第百八十五話 覇王継承戦 第一回戦 第二試合 その二
お疲れ様でした。
後半部分の投稿になります。
「――――。さてと、進行役さん?? そろそろ計上を開始して頂いても構いませんかね」
毒性の霧に包まれた結界内の様子を見続けて数分が経過。
レドファーがこの戦いを冷静に見守り続けている進行役の男に対して一言声を掛ける。
その声色は己の勝利を確信して止まない確固たる物であった。
「さっすがレドファーだぜ!!!!」
「あぁ!! 魔法に長けた彼にしか出来ない芸当だったよな!!」
「結界内の様子が見えない以上、計上をする訳にはいかん」
観客席の最下段から放たれた声色は興奮の坩堝と化す闘技場の大声援とは真逆の冷静沈着そのものであり、男は只冷静に現状を伝えた。
「はぁ……、分かりました。それでは観客の皆様に大変分かり易い様に俺の勝利を見届けて貰いましょうか」
レドファーが軽く指を鳴らすと結界が解け、そして旋毛風が戦闘場の上にそっと吹く。
「……」
結界内に充満していた特濃の紫色の霧が晴れるとそこには力無く倒れている男性の姿が出現した。
「「「「ワァァアアアアアア――――ッ!!!!」」」」
レドファーの勝利を確信した観客達から大歓声が湧き、そしてそれと同時に進行役の男性から非情の計上が開始された。
「一――ッ!! 二――ッ!!!!」
「ダン!!!! 起きろ!!」
黒装束に身を包んだ小柄な男から声援が送られるが、その声量は観客席から放たれる怒号と歓喜の声によって掻き消されてしまう。
「別に計上しなくても起き上がる事は絶対に無いよ。俺の勝利は確実に訪れるのだから」
揺るぎない勝利を確信したレドファーの視線は戦闘場の上で横たわる男の体から一人の男へと移り変わった。
「……ッ」
東龍の戦士の中で最も戦士の雰囲気を色濃く漂わせる青き髪の男性。
彼の目は必敗を連想させる絶望では無く必然な勝利を確信する熱きものであった。
レドファーは彼の目の色が気に食わなかったのか。
「おい、そこのお前。ここから何を期待しているんだ」
青き髪の男性を睨み付け憤怒を混ぜた声色で凄んだ。
「何を……。そうだな。今そこで倒れている奴はどうしようもなくだらしなくて、些か疑問が残る生活態度を取る男だ。しかし、例え絶望しか残されていない状況下でも必死に抗い勝利を掴み取る男でもある」
「勝利を掴み取る?? あはは!! 馬鹿かお前は?? 麻痺性の毒を大量に吸い込んで動ける訳が無いじゃないか!!!!」
青き髪の男の台詞を受け取るとレドファーは肩を揺らしてケタケタと笑った。
「ワハハ!! 確かにそうだよな!!!!」
「ギャハハ!! 何がどう転んでもレドファーの勝ちは変わらねぇんだよ!!!!」
生死のやり取りが行われる戦いの場では決して見せぬ彼の姿勢が観客にも伝播すると彼等もまた彼に倣い大袈裟な笑い声を放つ。
「全く、耳障りな笑い声だ。これから間も無く訪れるであろう驚愕の事象を目の当たりすればその声も自ずと消えよう」
「驚愕の事象?? それは俺の勝利の事かな??」
「六――ッ!! 七――――ッ!!!!」
レドファーが大歓声に紛れる非情の計上の声の元に対して指を差す。
「はぁ……。ここまで滑稽だと此方が笑えて来るな」
青き髪の男が微かに上向いた己の口元を右手の甲で隠す。
「おい、お前……。俺の感情をこれ以上逆撫でするなよ?? 劣等種の分際で種の頂点に立つ我等龍族の力を甘く見ると……」
レドファーがそこまで話すと足元に違和感を覚えたのか、青き髪の男性からふと視線を足元に移した。
「――――。にしっ!!!! 漸く……。お仕置きの時間が訪れましたねぇ!!」
「う、嘘だろ!? 動ける筈が!!!!」
相棒!!!! 時間稼ぎをしてコイツの気を逸らしてくれて礼を言うぜ!!!!
夏に荒れ狂う嵐よりも、雷雲から放たれる閃光よりも素早く立ち上がりレドファーの懐に潜り込むと火の力を籠めた一撃をみぞおちに叩き込んでやる。
「ぐぇっ!?!?」
レドファーが突如として己の身に降りかかった強撃に踏鞴を踏み、腹を抑えて一歩二歩後退して行く。
「かっ、はっ……。な、何で動けるんだ……」
「何でって……。俺の体は頑丈でさ。中途半端な毒は効かない様になってんだよ」
此れも全てルクトから受け賜った抵抗力の御業なんだけどね。
黒蠍とモルトラーニから受けた毒よりもコイツの毒が強かったら一体どうなった事やら……。
次戦も控えている事ですし、俺の体の秘密は内緒にしておきましょう。
「そ、そん……」
「――――。そんな馬鹿な。ってか?? 世の中はお前さんが考えている以上に広いんだ。毒を無効化する奴なんてきっとごまんといるぜ。そしてぇ……。此処からは待ちに待ったお仕置きの時間だぜ!! オラァァアアアア――――ッ!!!!」
粘度の高い唾液を吐いて踏鞴を踏むレドファーに急接近すると無防備な顎にそして激烈な拳を一度……。
そして続け様に二度、三度渾身の力を籠めて野郎の体に放り込んでやった。
「グァァアアアアッ!?!?」
う、うひょ――――!!!! この突き抜けて行く爽快感っ!!!!
「た、た、堪らねぇぜ……」
俺の昇拳を受け取り美しい放物線を描いて吹き飛んで行くレドファーの体を捉えると体全身に心地良い快感が突き抜けて行った。
これまでずぅぅっと防戦一方だったし、喜びも段違いだぜ。
「ぐ、ぐぅぅ……」
「一――ッ!! 二――ッ!!!!」
仰向けの姿勢で何んとか上体を起こそうとするレドファーに対して歓喜の計上が開始される。
「く、クソ……。俺は、俺はまだ負けていない……」
「あぁ、その通りだ。ほら、頑張って立ち上がってみせろよ」
震える体を必死に御して両足に力を籠めようとしているが、どうやらそれは無意味に終わりそうだな。
「グフッ!!!!」
何とか上体を起こすものの、口から唾液と血が混ざり合った敗北の液体を吹き出して体を虚脱させちまったし。
「ぜぇ……。ぜぇ……。こ、この俺が負けるなんて……。絶対に許されない……」
「お前さんは確かに強かったさ。真面にやり合ったら多分俺が負けていただろう。これは俺が相棒から口を酸っぱくして言われている言葉だ。確固たる勝利を確信するまで決して気を切るな。レドファー、お前さんは勝利の女神様が微笑む前にそっぽを向いてしまった。それが敗因さ」
もしもコイツが死に体となった俺から気を切らなければきっと気を失っていない事に気付き、追撃を図ったであろう。
そうなれば俺に勝ちの目は無かった。
まぁそれでも桜花状態を発現すれば勝利がどっちに転ぶのか分からなかったけども、次戦を見据えて奥の手は隠しておきたかったし。
「ふっ……。この敗因を糧にまた一つ強くなるとしよう」
「その時は手加減宜しくっ!!!!」
「はは、嬉しい事を言ってくれる……」
俺がニっと軽い笑みを浮かべるとレドファーも此方の心意気に応えてくれる様に微かに口角を上げてくれた。
そして……。
「九――っ!! 十――――ッ!!!!」
「ふぅ――……。疲れたっ!!」
進行役の男性から勝利の吉報を受け取ると戦いが始まってから初めて双肩の力を抜き、天を仰いだ。
はぁ――……。これで何んとか一勝一敗の五分に持ち込む事が出来たな……。
この先は一体どうなる事やら。
たかが一勝、されど貴重な一勝をもぎ取るとシンっと静まり返った闘技場内で安堵の息を漏らし、息子の誇らしい姿を捉えてホッコりとしている父親の笑みを浮かべている相棒の下へとちょいとばかし重たい足を引きずって向かって行ったのだった。
お疲れ様でした。
今週は日本列島に台風が接近している為、大荒れの天気となりそうですよね。
私が住んでいる地域も台風の進路上に位置しているので油断できない状況が続きそうですよ。
さて、先週の富士登山を終えて筋肉痛も癒えたのですが。足の指先の内出血が中々治る気配が見えないです。青く染まった指先を見下ろすとこのままずぅっと治らないんじゃないのかと不安になってしまいますよ……。何かいい方法が無いか模索しつつ本日は筋肉と怪我を治す為にカツカレーを食べて来ました!!
いやぁ、久々に食しましたけども相変わらず美味しかったですね!! 汗を流しつつ熱々のカツカレーを食せば怪我も治る筈!!
プラシーボ効果じゃあないですけども、それを期待してガッツリ食べて来た次第であります。
そして、ブックマークをして頂き有難う御座います!!
これからまだまだ続く彼等の戦いの執筆活動の嬉しい励みとなりました!!!!
更に!! 読者様達の温かな応援のお陰で八十万PVを達成する事が出来ました!!
いや、連載開始当初はここまで続くと思っていなかったのが本音です。この作品を手に取って頂いた方々の応援が力となり今も連載を続けている原動力となっています。これからも彼等の冒険を見守って頂ければ幸いです。
それでは皆様、お休みなさいませ。