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今日も今日とて、隣のコイツが腹を空かせて。皆を困らせています!!   作者: 土竜交趾
過去編 ~素敵な世界に一時の終止符を~
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第百六十九話 彼の及ばぬ所で行われる思慮 その一

お疲れ様です。


本日の投稿になります。




 まるで空気の流れが視認出来てしまいそうな重苦しい空気が広い部屋に充満する。


 仕事の席で宴会の様な明るい空気が漂うのはいけませんが……。それにしてももう少し柔らかいモノに変化しても宜しいかと思います。


 皆一様に苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべて手元の資料を見下ろし、これから襲い掛かって来るであろう仕事の量と積み重なる出費を想像するとその表情がより一層険しくなる。



「闘技場と街の建築費の概算は概ねこの通りでも宜しいかと思いますが……。土地の問題は如何しましょう??」



 この空気を打破しようとしたのか。


 とても大きな円卓の机の一画から疲れた声色が響く。



「王都北東部の一体の土地を買い取る方向で話は進んでいます。立地条件、交通の利便、土地代、そしてキマイラが謀反を起こした場合の処理。これら三拍子が揃っている土地はあそこ意外にありませんよ」


「ですよねぇ……。キマイラとの交渉も無事に終え、残す問題は土地と金。この二つです。国庫を開き歳出を補う特別法案は議会で承認されましたが、歳入の法案の可決には当然王都に暮らす者達の反発の声は必至。議員達は皆一様に苦しい顔を浮かべていましたよ??」



 一人の大蜥蜴が疲労を籠めた溜息を長々と吐いて暗い表情を浮かべた。



「増税は仕方が無いだろう。これ以上余計な死者を出さぬ為に彼等は文字通り命を賭けて奴等と交渉を終えたのだから。それに闘技場を建設する事によってキマイラの王都侵攻も未然に防げ、市民の死者を出さなくても良くなった。金で命は買えないと言われているが……。彼等はその不可能を可能にしたのだ。今こそ行政に携わる我々が決起するべきなのだよ」



 不可能を可能にしたのは彼等の力の御蔭。


 その言葉が耳に入ると頭の中で彼の姿がぼぅっと浮かぶ。


 私を元の姿に戻してくれた、友人の家族を解放してくれた、そして……。私の心を何処までも温めてくれた。


 ダンが居なければ今頃私は己の命を断っていたかも知れませんし、ティスロの家族は亡き者となっていたかも知れない。


 そう考えると彼が達成した偉業は歴史に名を残す程のものだ。


 しかし、彼等の活躍は歴史に名を残す事無く地の底へと埋もれて行ってしまう。行政の失態が招いた問題を世間一般に公開する訳にはいかないのだから……。


 それは本当に寂しい事だけど私達が覚えていればいいのです。


 ダン、貴方が私達に与えてくれた光は決して絶やす事無く次世代に紡いで行きますね。



「ふぅ……」



 彼の姿を思い浮かべて本当に小さな溜息を吐く。


 私の口から溜息が漏れてしまった理由、それは……。


 私達に希望の光を与えたくれた彼等は数日後にこの大陸を去ってしまうのだから……。




 昨晩、公務を終えて草臥れ果ててベッドの上で眠ろうとしていた時。


『レシーヌ王女様。宜しいでしょうか??』


 夜も遅い時間なのにゼェイラさんが神妙な面持ちで私の部屋に訪れた。


『あ、はい。夜分遅くに一体どうしたので??』


『お疲れであると考えていますので単刀直入に申します。本日の午後、ダンとハンナの両名が私の下へ挨拶に来ました』


『そうだったのですか。用件は??』



 ダンも気が利かないですよねぇ。私に一言挨拶をしていけば良かったのに。


 特に身構える事無くゼェイラさんの言葉を待っていると……。



『三日後に彼等はこの地を発ち、新たなる大陸へ向かうとの報告でした』


 私の心を多大に揺さぶってしまう発言が彼女の口から発せられてしまった。


『そ、そうですか。み、三日後なのですね……』


 急な報告過ぎて心が追い付かない。


 ま、先ずは深呼吸をして落ち着きましょう!!


『挨拶を受けたのは私だけでしたが、皆に対しては三日後の午前に改めて挨拶に伺いそのまま出発するそうですよ』


『す、すぅ――……。ふぅっ!! 分かりました。で、ではその時に彼の口から直接御言葉を頂きましょう』



 落ち着いて話したと思うけど、多分物凄く上擦っていたと思う。だってゼェイラさんが驚いた顔を浮かべているし。



『ふふっ、やはり私が想像していた通りの反応ですね』


 それはつまり、私が動揺を隠せないと思っていたのですよね??


 己の心を見透かされた事に対して少しばかり羞恥の念を感じてしまいますよ。


『レシーヌ王女様と彼等……、基。彼との関係は太い絆で結ばれています。たった数言で別れの挨拶を済ますべきでは無いと考えまして』


 か、考えまして??


『明日の夕刻、彼とハンナに王都守備隊の面々に挨拶に行く様に指示しておきました。その際、彼等は私の部屋に一度訪れます。そして……』



 この先は言わなくても分かりますよね??


 ゼェイラさんが意味深な笑みを浮かべて私の瞳を直視する。



『な、成程!! ダンは王都守備隊の方々では無く私に対して挨拶をしに来るのですね??』


『これはあくまでも非公式な依頼ですからね。私の口から皆まで言えませんが、明日の夕刻から明後日の午前まで。どういう訳か!! レシーヌ王女様の予定は空白になっています』


 うん?? 夕方以降の予定を空けるのは理解出来ますけど何故午前まで??


『おっと、失礼しました。言い方が少し間接的過ぎましたね。その時間を逃せば彼と共に二人だけ!! で過ごせる時間は暫くやって来ません。それを後悔しない為の大切な時間であると申せば理解出来ます??』



 ゼェイラさんが仰った二人だけで過ごす時間。


 その意味を漸く理解すると頭の天辺から湯気が出てしまう程に顔の熱が急上昇してしまった!!



『ふふっ、その反応ですと理解頂けた様ですね。彼もそしてレシーヌ王女様も身分という肩書を外せば只の男と女。それを努々忘れない様に……』


 彼女が軽い笑みを浮かべて部屋を発つと私は猛烈な勢いで服が仕舞ってある棚へと向かった。



 きゅ、急に一晩を過ごせって!!!! 無理矢理過ぎません!?


 あ、いや。ダンが断る場合もあるから確定された訳ではありませんけどもぉ……。


 この時間を逃せば彼は暫くの間此方に帰って来られない。そ、それにその間に他の女性と良好な関係を築いてしまう恐れもあるのだ。



『レシーヌ王女様失礼しま……。うん?? 急にどうしたんですか?? 私服の棚をひっくり返して』


『ティスロ!! 大急ぎで下の階に居るお母様を呼んで来て!!!!』


『わ、分かりました!! 火急の件ですよね!?』


『も、勿論です!! 一世一代の大勝負の時が間も無く訪れようとしているのですからぁ!!』



 そんな事もあり、お母様とティスロと私。そして少し遅れて再びやって来たゼェイラさんと共に対彼用の衣装を夜更けまで練っていたのです。


 その所為か……、物すごぉおい寝不足なのですよ……。



「市場経済を活性化させる為に設備投資費を増額させる。この原理に従い行政に携わる者だけでなく市民にも闘技場建築の仕事を与えるべきだと考えます」


「闘技場建築はシュルト家の方々に一任しているが、向こうの答えもそれに落ち着いたよ」


「ほぅ、流石聡明なシュルト家でありますな。レシーヌ王女様、その事について王妃様は何か仰っていませんでした??」



「えっ?? あ、えっと……」



 い、いけない!! ちゃんとしなきゃ!!



「いえ、お母様は特に何も。母が何も言わなかったのは有識者と行政に携わる者達が一堂に会すこの公聴会を信じているからでしょう」


「そ、そうですか!!」


「王妃様の信頼を裏切る訳にはいかない。もうひと頑張りしましょうか!!」


「「「はいっ!!!!」」」


 私の声を受け取ると萎れかけていた花が水を得た様に、公聴会に活気が出た。


 鼻息荒く草案を纏めて行く彼等には大変申し訳ありませんが……。私の頭の中は今現在彼の事で一杯なのですよ。



 ダン、今日は絶対に寝かせませんからね!?


 逃げ出すものならお母様から直伝された強烈な交渉術を実行させて頂きます!!!!


 円卓の席の方々から四角四面の言葉が飛び交う真面目な席の中。


 私は表情を今一度引き締めてこの国の将来を真に想う彼等の思慮を深く汲み理解を強めようとしていたが……。それでも彼の事で頭が一杯で全く仕事が手に付かなかった。


 誰にもその事を悟られぬ様、そして私の密かなる想いが外に漏れぬ様。


 既に夜の一大作戦に向かってしまっている心の軌道修正を行い、己の心をひた隠しながら国の将来の行く末を決めかねない公聴会と真摯に向き合い始めた。



お疲れ様でした。


長文になってしまいましたので前半後半分けての投稿になります。


現在、季節外れのぜんざいを食しながら後半部分の執筆中ですので次の投稿まで今暫くお待ち下さいませ。

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