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今日も今日とて、隣のコイツが腹を空かせて。皆を困らせています!!   作者: 土竜交趾
過去編 ~素敵な世界に一時の終止符を~
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第百九十三話 覇王継承戦 決勝戦 第三試合 その三

お疲れ様です。


本日の投稿になります。




 戦闘場に漂う闘志の熱気が体内に籠る戦闘意欲を苛烈に上昇させ目の前に立ち塞がる強大な壁が只強くなるという向上心を多大に刺激させる。


 巨龍一族が持つ特異な力は他種を容易く凌駕する。


 それはこれまでの戦闘で明らかになった。


 圧倒的な力の差を前にして絶望に打ちひしがれて戦意を喪失させる者が大半だろうが某は死を、敗北を目の前にしても不思議な高揚感に包まれていた。



 この謎の高揚感は一体何処から生まれて来るのだろう??



 国の決まりに従い大馬鹿者と共に某が生まれ故郷を発ってからは……。あぁ、そうだ。先ずは悪魔的な力を持つ水車に会敵したな。


 あれは某達、鼠一族を壊滅させる為に開発されたと言っても過言では無かった。


 体力と気力が尽きかけるまで水車を回していると辛い訓練に身を置く大蜥蜴達と不可抗力とはいえ軽い戯れを行い、その結果牢獄に収監されてダン達と出会った。


 奴等と出会ったからは本当に素晴らしい経験をさせて貰っている。



 要救助者を救出する為に砂虫が蠢き強烈な嵐が渦巻く砂漠地帯を抜けて古代遺跡に突入。


 遺跡内に巣食う虫の大群を退け、最奥地に待ち構えていた巨大砂虫との激闘で得た経験値はかなりのものだ。


 更に砂漠の朱き槍、といったか。反政府組織の戦闘員との戦闘は中々のものであった。


 広大な海を渡り龍一族が住む大陸に到着すると力の森の中で得も言われぬ飛蝗達と幾度と無く刃を交わし、鉱石百足との激闘も某の血と肉となった。



 故郷で鎬を削って居ては決して経験出来ぬ戦闘経験が確実に某を高みへと昇らせていると自覚しているのだが……。


 心の隅では何かが足りないと感じていた。


 勿論、巨大砂虫との戦闘ではかなりの危機感を覚えていたが頼れる仲間達が側に居たお陰で死を予感する事はなかった。


 己の内に存在するもう一人の自分は恐らく強烈な『死』 を予感させる戦いを渇望しているのだろう。


 それを証明するかの如く。



「ククク……。堪らねぇぜ!!!! 俺がこれ程までに高揚したのはいつぶりだ!?」


 某の真正面で強烈な殺意を剥き出しにしているカイベルトを捉えると心に闘志が宿り、体全体に猛烈な闘気が宿るのだから。



 あぁ、そうか……。某が求めていた本当の戦いがこれから始まるのだな……。


 過去の、昨日の、今日の自分よりも更に強くなり某が人生の目標としている四強の高みへと昇る為……。



「貴様を……。此処で倒すッ!!!!」



 苛烈に上昇させていた魔力を体内に留め、某の全てを賭して倒すべき真なる敵に向かって強烈な決意を叫んでやった。



「ヤれるものならな!! そんなボロボロの状態で俺に勝とうなんざ烏滸がましいんだよ!!!!」


「良く聞け、大馬鹿者。某達忍ノ者は意識が、魂がこの世に残る限り任務を達成しようとするのだ。両腕が千切れれば残る二つの足で敵を屠り、四肢全てが消失しても口が動けば牙で敵の喉笛を噛み千切る。某の生そのもの、魂全てを滅却せぬ限り貴様は安心して此方に背を向ける事は叶わぬだろう!!」



 祖父はこの教えを某に説いてくれた。


 自分も忍ノ者として任務に当たっていた祖父は某に対して己の経験から強烈な使命感を胸に秘めて任務に臨めと教えたかったのだろう。


 その当時、某はそんな状態では真面に任務遂行が出来ないであろうと思っていた。


 そう……、思っていただ。



 体中にしがみ付く痛み、少しでも気を抜けば意識を失ってしまう疲弊感、そして任務を阻むほぼ無傷の強力な敵。



 絶望的な状況に陥るものの祖父の教えが某の魂を奮い立たせてくれていた。


 こうして実際にその局面に出会うと祖父の教えは正しかったのだと思い知らされたぞ。


 巨龍を打ち倒す。


 某に与えられた任務を達成する為にほぼ詰んでしまった盤面を覆す最強の一手を披露させて貰うぞ!!!!



「食らうがいい!! 螺旋炎昇!!!!」



 古代種の力を解放した状態で戦闘場の中央から一切動こうとしないカイベルトに向かって炎の柱を直接叩き込んでやった。



「グォオオオオオッ!?」


 炎の竜巻が戦闘場の中央で迸り周囲の空気を、堅牢な石を焦がしながら天高く昇って行く。


 炎の美しき橙の色と灼熱の熱波が某の戦闘意欲を更に温めてくれる。


 このまま……、貴様の骨まで焼却してやる!!!!


「温いぃぃいいいい!!!! テメェの炎なんざぬるま湯に浸かっている様なもんだぜ!!!!」



 ふん!! 釣り馬鹿から聞いていた通り、龍一族は炎の耐性をすべからく持っている様だな!!


 カイベルトが古代種の力を炸裂させて某が放った炎の柱を霧散してしまう。


 しかし、某が講じた策は貴様が考えているよりも高度で恐ろしいものなのだぞ!?!?



「死ねぇぇええええええ――――ッ!!!!」


 体全体に残炎を纏うカイベルトが某に向かって愚直に向かって来る。


 剥き出しの殺意と闘気が何んと心地良い事か。


「甘いぞ!!!! 貴様の動きは既に見切った!!!!」


 全力に近い威力を持った右の拳を両手で往なし、奴の左側面に身を置くと魔力を籠めた拳を脇腹に叩き込んでやった。


「何ィッ!? グォッ!?」



 通じた!!!!


 この戦いが始めってから漸く奴の口から苦悶の声を勝ち取る事が出来たぞ……。


 拳に残る肉を叩く心地良い感覚、右の上腕から肩口に抜けて行った衝撃、そして倒すべき敵が見せた痛覚。


 そのどれもが某の心を潤してくれる。


 さぁ……。もっと貴様の苦痛の声を聞かせてくれ!!!!



「ハァァアアアアアアッ!!!!」


「ググゥゥオオッ!?!?」


 両の拳に明確な殺意と魔力を籠めて目の前の聳え立つ壁に向かって愚直に叩き込んで行く。


 堅牢な壁の装甲が某の攻撃によって徐々に剥がれて行き、肉を叩き潰す感覚が双拳と心を喜ばせてくれる。


 カイベルト……、貴様は最高の敵だ!!


 どれだけ叩いても叩いても、決して崩れぬ肉の塊に感謝しつつ一切の甘えを捨てて殺意を剥き出しにした攻撃を継続させていると奴の目に強烈な抵抗の光が灯った。


「ちょ、調子に乗るなよ!? クソチビがぁぁああああ――――ッ!!!!」


 膨大な力を籠めた二つの手を上空で合わせて懐に潜って超接近戦を継続させている某の背に向かって叩き込もうとする。


「誰がチビだごらぁぁああああ――!!!! シューちゃん!! でっけぇ隙が出来たぞ!!!!」


 貴様に言われなくても分かっている!!!!


「はぁぁああああっ!!!!」


 上空から迫り来る暴力の塊に向かって左足を軸にして右足に炎の力を籠めた上段蹴りを放つ。


 大気を震わせる程の魔力を纏う両者から放たれた攻撃が宙で交差すると某の右足の甲に素晴らしい打撃の衝動が広がって行った。


「グェッ!?」



 確実に某を屠ろうとする強力な攻撃の突進力と此方の勇気を籠めた力が合算された威力は相当なものであったのか、カイベルトは左頬に直撃を食らうと口から朱の液体を吹き出して堪らず踏鞴を踏んだ。



 此処が正念場だぞ!!!!


 この好機を制すれば某に勝利が訪れる!!!!



「すぅ――……。フゥンッ!!!!」


 両手を体の前で合わせ魔力の源から大量の魔力を消費させて今も踏鞴を踏む奴の頭上に巨大な魔法陣を展開。


「大地に降り積もる白き化身……。凍てつく大地にその命を散らせ……」


 某が力を籠めて詠唱を始めると此方の魔力の鼓動に合わせる様に上空に展開した淡い水色の魔法陣が強烈な発光を伴う明滅を開始する。



 さぁ……。これで決着だ!!!!



「貴様の命を貰い受けるぞ!! 氷雨狂乱舞ひさめきょうらんぶ!!!!」



 闘技場内に存在する全ての者達の視覚を奪う強力な発光が魔法陣から迸ると巨大な氷柱が夏の大雨を彷彿とさせる勢いでカイベルトに降り注ぐ。


「グ、グォォオオオオオオ――――ッ!!!!」


 己に襲い掛かる氷柱の大群を炎の力を籠めた両の手で、両の足で叩き落とそうとするがそれを上回る量の氷柱が確実に巨龍の命を削って行く。


「グゥッ!?」


 拳の脇を通過した氷柱の鋭い先端が胸の上部の筋力を美味そうに食み。


「ガァッ!?!?」


 足撃で砕け散った氷柱の破片が奴の全身に深く突き刺さる。



 奴を中心として半径約十メートルは生物が存在する事を許されない極寒の空気が渦巻き、その寒さは空気を体内に取り込めば肺が凍り付く程だ。


 負傷した箇所から大量の出血を伴い、カイベルトは極寒の地に囚われながらも朱の液体を周囲に撒き散らしながら死に抗い続けていた。



 命の光を絶やすまいとして戦闘場のほぼ中央で朱き舞いを披露するカイベルトの目にはまだ生きた目が宿っている。


 徐々に絶望に追いやられても尚希望の光を絶やすのは敵ながら賞賛してやりたい。



 だが……。これでも貴様はその目に希望の光を絶やさずにいられるかな!?!?



「ハァアアアッ!! ふんっ!!!!」


 戦闘場の端に横たわっている幾つものクナイから雷の力を解放させてカイベルトの体に向かって放射。


「ギィッ!?!?」


 死に抗い続けている手負いの獣に雷の力が直撃すると刹那に動きが止まり、今も降り注ぐ氷柱が奴の体を戦闘場の中央に釘付けにした。



「これで……。某の勝利だ!!  真雷必滅陣しんらいひつめつじん!!!!」



 カイベルトの足元に黄金色の魔法陣が浮かび上がり地上から轟雷が天へと昇って行く。


 クナイから発せられる雷が眩い光を灯し、地面から立ち昇る轟雷が鼓膜を轟かせ、冷涼な空気が闘争心で燃え滾る体内の熱を冷ましてくれる。


 そして。



「ギギィィイイイイヤァァアアアアアア――――ッ!?!?!?」


 手負いの獣の口から苦悶の声が放たれると某の心を満たしてくれた。



 幾ら体が頑丈だとしても雷と冷気を真面に浴びればその生を存続させる事は叶わないであろう!!


 某は己に与えられた任務を達成するまでは決して攻撃の手を止めぬぞ!!!!



「ウグググ……」


 罠に嵌めた獣に向かって己の魔力が枯渇する寸前まで燃焼させてやる。


「ガッ!? うぅっ!? う、ぁぁ……」



 脇腹に刺さった氷柱から大量の血液が噴き出し、その傷口から雷の力が体内に侵入して奴の体を縦横無尽に駆け回って行くとカイベルトの魔力の源が縮退して行く。


 その光の明滅は夏の夜に見る蛍の明かりの様に儚く映り、このまま攻撃を継続させればあの光を絶やす事が出来るだろう。



「ふんっ……。勝負あったな」



 古代種の力の解放を収めると美しい光と音の演出を奏でていた魔法の力が霧散。


 それと同時にカイベルトが力無く地面に倒れ込み、その様を捉えると額から大量に零れ落ちる汗を静かに拭い勝利を確信して古代種の力を解除した。



「一――ッ!! 二――――ッ!!!!」



「すっげぇぇええ――!! お、おい!! 今の特大魔法を見たかよ!?」


「勿論さ!! 氷と雷の力の共演って感じだったよな!!!!」



 審判役の男性から計上が開始されると同時に観客席から歓声が沸き起こる。


 その音、声は闘技場内の大量の空気を揺らす程の音圧であった。



「はぁ……。はぁっ……」



 い、いかん。予想以上に体力と魔力を消費し過ぎてしまったぞ。


 ただ立っているだけなのにこれ程までの疲労感を覚えるとはな……。


 一体の強力な敵性対象を無力化するまでに此処まで疲弊してしまうのは某もまだまだ修行不足といった所であろう。



「シュレンちゃ――ん!! お姉さん達が疲れた体を癒してあげるからねぇ――!!」


「け、け、結構だ……」



 両膝に両手を置き、息も絶え絶えに観客席に向かって返答してやる。



「五――ッ!! 六――――ッ!!!!」


「はぁぁああ!? シューちゃん!! その役目を俺様に譲れ!! お姉さん達ぃ!! ここにもきゃわいい鼠ちゃんが居ますよ――――!!!!」


「フウタ!! 抜け駆けは駄目だっていつも言っているだろうが!! そこのお姉さん達!!!! 実はこう見えてかなりの整体技術を持っていますのでながぁい夜をベッドの中で共に過ごしませんかぁぁああ――――ッ!!!!」


「え――。魂胆が見え見え過ぎてなんかイヤっ」


「だよねぇ――。ガッツいて来る男って何んか萎えるもん」


「「そ、そ、そんなぁぁああああああ――――ッ!!!!」」



 や、喧しいぞ!! 貴様等!!


 まだ勝負は終わっていないのだから某の集中力を乱す台詞を吐くな!!!!


 前歯の裏まで出掛かった言葉だが、それは生憎口から出る事は無かった。


 たった数言の台詞も吐き出せぬ程にこの体は疲弊しているのだ。



 は、早く計上を終えてくれ……。某はもう立っている事さえ厳しい状況なのだから。



「七――――ッ!! 八――――ッ!!!!」


「「「「ワァァアアアアアア――――ッ!!!!」」」」


 後、二秒……。されどその二秒が途轍もなく遠く感じてしまう。


「ぜぇっ……。ぜぇぇ……」



 薄汚れた戦闘場の床に視線を落とし、体が欲している大量の空気を懸命に取り込んでいると観客達の歓声が刹那に停止した。


 む?? 一体何が起こっ……。



「う、嘘であろう??」



 そ、そんな……。あ、有り得ない!!!!


 これ程までの驚きを感じたのは人生で初めてかも知れない。


 何故なら……。



「ゼ、ゼェッ。ゼヒュッ……」


 血に塗れた死に体が某の目の前に立ち塞がっていたのだから。



「き、貴様!! 何故動け……」


「ギィィヤアアアアアアアアアア――――――――ッ!!!!」



 しまった!! ぼ、防御態勢を取らねば!!


 古代種の力を継続させて襲い掛かって来るカイベルトに対して両腕を上げようとしたのだが……。



 何だ、この情けない両腕は……。


 それに応えたのは意思のみであり、某の両腕は頭の命令を受け付ける事無く地面に向かって情けなく垂れ下がっていた。



 くそ……。あの時、命を奪った者が負けるという下らない取り決めに従わず。一切躊躇せずに貴様の命を貰い受けていれば良かったな。


 周囲に存在する大多数の観客達の身を案じ剰え敵の命を奪う事を躊躇してしまった。


 これから始まる敗北に続く激痛は某の甘えが生んだものだとして潔く受け止めよう……。



「ハァァアアアアッ!!!!」


「うっ!? グホァッ!?」



 目の前の巨体から繰り出される連続攻撃が某の体の隅々を穿ち、殴打し、切り裂いて行く。


 強烈な痛みが肉を通り抜けて骨に達し、明確な殺意が体内を侵食して脳に達すると意識が徐々に薄れ始めて来た。



 このまま地面に倒れたらどれだけ楽だろう。某に与えられた任務を放棄して敵に降参すればこの痛みから逃れられる事が出来る。


 薄れ行く意識の中に浮かぶのはどれも甘い言葉の数々であり某の体はそれに従い非情が蔓延る現実世界から甘い虚構が萬栄する夢の世界へと旅立とうとしていた。



 そ、某は痛みに決して屈しない……。そして痛みだけではこの魂を屠る事は叶わぬぞ!!!!



「く、うぉぉおおおおおお!!!!」


 もう間も無く消失するであろう闘志の灯火を再燃させて右手にありったけの魔力を籠めて獣の咆哮を上げると。


「ゴォォアアアアアアア――――ッ!!!!」


 奴もまた某の魂に呼応するが如く野生の雄叫びを上げて大振りの右の拳を解き放った。



 こ、好機到来だ!! これを逃せばもう二度と勝てぬ!!



 カイベルトは右の拳に渾身の力を籠めた攻撃を仕掛けて来るが……、至る所に大きな隙が生まれていた。


 剥き出しの顎に、だらしなく開いた体の正面、更に左右の腹にも強烈な隙の匂いが漂う。


 あそこに向かって攻撃を加えれば某に勝機が転がり込んで来るのだぞ!?


 己の魂を極限まで奮い立たせて……。



 打てぇぇええええええええ――――――ッ!!!!



「ハァァアアアアッ!!!!」


 丹田に強烈な力を籠めて隙の穴の中央に向かって勝利を渇望する右の拳を解き放った。













































 奴の拳が遅々足る速度で眼前に迫り来る中。


 某の拳はそれよりも数段遅い速度でカイベルトの隙の穴の中央へと向かっていた。



 な、何だ……。この遅い肉と骨の塊は……。


 これが今現在の某の実力、なのか??



「アァァアアアアアア――――ッ!!!!」


「く、くそっ……。くっそぉぉおおおおおお――――ッ!!!! ガァッ!?」


 至極簡単な物理法則に従い、攻撃の速度に勝るカイベルトの右の拳が某の左頬を痛烈に穿つ。


「く、か、かはっ……」



 己の歯に潰された口内の肉から舌が溺死寸前にまで至る量の血が溢れ出す。


 幼き頃から何度も味わって来た敗北の味が某の意識を甘い虚構が存在する世界へと誘う。



『三――ッ!! 四――――ッ!!!!』


『シューちゃん!! 立て!! アイツは押せば倒れる状態なんだぞ!?』


『シュレン!! 頑張れ!! お前なら絶対に勝てるから!!!!』


『『『『ワァァアアアアアアアアアア――――――ッ!!!!!』』』』



 周囲に湧き起こる大歓声の中に紛れた友の声が微かに聞こえた気がするが……。


 その音の真実性を確かめる前に某の視界は黒一面に覆われてしまい。指先一つさえも動かせぬ状態の体の筋力が徐々に弛緩して行き、最後まで敗北に抗っていた闘志の炎がフっと消えてしまうと遂に意識は闇の中に完全に消失してしまったのだった。











「九――ッ!! 十――――ッ!!!!」


「――――――。はぁぁ……」



 審判役の男が十の計上を終えると俺は強張っていた双肩の力を抜いて疲労を籠めた息を長々と吐いた。



「カイベルト――――!! 良くやったぞぉぉおおおお!!!!」


「その通りだ!! お前の御蔭で南龍側が優勝に王手を掛ける事が出来たんだからな!!!!」


「我等巨龍一族の勝利を祝って雄叫びを上げろぉぉおおおお――――ッ!!!!」


「「「「オオオオォォオオオオオオ――――ッ!!!!!!」」」」



 歓声に湧く観客席から俺の勝利を祝う言葉と拍手が降って来るが、心の中には冷たい風が吹き素直に彼等の言葉を受け取る事が出来なかった。



 もしもあの時、雷の力で拘束されたまま攻撃を続行されていたらどうなっていた??


 恐らく俺の命は消え失せてしまっていただろう。


 シュレンが攻撃の手を止めたのは俺の命を……、『守る』 為だ。


 この戦いの取り決めは相手の命を奪ってしまったら敗北となる。アイツはその取り決めに従い攻撃を停止させた。


 つまり……。



「俺は、あそこで一度殺されていたんだなぁ……」


 両者の闘志の炎が色濃く残る戦闘場にふと視線を移して呟いた。



 炎の竜巻で視界を防ぎ、氷の力で体を制御して、クナイに籠めた雷の魔力と地面からの轟雷を利用して俺を絡め取った。


 幾重にも折り重なった戦術と策は正に見事と言わざるを得ない。



 奴が俺に向かって戦闘中に放った言葉がふと脳裏を過って行く。



『相手の思考を読む能力』



 本能を剥き出しにして襲い掛かって来る野生生物をどれだけブチ殺そうとも意思と感情を持つ生命体が繰り広げる思考を深く読む能力は鍛えられないのだから。


 今回の戦いではシュレンが言ったその通りの内容となった。


 考える生物の思考を巡らせた策は、本能のみで戦う獰猛な獣に対して有効だったし……。


 これからは好敵手に釘を刺された様に同郷の者達と戦いを重ねるのも一考だろうさ。



「よいしょっと」



 俺の乾坤一擲を受けて戦闘場に横たわったままのシュレンの体を疲労が残る両腕で抱いて起こしてやると。



「ほら、グシフォス坊や。大切に受け取れよ??」


 俺の顔を怖い顔で直視し続けていた東龍の大将に渡してやった。


「馬鹿みたいに勝鬨を上げなくていいのか」


 本当の勝者の体を優しく受け取ったグシフォス坊やがそう話す。


「へっ、そんな事をする奴はとんだ恥さらしさ」



 俺は覇王継承戦の試合の取り決めの中で勝利を収め、シュレンは本物の戦いの勝負で勝った。


 これは正に『試合で負けて勝負に勝つ』 の図式に当て嵌まっている事だから。



「大将すまねぇ。生き恥を曝しちまった」


 南龍の戦士達が待つ場所へ到着するとほぼ同時に口を開く。


 今の声色は俺のものか?? へへ、何てしょぼくれた声質なんだよ。


 まるで御主人に怒られた犬みてぇな声じゃねぇか。


「どんな形であれ勝利は勝利だ。貴様はその点に関しては最低限の仕事をした。もっと胸を張れ」


「ったくどいつもこいつも……。優しいんだか辛辣なんだか分からねぇって……」



 大将の左肩を優しくポンと一つ叩いて闘技場内の壁際へと進み、仰々しく座って冷たい壁に背を預けて天を仰いだ。



 おぉ――……。今気が付いたけど今日の空は滅茶苦茶綺麗な青が広がっていたんだなぁ……。


 偶にはこうして空を仰ぎ見るのも悪くない気分だぜ。



「受け取れ」


「あ、はい!! わぁ……。酷い傷ですねぇ。今から頑張って治療を開始します!!」


「あぁ!? レイミーちゃん!! 俺様の治療はまだ終わっていないんだよ!?」


「てっめぇ!! ふざけんなよ!! もう殆ど終わっているじゃねぇか!! 俺の怪我はまだまだ酷いからさぁ……。温かな御手手で優しく癒して欲しいなっ」


「キャハハ!! 御二人共もう少し離れてくださぁぁあああい!!!!」


 東龍の治療係の女の軽快な声が青空に向かって心地良い速さで登って行く様を視線で追い続け、青の中に視点が収まると双肩の力を抜く。



「なぁ、シュレン。テメェもそう思うんだろ??」


「あ、あの――……。治療は如何なさいますか??」



 南龍側の医療班の女性の声を無視したまま静かな吐息を漏らして俺の辛辣な勝利を祝う青空をいつまでもぼぅっと見上げ続けていたのだった。




お疲れ様でした。


この話を書き終えるのにかなり苦戦してしまったので投稿が少し遅れてしまいました。


さて、先日も後書きで報告したのですが今週から私生活が大変忙しくなってしまいますのでいつもより投稿が遅れてしまいます。今月中には大飯食らいの白頭鷲ちゃんの御話を書き終える予定です。


十一月に入ると中旬頃までは投稿が出来ません……。


この御話を楽しみにして頂いている方には大変申し訳ありませんが何卒ご了承下さいませ。頭がイカレテしまいそうになる忙しさが過ぎれば年末年始も投稿を続けられるのでその点に付いては御安心下さい。



そして、いいねをして頂き有難う御座いました!!!!



それでは皆様、お休みなさいませ。

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