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今日も今日とて、隣のコイツが腹を空かせて。皆を困らせています!!   作者: 土竜交趾
過去編 ~素敵な世界に一時の終止符を~
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第百九十七話 とある戦士の末路 その一

お疲れ様です。


本日の前半部分の投稿になります。




 青く澄み渡った空からは眩い陽光が降り注ぎ地上で暮らす者達の体温を温め続けている。


 三ノ月の太陽の光としてはちょいと威力が強過ぎるんじゃないなかぁっと思うが、大地の彼方からサァっと吹く微風によって然程暑さは感じ取れない。


 天界に住まう神様が激闘の褒美だとして俺に与えてくれた素敵な好天の中で腰に手を当てて満足気に一つ頷いた。



「ふぅっ。今日は綺麗に良く乾きそうですねっ」



 新婚或いは結婚したての主婦の半数以上が口から零してしまいそうになる台詞を吐いて風に揺られている目の前の洗濯物を見つめる。


 力の森の中で採取した木の枝で作成した簡易物干し竿に干されている洗濯物達は皆等しく感謝の顔を浮かべて風に揺られており、五名の野郎の洗濯物が並ぶ様は正に圧巻であった。


 朝食を終えて夫を見送り、そして洗濯物を済ませた後に主婦がする事は午前中の素敵な空き時間を利用した御茶か若しくは近所の主婦達との井戸端会議。又は疲労を拭い去る為の微睡なのだが……。


 今現在俺が置かれている状況ではその全ては決して叶いそうにない。



「カカカ!! 行くぞ、ハンナ!!!!」


「来い!! ベンクマン!! 貴様の剣技を見せてみろ!!」


「早く交代しろ。某の足が逸ってしょうがないのだ」



「グシフォスさ――まっ。今日も来ちゃいましたよ!!」


「毎日毎日御苦労な事だな。釣りの邪魔だからもう少し離れていろ」


「ふふっ、この距離で良いんです」



 素敵な好天に恵まれている湖の周囲には騒音が跋扈しており少しでも気を抜けばアイツ等が放つ喧噪に巻き込まれてしまう蓋然性がありますからねぇ……。


 本音としてはもう少し休んでいたいけどもそれは無理そうだよなぁ。



「ったく。数日前まで己の命を賭した激闘をしていたってのに……。テメェ等の体力は無尽蔵なのかよ」


 濃い青色の前掛けを外して物干し竿に掛けると湖の畔でワンパクをしている五名の姿を捉えつつ溜息を漏らした。


「お疲れの御様子ですね」


「あ、どうも」



 ベッシムさんが好天に恵まれている素敵な午前中に良く似合う優しい笑みを零しつつ此方に向かって来る。



「ほぉ、これはまた見事ですな」


 彼が俺の前に到着すると直ぐ後ろの洗濯物達に柔らかい視線を向ける。


「横着坊主達の全ての洗濯物を洗い終えるのには骨が折れましたよ……」


 これが日常の中なら然程疲れやしないのだが、こちとら馬鹿みてぇに強い巨龍との激戦を終えたばかりなのでね。


 しつこい疲労が体にしがみ付いて離れてくれないのですよ。


「はは、それは大変でしたね」


「ベッシムさんくらいですよ?? こうして労いの言葉を掛けてくれるのは」



 大飯食らいで剣馬鹿且ほぼ童貞野郎と、クソ真面目且童貞のお尻の可愛い鼠は朝早くから此処に飛来したベンクマンとワンパクを繰り広げており。


 人生の大半を釣れない釣りに投じている次期覇王様は今日も湖の水面に向かって糸を無駄に垂らしているし……。



 態々飯を三食用意して、君達が洗うべき衣服を洗濯したのは他ならぬ俺なのですよ!?



 そう声を大にして叫んでやりたいが奴等にとって俺の台詞は所詮馬耳東風。


 いいや、それ処からヤレ飯が少ない。ヤレもっと綺麗に洗え等々。労いの反対の辛辣な言葉の数々を浴びせてくる筈だ。


 街中の至る所の家屋の中から聞こえて来る夫婦喧嘩の主婦の罵声の数々はこうした小さな積み重ねが炸裂した結果なのでしょう。


 元気溌剌と自分勝手に行動を続けている彼等の姿を捉えると何だか心に寂しい風がフっと吹いて行った。



「どういたしまして。しかし……、あれだけの激闘を繰り広げたのにも関わらずもう日常生活を送って居るのですか」


「頑丈に生まれてしまった事を呪いつつ彼等の世話をしております」


「傷や疲労がたった三日で治るとは思えませんけどね」




 龍一族を一手に纏める覇王の座を賭けた激闘を越える死闘は三日前にその幕を閉じた。


 結果は勿論、俺達東龍の大勝利であり覇王様は勝利の美酒に酔いしれている俺達に覇王の座を譲渡してくれるかと思ったのですが。


 どうやらそうは問屋が卸さないらしい。



『次期覇王の座を継ぐのは東龍を収めるグシフォス。お前だ』


 戦闘場に下りて来た現覇王のゴルドラド様がとんでもねぇおっそろしい顔で俺達の前に立って勝利を宣言し、そして此方は王との謁見に相応しい様に片膝を地面に着けて……。


『ふわぁぁ……、あぁつっかれたぁ。早く帰って休みたいぜ』


 基。


 変態鼠の頭を無理矢理下げさせ、地面に片膝を着けさせて傾聴を続けていた。


『今大会の勝者に覇王の座を渡す予定であったのだが……。貴様は経験も浅く世の広さを知らぬ。若過ぎるが故の無知な者に覇王の名は少々酷だ』


『ギャハハ!! グシフォス――。おめぇさんにはまだ荷が重いってさ!!』


『『……ッ』』


『フウタ!! あ、す、すいません。続きをどうぞ……』



 現覇王様と次期覇王の二人に睨まれるとほぼ同時に変態鼠の後頭部をまぁまぁ強い勢いで叩き、両手で無理矢理彼の口を塞いでやった。



『そこで覇王の座を譲渡するのに幾つか条件を与える。一つ、覇王継承は私が死した時に譲渡するものとする。二つ、それまでの間に研鑽を続け覇王に相応しい知識を、力を身に着ける事。この二つだ』


『一つ目の条件は大いに理解出来るが二つ目の条件は随分と漠然としているな』


 グシフォスが片膝を着けたまま現覇王を見上げる。


『お前は閉鎖的な空間で自分だけの為に時間を浪費している。世の中は本当に広い。それを示すかの如く彼等の様な強き者が居るではないか』


 覇王がそう話すと此方に向かって優しき瞳を向けてくれる。


『自分の愛した場所の本当の大切さを知る為にも世界を見て来るのだ。その旅の中で知識と力を身に着けるとよい』


『ふんっ。それなら自分が納得出来る大きさの魚を釣る事が出来たのなら旅に出るとしようか』


『そりゃ随分と気の遠くなる話だなぁ。お前さんの釣りの腕前なら百年経っても満足出来る魚なんて釣れやしねぇって!!』


『貴様……。今の言葉は決して軽く無いぞ??』


『ギャハハ!! 何度でも言ってやるぜ!! 俺様の方が何百倍も釣りが上手いってなぁ!!!!』


『ま、まぁまぁっ!! 二人共!! 戯れるのはこれが終わった後にしましょう!!』



 軽快に笑い続けるフウタに向かって今にも襲い掛かりそうなグシフォスを必死に宥めてやった。



『各戦士達は己の領地へと戻り引き続きゴルドラド様の指示に従え。是にて覇王継承戦の終了を告げる』


『『『『ワァァアアアアアアアア――――――ッ!!!!!!』』』』



 進行役の男性から常軌を逸した戦いの終了が告げられると観客席から轟音なんてメじゃない大歓声が湧き起こり、それを捉えた俺達は本当にこれで戦いが終わったのだと安堵の息を漏らしたのだ。


 それから俺達は三日三晩、不眠不休で働き続けた疲労度を余裕で越える疲労感を双肩に乗せて湖に帰還。


 死人でさえも思わず大丈夫ですか?? と。心配の声を掛けてしまいそうになる深い睡眠を貪り続け、気が付けば三日経過していた。


 それでもまだまだ休み足りない俺の体ちゃんは睡眠を求めていたのですが……。



『俺は腹が減った。さっさと起きて飯を作れ』


 ほぼ童貞の横着白頭鷲野郎が無理矢理俺を叩き起こしてしまいそれは叶わなかった。


『あ、あのねぇ。育児と家事に疲れた主婦を叩き起こす夫が何処にいるの??』


 強力な力で俺の毛布を引っぺがそうとするハンナに対して涙目でそう話すものの。


『俺は貴様の夫では無い。いいから……、さっさと起きろ!!!!』


『いやぁっ!!!! 暴力亭主に折檻されるぅぅうう!!!!』


 強制的に毛布を奪取されてしまい嫌々、渋々ながら家事を開始。


 鋭い視線に監視されつつ先ずは魚を釣って、それから果実を採取して朝食を作り。それから溜まりに溜まった洗濯物と激闘を終えて今に至るのです。




「三日程度で動ける様になってしまう頑丈な体を呪っている所ですよ」


 ぎこちなく口角を上げて何だか同情の表情を浮かべているベッシムさんを見つめてあげた。


「体力は回復しているかも知れませんが、目に見えない傷や疲労は回復していないかも知れません。もう暫くこの地で休んで行かれるのですよね??」


「そう、ですね……。自分達の体力が回復して傷が癒えたのならアイリス大陸に向かおうと考えていますよ」


 この不思議で危険な冒険の発端となった地図に刻まれた印の意味を探る為に最終地点であるアイリス大陸の南南西に向かわなければならない。


 あの場所は禁忌の森として人と魔物から避けられている場所であり、中途半端な体の状態で向かうのは憚れるし。


「左様で御座いますか。ダン様達の冒険はまだまだ続いて行きますので何卒御体御自愛下さいませ」


「あ、態々どうも……」


 ベッシムさんが思わず見本にしたくなるお辞儀を放ったので此方にそれに倣い頭を下げた。


「しかし、あの三名は呆れる程に元気ですね」


 彼が頭を上げると今も湖の畔でワンパクを続けているハンナ達に視線を向ける。


「今朝、ベンクマンが飛来してハンナとシュレンに稽古をしないかと誘いの声を掛けたのですよ」



 むっ!! このままでは折角洗った毛布が落ちてしまいそうですね!!


 風に煽られて物干し竿から大地に向かって素晴らしい落下を決めようとする毛布ちゃんを掴み、物干し竿にしっかりと固定してやる。



「高みを目指す剣豪ベンクマンらしい行動です」


「俺も誘われたんですけどね?? 家事が忙し過ぎてそれ処じゃないって断ってやりましたよ」


「それが賢明な判断で御座います。幾ら頑丈でも体には限界という概念があり、それを越えた鍛錬は逆に支障をきたします。休む時にしっかり休み、体を鍛える時には鍛える。何事も分別が必要なのですよ」


「あはは、それをアイツ等に言ってやって下さいよ」



 さてと!! 洗濯物も終わったし!! 後はベッシムさんの言った通りの行動に至ろう。


 休む時に休まないと体がもたないっつ――の。



「私が、ですか。所詮小間使いである私の言葉に耳を傾けるとは思いませんけど??」


「小間使いって。ベッシムさんも中々にお強い力を御持ちでぇ……」



 困惑気味の彼に向かってそう話すと会話を区切ってしまう……、いいや。区切らずを得ない強力無比な力の源を掴み取ってしまった。



 上空に感じるそれは空高い位置でゆぅぅっくりとした旋回行動を続けており、俺達の存在を掴み取ると徐々に高度を下げて来る。


 それに伴い巨大な黒龍の翼から発せられる爆風が湖の水面を波立たせ、大地に生える木々の幹を揺らし、俺達の体を吹き飛ばそうと躍起になる。


 大空の覇者である白頭鷲の巨体を優に超える巨躯が大地に降り立つと不動の大地が微かに揺れ動き、巨大な体の上に存在するこれまた無駄にデケェ龍頭の恐ろしい瞳が確実に俺の体を捉えてしまった。



「カロロ……」



 ひゅ、ひゅぉぉ――……。こ、こっわ!!!! 何コレ!? 俺ってまだひょっとして夢の中なのかしらね!?


 ほ、ほら!! こぉんな馬鹿げたデカさの龍なんて滅多にいないし!?



「……っ??」


 それを確かめるべく、試しに両頬を思いっきり抓ってみたが残念無念。


 どうやら俺は既に目覚めており頬から発せられる痛みが現実であると如実に伝えて来た。



「これはこれは……。ビビバンガ様、本日はどういった御用で??」


 狐に抓まれるよりも更に酷い呆気に囚われている俺に対し、ベッシムさんが至極冷静な声色で何も言わず此方を見下ろしている巨龍に尋ねた。


「ダン、貴様は俺と来い」



 あ、うん。いきなりの命令口調はもう何度も経験して来たので慣れっこなのですが。


 其方の目的も明かさず。人の体を容易に食い散らかす事を可能とした馬鹿デカい黒龍に付いて行く程、俺は愚かでは無いのですよ??



「え、えぇっとぉ……。美女からのいきなりのお誘いなら涎を垂らして付いて行くのですけども。平屋一階建て程度なら余裕で噛み砕けそうな大きな御口を持つ巨龍ちゃんに付いて行ってはいけないって死んだ御袋から教わったのです」


「おぉ!! ビビヴァンガ!! 一体どうしたのだ!!!!」



 この騒ぎを捉えたベンクマン達が此方に向かって足早に来る。



「俺は迎えに来た」


 だから!! その目的を早く話して!!


 こっちは今にも食われるかも知れないって冷た過ぎる冷や汗が背に流れっぱなしなのです!!!!


「あぁ、そっか。そう言えばお前さん所の変態鼠がディアドラの所にお邪魔していたんだっけ」


「そうだ。俺はその知らせを告げに来たのだ」



 だったらそれを最初に言いなさいよね!!


 こっちは踏み潰される若しくは食い散らかされてしまうかも知れないって気が気じゃなかったのに!!



「な、成程。その迎えの為に態々来てくれたのか。御足労頂き有難うね」


 警戒心を最大級に高めたまま巨龍の足元までそ――っと移動をしてゴツゴツした龍鱗に触れつつそう言ってやった。


 おぉっ!! 重厚且カッチカチの鱗なんだけど表面はツルツルしてて随分と手触りがいいな。


「それで?? あの馬鹿者は現在どういう状況に置かれているのだ」


 シュレンが鼠の姿に変わり、後ろ足で立って小さな鼻をヒクヒクと動かして彼の数千倍の大きさを誇る龍に尋ねる。


「知らん。ディアドラの家に入った後は誰もその姿を見ていない」


「え?? じゃあ覇王継承戦が終わってからの三日間ずぅっと彼女の家に籠りっぱなしなのかい??」


 ビビヴァンガの足元の無駄にデカイ影から抜け出して問う。


「あぁそうだ」



 いや、端的にそう仰いますけども見方を変えれば『三日間』 もの間。彼女の家で拘束……。じゃなくて。性的な攻撃を受け続けていると受け取れるよね??


 俺と同じ考えに至ったのか。



「「「「……っ」」」」


 この場に居る全員が妙な雰囲気を身に纏いつつ沈黙してしまった。


「ひょ、ひょっとしたらフウタじゃなくてディアドラが参っているかもよ??」


 希望的観測、楽観視。


 こうあって欲しいという独りよがりの考えを口に出す。


「その線は薄いかもな?? ほら、カイベルトが言っていただろ?? ディアドラの性欲は天井知らずだって」


 ベンクマンが戦いの時よりも険しい眉の角度で話す。


「その話の通りだとフウタは三日三晩。不眠不休で彼女の性技を食らい続けているんだよね??」


「まぁ……、そうなるな」



 本気マジかよ。


 漸く不能が治ったってのに再び不能に陥るかも知れないとか結構洒落にならないんだけど!?



「アイツの聖剣が一生使い物にならなくなる前に早く助けに行かないと!!!!」



 性技によって溺れしまいそうなっている馬鹿鼠を救助しに行く為に取り敢えず必要最低限な物を背嚢の中に詰め込んで行く。


 一度目ならまだしも二度目の不能に陥ってしまったのならもう二度と立ち上がれ無くなってしまう可能性がある。


 ほら、男の自尊心プライドを傷つけられてしまったって奴さ。


 アイツは下の自分がシナシナでヘナヘナしていると戦いの場で本領発揮出来ない質だし。


 それに俺は知っているのだよ。女性の強烈な性欲という恐ろしい攻撃の数々を……。



『ダン、まだ寝ちゃ駄目』


『も、もう勘弁して下さいっ!! それにほ、ほら!! もう一人の俺も限界って顔を浮かべているでしょう!?』


『何んとかするから安心して』


『その何んとかを止めて下さいって言っているんですぅぅうう!!!!』



 相棒の生まれ故郷でシェファから無理矢理体に刻み込まれた精神的苦痛トラウマがふと脳裏を過って行ってしまった。



「ダン、そう急くな。アイツには丁度良い薬みたいなものだから」


 シュレンが然程心配している様子も無い感じで話す。


「あぁ、その通りだ。貴様とフウタの五月蠅い声が鎮まると思うと清々するぞ」


「そうだとしても親友ダチを見捨てる訳にはいかねぇって!! 相棒!! 魔物の姿に変わってくれ!!!!」


 新鮮な水が入った竹筒に朝食の果実の残り物や必要な物資を詰め込んだ背嚢を背負うと彼の下に向かって駆けて行くのだが。


「貴様は俺の背に乗れ。南の領地まで案内してやる」


「どわぁっ!?」


 俺の行く手を無駄にデカイ黒龍の手が防いでしまった。



「ゴホッ!! あっぶねぇな!! 俺を叩き潰すつもりかよ!!」


 宙に舞った土塊と砂埃を手で払う。


「余所者がいきなり領地に侵入して来たら戦いに発展しかねないし。ビビヴァンガの言う通りにした方が賢明だぞ」


 俺と同じ所作を取りつつベンクマンが口を開く。


「そっか。確かにそっちの方が理に適っているよな」


 いきなり巨大な白頭鷲ちゃんが領地に侵入して来たらそれを迎撃する為に何頭もの巨龍が襲い掛かって来る蓋然性がある。


 ほら、俺達がこの大陸に来た時もいきなり大火球をぶっ放されたし……。


「了承した。では、ビビヴァンガ殿。背を借りるぞ」


 シュレンが四つの足を巧みに動かして彼の背に乗ろうとするのだが。


「駄目だ。貴様はベンクマンの背に乗れ」


 大変大きな黒龍さんから乗背拒否されてしまった。


「カカカ!! ビビヴァンガは自分が認めた奴しか背に乗せないからなぁ!!!! シュレンは俺の背に乗れ!!」



 へぇ、そうなんだ。それはちょっと嬉しいかも……。



「もぅっ……。正直じゃないだからっ」


 付き合いたての彼女宜しく、羞恥心や女性らしい嫋やかな所作を醸し出しつつ黒龍の長い尻尾に触れた刹那。


「早く乗れ!! 食い殺されたいのか!!!!」


 黒い龍鱗に包まれた頬をちょいとばかし朱に染めたビビヴァンガが尻尾を大きく上下させて地面に叩き付けてしまった。


「ぎびぇぇええええええ――――ッ!?!?」


 その余波を受けた俺の体は数十メートルも上空に浮かび、無数の岩礫が背を、顔面を襲う。


「ふんっ、丁度良い。このまま背に乗せて移動するぞ」


「あいだっ!!」


 巨龍の背中にお尻から着地すると彼はそのまま無限の自由が広がる空の中へと向かって飛翔を開始してしまった。



 おぉっ!! 相棒の背中から見ているいつもと同じ景色だけども龍の背の大きさも相俟って違う景色に見えるな!!


 体全身に感じる痛みを拭い去る様に正面から強き風が吹き、薄雲はビビヴァンガの飛翔によってあっと言う間に霧散。


 相棒の通常飛行は優雅って感じだけど、巨龍の通常飛行は壮大って感じですなぁ。


「へへ、有難うね。背に乗せてくれて」


 背中一杯に広がるツルツルした一枚の鱗を撫でつつ話す。


「礼は不要だ。俺は貴様達を呼んで来いという命令に従ったのみ」


「命令?? あぁ、ストロードさんに頼まれたのか。怪我の容体はどうだい??」



 釣り馬鹿に左腕を吹き飛ばされて無事に済む訳が無い。


 今頃は痛みに悶え打っている事だろうさ。



「腕は確実に復元されたのだが……。腕の接合を妨げる為、薬等の使用は禁止されているそうだ」


「うぇっ。じゃあ治癒魔法で治療を受けつつ痛みに耐えなきゃいけないのかよ」


「その通りだ。だが、ストロード様はあれだけの重傷を負いながらも苦悶の声を一切上げずに治療を受けているのだ」


 そりゃあ一族を一手に纏める大将が。


『いたぁいっ!!』 とか。


『もういやぁっ!!!!!』 とか。


 女々しい言葉を放つ訳にもいかんでしょうに……。


「まっ、兎に角このまま安全に巨龍が治める地まで運んでくれよ」


「……」


 俺の言葉が聞こえたのか、どこぞの横着者とは違い安全且安心出来る飛行速度を維持して南の方角へと飛翔してくれた。



 フウタの奴、無事なのかな……。


 もしも再び不能に陥ったのなら丹精を籠めた料理をもてなして元気を与えてやろう。


 それでも再起不能になってしまったのならリーネン大陸の王都に立ち寄って彼が先生と崇める女王様に指導を請うか??


 快楽を快楽で上書きすれば何んとかなるかも知れないし……。


 あ、いや。それだと余計に傷口を広げてしまう蓋然性があるよなぁ。


 余計な寄り道をして無駄に時間を使う訳にもいかねぇし。自分が馬鹿な勝負を持ちかけて再起不能になったのならそれは身から出た錆って事で!!!!


 巨龍の背中の上で一人静かに胡坐を掻いて座り、大変美味しい澄んだ空気をむにゃむにゃと咀嚼しつつ呑気な気分のままで素敵な飛翔を続けていた。



お疲れ様でした。


これから後半部分の編集、並びに執筆作業に取り掛かりますので次の投稿は深夜頃になるかと思われます。


それまで今暫くの間、お待ち下さいませ。

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