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今日も今日とて、隣のコイツが腹を空かせて。皆を困らせています!!   作者: 土竜交趾
過去編 ~素敵な世界に一時の終止符を~
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第百八十三話 覇王継承戦に集う戦士達

お疲れ様です。


本日の投稿になります。




 六名の者達が奏でる足音が暗く長い通路に静かに響く。


 普段は喧噪に包まれてい為、こうした環境音が聞き取れる事自体が珍しい事なのだが今はそれよりもこの先に見えるあの光の下で行われであろう激闘が頭の中に渦巻いては消えない。


 常軌を逸した力を持つ龍と拳や魔法を交えて五体満足で戦いを終える事が出来るのだろうか??


 この体の四肢が、臓器が戦う前と同じ状態で居られる事が出来るのだろうか??


 頭の中に浮かぶのは使い古された雑巾よりも更にボッロボロに朽ち果ててしまった己の体の無残な姿のみ。


 後ろめいた想像は体に不必要な力みや緊張感を与えてしまう為、可能な限り前向きな己の姿を想像したいのですけれども……。


 先日受け止めた黒龍の恐ろしい姿が勝利の栄光を掴んで雄叫びを上げている勝者の想像を容易く燃やし尽くしてしまった。



 ま、まぁ?? 相手を殺してしまった場合は相手の負けになるので流石に殺される事は無いと思いますのである程度の手心を加えてくれる筈。


 しかし、もう一人の俺は。


『それでも死の一歩手前まで痛めつけられるんだぜ??』 と。


 心と体に大変宜しく無い台詞を吐いてしまった。


 だよなぁ――……。龍一族の覇権を得る為に相手は我武者羅に向かって来るのでその勢いに飲み込まれたら否応なしに酷い傷を負う事は目に見えて居るぜ。


 しかし、俺も比べっ子が好きな一人の男の子だ。


 何もせずボロ負けを喫するよりも己の実力を出し切って勝利という栄光の光を掴み取り誇らし気に掲げたい気持ちもある。


 目の前に立ち塞がる聳える壁に絶望するのでは無く、それを乗り越えるべき。


 己にそう強く言い聞かせて案内役である一人の男の背に続いて通路の中を歩み続け、遂に陽の光の下へと到着。



 そして俺達がお日様の下に現れると同時。



「「「「「ウォォオオオオオオオオ――――――ッッ!!!!!!」」」」」



 三百六十度から鼓膜をブチ破る勢いの大歓声が放たれた。



「うるさっ!?」



 すり鉢状に作られている闘技場の高い壁の向こう側。


 数段上った観客席から放たれる歓声の声がうねりを上げ、大波となってこの体を穿つと驚きの声を出さずにはいられなかった。


 数えるのも億劫になる大勢の観客の口から放たれる声量は天空に住まう神々も感嘆若しくは驚嘆の声を上げる程の音量であり、音という存在は時に人の体を攻撃するモノであると認めざるを得なかった。



「皆ぁぁああああ――――!! 頑張れよ――――!!!!」


「南の地に覇権を齎せよぉぉおお――――!!!!」



 東西南北に別れた観客席から放たれる音の中には当然鼓舞を指す言葉が含まれているのだが、中にはこの熱気に当てられたのか。



「ぜぇぇええったいに相手をブチ殺せ!! 何をしてでも覇王の座を勝ち取りやがれぇぇええ――――ッ!!!!」


「目を抉り取り相手の血で己の体を朱に染めろ!! お前達戦士は戦う為にそこに居るんだぞ!!!!」



 ちょっと処かかなり場違いな声援を送る無頼漢も居た。


 いやいや……。俺達は戦争をしに此処へ来た訳じゃないんですよ?? 出来ればも――少しだけ慎ましい怒号を送って頂ければ幸いです。



 大歓声に包まれながら案内役の彼に従い戦闘場リングの近くまで進むと。


「それでは戦闘場にお上がり下さい」


「あ、はい」


 周囲の歓声に掻き消されてしまいそうになる声に従い石造りの戦闘場に上った。


「はぁ――……。すっげぇ歓声だな」


 フウタが己の驚きを示すかの様に口をあんぐりと開けて周囲を見渡す。


「俺も驚いている最中さ。ん?? お、おいおい。東龍の方角を見てみろよ」


「あちゃ――。あそこは観客って言うよりも呑気な遠足って感じだなぁ……」



 北、南、西の方角の席はほぼ満席状態でありそこから放たれる大歓声が今も空気を震わせ大地を揺らしているのですが。



「まぁまぁ……、グシフォス坊やも大きくなって」


「時が経つのは早いですよねぇ。お茶菓子を作ったのですけど宜しかったら如何です??」


「あらっ、お一つお呼ばれしましょうかねぇ」



 東の方角の観客席ではお年を召したおばあちゃん達が観客席に持ち込んだお茶をズズっと優しく啜りながらうちの大将の成長した姿を、目を細めつつ眺め。



「こらっ、口元が汚れているわよ?? それに御飯は残さず食べなさい」


「こういう時くらい良いじゃないか」


「お父さんの言う通りだよ!! グシフォスお兄ちゃぁぁああああ――ん!! 頑張ってねぇ――――!!!!」



 此処は長閑のどかな平原でも、山の頂上もでも無く血で血を洗う闘技場なのですよと思わず突っ込んでしまいそうになる朗らかな家族が東の領地を治めるグシフォスに声援を送っていた。



「ギャハハ!! グシフォス――。もうちょっと真面な声援を送れって観客席に向かって言ったら――??」


 フウタが軽快に笑いつつ東の観客席に向かって指を差す。


「ふんっ、応援に来いとは一言も頼んでいない。彼等は勝手にこの地にやって来たのだ」



 口では辛辣な言葉を放っていますけども、表情は嬉しそうだぜ??


 本当に良く見ないと気付かない程に口角が上向いているし。


 恐ろしき力を持つ龍達の力に何処まで食い下がれるか分からないけどよ、東の選ばれし戦士としての役目を精一杯務めさせて頂きますね??


 グシフォスと共に柔らかい視線を東の観客席に向けていると、それをほぼ強制的に終了させてしまう超巨大な大声援が突如として放たれた。



「「「「「オオオオオオオオ――――――ッ!!!!!!!!」」」」」


「ははっ、いよいよ選ばれし戦士の全員が登場って訳ね」


 この大声援の元となった戦士達に視線を送る。



 西から先頭で出て来たのは赤と桃色の中間の鮮やかな色の短髪の男性だ。


「わはは!! 相も変わらず馬鹿騒ぎをしおって!! 俺はそこまで燥ぐつもりは無いから程良い声援を送ってくれよ!?」


「何を仰います!! 族長の息子足る貴方がそんな調子では勝てる戦にも勝てませんよ!?」


「今から気を張っていても無意味ですぅ――。俺達は俺達なりに戦うさ。なっ?? そうだろ??」



 先頭を歩いていた者が後ろに続く四名の戦士達に対して軽快に声を掛けるが。



「バドルズ様。観客席に居る者達の声が正しい答えです。貴方こそが次期覇王に相応しいとマルメドラ様が推したのです」


「親父にそう言われても俺は全然響かなかったしぃ――。それに?? 一人の娘が俺の下を発ってから全然元気が出ないんだよね――」


「あの瘋癲娘の事ですか。今は放出魔法が使用出来ぬ異質な者の所在よりも我々の悲願に集中して下さい」


「はいは――いっと……」



 あはは、向こうの大将はどうやら俺に似て飄々している感じだな。


 件の彼が戦いの場に相応しくない軽快な笑みを浮かべつつ戦闘場に足を乗せて軽やかに立つと此方に向かって声を送る。



「おぉ!! グシフォス!! 噂には聞いていたが、中々の手練れを用意したみたいだな!!」


「俺は一人でも勝ち抜けると言っていたが……。北の世話焼きがどうしてもとしつこいからな」



『一人でも勝ち抜ける』



「「「「……ッ」」」」


 その言葉を受け取ると西の戦士達の顔が一斉に曇ってしまった。


『お、おいおい。グシフォス、相手を煽る真似は止めてくれって』


「本当の事を言って何が悪い」



 良く出来た大人は場の雰囲気を汲み、自分の意見を堂々と喋るのでは無く時に遜る術を持ち合わせているのですよ??


 君は処世術を一から学んだ方がいい。そう言おうとしたのだが……。



「ハハ、どうやら東の馬鹿者は既に勝つ事を諦めている様ですね」


「えぇ。彼以外の戦士からは強さの欠片も見出せませんから」


 今度はこっちの番だ。


 そう言わんばかりに二名の戦士が此方を煽ると。


「誰が弱っちいだごらぁぁああ――!!!! 尻の穴の毛を全部毟り取るぞ!!!!」


「ふっ、某達の力を見誤るとは……。龍一族の目はどうやら腐っているみたいだな」


「弱い奴程良く吼えるとは良く言ったものだ」



 横着坊主達が西の龍の選ばれし戦士達の戦闘意欲を多大に誘う煽り文句を堂々と吐いてしまった。



「私は思った事を口に出しただけですよ??」


「その通り。弱者を弱者として捉える。何か不都合な事でも??」



 戦闘場の上で繰り広げられる売り言葉に買い言葉。



「聞こえたぞそこのチビ助がぁぁああああ!!!! 我等に歯向かってタダで済むと思うなよ――――!!!!」


「チビって言った奴出て来いや!!!! 顔の原型が分からなくなるまでギッタンギッタンのボッコボコにしてやっぞ!!!!」



 そして、観客の一部から放たれた心無い台詞にブチ切れてしまったお馬鹿者。


 覇王継承戦が始まる前から異様な熱気が闘技場に渦巻いてしまう。


 ったく……。戦いが始まる前から壮絶なる舌戦をして無駄な体力を消費しなさんな……。



「おい、フウタ。これからドンパチ始めるんだからそれまでその怒りは取っておけって」


「ちっ……。もしも西の連中と当たる様なら全員ブチのめしてやるぜ」



 戦いの取り決めが分からないのにどうやって君は全員ブチのめすのです?? そう問うとしたのだが、今日一番の大歓声が闘技場に轟いてしまったのでそれは叶わなかった。



「「「ウォォオオオオオオ――――ッ!!!! 我等巨龍一族に勝利を!!!!」」」



 お、おいおい。何だよ、あのデケェ連中達は……。



「「「「「……」」」」」



 南龍の通路から陽の下に出て来た五人の戦士達の大きさに対して呆れにも似た溜息が出てしまった。


 五人の内一人は女性なのだが、残る四名の男達の身長は遠目で見ても余裕でニメートルを越える体躯でありそれから比較すると女性の戦士も俺の背を余裕で越えているのが窺える。


 俺達を余裕で見下ろせるその巨躯についつい目が向いてしまうが大変立派な体を支える為に積載された筋肉量は成人男性の倍を誇り、双肩から滲み出る圧は他者を圧倒する。



「……??」


 ちょいと離れた位置の戦闘場に上った彼等に対して腕を翳してその大きさを改めて測るが……。


「あ、あぁ。うんっ、俺の遠近感が狂っているだけでしたねっ」


 彼等の背を何度測ろうとも俺達の背よりも縮む事は無かった。


「はぁ――……。でっけぇなぁ……」


 俺の隣で彼等の呆れた大きさを見つめるフウタがそう話す。


「ダン、よく見ておけ。アイツが南のバイスドールの現領主ストロードだ」



 グシフォスが指差した人物は四名よりも一歩前に立ち、威風堂々足る姿勢を崩さずに北龍の通路を睨み付けている男性だ。



 武骨な面立ちに良く似合う黒髪の短髪。


 半袖のシャツから覗く両腕には歴戦の勇士の傷跡が目立ち、両目から放たれる威圧感を捉えた者は恐らく彼に道を譲るであろう。


 三十代中頃から後半の顔立ち、過剰積載と思しき筋肉量、そして武の道の頂点に立つ者に相応しい圧を纏っていた。



「ほぅ……。中々の腕前だな」


 ハンナが品定めするかの様にストロードの顔に鋭い視線を送る。


「某達を襲った黒龍はあそこに存在するのか??」


「あぁ、迸った魔力から察するに……。ストロードの真後ろに立つ一番デカイ男だな」



 グシフォスの視線に合わせてストロードの後ろに立つ野郎に視点を合わせた。



「奴の名はビビヴァンガ。ストロードの右腕的な役割を果たす重臣であり南の領地を守護する者だ」


「……ッ」



 いかつい顔付きに誂えた様な鉄壁を誇る体躯に歴戦の勇士でさえも慄き右手に持つ剣を放って逃げ出すであろう強力な眼力。


 頭が真面な奴等なら正面に立つ事さえも叶わないであろう威圧感を身に纏う。


 イカツイ顔からはちょいと浮いて見えるキチンと整った黒き短髪、シャツの内側から盛り上がった胸筋に巨躯を支える両足はしっかりと大地を捉えており鉄製の壁よりも更に強固な体をブチ破るのには相当の力が必要であると遠目からでも容易く看破出来てしまった。



「成程ぉ。だから有無を言わさず俺達に襲い掛かって来やがったのか……」


「もしも俺と対峙するようなら必ず仕留めてやるぞ」



 ビビヴァンガと呼ばれた男は俺と相棒の鋭い視線を受けても微動だにせずストロードと同じく北龍の通路に向かって視線を送り続けている。


 一歩間違えれば相棒の命はこの世から去り、御先祖様達が暮らす世界に旅立ってしまったのだ。


 敵討じゃあないけれどもテメェの身を以て俺達が受けた怒りや悲しみを受けて貰うぜ??


 人知れず右手に力を籠めて強力な拳を形成していると今日一番の大歓声が不意に轟いた。



「「「「「ウォォオオオオオオオオ――――――――ッ!!!!!!!!」」」」」


「な、何!? この大歓声は!?!?」


「ふんっ、やっと登場か」


 突然の出来事に目を白黒させて狼狽えているとグシフォスが北龍の通路へと視線を送った。



「「「「「……」」」」」



 北龍の通路から現れた五人の戦士達が陽の光を浴びると只でさえ五月蠅い歓声が更に強力なものへと変化。



「北の領地に再びの覇権を!!!!」


「絶対に負けるんじゃねぇぞぉぉおお――――ッ!!」


「キャアアアアアア――――ッ!!!! ヴァルド様ぁぁああ!!!!」



 最後に登場した彼等が戦闘場に上ってもその歓声は止む事は無く、寧ろ更に苛烈な勢いへと変化してしまった。



「う、うるせぇぇええ!! 歓声以外何も聞こえねぇじゃねぇか!!!!」


 フウタがこれでもかと眉を尖らせて観客席に文句を放ち。


「某は喧しいのは苦手だ」


 シュレンは黒頭巾の側頭部を両手で抑えて目を瞑り。


「あ、あはは。さっすが現覇王が住む北の領地の声援ですなぁ――」


 俺はこの観客席から沸き起こる大歓声を目に、鼓膜に焼き付けようとして三百六十度をグルっと見渡した。


「北龍を纏めるのはあそこのヴァルドと呼ばれる者だ」


 グシフォスがまるで親の仇を捉えたかの如く鋭い視線で北龍の一団を睨み付ける。


「奴の実力はこの大陸でも一、二を争う手練れ。しかも現覇王の血を引く傑物だ。注意しておけ」


「……」


 北龍の一団の前に立つ男は威風堂々とした出で立ちで構え、観客席からの声援を一手に受け止めていた。


 黒みがかった金色の髪にこれまた常軌を逸した筋力を積載する体躯。そして体全身から放たれる圧は他の者とは一線を画す。


 南龍の連中もやべぇけど北龍の奴等も相当ヤるな……。


 どういう仕組みでコイツ等と戦うのか伺い知れないけども願わくば西の連中と当たり、そして次の試合で北か南と当たりたいのが本音だぜ。




 さてと、これで東西南北の選ばれし戦士達が一堂に会した訳だ。


 果たして何処の龍ちゃんが次期覇王の座を掴み取るのでしょうかねぇ……。



「「「……ッ」」」



 何かきっかけがあれば直ぐにでも相手に襲い掛かろうとしてムンムンの殺気を放っている戦士達を見つめていると観客席から放たれていた大歓声がふと止んだ。



 ん?? 何かあったのかしらね??


 突如として現れた変化の元を探しに忙しなく視線を動かしているとその元が北の観客席の最上段に出現した。


「……」



 その男は漆黒の服に身を包み、長髪の白髪を後ろで綺麗に纏めており顔立ちからして人間だと七十代後半から八十代前半の老人であると判断出来る。


 普通の人間のおじいちゃんならそこまで畏まる必要は無いのですけども、彼が纏う圧や強烈な眼光は他者を圧倒しており彼に睨まれたのなら思わず一歩身を引いてしまうだろう。


 外見に似合わないピンっと伸びた背筋に服の内側から盛り上がった筋力、そして左頬に刻まれし古傷。


 あの人はそれ相応の修羅場を潜り抜けて来たであろうと判断出来る顔立ちと出で立ちに思わず唸ってしまった。



「ゴルドラド様の御前だ。皆の者、頭を垂れろ」



 進行役であろうか??


 黒を基調とした服に身を包む一人の男性が観客席の最下段から俺達、そして観客席に向かってそう放つと。



「「「「「……」」」」」


 戦闘場に足を置く者共は片膝を立て、観客席に座る者は静かに頭を垂れて現覇王に敬意を表した。


 いっけね、俺も彼等に倣わなきゃ。


「はぁ――。あのおっちゃんが現覇王か」


『お、おい!! お前さんも片膝を付けろって!!』



 一人呑気に立ち尽くしたまま観客席の最上段に設置された王座に腰掛けた覇王様を眺めていた馬鹿野郎の頭を無理矢理下げさせ、その勢いを保ったまま地面に片膝を強制的に着けさせてやった。



「何すんだよ!!」


「俺達は余所者だけどこういう時は慣例に倣うのが通説なんだよ」


「けっ、しゃあねぇ。今だけは従ってやるよ」



 ふ、ふぅ――……。間一髪だったぜ。


 これで不敬罪に問われる事は無くなったと安心して胸を撫で下ろした。



「これから行われるのは次期覇王の座を賭けた試合となる。各地から選ばれた戦士達はそれ相応の誇りを胸に抱いて戦いに臨め」


 進行役の男性が一際強い声を放ち。


「それでは覇王様……。選ばれし戦士達に戦いの方法を知らせて下さい」


 静かに座したまま俺達を見下ろしている覇王に頭を垂れた。



「戦いの方法は総当たり戦だ。先に三勝した方が次の戦いへと臨める。第一回戦は北の領地と東の領地。南の領地と西の領地が戦い、その勝者が決勝戦へ。そして決勝戦の勝者が次期覇王の座に君臨するのだ」



 ふむ、戦いの取り決めは予め想像していた通りの総当たり戦と、勝ち抜き戦か。


 俺達の一回戦の相手は現覇王が治める北の領地。そしてその戦いに勝利したのなら南か西とぶつかる訳ね。



「戦いに臨む際に武器使用は認めるが己の得物を破壊された場合は負けとなる。相手の攻撃を受け、戦闘場に倒れて十秒以内に立ち上がれ無い場合。若しくは場外に吹き飛ばされて十秒以内に戦闘場に戻らなければ負けだ。反則行為は特に無い。好きな様に戦い好きな様に暴れ回る事を許可しよう」


 い、いやいや。


 馬鹿みたいに力強い龍ちゃん達が好き勝手に暴れ回ったらこの闘技場が原型を保つ事は難しいんじゃないの??


「龍の名に恥じぬ戦いを期待する。以上だ」


「聞いていた通りこれから第一回戦、第一試合を始める。北龍と東龍は戦いに向けての準備を。南龍と西龍は一旦戦闘場から退出しろ」



「行くぞお前達」


「「「はっ!!!!!」」



「さぁ――って。俺達は観客席から呑気に観戦させて貰いましょうかねぇ――」


「ですから!! もう少しやる気を見せて下さいと申していますよね!?」



 南の代表者と西の代表者が立ち上がりそれぞれの通路へと向かって行き、それに続いて戦士達が静かに去って行く。


 これから第一試合に臨む俺達と北の戦士達が戦闘場に残され、それを確認した進行役の男性が覇気のある声を出した。



「互いの先鋒以外の者は戦闘場から下りろ。そして先鋒は戦いの準備を始めろ」


「おっしゃぁぁああああ!! 一丁派手にブチかましてやるぜ!!!!」



 フウタが両の拳を体の前でガチンと合わせて己を鼓舞する。



「次の試合が控えているんだし、余り無理はするなよ??」


 戦闘場から下りる際に一言声を掛けてやる。


「御忠告有難うよ。さてさてぇ?? 俺様の相手はぁ……」



 彼が舌なめずりを始め、戦闘場から続々と降りて行く北の戦士達に視線を送る。


 恐らく先鋒戦なのである程度の実力を備えた者を用意する筈だと高を括っていたのだが、どうやら俺の予想は悪い意味で裏切られてしまった様ですね。



「お前が俺の相手か」


「い、いやいや!!!! 何で向こうは現覇王の息子さんを先鋒戦に置いているんだよ!!」



 注意すべき人物だとグシフォスに紹介されたヴァルドが、フウタと対峙している様を捉えるとそう叫ばずにはいられなかった。



「確実に一勝を勝ち取る為に一番の実力者を先鋒に置いたのか」


「某もハンナの意見に同意しよう。それと……、勝ちの勢いを得る為でもあるな」



 恐らく、というか確実にアイツ等はどういった戦いが行われるか知っていた筈だ。


 そうでもなきゃ最大戦力を先頭に置こうとは考えないからな……。



「こっちの情報は筒抜け。更にぃ――、戦いの取り組みも予め知っていたのかよ」


 フウタがヤレヤレといった感じで吐息を漏らす。


「だ、け、ど。テメェらは俺様の実力を少々見くびり過ぎだぜ?? 忍ノ者の強さは龍一族を軽――く凌駕するのさっ!!!!」


「フウタ!! ぜっったいに無理はするなよ!? ヤバイと思ったら棄権しろ!!!!」



 双肩から全力のワクワク感を滲ませている彼の背に向かって叫んでやる。



「わ――ってるって!! さてさて!!!! いきなりの頂上決戦をおっぱじめようとしますか!!!!」



 畜生……。フウタの奴はヤル気満々なんだけど俺はもう既に嫌な予感しかしない。


 奴等はベッシムさんから若しくはシュランジェから得た情報で戦いの順番を決めている筈だ。


 俺達の戦闘方法や特徴を加味して、自分達の戦士がどの敵との相性が最も優れているのか。その精査は既に終わっている。


 ちゅ、ちゅまり。奴等は確実に勝つ為の策を講じ、対し。俺達は全くの無策で戦いに臨まなければならないのだ。


 卑怯過ぎるぜと声を大にして叫んでもど――せ周囲の観客から放たれる大声援に掻き消されてしまうし、それに今更戦いの順序を変える事も出来ない。


 全く……。偶にはすんなりと上手く事が運べばいいのによぉ……。


 世の中は本当に上手く出来ていますなぁ。


「頼むから勝ってくれよ……」


 どう転んでも苦戦を強いられる覇王継承戦の始まりの合図を待つフウタの背に向かって必勝を願い、一人静かに両手を合わせてやったのだった。





お疲れ様でした。


帰宅時間が遅くなった為、深夜の投稿になってしまい大変申し訳ありませんでした。


これからこの大陸の本筋である覇王継承戦が開催されます。ほぼほぼバトル物の話となっておりますので、日常系が好きな人はちょっとダレてしまう可能性がありますね。


私はバトル物の話を書くのが大変苦手なのです……。これから先、上手く書けるかどうか。それが最大の悩みですね。



今週は以前から申していた様に富士登山に挑戦します!!!!


その為、いつもより投稿が遅れてしまう可能性がありますので予めご了承下さいませ。




そして、ブックマークをして頂き有難う御座いました!!


暑い真夏の中、読者様から嬉しい応援を頂き執筆活動の励みとなりましたよ!!!!


それでは皆様、お休みなさいませ。


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