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今日も今日とて、隣のコイツが腹を空かせて。皆を困らせています!!   作者: 土竜交趾
過去編 ~素敵な世界に一時の終止符を~
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第百七十四話 蔓延る超生命体

お疲れ様です。


本日の投稿になります。




 相棒が俺達を庇う為に惨たらしい死を彷彿とさせる灼熱の大火球を受け止めるとこれまで経験した事の無い衝撃波が体を襲う。


 轟音が鼓膜を大いに震わせ、震える大気が体内にキチンと収めている五臓六腑を揺れ動かす程の一撃。


 俺達はまるで目に見えない糸に強烈に引き寄せられる様に地上へと向かって苛烈な勢いを保ったまま落下を続け、この勢いのまま地上に叩き付けられたら恐らく相棒もそして俺達もタダでは済まないと感じてしまった。



 や、やっべぇ!! 地上に叩き付けられる前に何とかしないと!!



「相棒!! う、受け身を取れるか――!?!?」


 力無く左右に巨大な両翼を展開している彼の後頭部に叫ぶが……。どうやら彼は先程の大火球を受けて気を失っているらしい。


「……」


 俺の言葉に一切反応する事無く、この苛烈な落下速度に身を任せたまま微動だにしていなかった。


「おい!! シュレン!! フウタ!! 何とかしねぇとこのまま墜落しちまうぞ!!」


 彼の羽にしがみ付いたまま叫ぶ。


「どうにかしろって!? この勢いを相殺させるなんて無理に決まってんだろうが!!!!」


 暇で暇でしょうがない通常営業時なら御尤も!! と。軽い笑みを浮かべてそう言ってやるのだが状況が状況だ。


「てめぇ!! 少しは考える素振くらい見せやがれ――!!!!」


 鼓膜を激しく震わす風の勢いに負けじと思いの丈を叫んでやった。


「ダン!! 安心しろ!! このまま落下して行けば恐らくあの森の木々が某達を受け止めてくれるだろう!!」



 森!?


 シュレンの言葉を受けて必死に首を捩じって地面に視線を送ると、成程。確かにこのままの角度で落下を続ければあそこの緑の絨毯に着地出来そうだ。


 視界のほぼ全て覆う広大な森に生え伸びる木々には沢山の葉と枝が確認出来、それらを利用すれば直撃を免れる事は可能だと胸を撫で下ろしそうになるが……。



 ここで新たな不安要素が首を擡げてぬるりと這い出て来やがった。



 直撃は免れる事は出来るけども、完全完璧に相殺出来る事は不可能なんだよね!?


 ちゅ、ちゅまりある程度の痛みを我慢しなきゃいけないのだ。



「シューちゃん!! 痛いのは嫌だから魔法で何んとかしろよ!!!!」


「フウタの言う通りだ!! 直撃は免れるけどもそれ相応の痛みは御勘弁願いたいの!!」


「強力な火球や風の刃を放てば勢いを殺す事は出来るかも知れん。しかし、魔力を溜める時間もなければ龍の大地の森を悪戯に傷付ける訳にもいかんのだ」



 は、はい。現時点を以て多大なる痛みが襲い掛かって来る事が確定しましたね!!


 相棒の背に生える羽毛をぎゅっと抱き締め、徐々に迫り来る森に向かって視線を送るとその中央にやたらデカイ湖を捉える事が出来た。



 あれ?? あの湖って確か例のバツ印の場所じゃないのか??


 ほら、位置的にも一致するし……



「ダ――ン!!!! 衝撃に備えろぉぉおおおお――――!!!!」


 っとぉ!! 今はそれ処じゃ無かったぜ!!


「了解!!」


 フウタの絶叫が響くと同時。


 これから襲い掛かって来るであろう痛みに耐える為、口をンっ!! と閉じて奥歯を噛み砕く勢いで噛み締めてやった。



 さ、さぁ――。恐ろしい痛みよ、掛かって来なさい!! 俺達はそんじゅそこらの痛みじゃあ屈し無い!!


 優越感に浸った笑みを浮かべてそう声高らかに宣言してやりたかったのだが。


 あのクソ黒龍が放った大火球の威力は俺が想像しているよりも桁が違った様で??


 大小様々な枝や木々が俺の体を容赦なくブッ叩くその威力の強さがそれを物語っていた。



「ウギィィイイイイエエエエ――――ッ!?!?」


 森の木々の太い幹が背の肉を悪戯に剥せば。


「アババババ!?!?」


 鋭利な枝が服を切り裂き、肌の肉を美味しそうに食み。


「ヘブチッ!!!!」


 そしてこれが止めですよと言わんばかりに大地のあつぅい抱擁が内臓に与えちゃイケナイ痛みを与えてしまった。



「う、うぅ……。立ち寄っただけなのに何でこう酷い目に遭わなきゃならんのだ……」


 相棒のフワフワの羽の下から何んとか這い出ると、空を覆い付く様に地面から伸びている木々に向かって悪態を付いてやった。


 痛みを感じるって事は生きている証拠なのだが、痛み以外で生の喜びを感じたいのが本音だ。


「俺様もは、激しく同意するぜ……」


 人の姿のフウタが俺と同じ格好を取ると疲労を滲ませた吐息を吐く。


「不時着は成功したのは良いがハンナの様子が芳しくないぞ」


 そ、そうだ!! 安全安心が蔓延る地面に到着した事を安堵する前に相棒の容体を確認せねば!!


「ハンナ!!!!」



 朝一番の仕事に寝坊しそうになってベッドから跳ね起きるよりも早く体を起こすと、その足で相棒の下へと向かって行く。



「大丈夫か!? しっかりしろ!!」


 気を失い、人の姿に変わった相棒を優しく抱き起して容体を確認すると……。


「……っ」


「は、はぁぁぁぁ――……。よ、良かったぁ。気を失っているだけだ」


 彼は顰め面を浮かべながらも安らかな寝息を立てていた。



 だが、安らかなのは寝息のみでありハンナの両腕には酷い火傷の跡が確認出来る。


 空の覇者たる白頭鷲の飛翔能力を以てすれば黒龍が放った大火球は容易く回避出来ただろうに……。



「有難うな、相棒。俺達を庇ってくれて……」


 背の低い草達が生え揃う大地の上に静かに寝かせてやると方々に散らばる荷物へと足を向けた。



「しっかし……。なぁんか変な感じがする森だよなぁ」


 フウタが物珍しそうに周囲へと視線を送る。


「鈍感な貴様も感じたか?? この異変は……。強いて言うのであれば目に見えない大きな手で魔力を抑えられているといった感じか」


「魔力が抑えられている?? じゃあ魔法は使えないのかよ」



 よっしゃ!! あったぜ!!


 優しい着地では無かった事に憤りを隠せず、大変な顰め面を浮かべて地面に横たわっている背嚢の中から聖樹ちゃんから頂いたケルト草と応急処置の道具一式を持って相棒の下へと戻った。



「ダンの言う通りだ。先程、ハンナの傷を治療しようとして魔力を放出しようとしたが……。使用出来なかったからな」


「マジかよ!? じゃあ俺様も試しに……」


 フウタが丹田に力を籠め、顔を真っ赤に染めて魔力を高めようとするが。


「だ、駄目だ!! ちょっとだけ高まるけど本来の力には程遠いぜ!!」


 直ぐに力を解除。


 呆れにも驚きにも似た表情を浮かべて森の方々へ向かって視線を向けた。


「使用出来ない訳じゃないんだろ?? だったら別に構わないじゃねぇか」


 先ずはケルト草を小鉢の中で磨り潰して、んで水と混ぜ合わせて――っと。


「此処がどういった場所なのか不明な以上、早急に移動する必要があるぞ」



 魔力がほぼ使用出来ない、敵性対象の存在の有無、そして此処は恐ろしい力を持つ龍族が治める大地。


 幾つもの不安要素が俺達を包み込み否応なしに危機的状況に追いやられてしまっていると判断出来るよな。



「俺もシュレンの意見に賛成だよ。だけど先ずはハンナの治療を最優先させてくれ」


 今も焼け爛れた肌からじわりと血が滲む相棒の腕にケルト草を優しく塗り付け、そして清潔な布で固定してやる。



 ふ、ふぅっ。取り敢えずこれで応急処置は済んだな……。


 ルクトから頂いたこの薬草の効果は己の身を以て証明しているので時間が経てばいつも通りケロっと目が覚めるだろう。



「うっし、お終いっと」


「シューちゃんよぉ。一刻も早くこのヘンテコな森から脱出したいのは分かるけど。どっちに向かうんだ?? へへ、ハンナ。有難うな。俺様達を庇ってくれて」


 フウタがハンナの様子を窺いつつ話す。


「そう、だな。東と南に広い平原が見えた。先ずはそこへ向かうのはどうだ??」


「いや、それよりも西へ向かおう。この森の中央に湖が見えたし」



 先程、ほんの僅かに俺の視線に映った湖の光景を思い出しつつ話す。



「湖?? あぁ、そう言えばそれを確かめる為に此処へ来たんだったな」


「そういう事。それにあそこなら平原と同じ様に開けているし容易に水も確保出来る。それじゃ、各自荷物を纏めて移動を開始しようか」


 己の太腿をポンっと景気良く叩き立ち上がった。



 見知らぬ場所での無知は死に直結する。


 己の身に深く刻まれた教訓を生かす為にもさっさと移動を開始しましょうかね。


 ハンナ、今から安全な場所まで運んでやるからな?? 今は静かに眠って疲労と痛みを癒してくれ。



 まるで恋人の胸の中で眠り続ける様に安眠し続けている彼に向かって心の中で優しく唱え、今も散らばる荷物方へ向かって歩み出すと大変いやぁぁああな感覚が体を穿って行った。



「なぁんかカサカサ鳴ってね??」


 フウタが腰の小太刀を抜刀して警戒心を強める。


「この草と草が擦れ合う音は恐らく移動音であろう」


 シュレンも彼と同じく最大級の警戒態勢を整え、不穏な音の発生源であろう草むらの先へと視線を送っている。


「移動音?? 何の」



 この世に別れを告げて向こうの世界に旅立った目に見えない者達には実体という概念が無いから現世の物質を揺らす事は出来ない。


 ちゅまり、移動音が鳴るという事は確実に実体を持つ個体が迫って来ている証拠なのさ。



「それが分かれば苦労はしない。ダン、フウタ。絶対に気を抜くなよ??」


「おうよ!!」


「分かった!!」



 それぞれがそれぞれの死角を無くす立ち位置に素早く身を置き、一切の音を立てずに俺達に向かって徐々に近付いて来る不穏な音に備えていると……。


 遂にその正体が森の木々の影からぬぅっと姿を現した。



「「「……ッ」」」



 平屋一階建てと同じ位の体高に大きな体を支える立派な六本の節足。


 大地をしっかりと捉える豪脚にはミッチリと繊維若しくは筋力が備わっているのか、遠目から見てもその太さが容易に窺える。


 体表は周囲の森に合わせた鮮やかな緑色で保護色の機能を果たしており、顔面の真正面に備わるお口ちゃんが何かを求める様に怪しくギチギチと蠢く。


 大人の上半身程の大きさの巨大な瞳は対象物がどれだけ速く動こうが決して見失わない眼力を持つであろう。



 小さい頃は背の低い草が生え揃う大地の上でピョンピョンと跳ね回る飛蝗を良く追いかけ回していたものさ。


 類稀なる跳躍力と飛翔能力を持つ飛蝗を捉えると様々な角度から観察して、重力や自重等一切関係なく跳ね回る事を可能とした豪脚に指を添えると生命の力強さに感心した。


 コイツ等が俺と同じ大きさになったら一体どれだけスゲェ跳躍力を見せてくれるのだろう??


 ガキの時分はそんな有り得もしない妄想に駆り立てられて昆虫を観察したものさ。



 そして時が経ち、子供の頃の有り得ない妄想が現実になったのなら誰だって驚愕の声を出さずにはいられないだろう。



「「きっっっっっも!!!!」」



 右隣りに立つフウタと共に図らずとも声を合わせて素直な第一声を叫んでやった。



「ダン!! 何だよ!! アレは!!」


「大きな飛蝗だ!!」


「んな事分かってんだよ!! どうして手の平に収まる筈の飛蝗が平屋と同じ大きさになっているのかって聞きてぇんだ!!!!」


 それは俺が知りたいっつ――の!!!!


「と、兎に角!! 相手を刺激しない様にしよう!! それが賢明だ!!」


「だ、だなっ!!」



 腰から黒蠍の甲殻で作られた短剣を静かに抜き、森の影から突如として現れた三体の巨大生命体の様子を静かに窺っていると奴等の頭部に生える二本の触角が怪しく蠢き始めた。



 な、何だ?? あの動き……。


 俺達が食えるかどうか確認しているのか?? それとも敵性対象として捉えようとしているのか……。



 相手の能力が分からない今、此方から仕掛けるのは得策では無いので最小限の呼吸に留めて先頭の一匹に鋭い視線を送り続けていると巨大飛蝗が後方の足にググっと力を籠め始めてしまった。



「お、おいおい。まさか俺様達に向かって突撃を始めようとしているのか??」


 小太刀を抜刀して浅く腰を落としているフウタが警戒心を強めたまま話す。


「初見の相手にいきなり体当たりをブチかまそうとするか?? あ、あれはきっと飛蝗さんの挨拶の仕方だろう。ほらっ、俺達に向かって頭を下げて前傾姿勢を取っているしっ」


「虫に意思疎通能力があるとは思えん。それに……。あれは突撃の姿勢だっ」


「「はいっ??」」



 俺達の直ぐ後ろから届いたシュレンの考えを証明するかの如く。



「ッ!!!!」


 この世の理から外れた生命体が豪脚に備わる力を解放すると空気を、空間を切り裂き俺達の方へ向かって突撃を開始しやがった!!!!


「どわぁぁああっ!!!!」


「っぶね!!」


「フンッ!!!!」



 警戒心を強めておいて正解だったぜ!!


 呆気に取られたままだと今の一撃を真面に食らいとんでもねぇ距離を飛翔していた事だろうから。



「ギギッ」



 化け物飛蝗の突撃を受けた比較的小さな木が重低音を轟かせながら地面に向かって倒れて行く。


 あれが自分の体だと思うと寒気がしやがるぜ。



「テメェ等……。俺様達に喧嘩を売ってタダで済むと思ってのかぁ!? アアンッ!?」


「今の攻撃は意思表示の表れだと捉えた。ダン、戦闘を開始するぞ!!」


 フウタとシュレンが前面の二体に対して攻撃態勢を整えると。


「し、仕方がねぇ!! 野郎共!! 飛蝗退治と洒落込もうぜ!!!!」



 俺は後方の木を蹴り倒した飛蝗と対峙。


 大変静かな森の中で意図せぬ戦闘が開始されてしまった。



 さぁって、各々が一対一タイマンで戦いが始まった訳ですけども。コイツの能力は本当にあの馬鹿げた突撃力だけなのでしょうかね??



「すぅ――……。ふぅっ」


 生死を別つ戦いが始まった時に奏でられる拍動の音、自然と高まる呼吸数を抑えつつ俺に体の正面を向けた巨大飛蝗に鋭い視線を向けた。


「ギギッ」



 途轍もない突進力はあの人間の胴体よりも太い後ろ足から放たれるものであるに違いない。


 次に武器になりそうなのは細い樹木程度なら余裕で噛み千切れそうな鋭い顎だろうな。


 突撃で獲物を弱らせ、動けなくなった所に鋭い顎で肉を噛み砕く。


 大変理に適った狩猟方法なのですが、本来飛蝗は草食だ。俺達の肉体を美味しく頂く為に襲い掛かって来たのだろうか?? それとも縄張りに入って来た事に対して憤りを覚えているのか……。



 頭の中に渦巻く幾つもの思考をしっかりと咀嚼していると。


「ギィッ!!」


 化け物飛蝗が先程よりも苛烈な勢いで突撃を開始しやがった!!


「おわぁっ!?」


 や、野郎!! まだ速さが上がるのかよ!?


 寸での所で俺に向かい来る巨体を回避。


「テメェ!! もう少し大人しく突っ込んで来い……。へっ!?」


 後方に居るであろう飛蝗に叫んでやったのだが、どういう訳かあの巨大な飛蝗を視界に捉える事が出来なかった。



 ど、何処に行きやがった!?


 短剣の柄を掴む手にじわぁっと嫌な汗が滲み、飛蝗の姿を捉える為に忙しなく上下左右に視線を送り続けていると野郎の姿を随分と上方で捉えた。



「お、おいおい。お前さんは木に張り付く事も出来るのかよ」



 目測約十メートル程度だろうか。


 野太い樹木の幹の上方で一体の飛蝗が俺の体を穿とうとして静かにその時を窺っていた。


 俺に向かって飛び付き、振り返るよりも早くあそこへ移動したのか??



「ギシィッ!!!!」


「ゴホッ!! だからもうちょっと大人しく突っ込んで来なさいって言ったでしょう!?」



 上方から飛び掛かって来た飛蝗の強襲を回避すると地面から大量の土煙が立ち込める。


 鼻腔に届くジャリっとした感覚が嫌悪感を与え、肺の中に僅かに侵入した土煙を吐き出すと微風に乗って土煙が徐々に晴れて行った。



「ギギギ……」



 あのクソ飛蝗は攻撃が俺に当たらない事に憤りを覚えたのか将又手っ取り早く獲物を始末すべきと判断したのか。


 よりにもよって気絶して一切動いていないハンナを標的として鋭い顎で彼の頭蓋を食もうとしているではありませんか!!!!



「こ、こ、このクソ野郎がぁぁああ!! 俺の家族に手を出したらブチ殺すぞ!!!!」


 右手に掴む短剣の柄を痛い程強く握り締め、もう間も無く飛蝗の顎の中に消えようとする相棒の大切な命を守る為に突貫を開始した。


「ギィッ!!!!」


「て、テメェ!! 俺が向かって来るのを……。うぐっ!?!?」



 昆虫特有の複眼を此方に向けるとこれを待っていたのさ!! と言わんばかりに巨大飛蝗が一直線に向かって来る俺の体に体当たりをブチかまして来やがった。



「う、うぇっ……」



 後方の樹木の幹に衝突して地面に叩き付けられると激しく後頭部を打った所為か、視界が定まらず巨大飛蝗が二重にも三重にも見えやがる。


 まさかとは思うけど……。俺は誘われたのか?? たかが虫如きに!?



「あ、あははぁ。成程成程ぉ……。そっちがその気ならぁ……。こっちも力を見せてやらぁぁああああ!!」



 大切な家族を守る為、そしてこれからも彼等と冒険を続けて行く為にも俺はこんな所で死ぬ訳にはいかねぇんだよ!!


 激情に任せて魔力を全開放するといつもより少々抑えられているとは言え、桜花状態へと移行する事が出来た。


 ちぃっ……。あの常軌を逸した感覚には程追いけど何んとかクソ飛蝗と張り合える力は出せそうだな。



「ギギ……」


 俺の力の鼓動を感じた飛蝗が刹那に後ろ足加重となり、この戦いが初めて奴が一歩身を引いた。



 野生の生物達は生死のやり取りに非常に敏感だ。


 一つでも判断を読み違えたら即刻死に繋がる非情な世界で生きているからな。


 つまり、野郎は俺の姿を捉えて己の死を予感したから一歩身を引いた。



「さぁ、掛かって来いよ。突進だけの無能野郎」


 飛蝗の突撃に対して微かに腰を落として構えると。


「ギィィイイイイイ!!!!」


 奴も己の野性を燃焼させ、見ていて惚れ惚れしてしまう素敵な突貫を見せてくれた。


 お生憎様……。お前さんの速さ、突進力、そして野生の力はジャルガンの足元にも及ばねぇぜ。


「ふんっ!!」


 俺に向かって突進して来た速度を利用して頭部の触角を切り落とすと。


「あばよ、俺に喧嘩を売った事を後悔するんだな」


「ギギィィッ!?!?」


 頭部と胴体の間の接合部分に短剣の鋭い切っ先を突き刺し、そこから一気呵成に首を刎ね飛ばしてやった。


 巨大な胴体から吹き出る黄緑色の体液が地面を、樹木を汚して俺の勝利を大変きたねぇ色で祝ってくれた。



 ふ、ふぅっ……。これで一体退治。


 フウタ達はどうなったのかな?? まさか今頃飛蝗の鋭い顎に頭部をグッチャグッチャと咀嚼されていないだろうか。


 桜花状態を解除して森の奥へ視線を向けると、どうやら俺の杞憂で終わった様だ。



「だぁ――!! つっかれたぁ!! 魔力が抑えられているってのは本当に面倒だな!!」


「これも修練だと思え」


 ド派手な真っ赤な装束と全身真っ黒の装束に身を包む二人が俺と同じくちょいと汚い色を纏って木の影から此方に向かってやって来てくれた。



「ハハ、流石だな。二人共」


 いつもの笑みを浮かべると腰に短剣を収めて二人を迎えてやる。


「余裕だって、余裕――」


「見栄を張るな。戦いの最中に情けない叫び声を上げていたではないか」


「はぁっ!? んな訳あるか!! 大体テメェだってビビった目の色をしてたじゃねぇか!!」


「ふっ、常軌を逸した飛蝗の出現でとうとう頭をヤられてしまった様だな。某が恐怖を抱く訳等ないだろう」



 あぁ、も――。


 折角生き延びる事が出来たんだからもう少し陽性な感情を抱きなさいよね。



「はぁ――い、兄弟喧嘩はそこまで。これ以上此処に留まって居たら第二波、三波が襲い掛かって来る恐れがあるので湖に向かって移動しますよ――」



 広い居間で取っ組み合いをする我が子達を戒める様に一つ柏手を打つと、方々に散らばっている荷物を纏める作業に取り掛かった。


 今回襲い掛かって来たのが三匹だけど、十を超える数が襲い掛かって来たらもっと酷い傷を負っていたかも知れない。


 この森は本当に綺麗だけどその本当の顔は……。弱者は到底生き残れない非情な死が蔓延る恐ろしい森だ。



「ちっ、わ――ったよ。気絶しているハンナは誰が運ぶ??」


「俺が運ぶよ。二人は荷物を運搬してくれ」


「了解した。では某がダンの荷物を運んでやろう」


 彼が俺の背嚢を力強い所作で背負うと一纏めにした荷物を両手に持ってくれる。


 うふっ、真面目なお兄ちゃんはこういう時にこそ真価を発揮するのかもねぇ。


「じゃあ俺様の荷物も宜しく――」


「ふざけるな!! これは貴様の荷物ではないか!!」


「いてぇなぁ!! 俺様の尻を軽々しく蹴るんじゃねぇ!!!!」


 シュレンが持つ荷物の上にフウタがさり気なく己の荷物を乗せると小康状態になった喧嘩が再び勃発してしまう。


「なぁ、相棒。お前さんはいつもこの立場で俺達の喧噪を眺めて居たのかい??」


「すぅっ……」



 安静に寝息を立てている相棒を背負うと今もギャアギャアと騒ぐ二人へ視線を送る。



「貴様はもう少し真面目に修練に身を置くべきだ!!」


「テメェこそクソかてぇ頭を砕いて洒落を理解しやがれ!!!!」


「まっ、こういう五月蠅さが無いと俺達らしくないよなっ」


 よっこいしょと情けない声を放って相棒の体を背負い直すと西の方角へと向かって静かに歩み出す。



 耳を澄ませば何処からともなく聞こえて来る木々と草々が擦れ合う天然自然の音、姿の見えぬ鳥達の歌声。


 フウタ達の口喧嘩の声がじぃんっと響く程に森は酷く静かだ。


 何も知らぬままであったら地面に風呂敷でも敷いて酒を片手に馬鹿騒ぎをしていたかも知れないが、先の戦闘から得た経験でそれは御法度だと思い知らされた。


 清らかで美しい森だが、その正体は死が跋扈する弱肉強食を体現した様な超絶やべぇ森。


 その事を己の体を以て理解した俺は何も言わず気配を消失させて森の中を進んで行くが。


「はい、嘘――!! 戦いの時にチラっと見たけどさり気なく後ろ足加重にしていたもんねぇ――」


「あれは相手の様子を窺う為だっ!!」


 喧嘩が大好きな鼠二頭はどちらが優秀かを決める如く。


 俺の気持ちを知る由も無く汚い口喧嘩を続け森の静謐な環境を破壊し尽くしていたのだった。





お疲れ様でした。


いやぁ梅雨の季節ですのでかなり蒸しますよね。


ですが、この梅雨も間も無く明けてうだる様な暑さがやって来ると思うと気が滅入ってしまいますよ。


冷たい物ばかりを食べていると夏バテになってしまいますのでこの時期から積極的に熱い食べ物を食しています。


本日の夕食は土鍋を利用したなべ焼きうどんでしたもの!!


グッツグツの土鍋に浮かぶうどんと葱。


クーラーを掛けて食べる熱いうどんの美味さと来たら……。この季節でしか味わえないものでした!!


皆様も夏バテ対策を積極に取って暑い夏を乗り越えましょう。





いいねを、そしてブックマークをして頂き有難う御座います!!


執筆活動の嬉しい励みとなりました!!



それでは皆様、お休みなさいませ。

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