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今日も今日とて、隣のコイツが腹を空かせて。皆を困らせています!!   作者: 土竜交趾
過去編 ~素敵な世界に一時の終止符を~
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第百九十七話 とある戦士の末路 その二

お疲れ様です。


後半部分の投稿になります。


一万文字を越える長文となっておりますので予めご了承下さいませ。




 ちょっとだけ横着な春の嵐と同程度の強さの風を浴び続ける事はや一時間。


 直ぐに目的地に到着すると想定していた服装なので体が寒さを訴え始めて来た。


 相棒の背ならふっかふかの羽の奥に潜り込んで寒さを和らげる事が出来るのだが、黒一色の鱗に覆われている巨龍の背の上で寒さを凌ぐ事はほぼ不可能に等しい。


 取り敢えず両腕で体のあちこちを適当に擦って寒さを誤魔化していると直ぐ隣から無駄にデカイ声が届く。


「もう直ぐ到着するから寒さは我慢しろよ――」


 この声はベンクマンか。


「おう!! そのつもりさ!!」


 その声の方に向かって声を上げてやると彼の龍の姿が視界に映る。


 黒に近い灰色の龍鱗が全体を覆い尽くし、体の大きさはビビヴァンガよりも少し小さい程度だ。


 小さいと言っても??


「この速度で一時間程度の飛行か。ガイノス大陸は中々の広さを誇るのだな」


 ベンクマンの更に隣で飛翔する相棒よりも大分大きいよなぁ。


 何かデカイ体ばかり見続けている所為か大きさの尺度が狂いそうだ。


「俺達が全力で飛翔しても大陸を横断するのは数時間掛かるからなぁ。人の姿で移動すれば更にその広さを痛感する事が出来るぞ??」


「その移動中に強力な野生動物に襲われちまうから歩いて移動するのは御遠慮願いますよ――っと」


 大きな龍の口をニっと開けて正面の青を見続けているベンクマンの横顔にそう言ってやる。


「カカカ!! それが楽しいから歩くのではないか!! 襲い掛かる獰猛な野生生物を屠り体を鍛え、恐怖に打ち勝つ。武の道はその繰り返しなのさ」



 その繰り返しの連続で命を落としてしまっては本末転倒なので俺は安全と安心が蔓延る場所で鍛えたいです。


 まぁ……、相棒と一緒に居る以上それは絶対に適わない願望なのですけどね!!



「むっ……。ベンクマン、何故俺より少し前に出るのだ」


「ん――?? 気の所為だろう」


「いいや、確実に前に出ようとしているぞ。此処に至るまで幾度と無く並走しようとしたが貴様は『常に』 俺の前に出ているのだからな」



 くっだらねぇ事で喧嘩しなさんなよ。


 比べっこが大好きな相棒の事だ。


 自分よりも速いって事をまざまざと見せつけられるのが癪に障るのだろうさ。


 やれ俺の方が速い、やれこっちの方が逞しい翼だ等々。


 飛ぶ事が出来ない俺にとってど――でもいい口喧嘩をおかずにして飛び続けていると漸く緑の大地に変化が現れた。



「んっ!? おぉ!! 見えて来たじゃん!!」


 黒くてデカイ龍頭の更に先に見えて来た文明の影を捉えると陽性な声を出す。


 空高い位置からでも家屋を思しき建築物が数多く確認出来、それは文化という形態を形成しており野生が蔓延る大地に突如として現れた文化に高揚してしまった。



 この大陸に上陸して初めて龍の文化と出会ったのだから無理もない。


 海の中で生活している魚さんも海底付近で人が生み出した文化と出会ったらギョっと大きく目を見開いて驚く事だろうさ。


 さてさてあの文化の中で巨龍さん達は一体どんな暮らしをしているのでしょうかね。



「下降を始める」


「あ、うん。宜しくね??」


 黒龍が大変ドスの利いた低い声を放つと心地良い旋回行動を開始して徐々に高度を落として行く。


 どこぞの白頭鷲ちゃんに是非ともお手本にして頂きたいゆるりとした速度で空に円を描きつつ緑と茶が混ざる大地に接近。


「よっと!! ふぅっ!! 此処が巨龍さん達が静かに暮らす街か」


 巨大な背から軽やかに飛び降りて大地に両足を突き立ててやると素直な感想を述べてやった。



 街の入り口には特に門と呼べる代物は確認出来ず誰もが自由に出入り出来る形を取っておりその先には街の奥へと続く横幅の広い通路がある。


 街に暮らす人々が踏み均して作られた通路には今も人の往来があり、彼等がビビヴァンガとベンクマン。そして俺達の姿を捉えると大変驚いた表情を浮かべた。


 あの驚きの表情の意味は恐らく、というか確実に此処が閉鎖的な空間であると判断出来る証拠だな。


 ほら、東西南北に暮らす龍達は基本的には干渉しないらしいし??



「こっちだ付いて来い」


「あ、はいはい」


 ビビヴァンガが人の姿に変わると俺達の先頭に出て案内役を務めるので俺達は彼の大変大きな背に続いて巨龍の街にお邪魔させて頂いた。


「ほぅ、街の中はこうなっているのか」


 人の姿のシュレンが興味深く左右に連なる家屋に視線を送る。


「木造であったり、石造りであったり……。その家庭によって家の造りが違うのは何故だ??」


 ハンナが直ぐ隣を歩くベンクマンの横顔に問う。


「ん?? あ――、家の造りの違いに深い意味は無いよ。強いて言うのであれば家主の気分という奴だな」



 雨が多い地域や高温多湿又はリーネン大陸の様に強烈な熱砂と熱射が入り混じる場所で建てる家に選択肢は与えられていない。


 何故ならその地域に沿った家を建てないと直ぐに倒壊若しくは住めなくなってしまうからだ。


 木の温もりや檜の香りを感じたいのなら木造にして、石の強さや頑丈な造りを求めるのなら石造りにする。


 こうした選択肢があるという事はこの地域は俺の生まれ故郷と同じく穏やかな気候であると判断出来るな。


 普遍的な家屋の数々に何処か既視感を覚えて心休まる歩行を続けているのだが、街の人々から向けられる好奇の視線の数々が完璧に気を許すなよと俺に強烈に訴えかけていた。



「むぅっ。どの家屋も入り口が高過ぎでは無いか??」


「カカカ!! シュレンには不要だろうが俺達にはあの大きさが丁度良いのだ!!」


「あの大きさなら俺も頭をぶつける事は無いだろう」


「な、なぁ。周りの人達の視線が大変痛いので何処か安心して寛げる場所は無いかしらね??」


 住民の方々の視線を一切合切気にしないで陽気な会話を続けている彼等に一石を投じてやった。


 君達はべらぼうに腕が立つかも知れませんが、もう少し周りの様子に気を配るべきですよ??


「こっちだ。来い」



 だから!! いきなり命令しないで!!


 せめて簡単でもいいから命令の目的を伝えなさい!!


 ビビヴァンガがいきなり街の大通りから右折して細い道へと進んで行くので俺達も慌てて彼の背に続いて行く。



「俺達は一体全体何処に向かっているのかな??」


 眩い日差しが照り付ける主大通りから涼しい木陰が占める細い道を進みつつビビヴァンガの無駄に広い背に問う。


「俺の家だ」


 彼の家に着いて俺達は一体何をさせられるのだろう??


 その答えを暫く待ち続けているが返って来るのは無言のみ。


「――――。続きは??」


「この街、というか。気付いていると思うがこの大陸はどちらかと言えば閉鎖的な空間が占める。お前さん達が息苦しい思いをしない様、ビビヴァンガは自分の家に招こうとしているのさ」


 無言の黒龍さんが口を開くよりも先にベンクマンが彼の言葉を補完してくれた。


「成程ねぇ、俺はてっきり家に招かれて四肢をバラバラにされて本日の夕食の一品にされるかと思ったぜ」


 俺達の間に漂う柔らかい空気に良く似合う冗談を放つが。


「……」


 先頭を歩く彼の口から笑い声を勝ち取る事は叶わなかった。



 むぅっ……。少し位笑ってもいいのにさ。


 友人達と交わす温かな会話の中で陽性な笑い声は素敵なおかずになるのですよ??


 ビビヴァンガの口からどうにかして笑い声を勝ち取る算段を考えていると……。



「此処だ」

「あいたっ」


 目の前の壁が前触れも無く突如として停止してしまったので肉厚で重厚な背に御鼻ちゃんをぶつけてしまった。


「入れ」


 そして不躾且詳細を一切話そうとしない彼は大変怖い顔を浮かべたまま、俺達の背には大き過ぎる扉を開けて己の家に入って行ってしまったとさ。


「お、お邪魔しま――っす」


 招かれた客ではなく、招かねざる客が放つであろう大変ぎこちない所作と台詞を述べつつ巨龍の家に記念すべき一歩を踏み入れた。



 うむっ、中は普通――の家って感じだな。


 俺達を先ず迎えてくれたのは大きな四角形の机だ。


 大きな部屋の中央にドンと腰を据えて鎮座しており、その脇には四つの椅子が整然と置かれている。


 机の上には使用前の食器類が置かれ、此方の右手には調理をするであろう窯や煙突。そして調理器具が確認出来た。


 部屋の右手奥には二階に繋がる階段がありその表面には埃や塵一つも残されておらず良く掃除して管理してあると判断出来る。



「へぇっ、綺麗にしてあるじゃん」


 取り敢えずこの家の感想を端的に述べると二階からけたたましい足音が猛烈な勢いで下りて来た。



「ビ、ビビヴァンガ様!!!! お帰りなさいませ!!!!」



 俺の鼓膜ちゃんが顔を顰めてしまった音の発生源は一人の女性だ。


 濃い青のシャツに茶のズボンと街中で良く見る服装で身を包み、長き黒い髪を後ろで綺麗に纏めている。


 顔の中央を通る真っ直ぐな鼻筋にちょっとだけ丸みを帯びた顔の輪郭。


 顔立ちは綺麗というよりも可愛い分類に属する。声色と顔からして恐らく二十代前半といった感じの所か。背は俺よりも低い事から百七十位であろう。


 何処にでも居そうな可愛らしい顔立ちの若き女性の登場に俺達が面食らっていると。



「なっ!? 何故東龍の戦士達が此処にいるのだ!!!!」


「はい??」


 件の彼女が突如として俺達に手厳しい言葉と視線を向けて来た。


「ま、まさか……。我々を討ちに来たのか!? それなら望む所だ!! 鍛えに鍛えた私の拳を食らうがいい!!!!」


「ちょ、ちょっと待って!!」



 正体不明の彼女が腰を浅く落として攻撃態勢を取ると俺に向かって強烈な殺気を向ける。


 これだけ男達が居る中で何で俺にだけ標的を絞ったの!? 俺よりも強い人はわんさかいますぜ!?



「問答無用!! ビビヴァンガ様に刃を向けようとする者は私が屠る!!!!」


「止めろ、ジュゼ。俺が彼等を迎えたのだ」


 殺気と中々の強さの魔力を身に纏って俺に襲い掛かろうとする彼女をビビヴァンガが大きな手で制す。


「え?? ビビヴァンガ様があの不届き者を迎えたのですか??」


 意外。


 ジュゼと呼ばれる彼女がそんな表情を浮かべた。


「あぁ、この街に居る仲間を迎えに来させたのだ」


「そう言えばディアドラ様の家に一人の男性が誘拐されて行く様を見たと街の者達から聞きましたね」



 誘拐って……。フウタの奴は自分から望んだのにこの街に到着してからは引きずられる様に女性の家に連れ込まれたのかよ。



「その様子だと俺達の事は既にご存知の様だね」


 取り敢えず誤解は解けたので強張っていた双肩の力をフっと抜く。


 多分、というか確実に覇王継承戦を観戦していたのだろうさ。


「当り前だろう。貴様はビビヴァンガ様に拳を振り上げたのだからな」


「い、いやいや!! あれは試合だから仕方ないでしょう!?」


 そんな事で命を狙われちゃ堪ったもんじゃない。


「ふんっ……」


 俺が釈明するとジュゼは体の前で腕を組んでそっぽを向いてしまった。


「ビビヴァンガ殿。彼女とは一体どういう関係性なのだ??」


 ハンナが特に緊張している素振を見せずに話す。



「俺の家に勝手に住み着いた居候だ」


「そ、そんな!! 私はビビヴァンガ様に指導を請う為にこうして……」


「俺に与えられた役目は南の海岸線の防衛だ。それを反故するのはストロード様の意思に反する」


「で、ですが!!」



 ははぁん?? あの二人の関係性が会話の中から朧げに理解出来てきたぜ。


 ビビヴァンガは普段の任務に精を出して、ジュゼは彼の強さと誠実さに惹かれてこの家に住み着き管理を行っている筈だ。


 そうじゃないと任務に集中して頻繁に留守にしている家の綺麗さは説明出来ないからな。


 強くなりたいという只一つの目標を叶える為に健気な彼女は彼に尽くしているのだが、ビビヴァンガはどこ吹く風。


 他の事象に一切顔を向けず、自分が進む道だけに視線を送って歩み続けているのだ。



 自分に与えられた任務を確実に遂行する武人と強さに憧れる若武者。



 何だかほっこりしてしまうやり取りを眺めて居ると俺とほぼ同じ表情を浮かべているベンクマンが優しく口を開いた。



「まぁ指導位ならいいんじゃないの?? ほら、空いた時間を利用してさ」


「っ」


 彼の言葉を受け取るとジュゼの瞳に明るい光が宿るが。


「駄目だ、俺にそんな時間は無い」


 それはビビヴァンガの冷たい言葉によって一瞬で曇ってしまった。


「でもさぁ――。それだと家の管理もしてくれる彼女が少し可哀想じゃない?? ビビヴァンガが任務で南の海岸線を防衛している間、彼女は健気にこの家を守ってくれているんだぜ??」


 俺も相棒と一緒に行動出来る様に強さを願ったし、強くなりたいと願う彼女の気持ちは痛い程理解出来るんでね。


 援護じゃあないけどもベンクマンに続いて一言放ってやった。



「ダンの言う事も一理ある。強くなる為には様々な方法があるその一つとして……、見るという行為がある」


 おぉ!! 珍しくハンナも俺達に乗って来てくれるじゃあありませんか!!


 出会った頃は不躾な子でしたけども俺と行動する様になってから確実に処世術を身に着けてくれている事になんだか涙が零れそうになってしまいそうですよ。


「ビビヴァンガ殿は南の海岸線の防衛の任務で忙しいのは理解出来る。某も与えられた任務は最優先で処理するからな。しかし、その間。ジュゼ殿は彼を 『見る』 事が出来るのだぞ??」


 シュレンも彼女の想いを汲んで温かい言葉を掛けてくれる。



「見る事もまた強くなる秘訣だ。どうだい?? ビビヴァンガ。見る事位は別に構わないだろう??」


 とどめの一撃となる言葉をベンクマンが放つと。


「む……。見る、だけか」


 彼はこれでもかと眉を顰めて深く考える姿勢を取った。


「任務に支障が無い程度ならいいだろ?? お前さんの立ち振る舞いや姿勢から学ぶ事もあるだろうし」


「ふぅ――……。分かった。俺の任務を邪魔しない程度なら許可しよう」


「ほ、本当ですか!? あ、あ、有難う御座います!!」


「詳細はストロード様と話して決めるから断言は出来ぬぞ」


「それでもいいんです!!」



 ふふっ、この二人はいつか強い絆に結ばれるかも知れませんねぇ……。


 グイグイ迫る彼女とそれにしどろもどろになる男性の心温まる姿を見守っているとこの雰囲気に似合わない不穏な音が近付いて来た。



 え?? ヤダ、何この音……。


 ズズッ、ズズッ、と何かを引きずる様な音は秒を追う毎に強くなって行き。遂にその音が扉の前で止まった。



「「「「……ッ」」」」



 室内に居る全員が固唾を飲んで不動の姿勢を取っている扉を見守っていると、ギギギと不穏な音を奏でつつ扉が開かれた。



「タ、タ、タ、助けて……」



 不穏な音の正体はどうやら三日前に強烈な性欲を持つ女性に誘拐された彼だった様だ。


 彼が身に着けているのは下着のみであり、上半身には無数のひっかき傷と青痣が刻まれている。


 四肢は枯れた枝よりも細く、顔に生気は一切確認出来ずあの顔を捉えた者は死者が棺桶から蘇ったと錯覚してしまう程に酷く暗い。


 普段着用している真っ赤な忍装束なるものは恐らく彼女の家に置いたままなのであろう。



「フ、フウタ!? 一体どうしたんだよ!!!!」


 親友ダチの変わり果てた姿を捉えるとほぼ同時に駆け出して床に倒れ込んだ彼を優しく抱き起してやる。


「コ、コヒュ……。取り敢えず、な、何か飲ませて……」


「分かった!! シュレン!! 俺の背嚢を!!」


「はぁ……。何故某が馬鹿者の世話をせねばならぬのだ……」



 シュレンが大きな溜息を吐くと渋々と俺の背嚢を渡してくれる。



「ほ、ほら!! 水だ!!」


 その中から新鮮な水が入った竹筒を取り出して数か月もの間、日差しの下に干された鯵よりも酷くカッラカラに乾いているフウタに飲ませてやった。


「ングッ……。ングっ……。ぷ、はぁっ!!!!」


 新鮮な水分が乾いた体に染み渡ると乾物が水で元の柔らかさを取り戻す様に彼の瞳に少しだけ生気が宿る。


「よぉ、一体どうなったら此処まで酷いナリになるんだよ。それにどうして俺達が此処に居るって分かったんだ??」


 俺がそう話すと。


「き、き、聞いてくれよ!!!! 俺様が受けた酷い拷問の数々を!!!!」


 フウタの目がカッ!! と強烈に見開き大きく口を開いた。




 乾物が真面に見える程に乾きくたびれた彼曰く。


 この巨龍一族が住む街に到着するとほぼ同時にディアドラがフウタを脇に抱えて彼女の家に移動を開始。


 目を白黒させているフウタを他所に家に着くと彼の服を引っぺがして行為に及んだそうな。


 久方振りに感じる快感によって恍惚に染まるディアドラは彼の体を貪り食らい、不能から回復したフウタもまた襲い掛かる快感に身を委ねていた。


 お互いの体を求めに求めて体が、魂が一つに混ざり合う様な強烈な性交は夜を越え朝を迎えても止まる事無くその勢いは性を司る神も呆れる程に熾烈されど甘美であった。


 ここまでは久し振りに再開した普通の恋人同士の甘い一夜。


 そう……。ここまではあくまでも普通の男女の行為なのだ。


 ひとしきり満足したフウタに対して性欲旺盛の巨龍ちゃんはまだまだ満足出来なかった様で??


 一息を付く間も無く獲物に襲い掛かる猛獣が可愛く見える程に彼を襲い続けていたそうな。



 一度果てたのなら威力過剰な女体を生かしてもう一人の彼を蘇生させ、二度果てたのなら強力な握力によって無理矢理起き上がらせ、三度果てたのなら俺でも思わず耳を疑いたくなる方法で休もうとするもう一人の彼を復活させてしまった。


 此処まで来ると男女間の甘い交じり合いというよりも、フウタの体は彼女を満足させるだけの道具となり果てていたのだ。




「そ、そ、それでさぁ!! さっき漸くディアドラが小休止してくれて浅い眠りに就いたんだ。それと同時にお前達の魔力を感じて……」


「な、成程。助けを求めに命辛々、性欲の魔王が住まう魔城から脱出したんだな??」


 フルフルと震える続ける彼の右手を強く握り締めて話す。


「そ、そうだ。俺様がもう立たねぇって言っても彼女は無理矢理立たせて……。お、俺様の体は女性の体を満足させる道具じゃねぇんだぞ!? れっきとした命が宿っている体なんだ!!」


「落ち着けフウタ!! 此処にはお前さんの玉を狙う魔王はいない!!!!」



 悪夢から逃れたい一心でクワっと口を開くフウタの目を確と捉えて言ってやった。



「貴様がそれを望んだのだろう」


「あぁ、身から出た錆という奴だろう」


「お、お前達なぁ!! フウタの枯れ果てた姿を見て可哀想だとは思わないのか!?」



 呆れた表情を浮かべているハンナとシュレンに思わず噛みついてやった。


 俺もシェファから酷い目に遭ったからな。コイツの気持ちが痛い程理解出来るぜ!!!! 



「ビビヴァンガ様。その……、ディアドラ様があの者に対して及んだ行為について少しばかり疑問が浮かぶのですが……」


「し、知らん」


「カカカ!! 凶獣ビビヴァンガもそっちは苦手だったかぁ!!」


「ベンクマン様は理解出来るので??」


「んぅ?? 分かっているけどこういう事はお前さんの師であるそいつに尋ねるべきだろう」


「そうですよね!! で、ではビビヴァンガ様。至らぬ私に指導を御享受して頂ければ」


「だから知らぬと言っているだろう!!!!」


「「「あははは!!!!」」」



 広い室内に明るい笑い声が広がり陽性な空気が漂い始めるとそれに吸い寄せられる様に不穏な空気を身に纏った一人の女性が姿を現した。



「あ、此処に居たのね」


「ひぃっ!!!!」



 フウタが大変潤った表情のディアドラを捉えると死神を見付けてしまったかの様に恐れ慄く声を出す。


 誰にも見向きもされない干乾び具合の彼とは違い、彼女の肌は潤いと光沢を帯びてつっやつやに光り輝き水浴びを終えたのか髪もしっとりと潤っている。


 誰しもが何か良い事があったのだろうと予感させる程に二つの目には生気が宿り大きな体からはまるで視認出来てしまいそうな陽性な感情が溢れて出ていた。



 片や棺桶に片足を突っ込む程の疲弊具合、片や今にも大空へと向かって飛翔して行きそうな程の活気具合。



 正反対の状態の二人を見ていると何だか居たたまれない感情の風が心の中に吹いてしまった。



「さ、続きをシましょう……」


「イヤァァアア――――ッ!! だ、誰か助けてぇ!!!!」


 ディアドラが有無を言わさずフウタの右足を掴むと入り口へと向かって引きずって行く。



「ディアドラ様……。一体何故そうも光り輝いているのですか??」



 その様を特に表情を変えていないジュゼが捉えると不思議そうに首を傾ける。


 お、おいおい。この悲惨な状況を捉えても君は敢えてその質問を放つのですか??



「ふふっ、貴女ももう少しすれば分かる様になるから」


「もう少し?? それは強くなれば分かるという事ですかね」


「詳しく知りたければそこに立っている彼にその指導を請いなさい。私が言えるのはそれだけよ」


「そう、ですか。ではビビヴァンガ様。至らない私にご指導ご鞭撻のほどを頂けますでしょうか??」


「だから出来る訳がないと言っているだろう!!!!」


「「「わはははは!!!!」」」」



 何も知らないジュゼとちょっと齧った知識を持つビビヴァンガの食い違った意見が交わされると口から陽性な感情が飛び出てしまった。


 そりゃあそうだ。普通の指導を施すよりも先にソッチ方面の指導に突入する訳にはいかねぇからな!!



「ダン!! テメェ!! 笑っていないで助けろや!!!!」


 俺達の陽性な声に憤りを覚えたのか、出入口の淵に必死にしがみ付き最後の抵抗を続けているフウタが残り微かになった体力を再燃させて叫ぶ。


「あ、あぁ。わりぃわりぃ。あの二人のやり取りが面白くてさ」


「こ、このままじゃ俺は吸い殺されちまうって!!」


「フウタ、これは貴方が望んだ事なのよ?? それに……、ふふっ。沢山のやり取りの中で貴方の弱点を見付けたし。萎えても私が的確に弱点を突いてアゲルから」


「ギギギギィィ!!!! ぜぇぇったいにこの手は離さんぞぉぉおお!!!!」



 十の指を出入口の淵に食い込ませるが潤いを得た彼女の前で所詮それは儚く無意味な抵抗なのだ。



「段々調子が出て来て、もう少しでナニかが掴めそうなの。フウタ、貴方の全てを私に注ぎなさい」


「イヤァァアアアアア――――ッ!!!!」



 案の定、瞬き一つの間に彼の必死の抵抗虚しく十の指が剥がれてしまい引きずられる様に外へと連れていかれてしまった。


 せめて痛みを知らないままイッて下さいまし……。


 憐れな子羊にささやかな祈りを捧げていると。



「あ、そうそう。後二日程度フウタを借りるから」


 彼を脇に抱えたディアドラがひょっこりと現れ残酷な死刑宣告を放ってしまった。



「あ、あ、あと二日も!? む、無理無理!! 絶対無理ッ!! そんなにシたらもう一人の俺様が本当にぶっこわれちまうってぇ!!!!」


「安心しなさい。死なない程度に手加減するから…………。多分」


「最後の方をちゃんと言えや!! ハンナ!! シューちゃん!! お願いだから助けて!!!!」


 フウタが抱えられたまま両足をジタバタさせつつ何だか冷めた様子で彼を見つめている二人に向かって叫ぶ。


「知らん。貴様が望んだ結果なのだから素直に受け止めろ」


「ハンナの言う通りだ。ディアドラ殿、そいつに手厳しい指導を骨の髄まで叩き込んでやってくれ」


「ふふ、勿論。さ、フウタ。きましょうか……」


「お、お前達って奴は!! い、い、いつか覚えていろよぉぉおおおおおお――――ッ!!」



 フウタの強烈な叫び声が遠ざかって行くと妙な空気が俺達を包み込む。



「あの者が泣き叫ぶ理由とは一体……」


 基、一人の女性を除く男達の間に限定しよう。


「では二日後に再び此方に寄ってアイツを迎えに来てくれ。足を踏み入れる許可は取っておく」


「お、おぉ。分かった。それじゃ俺達は行くわ」



 何んとも言えない表情を浮かべるビビヴァンガに別れを告げると静かに彼の家を退出。



「さ、さてと。帰ろうか」


「そうだな」


 普段通りの冷静沈着な表情を浮かべているハンナに向かってそう話すと……。


『ヒィィアアアアアア――――ッ!!!!』


 何処からともなく聞き慣れた男の大絶叫が鼓膜に届いた。



「あ、明日も晴れそうだし!! 沢山魚を釣って英気を養いましょうかね!!」


「某は果実を採取しに行く」


「では俺は食う役目に徹しよう」


『そ、そこは駄目だってぇぇええええ!!』


『フフッ、そう言っているけどこっちのフウタは元気一杯だけど??』


「こ、こ――らっ。い、いつもお母さんが言っているでしょう?? 偶には家事を手伝いなさいって」


 すまねぇ、フウタ。今の俺の力じゃあ潤いを得た彼女を止める術は持ち合わせていねぇんだ。


 殺される訳じゃないんだから、襲い掛かる快楽の数々に耐えて自我を保ってくれ……。



 姿の見えない彼に向かって細やかな祈りをささげると俺達は『敢えて』 その声を無視して大通りに出る。そして街に響く残酷な叫び声に首を傾げている巨龍の方々を他所に街の外へと向かって足早に向かって行ったのだった。





お疲れ様でした。


この御話だけはどうしても一気に投稿したいと考えていたので投稿間隔が空いてしまいました……。投稿が遅れてしまい、大変申し訳ありません。



さて、次の御話で彼等は龍が住む大陸を発ち過去編最終章となるアイリス大陸に向かいます。


過去編最終章となる長編なので気合を入れてプロットの執筆に取り掛かります!!!!



沢山のいいね、そしてブックマークをして頂き有難う御座いました!!


読者様達の応援の温かな応援が執筆活動の嬉しい励みとなります!! 




それでは皆様、お休みなさいませ。

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