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今日も今日とて、隣のコイツが腹を空かせて。皆を困らせています!!   作者: 土竜交趾
過去編 ~素敵な世界に一時の終止符を~
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第百六十二話 怪しい月夜 男の性 その二

お疲れ様です。


後半部分の投稿になります。




「――――。それ以上進めば命は無いぞ」


「キャァァアアアア――――ッ!?!?」



 ハンナの恐ろしい声が響くとほぼ同時に鉄の独特のヒヤリとした感覚が首に当てられてしまった。



『な、何で!? 食堂で飯を食っていたんじゃないの!?』


 取り敢えず気を付けの姿勢を維持して振り返り憤怒に塗れた彼の瞳を直視して問う。



 い、今のは本気マジでビビったぜ!!


 もう少し酔っ払っていたらきっと下着を盛大に濡らしていただろうさ。



「飯は全て食べ終えた。そのまま休んでいても良かったが……。貴様の残していった邪念がどうも引っ掛かってな」



 邪念!? 覗く行為は大変イケナイ事ですが、心の中は澄んだ湖の水面の様に清らかなものですぜ!?



『あ、あのねぇ!! 俺は何も疚しい事をしようとしている訳じゃないぞ!?』


「それなら何故浴場の方へと向かってハンイド殿直伝の足運びで向って行ったのだ??」



 ウッ……、図星の正中線のド真ん中へ突き刺す様な質問は止めて。



『あ――、それはですね?? あの浴場付近にイケナイ気配を感じたのですよ、はい。所謂悪霊って奴なのかな?? それを退治する為に私が一肌脱ごうとしていたのですっ』


 彼の瞳では無く地面に横たわる小さな小石を見下ろしつつど――考えても苦しい言い訳を放った。


「悪霊を招いたのは貴様の邪な考えだろう。さっさと酔い潰れたグレイオス隊長殿を二階へ運ぶぞ」


「イヤァ!!!! まだ覗いていないのに帰るなんて絶対嫌だぁぁああ!!」



 ハンナが俺の襟元をグイっと掴むと有無を言わさずに屋敷の裏手へと引っ張って行く。



「ティスロ殿やトニア副隊長ならまだしも、一国の王女であるレシーヌ殿の入浴姿を覗いたら極刑が下るぞ」


「それでもいいの!! 男にはど――しても避けては通れぬ道があるのだからっ!!」


「阿保過ぎて言葉も出ん。大体貴様は……」



 ハンナが呆れた吐息を吐くと襟を掴む力が一瞬だけ緩んだ。


 むっ!? 好機到来!!!!



「とぅっ!!!! はっは――!! どうさ?? 常日頃からテメエの虐待という名の指導を受けて来た俺の力は!?」



 クソ真面目な白頭鷲ちゃんの拘束から逃れると得意気に腰に手を当ててやる。



「今のは俺の油断だと認めよう。だがしかし、再び貴様を拘束すればいいだけの話だ……」



 ハンナが左の腰から愛用の剣を抜くと静かに中段に構える。


 夜空から降り注ぐ怪しい月光の色を反射する鉄の面を捉えると背にいやぁな汗が浮かび始めた。


 殺意に塗れた瞳、体全体から放つ殺気、そして右手に持つ剣で俺を確実に叩き切ろうとする確固たる意志。


 月夜に舞い降りた鬼神の姿を捉えればきっと殺人犯もペタンと尻餅を付いて命乞いをするだろうさ……。



 こ、こっわ!! 相棒に対して浮かべる態度じゃあありませんよ!?



「ひ、人に対して凶器を向けてはイケナイと教わらなかったのですか??」


「貴様は既に人では無く魔物だ」


「揚げ足を取るんじゃねぇ!! なぁ頼むよ!! 五分だけ!! ねっ?? 五分だけ俺に自由な時間を下さい!!」


 体の前でパチンと両手を合わせて、可愛らしく両の瞳に乙女の涙を浮かべて懇願するものの。


「駄目だ」


 彼の体内には一切の甘えという言葉は存在せず、俺の願いは秒で却下されてしまった。



「あぁそうかよ!! じゃあ実力で押し通ってやらぁ!!!!」


 直ぐそこに世の男共垂涎物の浴場風景が待っているんだ!! ここで引き下がるのは男じゃねぇ!!


「そうか、貴様がその気なら俺も応えてやろう」


 ハンナが中段に構えていた剣を左の腰に収めると武の道に携わる者達が引き腰になってしまう恐ろしい圧を纏った。


「……」



 その圧と来たら……、ただそこに立っているだけだってのにもうこの場を制圧してしまう程に強烈なものだ。


 ち、ちぃっ!! やはりこいつを無力化するのは一筋縄じゃあ行かない様だぜ。


 しかぁし!! 煩悩の力を得た俺に負ける要素はないのだ!!



「オラァァアア!!!!」



 先ずは様子見。


 両足に力を籠め、奴との距離をほぼ零に縮める突貫を開始して己が間合いに収めると左の拳を勢い良く振り上げてやる。



「踏み込みの速度、拳の圧と速さ。その全てが出会った時よりも格段に成長しているぞ」


 ハンナがその場から一歩下がり、俺の拳を容易く回避して笑みを漏らす。


「お前さんにイヤって程鍛えられているからな!! 足元が御留守だぜ!?」


 左右の拳の連打の合間にハンナの左足を刈り取る下段蹴りを見舞ってやるが……。


「それは敢えて見せたのだ」


 囮役としての左足をひょいと上げて攻撃を回避。


「ウゲェッ!?」


 空振りの勢いで態勢が崩れて隙だらけになってしまったお腹ちゃんに鉄拳を捻じ込んで来やがった。



「ゴッフッ!! ウェェ……。テメェ、さっき食べたサザエが外の空気を吸おうとしてこんにちはしちゃったじゃねぇかよ」


 前歯の裏側にまで出て来た妙に酸っぱい栄養の元をゴックンと飲み込んで睨みつけてやる。


「俺の拳を真面に食らって立ち続けている事を光栄と思え」



 こ、この野郎。いつも偉そうに俺を見下ろしやがって……。


 今日こそはお前を越えてやる!!!!



「喧しい!! 煩悩力を嘗めるんじゃねぇ――!!」



 両足に煩悩を、そして両手に淫靡な魂を籠めてハンナの懐へ到達。



「フンガァァアア――――ッ!!!!」


 この後どうなっても構わない勢いで拳の連打を放つが……。どうやら武の頂に立つ者にとって俺の拳はまだまだ生温い様だ。


「一分の隙も見当たらぬ拳の連打だが……。打ち終わりと打ち始めに微かな隙が見えるぞ!!」


「オッブス!?!?」



 右の拳を仕舞い、左の拳を出した刹那に視界が目の前のイケメンから大変美しい夜空を捉えてしまった。


 目にも留まらぬ速さの昇拳が俺の顎を捉えたのかよ……。



「刹那にでも俺に焦りを生じさせた、そして魔力を発動させた事を褒めてやろう」



 テメェは一体何様のつもりだ。


 そう言おうとしたのだが化け物を越える化け物の攻撃を真面に受けた体は俺の意思に反して重力に引かれ落ちて行く。



 ち、畜生……。やっぱり俺はハンナに勝つ事が出来ないのか??


 相棒と出会ってから沢山鍛えて、何度も死を克服して来ても全く及びもしねぇ。



『貴方はよく頑張りましたよ?? さぁ私の胸の中で静かな眠りに就きなさい』



 沢山の石と砂が広がる地面が満面の笑みを浮かべて俺を抱き締めようと両手一杯に広げてくれているが、心の隅っこで今も燻ぶる煩悩ちゃんがそれを良しとしなかった。


 い、今此処で諦めたら一生奴には勝てん。


 それにぃ!! 美の女神達の入浴姿を拝むまで!! 俺は例え肉体が滅んだとしても魂だけで戦ってやるぜ!!!!



「ど、ど、ど根性――――ッ!!!!」


「何ッ!?」



 俺が倒れる事を想像して隙だらけになっていた相棒の両足に向かって突撃を開始。


 彼の両足を万力で拘束すると残り微かな力を振り絞り、まぁまぁ重たい男の体を天高く掲げてやった。



「これがぁぁああ!! 俺のぉぉ!! 煩悩の力だぁぁあああああ――――――ッ!!!!」


 煩悩の力により魂を奮い立たせて力を再燃させると海岸線の方角へ向かって力の限り相棒を投げ捨ててやった。


「うぉっ!?!?」



「ぜぇっ……。ぜぇぇええ!! か、形はどうあれ俺の勝利だなっ!! 二度と帰って来るんじゃねえぞ!! ほぼ童貞野郎がぁぁああ――――!!!!」



 暗き闇の向こう側へ姿を消した相棒へ向かって汚い言葉を吐き捨ててやると機敏な動きで回れ右をして屋敷の左翼側へと向かって行く。



 どうせ奴は飛んで直ぐ帰って来る筈。しかも激昂によって力を増して……。


 そうなったら俺に勝ちの目は無い。


 ならば煩悩を司る神様が与えてくれたこの数十秒を有効活用するしかねぇだろうさ!!



「え、えへへっ!! お待たせしました!! 今から煩悩と性欲に塗れたダンちゃんが赴きますからねぇ――!!」



 月の妖艶な光が降り注ぐ屋敷の左翼側に出ると鼻息荒く軽やかに弾みつつ女神達が待つ浴場へ向かう。


 腹にジンジンと響く重い痛み、顎から耳の根本まで広がる熱を帯びた痛みに負けじとして突き進んで行くと先程まで確認出来なかったくらぁい人影の様なものが見えて来た。



 エ゛ッ!? だ、誰か居るの!?



「はぁ――……。此処まで私の予想通りだと逆に呆れてものも言えないわ」


「ト、ト、トニア副隊長!?」


 動き易い私服姿の彼女が俺の姿を捉えると大変分かり易い呆れを含んだ溜息を吐く。


「な、何で!? さっきまで入浴中だったでしょう!?」


「熱いお湯だったから直ぐに出たのよ。それにハンナの微かな魔力を感知した。何も無い島で彼が魔力を放つ理由は只一つ……」


 トニア副隊長の瞳が呆れから激昂の色に徐々に変わる。



「グスッ。そ、そんなぁ……。命辛々ほぼ童貞野郎の通せんぼを通過して来たってのにぃ……」



 膝から崩れ落ち、人目も憚らず二つの瞳から悔恨の涙を流す。


 美女達が居ないのならお、俺の苦労が水の泡じゃないか。



「無駄な努力お疲れ様。さて、貴方には今から『私達二人』 に特別指導を受けて貰うけど今の内に何か言い残す事はある??」



 へっ?? 私達二人??


 彼女の声を受けて手の甲で涙をグシグシと拭き左右を確認すると。



「貴様……。魂が滅却するまで痛めつけてやるから覚悟しろよ!!!!」


「ヒィッ!!!!」



 青い髪に沢山の木々の枝を差し、体中に擦り傷を負った鬼神が俺の直ぐ後ろで恐ろしい面持ちを浮かべていた。


 あれだけ遠くにぶん投げてやったってのにもう帰って来たのかよ……。



「ち、違うんです!! こ、これには海よりもふかぁい訳がぁ!!」


「言い訳はいい。貴様はこれから俺とトニア副隊長に代わる代わる殴られ続けるのだからなっ!!!!」


「勘弁して下さい!! 憐れな咎人にせめてもの慈悲を!!!!」



 大変硬い地面に額を擦り続けて許しを請うのだが、二人の猛者の前でそれは無意味に等しかった。



「駄目だ」

「却下よ」


「せめて考える振りくらいしやが……。おごっふっ!?」


 ハンナの冷徹な拳が腹部を穿つと腹では無く背に痛みが生じる。


「へぇ、やるわね」


「怒りが頂点を越えて自分でも力が抑えきれん。コイツを撲殺しそうになったら止めてくれ」


「分かったわ。好きな様にシなさい」


「イヤァァアアアア――――ッ!!!! だ、だ、誰かぁぁああああ――!! 助けて下さい!! ここに狂気的な快楽殺人者がいま……」


 善良な心を持った者に救助を求めようとするが怒り狂う奴の前でそれは無意味に等しい。


「五月蠅いぞ!! 戯け者が!!」


「ホゴッ!?」


 口を開けば平手打ちが左の頬を打ち。


「ウングッ!!!!」


 言い訳を放とうものなら断罪としての正義の拳が腹を穿つ。



 あぁ、畜生……。殴られ過ぎて気持ち良くなって来たぜ……。


 明滅していた景色にいつしか白き靄が掛かり、足元の力が消え失せ極上の柔らかさを持つ沼へと体が沈みこんで行く。


 この柔らかい沼に体が沈みこんだ以上、例え煩悩の力を以てしても這い上がる事は不可能だ。



『もういいのかい?? ほら、目の前の二人を無力化すれば二階で静かに休む彼女達の部屋にお邪魔出来るよ??』


 もういいんだ。俺は己が犯した罪を受け止めるよ。


 それに顔面を腫らしたまま女の子の部屋に訪れる訳にもいかねぇし……。


 意識が途絶える刹那に聞こえた煩悩様の声にそう答えると俺の体は完全完璧に柔らかい沼の中へ沈み、そしてそのまま浮上する事は無かった。


 しかし、体は動かずとも頭若しくは心の中ではいつまでも美女達の麗しい裸体の姿を妄想し続けていたのだった。



お疲れ様でした。


先日の後書きにも記載した通り、先日の休みの日にスーパー銭湯へ行ってきました!!


炭酸風呂のシュワシュワ感を満喫してそれから四川ラーメンを食しに行きつけのラーメン店へ。


これぞ正に充実した休日であると頷ける一日を過ごしていましたね。



休んでいる暇があればさっさと書けという読者様達の厳しい御言葉が光る画面越しに届きましたので、本日はこの後も少しプロットを執筆しましょうかね。


彼等の休日は残り数話で終わり、過去編最長の南の大陸編を終えると新たなる冒険を求めて龍達が住む大陸へ旅立ちます!!


現代編でも登場した人が何人か登場しますのでそこも楽しんで頂ければ幸いかと思います。



そして、ブックマークをして頂き有難う御座います!!


現在、次の大陸の話の大筋を執筆しているので大変嬉しい励みになりました!!!!



それでは皆様、お休みなさいませ。

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