第百九十話 覇王継承戦 決勝戦に集う戦士達
お疲れ様です。
本日の投稿になります。
青き空の中に浮かぶ雲達は遠い彼方からやって来る風に身を任せて思いのまま静かに流れ続けている。
本日の風は俺の胸の内とは裏腹に大変穏やかでありその流れに乗る雲達も体を弛緩させて身を委ねていたのだが、相棒の猛禽類特有の鋭いキリっとした表情が猛烈な勢いで迫って来るとギョッとした驚きの顔を浮かべてしまう。
雲達に手や足が生えているのならば相棒の突貫を避ける為にそそくさと頭を垂れて道を譲るのですが、生憎雲達は移動手段を持たぬ。
「お、おいおい。もう少し落ち着いて飛べよ」
白頭鷲の強烈な体当たりを食らった雲達は強烈な風の余波を真面に受けてしまい散り散りの細かい破片へと変化。
時間の経過と共にその存在を世界から消失させてしまった。
「俺は落ち着いているぞ。決勝戦の開始時刻に間に合わなかったら本末転倒だからな」
「決勝戦の開始時間は十時頃だろ――?? 湖を出たのが八時位だし、それにグシフォスの奴もそんなに慌てた様子じゃねぇじゃん」
相棒の背の上でだらしない姿を披露するフウタが随分と後方に見える大きな龍の影へと指を差す。
「アイツの場合は覇王継承に興味が無いからな。しかし、俺は強敵と対峙する今日この日の為に己の刃を鍛えて来た」
「某もハンナの意見に同意する。更なる高みに昇る為、強敵と相対する機会が消失するのは痛手だからな」
ハンナが正面を見据えたまま静かにそう話すと黒頭巾に覆われたシュレンは彼の意見と同調する様に小さく頭を上下させた。
穏やかな空の中には少々不釣り合いにも映る強き気が三名の双肩から微かに滲み出す。
気の強い連中だ。
彼等の頭の中にはもう既に強敵の影が朧に浮かび仮想戦闘を繰り広げているのだろう。
物騒な三名に比べて俺の場合はどうだろう??
相棒に大怪我を負わせた報いは必ず受け止めて貰うと息込んで鍛え始め、それから時間が許す限りビビヴァンガをブチ倒す為の作戦を練り、それを実行出来る様に新たなる技の開発と可能な限り体を鍛えて来た。
万全とは言い難いがあの化け物に一矢報いる準備は整えたつもりだ。
しかし……、その……。何んと言いますか。
頭では完全完璧に勝利を手繰り寄せる作戦を思い描いているのですが、体がそれに付いて来れないと言うべきか。
徐々に闘志を燃やして心を真っ赤に染めている横着坊主達とは違い、俺の心は少々荒れ模様の凪が目立つ心でいた。
何もこの緊張とも不安とも捉えられる状態が悪い訳では無い。
殺気全快で相手に噛みつこうとする獰猛な犬よりも御主人様の御命令を待機しつつ己の牙を研いでいる猟犬の方が戦いに向いていると思うんだよね。
己に強くそう言い聞かせて空の果てをぼぅっと見つめているとフウタが話し掛けて来た。
「よぉ、ダン。らしくねぇじゃん」
「は?? 藪から棒にどうした」
「血で血を洗う死闘が俺様達を待ち構えているんだぜ?? そぉんな腑抜けた気のままだと勝てる試合も勝てねぇぞ」
あぁ、こいつなりに俺の身を心配してくれているのか。
「わりっ、その時が来るまでにはキチンとしておくよ」
鼠の姿に変わるとお気に入りの場所なのか、俺の頭の上に素早く登ると右前足で無意味にペシペシと叩いて来る。
「アイツはハンナに上等ブチかました張本人だからなぁ。生易しい仕返しじゃ物足りねぇぞ」
「ん――。相棒の仇は取るつもりさ」
仇を取るつもり、己の実力を試す為に等々。生半可な気持ちであの化け物に向かって行くとそこに待ち構えているのは惨たらしい敗北だ。
強力な技や魔法を容易く跳ね退ける装甲、大の大人を紙屑の吹き飛ばす馬鹿力に瞬間移動かよと思わず突っ込みたくなる踏み込みの速さ等々。
ビビヴァンガが持つ武器は俺のそれよりも数段上の威力を持っている。
その差を埋める為にこの死刑執行猶予期間である四日間で技と策を練って来たのだが、果たしてそれが通用するのかどうか……。不安で仕方がないってのが本音だ。
見えない未来にモヤモヤするよりも、戦闘場の上で血だらけになって倒れている敗北者の姿を想像するよりも今自分に出来る善処を尽くすべき。
いや、善処は俗に言う負け犬の言い訳だな。
あの化け物を絶対にブッ倒すという強い想いを胸に抱いて死闘に臨むべきだ。
「おぉっ!! 相変わらず叩き易い頭だぜっ」
上下に素早く動く前足を手で跳ね除け、ちょいと抜けている気を改めて引き締めてやるとこの大陸で最強最大の激闘が繰り広げられる闘技場が遂に見えて来やがった。
「相棒。見えて来たな」
鋭い瞳で闘技場を捉えた相棒は徐々に速度を落として降下の準備に入り、美しい空の中で旋回行動を開始する。
「あぁ、いよいよ雌雄を決する戦いが始まるのだ」
相棒の言葉の中には強烈な決意に似たものが確認出来る。
ハンナの頭の中は既に戦闘一色に染まっているのだろうさ。そして敢えて俺の顔を直視して話した理由は……。
『その心のままでは敗北を喫するぞ。強い気を持て馬鹿者』
言葉では伝えなくても視線一つで伝えようとしたからであろう。
有難うな、相棒
俺達で超カッコイイ勝利を飾ってグシフォスに覇王の座を与えてやろうぜ。
相棒の背に生え揃う撫で心地の良い羽を優しく撫で、もう既に満員御礼の状態であると確知出来る闘技場を見下ろしてやった。
「あらよっと!! ふぅっ!! 到着だなっ!!!!」
人の姿に変わったフウタが相棒の翼の上から軽やかに降りると地面の上に足を突き立てて息を漏らす。
「雨雲も見当たらない絶好の天気に轟々と燃える闘志っ!! 激闘に相応しい日だぜ!!」
「俺はお前さんの能天気と怖いもの知らずが羨ましいよっと」
相棒の背から飛び降り必要最低限の荷物が入った背嚢を右肩に掛けて闘技場の経年劣化した背の高い壁を見上げた。
壁の向こう側から漏れて来る観客達のナニかを期待した声援の音量からして激闘を今か今かと待ちきれぬ様子が容易に窺える。
「早く戦いを始めろ!!!!」
「そうだそうだ!! 血沸き肉躍る戦いを早く見せてくれ!!!!」
「我等巨龍一族こそが至高である事を証明してやれ――――ッ!!!!」
一刻も早く素晴らしい戦いを己が目に収めたいのは重々理解出来ますけども、その当事者としては些か億劫になるのでも――少しだけ慎ましい声を上げて貰っても宜しいでしょうかね??
「全く……。喧しい連中だな」
空高い位置から一頭の赤き龍が大地に足を突き立てると呆れた吐息を漏らして壁の向こう側へと視線を送る。
「グシフォス、やっと来たのかよ」
随分と高い位置にあるゴツゴツした龍鱗に覆われている頭を見上げて話す。
「まだ時間には余裕があるからな」
彼が人の姿に変わると体の前で腕を組み静かに両目を閉じた。
「さっさと中に入ろうぜ!! 足が逸っちまうぜ!!」
「フウタ、案内の者が迎えに来るまで大人しくしていろ」
選手入場を待ち侘びて今にも東龍の通路へと向かって進んで行きそうな様子の彼をシュレンが咎める。
「けっ、こちとら準備万全だってのに……。この時間で俺様の闘志が消えちまったらどうするんだ」
たった十分程度の待ち時間で消える程の弱火力なのですか?? お前さんの闘志は。
「まっ、ゆっくりのんびり過ごして集中力を高めようや」
鋭い眉の角度で己の態度を如実に表しているフウタの肩を優しく叩くと地面にドカっと座り背嚢に背を預けて体を弛緩させた。
この僅かな時間でも貴重だからな。有効活用させて貰うぜ。
瞳をそっと閉じて呑気に足を組み、足を組んだ上の右足をプーラプラと揺れ動かしつつあの化け物との仮想戦闘を頭の中で思い浮かべて行く。
生半可な攻撃は通用しない事は先の戦闘で証明済み。
ちゅまり、渾身の一撃でなければ奴の体に痛みを与える事は叶わないのだ。
通常攻撃はあくまでも牽制用にしてぇ、奴の注意が逸れて防御網に穴が見えたらそこにすんばらしい一発を捻じ込んで輝かしい勝利を己が手中に収めて天高く掲げる。
そ、そして俺の劇的な勝利に魅入った龍一族のカワイ子ちゃん達と素敵で熱い夜を……っ!!
「む、むふふっ……」
「おい、気持ち悪い笑い声が漏れているぞ」
ちっ、女の子の素敵な柔肌を想像していたら相棒のぶっきらぼうの声の所為で消えちまったよ。
「もう折角良い所だったのに」
静かに両目を開けて何か汚い物を見つめる様な瞳を浮かべているハンナをジロっと睨んでやる。
「どうせ下らない想像をしていたのだろう」
「無きにしも非ず、といった所でしょうかね。それよりも……、へへ。俺達を死刑執行台に案内する死神さんがやって来たみたいだぜ??」
東龍側の通路の影の中から足音を一切立てずに案内役の男性が静かに現れ、俺達の前に到着すると感情が一切籠められていない表情のまま口を開いた。
「グシフォス様並びに東龍の戦士様。覇王継承戦、決勝戦の準備が整いましたのでご案内させて頂きます」
案内役の男性が静かに頭を下げると再び東龍の通路へと踵を返す。
「っしゃああああ!! 行くぜ!! 俺様の後に続けぇぇええ――――!!!!」
それを追う様に元気一杯の次男坊が続いて行った。
「はいはい、お母さんを置いて行っちゃ駄目って何度言えば伝わるのかしらねぇ」
呆れた吐息を漏らしてフウタの後に続き、涼しい影が広がる東龍の通路に足を一歩踏み入れた。
「「「……」」」
仄暗い通路に響くのは戦士達の微かな吐息と足音、それと全方向から聞こえて来る観客達の声援だ。
一歩、また一歩と戦闘場に近付いて行くに連れて心臓が激しく鳴り始めてしまう。
この緊張感は戦闘による死を連想した恐怖からなのか、それともあの光の先に待ち構えている強敵との死闘を想像したものなのか。
それは定かでは無いが四肢に漲る力や胸の内に渦巻く高揚感からして良い方向に緊張感が働いていると感じ取れる。
願わくば五体満足で戦闘場から下りたいけども巨龍一族の身体能力は伊達じゃあないので恐らくそれは叶わないだろう。
用具入れの隅のボロ雑巾よりも酷いナリになれ果てた自分を想像するよりも今は……、輝かしい勝利を掴み取り美女と肩を組んで家に帰る誇らし気な自分を想像しましょうかね。
刻一刻と戦闘場が近付き出口から届く声援の音量が俺達の移動音を掻き消す程に高まる。
その音に手を引かれる様に通路の影から陽の下に出ると思わず狼狽えてしまう程の音の波が俺達に襲い掛かって来た。
「「「「ワァァアアアアアアアアアア――――――ッ!!!!!!」」」」
「東龍の戦士達が出て来たぞぉぉおお――ッ!!」
「巨龍族に目に物を見せてやれよ!!!!」
「ワハハ!! それは無理だな!! 我等巨龍一族こそが至高の龍なのだから!!!!」
「やって見なきゃ分からねぇだろうが!!!!」
「あぁ!? テメェ!! 今言った台詞絶対に忘れんなよ!?」
あ、あらら……。
戦いが始まる前だってのに凄い熱気だこと……。
口をぱっかぁぁんと開き俺達を三百六十度取り囲む観客席に視線を送るともうそこは興奮の坩堝と化しており、ちょっとやそっとの出来事では彼等の興奮具合を鎮める事は不可能であろうさ。
「うっるさ!! 何だよ!? この馬鹿げた音量は!!」
ド派手な事が大好きなフウタもこの音圧に耐えられなかったのか、両手で両耳を抑えて苦言を吐く。
「それだけ某達の戦いを渇望していたのだろう」
「例えそうでも限度ってものがあるさ。ん?? おい、グシフォス。シュランジェちゃんとベッシムさんが北龍側の観客席じゃなくて東龍側の観客席に居るぞ」
親の仇を見付けた様な険しい表情を浮かべているグシフォスの右肩をちょいちょいと突いて促してやる。
「グシフォス様ぁぁああ――――ッ!!!! 貴方なら絶対に勝利出来ますよ――――ッ!!!!」
シュランジェがグシフォスの背に向かって大声援の中でもはっきりと耳に残る声援を送る。
は、ははっ。敵地に塩を送ってもいいのかい??
一回戦で自陣の戦士達が負けたから応援側に回ったのかしらね??
「北龍は既に敗北したのだ。何処で誰を応援するのも個人の自由だ」
「そ、それならいいんだけど……。ってか、手ぐらい振ってやれよ。そうじゃないといつまで経ってもあの超ド級の声援を送るのを止めそうにないし」
彼女の顔は喉から大声援を捻り出している所為かグシフォスの髪も驚く程に朱に染まり、彼の勝利を誰よりも強く渇望しているのか両目がちょっと引いちゃう位に血走っている。
狂戦士も思わず真っ青になってしまう鬼気迫る表情は何だか東龍側の観客席でも酷く浮いた存在になっていた。
「ふん……。喧しくては戦いに集中出来なくなる可能性があるからな」
グシフォスが鼻から長々と息を漏らすと東龍側に視線を送りそして、件の彼女に向かってスっと右手を上げた。
「ッ!! グ、グシフォス様が私にだけ右手を上げてくれました!!!! こ、こうしてはいられません!! 皆さん!! さぁ必勝の鉢巻を付けなさい!!」
は?? 必勝の鉢巻??
シュランジェが東龍の観客席に居る観客達に指示を出すと。
「「「「ッ!!!!」」」」
俺達が来る前に配り終えていたのだろう。
必勝ッ!! と書かれた細長い白色の布を額に巻き付けて俺達の総大将であるグシフォスに声援を送った。
「「「「グシフォス様――――ッ!!!! 絶対に勝って下さいねぇぇええ――――ッ!!!!」
「あの馬鹿共が……。これを祭りか何かと勘違いしていないか??」
「その割には嬉しそうな顔をしているぞ??」
微かに上向く口角、双肩から滲み出る陽性な感情が物言わずともそれを物語っているし。
「ってか、ベッシムのおっちゃんは鉢巻付けて無いぜ??」
フウタの声を受けて彼に視線を送ると……。
「ベッシム!! 何故貴方は必勝の鉢巻を付けないのですか!?」
「あ、いや……。これを着用するのは少々勇気が要りますので……」
「そうだよ!! お姉ちゃんの言う通りにしてよ!!!! ベッシムさんの所為で負けたら僕怒るからねっ!!!!」
彼は何んとも言えない表情を浮かべてシュランジェからの鉢巻の受け取りをやんわりと断っていた。
あ、あはは。面倒な絡みを受けて辟易していますね。
そりゃそうだろう。
グシフォスの許嫁であるシュランジェなら兎も角、ベッシムさんは北龍の所属であり東龍とはこの覇王継承戦が終わるまでは敵対する関係なのだから。
好いている男が勝利を掴む為に元気の出る声援を送るのはとても素晴らしい事なのですが……。
シュランジェは残酷な事実を知らない。
そう、グシフォスが覇王の座に就いた暁には婚約関係を解消するという事実をね。
これは戦いが終わるまで黙っておこう。
今言ったらとんでもねぇ勢いで観客席から剣や矢が観客席から降って来そうだし……。
「で、では失礼して……」
「駄目です!! もっときつく巻きなさい!!」
「僕が手伝ってあげるよ!!!!」
「い、いやいや!! これ位は自分で出来ますので!!!!」
若い女性と頑是ない男児に迫られて辟易しているベッシムさんの姿を見つめて和んでいるとこの感情を容易く打ち消してしまう轟音が南龍側の観客席から放たれてしまった。
「「「オオォォォォオオオオオオオオ――――――ッ!!!!!!」」」」
「あ、あははぁ……。すっげぇぞ、地面が揺れてらぁ……」
不動の大地が音の波によって微かに揺れ始め、土の上に存在する無数の小石や砂が揺れと同調して震え始める。
巨大な生物の足音が地鳴りの様に轟きながら遠い場所から此方に向かって来るという錯覚を感じてしまう事象に思わず首を傾げたくなった。
数百を超える大柄な人型の男女が腹の奥から力を籠めて喉が張り裂ける勢いで咆哮すると地面が揺れる。
うん、また一つ勉強になりましたっ。
そして南龍の戦士達が通路の影から陽の下に出て来ると地面の揺れが一段階激しくなってしまう。
「ウォォオオオオ――――ッ!! 我等巨龍一族に勝利を齎し賜え!!!!」
「ストロード様――ッ!!!! 必ず勝って下さいね――ッ!!」
「東龍の戦士達の血で戦闘場を真っ赤に染めろ――――ッ!!!!」
こらこらぁ、物騒な台詞を吐かないの。
彼等がそれを真面に受け取って実践しようとしたら不味いじゃない。
「「「「「……ッ」」」」」
ストロードを先頭にして現れた五人の強力な戦士達が俺達の方へ視線を送る。
一人一人が放つ圧は言わずもがな。
一騎当千の桁違いの力を持ち、それが五名も重なれば誰だって冷や汗を掻くであろうさ。
「ふ、ふぅ――。いやぁ今日は蒸すなぁ――」
額からじわりと湧いた汗が粒となって頬を伝い落ちる。
それを右手の甲でクイっと拭いつつど――頑張っても見苦しい言い訳を放ってやった。
「ダン、気を強く持て。相手の圧に呑み込まれた発揮出来るものも出来なくなってしまうぞ」
シュレンが俺の背を優しく叩いて気を紛らわしてくれる。
「んっ、あんがと。多少は楽になったさ」
「うむ、それで良い」
口角をニっと上げて彼の顔を見下ろすと黒頭巾で覆われているシュレンの口元辺りがモゴモゴと動く。
ふぅむ……。表情全ては窺えなかったけども、今の動き方そして目元からして多分笑ったんだよな??
四角四面のシュレンの笑顔は大変貴重ですので是が非でも拝みたかったぜ。
「それでは今から覇王継承戦、決勝戦を始める。覇王様、何か御言葉を」
「両者死力を尽くして戦え」
「聞いていたか選ばれし戦士達よ。双方死力を尽くし、双拳に力を籠めて戦うのだ!!」
進行役の男性が先の戦闘と同じ位置に現れ、そして現職の覇王様が観客席の最上段に位置する王座に静かに腰掛けると戦いの始まりを告げる声が放たれた。
ほぉ、遠目から見てもちょいとヤベェ圧を放っていますなぁ……。
俺達の戦いを見届ける為、覇王は王座に優雅に腰掛けているのだが戦闘状態では無いのに体中から他者を圧倒する圧が滲み出ている。
あれだけの圧を放てるのはこれまで長い人生を過ごして来た経験と積み重ねて来た強さの賜物であろう。
初老を迎えている外見とは真逆の覇気を滲み出す覇王の姿を捉えると改めて気を引き締めた。
「これから行われるのは覇王様の御前で行われる次期覇王の座を決める神聖な戦いだ。それを努々忘れず胸に誇りを抱いて臨め。それでは両陣営の先鋒は戦闘場に上がれ!!!!」
「そんなに畏まったままじゃカッコイイ試合は出来ねぇって。んじゃ行って来るわ!!!!」
フウタが友人と遊びに出掛ける時の様に軽い調子で右手を上げると素早く戦闘場の上に足を乗せた。
「フウタ!! お前さんの戦いが俺達に影響を与えるんだぞ!! 頼むから真面目に戦ってくれよ!?」
アイツの場合は一々釘を差しておかないとこの大事な場面でも調子に乗ってしまいそうだし。
「うっせぇ!! んな事分かってぇ……。ン゛ッ!?!?」
ほ、ほらぁ……。もう既に嫌な予感がするしぃ……。
性欲に馬鹿正直なフウタが南龍の紅一点である女性戦士が戦闘場の上に足を乗せる様を捉えると大きく目を見開いてしまった。
「う、うっそ!! 俺様の相手って女性なの!?」
そうです。
君が違う意味で発奮しない様に俺達は今の今まで黙っていたんですよ――っと。
「女は殴らず、ベッドの上では大変優しく取り扱うをモット――に生きている俺様だけど……。今回の場合はちと状況が違うよなぁ」
「……」
女性戦士がいつも通りの調子を見せるフウタを冷静な瞳で見下ろす。
両者が対峙する様からして、女性戦士の背は凡そ百九十位って所か……。
南龍の男連中よりも僅かに低い背だが積載している筋肉は彼等となんら遜色ない。
「よぉ!! お姉さん!! 俺の名前はフウタってんだ!! そっちの名前を教えてくれるかい!?」
街中で好みの女性をナンパする口調で尋ねると。
「ディアドラ」
彼女は端的且必要最低限の文字数で彼の問いに随分と低い声で答えた。
「良い名前じゃん!! ぬ、ぬっふふぅ――……。超絶大盛の女性戦士が俺様の相手かぁ……。こ、こりゃ素晴らしい戦いになりそうな予感ですな!!!!」
『頼むからそっちじゃなくて戦いに集中してくれ』
「「「「「はぁぁああ――――……」」」」」
「ハッ、ハッ、ハッ!!!!」
発情期の雄犬よりも荒い吐息を漏らしている大馬鹿野郎の姿を捉えると俺達だけじゃなく観客席からも呆れた巨大な溜息が零れてしまったのだった。
お疲れ様でした。
帰宅時間が遅れてしまったので深夜の投稿になってしまいました。
大変申し訳ありませんでした。
次の話から決勝戦が始まります!!
各自の戦い方についてまだまだ葛藤が続いておりますので、次の投稿は少し遅れるかも知れません。休日を利用してざっとプロットを書く予定なのですが……。まだまだ苦悩の日々は続きそうです。
そして、ブックマークをして頂き有難う御座いました!!
覇王継承戦のプロット執筆活動の嬉しい励みとなります!!!!
それでは皆様、引き続き良い休日をお過ごし下さいませ。