表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
今日も今日とて、隣のコイツが腹を空かせて。皆を困らせています!!   作者: 土竜交趾
過去編 ~素敵な世界に一時の終止符を~
1072/1227

第百七十二話 牽衣頓足を断ち切って その二

お疲れ様です。


後半部分の投稿になります。




 後ろ髪を引かれる思い。


 それは前に進む事を躊躇う心の空模様を端的に表した言葉なのだが……。今ほどその言葉が似合う状況は無いだろうと人知れず自覚していた。


 両の足はこの場に留まろうとして進み出すのを躊躇い、体は遥か後方に居るであろう彼女の下へと向かうべきだと叫んでいる。


 しかし、心は……。


 未だ見ぬ新たなる発見や、危険が蔓延る冒険を求める様に前へと進もうとしまっていた。



 はぁ――……。体は残ろうとして心は旅立とうとする。


 この相対する事象で可笑しな歩き方になってしまいますよっと。


 それを見越してか、将又俺の心の様相を見透かしたのか。



「――――。貴様さえよければもう少しこの地に留まっても良いのだぞ??」


 相棒が前方を捉えながら普段の生活態度とは真逆の全然似合わない優しい声色を放った。


「ん、大丈夫。その辺に付いてはもう踏ん切りが付いたからさ」



 何も今生の別れになる訳では無い。


 己にそう強く言い聞かせて旅立つ事を決意したのだ。


 それに今更出発するのを止めました――!! なんて言った日には快活受付嬢から目を疑いたくなる仕事の量を押し付けられ、王都守備隊を統括する強面のお偉いさんからは首を傾げたくなる危険な依頼が舞い込んでしまう蓋然性があるのだ。



「そうか」


 ハンナが少しだけ目を細めると歩む速度を上げて王宮へと続く階段へと向かって行った。


「あの姉ちゃん達は良い奴等だし、それにこの街にはたぁっくさんの可愛い子が住んでいるからなぁ。ダンの気持ちは痛い程理解出来るぜ」



 おやおや、君は俺の心を汲んでいないようですね??


 俺が後ろ髪を引かれているのは絆を深めた者達との別れに付いてであり、プルンっと弾む双丘や思わず撫でてしまいそうになる桃尻の所為じゃあないんですわよ??


 ま、まぁでも一割……、いんや。三割程それは含まれているかもっ。



「……」


 北の方角から俺達の方へ向かい来た女性の歩みに合わせてタユンっと揺れる双丘と健康的に焼けた肌が雄の心をグっと掴んじゃいますし。


「おひょう!! ダン見たかよ??」


「うんっ、大変美味しそうな御体でしたわね!!」


「馬鹿共が……」


 性欲に正直な小鼠と共に彼女の後ろ姿へ視線を送り続けていると、相棒と同じ位に馬鹿真面目なシュレンからお叱りの声を頂いてしまった。


「ひっでぇ言い方だなぁ。シュレン、そろそろ鼠の姿に変わって貰っていいか??」


「あぁ、分かった」


 彼が地面に静かに荷物を置くと此方の要望通りに魔物の姿に変わり。


「失礼する」



 四つの小さなあんよを巧みに動かして俺の懐にキチンと身を顰めてくれた。


 この二匹と守備隊の連中はあの事件以来、水と油だからなぁ……。例え別れの日であっても姿を露出する訳にはいかんのだ。



「ほら、お前さんも身を隠せ」


「へ――へ――、了解っと。シューちゃんは右の懐だから俺様は折角だから左の懐を使わせて貰うぜ!!」


 折角の意味が分からん。


 背にずっしりとした重みを与えて来る背嚢を背負い直し、地面に置かれた荷物を全て持つと此方にジィっと鋭い視線を送り続けている相棒の下へと駆け足で向かって行った。



「置いて行くなよ」


「貴様の足が遅いのだ」



 背には馬鹿みたいに大量の荷物が詰まった背嚢、両手にたぁくさんの木箱。更に口喧しい鼠を運べば誰だって歩みが遅れるでしょうに。


 君はもう少しだけ相手を労わる心を覚えるべき。


 そう言いたいのをグっと堪えて本日も強烈な日差しの下で王宮の警備に就く守備隊の連中が守る階段の麓へと到着した。



「よぉっす!! おはようさん!!」


 此方から見て右側。


 不動の姿勢を貫き虚空へ向かって鋭い圧を放ち続けている鉄の塊へと向かって軽快な声を出してやる。


「ふぅ――……。別れの日位は声を出してもいいか」


「そうそう!! 黙ったまま別れるのは流石に寂しいからね!!」


 ヤレヤレ。


 そんな感じで第一声を放った鎧の肩をポンっと軽快に叩いてあげた。


「ダン、ハンナ。お前達には本当に世話になった。俺達はお前達が成し遂げた事、そしてこの国に尽くしてくれた事を一生忘れないぞ」


「おうよ!! もっと有難がってもいいんだぜ!?」


「調子に乗るな!!」


「いでっ!!」



 大変硬い鉄に包まれた右手が俺の脳天をペシっと叩くと心地良い音が奏でられてしまう。



「何すんだよ!!」


「ハハハ!! しんみりした別れよりもこうして笑い溢れる別れの方がお前らしいぜ――!!」


 階段の反対方向に居る守備隊の野郎が目に小さな涙を浮かべている俺を捉えると人目も憚らず笑い声を上げる。


 この陽性な空気はどうやら空気に乗って強烈に伝播するらしく??


「ギャハハ!! だっせ――なぁ――!!」


「その程度で痛がる様じゃあ鍛え足りないぜ――!!」


 階段の上方で警備を続ける者達も良く晴れた日に誂えた様な軽快な笑い声を放ってしまった。


「ちっ、悔しいけどその通りだぜ。こうして笑いながら背中を押してくれた方が旅立ち易いってもんよ」


「安心しろって、俺達はいつでもお前さん達を歓迎してやるから。冒険に飽きたらいつでも戻って来い」


「おうよ!! それじゃあ行って来るわ!!!!」



 彼等の明るさに負けぬ様、此方も満面の笑みを浮かべて王宮へと続くとても長い階段を上り始めた。



「ダン!! じゃあな!!」


「おう!! 元気でいろよ!!」



「ハンナ!! また俺達を鍛えてくれよ!?」


「あぁ、足腰が立たなくなるまで鍛えてやるから覚悟しておけ」



 左右から寄せられる別れの挨拶、激励、そして名残惜しむ声。


 その一つ一つに対して丁寧に返事をして体に刻みつける様に階段を上って行く。


 初めて来た時は辛辣な対応だったけどさ、同じ釜の飯を食い今じゃこうして十年来の友に送る温かな言葉を放ってくれる関係になった。


 くっだらねぇ揶揄や馬鹿騒ぎも暫くの間、お預けだと思うとやっぱり寂しいよなぁ。


 あ、でも。この筋骨隆々の大蜥蜴ちゃん達と一緒に過ごすには鼓膜に常軌を逸した鼾の耐性を付与させる必要がありましたねっ。


 そんな特異な特殊能力は世界広しと言えど授けて下さる方は皆無なので、再び訪れたのなら四六時中では無く日が出てる間だけ共に肩を並べて語らうとしよう。


 口角の筋力と喉の粘膜が少々疲れ始めた頃。


 階段を上り切りその足で王門の脇の扉を潜り抜けて王宮内へとお邪魔させて頂き、本当に慣れた歩みで訓練場へと続く坂道を下って行く。



「ふぅ――……。挨拶回りって思っていた以上に疲れるんだな」


 今日に至るまで世話になった方々に挨拶に伺い、そして今日は朝も早くから何度も笑みを交わし言葉を交わして別れを惜しんでいるので心と体がちょっとだけ疲れていますよっと。


「人と人の数だけ絆は存在する。その疲労度は俺達が此処で過ごす間に築き上げた絆の深さとでも思えば良い」


 お、おやぁ??


 自分の強さにだけしか興味が無かった子がいつの間にやら立派な大人の処世術の片鱗を見せているではありませんかっ。


「お母さんは嬉しいわよ?? 貴方が立派な考えを持ってくれて……」


 隣で歩く相棒の端整な横顔にそう呟いてやる。


「喧しい。俺は里の戦士として強くなる為に一日一日を過ごして来た。傷だらけになるのが己の使命だと言い聞かせて。だが、里を発ち此処で過ごす内に他者との関わり合いも大切なものであると知った。鍛錬を疎かにすれば肉体的には強くなれないが関わり合いを持つ事によって人を想う心、つまり内面を強くする事が出来る。俺は此処で肉体的にもそして内面的にも成長したつもりだっ」


 ハンナがそう話すと嬉しそうに鼻息を漏らし、よぉぉく見ないと分からない程に口角を上げた。



「それが感情と意思を持つ生物の強みって奴さ。自分の為じゃなくて、誰が為に刃を振る。これも立派な強さの尺度だぜ??」


「ふんっ、貴様も言う様になったではないか」


 いやいやいやいや!!


 お前にだけは言われたくないぜ!?


 俺がいなかったらお前さんはきっとこの広い王都右往左往するだけで直ぐに生まれ故郷に帰っていただろうし!!


「鍛錬馬鹿のテメェに言われちゃお終いだ」


「ふっ、そうかもな」



 ハンナと刹那に視線を交わして陽性な笑みを共に浮かべていると。



「オォォオオオオオオ――――イッ!!!! 早く来――――いっ!!!!」


 思わず双肩がビクっと揺れ動いてしまう怒号が訓練場から放たれてしまった。


 うるさっ!?


 その声の主を確かめるべくだだっ広い訓練場に視線を送ると、その主は一秒にも満たない内に特定出来てしまった。


「――――。あのね?? 早く会いたいのは分かるけども、も――少しお淑やかに待つ事は出来ないのかい??」



 訓練場に集結している王都守備隊の面々、そしてゼェイラさんを筆頭に行政に携わる者達でごった返している訓練場に到着すると本日もこれ見よがしに鍛え上げられた筋力を全面に出しているグレイオス隊長にそう言ってやった。



「わはは!! それは無理だな!!」


 でしょうね。


 そうやって腕を組んで豪快に笑っている姿が大変良く似合っていますもの。


「ダン――!! 俺は寂しいぞ――!!!!」


「っと、ラゴス。急にどうした??」


 地面に荷物を置いて疲れた腕を解していると陽気な彼が縦に割れた瞳に大粒の涙を浮かべて抱き締めて来た。


 爬虫類特有のツンっとした饐えた匂いが鼻腔に侵入すると体がもう少しそこから離れなさいよと忠告を放つ。


「だってよぉ!! 折角仲良くなったのに今日でお別れなんだぜ!? これで寂しいと思わない奴は心が死んでいるってぇ……」


「泣くなよ、俺達はまた帰って来るんだからさ」


 妙に艶のある頭部の鱗を一つ撫でてやる。


「う、うぅ……。そうだよなっ、少しの我慢だよな」


「そうそう。それにぃ……」


 ラゴスに対してちょいちょいと手招きをしてやる。



『冒険の途中で見付けたお宝があれば……。それをお土産として持って来てやるよ』


『マジかよ!? そりゃ有難いぜ!!』


『大蜥蜴が載っているかどうかは分からないけどさ。思わず生唾をゴックンと飲み込んでしまう程の厭らしさは保証しますぜ??』


『ハンナが持って来てくれたあの本を越える威力か!?』



 そりゃ勿論。


 そんな意味を含めて大きく頷いてやる。



『それは有難いっ!! 実は昨晩、あの本を使用してさ』


 読んだ、じゃあ無くて『使用』 したんだ。


『自分でも呆れる程速く済んじまって……。今の内に耐性を付けておくから頼むぜ??』


「おうよ!! 金銀財宝なんかメじゃない逸品を御持ち致しましょう!!」


 満面の笑みで胸を張って彼の依頼を請け負うと。


「何の話をしているのだ」


 彼等を一手に纏めるゼェイラさんが不思議そうな表情を浮かべて此方にやって来た。



「あ、いえ。俺達が帰って来るまでに鼾を治しておけと伝えておいたんですよ」


 咄嗟に思いついた嘘で危機を回避。


「その節はお世話になりました。これからもどうか御体を御自愛下さいね」


 これぞ立派な大人の所作であるとして、彼女に対してキチンと腰を折って別れの挨拶を済ませた。


「あぁ、精進しよう。所で、次はいつ帰って来るのか分かるか??」


「次、ですか……。う――ん……」



 先ずはガイノス大陸に向かって例のバツ印の調査だろ?? んで、引き続き俺の生まれ故郷でもあるアイリス大陸南南西のバツ印の調査。


 ざっと見繕って、一年程度で足りるかしらね??



「まだ何とも言えませんが……。一年程度で時間的余裕が出来ると思います」


「そうか、一年か」


 俺がそう話すと酷く考え込む仕草を取る。


「何かありました??」


「あ、いや。闘技場建設の計画は既に進み始めているのだがな?? 万が一キマイラが考えを改め難色を示す様ならその交渉役を誰にするか迷っているんだ」


 あぁ、成程。


 新たなる生贄候補の選別に苛まれていたのですか。


「見ず知らずの者を向かわせるよりも奴等と面識のあるグレイオス隊長が適任かと思われます」


 初対面の奴がキマイラ達と対峙したら彼等の圧に圧倒されて真面に舌を動かせるかどうか疑問が残るし。


 それでアイツ等の機嫌を損なわせたら本末転倒だものね。


「やはりそうか。グレイオスを筆頭に隊を組んで、それから第二班はトニアが適任か?? いや、そうなると王都の守備が手薄になってしまう恐れが……」



 あ、あはは。こんな時でも仕事に頭を悩ませていると長生き出来ませんぜ??


 眉間に皺を寄せ、込み上げて来る痛みを誤魔化す様に目頭に細い指をきゅっと押し付けている彼女から視線を外して広い訓練場を見渡す。



「ハンナさん、いよいよ旅立ちの時ですね」


「う、うむ」



 大勢の大蜥蜴に囲まれているハンナがティスロから何やら意味深な声色で別れの挨拶を受けている光景を捉えてしまった。


 あらあら……、あの子ったら。


 こういう時位優しくしてあげればいいのに。ブスっとした顔のまま出発したら台無しになっちゃいますよ??



「危険が付き纏うかと思われますが御体を大事にしてあげて下さい」


「それは分かっている。そ、その……。ティスロ殿も激務で倒れない様に、細心の注意を払うべきだと思うぞ」


「は、はいっ!! 有難う御座いますっ!!」



 まぁっ!! 良く言えましたね!!!!


 彼が勇気を出して相手を労わる台詞を吐いた刹那、思わず両手で口元をすっぽりと覆い感涙してしまった。


 うぅっ……。不躾で不器用な相棒の口からよもや相手を労わる台詞が出て来るとは思いませんでしたよ。


 お母さんは嬉しいわよ?? 貴方がしっかりと成長してくれて……。



「ぎゃはは!! おいおい、ハンナどうしたよ!? 顔が真っ赤だぜ!?」


「う、五月蠅い!! 歩き疲れたからこうなったのだっ!!」


 うふふ、そうやって下手に逆らうから揶揄われるのよ??


 息子とじゃれ合う友人達との日常風景を見守る母親の目を浮かべて彼等のやり取りを眺めて居ると、直ぐ後ろから目を瞑っていても誰が発したのか一発で確知出来てしまう素敵な声色が放たれた。



「ダン」


「――――。お早う御座います、レシーヌ王女様」


 振り返るよりも早く王女様に挨拶を放つ。


「これだけ五月蠅いのによく私だと分かりましたね??」


 きょとんと不思議そうに首を傾げて此方を見つめる。


「レシーヌ王女様の声は一生忘れませんよ」



 声、だけじゃなくて貴女の体、四肢、そして温かな心。


 その全ては俺の脳裏にそして心に忘れるのも困難な程に深く刻まれていますからね。



「そ、そうですか。それは良い傾向ですねっ」


「今日で暫くのお別れですが……。必ずや戻って来ます。勿論、沢山の土産話を引っ提げて」


 微かに頬を朱に染めている彼女へ向かってそう話すと。


「はいっ!! 首をながぁくして待っていますからね!!」



 頭上に光り輝く太陽でさえも思わず顔を背けたくなる笑みを浮かべてくれた。


 別れの日だってのに明るく努めてくれて……。


 しんみりした別れは俺も嫌いだし、ここは一つ。彼女の心意気?? に応える為にも一つ揶揄ってあげましょうかね!!



『レシーヌ王女様……』


 彼女に耳打ちする所作を見せ、右手をちょいちょいと動かして手招きをしてあげる。


「何ですか??」


『首を長くではなくてぇ……。あの時の様に尻尾を長くして待っていて下さいね??』


「も、もう!! こんな時に止めて下さいよ!!」


 俺から刹那に距離を取ると林檎も思わず心配になってしまう程に体全体が煮沸してしまった。


「あはは!! こういう時だからこそふざけるんですよ!! よう、相棒!! そろそろ行こうぜ!!」



 これ以上の狼藉は身柄を拘束されてしまうと判断した俺は今も周囲の人々に別れの挨拶を続けている相棒の方へと向かって行く。


 これ以上会話を続けて居たらまだまだ俺の心にしつこくしがみ付く心残りという感情が膨れ上がり、只でさえキツイ別れが更に辛くなっちまうって……。



「そうだな。では、そろそろ出発しようか!!」


 ハンナが開けた位置で魔物の姿に変わると。


「「「おおぉぉぉぉ――…………」」」


 感嘆にも畏敬の念にも聞こえる吐息が広い訓練場に響いた。



「はぁ――……。こうして改めて見ると相変わらず大きいですよねぇ」


 ティスロが口をあんぐりと開けて白頭鷲の凛々しい頭部を見上げる。


「今度帰って来た時はもう一度その背に乗せて下さいね??」


 レシーヌ王女様が興味津々といった様子で相棒の立派な足に手を添える。


「了、了承した……」


「柄にもなく何照れているんだよ。ラゴス!! さっさと荷物を持って来てくれ!!」


「あいよう!! お前達!! 俺達の筋力を総動員する時がやって来たぞ!!」


「「「おぉう!!!!」」」



 王都守備隊の連中が地面に転がる俺達の物資をあっと言う間の早業で相棒の背に次々と乗せて行く。


 その速さと機敏な所作と来たら……。


 引っ越し業者さんがお手本にしたくなる程に機敏且繊細であり、俺は特に何をするという事もなく相棒の背に胡坐を掻いたままその様子を眺めて居た。


 ほぉ――、こりゃあ楽ちんですなぁ……。



「搬送作業終了です!!」


「御苦労だった!! ダン!! ハンナ!! お前達が留守の間、俺達がこの素晴らしい街を守り続けているからな!! 絶対に帰って来いよ!!」


 搬入作業を終えるとグレイオス隊長が立派な太い腕を体の前で組み、周囲の空気を震わせる声量で別れの挨拶を放つ。


「勿論さ!! ここは俺達の第二の故郷だからな!!」



 大勢の人々が暮らす王都で出会った人々、そして地方で暮らすミツアナグマ一族やラタトスク一族。


 幾つもの出会いが俺達の心を温め、彼等と築いた絆は他人が決して断ち切れぬ程に太く強大な物へと育っている。


 これから先に待ち構えている危険な冒険を終えたのならまた戻って来よう。


 そして、その時は太い絆を確かめる様に互いに笑い合って俺の話を肴にして大いに盛り上がるのさ!!



「ハンナさん!! 達者で!!」


「あぁ、ティスロ殿も精進してくれ!!」


「ダン!! 御体に気を付けて!! そして……、必ず戻って来て下さいね!!!!」


「勿論です!! 絶対!! 絶対に戻って来ますよ――!!!!」



 大きな瞳に僅かな雫を滲ませて俺を見上げているレシーヌ王女様に今日一番の笑みと声を送ってあげた。



「さぁ!! 相棒!! 御自慢の翼を見せてくれ!!」


 彼の大きな背に生え揃う羽毛を一つポンっと叩いて出発の合図を送ってやる。


「分かっている!! 皆の者!! 本当に世話になった!! 俺達は必ずや此処へ戻って来るぞ!!!!」


 巨大な白頭鷲の両翼が上下に大きく動き、そして翼の可動域を確認すると雲一つ見当たらない空へと向かう為にその動きが徐々に激しくなって行く。



「ダ――――ンッ!!!!」


 地上に舞う砂塵と強烈な風に負けぬ様、レシーヌ王女様が俺に向かって大きく手を振ってくれる。


「レシーヌ!! どうかお元気で!!!!」



 徐々に離れ行く地上。


 大地の上で別れを惜しむ様にいつまでも俺達へ向かって手を振る彼女の心に応える為に此方も更に苛烈な声量で叫んでやった。



「気を付けて行って来いよ――――!!!!」


「じゃあなぁぁああああ――――!!!!」


「さようならぁぁああああ――――!!!!!」



 訓練場の上に立つ王都守備隊の連中の大きな体が米粒大へと変化。


 南の大陸で最も栄えている王都を一望出来る高さにまで到達すると。



「よう!! 相棒!! 最後は王都の連中に俺達の本当の姿を堂々と見せつけて出発しようぜ!!!!」


 イケナイ感情がぬるりと首を擡げて来てしまった。


 今までこっそりと移動していたけどさ、最後の最後位は王都に住む人々をアッと驚かせたいし!!


「プハっ!! はぁ――……。漸く顔を出せるぜ……」


「同感だ。某と大蜥蜴達との関係性を考慮すれば忍のは必然だが……。気配を殺し続けるのは難儀だ」


 二匹の小鼠が俺の懐から相棒の広い背へと向かって勢い良く飛び出す。


「ハンナ!! 俺様もダンの意見に賛成だぜ!! 王都の中央で旋回してあの姉ちゃん達にお前さんの本来の姿を見せつけてやれ!!!!」



 フウタが小さな右前足でハンナの背をペシペシと叩く。



「それは別に構わぬが……」



 通常時なら俺達のイケナイ案に対して絶対に首を縦に振らぬ彼だが、最後の別れの時という特殊な状況の空気に流されたのか。


 相棒が渋々と了承の声を出すと高度を下げて王都の中央で巨大な旋回行動を開始した。



「お、おい!! アレを見てみろよ!!!!」


「きょ、巨大な怪鳥!?!?」



 彼の巨大な姿を捉えると皆一様に驚きの表情を浮かべ、白頭鷲の大きな影が人に重なるとその影から逃れようとして大勢の人々が方々へと散って行く。


 そして、その騒ぎを捉えたのか。


 通い慣れた施設から大勢の大蜥蜴達と三名の女性が慌てて出て来た。



「ドナァァアアアア――――!! じゃあ行って来るわぁぁああああ――――!!!!」


 ハンナの姿を捉えて可愛い目をキュっと見開いて驚いている彼女に向かって元気良く手を振ってやる。


「あはは!!!! ばぁぁああああ――――かっ!!!! 目立つ真似は止めてさっさと行って来――――い!!!!」


 別れの時に馬鹿って……。


 まっ、それがドナらしいっちゃらしいけどさ!!


「分かったぁぁああ!! じゃあ行ってきまぁぁああ――――っす!!!!」


「うん!! いってらっしゃああ――い!!!!」



 快活受付嬢さんから最強最高の明るい笑みを受け取ると相棒が鋭い瞳を北北西へと向ける。


 そして巨大な両翼を勢い良く上下に動かすと素敵な危険が待ち構えているガイノス大陸へと向かって飛翔を開始。


 それは此処で得た温かな恩に応える様に大きく、そしてこれから始まる新たなる冒険に相応しい凛々しい動きだ。



「よっしゃああああ!! 待っていろよ!? 龍のあんちゃん達ぃ!! これから史上最強の忍ノ者が向かうからなぁ!!」


 フウタが青き空の果てへと向かって猛々しく吼える。


「最強?? 俺の強さを越えてからそう叫べ」


「弱い奴程良く吼えるとはこの事。貴様は某以下の実力であろう」


「不能の奴が良く言うぜ……」


「テ、テメェ等!! もう少し言い方ってもんがあるだろうが!! 後ダン!! 不能って言うんじゃねぇ!!!!」


「ギャハハハ!! テメェの御柱は風呂上りのおじいちゃんみたいにフニャフニャだし!? 本当の事じゃねぇか――!!!!」



 彼等の陽性な声と笑い声が天高く、青く澄み渡る空一杯に広がって行く。


 その声量は留まる事を知らず天界に住む神々へと届く程だ。


 静謐な環境が広がる天界に刹那に轟いた冒険者達の陽性な声色を、運命を司る女神が捉えると大変大きな瞳をキュと見開いて地上に視線を送る。


 そして彼等のいつも通りの姿を捉えると巨大な溜息を吐いて苦言を呈す。


 貴方達の馬鹿騒ぎは天界に住まう者達にも悪影響を及ぼすのですから、もう少し慎ましく話しなさいと。


 しかし、彼等は女神の苦言など知る由も無く。


 そしてこの先に待ち構えている死を彷彿とさせる危険が待ち構えている事も知らず、何処までも続く空の中に確かに存在する自由を噛み締めつつ思いのままに叫び続けていたのだった。





お疲れ様でした!!!!


やっと、やっと過去編最長の話を書き終えてホっと肩の力を抜いている次第であります。南の大陸編を書き終えるのに約一年、ですか。


自分で自分を褒めるじゃあないですけども、書き終えた自分を褒めてあげたくなりましたよ。


しかし!! 彼等の冒険はまだまだ続きますのでこれからも気合を入れて執筆を続けて行こうと考えています。




書き終えたご褒美じゃあありませんが、読者様にお願いがあります。


執筆活動の励みとなりますのでブックマーク、評価をして頂けないでしょうか?? 私の切なる願いにどうか応えて頂ければ幸いです。






それでは皆様、お休みなさいませ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ