第百九十五話 覇王継承戦 決勝戦 第五試合 その二
お疲れ様です。
皆様、大変お待たせしました。本日の投稿になります。
青一色に染まっている天空は西から差す太陽の光によって徐々に茜色に染まりつつある。
一日の終わりを告げる夕刻と今日という日を明るく装飾する真昼の間の黄昏とも亭午とも位置付けられぬ、人によっては中途半端な時間に感じる空の下では戦士達の熱き戦いが繰り広げられていた。
その熱量は空を穿ち、天界に住まう戦神の口から感嘆の声を勝ち取ってしまう程に熾烈且強烈なものであり。神々の注目を集めてしまう強力な力を持つ戦士達の放つ矜持、信念、自尊心を間近で受け止め続けている観客達の魂を震えさせ続けていた。
「「「「ワァァアアアアアア――――ッ!!!!」」」」
己が内から込み上げて来る目に見えないナニかに触発された観客達の口から発せられた歓声が音の波となり俺の背を穿つ。
「まだまだぁぁああああ――――ッ!!!!」
俺達を三百六十度取り囲む観客達の熱量に当てられたのか、ストロードが炎の力を籠めた拳を俺の顔面に向かって愚直に解き放つ。
拳から湧き起こる炎の熱量は周囲の空気を焦がす程の熱を帯びており、常軌を逸した筋肉量を積載した腕から打たれる攻撃は正に圧巻の一言に尽きる。
その攻撃力を習得する為にどれだけの研鑽に励んだのか、どれだけの血を流したのか。俺は奴では無いが攻撃を通してそれが手に取る様に理解出来てしまう。
俺の眼前に迫り来る熱き拳は言わばストロードがこれまで歩んで来た人生の表れだ。
この身にそれを刻み込み人生という名の道の奥ゆかさや辛苦を味わってやりたいが残念ながらそれは了承出来ない。
何故なら俺は……。
この戦いで勝利を掴み取り己の釣り道を確固足るものに位置付け、輝かしい華を添える必要があるのだからな!!
体中の肌が裂け、肉が傷付き、大量の血を失っても俺は決して諦めん!!
「くっ!!」
上空から降り注いで来る死という概念を否応なしに彷彿させる拳を懸命に回避して後方に飛び退くと攻撃の直撃は免れたが呆れた威力の攻撃の余波が全身に襲い掛かる。
大量に舞い上がった鋭利な礫の連打が俺の皮膚を美味そうに食み、鋭く裂けた傷口の端から生温かい液体がじわりと滲む。
「ハハハ!! いいぞ、良く避けた」
「いつまでその当たらない攻撃を続けるつもりだ。悪戯に体力を消耗するのは愚行の極みだぞ」
体の前で交差させていた防御態勢の両腕を解除。
額から静かに音も無く垂れて来る深紅の液体を拭いつつ話す。
「それは勿論、貴様に乾坤一擲となる一撃を当てるまで続けるつもりだ」
「随分と気が長くなる話だな。その前に……。戦闘場が使用出来なくなってしまうかも知れんがな」
ストロードの馬鹿の一つ覚えが始まる前までは何とか円状の原型を留めていたが……。呆れた攻撃が開始された今となっては方々に巨大な穴が開きその穴から生じる亀裂が他の穴と繋がり、歪な円として俺達を乗せていた。
「軟弱な岩だ。このまま戦闘が続けば戦闘場はおろか、闘技場が消失してしまうかも知れん」
ストロードが俺に気を向けたまま審判役の男性に戦闘継続の是非を問う視線を向けると。
「戦闘場が消失した場合、場外負けが無くなるだけだ。我々龍一族は他種族よりも身体能力に優れている。周りを気にせず只目の前に立つ敵を倒せ」
審判役の男は冷静沈着な声色で俺達にそう告げた。
「そういう事だそうだ。しかし驚いたな。傍若無人の巨龍の総大将を務める貴様から他者の体を心配する声が出て来るとは」
「配下の者に気を配るのも上に立つ者の資格だ。釣りの事しか頭の無い奴には到底理解出来んだろう」
上に立つ者が持つ資格、か。
まだ俺がこの世の道理を弁えていない頃、厳しい訓練の間に同じ様な事を親父にも言われたな。
『グシフォス、お前はいつか俺の後を継ぐかも知れないから伝えておく。龍一族の頂点に立つ覇王の名は決して安くない』
湖に向けて何処か寂しそうな瞳を向けている親父がそう話したので俺は静かに頷き、竿を持つ手の力を少しだけ強めた。
『この大陸に住む四種族を一手に纏めるのは当然の事だが、争いが起こらぬ様に彼等の意見に耳を傾け真摯に向き合う必要がある。今は覇王の名は龍族の頂点に立つ者としての意味合いを持つが本来の意味は……。我々の祖先は他種族を率いて亜人を打ち倒した。その時に付けられた名が覇王なのだ。つまり最強の名に相応しいものとして位置付けても過言では無い』
『最強とか他種族を率いるとかは全く興味が無い。俺はこの生まれた地を守れる力さえあればいい』
『はは、それはそれで難しいぞ?? 南龍の連中は隙あらば各地を併合しようと躍起になっているからな』
父の武骨な手に頭を撫でられ続け、釣りの邪魔だと叫んで払おうとしたが子供の頃の力では叶わず。苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべて釣りを続けていた。
懐かしいような、心が少しだけ痛んでしまうような。
ストロードが放った台詞が忘れかけていた懐古の感情を呼覚ましてしまった。
「その道理は理解している。俺は己の生まれた地を守る為ならば修羅にでも悪魔にでもなってみせるさ」
戦闘開始時より徐々に高まりつつある闘志が魔力を刺激させ四肢に、体全体に力が漲って来る。
各関節に痛みも無ければ筋力が疲弊して動けなくなる様な疲労感も無い。只、体中に刻まれた礫の傷口から零れ落ちる失血だけは看過出来ぬな。
万全の状態とは呼べないがこれから更に苛烈を極めるであろう戦いに十分対応出来る状態だ。
「貴様の場合は生まれた地では無く、あの湖だろう??」
「何とでも言え。俺は決して自分を曲げぬと誓ったのだ!!!!」
若干の疲労感が残る両足に風の力を付与させて聳え立つ壁に向かって突貫を開始。
「ッ!?」
「ハァッ!!!!」
刹那に俺の姿を見失い驚愕の色を帯びた表情を浮かべているストロードの顎に向かって強烈に、しかし正確無比な上段蹴りを放ってやった。
「くっ!! 良い攻撃だ!!!!」
右足が捉えた感覚は顎の太い骨の硬さでは無く奴の右手の骨の細い感覚であった。
直撃させようとして本気の力を籠めたのだが……。どうやらこれ以上の速さと威力を纏わないとこの壁を突破出来ぬ様だな。
「それで完全に防いだつもりか!?」
右足を地面に着けて奴の防御態勢が完成する前に腹の奥深くへ右の拳を打ち込んでやると、拳が満面の笑みを浮かべる心地良い感覚が広がって行った。
「グッ!?!?」
この戦いが始まってから初めて巨体がクの字に折れ曲がり、人体の弱点の一つでもある頭が随分と高い位置から下りて来た。
漸く揺らいだか!?!? ならば此処で一気に畳み込んでやる!!!!
「貰ったぁぁああああああ――――ッ!!」
ストロードの腹に突き刺さった右の拳を引き抜き、返す左の拳で強烈な隙の影が漂う右の頬に向かって打ちこんだ刹那。
「調子に乗るなよ!? この若造がぁぁああああ!!!!」
「何ッ!?」
奴の体から空気の壁を容易く破壊し尽くす程の常軌を逸した魔力が迸り左の拳が弾き返され、古代種の力の余波を受けた体が戦闘場の端まで吹き飛ばされてしまった。
たかが古代種の力を解放しただけなのに此処まで跳ね返されてしまうとはな……。
巨龍の力に偽り無しといった所か。
「フゥッ……。フゥゥウウッ!!!!」
全身に纏う筋力は刻一刻と膨れ上がって行く魔力と比例する様にその面積、体積を増やし続けその姿は戦闘前と比べてまるで別人だ。
戦闘意欲に当てられた僧帽筋が盛り上がり体内から込み上げて来る殺意によって体が微かに震えている。
巨躯を支える両足は今にも俺の体を捉えようとして逸りストロードは己の意思を以てそれを懸命に抑え付けており、何か切っ掛けがあれば屠るべき敵である俺に向かって来るだろう。
体全身から溢れ出る魔力が大気を煮沸させ、大気を揺らし、その勢いは天空に漂う雲さえも霧散させてしまう程に苛烈。
この世に正真正銘の一体の化け物が降臨した瞬間を目の当たりすると素直な感想が口から零れてしまった。
「ふぅ――……、やれやれ。越えるべき壁が秒を追う毎に高くなるのは流石に堪えるぞ」
「グシフォス――――ッ!!!! そ、そいつは本気でやべぇ!! 絶対に気を抜くんじゃねぇぞ!!!!」
「ヤバイと思ったら棄権しろ!! 下らねぇ釣りの為に死ぬな!!!!」
「下らない?? 俺の人生観を否定するのは例え友であっても許さんぞ」
ダンが放った言葉に聞き捨てならない単語が含まれていたので随分と離れた位置で恐れ慄く表情を浮かべている奴にそう言ってやった。
「「馬鹿野郎――――ッ!!!! 前を見ろぉぉおおおお――――ッ!!!!」」
馬鹿その一と二が血相を変えてストロードに向かって指を差したその時。
「ガァァアアアアアア――――ッ!!!!」
奴の体から滲み出ていた魔力が全て体内に収束され、真っ赤に燃え上がった炎の力が双拳に宿った。
己の願いを叶えたければ、正当なる血脈を越えてみたければ、全力を以て掛かって来い。
しかし、俺は生半可な力では決して屈せぬぞ。
この魂を滅却させたければ渾身を越える最強最高の一撃を解き放て!!
「我が拳よ、全てを燃やし尽くせ。そして龍の逆鱗に触れた事を後悔して絶望の淵に立て……」
来るぞ……。此処から先は瞬き一つの僅かな間さえも死に繋がる。
油断、驕り、漫然。
戦いに不必要な感情は捨て去り髪の先にまで全神経を集中させろ。
「ふぅっ……。ふぅぅ――……」
ストロードの攻撃に対して腰を微かに落として構えると遂にその時がやって来た。
「炎龍裂衝波ッ!!!!」
俺に向かって突き出された巨大な右の拳から強烈な閃光が迸るとほぼ同時に、大人の体よりも遥かに大きな火球が襲い来る。
灼熱の火球が放つ熱量は空気を容易く焦がし、ある程度距離が離れているのにも関わらず網膜を悪戯に傷付ける。
直撃すれば肉体の大部分が消失してしまうと判断出来る火球は有無を言わさずに俺の体を穿とうとして無慈悲な速度で進み続けていた。
威力は申し分無いが少々速さが足りなかった様だな!!
「ふんっ!!」
火球が俺の体を穿つよりも先に右後方へと回避。
「「うわぁっ!?!?」」
眼前を通過して行った火球が闘技場の壁に直撃すると鼓膜をつんざく爆音が生じ、施設処か大地が大きく揺れ動き着弾地点の直ぐ上部で観戦を続けていた観客達から悲鳴にも似た声が放たれた。
力任せに放った攻撃は確かに恐るべき威力を備えている。
だが、大技の後には必ず隙が生じる。悪いがこのまま決着を付けさせて貰うぞ!!!!
「勝機到来!! このまま貴様を倒……。ッ!?」
回避行動と敵性対象を屠る為の正確無比な突貫。
一切の繋ぎ目の無い行動で奴に向かって突撃しようとしたのだが、驚愕の事実を捉えると足が前に出る事を諦めてしまった。
「貴様に易々と勝機を渡すと思うてか!!!!」
ストロードの深紅に染まった瞳が俺を捉えると今度は左の拳を此方に向かって勢い良く振り抜く。
呆れた熱量を放つ炎の力が左の拳に宿ると再びあの火球が此方に向かって放たれてしまった。
この馬鹿げた火球は連続で放てるのか!?
たった一発放つだけでも相当量の魔力を消費するのは明らかなのに!!
「ちぃっ!!!!」
此方から見て再び右側に向かって飛び退くと眼前にまで迫って来た火球が再び闘技場内の壁に着弾し、天に轟く轟音を上げて爆ぜて観客達に飛び火した。
「ぎゃぁっ!? あっつ!!!!」
「おい大丈夫か!?」
「こ、こっちは大丈夫だ!! それよりも前の観客席に居る連中が炎の余波を受けちまったぞ!!」
アイツめ……。俺を倒そうとするがあまり周りの事を一切合切考慮しない攻撃に転じたな。
「ハハハハ!!!! 逃げ惑え!! 苦しめ!! そして断末魔の声を上げろ!! 貴様の苦悶の声が俺の闘志を更に高めるのだ!!!!」
右の拳を鋭く突き出して三度目の火球を召喚。
それでも俺の体を捉えるが出来ないと確知すると今度は左の拳を愚直に突き出す。
馬鹿げた攻撃の連続は不発に終わるがそれでも奴は攻撃の手を止めない。寧ろ、此方が回避する度に威力を増して攻撃を加えて来る。
「ギャアアアア!! あっちぃ!!!! お、お尻に火がぁ!!」
「ダン!! 消してやるから俺様に尻を向けろ!!」
「は、早く消してくれ!! 肛門が真っ黒に焦げちまうって!!」
「テメェの尻の穴は元々真っ黒だから気にするんじゃねぇ!!!!」
「そんなに使ってねぇから真っ黒じゃねぇよ!!!!」
タガが外れた獣が放つ火球の余波を受け取った東龍の馬鹿共から悲壮な声が上がり。
「ストロード様!! もう少し威力を抑えて下さい!! このままでは闘技場全体が崩壊してしまいます!!」
「よう大将!!!! 観客達に飛び火してエライ事になっているぜ!?」
南龍の戦士達からは自重を求める声が放たれ。
「うわぁぁああああ――――ッ!!!!」
「お、おい!! 誰か水を掛けてくれ!!!!」
「このままじゃ俺達全員焼き殺されてしまうぞ!? 一旦離れようぜ!!!!」
観客達からは思わず心が痛くなってしまう大きな悲鳴が方々から上がっていた。
血に飢えた南龍の戦士が自重を求めるのも無理は無い。
これは戦いでは無く、相手を殺す為にだけ行われる純度の高い殺戮なのだから。
「死ねぇぇええええ――――ッ!!!!」
自我が残っているのかどうか怪しいストロードが俺に向かって右の拳を振り抜くと大地を震わす威力を持った火球が恐るべき速度で向って来た。
このままあの獣に攻撃を続けさせれば此処に居る全員が火球の余波を受けて消滅してしまう恐れがある。
被害を食い止める為にこれを回避して一か八か突っ込むか??
死屍累々の中で右手を天に向けて勝利を声高らかに宣言しても心に吹くのは虚しい風のみ。
友や仲間と肩を組み、頼りない俺に信を寄せてくれた民の期待に応える為にも俺はこの獣を倒さなければならない。
その使命を果たす為……。ここで決着を付けてやる!!!!
「貴様を倒す!! 俺の攻撃を受け止めて……」
体の内に眠る強大な力を呼覚ます為に極限にまで集中力を高めたその時。
「グシフォス様ッ!!!!!!」
「っ!?」
背後から聞こえた声が一秒にも満たない時間の中で俺に新たなる選択肢を齎してしまった。
「く、くっそぉぉおおおおおお――――ッ!!!!」
体の前で両腕を交差させ、全ての物理攻撃を遮断させる大防御の姿勢を取って火球の直撃を受け止めてしまった。
「ぐぁぁああああ―――――――ッ!?!?」
火球が両腕に直撃すると目も開けていられない閃光が迸り、眼前で生じた衝撃によって体が後方へと弾かれてしまう。
「グゥッ!!!!」
体感的に数十秒を越える飛翔を終えると背に呆れた痛みが生じ、それと同時に五臓六腑が悲鳴を上げた。
「ゴ、ゴフッ!!!!」
火球の直撃を受け止めた体は闘技場の上部の観客席にまで吹き飛ばされ、衝撃の反動で倒れたまま悔しさを誤魔化す様に地面に広がる矮小な砂を掴みせき込む。
な、何て威力だ……。たかが一発の火球を食らっただけでよもや此処までの深手を負ってしまうとは。
巨龍の血は侮れない。
体全身に感じる痛みが遠い昔の記憶を呼び覚まし、父に教わった言葉が脳裏を過っていった。
「グシフォス様!!!! 大丈夫ですか!?」
俺の容体を確認しようとしてシュランジェが駆け寄って来るが。
「その者に手を触れた時点で負けとみなす」
「ッ!!」
審判役の男性の酷く冷静な声が彼女の手を止めてしまった。
「ど、どうして避けなかったのですか!? グシフォス様の身の熟しなら余裕を持って避けられた筈なのに!!」
「う、五月蠅い。少し黙っていろ……」
「一――ッ!! 二――――ッ!!!!」
非情の計上が開始された中、震える足を必死に御して立ち上がり悠然と此方を見上げている化け物を見下ろしてやった。
「……。ふっ」
ちぃっ、もう勝利を確信した様な顔を浮かべて……。
「このままでは殺されてしまいます!! 棄権して下さい!!!!」
「喧しいぞ。お前は黙ってそこで見ていればいいのだ」
観客席の階段を一歩ずつ確実に下りて行き憎たらしい表情を浮かべているストロードの方へと向かって行く。
たかが階段を下る行為がこうも疲れるとは思わなかったぞ……。
「で、ですが!!!!」
「シュランジェ、グシフォス様が仰いましたよね?? そこで黙って見ていろと。我々は彼の力を信じて待てばいいのです」
「ベッシム!! 貴方は彼が居なくなっても構わないと言うのですか!?」
「思いませんね。我々、北龍の出身の者を守る義理も無いのに彼は身を挺して火球を受け止めた。仲間の、友の、そして家族の為に己の身を捧げる勇気ある行為は早々出来ません。そう……。彼こそが覇王の名に相応しい資格を持つのですよ」
「七――ッ!! 八――――ッ!!!!」
「さぁ早く下りて来い!! 此処が貴様の死に場所なのだから!!!!」
「――――。その言葉そっくりそのまま返してやるぞ」
「「「「ワァァアアアアアア――――――ッ!!!!」」」」
残り微かになった体力を僅かに燃焼させて戦闘場に下りたってやると観客達から歓声が放たれた。
「グシフォス!! 此処まで来たんだから絶対に勝ちやがれ!!!!」
「俺様はテメェが勝つ事を信じているからな!!」
観客といい、仲間達といい……。貴様等はあの化け物をあてがわれた俺の気持ちを深く理解しているのか?? 騒ぐのは勝手だがもう少し慎んで騒げ。観客達の歓声と相まって貴様達の声が傷口に障るのだ。
しかし、その声が枯れかけた体の励みになったのは確かだ。
俺が立派な魚を釣り上げたのなら奴等に見舞ってやろう。
「よぉぉおおし!! まだまだやる気は削がれていないな!! その調子で化け物退治と洒落込みやがれ!!」
「そうだそうだ!! あ、ダン。まだ火が燻ぶってんぞ??」
「ヤダ!? 早く消して!! お尻の穴が真っ黒になっちゃう!!!!」
前言撤回だ。あの馬鹿共には魚の鱗一つたりとも渡してやらん。
「さぁ……。掛かって来い、真の龍の血を受け継ぐ者よ。俺は此処に居るぞ」
「あぁ、言われずともそうするつもりだ」
体の節々に残る激痛、疲労感から湧き起こる微かな敗北感が心を蝕む。
この得も言われぬ感覚は何の対策も講じずに戦い続ければ敗北の二文字が待ち構えている事を予感しているのだろう。
いや、予感では無く的確な判断が齎せているものだ。
俺は誰にも邪魔されぬ様に釣りがしたいだけなのによもや此処までの犠牲を払うとは思わなかったぞ。
己の我を通すと言うのは本当に骨が折れる。
目の前に聳え立つ天まで届く巨大な壁を目の当たりにすると改めて痛感したのだった。
お疲れ様でした。
先ずは読者様達に礼を述べさせて頂きます。
暫くの間、連載を休止していたのにも関わらずこの作品を気に掛けて頂き誠に有難う御座いました。
これからも皆様のご期待に添えられる様に執筆を続けて行きたいと考えています。
さて、活動報告にも記載させて頂きましたが漸く地獄の様な忙しさが終わってホっとしている次第であります。
時間的にも余裕が出来ましたので本日から連載を再開させて頂きますね。
沢山のいいねをして頂き有難う御座いました!!
覇王継承戦の終局に向かっての嬉しい執筆活動の励みになりましたよ!!
それでは皆様、お休みなさいませ。




