第百九十二話 覇王継承戦 決勝戦 第二試合 その一
お疲れ様です。
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少々長めの文となっておりますので予めご了承下さいませ。
東龍の先鋒の勝利に湧く観客達が美しい青き空へと向かって歓声を上げる。
空に昇り行く声は桁違いの音圧を持っており、その威力は空に浮かぶ雲を霧散させてしまうのではないかと有り得ない妄想を抱かせる程だ。
鼓膜を、体内の水分を揺らす音の波は今も止む事無くこの場に存在する生物達を取り囲んでいた。
「すっげぇ――!!!! あんな小さな体で巨龍の戦士を倒しちゃったよ!!」
「さっきの攻撃見たか!?」
「あぁ!! とんでもねぇ威力だったよなぁ!!!!」
一回戦で敗北を喫した北と西。
まるで己の領地の勝利を祝うかの様に燥ぐ観客達だが……。とある一画だけはこの熱気が嘘の様に思える程にシンっと静まり返っていた。
「お、おい……。嘘だろ?? ディアドラが負けるなんて……」
「あのチビに我等巨龍一族が敗北を喫するなんてあり得ないだろう」
約束された勝利では無く、想定外の敗北の事実を突き付けられた南龍側の観客達はまるで親しい家族を失った葬式の様に酷く沈んだ空気が蔓延していた。
誰だってあの体格差を加味すれば絶対的な勝利を掴み取るだろうと考えるだろし。しかも互いに素手を用いた戦いだ。
落胆の色は隠せないのは仕方が無いよねぇ。
まっ、勝ちの勢いはこれでこっちに大きく傾いた訳だし??
このまま連勝して優勝に王手を掛けてやるぜ!!!!
「よっしゃ!! 次は俺の番だな!!」
勝利の熱気が渦巻く東龍側で勢い良くそう叫ぶと両手で頬を強く叩いて気合を注入した。
「ダン!! 俺様が死ぬ思いで勝利を掴み取ったんだからな!? 勝ちの勢いを断つんじゃねぇぞ!! あいてて……」
闘技場の壁際でレイミーちゃんの治療を受けているフウタが俺の背に向かって叫ぶ。
「うるせぇ!! そんな事一々言われなくても分かってんだよ!!」
俺達が勝てば優勝に王手、しかし南龍側が勝てば勝利は五分と五分になる。
奴等……、いいや。ビビヴァンガもその事を十二分に理解しているだろうさ。
ほら、現に……。
「……ッ」
お前さんは視線で人を殺す気かい?? と。
思わずかたぁい生唾をゴックンと飲み込んでしまう程の強烈な殺気を纏わせた瞳で俺の顔を直視しているしっ。
俺じゃ無くて違う人かな?? 試しにさり気なぁく体を右方向に動かして見ると。
「……」
残念無念。
此方の考えは正しいと言わんばかりに奴の殺気に塗れた二つの瞳は俺の顔を追い続けていた。
戦う前からそんなに目くじらを立てていたら目の周りの筋肉が疲弊して思う様に戦えなくなってしまいますよ??
それに物凄ぉく怖いのでもう少し優しい御目目ちゃんで睨み付けて欲しいのが本音だ。
「ダン、分かっていると思うが……」
「わ――ってるって。奴は本気で俺を殺しに……、いや。倒しに来る。強力な覚悟を胸に抱いて戦いに臨むさ」
俺の身を案じてくれたシュレンにそう話す。
「倒すつもりでは無く相手を殺す勢いで戦え。そうでなければ奴は倒せんぞ」
もうっ、相変わらずの堅物ちゃんめ。
こういう時は冗談の一つや二つを言って緊張感を和らげてやるのが親友ってもんだぞ。
「へいへい、勿論そのつもりで挑みますよ――っと」
ビビヴァンガと同程度の鋭い瞳を浮かべているハンナに向かって話す。
「え、えへへっ。レイミーちゃん?? ほぉらっ、俺様の両手はもうボロボロなんだよ??」
あの馬鹿野郎が。
自分は一仕事終えたからって大盛の女の子とイチャイチャしやがって……。
フウタが傷付いた両手を彼女に向かって差し出す様を捉えるとドス黒い憤りが沸々と湧いて来た。
「わぁっ、酷い傷ですねぇ。裂傷に火傷に骨折……。この戦いの間に治るかしら??」
レイミーちゃんがフウタの両手を手に取りまじまじと診察を続けていると、何を考えたのか知らんが大馬鹿野郎は己の十の指を彼女の指にあまぁく絡ませてしまった。
「もっと近くで診察して欲しいぜ……」
「あ、もうっ。皆が見ているから駄目ですっ」
馬鹿野郎の甘い接近に俺達の主治医でもある彼女は満更でも無い様子を見せていたが。
「――――ッ」
「きゃっ!?」
南龍側の壁際から轟いた爆音によって甘い空気は瞬き一つの間に消失してしまった。
は?? 今の音は何??
その音の発生源を確認する為にツツ――っと視線を動かして行くと、誰が今の轟音を奏でたか秒で理解出来た。
「……」
闘技場の壁に背を預けて体を休めていたディアドラが右手をギュっと握り締めてフウタとレイミーちゃんの診察の甘ぁい風景を睨み付けている。
彼女の直ぐ隣の硬い壁には拳大の穴がぽっかりと開いており、その穴から複雑な軌道であちらこちらに亀裂が走っていた。
あ、あぁ――、はいはい。
フウタの絡みが苛ついてつい壁を殴っちゃったのね。
「フウタ、今の行動は決して安くは無いわよ」
ドスを効かせた声が空気に乗って彼に伝播すると。
「ひゃ、ひゃい……。すんません……」
フウタは借りて来た猫よりも大人しくなり、頭をシュンっと項垂れて治療を受け続けていた。
「ギャハハ!! だっせぇなぁ!! そうやってあっちこっちに手を出しているからそうなるんだよ!!」
「うるせぇ!! テメェは今から戦いだろうが!! さっさと行って来いや!!!!」
良い感じに肩の力が抜けたし、このくだらねぇ絡みは俺が想像している以上に体に対して良い影響を与えてくれたようだ。
有難うよ、フウタ。
おかげさんで良い気持ちのまま洒落にならない恐怖が待ち構えている戦いに臨めそうだぜ。
「では第二試合を行う!! 双方の次鋒は戦闘場に上がれ!!!!」
「んじゃ、行って来るわ」
「油断するなよ??」
「貴様の勝敗が後に多大なる影響を及ぼす事を忘れるな」
進行役の男性から覇気のある声が上がると首を左右に傾けて筋力を解し、愛犬との散歩に出掛ける時の様な大変軽い足取りで戦闘場へと向かった。
ったく、フウタみたいに気の利いたセリフを吐けっつ――の。
だけど全員が全員だらけたままだと締まるモノも締まらないし……。クソ真面目な二人が居るから俺達のくだらなさも栄えるんだよね??
「ビビヴァンガ!! お前なら絶対に勝てるぞ!!」
「あぁその通りだ!! あの小さい野郎に目に物を見せてやれ!!!!!」
「我等巨龍一族に栄えある勝利を齎せ!!!!」
「「「「ウォォオオオオオオオオ――――ッ!!!!」」」」
相も変わらず馬鹿みたいにデカイ歓声を放ちやがって……。
もう少し大人しく応援する事は出来ないのかしらね??
南龍側の観客席から放たれる音の波が体を穿ち、それに押し負けぬ様に前進し続けていると前方から巨大な壁がノッシノッシと此方に向かって迫って来た。
「……」
あ、あははぁ……。やっぱり帰ろうかしら……。
俺より頭一つ抜けた身長からして恐らく身長はニメートルはあるだろう。丸太よりも野太い両腕には首を傾げたくなる筋力が積載されておりこんがりと焼けた肌には幾つもの傷が確認出来た。
角ばった顔に良く似合う無精髭と黒き短髪、顔中にも腕と同じ様な傷跡が刻まれている。
体を鍛える事を生業とした者達から感嘆の声を勝ち取ってしまう僧帽筋はこれから始まる戦闘を想像してか、こんもりと膨れ上がり猛牛を撲殺出来る厚みを持った両の拳は微かに開いては閉じていた。
こ、こうして対峙するととんでもねぇデカさと威圧感だな……。
街中でコイツが真正面から向かって来たら確実に道を譲るだろう。
「双方使用する武器はあるか」
進行役の男から試合前の確認事項を問われる。
「いんや、俺は無いよ。ビビヴァンガちゃんはあるのかい??」
「無い」
お、おぉ。端的且明瞭な答えで大変結構で御座います。
「分かった。では、これより第二試合を始める!!」
よっしゃ!! ふざけた雰囲気は此処まで!!
これから先は気を引き締めねぇとあっと言う間に撲殺されちまうからな!!
「……」
ビビヴァンガから距離を取り、体を斜に構えて両の拳を顎下まで上げると遂に死闘の始まりを告げる非情な声が放たれてしまった。
「始めぇっ!!!!」
「「「「ワァァアアアアアア――ッ!!!!」」」」
さぁ、何処からでも掛かって来い!! 俺なら此処に居る……。
「ッ!!」
全方向から攻撃に対応出来る様に微かに腰を落とすと攻撃が三度の飯よりも大好きなビビヴァンガちゃんが俺の予想通りに真正面から突貫して来やがった!!
ど、何処からでも掛かって来いって思いましたけども!! その速度はちょっと洒落にならないんだけどぉ!?
「ハァァアアッ!!!!」
「どわぁっ!?」
肝が冷えてしまう威力を持った右の拳を避ける為に此方から見て右側に向かって咄嗟に回避。
「へへっ!! 猪突猛進を心掛ける猪みたいな突撃は先の戦いで看破済み……。キャアッ!?」
右の拳が空振りに終わったビビヴァンガが俺の命を断つ為に猛追を図って来やがった!!
相当な威力を持つ魔法を掻き消してしまう馬鹿げた物理攻撃を容易く回避したのを格好良く誇ってやろうと思ったのに!!
それ位大目に見ても良いんじゃないの!?
「て、テメェ!! そんなモノ俺に当てるんじゃねぇ!!!!」
巻き込む様に放たれた左の拳を屈んで躱し。
「フンッ!!」
「ひゃぁっ!?」
屈んで下がった俺の顔面をぶち抜こうとして地面からせり上がって来た右の拳を死ぬ思いで上体を上げて回避。
「ハァァアアアアッ!!!!」
「んにぃぃいいいい!!!!」
続け様に襲い掛かって来る左右の拳の連打を一つ一つ丁寧に避け続けていた。
「ギャハハ!! あの野郎!! 気色悪い声を上げてらぁ!!」
「情けねぇ奴だよなぁ!!!!」
南龍側の観客達から心無い言葉が戦闘場に下りて来る。
情けねぇと罵られようが、格好悪いと馬鹿にされようがこれが俺の戦い方なのさ!!!!
恥も外聞もかなぐり捨てて避け続けていれば自ずと好機は訪れるんだよ!!
「ズァァアアアアッ!!」
ほ、ほら!! 現に好機到来の匂いが漂う強撃が襲い掛かって来たし!!
このほぼ真上から襲い掛かって来る雷撃を死ぬ思いで躱せば一発捻じ込めるぜ!!
いいか!? 絶対に相手の攻撃を見誤るなよ!?
もう一人の自分に強くそう言い聞かせてやると。
「はぁっ!!」
恐ろしい攻撃が降り注いで来る攻撃を後ろでは無く、前に向かって勢い良く飛び出して回避。
絶好の攻撃位置に身を置いて右の拳に火の力を宿すと。
「食らぇぇええええ!!!!」
隙だらけのビビヴァンガの左脇腹に勢い良く拳を捻じ込んでやった。
こ、この感触は……。
拳から伝わるのは肉を打つ感覚では無く何だか超――巨大な岩をブッ叩いている様な、大変硬い感触であった。
あ、あっれぇ?? おっかしいなぁ……。
普通の相手なら人体の弱点の一つでもある脇腹に強力な一撃を食らえば、多少なりとも体が動揺するってのに……。
コイツと来たら動じる処か、お前の攻撃はその程度かと余裕を含ませた瞳で俺をジロリと見下ろしているしっ。
「あ、あはは。大変強力な装甲で御座いますわねっ??」
自分の体に攻撃を加えられて憤り全開の顔色で俺を睨み付けているビビヴァンガに取り敢えず白い歯を見せてやった。
「貴様の攻撃は微風に撫でられた様なものだ」
「あっそう。でも、知っているか?? どんな強固な装甲を誇っている巨大な岩でも、水や風の力が膨大な時間を掛けて侵食すればいつか砂となって消えちまうんだぜ??」
「その前に……。貴様の存在を消滅させてやる!!!!」
やれるものならやってみやがれ!! この巨大な独活の大木がぁ!!!!
そう叫ぶ前に右の拳が襲い掛かって来た!!
「んひぃっ!?」
左手で右の拳を往なし。
「んにゃっあ!!!!」
続け様に下方から打ち上げられた左の拳を交わして再び前に出ると、今度は右の脇腹に激烈な拳をブチかましてやった。
死を予感させる強力な攻撃を躱し続けて隙が出来たのなら懐に飛び込んで攻撃を加える。
傍から見れば生肉に集る蝿の様な動きに見えるだろう。
でも、これこそが今出来る最善の策なのだ。
野郎の身長と腕の長さ、そして突撃の速さ。
奴の間合いは俺のそれよりも広く、少しでも離れれば俺に攻撃の手は残されていない。
激痛を、恐怖を、死を恐れずに前に出て俺の間合いに奴を置き続ける事が輝かしい勝利に繋がるのさ。
「ガァァアア!!!!」
当たらない事に痺れを切らしたビビヴァンガが俺の脊髄を破壊しようとして上空から勢い良く拳を振り下ろして来る
「またまた頂きぃ!!」
一見死が蔓延る危険地帯に見える位置に向かって飛び込み、鳩尾の位置に強力な魔力と勇気を籠めた一撃を打ち込んでやった。
本当は無駄にデカイ顔面を思いっきりぶん殴ってやりてぇが、互いの身長差が有効打を打ち消してしまう。
ほら、背伸びして顔面を殴っても効果が無いだろ??
拳に伝わるのは相も変わらず大変硬い感触だが一度や二度じゃコイツの装甲は破壊出来無いとは分かり切った事さ。
「……っ!!」
俺の攻撃を受けて刹那に息が止まり、超接近を許してしまった自分に憤りを隠せない奴は周囲に集る蝿を振り払う様に左の拳を解き放った。
「くっ!! ったく……。頑丈なのも大概にしろよな」
直撃を受けたら確実に負けに一歩近付くであろう攻撃を回避し、奴からある程度の距離を置いて話す。
い、今のは危なかったぜ……。
もう少し躱すのが遅れていたら顎の骨がぶっ壊れていただろうさ。
「何度も同じ事を言わせるな。貴様の攻撃は通用せん」
「それは分からねぇぜ?? 一発一発は効かないかも知れないけど、この一発がいつか勝利への道を切り開いてくれるのさ」
「そうか……。それなら何度も打って来るがいい!!!!」
「うぇっ!?」
ま、また馬鹿正直な突撃かよ!!
コイツは近付いてぶん殴る事しか能が無いのか!?
奥歯をぎゅっと噛み締めて愚直で素直な攻撃を避け、奴が続け様の攻撃態勢を整える前に再び強固な装甲を打ち破る為に矮小な攻撃を与えてやった。
「お、おいおい。アイツ……。さっきから一発も貰っていないぞ??」
「あぁ、でもビビヴァンガは奴の攻撃を貰っても全然堪えていないみたいだし。いつかは攻撃に掴まって負けるだろう」
観客のどよめきの中から微かに聞こえて来た台詞に思わず賛成しかけてしまった。
俺の当初の作戦は……、名付けて。
『小さな事からコツコツと作戦』 だ。
俺は相棒の様に詰んでしまった盤面をひっくり返す強力な力を持ち合わせてはいない。では、働き蟻程度の力しか備えていない者はどうするべきか??
その答えは簡単だ。
雨垂れ石を穿つと言われている様に辛抱強く攻撃を加え続けて行けばいつか、そういつか装甲にヒビが入り有効打を与えられる様になるのさ。
次鋒戦が始まり作戦を実行し続けているが……。何だか己の拳が猛烈に矮小なモノに見えて来やがった。
ほぼ全力でぶん殴っているのにビビヴァンガは顔を顰める処か、涼しい顔をずぅっと浮かべているからな。
だが、それは演技かも知れない。ほら、戦いの時は痛みを矢面に出せばそれに付け込まれるだろ??
もしも演技では無かった場合は……。俺の当初の作戦は無効であると証明されてしまう。
頼むから演技であってくれと願う一方で本当に効果が無いと懐疑的な考えもぬるりと首を擡げて湧いて来てしまう。
くそ!! 後ろ向きな考えを抱くんじゃねぇ!! 肝心要の作戦の第二段階を発動する為にも!!
奴の装甲を少しでもいいから今の内に剥しておかないといけないのさ!!!!
「食らいやがれ!!」
雄臭い香りがプンっと漂う距離に身を置いてビビヴァンガの右脇に攻撃を加えたが、俺の予想は悪い意味で現実のモノとなってしまった。
「いい加減にその攻撃を止めたらどうだ??」
肌と筋力に微かに伝わった衝撃をじっくりと味わう様に楽しんでいる様子の野郎が余裕を持った表情で俺を見下ろしているのだから。
「いいや、止めないね。俺は諦めの悪い男で通ってんだよ」
奴から距離を取り、荒い呼吸を整えつつそう言ってやる。
「そうか、それなら……。無理矢理にでもその下らない攻撃を止めさせてやる!!」
「う、嘘だろ!?」
ビビヴァンガの瞳が刹那に真っ赤に光るとこれまでの突進が赤子のヨチヨチ歩きに思える程の速度に上昇。
「グェッ!!!!」
此方が構えるよりも早く馬鹿デカイ手が俺の首を掴み、そして楽々と宙に浮かしてしまった。
「カ、カハッ!! ご、ごの野郎……。離しや゛がれ」
万力で首を絞められ続けている喉の奥から声を捻り出す。
「刹那とは言え俺に古代種の力を解放させたお前の力は認めてやろう」
「グギギギギィィイイ!?!?」
両手で野郎の右手を握り締めて拘束を解除しようとするが全く動きやしねぇ!!
何だよこれ!? 馬鹿力なのもいい加減にしろよな!!
無意味に両足をばたつかせて気を失わぬ様にしていると、南龍側からドスの利いた声が放たれた。
「遊ぶのはそこまでだ。早く勝負を決めろ」
「はっ、申し訳ありません。ストロード様」
こ、こいつ。戦いの最中に余所見とは随分と余裕じゃないか、えぇ!?
「デメェ!! 俺を無視ずんじゃねぇ!!!!」
南龍側の戦士を率いる隊長の方へビビヴァンガが振り返る瞬間を逃さず、火の力を籠めた右足を顔面に放り込んでやった。
ど、どうだ!? 腰が入っていないけどかなりの衝撃だった……。
「……ッ」
あ、あら――……。全く堪えていない御様子ですわね。
俺の一撃を受け止めて微かに赤く染まった鼻にはこれでもかと皺が寄せられ大変分かり易い怒りを表している。
地獄の番人も奴の顔を捉えたらアワワと口を開き、ペタンと腰を落として後退りしてしまう事だろうさ。
「あ、あはは。蹴っちゃってご、ご、御免ね??」
「この……。くたばりぞ来ないがぁぁああああああ――――ッ!!!!」
ビビヴァンガが俺の体を宙に向かって乱雑に放り捨てると、俺が防御態勢を取るよりも早く隙だらけの腹に向かって激烈な足撃を放ちやがった!!
「ウゴバッ!?!?」
五臓六腑が目を白黒させる雷撃が体を穿つと天然自然の法則に従って体が後方へと吹き飛ばされて行く。
「ウギッ!!」
地面に一度衝突して跳ね。
「アギャッ!?」
二度目の出会いは後頭部から、そして最終最後に待ち構えていたのは闘技場内の分厚くて硬い壁だ。
「ウゲェベッ!?!?」
猛烈な衝撃が後頭部から、背中から前に抜けて行き出したくも無い呻き声を出して地面に倒れ込んでしまった。
い、い、いてぇ……。
真面にたった一発を食らっただけでこっちの気合と闘志が根こそぎ消滅してしまう程だ。
このまま地面に横たわったまま眠れたらどれだけ楽だろうなぁ……。でも残念ながらそれをヨシとしない人が三名程居るのですよ。
「ダン!! テメェ!! いつまで呑気に寝ているんだ!!」
「貴様の馬鹿みたいに頑丈な体ならまだまだ戦える筈だ」
「早く立て馬鹿者。俺との組手の方がもっと苛烈であっただろう」
コイツ等……、俺が何も言えそうにないからって好き勝手に言いやがって!!
「――――。あ、あのねぇ!! 少しは友人の体を労わった言葉を掛けるべきじゃないかな!!!!」
地面の細かい砂をぎゅっと握り締めて甘えたがりの体に激烈な鞭を打って起き上がり、今し方ふざけた台詞を吐いた三名を睨み付けてやった。
「有り得ないだろ……」
「あの一撃を食らっても無事だなんて」
「お、おいおい。嘘だろ?? ビビヴァンガの攻撃を真面に受けて立ち上がる処か叫ぶのかよ」
「カイベルト。彼等を甘く見ない方が良い」
俺の頑丈さに驚いたのか南龍側の戦士達と観客からどよめきが広がって行く最中、此方の体の上体を一切合切考慮しない非情の計上が開始されてしまった。
「一――ッ!! 二――ッ!!」
「へいへい、十秒以内に戻ればいいんでしょ、戻ればぁ!!」
立って歩くだけでも辛いってのにこれからまた非情な痛みが待ち構えている戦闘場に上らなきゃいけないんだぜ??
ったく、巨龍と戦うのは骨が折れますよ……。
「ぜぇっ……。ぜぇっ……」
酷い痛みが体全身にしがみ付き只歩くだけの行為を阻害してしまう。
強烈な痛みによって視界が酔っ払った時の様にグルグルと回り、体内の胃袋は巨大な双丘を持つ女性が軽く駆けている時の胸元の様にタワンタワンと上下に揺れ動く。
徐々に気持ち悪さが募って行き、闘技場の壁と戦闘場の中間地点で胃の中のモノが口から飛び出てしまった。
「オェッ!! ゴホッ!!!! はぁっ、はぁっ……」
真っ赤に染まった吐瀉物からして、口内か若しくは体内の臓器の何処かが傷付いたな……。このまま戦闘場に戻っても勝てるかどうか……。
「よぉ、ダン。ちょっといいか??」
「四――ッ!! 五――ッ!!!!」
「何だよ、フウタ。そろそろ戻らないと失格になっちまうんだけど??」
頭部から零れ落ちて来る血を右手の甲でクイっと拭い、蟻の歩みより遅い速度で戦闘場に向かいつつ背に言葉を放つ。
「奥の手を先に出すのはちとやべぇけどさ。それを出し惜しみして勝てる相手じゃねぇだろう?? 俺様はその所為で一回戦は負けちまったし」
あぁ、言いたい事はそういう事ね……。
「へいへい。忠告痛み入りますよっと!!!!」
「七――ッ!! 八――ッ!!!!」
戦闘場の淵に手を乗せ、ほんの少しだけ痛みが治まった体に喝を入れて両足を戦闘場に突き立ててやった。
「すっげぇぇええ!! アイツ、攻撃を真面に受けて戻って来やがった!!!!」
「しかもまだまだ戦うみたいだぜ!?」
俺の奮闘に観客達が湧くのは嬉しい事なのですが、君達が湧く一方でこっちの気分は下降の一途を辿っていますよ――っと。
「へ、へへっ。お待たせっ。また戻って来たわよ??」
戦士の色に染まっていた顔が少しだけ驚きに染まっているビビヴァンガに向かって軽く片目をパチンと閉じてやった。
「フッ……。本気で蹴ったのに生きていたのか」
「御蔭さんで朝ご飯を少し吐いちまったよ。さぁ――って……。今度はこっちの番だな」
軽く首を左右に傾けて体中の部位を確かめて行く。
両腕は問題無く動く。両足は……、まぁ多少震えているけど大丈夫だろう。
内臓関係は徐々に痛みが収まりつつあり、魔力も気力も十二分だ。
ちゅまり!! これから反撃の狼煙を上げるのに何も問題無いって訳さ!!
「すぅぅ――……。ふぅぅ……」
腰溜めの位置に両拳を置いて魔力の源から異なる属性を取り出して体に流し込んで行く。
火の力が体の闘志を沸々と温め、光の力が心に勇気を与えてくれる。
相棒達との組手、力の森の内部で得た経験によってこれまで以上に魔力の扱いが上手くなったと理解出来るぜ……。
「ハァァアアアア……。ずぁぁああああああああ――――――ッ!!!!」
体内を縦横無尽に駆け回る二つの属性を混ぜ合わせ、そして丹田の位置に力を籠めて留めてやると桜花状態を発動。
「こうなったら手加減出来ねぇからな!? 覚悟しておけよ!!!!」
目の前に聳え立つ巨大な壁に向かって思いの丈を叫び、そしてそれを乗り越える為に死の恐怖を捨てて四肢に力を籠めて突撃を開始したのだった。
お疲れ様でした。
まだまだしつこい風邪が体中にしがみ付いていてかなりキツイ状態が続いていますね……。
鼻水はまぁ我慢出来ますけど喉の痛みはちょっと勘弁して欲しいですね。風邪薬とポカリスウェット、更に滋養強壮満点のちょっと高い栄養剤を飲んで横になりましょうか。
次の投稿なのですが、暫くの間番外編を更新しておりませんでしたのでそちらの方を更新した後に本編を投稿させて頂きますね。
そして、ブックマークをして頂き有難う御座いました!!
風邪で体力が落ちる中、嬉しい励みとなり執筆活動の嬉しい知らせとなりました!!!!
それでは皆様、体調管理に気を付けて引き続き連休をお楽しみ下さいませ。