第百九十四話 覇王継承戦 決勝戦 第四試合 その四
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「おぉ――。歩く様も芯がブレていないし、本当に応えていないみたいだな」
「当り前だ。俺に勝ちたければ……、今の百倍強い攻撃を加える事だな!!!!!」
己の足に喝を入れてベンクマンの懐に潜り込むと低い姿勢から天へと向かって刀の切っ先を振り上げてやる。
「うぉっ!?」
今の一撃はどうやら月下美人の心を上手く読み取った様だな。
空気を切り裂く鋭い音が他の斬撃よりも一線を画していた。
「っとと……。厄介極まり無い刀だな。凡打かと思えばこっちの剣が両断されてしまうかも知れない乾坤一擲になりやがる」
それは至極同感しよう。
この妖刀を使い熟せば天下無双の剣豪となり得るのだがそれは女心を完全に読み取るのと同義。
つまり、現時点での俺の実力では完璧に使いこなせていない。
剣や体を鍛えるのは三度の飯よりも好物だが、女心を理解しろというのは何よりも苦手な部類だから。
「貴様を倒して俺は今より一つ強くなる!! さぁ、行くぞ。受けてみろ我が刃を!!!!」
此方から少し離れて防御態勢を取っているベンクマンに向かって鋭い視線を向けた。
「第七の刃……。雷轟疾風閃!!!!」
雷の力を刀に、身に纏い先程のお返しと言わんばかりに奴に向かって突貫を開始。
「は、はやっ!! だけどこっちも負けていられねぇなぁ!!!!」
驚愕の視線を今も浮かべている強敵の体を両断する勢いで刀を振った。
「ズァァアアアアアア――――ッ!!!!」
「ハァァアアアア!!!!」
黒剣と妖刀が宙で熱い抱擁を交わすと闘技場内の施設を震わせる衝撃波が発生。
頭上に光り輝く太陽の光量を越える稲光が観客達の網膜を多大に刺激し、力と力の衝突から生じる轟音が五臓六腑を震わせ互いの魂と魂が共鳴し合うと天に住まう神々が感嘆の声を漏らす。
雷を纏った初太刀は完璧に塞がれてしまったが連撃はどうだ!!!!
「ふぅんっ!!」
下段から上段へ向かって刀を振り上げるとベンクマンの視線は完璧に俺と刀の軌道を捉えており。
「甘いぜぇ!?」
長剣を巧みに扱い上段の位置から苛烈に振り下ろして来た。
「まだまだぁ!!!!」
「カカカ!! 一呼吸も許されない呼吸は大歓迎だぜ!!!!」
上段からの雷撃、下方からの打ち上げ、更に大地と平行に放つ斬撃。
己の魂を籠めた剣撃の数々を奴は全て確実に見切り刀身で受け止め、乾坤一擲となり得る至高の一撃は得物を破壊されない様に巧みな体捌きで回避してしまう。
激しい連続攻撃により両腕の筋力が悲鳴を上げ、肺が苦悶の声を上げるも俺は決して攻撃の手を止める事は無かった。
その最足る理由は相手の呼吸音を感じ取れる接近戦で動きを止めれば剣技で劣る俺が確実に敗北を喫するからだ。
此処で攻撃を停止させれば非情の敗北が否応なしにこの身に降りかかる。
情け容赦ない現実の理に急かされる様に攻撃の手を続けているとベンクマンが徐に口を開いた。
「よぉ、ハンナ。お前さんはも――少し考えて剣を振るべきだぜ??」
「何だと??」
黒剣ザイルダードと妖刀月下美人が鍔迫り合いの状態で激しく触れ合い、甲高くも何処か重低音に近い美しい音を放つ。
「剣は古来から使用されている武器だ。武人達の、人々の最も身近にあり最も手に取り易い武器でもある。ありふれた武器だがその用途は多彩。相手を切る事も出来れば突き刺す事も出来る。相手を殺す為に生み出された武器なんだけどさ、その武器には己の魂が宿ると教わらなかったか??」
「あぁ、その通りに教わった」
剣は単純明快な武器である以上、使用者の魂でその使用用途が決定される。
戦士長は常々こう仰っていた。
「咎人の魂が乗る剣は禍々しく漆黒の憎悪よりも暗く、血に塗れたその剣は罪無き人々の明るい道を閉ざす。対し、武人の魂が乗る剣は人々を導き立ち塞がる巨悪を明るい光で滅却する」
何度も地面に這いつくばり、血だらけの手の平で剣の柄を握り締めている俺に優しき瞳を浮かべてくれた。
武人の魂を持つ者の剣は何と強烈か、そして何と眩く輝くのだろうか。
幼少期の頃から彼の様な魂を持つ者に憧れ剣の道を進んで来たのだ。
「中々立派な指導者じゃないか。そう、剣には己の魂が宿る。しかし悪戯に振る剣は児戯が真面に映る程に見るに堪えない」
「俺の剣が児戯にも劣ると言いたいのか!!!!」
奴の言葉が逆鱗に触れ、猛った想いを乗せた一撃を黒剣に向かって放ってやった。
「いつつ!! ったく……。もうちょっと手加減しろよなぁ」
強撃を受けたベンクマンが俺と距離を取り柄から右手を離して軽く振る。
「お前さんの刀には面妖な魂が宿っている。その魂の声を聴かずに我武者羅に打っていても意味が無い」
「そんな事は言われずとも理解している」
「いんや、お前さんは気付かぬ内に物事の本質から目を逸らしているのさ。その証拠に真面に刀が振れていないじゃねぇか」
「……」
見透かされた事に対して何も言わずに口を閉ざしたまま鋭い視線を向けてやる。
「まっ、お前さんの場合。言葉よりも剣で示した方が分かり易いかな??」
ベンクマンがそう言うと深く腰を落として突撃の姿勢を取る。
「相手を見誤るな、相手の本質を見抜け、そして……。己が持つ魂を乗せて剣技を放て」
奴が身に纏う圧が刻一刻と膨れ上がって行き刀の柄を握る手に微かな震えが生じ、それが体全身に伝播して行く。
何んと言う強烈な圧だ。只構えているだけなのに大気が震えているぞ……。
「お、おいおい。何か揺れていない??」
「気の所為だって。それよりもこんなすげぇ試合は中々見られねぇんだからちゃんと見ていろよ!!」
観客達の中にもこの異常事態を捉える者が現れ始めるとベンクマンの膨れ上がって行く闘気と魔力。そして明確な殺意が体内に収束し、そして二つの目が深紅に染まると……。
「死んだらわりっ。この先は一切手加減出来ねぇから!!!!」
黒剣ザイルダードに奴の全てが籠められ刀身が漆黒の夜空を彷彿とさせる黒色に変化して怪しく明滅。
下半身の力を解放すると目にも留まらぬ速度で俺に向かって襲い掛かって来た。
「くっ!!!!」
鍛え抜かれた目でも、感覚でも追えぬ速度で俺の間合いに踏み込んで来たベンクマンに対して僅かに出遅れてしまう。
「そらそらそらぁぁああああ!! 俺の剣技はちょいと暴力的だぜ!?!?」
頑是ない子供が振る草の茎よりも速く打たれる斬撃の数々はどれもすべからく重く、目の前一杯に広がる斬撃の雨は壁と見紛う程だ。
「う、うぉぉおおおお!!!!」
目で追えぬなら相手の視線や姿勢を追い、それでも斬撃が追えぬのなら気で追え。
体の芯にまで染み付いた所作で初撃を弾き、中段の位置から薙ぎ払われる一閃は往なし、続け様に上空から降って来る雷撃に対しては刀身で受け止める。
目まぐるしく変わる攻撃の位置に手を焼き肝が冷え続ける思いを抱いていると、一際強烈な斬撃が下方から襲い掛かって来た。
「くぅっ!?!?」
し、しまった!! 刀が弾かれて体勢が……。
「貰ったぁぁああああ――――ッ!!!!」
「ぐぁぁああああッ!?!?」
刀が後方に弾かれた隙を穿たれ、左胸上方から腹部に掛けて袈裟切りの軌道でザイルダードの斬撃を受けてしまった。
切り裂かれた衣服から大量の血が噴き出して薄汚れた戦闘場の石を深紅に染めて行く。
かなりの深手なのか、その勢いは留まる事なく衣服と戦闘場を侵食し続けていた。
直撃する刹那に微かに後方へ動いたのにも関わらずこの深手……。
全く……。とんでもない剣技だな。
「一――ッ!! 二――――ッ!!!!」
「はぁっ……。はぁっ……」
非情の計上が開始される中。
「刀の魂を聞く事に注力を割く事によって本来の動きが散漫になる。良く聞かねぇか?? 尻に敷かれるって。男はなぁ、時には生意気を言う女に対してビシっと強く言い聞かせなきゃいけない時もあるんだぜ??」
地面に片膝を着き、刀を支えにして何んとか踏み止まっているとベンクマンが黒剣の切っ先を此方に向けてそう話す。
その目は勝利を予感したのか、確固たる強烈な光が宿っていた。
「何よそれ!!」
「ひっどぉい!! 女性に対して言って良い事と悪い事があるんだよ!!!!」
「カカカ!! 悪い悪い!! 俺の持論だ、気にせんでくれ」
「ふ、ふぅぅ――……。どうやら貴様も一つ間違いを犯している様だな」
情けなく震える両足に喝を入れて立ち上がり、今にも気を失ってしまいそうになる意識に強烈な張り手を送って口を開く。
「俺が間違い??」
「あぁ、そうだ。俺に似た貴様には口よりもこの刀で教えてやった方が早いだろう」
くっ……。不味い。
立つという行為を継続させているだけで意識が飛びそうだ。それにこの出血量……。
戦いが長引けば長引く程、不利に働くぞ。
「その通り!! さぁさぁ!!!! その面妖な刀で俺の間違いを教えてくれよ!!!!」
ベンクマンが陽性な感情籠めた表情を浮かべると黒剣を中段の位置に構えた。
積み重なった疲労、僅かに劣る剣技、そして出血量。
幾つもの要因が長期戦は確実に負けると俺に物言わずとも語りかけて来る。
それなら短期決戦で奴を確実に倒すまで!!!!
「う、ウォォオオオオオオ――――っ!!!!
古代種の力を全開放すると傷の痛みが嘘の様に消え失せ、その代わりに燃え滾る闘志が全身に宿った。
しかしそれでもこの状態を維持出来るのは数分が限界だ。
この限られた時間の中で俺は貴様を越えてみせる!!!!
「ほっほぉ!! やっぱりまだまだ上があったか!! これだから戦いは止められねぇなぁ!!」
俺の闘気を捉えた奴が陽性な感情を乗せた声を放つ。
「掛かって来いベンクマン!! 貴様の剣と俺の刀。どちらが上か決着を付けるぞ!!!!」
「おぉう!!!!」
俺が腰を微かに落としたのに対し、奴は此方に己の背を向ける程に体を捻りに捻った。
大きな背から滲み出る圧と闘気が空気を焦がして淡い蜃気楼を生む。
次の一撃で確実に決着を付けるという強烈な意思を持った常勝無敗の不動の構え。
その構えを捉えると月下美人が強烈に震え出した。
そうか、お前も奴の強さに当てられて喜んでいるのだな??
その気持は大いに理解出来るぞ。
「……」
無駄に力んでいた力を抜き、左腰に収めてある白き鞘へ刀を納刀した。
「お、おいおい!! 刀を仕舞ったぞ!?」
「戦いの場で何を考えているんだ!? アイツは!!!!」
俺の所作を捉えた観客達からどよめきの声が広がる。
何故、刀を鞘に収めたのか。
その理由は当事者である俺にも理解出来ないが何故か……。こうするのが正解だと心と体が判断した結果なのだ。
「ふぅ――……」
両足を肩幅に開き、右手を刀の柄に置き、そして鋭い瞳を以て今も不動の姿勢のままで闘気を高め続けている敵を捉えた。
ベンクマン、貴様は本当に強い。
生まれ故郷を出てから戦って来た中でも一、二を争う強さだ。
武の世界の強さは青天井であると理解していたが、現実に俺の強さを越える力を捉えるとそれが真実なのであると思い知らされる。
ここで刀を置いて逃げ出せばどれだけ楽だろうか。痛みと疲労から逃れる為に降参の言葉を出せば死ぬ事は無い。
頭に湧くのは情けない言葉の数々だがそれを闘志で上書きして激烈な言葉に変換してやる。
今日此処でアイツを倒せば更なる高みに昇れる。奴の剣技を越えれば途轍もない高揚感と多幸感がこの身を包み込むであろう。
そう、俺は己の強さを越える為。自分よりも強い敵を求めて里を出たのだ。
敵の強さに気後れする等、言語道断だ!!!!
月下美人に宿りし魂よ、貴様もそう考えているのだろう!?
「さぁ、これで最後だ。唸れザイルダード……」
「「「「……」」」」
ベンクマンが苛烈に膨れ上がっていた闘気を全て体内に収めると歓声に湧いていた闘技場内が嘘の様にシンっと静まり返る。
まるで地面に落ちた針の音を掬えそうな強烈な静謐に心がざわつく。
来る……。最終最後の攻防がこれから始まるのだな。
来る時に備えるべく、体全身に漲る力を両腕に籠めた刹那。
「千龍終即ッ!!!!」
ベンクマンの体が光の筋となって俺に襲い掛かって来た!!
己の体と剣を一つに合一させ、苛烈な速度を身に纏って移動する様は純度の高い武の結晶だ。
この世に存在する宝石よりも眩い輝きを放つ結晶体に俺は素直に尊敬の念を抱いてしまった。
その境地に立つ為にどれだけの修練を重ねたのか、どれだけの血の量を流したのか。
「……」
膨大な時間と研鑽が生み出した最高最速の技に対して俺は静かに刀の柄を握る手に力を籠めた。
貴様は刀の声を聞かずに我武者羅に刀を振っていると言った。刀の魂を聞く事に注力を注いで本来の動きが散漫になっているとも言った。
それは間違いでは無い。
薄汚れた戦闘場の上に広がる大量の血溜まりが良い証拠だ。
そして貴様は刀の声を抑え付けて己の魂を奮い立たせろとも言った。
それは間違いだ。
月下美人の震えは奴の強さに恋焦がれて生まれたものであり、俺の魂もベンクマンの強さに強く惹かれている。
刀とこの身。
互いに見つめる同じ方向と奴の強さに惹かれているのは自明の理であった。
月下美人の声を聞こうとしているが為に注意散漫になるのでは無く、共に同じ方向を向き、共に辛い経験を味わい、共に辛酸を嘗め、共に武の世界の高みへと昇る。
これこそが月下美人に宿る魂が持つ答えなのではなかろうか??
少なくとも長年連れ添った女性の考えを強引に伏させようとするのは愚劣な答えなのだから。
「行くぞ、月下美人」
今こそ『共に』 !!!! 立ち塞がる強大な敵を切り伏せてやろう!!!!
「ハァァアアアアアアアア――――――ッ!!!!」
確実な死を連想させる恐ろしき速さを纏った黒剣ザイルダードの剣先に向かって鋭い視線を向け……。
俺は両腕に万力と願い、そして想いを籠めて抜刀した。
「第一の太刀……。霞ノ調。双想の理」
右手に持つ月下美人の震えが最高潮に達し、只刀の柄を握っているだけでもその震えが体全体に伝わる。
刀の魂を感じ、共鳴し、純度の高い強さに焦がれた思いのまま右腕の筋力が引き千切れてしまう勢いで鞘から月下美人を抜刀。
空気や物質等の目に映る存在では無く。
空間そのものを断つ太刀筋が放たれると強烈な斬撃音が鳴り響き右手に確かな手応えを掴み取った。
「……っ」
摩擦熱を帯びた刀身から放たれる白む湯気が空気に漂い微風に乗って消え行くと観客達から鼓膜をつんざく大歓声が放たれた。
「すっっげぇぇええええ――――ッ!!!! か、刀の刀身が消えた様に見えたぞ!?」
「何だよあの抜刀!! 抜く瞬間が分からなかったぜ!!!!」
「それによく見てみろよ……。振り抜く速度が余りにも速過ぎて刀身が摩擦熱によって湯気が出てるし……」
その歓声の大半は今し方俺が放った初めての技に対しての歓声なのだが中には陽性とは真逆の声が放たれていた。
「うっわ!! ベンクマンの剣が相手の脇腹を突き刺しているじゃん!!」
「キャアアアアアア――――ッ!!!! わ、私のハンナさんがぁ!!」
「相棒!!!! 大丈夫なのか!?」
背中からもう聞き過ぎて若干聞き飽きた声が俺の鼓膜に届く。
「あぁ、問題無い」
「馬鹿野郎!!!! 剣で脇腹を突き抜かれて無事な訳があるか!! 早く引き抜いて反撃を……。って!! へっ!?」
「カカカ!!!! や、やるなぁ。ハンナ」
ベンクマンが黒剣ザイルダードの『柄』 のみを持って俺から一歩下がった。
「俺を敢えて間合いに呼び込み、とんでもねぇ速さで抜刀して愛剣の根元を叩き切った。理屈は分かるけどよぉ。手元が少しでも狂えば今頃お前さんはあの世だぜ??」
「その自信があったから貴様を呼び込んだのだ。俺とこの刀の魂は何者にも負けはしない。ベンクマン、貴様は生意気を言う女性を言い伏せるべきだと抜かしたな??」
「あぁ、言ったぜ??」
「それが間違いだ。男と対になる女性の考えは俺達男には一生かかっても理解出来ぬ。しかし理解しようと努力する事は出来る。そこに生まれるのが恋であり、愛である。相互理解出来ぬ者同士が手を取り合い、同じ方向を向いて進んで行く。その道は何人にも侵されざる聖域だ」
傷口から染み出て来る血を左手で抑えてすっかり大人しくなった月下美人を白き鞘に納刀。
そして激痛を我慢して黒剣ザイルダードの剣身を己の体から引き抜いて渡してやると大量の血が一斉に吹き出した。
「お、おいおい。引き抜いてもいいのかよ」
愛剣の剣身を受け取った奴が傷口を見て大きく目を見開く。
「剣に己の魂を乗せて相手を屠るのは当然の行為だ。だが、剣の声を聴き愛しむ事もまた剣の道の一つ。己の一人の力では無く、剣と共に辛苦を乗り越えて長き道の終着点に向かって突き進んで行く。これこそが真の剣の道なのだ」
己の力を過信する独りよがりの屑に待ち構えているのは死、剣にその身を捧げて剣と共に剣の道を進んで行く強き者の前には輝かしい結果が待ち構えている。
貴様も剣の道に足を乗せて剣を愛する者の一人。
これを今一度その身に叩き込んで研鑽に励むが良い。
「成程ねぇ。ほぼ童貞?? で女性の免疫が皆無のハンナに女性の云々を説かれる筋合いはねぇけど剣については納得出来たわ。たった一人の剣よりも二人の剣、ね。すぅ――……。俺の負けだ」
ベンクマンが大きく息を吸い込み青が眩しい空を見上げると。
「覇王決勝戦、副将戦は東龍の勝利!!!!」
「「「「「ワァァアアアアアアアアアア――――――――ッ!!!!!!」」」」」
美しき青が犇めく空が割れんばかりの大歓声が闘技場内に轟いた。
その声が契機になったのかそれとも俺の体が当の限界を超えていたのか知らんが、勝利の美酒に酔いしれる前に俺の意識は強風に押し流される霞の如く消失してしまった。
「ハンナぁぁああああ!! 大丈夫か!? しっかりしろ!?」
「レイミーちゃん!! こっちに来て!!!!」
「あ、はい!! うわぁ……。酷い傷……。南龍側の治療係もこっちに来て手伝って下さい!!!!」
「はいっ!!!!」
「おっひょう!!!! 両手に華とは正にこの事じゃねぇか!! お邪魔しま――っす」
「あぁ!! フウタてめぇ!! 抜け駆けは駄目って言ってんだろうが!!」
「キャハハ!! ちょ、ちょっとぉ!! フウタさん!! 洒落にならないので服の中に潜るのは後にして下さぁぁああい!!!!」
意識が完全に消失する前に聞こえて来た馬鹿声が俺の憤怒に微かな火を灯す。
俺の意識が現実の下に帰って来たのなら己の鼓膜の存在を呪ってしまう程の強烈で激烈な説教を与えてやるから覚悟しておけ……。
意識が失われ、生そのものが失われつつある中でも友に対して説教する己の姿を想像すると少しだけ陽性な感情が湧いてしまう。
これは恐らく、奴等の馬鹿が俺に移ってしまった所為なのだろうと自覚しつつ今直ぐにでもこの体を侵食する馬鹿を取り除くべきだ。
そう判断した俺は馬鹿共の陽性な声と女性の矯正が入り乱れる中で完全完璧に意識を失ったのだった。
◇
「お、俺凄い試合を見ちゃった!!!!」
「あぁ!! この試合は一生忘れられねぇぜ!!!!」
俺とハンナの攻防によって闘技場内は興奮の坩堝と化し、その音量は天界に住まう戦神の顔が歪む程に苛烈なものであった。
そんな中。
「ふぅ――……。負けちまったか」
静かに己の敗北を噛み締めると二つに分かれた愛剣を大事に持って戦闘場を静かに下りた。
「よぉ、ベンクマン。脇腹じゃなくて体のド真ん中に打ち込めば良かったんじゃねぇの??」
壁際で体を休めているカイベルトが軽快な声で問うて来る。
「貴様には見えなかったのだろうが……。奴の体に向かって技を打とうとした刹那、物凄くおっかねぇ顔の女性が俺の前に立ち塞がった様に見えたんだ」
あれは、そう。
親の仇を見付けた様な鋭い眼光で睨み付け、両手一杯に広げて奴を守っている様にも見えた。
カイベルトが言った通り心臓を突き刺す事も出来たのだろうがもしもその通りに突き出していたら恐らく……。
俺の上半身と下半身は永遠の別れを告げていた事だろうさ。
柄と剣身に別れたザイルダードの姿が己の姿にふと重なった。
「へぇ、どの時代でも女性は恐ろしい生き物って言われているし?? 強ちその幻は真実なのかもな」
「カイベルト。それって私にも当て嵌まるよね??」
ディアドラが先の幻の女性と遜色ない瞳の色で闘技場の壁に背を預けて休んでいるカイベルトを睨む。
「さぁ?? どうだろう?? よぉ大将!! いよいよ出番だな!!!!」
「あぁ、まさか俺まで回って来るとは思わなかったぞ」
ストロードが深々と溜息を吐いて東龍側の大将、グシフォスを睨む。
まだまだ若いのに大役を務めなければならないのは少々酷だとは思うが、それは時代が悪かった所為だと思う事さ。
「巨龍一族の力でどこまで正統な血統に抗えるか。是非ともその答えを見せてもらうぜ」
ストロードの左肩をポンっと叩くとカイベルトの隣に腰掛けた。
東龍の戦士の総大将は九祖の龍の受け継ぐグシフォス。
実力は折り紙付きだが、その若さが戦いにどう影響するのか……。それに対してストロードは相手が誰だろうと全力を出す。
相手を叩き伏せるまで暴力的な嵐は止む事は無い。
「信じられるか?? あの釣り馬鹿グシフォス坊やが今や俺達巨龍一族を代表する者と対峙しているぜ??」
「時代は進むものさ。いつか俺達の子がこの舞台に立っている様にな」
「そんなものかねぇ。まっ!! 泣いても笑ってもこれが最後の戦いだ!! 俺はアイツ等の一挙手一投足を見逃さねぇぜ!!!!」
普段なら打ち込みを終えたのなら天然自然の風を子守唄代わりにして昼寝につくのだが、今日だけは起きていよう。
これから始まるであろう激戦を見逃したら一生後悔しそうだし、それと何より覇王の座を賭けて己の魂と魂をぶつけ合う戦いを見届けるのが戦士に与えられた責務なのだから。
お疲れ様でした。
何とか今日一日でこの戦いを書き終える事が出来て安堵しております。
先日の後書きでも記載した通り、今週から目が回る様な忙しさが襲い掛かって来ますよ……。少ない時間を見つけて執筆を続けますがかなり遅めの投稿となってしまいますので予めご了承下さいませ。
さて、秋も深まり暑さも大分和らいで来た季節ですが読者様はどの様にお過ごしですか??
読書の秋、食欲の秋、運動の秋等々。思い思いの時間を過ごしていると思われます。
私の場合は……、まぁ食欲の秋ですかね。疲れが少しでも和らぐ様に甘いものを食べたり、舌が甘さに参ったら辛い物を食べに出掛けたりと文字通りの過ごし方をしております。
その食欲に素直に従い、今年の旅行は大阪を予定していますよ。
たこ焼き、お好み焼き、焼きそば。大阪特有の粉文化を名一杯堪能するつもりです!! 何処か美味しいお店が無いか、ふらふらと散策しながら探したいと思います。
沢山のいいねをして頂き有難う御座います!!
投稿が遅れている中でも読者様達の温かい応援を送って頂き、本当に感謝しかありません……。
これからもご期待に応えられる様に誠心誠意この作品に向かい合って行きたいと考えております!!!!
それでは皆様、お休みなさいませ。




