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今日も今日とて、隣のコイツが腹を空かせて。皆を困らせています!!   作者: 土竜交趾
過去編 ~素敵な世界に一時の終止符を~
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第百八十六話 覇王継承戦 第一回戦 第三試合

お疲れ様です。


本日の投稿になります。




 覇王継承戦が始まって以来、一切止む事の無かった大歓声がダンの勝利によって静まり返る。


「「「……」」」


 ある者は彼の勝利を予想していなかったのか驚きの色に染まり、ある者は信じられない驚愕の事象を捉えたかの様に口元を両手で抑え。


 またある者は今でも北龍の敗北を受け止められないのか茫然自失となって静かに戦闘場から降りて行くレドファーの背を見送り続けていた。


 多くの観衆の大歓声を、騒ぎ立てる所作を見事に鎮めた此度の勝利者が某達の前に立つといつもの様に口角を上げて口を開いた。



「わはは!! どうだい!? ど――さ!! 超強力な龍一族から貴重な勝利をもぎ取ってやったぜ!!」



 普段なら良くやったと褒めてやる場面なのだが……。さも誉め立てろと言う態度が某の癪に障った。



「敵の攻撃が放たれる前に攻めるべきだ。貴様が躊躇している間に敵が迎撃態勢を整え、剰え強力な毒の一撃を受けてしまった。己の身体能力を過信した所為で向こうが次戦進出に王手を掛ける所だったのだぞ?? もう少し考えて戦え」


「ほっ??」



 むっ、某が言おうとした台詞をハンナに取られてしまったな。


 では、某は反省を深める意味でもう一言二言添えてやろう。



「ハンナの言う通りだ。レドファーが使用した毒の霧がダンの体の許容範囲を超える威力だったらどうするつもりだったのだ?? 次戦を控えて奥の手を使用する前に大敗を喫した馬鹿者と同じ末路を辿る可能性もあったのだぞ」


「へっ??」



 今も静かに治療を受け続けている同郷の大馬鹿者へ向かって指を差してやる。


 次戦を見据える事は大切だが出し惜しみをして勝てる相手では無いと、その判断の躊躇が直接的な敗因に繋がってしまったのだ。


 あの馬鹿者め。


 忍ノ者の登用試験の際に某に対して使用した奥義を使用すればヴァルドに勝てたかも知れぬのに。



「あの程度の雑魚に苦戦する様ならこれからの先の戦いは死を免れぬぞ。今一度考え直して戦いに臨め」


 そしてグシフォスが何度も瞬きを繰り返して不思議そうな表情を浮かべているダンに止めとなる言葉を放つと。


「テメェら!! 俺が折角勝って来たっての何で辛辣な言葉で迎えるんだよ!! ここはよく頑張ったね――、とか。良くやったぞ――、とか。褒める場面なんですけど!?」



 顔を微かに歪め、口を大きく開いて、汚い唾を放ちながら憤り全開の言葉を心の中から素直に解き放ってしまった。



「ふっ、冗談だ。これで勝負は五分と五分。相手に王手を掛けられるよりも此方としては戦い易くなったのが本音だ」


 このままでは隊の士気に関わってしまうと考え、ダンが調子に乗らない程度の褒め言葉を言ってやる。


「さっすがシュレン!! 俺の気持ちを労わってくれる心優しい子だよなぁ――」


 ダンが目元を三日月型に湾曲させ、陽性な表情を浮かべつつ某の頭を撫でる。


「や、止めろ。某はそういう意味を籠めて言ったのではない」


 好意の手を無下に払い、中堅戦に備えて軽い準備運動を始めた。


「んまっ、お母さんに対して辛辣な事」


「喧しいぞ。某はこれから戦いに臨む故、集中力を高める」


 友に送る親しき視線を受け取り戦闘場へと向かって一歩前に進んだ。



 ダンが褒めろと言った理由は確かに理解出来る。


 一度だけ負けられる余裕が見える状況と、一敗も出来ない逼迫した状況では心持ちが全く異なるからな……。


 奴が掴み取った一勝は只の一勝では無く、東龍を次戦へと進めさせる貴重な一勝になったのは確かだ。


 そして某が勝利を収めれば続くハンナの士気が高まり二回戦進出はより確実なものへと変わろう。



「これより第三試合を始める。それぞれの中堅は戦闘場に上がれ」



 進行役の男から低い声が放たれると心の臓が少しだけ五月蠅く鳴り始めた。


 ふっ、某もそれなりに緊張しているのか……。



 忍ノ者の登用試験の時と似たような感覚を掴み取ると心に闘志が自然と湧く。


 龍一族の力は他種族を凌駕する力を備えており一歩間違えれば大怪我は必至。


 我々鼠一族との種族差は歴然なのだがその差を技で、魔法で、戦闘時術で上回れば良い事だ。


 何も恐れる事は無い。某は強くなる為に故郷を出たのだから……。



「よし、では行って来る!!」


 微かな臆病風に吹かれている足に気合を入れて颯爽と戦闘場に上ると先の戦いよりも更に苛烈な歓声が闘技場内に渦巻いた。


「勝負はまだ五分五分だけど北龍の優位は変わらないからなぁぁああ――――っ!!」


「ギャハハ!! 何だよ、あの小ささ!! 俺達龍一族を嘗めているのかぁ!?」



 馬鹿者共が。


 戦士の強さは体躯の大小で決定されるモノでは無い。強さの本質はその者の魂の大きさなのだ。


 それが理解出来ていないから罵声を浴びせた奴は戦闘場では無く、観客席に居るのであろう。



「シュレン!! 頑張れよ――!!!! 無理は駄目だからなぁぁああ!!!!」


 鼓膜を震わす大歓声の中からダンの声援が微かに届く。


「安心しろ。某が二回戦進出に王手を掛けてみせる」


 悲壮と期待感が入り混じる何とも言えない表情で某の背に向かって声援を送ってくれた友に向かって静かに頷いてやった。



「ったく……。あんな雑魚野郎に負けやがって」


 某と戦う北龍の戦士が戦闘場に上がると辟易した吐息を漏らす。


「よぉ、そこのチビ。俺の名前はボウナって言うんだ。宜しくな――」


 口は悪い奴だが礼節を欠かさぬ態度は好感を持つぞ。


「某の名はシュレンと申す」


 此方に向かって軽く会釈をした男に向かい、此方も微かに頭を上下させて戦闘前の礼節を終えた。



 若干蓬髪気味の緑がかった黒き髪。


 遠目だが余裕で某の身長を超す体躯を誇り、四肢には武の道に通ずる者から思わず唸ってしまう吐息を勝ち取れる程の筋肉量を積載している。


 龍族特有の身体能力は外見から容易に看破出来、魔力の源から体全身に流れる魔力の力は某に匹敵する圧を持っている。


 ふむ……。力比べになったら余裕で押し負けてしまうが故、接近戦は不利か??



「両者、使用する武器はあるか」


 頭の中でボウナとの仮想戦闘を繰り広げていると進行役の男から野太い声が鼓膜に届く。


「某はこのクナイを使用する」


 懐から取り出した黒鉄の武器を進行役の男へ見せてやる。


「じゃあ俺はこの長剣を使用するわ」


 ボウナは左の腰に収めている長剣を一つ静かに叩いた。


「分かった。武器を使用する場合、己の得物が破壊されたら負けとなるので注意しろ」


「一つ質問なのだが。クナイは投擲して破壊された場合はどうなるのだ??」


 疑問に思っていた事を観客席の最下段から某達を鋭い瞳で見下ろしている進行役の男に問う。


「投擲して破壊されても敗北には至らない。使用者が保持している状態で破壊された時のみ負けとする」


 うむっ、合点がいった。


「了承した。それなら何も問題は無い」


「早く開始の合図を送ってくれよ!! こっちはずぅっとウズウズしてんだからさぁ!!」


 某の力を捉えたボウナが口角を微かに上げて今にも突貫を開始しそうな姿勢を取る。



「ヘヘ、こりゃ上物だぜ……。どうやって調理してやろうかなぁ……」



 此方の戦闘方法が不明であるのにも関わらず前傾姿勢を取るのは恐らく好戦的な性格がそうさせているのであろう。


 相手との間合いを測り、距離を取りつつ奴の弱点を誘き出す。


 先ずはこの戦い方に重きを置くべきだな。



 前傾姿勢を取るボウナに対し、若干後ろ足加重となってその時に備えていると。



「それでは第三試合……。始めッ!!!!」


 遂に龍一族との戦いの始まりを告げる声が放たれてしまった。



「行くぜぇぇええ――!! 俺の攻撃は苛烈だから気を付けなよ!?」


 風の力を宿したボウナが瞬き一つの間に某の間合いへと踏み込む。


「せぁぁああっ!!!!」


 風の力を解除させ、数舜の間に火の力を双拳に宿して某の目の前に弾幕を張る。



 ふむ……。


 同郷の大馬鹿者と同じく見た目は派手な攻撃。


 拳の連打の数々に一分の隙も見当たらない様に見えるが数が多ければ多い程、必然的に隙は生まれるものだ。


 この攻撃は恐らく牽制若しくは某の心の水面を揺さぶるモノであろう。


 現に某に向かって放たれる一発一発には微かな殺気が含まれているものの、絶命に至る程の強力な殺気は含まれていないのだから。



「ふんっ!!」



 顔面に襲い掛かる幾つもの攻撃の中からたった一つを選び、それを右手の甲で弾いて此方も前に出た。


 そら、貴様の誘いに乗ってやったぞ??


 この攻撃の意図を某に見せてみろ!!!!



「貰ったぁぁああ!!」


 某の攻撃が届く範囲に身を置くとボウナの左拳が地面から美しい軌道を描き顎へと向かい来る。



 苛烈な上昇速度、危険な角度、そして確実に相手を倒そうとする明確な意思が籠められた攻撃を視界に捉えると背に冷たい汗が一斉に湧いた。


 この奇妙な冒険に旅立つ前の某なら身を竦ませてこの一撃を受けてしまっていただろう。


 しかし、冒険の途中で出会った頼もしい友や摩訶不思議な経験が某を成長させたのだ。



「むんっ!!」


 薄皮一枚の距離まで迫り来た昇拳に対し、上体を逸らして紙一重で回避。


 続け様に反撃に移る為。


 上半身と下半身の力を総動員させて前傾姿勢に移行したのだが、どうやら奴の攻撃の意図はこの昇拳では無く次に控えていた一撃らしい。


「ハッハ――!! これでも食らいやがれぇぇええ――――ッ!!!!」


 元の戦闘状態に戻した刹那。


「ッ!?」


 ボウナの左の腰に収まっていた筈の剣が天高く掲げられ、某の頭蓋に叩き込もうとしている強力な姿勢を取っていた。



 成程……。昇拳で某の視界と上体を逸らせ、その隙に乗じて抜剣して上段の構えに移行したのか。


 鋭い刃面が太陽の光を反射させて某の眼球に眩い光を送り込み、切れ味の鋭い切っ先が空気を撫で斬りつつ此方へと向かって急降下を開始した。



「甘いぞ!!!!」


 ボウナの剣を受け取る為に懐からクナイを取り出して剣の軌道上に両手で掲げ、強固な防御態勢を取ったのだが。


「ずぁぁああああああ――――ッ!!!!」



 奴の両腕の筋力が一気苛烈に隆起する様を捉えるとこの防御態勢では確実に負けると頭では無く、体が素早く反応した。


 不味い!!!!



「すぅ――……。ふぅっ!!!!」



 強力な力には激烈な力で対応するのでは無く、猛烈な風に負けじとして必死に抗うのでは無く。


 そう……。せき止められぬ激流は下流へと流し、風に揺れる柳の様に嫋やかに猛烈な風を受け流すのだ。


 某のクナイとボウナの長剣が触れた刹那。



「「ッ!?」」


「「「「オォォオオオオオオオオ――――――ッ!!!!!!」」」」



 両者の得物から強烈な火花が飛び散り、刹那に視界を明滅させて観客達から感嘆の声を勝ち取ってしまった。


 このまま……、横へ受け流すぞ!!!!



「ふん!!!!」


「うぉっ!?」



 此方から見て右側に向けて長剣の鋭い切っ先を誘導させるとボウナの姿勢が微かに揺らいだ。


 今の強撃を真面に受けていたら某のクナイは恐らく破壊されていただろう。それだけでは無く、クナイを破壊した長剣は某の頭蓋を叩き割った筈だ。


 そして、微かに揺らいだこの隙を見逃す某では無い!!!!



「貰ったぞ!!!!」



 右足に火の力を籠めてボウナの隙の香りが漂う胴体へと向けて解き放った。


 此方が想像した通りの軌道を描いて足撃が進みもう間も無く直撃すると某は判断したのだが……。


 どうやら龍一族の身体能力は此方が想像しているものよりも一段も二段も上回る様だな。



「ちぃっ!!!!」


 両手で掴んでいた長剣から左手を離し、己の胴部へ迫り来る脚撃の間に左腕を置いて敗北へと繋がる一撃を防いでしまった。


「いてて……。ふぅ――、シュレンだっけか。体が小さい割にはヤルな!!」


「戦闘に関して体の大小は多大な影響を及ぼすが本質的な強さに体の大小は関係無い。それを見誤らない事だなっ」



 互いに戦闘態勢を維持しつつ口を開く。



「そりゃ確かに的を射ているな。しっかし、さっきの毒が効かない奴といい。すばしっこいお前さんといい。東龍には中々腕の立つ戦士が居るんだな」


 ボウナが右手に長剣を持ち左手に魔力を籠めつつ話す。


「己の能力を過信して油断していると足元を掬われるぞ。それを努々忘れるな」


「あはは、説教かい?? それなら……。その言葉を教訓にして全力を出させて貰うわ!!!!」


「ムッ!?」


 ボウナが某に向けて左手を翳すとその先に朱色の魔法陣が出現。


「こう見えて俺は魔法も得意なんだよっと!!!!」



 彼が魔力を高めると眩い光を放つ魔法陣から中々に大きな火球が現れ、周囲の空気を焦がしながら某に向かって疾走を始めた。


 離れていても熱量を感じる灼熱の火球の威力は見事の一言に尽きる。しかし、某はその程度の威力では気圧され無いぞ!!



「甘い!!」



 火球を迎撃すべく数舜の内に魔力を高め、両手を前に翳して奴と同程度の火球を召喚。


 そして今も某の体を焼き焦がそうと迫り来る火球へ向かって放射した。


 戦闘場の対の位置から放たれた二つの火球が宙で衝突すると五臓六腑に響く衝撃波が生じ、空気中に焦げ臭い香りが充満する。


 衝撃の余波は戦闘場で留まる事無く放射線状に広がって行き。



「「「オォォオオオオッ!!!!」」」


 観客席で某達の戦いの行く末を見守る観客達の口から感嘆の声を勝ち取った。


「やるじゃん!!」


 濃い黒煙が晴れ渡ると向こう側からボウナの軽い笑みが現れる。


「この程度の魔法……。幼子でも詠唱出来るぞ」


「いやいや、餓鬼には無理だから。まっ、でも?? これまでの攻防でお前さんの力量はある程度推し量れたし……。そろそろ決着ケリを付けてやるぜ!!!!」


「ッ!!」



 奴がこれまで以上に魔力を高めると某の前後左右、そして上空に先程の朱色の魔法陣が包囲する様に浮かび上がる。



「さぁさぁ逃げ場はねぇぜ!? 俺の包囲魔法の威力はちょいとばかし強力だからな!!!!」


 ちっ!! 全方位からの一斉掃射か!!!!


「食らぇぇええええ――――ッ!!!! 絶包囲火球陣サークルストライク!!!!」



 ボウナが最大限にまで魔力を苛烈に、一気呵成に上昇させるとほぼ同時に三百六十度から火球のつぶてが某の体を穿とうとして襲来。


 その一つ一つの威力は大した事は無いが無数に襲い掛かる火球に一度掴まってしまえば大怪我は免れぬ非情の弾幕だ。



「くっ!!」


 火球の礫の放射の延長線上から逃れる為に宙を軽やかに舞い、素早い身のこなしで回避するが……。どうやらそれだけで回避出来る程この包囲網は甘くは無い様だ。


「ぐっ!?」


 某の背に火球の礫のたった一つが着弾すると骨が軋む音が響き、回避行動を遮断されてしまった。


「そこで動きを止めたら不味いぜ!?」



 彼の陽性な言葉と同調する様に火球の連続弾が動きを止めた某に向かって襲い掛かって来た。


 逃げ場の無い絶体絶命の包囲網。


 大津波が襲来する海岸線に立たされ、もう何処にも逃げ場はないとして己の死を察知して絶望に打ちひしがれてしまう光景が眼前一杯に広がる。



 だが!! 此処で生を諦めたら勝利を手中に収める事は出来ぬ!!


 絶望を乗り越えた者にこそ勝利は訪れるのだから!!!!



「むぅん!!!!」


 絶死の包囲網の中に活路を見出す為、無数の火球の襲来に対抗すべく結界を展開した。








「ワハハハ!! 結界を展開しても無駄だって!!!! その内いつか剥がれ落ちてしまうからなぁ!!!!」



 ボウナが勝利を確信した高笑いを浮かべつつ、シュレンが展開した分厚い結界に対して容赦の無い攻撃を加えて行く。


 火球の礫が結界に着弾すると鼓膜をつんざく苛烈な音が響き、絶え間なく続くその音は轟音となりうねりを伴って闘技場に響き渡った。



「シュレ――ンッ!!!! そのまま耐えろよ――――!!!!」



 東龍の位置からダンの悲壮な声が轟音の合間にこだまする。


 しかしそれでもボウナは彼の悲壮な声を無視して非情な攻撃を継続。


 火球の礫の着弾が続くと戦闘場の上には特濃の白き爆煙が広がり、シュレンの存在は淡い光を放つ結界と彼自身の朧な影でその存在が微かに確認出来た。



「さぁさぁ!! いつまでその結界がもつのか楽しみだぜ!!!!」



 白き爆煙の中に確認出来る結界とシュレンの影に向かってより苛烈に火球の礫の連続弾を当てると観客席から彼の勝利を確信した大歓声が天に向かって放たれた。



「「「「「ウォォオオオオオオオオ――――ッ!!!!」」」」」



 この地に居る全ての者達、そして天界に住まう戦神も爆煙の中で甲高い音を立てて消失した結界を確認するとボウナの勝利を確信した。



「よっしゃぁぁああああ!! これで俺達が二回戦進出に王手だな!!!!」



 彼もまた己の勝利を確信すると攻撃の手を一旦中断させる。


 白き爆煙が徐々に晴れて行き、シュレンの無残に横たわる姿を確認する為に常軌を逸した魔力を収めた。


 北から、そして西から吹く微風が音も無く白き爆煙を空の彼方へと押し流して行き徐々にその全貌が明らかになって行く。


 誰しもがシュレンの悲壮な敗北の姿を想像しつつ固唾を飲んで煙が晴れて行くとても静かな様を見守っていた。


































 もう間も無くその全貌が明らかになると思ったその時、闘技場に存在する全員が驚愕する事象が突如として起こった。



「――――。動くな。動けば命は無いものと思え」


「なっ!?!?」


 ボウナの背後を取り、右手に持つクナイは彼の首の頸動脈に。左手に持つクナイは心の臓の直上に置き相手に降参の声を要求してやった。


「う、嘘だろ!? お前はあそこに居た筈じゃ……」


 白き爆煙が漂う戦闘場の上から全ての煙が流されて行くとそこには虚無が存在していた。




「秘奥義 影置かげおき。某の気配と魔力を影に籠め、実体と影を分離させる技だ」




 この魔法の術式にはハンナが会敵したキマイラの技が大いに関与している。


 彼から聞いた奴の行動を取り込み某が独自に開発した魔法だ。


 ハンナの助言が無ければ決して成し得なかった大技だが……。その使用には環境が多大に影響するのが弱点といった所か。


 今回は影置に誂えた様な環境が訪れた為、偶々使用出来た。


 もしもボウナが違った魔法を使用すれば結末は変わっていたかも知れないな……。



「はは、参った。命まで取られたくねぇし俺の降参だよ……」


 ボウナが両手を静かに上げて降参を宣言すると。


「それまで!!!! 第一回戦、中堅戦は東龍の勝利とする!!!!!!」


 進行役の男が某の勝利を告げ、それと同時にボウナの拘束を解除して懐にクナイを収めた。


「ふぅ――、すっげぇ魔法だな。今度良かったら術式を見せてくれよ」


 ボウナが肩を竦めて某の目を見つめる。


「それは無理な願いだ。己の研鑽で得ると良い」


「それはまた辛辣な事で。今回は俺の負けだけど、またやろうぜ!!!!」


「あぁ、いつでも相手になろう」


「「「「オオオオオオオオ――――――ッ!!!!」」」」



 彼から差し出された右手を熱く掴むと某の体を穿つ勢いで東龍の観客席から明るい歓声が放たれてしまった。



 む、むぅ……。某はこういう雰囲気は苦手だ。


 早く副将戦に移行して貰う為、一早く此処から退散すべきだっ。


 戦闘の熱が今も渦巻く戦闘場の上を素早い足捌きで東龍の方角へと向かって移動を開始。



「シュレン――――ッ!!!! よぉぉくやった!! お母さんがヨシヨシしてあげますねぇぇええ――――ッ!!!!」


「あぁ、見事な戦いだったぞ」


 満面の笑みを浮かべているダンと程よく口角を上げているハンナの下へ向かい、他者から見れば敵前逃亡にも見える速度で駆けて行ったのだった。




お疲れ様でした。


富士登山から無事に帰還したものの……。何だか微妙に体調が優れないんですよねぇ。


喉の奥がイガイガと痛み足の指は相も変わらずドス黒く変色していますし。この週末を利用してゆっくり休んで体調の回復を図りましょうかね。



さて、今現在。日本列島には台風が停滞しております。


台風の進路上に居る読者様達はこれからも警戒を続け、範囲内にいらっしゃる読者様達は最大限の注意を払って下さいね。



そして、ブックマークをして頂き有難う御座います!!


週末のプロット作業の嬉しい励みとなりました!!!!



それでは皆様、お休みなさいませ。

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