第百八十五話 覇王継承戦 第一回戦 第二試合 その一
お疲れ様です。
本日の前半部分の投稿になります。
「お、おい!! フウタ!! しっかりしろ!!!!」
地面に崩れ落ちてから一切身動きを取らない彼の下へと駆け寄り俺よりも小さな体をそっと大切に抱えてやる。
顔に刻まれた無数の擦り傷、小さく浅く続ける呼吸、そして魔力の源から流れる矮小な力。
たった数撃を受けただけで頑丈なフウタが此処まで追いやられるなんて……。
僅かな時間の間に繰り広げられた戦いの中で龍一族の力の片鱗を垣間見た気がするぜ。
「シュレン!! フウタの治療を!!」
「了承した」
俺の背後から彼の様子を静かに見守っていたシュレンに声を掛けたが。
「その必要は無い。これから救護班が治療に当たる」
進行役の男が低い声を上げて俺達が入場して来た東龍の方角へと視線を送った。
救護班??
彼の声に従い東龍の方向へ視線を送ると暗い通路の中から一人の女性が陽の下に姿を現した。
「私が東龍の戦士達の治療を担当させて頂くレイミーです。まだまだ未熟な者ですが皆様の御体を懸命に治療させて頂きますね」
白を基調とした清楚な服に身を包み淡い水色の長髪を後ろで綺麗に纏めている。
顔の中心に通る整った鼻筋、柔和な目元と人から信頼を容易く勝ち取る上向いた口角。
端整な顔立ちと素敵な笑みが心に一時の安らぎを与えてくれるのですが……。
「でっっか!!!!」
顔や体躯云々よりも白い服を内側からモリモリと押し上げる彼女の胸元を捉えるとそう叫ばずにはいられなかった。
何アレ!? 超大盛じゃん!!!!
「あはは。初対面でいきなりそう仰ったのはダン様が初めてですよ?? それでは治療を開始させて頂きますね」
俺よりも少しだけ背の低い彼女がフウタの体を抱き抱えて闘技場の内壁へと進み、そして彼の体を静かに地面に置くと周囲に結界を張った。
「治療に専念させて頂く為に結界を張らせて頂きました。皆様は引き続き戦いに集中して下さい」
レイミーちゃんの手元に淡い水色の魔法陣が浮かび上がりフウタの負傷した箇所に翳すと、彼はまるで天使の抱擁を受けているかの様に安らかな寝息を立て始めた。
「ほぉ……。中々の技量だな」
シュレンが彼女の手元に注視しつつそう話す。
「お褒め頂き有難う御座います。治癒魔法は私の得意分野なので怪我の事はぜ――んぜん気にしないでじゃんじゃん負傷して下さいっ」
彼女の治癒魔法のお陰で後顧の憂いは断たれたのですが、それでも負傷するって事はそれ相応の痛みを享受しなきゃいけないって事になるのですよ??
ニコっと可愛らしい笑みを浮かべて結構エゲツナイ台詞を吐いたエイミーちゃんにアハハと乾いた笑みを送ると。
「先鋒戦は北龍の勝利だ。続いて次鋒戦を行う。それぞれの次鋒は戦闘場に上がれ」
進行役のあんちゃんから緩んだ気が一瞬にして引き締まる四角四面の言葉が放たれてしまった。
フウタ、今は静かに眠っていろ。
俺達東龍側の初勝利の知らせで起こしてやるからな??
「よっしゃ!! 優しいダンちゃんが次鋒戦を務めさせて頂くぜ!!!!」
弱気、臆病、死の恐怖。
両手で頬を強烈にブッ叩いて心に渦巻く負の感情を霧散させてやり、その勢いを保ったまま闘技場の中央に設置されている戦闘場に軽やかに飛び乗った。
へぇ、此処からだと観客席はこう見えるのか……。
「ウォォオオオオ――ッ!!!! 早く次戦を始めやがれ!!」
「流石北龍だ!! 連勝は間違いないっ!!!!」
戦闘場に上った者を三百六十度囲む観客席から放たれる歓声は相も変わらず強烈なものであり、彼等の興奮に満ちた視線が体を刺すと否応なしに闘志が沸々と温められる。
観客達の声と視線が戦士達の発奮を促し、それを受けた戦士は勝利を渇望して目の前の強敵へと向かって進んで行く。
戦士達が己の力を遺憾なく発揮して戦う為にだけ作られた闘技場。
その良く出来た作りに思わず感嘆の吐息を漏らしてしまった。
「上手く出来ているもんだなぁ……」
「君が俺の相手を務めてくれるのかな??」
俺と同じく北龍側から戦闘場に上がった男が此方に向かって静かな口調でそう話す。
緑の森を彷彿とさせる薄い緑色の髪をキチンと纏め、質素な服に身を包む好青年が此方を見つめる。
固い口調と体全体から放つ雰囲気からして真面目な性格が窺えるのですが……。
彼の目元は何だか呆れにも辟易にも似た感情が溢れ出しており、数段高みに居る位置から俺の事を見下していた。
さっきのヴァルドといい、コイツといい。人を見下す視線にムカツいているのは俺だけでしょうかね??
「まっ、そういう事。俺の名前はダンって言うんだ。お兄さんのお名前を聞かせてくれるかい??」
彼の見下す目に対抗する為、此方も相手を挑発する様に片眉をクイっと上げて問うてやる。
「俺の名前はレドファー。北の領地内で細々と怪我の治療等を受け持っているよ」
ほぅ、怪我の治療って事はコイツは見た目通りに魔法の扱いに長けているって訳ね。
だがこれを鵜呑みにしてはいけません。
筋骨隆々の体躯を誇っていても魔法を主戦とする者や鶏ガラみてぇな細い体でも肉体戦を得意とする者は居るのだから。
「俺の実力がお気に召さないかも知れないけど宜しく頼むわ」
「安心しなよ、直ぐに決着だから。せめて痛みを知らない内に意識を刈り取ってあげるね」
痛みを知らずに今も治療を受け続けているフウタと共にスヤスヤと眠りたいのが本音ですけども、こちとら東の代表としてこの戦闘場に足を乗せているんでね。
「あらあら。今度の人もちょっと頼りないわねぇ……」
「まぁ他種族の方ですからそれは致し方ないかと。御茶のお代わりは如何です??」
「勿論頂きますっ」
「頼りないお兄ちゃ――ん!!!! 頑張ってよね――――!!!!」
「こらっ!! 言い方に気を付けなさい!!」
あ、あはは。頼りなさそうな野郎で申し訳ありませんっ。
東龍の観客席で此方の初勝利を願う観客達の為に、是が非でも初勝利を手繰り寄せなければならない。
それに万が一俺が敗北した場合、北龍の奴等は二回戦進出に王手を掛けてしまう。
勝負を五分五分に持ち込んで俺の後ろに続くシュレン達が戦い易くなる様、俺には負けが許されないのだ。
「それはど――も。でも、お前さんが考えている以上に俺は頑丈なんだぜ?? 痛みを与えないで意識を刈り取るのは難しいかもよ??」
「アハハ、それは無いね。俺の戦闘術に掛かれば君の意識は直ぐに向こう側に旅立ってしまうのだから」
その向こう側ってのは御先祖様達が待つ世界じゃあありませんよね??
漸く笑みを見せてくれたレドファーの言葉に対して一抹の不安を覚えてしまった。
「両者使用する武器は」
「俺は……。まぁコレかな」
進行役の男性からの問いに対して己の両拳を差し出してあげる。
魔法戦が得意そうなレドファー相手に短剣で襲い掛かってもどうせ結界で防がれちまうし。
「じゃあ俺も君の心意気に応えてこのままで戦ってあげるよ」
元々お前さんは武器を装備していないじゃねぇか。
だが、武器を使用しないって事は肉弾戦に重きを置いている証拠では無かろうか??
相手の戦力、戦闘方法が不明な以上。戦闘を継続させつつ様子を窺うとしますかね。
「相棒!! 受け取ってくれ!!」
腰に巻いていた二つの短剣が収まる革のベルトを相も変わらず厳しい視線を浮かべている相棒に向かって放り投げてやる。
「相手がどう戦うのか分からん。注意して戦闘に臨めよ」
「わ――ってるって」
もうっ、そんな怖い目で睨み付けないの。
ここは相棒の身を案じて一言二言優しい言葉を掛けてあげる場面なのですよ??
そう声を大にして言ってやりたいがど――せ言っても聞く耳を持たないし、無意味な行動で体力を消費したくないので何も言いませんっ。
「それでは第二試合を始める。両者、構え」
「「……ッ」」
進行役の男性の声が響くと俺とレドファーの間に見えない緊張の糸がピンっと張られた。
さぁ――って、切り込み隊長のフウタが成し遂げられなかった勝ちの勢いを掻っ攫って隊を鼓舞してやるとしますか!!!!
「ふぅ――……。ふぅっ」
腰を微かに落として重心を僅かに後ろへ。
そして全方位からの攻撃に対応出来る様に体を斜に構え、両の拳を静かに上げた。
「それでは……。始めッ!!!!」
「「「「ウォォオオオオオオ――――――ッ!!!!!!」」」」
次鋒戦の始まりを告げる男性の野太い声が戦闘場に響くと同時に大歓声が闘技場にこだました。
先ずは見に徹する為に様子を窺う!!
前へ、前へ出ようとする両足を必死に宥めてレドファーの出方を窺っていると相手も俺の様子を窺おうとしているのか。
「……」
魔力を高めつつその場から動かずに居た。
胸の中心から四肢へと流れる強烈な魔力の鼓動、そして体全身から染み出る圧が微かに大気を揺らす。
ううむ……、見に徹すると決めたのですが。あのまま力を溜めさせても良いものなのだろうか??
しかし相手の戦闘方法が分からない以上、此方から仕掛ける訳にもいかねぇし。
大いなる迷いが俺の行動を制止させ取り敢えず全方位からの攻撃に対処出来る様にある程度の魔力を拳に溜めてその時に備えていると、しびれを切らしたのか将又この時を待っていたのか。
レドファーが次鋒戦初となる攻撃をこの体に加えて来やがった。
「凍てつく冷気よ、我の前に立ち塞がる敵を屠れ。氷穿突ッ!!!!」
俺の足元に巨大な爽やかな水色の魔法陣が浮かび上がると強烈な光を放つ。
そして間髪入れずに魔法陣の中から俺の体を穿とうとして巨大な氷柱が生えて来やがった!!
「どわぁっ!?!?」
咄嗟に右に飛び退いて大変太くて鋭い氷柱の初撃を回避したのですが……。
「まだまだぁ!!」
どうやらこの魔法陣全体が氷柱の攻撃範囲の様だ。
回避した先にも氷柱が待ち構えており、着地と同時に前後から生えて来た氷柱が俺の体を捉えようとしてすんばらしい速度で襲い掛かって来た!!
「きゃあっ!?!?」
大の男が女々しい声を出すなと叱られてしまいそうなのですがこの氷柱の連続攻撃を受けて変な声を出さない方が珍しいって!!
「ひゃあっ!?」
頭蓋を貫こうとして斜め後ろから襲い掛かって来た氷柱には上体を屈めて回避。
「んにぃっ!!!!」
屈んだ先に待ち構えていた氷柱ちゃんには体を斜に構え。
「ひぁぁああっ!?!?」
肉の感触を掴めずに苛立ちを募らせて前後から襲い掛かって来た双子の氷柱に対しては軽やかに宙に舞って躱す。
相棒との長きに亘る虐待とも捉えられる組手によって培われた身のこなしで避け続けているが、生憎俺には体力という概念がありますのでね。
いつまでも完璧に避けられる訳じゃあないんですよっと!!
「馬鹿者!! いつまで避け続けているのだ!! 手を出せ!!」
相棒がいつもより数段鋭く尖った眉の角度で叱咤を送る。
「それは俺が一番わ――ってんだよ!! これからが……。ヒャンっ!? 見せ場なのさ!!」
「ギャハハ!! いいぞ兄ちゃん!! 中々楽しませてくれるじゃねぇか!!!!」
「わはは!! 気色悪い声を出しているが良く避けているじゃないか!!」
俺の奇声に湧いた観客席から檄にも似た笑い声が放たれた。
さてさてぇ、ある程度の笑いも取れてお客さんを満足させる事も出来ましたし??
そろそろ反撃開始と行きますかね!!
この巨大な魔法陣の上に足を乗せている以上、地面から夥しい数の氷柱が襲い掛かって来る。
つまり一刻も早くこの絶死の領域から逃れなければならないのですがそうはさせまいとして氷柱が進行方向及び回避先に出現。
魔法陣の広大な攻撃範囲から逃れさせてくれないのですよ。
しかし!! 何度も攻撃を避けている内にとある法則に賢いダンちゃんは気が付いてしまったのです。
地面の淡い水色の光を放つ魔法陣から強烈な魔力の鼓動が迸ると氷柱が出現するという単純明快な法則にね!!!!
背後から背筋が冷たくなる力の鼓動を掴み取ると……。
俺の背を穿とうとした氷柱が現れ、此方の想像した軌道を描いて鋭く生え伸びて来やがった。
「ヒャイッ!?」
ほ、ほらね!? 今もそうだったでしょう!?
魔力の鼓動が跳ね上がるその瞬間に氷柱が現れるのだからその刹那を確実に掴み取り、次の氷柱が生えて来るまでの短い時間でレドファーの懐まで突貫すればいいだけの話なのさ!!
超簡単な図式を頭の中で組み立て、いざ実行しようとして両足に力を籠めたまでは良かった。
俺がこの図式を思いつくって事は当然向こうもそれを想定している筈だ。
「へぇ……。想像よりも見事な体捌きだね。でも、これは避けきれるかな!?」
巨大な魔法陣の上で大量の汗を流して氷柱の強襲を躱し続けている俺に向かってレドファーが静かに右手を掲げた。
げぇっ!! 嘘だろ!?
ここから更に攻撃を加えるってのかよ!!!!
「ちょ、ちょっとお待ちなさい!!!! お母さんはまだヨシって言っていませ――ん!!!!」
「残念、待たないよ。君はそこで踊り狂って倒れる運命なんだ」
彼が掲げた右手の先に深緑の魔法陣が浮かび上がり、それが眩い閃光を迸ると肝っ玉が大変凍えて縮んでしまう無数の風の刃が出現。
「さぁ……。終局だ!!!!」
風の刃が鋭い角度及び馬鹿げた速度で此方に向かって襲い掛かって来るではありませんか!!
「ちょ、ちょっと待ってぇぇええええ――――ッ!!!!」
地面から襲い来る氷柱を回避すると俺の移動先に体を切り裂こうとした無数の風の刃が飛来。
両手に火の力を籠めて風の刃を撥ね飛ばし打ち消すが、次から次へと間髪入れずに刃が向かって来やがる!!
風の刃の威力と範囲は大した事は無いが問題なのはその数だ。
一発打ち消してもその後ろから俺の体を切り裂こうとして殺意を剥き出しにした刃が現れやがる!!
それの対処に追われているとこっちも忘れちゃ困るぜと言わんばかりに氷柱が生えて来るし!!!!
正面からそして地面から。
二点同時の二属性の放出魔法の対処はさ、流石にキツ過ぎるっ!!!!
「はぁっ!! ハァァアアアア!!!!」
右の拳で風の刃を打ち消し、更に前後から襲い掛かる氷柱の一撃を躱すものの……。
「まだまだこれからだよ!!!!」
レドファーの魔力がグンっと跳ね上がりそれと呼応するかの如く二属性の攻撃が更に苛烈に変化しやがる。
風の刃の連続放射は恐らく牽制の意味合いを籠めているのだが、地面からの氷柱の一撃は真面に食らったら動けなくなるのは目に見えている。
つまり、一刻も早くこの淡い水色の魔法陣の範囲から逃れない限り確実に負ける!!
「ふぅっ!! ふぅぅうううう!!!!」
野郎の隙を窺いつつ風の刃を打ち消し、氷柱の挟撃を体捌きで躱しているが……。
その隙が中々見当たらないのが大変歯痒いですっ!!!!
「あ、アイツすげぇぞ……」
「あ、あぁ。気色悪い言葉を放つけどあれだけの攻撃を躱し続けるなんて」
誰だ!! 気色悪い言葉を放つって言った観客は!!
ダンお兄さんは必死に戦っているってのにぃ!!!!
観客のどよめきと感嘆の声が闘技場に渦巻き、それと共に観客達の調子が徐々に熱を帯びて行く。
「兄ちゃん頑張れよ――――!!!!」
「もっと速く動かねぇと負けちまうからな――!!!!」
そうそう!! 俺が求めていたのはこういう声援なのさっ!!
「有難うっ!! 不束者ですが皆様の……、キャインッ!!!! 声援に応えさせて頂きますね――――!!!!」
真正面から向かって来た二刃を左右の拳でほぼ同時に吹き飛ばし、右後方から伸び来た氷柱の一撃を華麗に躱して観客席に向かって手を振ってやる。
よ、よぉし。この馬鹿げた連続攻撃にも大分目と体が慣れて来たぞ……。
あ、後は野郎の焦りを誘発させるのみ!!
「良いぞぉぉおお――!! レドファー!! そのまま殺っちまえ!!!!」
「早く仕留めろよ!! そいつはもう死に体なんだぜ!!!!」
あはは、ば――かっ。死に体って事はまだ反撃の余地があるって事なんだよ。
完全にそして完璧にぷっつりと意識を断ち切らない限り俺は勝ちを諦めないぜ??
「五月蠅いなぁ!! そんな事は分かっているんだよ!!!!」
勝ち気に焦ったのかそれとも観客席から放たれた言葉に憤りを覚えたのか。
レドファーの目が憤怒に染まると俺の体に向かって強力な一陣の風の刃を放出した。
「ッ!!!!」
漸く俺に勝機が訪れたのか!?
小さく細かく速い風の刃とは違い、あの強力な風の刃の後方には次なる攻撃が待ち構えていない。
ちゅまり!! あれに向かって行けば自ずと勝機が訪れる!!!!
頼むぜ!? 俺の体!! ちゃあんと動いてくれよ!!!!
左右から伸び来た氷柱の強襲を回避。
そして続け様に真正面から俺の体を両断しようと襲い来る強力な風の刃へと向かって全脚力を注ぎ込む。
「ふんっ!!!!」
「なっ!?」
レドファーがこの次鋒戦が始まってから初めて見せた俺の突進力に目を見開いた。
あはは!! そうそう、急に馬鹿げた突進力を目の当たりにしたら焦りますわなぁ!!!!
「よっしゃぁぁああああ!! 俺の勝ちだぜ――――ッ!!!!」
風の刃が後頭部の毛髪を微かに刈り取り後方へと過ぎ行き、漸く絶死の魔法陣から脱出する事に成功。
そして勢いそのまま、相も変わらず目ん玉をひん剥いて素直な驚きを表しているレドファーを己の間合いに収めてやった。
さぁって、皆様お待たせしました!!
これから始まる逆襲はとぉぉっても素敵な劇になりますので是非ともその目に焼き付けて下さいましっ!!!!
顎を穿ち、その勢いでぶっ倒れたのなら平手でお尻を思いっきりブッ叩いてやるからな!?
覚悟しておけ!!!!
「でりゃぁぁああああ――――!!!!」
右手に烈火の力を籠めてレドファーの顎へ向かって拳を突き出す。
俺の乾坤一擲の拳が空気を、空間を突き破りもう間も無く素敵な感触が拳に伝わるかと思いきや……。
「――――。残念、これも想定済みさ」
「ぬぉっ!?」
俺の体を包み込む様に結界が展開され、素敵な拳は結界の厚みに阻まれてしまった。
「君は馬鹿だなぁ。敵が弾幕をすり抜けた時の為の策を講じているに決まっているじゃないか」
「テメェ!! 卑怯だぞ!! こちとら放出系の魔法が使えないってのに!!」
三百六十度展開された結界をブチ抜こうとして火の力を籠めた拳を何度も叩き込むが、残念ながら俺の攻撃ではこの結界を破壊する事は叶わぬ様だ。
ヒビ処か傷一つ付きやしねぇ。
「その代わり中々の付与魔法を使用出来るじゃないか。まさか非詠唱系の戦士にここまで食い下がられるとは思っていなかったよ」
ちぃっ!! 直ぐそこに野郎が居るってのに殴れないこの歯痒さ!!!!
全く以て不愉快だぜ!!
「さて、そろそろ会話にも飽きたし。此処で決めるよ??」
レドファーの口角が歪に上向くと大変嫌な汗が背を伝って行く。
「古の時代より紡がれし逆鱗の力、今此処に解き放つ。穢れて爛れろ……。痺毒霧」
「ッ!?」
鼓膜の奥が微かに震える男の低い詠唱の声が止み野郎の体全身から強力な魔力の鼓動が迸ると俺の足元に濃い紫色の魔法陣が現れた。
その直径は先の淡い水色の魔法陣とは異なり大人一人の体がすっぽりと収まる程度の大きさなのだが……。
大問題なのは結界に覆われ逃げ場が一切無い事だ。
「ちょ、ちょっと待って!! 此処で何をしようって言うんだよ!!」
分厚い結界を叩き此処から早く出せと言わんばかりに叫んでやる。
「簡単な事さ。君は今から俺が何年も掛けて術式を完成させた魔法の力をその身を以て味わうんだ」
俺が聞きたいのはその心血を注いで完成させた魔法の内容なんですけど!?
「死なない程度に手加減してあげるから安心しなよ」
長き時を経て完成した魔法の威力は微々たる物では無く、戦況を一気に覆せる程の威力を持っているに決まっています!!
それを鵜呑みにして、まるで休みの日の居間で寛いで居るお父さんみたいに安心して受け止められる訳ねぇだろうが!!
「畜生めが!! だったらこの結界をぶち破ってやるぜ!!!!」
次の試合を見据えて俺の奥の手でもある桜花を発現するのは憚られたが……。今は四の五の言っている状況じゃねぇし!!
「すぅ――……。ふぅっ!!」
この状況を打破する為。
魔力の源から異なる属性の力を全身に宿そうとしたのだが、どうやら奴さんは俺の奥の手を披露する前に決着を付けたいらしい。
「さぁ……。楽になれ」
レドファーから感じる魔力の鼓動が刹那に膨れ上がり五臓六腑が捻り潰される錯覚に陥るとほぼ同時。
「何じゃこりゃ!?!?」
足元の紫色の魔法陣から超特濃の紫色の霧が噴出され、あっと言う間に結界の中を満たしてしまった。
「このヘンテコな霧がお前さんのとっておき……。ゴ、ゴフッ!?!?」
え……?? 何、コレ。
ち、力が抜けて行く……。
「そうさ、これが俺の奥の手だ。その霧には麻痺性の毒が含まれている。一息吸えば体の自由を奪い、二息吸えば意識が薄れて行く。そして気が付けば体中の筋力が痺れて動けなくなってしまうのさ」
く、クソッタレ……。だからこの狭い結界内に閉じ込める必要があったのか。
奴は俺が痺れを切らして向かって来ると予想していた。そして想像していた通りに距離を潰して最短距離で向かって来る俺を結界の中に閉じ込めて無力化しやがった。
最初から計画していた通りの戦術にピタリと嵌められたのだ。
こ、こんな事になるのなら最初から全力を尽くせば良かったぜ……。
「コ、コヒュ……」
膝の力が抜け落ち、冷たい戦闘場と熱い抱擁を交わすと瞼が猛烈に重くなって来やがった。
「抗うな。そのまま意識を失え」
「「「「ウォォオオオオオオ――――ッ!!!!」」」」
レドファーの冷静沈着な声色と彼の勝利を確信した轟音が何だか美女が歌う優しい子守唄に聞こえて来やがった……。
更に悪い事に石造りの戦闘場の硬さが女性の太腿の極上の柔らかさに変化。
起き上がろうとする俺の意思に反し、体は深い眠りへと就こうとしてしまう。
ち、畜生……。俺は死地に追いやられても絶対に諦めないからな??
例え意識が無くとも気合で起き上がってテメェの喉元に食らい付いてやる……。
辺り一面が特濃の紫に包み込まれ視界が奪われて行く中、微睡んで行く意識に抗うかの如く。石造りの戦闘場の硬化質な面を血が滲む苛烈な勢いで握り締め続けていた。
お疲れ様でした。
一万文字を越えてしまった為、分けての投稿になります。
現在、後半部分の編集作業中ですので次の投稿まで今暫くお待ち下さいませ。