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今日も今日とて、隣のコイツが腹を空かせて。皆を困らせています!!   作者: 土竜交趾
過去編 ~素敵な世界に一時の終止符を~
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第百九十四話 覇王継承戦 決勝戦 第四試合 その三

お疲れ様です。


本日の前半部分の投稿になります。




 燃え上がる闘志によって熱せられ続けている体内の温度が時間の経過と共に苛烈に上昇して行く。


 顔の熱さはまるでそこから炎が出ているのでは無いかと有り得ない妄想を抱く程に熱く、上半身及び下半身の筋肉も体内から押し寄せる熱波によって辟易した様相を浮かべる。


 口から出て来る吐息もこの例に倣い熱を帯び、体内の異常事態を捉えた肺は緊急に冷却をする必要があると考え闘技場内の空気を取り入れ懸命に循環の役割を果たしていた。


 しかし、闘技場内に漂う空気は二人の傑物が放つ闘気と観客達が無自覚に放つ熱気によって熱せられており煮沸寸前にまで温まった俺の体温を下げる事は叶わなかった。



「はぁっ……。はぁっ……」



 少しでも体温を下げようとして体全体から瀑布と同程度の量の汗が吹き出し、それが手に伝わると刀の柄に深く染み込んで行く。


 その汗を受け止めた月下美人はまだまだ私の乾いた魂は潤っていないと言わんばかりに矮小な震えを継続。


 目の前の敵に向かって思いの丈を、闘気をぶつけろと震えを通して俺に叫んでいた。



「ふぅ――……。いてて、ったく。もう少しお上品な太刀筋で向って来いよなぁ」


 ベンクマンが黒剣ザイルダードの柄から左手を離し、痺れを取る為に微かに上下に振る。


「それは出来ぬ注文だ。俺は敵を両断する為の剣しか習っていない」


 戦士長達から教わったのは敵を屠り、己の魂を鼓舞する武の塊だ。


 弟子達に剣筋とは、剣の道とは何か。


 それを示す為の演武や手本の類は一切合切習っていない。


「お前さんの師がどういった剣技を教えたのかはこれまでの戯れで理解出来たさ。も――ちょっとお淑やかな剣筋も習っておけば良かったんじゃない?? ほら、いつかお前さんに弟子が出来た時の為に」


「それは不要だ。俺はこの道を極めるまで弟子を取るつもりは無い」


「はは、それは気の遠くなる話だよなぁ」



 そう、ベンクマンの言った通り剣の道の頂は終わりが見えない遥か先まで続いている。


 もしかしたらその頂きはこの世に存在せぬやも知れぬ。しかし、俺は愛する者を守る為にこの剣を極めるまで決して離さぬと誓ったのだ。


 半端な想いで弟子を持つ気にはなれぬ。



「さてと!! 引き続き……。素晴らしい応酬を続けましょうかねぇ!!」


 来るぞ!! 集中力を切らすなよ!?


 ベンクマンが瞬き一つの合間に俺との距離を縮めると地上から強力な圧が苛烈な勢いで上昇して来る。


「望む所だ!! はぁっ!!!!」


 それを半歩下がって振り上げられた剣の隙を縫い、奴の脳天に向かって鋭角な角度で月下美人の切っ先を振り下ろすが。


「カカカ!! 打ち込みの速度は良し!! だけどちょぉっとだけ力が足りねぇな!!!!」


「くっ!?」


 俺の攻撃を予測していたのか、黒剣が素早く奴の頭上に戻り月下美人の斬撃を容易く受け止めてしまった。



 此方の刀身が風を切る音は太い棒を悪戯に振った時の様に図太い音が鳴り響き、手の平から跳ね返って来る衝撃の強さはまるで切れ味の悪い剣で強固な岩を叩いた様な痛みを覚えるものであった。


 どうやら月下美人の機嫌を損ねてしまった様だな。


 今の角度は不正解であると聴覚と触角から確知してしまった。



「噂に聞いていた通り、その刀は随分と気分屋みたいだな」


 四本の腕と二つの武器で激しい鍔迫り合いの姿勢を維持しながらベンクマンが微かに口角を上げる。


「気分屋処の話では無い。移ろう女心よりも扱いが難しい刀だ」


「へぇ!! そりゃあ……、戦いに向いていない証拠だぜ!?」


「むっ!?」



 奴が鍔迫り合いの状態で俺の胴に向かって足撃を放って距離を取ると地面と平行になる軌道で斬撃を見舞う。


 空気を撫で斬る音は肝が冷える程に甲高く、上空の光を怪しく照らす刃面を視覚が捉えると脳裏に死の一文字がチラつく。



「見えているぞ!!」


 俺の体を両断しようとする黒剣の軌道上に刀を置いて防ぎ、その流れでベンクマンの胴体に向かって鋭く切っ先を突き出してやった。


「それはこっちの台詞だ!!」


 彼もまた俺の斬撃を見切り、月下美人の刀身を最硬度を誇る黒剣で弾いてしまった。



 一つ打てば一つ返し、三つ切れば三つ斬る。


 副将戦が始まってから俺達は文字通り一進一退の攻防を続けていた。



「お、おいおい。アイツ、ベンクマン相手に堂々とやり合っているじゃねぇかよ」


「さっきから斬撃を目で追っているけど全然追えないぜ……」


「すげぇ試合だよなぁ!!!!」


「あぁ!! これを見られない奴は本当に可哀想だ!!!!」


「「「「ワァァアアアア――――ッ!!!!」」」」



 奴から放たれる斬撃を防ぐと観客達からどよめきの声が広がり、稀鉱石と面妖な鉱石で作られた武器が火花を激しく散らすと青き天に向かって大歓声が昇って行く。


 傍目から見れば一進一退、食い下がる、拮抗状態に見えよう。


 しかし、死のやり取りを行う当事者としてはこれが精一杯の攻防なのだ。



 物心付いた時から鍛錬に励み、死に物狂いで会得した剣技は月下美人の前ではほぼ役に立たぬ。


 最適且最良な角度で敵に向かって打とうものならそれは間違いだと言わんばかりに凡百以下の攻撃力へと成り下がり、相手の剣を受け止めようとしようものなら立ち処に不機嫌になり刀身の重さが増す。


 これは……、俗にいう女の態度という奴だろう。


 数十秒前までは陽性な笑みを零していたのに少しだけ気に食わない男の所作を見つけるとその陽性な感情を霧散させて意味不明な負の感情を撒き散らすのだから。


 全く……!! これ程に使い辛い武器だとは思わなかったぞ!!!!



「ちぃっ!!」


 ベンクマンの斬撃の雨から一時避難する為に後方へと飛び退く。


「そっちは不味いんじゃねぇの!?」


 奴は俺の回避行動を読んでいたのだろう。



「唸れザイルダード……。龍牙一閃りゅうがいっせん!!!!」



 一度左の腰に剣を収めると体を軽く捻り、そして体と剣に強烈な嵐を纏った刺突を俺の体の正中線目掛けて解き放った。



「何ッ!? グォアッ!?!?」


 ベンクマンの体から強烈な光を捉えるとほぼ同時に強烈な衝撃が体を襲う。


 硬い石製の戦闘場の上を何度も跳ね、転がり、味わいたくも無い土と石の苦みが口の中全体に広がって行った。


「一――ッ!! 二――――ッ!!!!」


「うひゃぁ!! 良く飛んだなぁ!!!!」


「ふん、この程度の攻撃……。態々計上する必要も無いぞ」



 戦闘場の淵まで飛ばされ己の体に付着した土埃を払いつつ立ち上がる。


 口では強がりを言っているが今の一撃は偶然防げたと言ってもいいだろう。頭が判断するよりも先に体に染み付いた武が防御態勢を取っていたお陰で奴の刺突技を回避出来たのだ。



「俺の技を防いで尚且つ何事も無かった様に立つ。うむうむっ!! 体の芯まで剣を教えていなければ成せぬ行動だよなぁ!!」


「その言葉には肯定しよう。俺はこの世に生まれ落ちる時から剣を抱いていたのだからな」


 ベンクマンの声に言葉を返していると。



「嘘付けこの横着白頭鷲が――!!!! 調子に乗っているとまた今のふざけた速さの攻撃を食らうぞ!!!!」


「相棒!! 嘘を付くならもう少し真面な嘘を付きなさい!! お母さんは貴方を産んだ時に剣は持たせていませんでしたからねぇ――――!!!!」


「「「「ワハハハ!!!!」」」」


 大馬鹿者達の口から放たれた揶揄が観客達の笑いを勝ち取ってしまった。



 全く……。アイツ等と共に行動していると馬鹿が移るな。



「それ程に剣の道に携わっていると言いたかったのだ。貴様等は比喩も分からぬのか??」


 親の仇を見付けた時よりも更に凶悪な視線を二人の馬鹿に向けてやる。


「勿論分かっているさ!! 相棒、分かっているとは思うけどアイツの実力は超ヤベェぞ?? 本気マジでやらねぇとその体が細切れになっちまうからな!!!!」


「分かっている……」



 ダンの言葉を体の真芯で受け止めると戦闘場のほぼ中央で疲労の色が一切確認出来ぬ陽性な笑みを浮かべているベンクマンの下へと注意深く進んで行った。



お疲れ様でした。


これから後半部分を気合を入れて執筆します。


その為、後半部分はかなりの時間を置いての投稿になりますので今暫くお待ち下さいませ。

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