第十七話 彼にとっては日常の一部始終
お疲れ様です!! 本日の投稿になります。
少々短めの投稿になっていまい、申し訳ありません。
それでは、御覧下さい。
肺が新鮮な空気を求め、意図せずとも口が強制的に開かれ。暁の空の下に広がる清涼な空気を大量に取り込む。
新鮮な空気を取り込んだ体は眠気を払拭……。する訳でも無く。
永遠に継続される眠気に苛まされ続けていた。
「ふわぁぁ……。眠い……」
目の端から零れ落ちる雫を指先で拭い、双肩に圧し掛かる睡魔を打ち払うべく無意味な屈伸運動を開始。
眠気をある程度誤魔化した後、再び直立の姿勢で護衛の任を続けた。
もう直ぐ、朝か。
幾ら頑丈だと自負していても、深夜まで我儘に付き合わされたら疲れちまうって。
今から遡る事数時間前。
一日の汚れを浴場で洗い落としたレシェットさんが、一陣の風よりも速く舞い戻って来ると。
もう少し布面積の広い寝間着を着用しなさい。
年頃の娘さんを持つ父親の定型文を思わず放ちたくなる姿で彼女がベッドの上に横たわり。
『さ、ミノタウロス?? だっけ。彼等とオークとの戦いを話して??』
お伽噺に夢中になるお子様の瞳を浮かべて此方に請うた。
ユウや、マイ達が魔物である事を伏せ。尚且つ、己自身の失態をさり気無く美化しつつ不帰の森での出来事を伝え始めた。
彼女が此方の話を聞く合間。
妙に色気が含まれた肢体で寝返りを打つと、俺も一人の男なのですね。
ぬるりと湧いた男の性が体の奥底でフンフンッ!! と。腹筋運動を開始してしまったのだが……。それを悟られまいとして物語を語り続けた。
彼女の瞬きが長くなり、そして開かなくなったのを見計らい話を終了。
夜更かしの所為で風邪を罹患したと苦情が寄せられては困るので、大人の色気を放つ十代の体にしっかりとシーツを掛け今に至ります。
血生臭い話も興味津々といった感じで聞いていたし。
そういった類の話が苦手では無いのは理解出来たのですが……。
此方の体力は無限ではありませんのでね。もう少々早く解放されたかったのが本音で御座います。
「ふわぁっ」
数えるのも億劫になる回数の顎を開き、再び新鮮な空気を取り込もうとすると。
「――――――――。おはようございます、レイド様」
「ふぁ……。おほんっ!! おはようございます、アイシャさん」
強制的に顎を閉じ、昨日と変わらぬ姿のアイシャさんを迎えた。
いけねっ。
護衛中の身ですからね。もうちょっとしっかりしましょう。
「交代のお時間で御座います」
「もうそんな時間ですか。何だか、あっという間でしたね」
勿論、此れは嘘です。
夜がこれ程に長い物であると久し振りに感じてしまいましたから……。
「左様で御座いますか。御体を洗い、お休みになられては??」
「浴場は確か……」
「この廊下を進み、突き当りの扉の先に御座います。脱衣所で着替え、御召し物は籠の中に入れて下さい。我々が洗濯させて頂きますので」
「宜しいのですか??」
食事の世話に、寝室の提供。果ては洗濯まで。
たかが護衛の任を受ける者に対して好待遇過ぎやしませんか??
「それが私達の仕事ですので」
ふぅむ、それなら……。
「では、御言葉に甘えて」
「ごゆるりとお休み下さいませ」
静々と頭を下げた彼女に対し、此方も一つ頭を下げ。廊下の突き当りへと移動を開始した。
突き当りの手前の左扉が御手洗いだから……。その奥か。
湯は冷え切っている事だろうし。さっさと頭から被って、適当に体を洗って眠ろう。
任から解かれた所為か、将又緊張感から解放された所為か。
今日一番の大欠伸を放ちつつ浴場へと歩みを進めた。
◇
初夏の夜明けに相応しい露を帯びた空気が火照った私の体を冷まそうと躍起になる。
しかし、それでも。一度灯ってしまった私の炎は決して消えないのですわよ??
もう間も無くレイド様が現れると考えるだけで、体の奥が沸々と煮え滾ってきますわぁ……。
脱衣所に存在する極小の天窓から必死に頭を捻じ込み、素晴らしい複眼で室内を捉え続け。その時を待っていると……。
「お――。広いな」
レイド様が眠気眼を引っ提げて入室を果たした。
き、来ましたわね!!
さ、さぁ!! 早く、その不必要な御召し物を外して下さいましっ!!!!
「よっと……」
彼が上着を脱ぐと胸の奥がじんわりと熱を帯び。
「ん――。朝だからちょっと冷える、かな??」
白いシャツを御脱ぎになれば女の何かをググっと悪戯に刺激する地肌が現れた。
あっ、はぁぁ……。
素晴らしき御体ですわぁ……。
整った筋力に、体に刻まれた無数の傷跡。
中でも私のお気に入りは右肩の筋肉ですわね。お時間が許す限り、前の両足で肉感を存分に楽しんでいるのは秘密ですわっ!!
あの硬さがまた私の女心をキュンキュンと刺激してしまいますのぉ……。
「さて、と。ちゃちゃっと浴びるか」
さ、さぁ!!
い、いよいよですわね!!
彼がズボンのベルトに手を掛け、金属が擦れ合う音が私の性欲の悪魔を呼び醒ましてしまいましたわぁ!!
も、もう辛抱なりませんっ!!
このまま侵入を果たし、糸でがんじがらめに拘束してぇ!! レイド様の御命を私のお腹にぃ……。
――――――――――。
むっ??
糸に矮小な反応が見られますわね……。
いざ、戦場へ!! 猛った心のまま突入しようとした刹那。柵に張り巡らせた糸に微かな振動を感知してしまった。
これからが大切な時間だというのに……!!
愚か者めぇ!!
待って居なさい!! 直ぐに成敗してやりますわ!!
半分以上侵入させた体を強制的に引っ込ませ、人の姿に変わると屋敷の右側へと駆け出した。
しかし、これは……。僥倖なのでは??
愚か者を捕らえ、レイド様に差し出せば……。
『凄いじゃないか!! アオイ!! あっと言う間に侵入者を捕らえて!!』
満面の笑みを浮かべて、私の頭をヨシヨシと撫でて下さる。
『こ、此れしきの事。当然で御座いますわ』
言葉では平常を取り繕うのですが……。
その実。
心の中は長い冬を抜け、漸く訪れた温かく幸せな春の温かさに包まれているのです。
『アオイじゃなきゃ出来ないさ。やっぱり、頼れるのはアオイだけだよ!!』
『さ、左様で御座いますか』
『だから、お願いがあるんだ』
お願い、で御座いますか??
『俺の子を……。宿してくれないか??』
『い、今で御座いますか!? ま、まだ日も高く。それに、此処は脱衣所で……』
『構やしないさ。さ、いくよ??』
そ、そんな。
脱衣所で受胎だなんて……。
しかも!!
続きは浴場で御座いますかぁ!?
興奮して夜通し、奮闘してしまいますわぁぁぁあああああ!!!!!
そして、子供は八人欲しいですぅ!!!!
「――――――。アオイ、ちょっと聞いて」
は、はれ??
「浴場で欲情した淫らな御体は何処へ??」
震源に到着すると、カエデが何やら珍妙な生物を見つめる様な視線を浮かべて此方を見つめていた。
「妄想から帰って来て」
ま、まぁ!!
この子は!!
「も、妄想ではありませんわ!! もう間も無く現実になるのです!! それより、先程の振動は一体……」
カエデが一人、この場に居るという事は……。
横着者を取り逃した筈はありませんわよね。
「私が呼んだの。これからの予定をさっき使用人さんから伺ったから伝えようと思って」
「なっ!? そ、そんな下らない事で私を呼んだのですか!?」
せ、折角レイド様と素敵な時間を過ごそうと考えましたのに!!
「念話で用件を伝えれば済む事で御座いましょう!?」
「面倒。それに、疲れるから」
め、面倒!? 私にも予定がありますのに!!
この下らない時間が経過する間にも受胎する機会が失われてしまいますわぁ!!
「午前八時から夕方の四時まで休憩。御飯は朝の九時と昼の一時、好きな時に食べてって。私はアオイ達に一方通行の魔法を掛けて部屋で休みますので」
「用件は以上ですか!?」
あぁ、早くしないとレイド様がぁ!!
「うん、終わり」
「では!! 失礼致しますわ!!」
颯爽と踵を返し、いざ欲情へ……。
んふっ。
間違えましたわっ。浴場で御座いましたわねっ。
燕の飛翔をも超える軌道を描いて脱衣所に戻ると……。
「――――。あらっ。服だけしか御座いませんわね……」
籠の中にキチンと折り畳まれた服だけが虚しく存在してしまっていた。
つまり、レイド様はお部屋へと移動したのでしょう。
八つの足を器用に動かし、屋敷の屋上へと到達。
深夜に予め用意しておいたレイド様のお部屋へと繋がる愛の架け橋を渡り、窓枠へと華麗に着地を果たした。
「――――――。まぁっ、うふふ。丁度お部屋に到着した所ですわね」
大欠伸を放ち、ちょっとだけ乱雑に上着を荷物の上に放り。
寝間着姿に変わられると、ベッドの中に御体を入れ。枕に顔を埋めるのですが……。
「――――――――。ふっ」
私の香りを掴み取ったのか。一度だけ、枕から御顔を上げ。
『仕方がないなぁ……』
そんな感じではにかんだ笑みを浮かべ、そのまま眠りへと興じてしまった。
あぁ……。
今の御顔、堪りませんわぁ……。
私の香りを感じ取って、幸せな笑みを浮かべて眠る……。
素敵な夢をお楽しみ下さいましっ。
「ですが……。香りだけでは、物足りませんわよね??」
殿方は猛った欲情を晴らすために女性を御抱きになる。
つまり、レイド様は私の香りだけでは満足せず。そう!! 御体を求めているのです!!
「では、早速っ」
窓の施錠を外そうと、高揚しきった感情のまま狭い隙間から糸を侵入させると同時。
けたたましい音と共に扉が開かれ。
「おっはよ――!!!! レイド、起きてるかぁ――!!」
「よぉ!! ボケナス!! 今から私達警護に行くから見送れや!!!!」
邪魔者二名が幸せな時間の終了を非情に告げてしまった。
むぅ……。
参りましたわね。折角、夜這い……。いいえ、朝添いを遂げようかと考えていましたのに。
もう少し、様子を見守りましょうか。
中から確知されない様、窓枠の端から室内の様子を窺い始めた。
「何よ、コイツ。たらふく御飯を食べて今から幸せな冬眠を始める熊みたいに熟睡しちゃって」
「髪も半分乾きだし、さっきまで護衛していたんだろうさ」
ユウがベッドに腰かけ、あろうことか。レイド様の頭に手を掛けるではありませんか!!
おのれぇ、乳のお化けめぇ!!
レイド様をヨシヨシしていいのは私だけなのですわよ!?
「ふぅん。でも、熟睡している奴って。邪魔したくならない??」
「ん――……。無きにしも非ずってとこか」
「はっは――!! さっすが、ユウ!! てなわけでぇ。すぅぅぅぅ――……」
『敵襲ぅぅぅううううう!! 敵に備えてぇ!! 武器を構えろぉぉおお!!』
まな板が念話で大絶叫を放つと。
「ぬぁっ!? て、敵はどこだぁ!?」
レイド様が上体をグンっと起こし。
「「あいたっ!!!!」」
ユウと頭を衝突させてしまいましたわね。
むっ!?
今、レイド様の唇がユウの頬に当たりませんでしたか!?
丁度死角になって見えませんでしたけども……。
「いててて……。あ、あれ?? 敵は??」
「だはははぁ!! 居る訳ねぇだろ。隙だらけで眠っているから邪魔してやったのよ」
「は、はぁ!? そ、そんな下らない事で起こしたのかよ!?」
「ぎゃはは!! 大正解っ!! あんたの驚く顔を見て元気出たから行って来るわぁ――」
鼻に突く顔と笑い声を上げてまな板が扉へと向かう。
どうかそのまま出て行ってくださいまし。そして可能であれば、一生帰って来なくても宜しいですわよ??
「ユウ――。どしたの?? 行くわよ??」
「お、おぉ!? じゃ、じゃあ行って来るよ!!」
「はいはい……。いってらっしゃい……」
彼女達をヤレヤレといった感じで見送ると再び、私の香がたっぷりと含まれたシーツの中に潜り込み。速攻で寝息を立ててしまった。
さて!!
邪魔者は消失、此れで正々堂々とレイド様の御体を貪り尽くせますわね!!
お部屋へと侵入を果たし人の姿へと変わり、大好物へとむしゃぶりつく卑しい犬の様にベッドへ飛び込もうとすると……。
「――――――。アオイ、外に出て」
再びカエデの横槍が入ってしまった。
「もうお預けは懲り懲りですわ!! カエデこそ外に出なさい!!」
一度ならず、二度まで!!
我慢強い私でも限界はあるのです!!
「駄目。レイド、疲れているから」
「ではぁ……。機会を改めれば宜しいのですか??」
「駄目です」
じゃ、じゃあどうしろと!?!?
「風紀の乱れは心の乱れに繋がります。それに……。私は寝不足で不機嫌ですからね。手加減は出来ませんよ??」
彼女の手元に深紅の魔法陣が浮かび、そこから強烈な波動が放射された。
ふぅむ、炎の放射系魔法ですか……。
範囲を最小限に絞ってもあの威力ですと、この部屋は無事では済みませんわねぇ。
仕方がありませんわね。
また機を改めて……。
「ちぃっ……。レイド様ぁ。アオイはまた戻って来ますわねぇ……」
眠る彼の耳共で天使の甘い囁き声を放ち、恐ろしい顔を浮かべるカエデの脇を抜けて己の部屋へと向かった。
レイド様っ、蜘蛛は狡猾なのですわよ??
まだまだお時間はたぁぁっぷり御座いますからねっ。必ずや、八人分もの御命を私のお腹の中に注いで頂きますから。
私は幸せ者ですわ。
何処までも広がる世界の中、こうしてレイド様と出会えたのですからね。
神という存在は一切信じていませんが、もし存在するとしたのなら。それはきっと私の幸運を祝福する為に存在するのでしょう。
清々しい朝に相応しい足取りで廊下を進みつつ、これから産まれるであろう我が子の顔を思い浮かべると自然に口角が上がり続けてしまったのだった。
最後まで御覧頂き、有難う御座いました!!
そして!! ブックマークをして頂き本当に有難う御座います!!
日々の執筆活動を見守って頂けていると考えるだけで創作意欲が湧き続けてしまいます!!
本当に嬉しいです!!
次話なのですが、乗馬の御話になります。投稿までもう暫くお待ち下さいませ。