話すべきなのだが、彼女の澄んだ瞳を見つめていると自然に口から出て来たというか。そう話すべきだと体が自然に反応したとでも言えばいいのかしら??


 彼女の優しき心が俺の命を現実世界に留めてくれた。


 非情な残酷が跋扈する世界に存在する本物の女神様に対して贈るべき言葉だとは思わないかい??



「へっ!?」


 真っ赤に染まった顔も大変御可愛いですよ??


「俺の名前を御存知だと思いますが改めて自己紹介させて頂きます。不気味な体の構造を持つダンと申します」


「あ、あぁ。では私も」


 彼女がコホンっと一つ咳払いして顔の熱が下がるのを待って口を開く。



「私の名前はマリル=アーヴァンテと申します。この森で両親から受け継いだ家で静かに暮らす者ですよ」



「両親から受け継いだという事は……」


「両親は約百年前に他界しました。それからは両親から受け継いだ知識を元に薬を作りアイリス大陸の各地で販売して生活費を稼ぎ細々と暮らしていたのですが……。一人の女性が私の下に訪れて静かな生活は一変しました」


 マリルさんがフフっと柔らかい笑みを漏らして宙を見つめる。


「その女性とは??」


「今も外でハンナさんとわんぱくを繰り広げている女性ですよ。彼女は西のガイノス大陸から飛来。何でも?? もっと強くなりたいから故郷を出たそうで」


 お、おいおい。あの馬鹿強い龍の血を受け継ぐ者がこっちの大陸に渡って来たのかよ。


「へぇ、そうなんだ。あの強い龍一族がねぇ……」


 マリルの言葉を受けて感慨深く頷いていると彼女が不思議そうに首を傾げた。


「あれ?? ダンさん達は御存知なのですか?? 龍一族を」


「えぇ。自分達もつい先日までガイノス大陸で冒険を繰り広げていたのです。ハンナから聞きませんでした??」


「あ、いえ。彼は踏み込んだ話までは口にしようとしなかったので」


 ははぁん。アイツも随分と処世術を学んで来たじゃないか。


 俺達の素性を完全完璧に明かすのは俺が目覚めるのを待って。という事だろうさ。


「俺はこの大陸の生まれなのですがハンナとシュレンとフウタはアイリス大陸の生まれではありません。どうして生まれた国が違う者達が仲睦まじく手を取り合って冒険をしているのかと申しますと……」


 俺がこの冒険に出るきっかけを話そうとして口を開くとけたたましい足音が木製の扉の向こう側から聞こえて来た。




お疲れ様でした。


長文となってしまいましたので分けての投稿となってしまいました。


現在、細かすぎて伝わらないモノマネを見ながら後半部分の編集作業を続けております。


次の投稿まで今暫くお待ち下さいませ。

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