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今日も今日とて、隣のコイツが腹を空かせて。皆を困らせています!!   作者: 土竜交趾
過去編 ~素敵な世界に一時の終止符を~
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第百七十一話 鴇色の夜 その二

お疲れ様です。


後半部分の投稿になります。




 異なる二つの体が情熱と愛によって溶け合い、混ざり合い、明瞭な境界線が崩壊。


 一つの体となった所で東の空から眠気眼の太陽が大欠伸をしながら顔を覗かせた。




「――――。ダン、朝ですよ」


 俺の右腕を枕代わりしながらレシーヌ王女様がぼぅっとした瞳のままで窓から静かに差す陽光へ視線を送る。


「その様ですね。所で……、どうでした?? 初めての大冒険は」


 弛緩しきっている彼女の頭を優しく撫でつつ問う。


「もぅっ、女性の私にそんな事を言わせるつもりなのですか??」


「あはは、御免なさい。聞くだけ野暮って奴でしたね」


 シーツの中からむぅっと唇を尖らせているレシーヌ王女様に優しく笑いかけてあげた。


「感想としてはそうですね……。一生忘れられない思い出になった、と言うべきでしょうか」


 まぁ初体験は早々忘れられないし、俺も初めての経験の思い出は忘れずに頭の奥底にしっかりと残っていますもの。


「有難う、ダン。勇気を出してくれて……」


 レシーヌ王女様がそう話すと俺の体をヒシと抱き距離を零にする。


「此方こそ礼を述べさせて頂きますよ。一山幾らの男を相手して頂いて」


「ダンだから相手にしたのですよ?? そこを間違えないで欲しいですっ」


 胸元から顔を外すと餌を頬張り過ぎた栗鼠みたいに頬が膨らむ。


「勿論理解していますよ。有難うね?? ――――――。レシーヌ」


 親しき者へ送る様に敬称を抜いた名で呼ぶと。


「……っ」



 熟れた林檎も驚く程に顔が真っ赤に染まってしまった。


 あはは、これ以上見つめていると恥ずかしさと嬉しさでどうにかなっちゃいそうですのでちょいと揶揄ってあげましょうかね。



「どれどれぇ――。熱でもあるのかなぁ――??」


 シーツの中へ腕を伸ばして大変触り心地の良い白桃を厭らしく撫でてあげると。


「もうっ!! 人が折角いい気分になっていたのに台無しですよ」


 俺の手を全然痛くない攻撃で弾いてしまった。


「ではでは仲直りの口付けをっと。ん――……」


 彼女の体をしっかりと抱き締め、もう何度交わしたのか分からない接吻をしてあげる。


「んっ……」


 最初は微かに震えていたのに今は震える処か男をしっかり迎え入れる様に甘く身を委ねていた。



 男は膨大な時間を掛けても中々大人にならないってのに女はたった数時間で大人になっちまうんだからなぁ。


 本当に驚きだぜ……。やはり男と女は似ている様で実は別種の生き物である。


 己の持論の正確さを噛み締め、朝の軽い戯れを行っていると草臥れ果てていたもう一人の俺が徐に上体を起こして眠気眼をゴシゴシと拭く。


『ったく。こちとら休んでいたのに朝から元気ですなぁ!!』


 仕方が無いでしょう?? こぉんな御立派な体を前にしたら誰だって元気溌剌になっちまうって。


『だよなぁ!! うっし!! ちょっとだけ元気は無いけどこっちは準備万端だぜ!?』



「あらっ?? ふふっ、お母様達が言っていた様に男の人は朝も元気なのですねぇ」



 戯れの最中に彼女の体がもう一人の俺に触れると悪戯な笑みをふと浮かべてしまう。


 どんな話をしていたのか多大に気になりますけども、それに達って誰??



「生理現象って奴ですよ。ただぁ……、数時間前と違ってちょいと伸びとキレが悪いといった感じでしょうか」


「うん?? それはどういう意味で……」


 興味津々のレシーヌ王女様がシーツを捲りもう一人の俺の様子を確認するが。


「ぜ、全然変わっていないじゃないですか!!!!」



 興味津々から一転。


 新たなる発見をしてしまった学者さんの様な驚きと陽性感が入り混じった複雑な顔で叫んだ。



「んっふふ――それが結構違うんですよねぇ。実際に使用してみたら分かりますよ??」


「やっ、今はこうしてくっついて居たいんです」


 あらま、残念。朝一番の戯れはお預けの様で御座いますわね。


 彼女の体を優しく抱いたままでいると時折。


「ん――、微妙に当たって邪魔ですよねぇ……」


 もう一人の俺に対して苦言を吐きつつも親しい男女間の距離を保持したまま素敵な時は流れて行く。



 朝の微睡を楽しみ二人だけの時間を有意義に使用していると、心臓から口が飛び出てしまう音が扉から奏でられてしまった。





「レシーヌ王女様、お早う御座います。朝も早い時間ですが宜しいでしょうか」


「「ッ!?!?」」



 この声はティスロか!!


 こ、こんな姿を捉えられたらお、俺は確実に極刑に処されてしまう!!!!



『やっべぇ!!』


『と、取り敢えず服を着ましょう!!』



 彼女も俺と同じ考えを抱いたのか、ベッドから素早く上体を起こすと必要最低限の装備を整えて行く。


 だが例え身なりを整えたとしてもこのベッドの上の状態と室内に籠る甘ったるい空気が何よりの証拠として身柄を確保されてしまう可能性が高い。



『レ、レシーヌ王女様!! それでは失礼しますね!!』


 此処に来た時と同じ装備を浮気現場を捉えられそうになる間男よりも素早い所作で十秒以内に装着。


 今も慌てながら上半身の服を着用している彼女へ向かって小声で話す。


『し、失礼しますって何処から出るおつもりなのですか!?』


『窓からですよ!!』


『窓!? ここは三階ですよ!?』



 仕方が無いでしょう!!


 扉の向こう側にはティスロが待機しており、退路は此処しか残されていないのだから……。


 自由落下じゃなくて落下中に二階の窓の縁を掴んで勢いを相殺。


 二階程度なら受け身を取ればら、ら、楽勝で着地出来るだろうさ。



『レシーヌ王女様??』


『あ、は、はい!! 今服装を整えていますのでもう少々お待ち下さい!!』


『じゃあ元気でね??』


 ベッドの上でしどろもどろに着替えを続けている彼女の頭を優しく撫でてあげる。


『は、はい!! ダンも気を付けて下さいね!!』


『有難う御座います。それでは……、行って参ります。御姫様』


「ちょ、ちょっと……。んっ……」



 着替え中で両手が塞がっているのを良い事に大変美味しい唇を奪ってあげた。



『も、もう。扉の向こうにはティスロが居るんですからね??』


『あはは!! こういう時にも遊び心を忘れないのがイイ男の条件なんですよ。それじゃ!! 行ってきます!!』



 窓の縁に足を乗せ、下の階の窓枠に狙いを定めると降下を開始。


 肝がヒュっと冷えてしまう落下特有の感覚が全身を襲い、一秒にも満たない速度で二階の窓の縁を視界が捉えた。


 ここだ!!



「とう!!」



 おぉ!! 俺の予想通り完璧に掴めたじゃないですか!! これも日頃の訓練のお陰って奴だな。


 此処には居ない相棒に感謝しつつ、勢い良く右手を伸ばして窓の縁を掴むまでは良かった。



「へっ!? ぬぉわぁぁああああ――!!!!」


 窓の縁は朝露で微妙にしっとりと濡れており、俺の右手の感覚が気に食わなかったのか。


『触らないで!!』 と。


 仲直りのつもりで彼女の体をギュっと抱き締めた勘違い男みたいに跳ね除けられてしまった。


 当然、俺の体は天然自然の法則に従い地面へと向かってスっと――ンと落下して行く訳だ。



「おっぶぐっ!?!?」



 尻をしこたま打ち、それでも落下の衝撃を吸収出来ずに右側頭部をかたぁい地面に強打してしまった。


 尻と脳天から激痛が全身を駆け巡って行き硬い筈の地面がつい数分前まで使用していた彼女のベッドの柔らかさに感じて来やがった。


 だが!! ここでうたた寝をしていたら確実に怪しまれるのでね!!



「とうっ!! ふっかぁぁっつ!!」


 飛蝗もドン引く勢いで立ち上がり訓練場の方へと向かって駆けて行った。



「ふわぁぁ――、ア゛ァ。ねっみぃ……」


「今日も訓練かよ……。偶には馬鹿みたいに飯を食って羽を伸ばしたいぜ」


「同感――。ん!? ダン!! お前何やってんだ!?」



 朝一番の訓練の為に兵舎からゾロゾロと出て来た守備隊の連中が俺の姿を捉えるとギョッと目を見開く。



「さっきまで走っていたんだよ!! ほ、ほら!! ゼェイラさんと色々相談していたら叱られてさぁ!!」


 尤もらしい言い訳を放ち、それじゃあ!! と言わんばかりに右手を軽やかに上げて門へと続く坂道を駆け上がって行く。


「ぎゃはは!! お前らしいなぁ!!」


「そうそう!! 今度からは気を付けろよ!?」


「おう!! あばよう!!」


「あ!! 後差し入れ有難うなぁ――!!!! 御蔭様で昨日の夜は皆で盛り上がったぜ!!!!」



 そりゃ結構!! あのお方にバレてしまったら顔が有り得ない程膨らんじまうからそのまま隠れてコソコソ鑑賞していなさい!!



「はぁ!! はぁっ!!」


 息を切らして坂を上がって行くといい感じに体が温まって来やがった。


 昨日の夜からの運動でちょいと体が気怠いが全然嫌じゃない疲労度だ。


「ふぅ――……。しっかし、夢じゃないんだよなぁ」



 坂の中腹辺りでふと足を止めるとレシーヌ王女様の部屋の窓へ視線を送る。


 今から数時間前まであの部屋で行われていた男女の営みを思い返すと心が本当に温かくなって来た。


 この陽性な感情はきっと……。もう少しだけこの地に留まりたいという心の声から発せられているものだろうさ。


 うん、それは分かっている。


 だがしかし、この先に待ち構えている新たなる冒険とこの地に住んでいる者達との交流を天秤に乗せると……。どうしても前者の方へ僅かに傾いてしまうのだ。


 新たなる発見や、肝が冷えてしまう危険、そして摩訶不思議な世界を経験して来たらまた戻って来ます。


 それまでの間、どうか健やかに過ごして下さいね??



「行ってきますね?? レシーヌ」



 彼女の部屋に向かってキチンと頭を下げると相棒達が待ち構えている安宿まで決して足を止めないという断固たる決意を胸に秘めて駆け始めて行く。


 それはこれから待ち構えている新たなる冒険に向かって突き進む勇ましい冒険者の大きな背中の様に映ったのだった。































 おまけ。




 だ、大丈夫かしら?? さ、三階から落ちて……。


 必要最低限の装備を整え窓の下をそ――っと覗くと。


「おっぶぐ!?」


 私の予想通りと言いますか、彼は自由落下を相殺出来ずに硬い地面と熱い抱擁を交わしていた。


 普通なら重傷は免れない衝撃なのですが、彼にとってこの程度の衝撃は朝飯前らしい。



 ほら、元気良く駆け出して今は坂の途中で守備隊の人達と楽しそうに会話を続けていますもの。


 呆れる位に頑丈な体ですよねぇ……。



「レシーヌ王女様。そろそろ宜しいでしょうか??」


 っと!! いけない!!


 ちゃんとしましょう!!


「は、はい……。どうぞ……」


 慌ててベッドの上へと戻り、シーツをキチンと直してから入室の許可を出してあげた。



「失礼します。お休みの最中申し訳ありません。本日、午前中は休みの予定でしたがどうしても公聴会の続きを開きたいという申し出がありまして」


「あ、あぁ、そうなのですね。私は構いませんよ??」


 よ、よし!! 気付いている様子はありませんね!!


 ティスロは真面目な表情のままで今日の予定を確かめる様に手元の紙に視線を落としていますし。


「畏まりました。では、午前十時に会議室へとお越し下さい」


「分かりました」



 彼女が踵を返して扉へと向かって行く。


 そしてそのまま退出するかと思いきや、ティスロは扉に手を掛けた所で停止してしまった。



「――――。股に違和感があるようでしたら公聴会は体調不良という事で中止させて頂く事も出来ますけど??」


「へッ!?」


 た、確かに今もゴワゴワする違和感はありますけども!! ど、ど、どうしてそれを!?



「ふふっ、分かりますよ。その御顔を見れば」


 彼女がクルっと振り返り大変優しい笑みを漏らしてくれる。


「ど、どうも……」



 もう!! 顔から火が出る位に恥ずかしいよ!!


 出来ればもう少し包んで話して欲しかったな!!



「そ、そ、それで!? 彼との逢瀬は如何でしたか!!!!」


「ちょ、ちょっと!! 出て行くんじゃないの!?」



 己の羞恥を見られぬ様、シーツの中にもぞもぞと潜って行こうとするが彼女の意外と力強い両手がそれを阻止してしまう。



「次の予定まで一時間程空きがありますからね!! さぁって、一部始終では無く最初の戯れから終局まで詳細に説明して頂きましょうか!!」


「だ、駄目だよ!! 思い出すだけで恥ずかしくなるからぁ!!」


「お、思い出すだけで恥ずかしくなる行為をしたのですか!? いつからレシーヌ王女様は破廉恥な女性になってしまわれたのです!?」


「そ、そういう意味じゃないよ――――!!!!」



 朝も早い時間なのに二人の若き女性から放たれる陽性な声が窓の外へ向かって飛び出して行く。


 その音は静謐な環境が整う王宮内には良く響き、地上で汗を流す者達はその音を捉えると。


 あぁ、今日も平和な一日が始まったのだなぁっと。


 彼女の部屋を見上げつつ柔和に口角を上げて本日も己の身体と心を鍛えるべく逞しい両足を交互に動かして静かなる空気の壁を次々と破壊して行ったのだった。





お疲れ様でした。


お出掛けが無ければ一気に書き上げられたのですが、本日はちょっと外せない予定がありまして……。


さて、南の大陸編も残す所後一話で御座います。


過去編最長の話をもう直ぐ書き終える事が出来ると思うと、ほっと胸を撫で下ろしそうになるのですがまだまだ彼等の冒険は続いて行きますので予断を許さない状況が続きます。


光る画面に文字を打ち終わる日は一体いつになるのやら……。嬉しいやら困った様な感情を胸に抱いて後書きを書いていました。



それでは皆様、お休みなさいませ。

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