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今日も今日とて、隣のコイツが腹を空かせて。皆を困らせています!!   作者: 土竜交趾
過去編 ~素敵な世界に一時の終止符を~
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第百八十九話 傑物を倒す秘策 その一

お疲れ様です。


本日の前半部分の投稿になります。




 空に浮かぶ太陽は本日も燦々と明るく輝き地上で暮らす者達に力強い光を送り届け、大地の上を通り抜けて行く風は種子を運び緑を耕し、この星を覆い尽くす空気はあらゆる生命体の糧となって存在し続けていた。


 悠久の時から続く天然自然の摂理は人生という長い道のりを歩いて行く上でその者の心に多大なる影響を与えているのが通説だ。


 晴れた日は心が軽快に踊り、土砂降りの雨の日は酷く沈み、猛烈な風が吹けば顔を顰め、雷鳴が轟けば億劫になる。


 この例に例えると、今日の俺の心は美女とお出掛けする時の様にキャッキャッと騒ぎ立てる筈なのだが……。


 通説はあくまでも通説であり例外がある事を忘れてはいけない。



「はぁぁ――……。ったく、あぁんな化け物をあてがわれたこっちの身も考えて欲しいものだぜ」



 横着坊主達の腹を満たす為に使用した調理道具を洗い終え、野営地の一画にキチンと纏めて置きながら溜息を漏らす。



 俺が死に別れた彼女の事を嘆く男性の様な重苦しい溜め息を吐いた理由は至極簡単。


 三日後に行われる死刑執行の事を考えているからだ。


 強力な魔法を跳ね返してしまう分厚い装甲、長い距離を一瞬にして零にしてしまう脚力に大地に深く根を下ろしている大木を容易く引き抜いてしまう腕力。


 俺の死刑を執行するビビヴァンガの強さを目の当たりにしてからというものの、口からは酷く重い溜め息しか出て来ない。


 親友なら此処で俺の身を案じる優しい言葉を掛けてくれるのですが。



『ギャハハ!! ご愁傷様――――ッ!!!! ぶん殴られても死なない事を祈るんだなっ!!』


『目の前に聳え立つ壁に嘆くな馬鹿者。某は壁が高ければ高い程やる気が出るのだぞ』


『情けない奴め。貴様の心は幼子以下の強さしか持ち合わせていないのか』


 等々。



 優しいのヤの文字も見当たらない言葉の数々を浴びせて来やがった。



 普通はね!? 頑張ろうよとか!! 怪我をしないでねとか!!


 友人と肩を組んで荒んだ心を癒す言葉の数々を降らして心を労わるんだぞ!?!?



 それなのにアイツ等は俺の事を軟弱者と決めつけ、今日も朝飯を俺に一任して礼も言わずにさっさと食い終えたのなら対巨龍一族の修行だ――とか体の良い言い訳を放って片付けもせずに森の中に向かって行きやがった。


 俺もその修行とやらに労力を割かなきゃいけないんだけども、片付けをしないと野郎共から苦言が放たれてしまうし……。


 世の主婦達がある日突然ブチ切れて夫に襲い掛かるその気持が多大に理解出来るぜ……。



「兎にも角にもこれで片付けはお終いっと。俺もあの巨龍をブッ倒す作戦を練らなきゃいけないよなぁ」



 体の前で手をパパっと払い、今日も美しい凪を見せてくれる湖へと視線を移す。


 微風に揺れる水面は大変穏やかであり空から降り注ぐ太陽の光が湖の青をより美しく際立たせている。


 湖と大地の境目には燃え盛る真っ赤な火よりも鮮やかな朱の髪の男性が本日も釣れない釣りに興じていた。



「よぉ、グシフォス。お前さんは体を鍛えないのかい??」


 新鮮な水が入った竹製の水筒、ちょいと汚れが目立つ手拭いに愛用の短剣二刀が入った背嚢を背負い力の森へ出掛けるついでに声を掛けてやる。



 ん――……。残念ながら今日も!! 釣果は全くの零ですな!!


 彼の背の後ろに置かれている水を張った桶には小蝿一匹さえも確認出来なかった。



「俺は俺なりに考えて行動しているから心配は無用だ」


 あぁ、はいそうですか――っと納得しかけそうになりましたが。


「いやいや、釣れない釣りをしながら言う台詞じゃねぇぜ??」



 お前さんの相手は南龍の隊長格であるストロードって言ったっけ?? 敵の戦力は未知数だが南の巨龍一族を纏めているのだから少なくとも他の戦士よりも強力な力を備えている筈。


 そんなべらぼうな化け物を相手にしなきゃいけないのかも知れないのにチミは只釣りに興じているのですよ??



「ふんっ。これは己の精神力を鍛える役割もあるのだ。例え天変地異が起こったとしても俺の心は微塵も揺るがぬ」


 そりゃあ数十年もの間、全く釣れない釣りに耐え切れているのだから大地震や大津波が来てもお前さんの心は揺れないだろうさ。


 でもね?? お母さんが言いたいのはそういう事じゃないの。


「心は鍛えられても体は鍛えられないだろ」


 そう、暴力的な行為の数々を目の前にしても心が揺れないのは大切だがそれを受け止めても倒れない体の強さが戦いには必要になってくるのだ。


「それも心配するな。俺は必ず勝つ。その結果は不変だからな」


 その根拠のない自信は一体何処から湧くのでしょうか?? 甚だ疑問が残る次第でありますっ。


「まっ、大将のお前さんまで戦いが回らない様に俺達で三勝を掴み取ってみせるさ」


 彼の肩を優しくポンっと叩き力の森の入り口へと向かって行く。


「あぁ、期待しないで待っているぞ」



 グシフォスがこの切羽詰まった状況でも釣りに興じているのは恐らく俺達四名が三敗すると踏んでいるからであろうさ。


 そうじゃなきゃ余裕ぶっこいて釣りなんか出来ねぇし……。


 アイツの期待を悪い意味で裏切って大将戦まで持ち込んでやるからな?? その時のお前さんの慌てふためく顔を是が非でもこの目に納めてやる。


 軽い柔軟運動を継続させつつ、南方向の清らかな森の中に足を一歩踏み入れると体の魔力が抑え付けられてしまう違和感がこの身を包み込んだ。



 この体の中をぎゅぅって抑え付けられる感覚は未だに慣れないな。



 だが、裏を返せば魔力を抑えられた状態で強力な力を発揮出来る様になればビビヴァンガの力にも対抗出来る様になる筈。


 アイツの馬鹿げた装甲に対して並大抵の力じゃ通用しないのは目に見えている。


 今、俺に課せられた課題はアイツの装甲を越える力をどうにかして身に付けなければならないのだ。


 相棒達も己に課せられた課題を克服しようとしてこの森の何処かで技や力を磨いている。


 俺も彼等に負けぬ様、そして奴に勝てる様にならないと。



「ん?? おぉ、丁度いい大きさの木があったな」


 俺の両腕を左右に一杯伸ばした長さでも到底足りない太い幹を捉えるとその麓に背嚢を下ろした。


「よいしょっと……。悪いね、ドデカイ体を借りるぜ」


 不動の姿勢を貫いて森の中を長い間見守り続けている大木さんに一言告げて腰を下ろして背を預ける。


 さてと、先ずはこの魔力を抑えられた状態で両手に魔力を溜める練習を始めましょうか。



「……」



 胸の中心の奥深くにある魔力の源を意識して目を瞑り、集中力を高めて行くと己の力の根源を掴み取る事が出来た。


 温かくそして明るい力を発する魔力の根源から燃え盛る火の力を探り出し、本当にゆっくりと胸の辺りから両手に向かって力を引きずり出す。


 相棒と聖樹ルクトに死ぬ程鍛えられて付与魔法を発現出来る様になったが……。


 物心付いた時からこれを実践していた魔物に比べれば俺の経験なんて微々たるものであろう。


 だが、それでも長きに亘る修練に身を置いてる者達と遜色無い発動時間にまで迫る事が出来たのは皆の力のおかげだ。言葉にも出したけど相棒やルクト、そしてフウタ達に改めて感謝しているさ。



「うぬぬ……」



 穏やかな川の流れが増水によって激流に変化する様に魔力の流れも力の発動と共に変化が現れ始めた。


 体内を一定間隔で循環している魔力の流れが苛烈に流動し始めそれと共に魔力の源も輝きを帯びて行く。


 この力の流れが四肢に行き渡ると各属性の特徴が出現するのですが……。



「あちゃ――……。やっぱり消えちゃうか」



 両手に宿す筈の火の力はまるで強風に当てられた霞の様に瞬く間に消失。


 魔力の流れも遅々足るものに変わり魔力の源の輝きも消え失せてしまった。



 魔力の源は正常に動き尚且つ魔力の流れも正常に作用している。


 それにも関わらず力が発動出来ないのはこの森の厄介な力が作用した結果である事は今の一連の流れで明確に認識出来た。


 まぁ勿論、魔力の源から火の力を引っ張り出す時にも巨人の手に掴まれたかの様な錯覚を覚えてしまう程の拘束感を掴みましたけども……。一番厄介なのは。



「力を留める、事か」


 折角高めた魔力を頑張って両手に宿したとしても。


『ハハッ、わりっ。それは駄目だぜ――』 っと。


 力の森の横着が作用してしまい己の両手にはなぁんにも残らないのだ。


 力を両手に宿す事は出来るのだから残す課題はそれを留める事のみ。


「言うのはものすごぉく簡単だけどさぁ。いざ実践ともなるとかなりの難易度じゃね??」



 試しにもう一度火の力を宿してみたのだが、何度やっても結果は変わらねぇよっと言わんばかりに瞬き一つの間に火の力が消えてしまう。


 通常の状態なら何の苦も無く行える行為が此処では超高難易度に変化。


 しかし、裏を返せば此処でその超高難易度な現象を、息をするよりも簡単に行える様になれば滅茶苦茶強くなれるのでは無いだろうか??


 いや、確実に一段も二段も高みに上れる筈だ。


 そしてこの最低条件を克服したのなら次の課題でもあるビビヴァンガの分厚い装甲をぶち抜く方法を考えなければならない。



「課題は山程あるけども、遠い場所にある終着点を見るよりも足元にある階段を見下ろして上って行きましょうか」


 口から長々と息を吐き体の力を弛緩させると三度、両手に向かって火の力を送り込み始めた。


「うぎぎぃ……ッ!!!!」



 両手に、四肢に火の力が到達すると力の森の作用が速攻で働き始め俺の両手から火の力を引き剥がそうと躍起になりやがる。


 奥歯、いいや。


 上顎と下顎に生え揃う全部の歯を噛み砕く勢いで噛み締めて目に見えぬ強力な手の力を懸命に跳ね除けてやるが……。


 残念無念。


 一度目、二度目よりかは留まっていた時間は長くなったが火の力を発動させるまでには至らなかった。



「ウキィッ――――ッ!! ぜっんぜん溜まらねぇじゃねぇか!!!!」


 ただでさえ蓬髪気味の髪をわしゃわしゃと両手で掻き、己の憤りを誤魔化す為に素早く立ち上がると大木の幹を思いっきり蹴飛ばしてやった。


「あ――、畜生!! 苛々するぅ!!!!」


 何で思った通りに事がすんなり運ばないんだよ!!


「ふ、ふぅ――……。お、落ち着け俺。此処で発奮しても無意味なんだからな??」


 肩で息を荒げる愚者にそう言い聞かせると再び胡坐を掻いて座り、呼吸を整えて荒ぶる心の水面を鎮めてやった。



 何でも一発で出来る奴なんか早々いやしないんだよ。


 まぁっ、世の中は大変広いので俺に与えられたこの難題をたった数時間で達成してしまう大天才も存在するだろう。


 しかし、俺は生憎世に稀に現れる天才では無く何処にでも居る凡才なのだ。


 天才は終着地点までの道を最短で開拓してしまうが。


 凡才である俺は失敗を積み重ね、努力を継続させ、輝かしい成功へと繋がる道をえっさほいさとじみ――にっ開拓しなきゃいけねぇんだよっと。


 ほら?? 良く言うだろ??


 どんな成功者でもすべからく努力しているって。


 古き時代から現代まで語り継がれている通説に従い努力を継続すべき。


「フンガァァアア――――ッ!! 絶対に成し遂げやるからなぁぁあ――!!」


 そう判断した俺は全く、これっぽっちも、矮小もぉ!! 己の両手に留まらない火の属性にヤキモキしながら失敗を積み重ねて行った。





お疲れ様でした。


現在、後半部分の編集作業中ですので次の投稿まで今暫くお待ち下さいませ。

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