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今日も今日とて、隣のコイツが腹を空かせて。皆を困らせています!!   作者: 土竜交趾
過去編 ~素敵な世界に一時の終止符を~
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第百六十九話 彼の及ばぬ所で行われる思慮 その二

お疲れ様です。


後半部分の投稿になります。




 夜と夕刻の狭間の何とも言えない中途半端な時間帯の空は朱に染まり、地上で暮らす者の大半は朗らかな表情を浮かべて家路へと向かう。


 王都の北大通りはどちらかと言えば公共の施設が目立つので他の大通りに比べれば空いているのだが、帰宅時間帯もあってか歩道には沢山の大蜥蜴ちゃん達が跋扈しており俺達は彼等とは逆方向。


 つまり王宮が存在する北の方角へと向かっていた。


 全然疲れない速度で歩いていると本当に沢山の会話が聞こえて来る。



「はぁ――、つっかれたぁ。よぉ、闘技場建設の噂は聞いたか??」


「アレだろ?? 土地の問題で建設計画が頓挫しそうになっている計画だっけ」


「施設だけじゃなくて大きな街そのものを建設する予定らしいからなぁ……。一体幾ら掛かるのやら」



 ほぉ、どうやら順調とまではいかないが闘技場建設の計画は進行している様ですね。


 今し方すれ違った大蜥蜴ちゃん達の会話が耳に届くと満更でも無い陽性な感情が湧いてしまう。


 俺達が困難を極めた交渉がいつか実りこの大陸に住む者達の心を温め、彼等が熱気溢れる戦いを見つめて大歓声を上げている姿を想像すると頑張った甲斐がある。そう心が判断したからでしょうね。


 感無量と言うか、達成感と言うか……。


 兎に角、俺達の努力は決して無駄ではなかったという事なのだろう。



「木っ端役人でも闘技場建設の話は耳にしているのか」


 木っ端役人って……。もう少し言い方ってもんがあるでしょうに。


 私は貴方をそんな口の悪い子に育てた覚えはありませんよ??


「彼等の上司でもあるお偉いさん達が四苦八苦しているんだ。その原因は嫌でも耳に入って来るだろうさ」


「闘技場が完成するのは当分先だが問題は金だろう」


「この御時世、金が無ければ何も出来ないですからねぇ」


 大正解。


 そんな意味を含ませ、苦い顔を浮かべて北上を続けている相棒の横顔を指で差してやる。


「その金を捻出するのは困難を極めるだろうが……。キマイラの進行を阻止する為に必要な出費だと思えば安いだろう」



 前回の依頼の本筋は俺達が人身御供としてキマイラの下へ送られ、奴等を満足させる事によって王都に暮らす市民の命を守る事だ。


 滅魔と呼ばれる彼等を打ち倒したとしても数百年という時を経て復活を遂げる。


 そして復活を遂げたのなら再び彼等の下へ人身御供が送られてしまう。


 この負の連鎖を断ち切る為に提案したのが大陸の猛者共が一堂に会して闘技場で戦う案だ。


 行政側は大会開催中にお気に入りの人物の品定めをして、キマイラ達は大会優勝者若しくは目を付けていた者と刃を交える。


 行政側とキマイラ側の思惑は似ている様で微妙に異なり、その加筆修正に膨大な時間を要したが両者折り合いが付き俺達は晴れてお役御免となったのさ。



「それの出費はお前さんが言った通り行政側にとっては痛手だろうが不必要な犠牲者並びに市民の安全を金で買える様になった。これは本当にデカイ功績だぜ??」


「だからミキシオン陛下は俺達に褒賞を与えたのだろう」


 相棒がそう話すと左の腰に収めている月下美人の白き鞘を優しく抑えた。


「だろうなぁ――。それだけじゃなくてレシーヌ王女様の一件も褒賞授与に一役買っているだろうさ」



 砂虫が蔓延る砂漠を越え、危険な虫擬きと巨大砂虫が存在する古代遺跡からティスロを救出。それから間髪入れずに砂漠の朱き槍の幹部、ジャルガンとの壮絶な死闘。


 今、思い返せば良くもまぁ生きて帰って来られたよなぁ。


 俺達が五体満足で王都を歩けているのは相棒の厳し過ぎる指導の賜物だと思う。


 勿論これは声に出して言いませんよ?? 口を滑らして相棒に感謝しようものなら喜び勇んで俺の体に指導という名の虐待を施して来やがりますので。



「願わくば、次の大陸でもジャルガンと同等の実力を持つ猛者と対峙したいものだっ」


 い、いやいや。勘弁してくれよ……。


「あぁんな化け物級の実力を持つ奴なんて限られているって。俺とお前さん、二人が掛かりでやっつけたんだぞ??」


「龍族は身体的にも他の種族より秀でていると聞いたからな。もしかすると奴を越える傑物が跋扈しているかも知れん」


 アレを越える実力者が跋扈、ねぇ……。


 想像すると肝がヒェっと冷えてしまいますので御遠慮させて頂きますわ!!


「そんな事よりも、例の品をちゃんと持って来たか??」


 相棒が肩に掛けている鞄に視線を送ると。


「勿論だ。抜かりはない」


 彼は正面に視線を向けたまま己の鞄を一つポンと叩いた。


「そりゃ結構。王都守備隊のむさ苦しい連中に送る最後の差し入れだからな。これで忘れて来ましたぁ――何て言った日には首を絞められて窒息させられちまうよ」


「問題は前回の反省を踏まえ、トニア殿に見つからぬ様に譲渡する事だな」



 あ、あぁ。最後の難関はそこだよなぁ。


 前は卑猥な内容が描かれた本を差し入れしたらとんでもねぇ騒ぎになったし……。



「しかし……。何故俺がこんな淫猥な物を運ばなければならないのだ」


「俺が持って居たら当然過ぎて怪しまれるだろう?? 逆に四角四面のお前さんが持って居れば向こうも中身を確かめる真似はしないだろうし」



 俺の普段の生活態度を考慮してやたら膨らんだ鞄を持って居れば、目くじらを立ててその中身は何かと問うて来るだろう。


 ここで普通に差し入れだと説明するとお前さんが所有しているのはどうせ下らない物だと勝手に判別されてしまい、更に此方の了承も得ずに中身を確認されてしまう恐れもある。


 しかし、堅物の相棒が鞄を持って居れば向こうも彼の性格を加味して鞄の中身を確認する事も無い。


 この事に関してちっても憤りが湧かないと言えば嘘になる。


 真面目過ぎたらなぁんの面白みも無いだろう?? 少し位砕けた感じの奴の方が絶対モテる……。



「ね、ねぇ!! 今の背の高い男の人見た!?」


「見た見た!! すっごい美男子イケメンだったよねっ!!」



 基。


 昨今の女性は外見ばかり重視するので俺の仮説はキッパリとそしてバッサリと切り捨てられてしまった。



「チッ、イイ男の条件は中身だってのに。なぁ――んで女の子は外見重視をするのかなぁ!!」


 自分の憤りを誤魔化す為、取り敢えずハンナの背を思いっきりブッ叩いてやった。


「貴様……。次は無いぞ」


 お、おぉ。ごめんね??


 もう叩かないからそんな怖い目で見つめちゃイヤよ??


「へいへい。以後気を付けや――っす。おぉ!! 漸く到着かよ!!」


 相棒の殺気から逃れる様にして王宮に続く、無駄に長い階段の麓へと駆けて行く。


「よぉっす!! 元気にしってかぁ!?」


 今日も姿勢を正して無言で正面階段の警備を続けている王都守備隊の隊員へ向かって勢い良く右手を上げてやる。



「――――。はぁっ、だからいつも言っているだろう?? 警備中は私語厳禁だって」


 鉄の兜の中から呆れた溜息が吐かれる。


「後で叱られたくないからさっさと上がって行け」


 んまぁっ!! 同じ釜の飯を食った戦友に何て辛辣なのでしょうか!?


「んっふふぅ――。そぉぉんな辛辣な台詞をダンちゃんに吐いてもいいのかなぁ?? お前さん達が喉の奥から手が出てしまう程に渇望している差し入れを持って来たのになぁ??」


 大変意地の悪い笑みを浮かべて鉄の塊を叩いてやると。


「「ほ、ほ、本当か!?」」


「ぐぇっ!?!?」


 俺達の会話に聞き耳を立てていた反対側の隊員も職場を放棄して此方に駆け付け、筋骨隆々の大蜥蜴二体に勢い良く肩を掴まれてしまった。



「前回はトニア副隊長に没収されてしまったからな!! 絶対に上手く隠して兵舎まで持って行けよ!?」


「その通りだ!! お、俺は前回全然見られなかったんだからな!?」



 どうしてこうも男の子の性欲は強いのでしょうか??


 それは恐らく普段から抑圧されている所為なのでしょう。彼等の生活は改善の余地ありとしてゼェイラさんに進言しようかしら。


 このままではいつか性欲が暴走して取り返しのつかない事になってしまいますよ――って。



「は、離せ!! ちゃあんと送り届けてやるから安心しろよ……」


 鉄の鎧に包まれた四つの腕を解除。


 安全な距離にまで下がり、ちょいと五月蠅く鳴り続けている心臓を宥めて話す。


「そ、そうか!!」


「あぁ、夜勤明けが楽しみだぜ!!!!」



 ラゴスからの依頼を受けて挨拶ついでに持参したけども……。本当に譲渡しても良いのかしらね。


 彼等が本に熱中して勤務を蔑ろにしたら俺にまで責任をとばっちりが向かって来る蓋然性があるし。


 あ、でも俺達はもう直ぐ此処から発つからそこまで心配しなくても良いんだよね??



「程々に発奮しておけよ――」


「むちっとした張りのある尻尾……」


「艶のある鱗に切れ長の美しい瞳……。あぁ、早く麗しの姿をこの目に焼き付けたい……」


 鎧の所為で表情全ては窺えぬが恐らく、と言うか十中八九厭らしい表情を浮かべている彼等に別れを告げて無駄に長い階段を上がって行く。



 この階段を上るのも後……、今日の挨拶と最後の挨拶を含めて二回か。


 そう考えると一段一段を大切に上らなきゃな。



「よっ、ダン。お疲れ――」


「おう!! そっちもお疲れさん!!」



「ハンナ、お前が鞄を持つ何て珍しいな??」


「そういう指示だからな」



 階段を上り続けていると左右から守備隊の面々が警備中にも関わらず軽快な声を掛けてくれる。


 その一字一句を脳に刻みつつ階段を上り終えるとその足で王門の脇に併設されている扉を潜り抜けて王宮内にお邪魔させて頂いた。



 んほぉ、今日も素敵な花の香りが漂っていますわねぇ。


 この香りはそうだな。長い階段を上り終えた者に対する豪褒美、とでも言いましょうか。


 色とりどりの花達に向かって心の中で感謝の意を唱えて慣れた歩みで本日も巨大な姿を誇る城へと向かい、これまた慣れた手付きで城門を開城すると王都守備隊の長官の執務室へと向かった。



「今日も相変わらず静かだよなぁ」


「城内が喧しくては仕事が捗らんだろう」


「いやいや、お前さんは知らないだろうけど会議中の大蜥蜴ちゃん達は結構獰猛だぜ??」



 キマイラとの死闘後。


 ほぼ無理矢理参加させられた会議の様子が脳裏に過って行く。


 俺の疲労なんか二の次、三の次で会議は進んで行って。剰え食事さえ満足に摂らせてくれなかったからなぁ。



「それは貴様の普段の態度が悪い所為だろう」


「まっ、それもあるかもな。ちわ――っす。ゼェイラさん居ますかぁ――」


 彼女が顰め面を浮かべながら執務を続ける部屋の前に到着すると大変美しい木目の扉を叩く。


「――――。入ってよし」


「失礼します」

「失礼する」


 部屋の主から承諾の声を頂くと静かに扉を開き、柔らかい蝋燭の明かりが灯る部屋にお邪魔させて頂いた。



「何度も足を運ばせて済まないな」


「いえ、前回は世話になった彼等に別れの挨拶を出来なかったのでぇ……」



 お、おぉう。今日は一段と凄い山が聳え立っていますねぇ。


 彼女の前の執務机にはまるで天界に続くのでは無いかと。


 有り得ない錯覚を他者に与えてしまう高さの紙の山が聳え立ち、その麓には辟易を越えて疲労困憊で衰弱死寸前にまで追いやられた女性が青い顔を浮かべて書類に捺印及び記載を続けていた。



「す、凄い書類の数ですね」


「闘技場建設の話が本格的に進み私が管轄する王都守備隊の隊員達の転属や配属の承認や給料の増減。そして貴様達が成し遂げた交渉の詳細の報告等々。次々と仕事が舞い込んで来るのが現状だ」


「そ、それはお悔やみ申し上げます……」


 取り敢えずこの場に相応しいであろう台詞を述べてあげる。


「勝手に私を殺すな。まぁその二歩手前まで追いやられているのが現状だがな」


 ゼェイラさんが書類から目を離すと、ふぅっと溜息を吐き中々御立派な椅子に背を預けた。


「この後に守備隊の連中に挨拶を告げに行くのだろう??」


「えぇ、そのつもりです」


「そうか……。もう直ぐ貴様達が旅立つと思うと寂しくなるな」



 彼女が俺達の顔へ向かって柔らかい視線を送る。


 その瞳の奥には相手を労わる優しい色が灯っていた。



「またまた。顎で使える便利な奴等が居なくなるのは困るなぁ――って思っているのでしょう??」


「ふふ、まぁ無きにしも非ずといった所だな」


 あらまっ、冗談で言ったのに結構本気でそう考えていたみたいね。


「だが本当に発つのか?? ダン、ハンナ。貴様達が良ければ王都守備隊に迎えてやれるぞ??」


「相棒とフウタ達と相談しましたが……。やはり皆は次の大陸へ気持ちが向いている様です。勿論、それは自分も含みます。冒険を終え、一区切り付いたら戻って来ますのでその時は改めて挨拶に伺いますね」


「また無難な解答を……。まぁいい。二日後に発つ予定だが何か気になる事はあるか??」



 彼女が大きな溜息を吐き、天を仰ぎながら問うて来る。


 気になる事ねぇ……。奥歯に物が挟まった状態では次の大陸でも尾を引く可能性がありますので此処は一つ、勇気を出して問うてみますか。



「実は以前から気になっていた事がありまして……。アイツ等、砂漠の朱き槍の連中はどうなりましたか??」



 執行部に拘束されて以降の音沙汰は無く、奴等が所属する組織がどうなったのか一切知らされていませんでしたのでね。


 まぁそれは俺達の様な下っ端連中に知らせると情蝋漏洩を一々懸念しなきゃいけないからであろう。



「あぁ、その事か。国の最重要機密に当たる事項なので本来貴様達はそれを知る理由は一切ない」


 ほらね?? 思った通りだ。


「だが……、当事者である貴様達には一応知る権利があるのかもな。今から話す事は全て私の独り言だ。守秘義務を守るのであればその独り言を聞く権利を与えてやろう」


 ゼェイラさんが周囲にチラリと目配せをすると意味深な視線を与えて来るので。


「「……っ」」


 俺達は無言のまま首を縦に振った。



「拘束した連中はあの鼠達を拘留していた超法規的な条件が整う牢へ送った。それから長時間かけて奴等の氏名、年齢、出身地を尋ねていったのだが……。思いの外口が堅くてなぁ……」



 そのわっるい笑みの意味は問いませんよ?? 恐らくそういう意味だと思いますので。



「赤き槍の最高幹部のジャルガンは決して口を割らなかった。それで執行部の連中は奴の手下に目を付けた。組織が潜伏する街、犯罪に至った動機、組織の規模。国家転覆を企てる組織の情報を少しでも多く引き出そうとしてぇ……。奴等の口では無く、直接体に問うたそうな」


「ご、拷問という奴ですよね??」


「おやぁ?? 私は独り言を喋っているのだぞ?? 黙って聞いておけ」


 りょ、了解しました……。



「手下の一人を椅子に拘束して両手を机の上に固定。質問に対して正確に答えないと十本ある指が次々と有り得ない方向に曲がって行く大変面白い戯れが行われた。泣こうが叫ぼうが助けは来ない。その絶望的状況に追いやられた手下の一人が九つの指が有り得ない方向に曲がった時に漸く心が折れた。 そいつの情報を下に軍部、執行機関が組織が潜伏する街に向かったのだが……」



「既に組織の連中はその街を脱出。潜伏していた場所はもぬけの殻、という訳ですね」


「……」

『正解だ』


 そんな意味を含ませて彼女が俺の顔を指差す。


「だが確実に奴等がいた痕跡は発見出来た。新しい情報を引き出そうとしても恐らく向こうは先手を打っている筈だ」


「ティスロの屋敷を占拠していた連中が拘束された情報を掴んだのでしょう。そして、そこから組織の情報が漏れる事を懸念して……」


「だろうなぁ。ジャルガンの手下からはこれ以上有益な情報は得られないとして別の場所に投獄したんだ」


「では……、最高幹部でもあるジャルガンにはどの様な惨たらしい仕打ちをしたので??」



 脳裏に浮かぶ惨たらしい拷問の数々を想像すると背筋がゾクっと泡立ってしまう。



「それがなぁ……。奴には拷問の類は一切通用しなかったんだよ。どれだけ酷い拷問を与えようが口を紡ぎ決して情報は漏らさんという確固たる意志を貫いた」


「奴は俺が知る中でも最高の武人に位置する一人だ。武の道に、しかも数名しか到達出来ない道に携わる者が口を割る筈は無い」



 ハンナが何処か寂し気な様子でそう話す。


 あの表情は恐らく、長きに亘る拷問により素晴らしい武が失われてしまうと考えたのだろうさ。



「そして遂に拷問している方が音を上げてしまった。ジャルガンは今、暗闇でさえも助けを請うふかぁい地下に幽閉されている。時が過ぎ、奴が弱まった所で再び拷問を与える予定だそうだ」



 それが一番効率が良い選択肢だよな。


 拷問の途中で殺してしまったら本末転倒だし、それに時間という概念が問題を解決してくれる可能性もあるのだから。



「犯罪者は現場に戻る。この通説に従いティスロの屋敷の監視は続けています??」


「勿論していたさ。しかし、屋敷に訪れるのは彼等と親交がある者のみ。恐らく向こうは我々が張っている事を予想しているのだろう」


「結局はジャルガンが口を割らない限り奴等の正確な規模、潜伏場所は不明のままという事ですね」


「その通り。後は執行部の連中が上手くヤル事を願うばかり。それが現状だ」


 ヤルって……。また物騒な単語だな。


「態々話してくれて有難う御座いますね」


「何、これは全て私の独り言だ。一切気にしないでいいぞ」


 ゼェイラさんがそう話すと片目をパチンと瞑り、ちょっとだけ似合っていない笑みを浮かべた。


「その事も気になりますので冒険が一段落したら戻って来ますよ」


「ん――。その時までに忌々しい連中の潜伏場所を割り出しておくからな。戻って来て早々、血生臭い現場に私が直々に送り出してやるから覚悟しておけ」


「そ、それは楽しみです。じゃ、じゃあ自分達は守備隊の連中に挨拶をして来ます!!」



 さり気なく戦場送りを宣告してしまった彼女に対して、アハハと愛想笑いを浮かべて踵を返す。


 ここで確証も無く頷いてみろ。


 言質を取ったとして再びヤベェ奴等と対峙しなきゃいけなくなっちまうからな。



「あ、そうそう。言い忘れる所だった。ダン、貴様は今からレシーヌ王女様の部屋へ向かえ」


「へ?? 挨拶、にですか??」


 彼女は公務に追われて忙しと言っていたのに……。また急な指示だな。


「何でも?? 貴様が旅立つ前に色んな話をしたいそうだ」


「あぁ、そう言えば話が途中だった事もありますね。了解しました、じゃあハンナだけ守備隊の連中に挨拶をしてくれ」


「それは構わんが……。帰りは別々か??」


「そうだな、多分深夜まで強制的に拘束……、じゃあなくて。積もる話があるだろうから帰りは遅くなるだろうし。別々に帰ろうぜ」


「了承した」


「それではゼェイラさん、失礼しますね」


「あぁ、励んで来い」



 あ、あはは。励んで来いときましたか。


 休暇中も何だかんだあってお互い色々忙しかったし、それに元の姿に戻った途端に彼女は公務に追われる忙しい日々を送っている。


 恐らく積もり積もった世間話を解放したいのでしょうねぇ。


 その気持は大いに理解出来るが一国の王の娘が身分の低い男と同じ部屋で過ごすのは如何と思います。



「お前さんも分かっているとは思うけどソレを上手く渡せよ??」


 執務室の扉を静かに締めると改めて厳しい瞳を相棒に送る。


「任せろ。俺はお前と過ごす内にあらゆる術を学んだ。失敗はありえんっ」



 う、うぅむ……。何だろう。この形容し難い気持ちは。


 これを例えるならそうだな。


 飛び方を漸く覚えた子鳥が断崖絶壁から飛び立つ為、勢い良く助走を付ける様を後ろから見守る母鳥のドギマギした感情と呼ぶべきか。



「た、頼むぜ?? 失敗したら俺までトニア副隊長に叱られちまうんだからよ」


「だから案ずるなと言っているだろうが」


 その根拠の無い自信が物すごぉく不安なのですよ……。


「まぁお互い頑張ろうや」


 励ます、注意を促す。


 その両方の意味を籠めて彼の肩をポンっと叩くとレシーヌ王女様の部屋に続く階段へと向かって行った。


 何はともあれ彼女と親身に話すのはこれで暫くの間お預けだ。


 レシーヌ王女様が満足するその時まで御話に付き合うとしましょう。


「漸く俺の処世術を遺憾なく発揮する場面が来たか。快刀乱麻を断つ勢いでこの猥褻物を譲渡して見せよう」


 相棒が城門を開き、早くも暗雲が立ち込めてしまう台詞を吐いて出て行く様を心急く思いで見送るとその足で我儘でもあり甘えん坊でもある王女様の部屋へと向かって行ったのだった。




お疲れ様でした。


梅雨の時期に突入してからというものの、何だかジメジメした日が続いて少しだけ気持ちが沈んでしまいますよ。


本日も私が住んでいる地方ではシトシトと雨が降り続き、肌に嫌悪感を与える湿度が跋扈しておりました。まぁ昨日はスカっと晴れたのですがたった一日で再び雨空へ。


昼食は気分転換に黄色い看板が目印のカレー店へ赴き、チキンカツカレーを食して執筆を続けておりました。


さて、南の大陸編も残す所。後三話程度です。気合を入れて執筆を続けて行きますよ!!



そしてブックマークをして頂き有難う御座いました!!


これから始まる彼等の新たなる冒険のプロット執筆活動に嬉しい励みとなりました!!!!



それでは皆様、お休みなさいませ。

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