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今日も今日とて、隣のコイツが腹を空かせて。皆を困らせています!!   作者: 土竜交趾
過去編 ~素敵な世界に一時の終止符を~
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第百九十二話 覇王継承戦 決勝戦 第二試合 その二

お疲れ様です。


本日の投稿になります。




 俺の視覚は正面に聳え立つ巨大な壁を捉え続けており奴の大きさがぶっ飛ばされるよりも前と変わらぬ大きさを誇っている事からして正常に機能していると判断出来る。


「絶対に倒せよ――ッ!!!!」


「ビビヴァンガ!! お前なら絶対に負けない!! 相手の体を血で染めてやれ!!!!」


「はぁっ……。はぁっ……」


 耳に届くのは観客達の馬鹿げた音量の声援と己の荒い呼吸音のみ。


 荒れ狂う音の波が体に襲い掛かると全身の肌が一斉に泡立ちアレに向かって早く突撃を開始しろと俺の背をグイグイと押す。


 幸せな退屈と普遍的な現象の数々が存在する日常生活の中じゃ滅多に味わえない興奮状態に陥っているから足が、体が化け物に向かって前に前に出ようとしているのだろうさ。



 それに何だか体中に広がる痛みが徐々に心地良くなって来たぜ……。


 良い感じの方向に興奮状態が働いていると判断すると。



「……」



 遠い位置で俺の様子を注意深く窺っているビビヴァンガに向かって微かに腰を落として照準を定めた。


 さぁってと、これからお前さんには俺の奥の手を味わって貰うぜ??


 先に奥の手を出した以上、これで決めないと形勢が一気に劣勢に傾いちまう。


 分かっているな?? 絶対に……、絶対にぃぃいい!! これで決めるんだぞ!?



「ハァァアアッ!! ズリャアアアア――――ッ!!!!」


 両足の筋肉を総動員させて己の影をその場に置く勢いで前に出ると鼓膜をつんざく風の猛烈な音が観客の大声援を遮る程に高まる。


「ダァァアアアア――ッ!!!!!」


 たった一回の瞬きよりも早く奴の懐に到着すると右の拳に強力な力を籠め、己の想いを籠めた一撃を解き放った。


「何ッ!? グォッ!?」


 ビビヴァンガが俺の移動速度に驚いた表情を浮かべ、更に腹部を穿った攻撃の強さに二度目の驚きの表情を浮かべる。


 拳に感じたソレは……。


 巨大な岩を叩く硬化質な感覚では無く生の肉をブッ叩く大変心地良いものであった。



 うっひょ――っ!!!! これこれぇ!!


 相手の体を思いっきりぶん殴るこの感覚が枯れ果てた気持ちと体力を漲らせてくれるぜ!!



「一回で攻撃が終わると思うなよ!?」



 ビビヴァンガの腹部から右の拳を引き抜き、お次は左の拳で右の脇腹を丁寧に叩いてやった。


 繋ぎ目の見えない強力な攻撃の連鎖は激しさを増して行き、戦いが始まってから今に至って漸く野郎の苦悶の声と表情を勝ち取る事が出来た。



「グォォオオッ!?!?」


 大きな口から苦悶の叫び声が飛び出し、目は驚愕の一色に染まる。


 奴の体は俺の連続攻撃によって徐々にクの字に折れ曲がり強烈な痛みで膝が折れようとするが……。


「調子に乗るなぁぁああああ――――ッ!!!!」



 一人の誇り高き戦士として膝を折るのはとてもじゃないが了承出来ぬと考えたビビヴァンガは俺の超接近戦を嫌がる様に右の強力な一撃を此方の顔面に向けた。


 桜花状態で捉えたその速度と来たら……。



「おせぇ!! 俺を倒したければもっと速く打ち込んで来る事だな!!!!」


 まるで小さな子供が勢い良く振りかぶって放った拳の様に遅々足るものであった。


「ウォォオオオオ――――ッ!!!!」


 一発では仕留められぬと最初から考えていたのだろう。


 左右の拳で壁と見間違えんばかりの弾幕を張るが俺にとってその壁は鼠が齧ったチーズの様に穴だらけだ。


「……」


 一つ一つ丁寧に躱し、そして大量に放たれる拳の中から熟成された葡萄酒の香りを吟味する様に隙の大きな攻撃を選び抜いて反撃に転じた。


「デヤァァアア――――ッ!!!!」


 無策で突き出した拳の勢いと俺の攻撃の強さが合わさった雷撃は相当堪えたのだろう。


「グゥッ!?!?」



 襲い掛かる衝撃によって拳の連打の雨がピタリと止み、ビビヴァンガが口から粘度の高い液体を零しながら俺から一歩下がった。


 そう、あの強力な戦士が初めて下がったのだ。


 この好機を見逃す程ダンちゃんは甘くは無いぜ!?!?



「この勝負……。貰ったぁぁああああ――――ッ!!!!」


 戦いの最中で初めて見せた弱みに付け込む様。


 我武者羅に前へと出てビビヴァンガの弱り切った腹部に火力を一点集中させる。


「おりゃぁぁああああ――――ッ!!!!」


「ウググッ……!!」



 拳が野郎の腹部に直撃すると生肉を思いっきりブッ叩く音では無く、何だか硬い鉄を叩く様な金属質な音が闘技場に鳴り響く。


 その連続音の勢いはその場に留まる事無く放射線状に広がり闘技場の観客達の心を嫌という程温めた。



「いけぇぇええええ――!!!! そこで決めろ――――ッ!!!!」


「その勢いを絶対に止めるなよ――――!!!!」



 それは誰よりも自分が一番分かっているさ!!


 ここが勝負所だってね!!


 観客の声援の中から放たれた一つの言葉に頷きつつ更なる攻撃を加えて行くと。



「ウグッ!?」


 ビビヴァンガの顔面が勝利を決定づける攻撃を加える絶好の位置に下がって来やがった。



 うっひょ――!! やぁぁああああっと顔面が下りて来やがったぜ!!


 背伸びした状態じゃ有効打は与えられねぇからな!!


 テメェには散々酷い目に遭わされたし?? ここで乾坤一擲の一発をお見舞いしてやんよ!!!!



「食らいやがれぇぇええ――――ッ!!!!」


 右の拳にそして両足に猛烈な力を籠めて烈火の拳を隙だらけの顎に解き放つと。


「グォッ!!!!」


 ビビヴァンガの頭が勢い良く天へと昇って行き、体は無防備な状態でピンっと立ち上がった。



 こ、此処だ!! 此処で決めるぞ!!!!


 伸び上がった勢いが収まり俺に向かって宙から降って来る大きな頭に照準を合わせた刹那。



「――――ッ」


 死に体となっている者からは決して発せられぬ本物の『生きた目』 がギロリと俺を捉えた。


「うっ!?」


 その殺気に、熱量に当てられた俺は攻撃を加える事無く死に体の奴から一歩下がってしまった。



 な、何だよ……。今の目……。


 目が合っただけでられるかと思ったぜ……。



「おい――!! 何で下がったんだよ―――――!!!!」


「ふざけんな!! 今が絶好の機会だっただろう!?」


 ビビヴァンガから下がってしまった俺に心無い言葉の数々が降って来る。



「ふん、素人とーしろ共が。手負いの獣程厄介なモノはねぇんだよ」


「今の殺気……。あの距離から某達にも届くのは異常だぞ」


「あぁ、その通りだ」


 死線を何度も潜り抜けて来た事だけはあってかハンナ達は俺の意図を汲んでくれたみたいね。


「ダン!! 気を抜くなよ!!」


「勿論分かっているさ!!」



 両手にじわりと滲む汗の嫌悪感を服で拭い、相棒の声を力に変えて力無く項垂れているビビヴァンガに対して猛烈な集中力を割いて強固な構え継続させていた。



「お、俺は嬉しいぞ……」


 ビビヴァンガが項垂れたままドスの利いた声を放つ。


「はい??」



 殴られるのが嬉しいって……。強力な攻撃を受け続けて頭の何処かがヤられちまったのか??


 それとも奴はソッチ方面に興味があるのかしらね。



「覇王継承戦では俺の相手になる敵は居ないと思っていた。しかし、それは良い意味で裏切られたのだ。ダン、貴様は俺の敵となる資格を備えている」


「そりゃど――も。でも、お前さんが格好付けている間に勝負を決めちまうぜ??」



 いつも通りの口調でそう話すが……。刻一刻と膨れ上がって行く奴の魔力と闘志を捉えると声が意図せずとも上擦ってしまう。


 これから一体何が起こるっていうんだ。



「俺の真の力を見せるのはお前で二人目だ、光栄に思え」


 あ、いや。俺としてはそんな恐ろしい力を見せつけられても困るんですけど??


 このまま此方に勝ちを譲って大人しく引き下がってくれれば大万歳で御座います。


「一人目は誰なんだよ」


「南龍を統べるストロード様だ。彼はこの狂気とも呼べる力を認めて下さった。その力を貸してくれと仰った。だから俺は……。俺はぁぁああああ!!!!」


「うぇっ!?」



 な、何だ!? 急に魔力が跳ね上がったぞ!?


 ビビヴァンガの巨躯から常軌を逸した赤き魔力が迸るとそれが光の柱となって空へ向かって昇って行く。


 時間の経過と共に地面が微かに揺れ始め矮小な砂と石が震え出し、そして光に昇って行く光の柱が彼の体に収縮されて行くと。



「ハァァアア……」



 この世に最強最悪且狂暴な一頭の獣が生まれた。



 人の白目の部分は血よりも更に濃い朱に染まって血走り、双肩は強烈な感情に同調して激しく上下する。


 口から零れる息は白き靄を帯びて時折体全身から乾いた音と共に稲妻が迸る。


 古代種だっけか。


 その力を解放した事により体が一回り大きくなりただでさえ越えなければならない壁の高さがグンっと増してしまった。



 あ、あ、あはは……。ナニあれぇ……。


 正真正銘のバケモノじゃんか。



「ダ、ダ――ン!!!! ぜぇぇったいに気を切るなよ――!? 一瞬でも気を切ったら死ぬぞ!!」


 あのヤバさを捉えたフウタが俺の背に向かって忠告してくれる。


「んな事分かったんだよ!!」


 ビビヴァンガから放たれる魔力と闘志の圧は恐らく、南の大陸で対峙したジャルガンと同程度……。いや、もしかしたら奴よりも強いのかも知れない。


 古代種の力を解放したジャルガンは相棒と共に二人で倒した。


 そう、『二人』 だ。


 しかし、今回は奴と同程度かそれよりも上の実力を持つ傑物をたった一人で倒さなければならないのだ。



 この世の理不尽をありったけ詰め込んだらあの強さになるのだろうさ。


 神様も酷い事をしやがるぜ。


 あぁんな化け物と対峙する可哀想な人の事も考えずに作ったんだからよ。



 鉄と同程度までに硬度を増した生唾をゴックンと飲み干してその時の備えていると狂気に染まった二つの目が俺を捉えた。


「……ッ!!」


 絶対に無理!!!!


 あぁんな化け物を一人で退治するなんて!!!!


「南龍の勝利の為に!!!! 貴様を倒す!!!!」


 俺の体の真正面から最短距離を突き進んで来たビビヴァンガが何の遠慮も無しに右の拳を振り翳して来る。


「おわぁっ!?」


 それを間一髪回避して奴の左後方の位置に身を置いた。



 た、堪んねぇぜ。力を解放したらさっきよりも二回りも三回りも速く、強くなりがやった。


 桜花状態でやっとこさ捉えられる拳と移動速度は正に化け物級であり更に最悪な事に。



「わぁっ!?」


「な、何だ!? 急に揺れたぞ!?!?」


「きゃああああ――――ッ!?」



 ビビヴァンガの拳の先から出た拳圧……、じゃなくて魔力の圧か。


 空を切った拳の先から出た目に見えぬ魔力の塊が闘技場の壁を穿ち、その上の観客達は突如として発生した衝撃の強さに驚きの声を上げて怯えていた。


 完璧に回避したと思っていたがどうやら魔力の塊が俺の左頬を掠めたみたいだ。



「グルルゥゥ……」


「ひゅ、ひゅ、ひゅぉぉ――……。こっっわ」



 遅れて裂けた頬の皮膚から一筋の血が流れ始め、生温い液体が顎に到達するとそれを右手の甲でクイっと拭いゆぅぅっくりと此方に振り返った獣にそう言ってやった。



 さ、さぁって……。俺の想像通りに奴は一段上の力を解放してくれた訳だ。


 これまで当初の想像通りなのですが、此処に来て加筆修正すべき事態が起きてしまった。


 そう、奴の解放した古代種の力が想定よりも強過ぎる事なのです。


 このまま当初の作戦で拳を交わし続けていれば必敗は確実。しかし、加筆修正を加えた作戦を遂行すれば俺にも勝ちの目はある筈だ。


 問題はその加筆修正をどうするか、だよな??


 俺の攻撃が通用するかどうか。先ずはそれを確かめてみましょうかね!!!!



「おらぁ!! 掛かってこいや!! この化け物め!!」


 微かに腰を落として全方位からの攻撃に備えて叫ぶ。


「ゴァァアアアア――――ッ!!!!」


 俺の叫びに呼応した獣が雄叫びを放って此方に向かって再び突撃を開始。


「んにぃっ!!!!」


 両足の筋肉が千切れても構わない勢いで懸命に足を前に出してビビヴァンガの左拳の攻撃を躱し、己が最も有効的に攻撃を加えられる位置に足を置いた。


「食らえぇぇええええ――――!!!!」


 右手に強烈な炎を宿して隙だらけの野郎の左脇腹に突き刺してやると……。


「グゥッ!?」



 どうやらこの状態でも俺の攻撃は有効な様ですね!!


 ほら!! 痛そうに奥歯をギュって噛み締めていますもの!!


 よ、よぉし。これなら本命でもある作戦の第二段階まで何んとか到達出来そうだぜ!!!!



「ギィィアアアアアア――――ッ!!!!


 痛みに更なる怒りを覚えた獣が俺に向かって強烈な殺意と憤怒に塗れた拳の連打を見舞う。


 お、落ち着け!! 躱せない速度じゃないだろ!? 心に凪の無い透き通った水面を浮かべるんだ!!!!


「ッ!!」


 空気の壁を容易く破壊し尽くした強攻撃の連打が視界を全て覆い尽くして一切の隙間無く襲い来る。


 その一つ一つを丁寧に躱し、往なし、体の流れで回避。


「す、すっげぇ……。アイツ、俺達じゃあ全く目で追えない攻撃を躱しているよ」


「あ、あぁ。何て軽やかな身の熟しだ」



 傍から見れば激流を制している様に見えるだろうが……。当事者としてはこれが本当の、超ギリギリの回避行動だ。



 鼓膜をつんざく拳の空振りの音が心の臓の鼓動を早めさせ、鮮血よりも朱に染まった恐ろしい瞳に囚われると両足が竦み、巨躯全体から放たれる明確な殺意と強烈な魔力の圧が俺の行動を一手も二手も遅らせてしまう。


 狂った獣に対して後手を踏むのは得策では無いのは承知の上だ。


 しかし、ビビヴァンガが放つ狂気じみた圧によって後手に回らざる得なくなってしまう。



「シィィイイッ!!!!」


 顔面に襲い来た右の拳を躱し、次なる攻撃に備えて後ろ足に加重を置く。


 狂暴な状態でも奴は俺の行動を見抜いているのか。


「うっ!?」


 反撃が無いと理解して更なる攻撃を加えて来やがる!!!!


「グァァアアアアッ!!!!」


 左の拳が巻き込む様に放たれてそれを、上体を屈めて躱すと地面から右の拳が苛烈な勢いで迫って来る。


「ガアアアアアア――――ッ!!!!」


 そして起き上がったこの体に大地を容易く砕く右足が地面と平行となって襲い来た。


「くっ!?」


 こ、こいつの体力は無尽蔵なのかよ!! ぜんっぜん攻撃が衰える気配が見えねぇぞ!!!!



 足撃を回避して後方に下がっても追撃は止む事は無く、我を忘れた獣は己の優位な間合いすらも忘れて超接近戦を仕掛け続けて来る。


 よ、避けるのは何とか出来る!! このままコイツの体力が底を尽くまで躱し続ければ……。



 躱し……、続けられるのか?? この常軌を逸した攻撃の連続を??


 終わりが見えない攻撃をいつまでも避け続けなければならないのか?? こっちの体力は有限なんだぞ??



「ガァッ!!!!」


 奴が放った右の拳が鼻頭の先を擦って行くとほんの僅か、そう春の小雨よりも矮小な疑問が心の中にふと浮かんでしまった。



 そして、この微かな隙を逃す程。


 正面に立ち塞がる獣は生易しいモノでは無い。



「ギィィアアアアアアッ!!!!」


「し、しまっ……。ウグェッ!?!?」



 心が疑問を抱き、微かな隙が生まれた腹部に向かって激烈な拳がめり込むとこの体は物理の法則に従って後方に吹き飛ばされて行く。


 堅牢な戦闘場リングに叩き付けられ、激しい回転を伴いながら戦闘場の淵に近付くと漸く回転が止まってくれた。



「ゲホッ!! ゴホッ!!!!」



 気の遠くなる激しい痛みが腹部を襲い、腹を抱えたまませき込むと咳に混じった赤き存在が確認出来た。


 嫌悪感を抱かせる粘度の高い唾液が全ての歯に絡みつき血の味が口内一杯に広がり、鼻から抜けて行く血の独特の香りが敗北の二文字を否応なしに連想させ、腹部の気の遠くなる痛みが闘志と気力を奪って行く。



 く、クソッタレが……。一秒にも満たない隙を狙い打たれたぜ……。


 それを狙いすましたのは敵ながら天晴と褒めてやりてぇが今はそれ処じゃねぇ!!



「一――ッ!!!! 二――――ッ!!!!」


「これでビビヴァンガの勝利だ!!!!」


「わははは!! どうだ見たか!? これが巨龍一族の真の力なのだよ!!!!」


 非情の計上に湧く南龍側の観客席の歓声が本当に遠い位置から聞こえて来やがる。



 このまま眠ったらどれだけ楽だろう?? もうこの痛みを感じ無くて済むんだぞ??


 もう一人の俺の甘い囁き声が意識を遥か遠い場所へ誘おうとするが……。


 やはり現実は非情なんだな。



「おい、いつまで横になっている。今直ぐ立って奴を倒して来い」



 直ぐ近くから届いた相棒の手厳しい声が朦朧とする意識を非情が蔓延る世界に留めてしまった。



「――――。う、うるせぇ。今から立つから待ってろ……」



 もういい加減に音を上げそうになっている両足に拳骨をぶち込んでやると震える上体を起こして遠い位置で俺を睨み付けている獣の瞳を睨み返した。


 その刹那。



「「「「ッ!?」」」」


 観衆から驚きの吐息が一斉に漏れた。


「う、嘘だろ?? 立とうとしてやがる……」


「ビビヴァンガの直撃を二度受けても立つ奴なんてこの世に居るのか??」


 お生憎様、この世に居ますよ――っと。


「七――ッ!! 八――――ッ!!!!」


「う、うぬぬぅぅ……!! デヤァァアアアアアア――――ッ!!!!」


 刻一刻と計上が進んで行く中。


 奥歯を噛み砕く勢いで噛み締めて足の裏を戦闘場に突き立て勝負はまだまだこれからだとして魂の雄叫びを放ってやった。


「はぁっ……。はぁっ……」



 た、立ったのはいいけどこれからどうする?? またあの化け物級の攻撃を躱さなきゃいけないのかよ……。



 己の震える足と拳を見下ろしていると何だか物凄く小さなものに見えて来やがったぜ。



「良く聞け、馬鹿者」


「あぁん!? 誰が馬鹿だって!?」


 直ぐ後ろから放たれた相棒の言葉に噛みついてやる。


「貴様は己の武に疑問を持ったからその攻撃を食らったのだ」


「……っ」



 さっすが、相棒。よく見てら。


 あの隙を見逃さなかったのは俺と対峙しているビビヴァンガだけじゃなくて後ろから見ているお前さんもなのかよ。



「桜花状態はもって後五分程度だろう。この超短期決戦を制さぬ限り、貴様に勝ちの目は無い」


「んな事……。分かってるよ」


「分かっている?? それは頭の中の話だろう。貴様の体はまだ奴の攻撃に怯えて自信を無くしている状態だ。このまま戦えば確実に負ける」


「だったらどうしろって言うんだよ!!」


「信じろ」


 はい?? 何を信じろって??


「己に疑問を持った攻撃は決して効かん。これまで積み上げて来た、鍛えて来た己の武を信じるのだ。俺とお前はこれまで何度も死線を潜り抜けて来た。それから得たのは一体何だ??」


 ハンナの厳しい瞳が俺の体に突き刺さるともう殆ど消えかけそうになっている闘志が微かに反応する。


「己の武を信じる者、勝利の想いが籠った攻撃は等しく重い。もうそろそろ貴様も自分自身を信じてやってもいい頃合いだ」



 相棒が真に友を想う優しくも厳しい瞳を俺に向けると闘志が一気苛烈に燃焼。


 そして、猛火に昇華した闘志が心の中に漂う疑問、懐疑、劣等感を刹那に燃やし尽くしてしまった。



「――――。へへっ、ありがとよ。やっぱりお前さんは世界最高の相棒だぜっ!!!!」



 俺の行動だけじゃなくて心の中まで完璧に見透かしているんだもの。


 世界広しと言えども、俺の心の空模様まで理解してくれるのはお前さん以外にいねぇぜ!!!!



「ふ、ふんっ。分かればいい」


 そうやって恥ずかしそうにプイっと顔を背けてしまうのもまた愛苦しい姿だ。


「ふ、ふぅ――っ!! おっしゃああああ!! 超超短期決戦でテメェの喉笛を掻き切ってやるからな!? 覚悟しておけよ!!!!」


 枯れかけた魔力と闘志を再燃させて更に桜花状態を昇華させると俺が超えるべき世界最高峰の壁に向かって思いの丈を籠めた熱き魂を解き放ってやった。





お疲れ様でした。


過去編の主人公もあって彼の戦いはどうしても長くなってしまいますね……。もう少し上手く纏めて書ければいいのですが、戦いの話を書くのはどうも苦手です。


さて、少し先の予定なのですがリアルの生活が十月中頃から十一月中頃までの一か月の間滅茶苦茶忙しくなってしまいますのでその期間は投稿がいつもより遅れてしまいます。十月は何とかちょいちょいと投稿出来るのですが十一月になると恐らく、というか確実に中頃まで投稿出来なくなってしまいます。


楽しみにして頂いている読者様には大変心苦しいですが、何卒ご了承下さいませ。



そして、ブックマークをして頂き有難う御座いました!!!!


読者様の温かな応援の御蔭で執筆活動が続けられていると改めて痛感しました。これからも彼等の冒険を温かな目で見守って頂ければ幸いです!!



それでは皆様、お休みなさいませ。

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