第百五十七話 宴の始まり その二
お疲れ様です。
週末の深夜にそっと後半部分の投稿を添えさせて頂きます。
「皆さんお待たせしました!! これより晩餐会を始めます!!」
進行役の人が盛大な声を放つと周囲の者達が喜びの声を上げると。
「いいぞ!! 早く始めてくれ!!」
「これ以上待つのは退屈だからな!!!!」
方々から歓喜の声が響き渡り、その音量は王都の中心にまで届く程の盛大な物であった。
「今宵は贅を尽くした料理、お酒を用意しておりますので各々心行くまで御楽しみ下さいませ!!」
おぉ!! 遂に始まったか!!
取り敢えず空腹を満たす為に御馳走を取りに行きましょうかね!!
「ト、トニア副隊長?? 先程の言葉の真意は……」
「隊長の聞き間違いじゃないですか?? ほら、料理を取りに行かないとなくなってしまいますよ」
「あ、あぁそうだな。だがやはり気になるというか奥歯に物が挟まるというか……」
名残惜しそうにこの場から動こうとしない超奥手の大蜥蜴ちゃんを置いて御馳走が並べられている机の前へと向かって行く。
晩餐会が始まるとヴァイオリンの音も軽快な音へと変わり人の心に高揚の拍車を掛けていた。
いいねぇ、こういう雰囲気は。少なくとも先程の礼節を重んじる場よりかは俺好みだ。
「よぅ相棒!! 先ずは何を食べる!?」
まぁコイツの好みは熟知しているので態々問わずとも次に出て来る言葉を予測出来てしまう。
「肉だ」
ほらね?? 俺の思った通りだ。
「肉が並べられている机は……。あった、あそこか」
料理の主役を張れる肉料理は大人気なのか大勢の人が詰め寄せて来る事を予め想定されており、他の料理が置かれている机から若干離れた位置に配置されていた。
現に今も大蜥蜴ちゃん達が俺の予想通り列を成して机の前に並んでいるし。
「俺も肉を食べたいけどどうせなら他の料理も味わいたいし。相棒、分かれて料理を集めようぜ」
「ほぅ悪くない案だな」
「お前さんは肉、俺はそれ以外の料理を貰ってまた集まろうや」
「了承した。では行って来る」
「ん――。気を付けて行くのよ――」
初めて御使いに出掛ける子供の背に掛ける母親の温かな口調を放つと肉の机よりも若干人が少ない机の前へと向かって行った。
大蜥蜴ちゃん達は相棒と同じく肉料理が好きだし、そこに並びたい気持ちは重々理解出来るけども栄養の偏りを避ける為にも色んな料理を口にするのを勧めますよ??
「そこのパンを三つ頼む」
「はい!! 只今!!」
「野菜は多めでパスタは少量かな」
「畏まりました」
列の先頭に立った者が机の向こう側で汗を流す配膳役の人達に指示を出すと要望通りの料理が白磁の皿に乗せられて渡してくれる。その姿を列の最後方から捉えると一つ頷いた。
成程、そういう仕組みなのね。
列の先頭に立って狼狽える訳にはいかないので予め注文する料理を頭の中で纏めておきましょうか。
「……っ」
心急く思いで列から少しだけはみ出して机の上に乗せられている料理を確認していく。
何々ぃ?? ここの机の上には何が乗せられているのかしらね――っと。
麗しの女神様の頬っぺたみたいに大変柔らかそうなパンは視覚を優しく刺激し、香辛料をふんだんに使用している肉そぼろが乗せられたパスタからはお腹が空くピリっとした香りが放たれている。
黒ゴマと白ごまの両方を使用した揚げた団子は列に並ぶ者達の手を誘おうとして必死にあまぁい香りを漂わせ、まるで市場から直入れしたかのような瑞々しさを持つ葉野菜達が脇を飾る。
そのどれもが一流品であり此処で出された品をお店で注文したのならきっと目玉が飛び出す額を請求される事だろうさ。
若干卑しいかと思われるが己の空腹を誤魔化す為に無意味に足を、体を動かしていると遂にその時が訪れた。
「お待たせしました。何を御所望で??」
待って居ましたよ!! その台詞!!
「えっと……。そこの揚げ団子を十個、パンを十個、そして肉そぼろのパスタは超大盛で。そして葉野菜も大盛で下さい!!」
ふふっ、これなら食いしん坊の相棒もきっと満足してくれる事だろうさ。
「あはは、沢山召し上がりますね。一度で運べるように御盆に乗せましょうか??」
「是非ともお願いします!!」
「畏まりました。おい、注文が入ったぞ!!」
「「「はい!!!!」」」
受付役の大蜥蜴ちゃんが指示を出すと配膳役の数名が思わず唸ってしまう手際の良さで皿の上に料理を乗せて行く。
流石王宮抱えの料理人達だな、一つ一つの動きに全く無駄がないや。
熟練の技が仕込まれた料理、卓越した手際の良さに改めて感心していると俺が注文した品が少々大袈裟な大きさの御盆の上にキチンと並べられた。
「お待たせしました。お受け取り下さい」
「有難う御座います!!」
彼から目的の品を大切に受け取ると訓練場の方々に設置されている机へと向かって行く。
恐らく来賓者が使用すると考えられて設置したのだろう。
ある程度位の高い者達に対してずぅっと皿を持たせる訳にもいかねぇし。
「ふぅっ、この辺りでいいか」
訓練場のやや中央から外れた位置に御盆を置くと相棒の背に視線を送る。
「……ッ」
間も無く列の先頭に到着するであろう彼の背からは空腹の二文字の雰囲気が溢れ出し、背中越しでも今現在アイツがどんな顔を浮かべているのか容易く判断出来てしまう。
はは、そう慌てるなって。料理は逃げないのだから。
「お酒は如何でしょうか??」
銀製の御盆を右手に持つ大蜥蜴ちゃんが俺の近くに来ると静かな声で問うて来る。
「あ、頂きます」
「どうぞ。それでは引き続きお楽しみ下さいませ」
彼から透明度の高いグラスを受け取り改めて酒の種類を確認した。
琥珀色に染まる液体からは酒特有の辛みを含んだ香りが漂い、その香りを捉えただけで御鼻ちゃんがニッコリと笑みを浮かべて満足してしまう。
安物の酒は鼻にへばり付いていつまでも離れようとしないけどこの酒は鼻腔を通り抜けて鼻の奥で香りを楽しませてくれる。
すっげぇ、簡単に渡してくれたお酒だけど……。これも結構な額がするんじゃないの??
相棒が来るまで若干時間が掛かりそうなのでグラスの淵に唇を上品に付けてクイっと傾けてやった。
「――――。うっまっ!!!!」
ちょっとヤダ!! 何コレ!? 滅茶苦茶美味しいんですけど!?
琥珀色の液体を口に流し込んで先ず感じたのは酒の辛さだ。
舌の肌をピリリとする刺激する酒の強さは中々のモノであるが鼻から抜けて行く蒸留酒特有の香りがそれを全く感じさせてくれない。
喉の奥に液体が流れて行くと腹にジワァッとした温かさが発生。
口内と胃袋から昇って来る馨しい香りはいつまでも消失する事無く俺の鼻を楽しませてくれていた。
「はぁ――。酒一杯で満足しちゃいそうだぜ」
この御酒を瓶ごと貰えないかしら?? 冒険の途中で疲れたのならこれで一杯やりつつ心を癒したいし。
グラスに残るお酒を楽しみつつ周囲に視線を送っていると三名の大蜥蜴ちゃん達が陽気な雰囲気を身に纏って此方に向かって来る様を捉えた。
「御楽しみですかな??」
「えぇ、存分に満喫させて頂いておりますよ」
誰だろう?? この人達は。
大蜥蜴の姿で黒を基調とした制服に身を包んでいるって事はそれなりの位に就く者である事は容易く判断出来ますけども……。
「それは良かった。今宵の主役が満足出来ない様ではいけませんからな。所で……、ダンさん。確か貴方は今現在王都守備隊抱えでしたよね??」
本当は強面受付嬢さんがいらっしゃるシンフォニアのしがない請負人ですが、此処は場の雰囲気に合わせる為に適当に肯定しておきましょう。
「へ?? まぁ一応そうなりますかね??」
「ダンさんとあちらにいらっしゃるハンナさんは正規の隊員では無い。所がどうです?? 与えられた任務は過酷等と言う言葉では生温く感じてしまう程の危険なものであった。貴方達は生きて帰って来られた事自体が奇跡なのです」
三人の内の一人が若干興奮気味な口調で俺と遠くに居る相棒の背を交互に見つめる。
「何も知らない貴方達に過酷な任務を与える王都守備隊の長官の対応も酷いとは思いませんか??」
「あはは。それは仕方が無いのでは?? ゼェイラさんも仕事でそうせざるを得なかったと思いますので」
「ほぅ、成程。噂通りの方の様だ」
俺が当たり障りのない言葉を放つと大蜥蜴三名ちゃん達が静かにコクコクと頷く。
と、言いますか結局何を伝えたいのかしら??
この場で堅苦しい会話は勘弁して貰いたいのが本音だ。
「厳しく危険な依頼の数々をこなすよりも……。どうでしょう?? 要人警護の依頼に興味は御座いませんか??」
ははぁん……、読めたぞ。
どうやらこの大蜥蜴ちゃん達は俺達を引き抜きに来たって訳だ。
「汗水垂らしてこの広い訓練場を駆ける事も無く、死が蔓延る死地へ赴く事も無い。比較的安全な場所で仕事が出来る様になりますよ??」
「え、っと……。自分一人では判断しかねるのでハンナとゼェイラさんと相談してみますね」
これが最善の答えだ。
そう考えて口に出すがどうやら彼等は俺の言葉に耳を傾ける気は無いらしい。
「ではダンさんだけでもどうでしょうか?? 是非とも法務部に力添えをして頂けると幸いです」
「粗忽な態度で激務を押し付けて来る長官が上に居てはいつまで経っても命の心配が尽きませんよ??」
「その通り。我々に力を貸して頂けるのなら将来の地位を約束させて頂きます」
「で、ですからその答えは自分一人だけじゃぁ……」
「「「さぁ、どうします!?」」」
「い、いやですからぁっ!!」
ちょ、ちょっと待って!! それ以上近付かないで!!
通常あるべき距離感から鼻息を荒げつつ間違えた距離に近付こうとする三名の大蜥蜴ちゃん達に対して慌てて両手を翳していると。
「――――――。ど――も、法務部の皆様。御機嫌麗しゅう。粗忽で無頼漢の王都守備隊長官ですけどウチの隊員に何か御用ですかな??」
「ゼェイラさん!!」
渡りに船とはよく言ったもので??
鬼の形相を遥かに上回る表情を浮かべている鬼神が俺を救うべく参戦してくれた。
「ちっ、ダンさん。今の話は忘れないで下さいね??」
「え、えぇ。キチンと胸の内に秘めておきます」
「それでは引き続き素晴らしい晩餐会をお楽しみ下さい……」
三名の大蜥蜴達がゼェイラさんに厳しい視線を送ると訓練場の端の方へ向かって静かに歩いて行った。
「は、はぁぁぁぁ――……。助かりましたよ……」
強張っていた肩の力をガックリと抜くと素直な感想を述べる。
助かったぜぇ……。ゼェイラさんが登場しなければきっと今頃あの三人に拉致されて有無を言わさず配置変換の契約書に署名させられていた所だったな。
「ふんっ、情けない奴だな」
「いやいや。相手は行政側の人間ですし、俺みたいな一庶民が噛みついてはいけない人でしょうに」
普段通りのちゅめたい表情に戻ったゼェイラさんが俺を一つ睨む。
「例えそれでも男なら頑とした態度で断るべきだぞ。男が勘違いしてしまう隙のありそうな女の態度を浮かべおって」
こういう時に男云々の話を出すのは卑怯だと思います。と、言いますか俺って隙がある様に見えるのかしらね。
「以後気を付けます。所でゼェイラさんは普段通りの制服なのですね」
机の上に並べられている揚げ団子をひょいと口に運びつつ話す。
「あぁした服装は好まん。それと何より動き慣れた服装の方が私は好ましいからな」
「ふぉん……。露出度の高い服装を是非とも拝見したかったのですけどねぇ。うん!! 美味しい!!」
この揚げ団子うっまぁ!!
カラっと揚がった表面は歯が喜ぶ硬さのカリカリ具合であり、それを前歯で裁断すると中からほんのりとあまぁい小豆の香りが漂って来る。
外側の硬さとは打って変わって中身は柔らかく、硬さと柔らかさの絶妙の配分が舌を唸らせてしまった。
「全く、こういう場でも貴様のそういう態度は変わらんな」
「男が女にドレスを買い与えるのは脱がす為。そういう言葉もある位ですからね。昔から今の今まで男という生物は変わらないのです。なぁ、そうだろ?? グレイオス隊長」
王都守備隊の隊長及び副隊長が両手で盆を持って此方に向かって来る様を捉えるとそう尋ねた。
「うん?? 何の話だ」
彼が机の上に大きな盆を置きつつ問う。
彼が運んで来たのは巨人が食らうのかと思わず首を傾げてしまう量の野菜と肉の炒め物と、薄く切ったパンに沢山の具材を乗せて窯で焼いたパン料理。
そしてあれは恐らくトニア副隊長の勧めで乗せた果物だろう。
大きな御盆の端には女性一人分の季節の果物が、肩身が狭そうに乗せられていた。
腹に溜まる物ばかりだと舌が参ってしまうだろうからね。
「男性が女性にドレスを与えるのは脱がす為。そういう会話が出ていたのだ」
ゼェイラさんが揚げ団子を一つ摘まみ上げて小さな御口へと運ぶ。
その咀嚼を終えると団子の美味さによる効能によって微かに口角を上げた。
「どういう会話の流れでその話に行き着いたのか理解に及ばないが長官相手に交わす会話では無いぞ」
「別にいいじゃねぇか、こういう酒の席は無礼講なんだぞ。んで?? グレイオス隊長殿は副隊長のドレスを脱がせたいのですかぁ――??」
意味深な笑みを浮かべ豪快にパンを掴んだ彼の横顔に問う。
「べ、別に俺はトニア副隊長にドレスを買い与えた訳じゃないし……」
うっはっ、分かり易っ!!
「じゃあ買い与えたらぁ、ドレスを――、脱がしちゃうのぉ――??」
再び体全体を赤らめ羞恥に塗れている彼の脇腹辺りを人差し指で突いてやると。
「や、喧しい!! さっきからしつこいぞ!!!!」
思春期特有の男子が態度を取る彼からは想像も付かない激烈な拳が上空から飛来。
「ウグベッ!?」
攻撃の予想をしていなかった俺の顔は彼の攻撃を真面に食らってしまい両目からキラッキラのお星様が飛び出てしまった。
「何でいきなりぶん殴って来るんだよ!!」
捻じれた首を元の位置に戻し、痛む左頬を抑えつつ叫ぶ。
「き、貴様が下らない事を聞くからだ!!!!」
ちぃ……。この思春期蜥蜴めが。
隙あらばもっと恥ずかしい目に遭わせてやるから覚悟しておけよ……。
「隊長、会話の流れを聞いていたのですが。私のドレスを脱がしたいのですか??」
「へっ!?」
おぉ!! さっすが副隊長!! 丁度良い機会で攻撃の補助をしてくれますねっ。
「い、いや。それは流石に……」
「男らしく無い態度ですね。そういうのは嫌いです」
「そ――そ――。こういう時には多少強引な男がモテるんだぜ??」
「多少強引に、か……。まぁ俺も男の端くれだ。女性の体には興味がある」
グレイオス隊長が小恥ずかしそうに指で頬をポロポリと掻く。
「ふむ。つまり、隊長は私『以外』 の女性の体にも興味があると捉えても宜しいので??」
トニア副隊長が右手に持つ料理ナイフに力を籠めて握り締め、ちょいとおっかない目力で彼の横顔を直視した。
「あ、いや!! そういう訳じゃない!! 俺は副隊長の体だけ……。ッ!!」
彼の失言を捉えるとほぼ同時。
「へぇ――!! そうなんだぁ――!!」
「ほぅ、今の会話は確と記憶に刻んでおこう」
俺とゼェイラさんがここぞとばかりに彼の羞恥を刺激しようとして攻撃を開始。
「そう、なのですか。有難う御座います。興味を持って頂いて……」
トニア副隊長の赤らんだ顔が止めとして放たれてしまった。
「お、オホンッ!! さ、さぁ今日は祝いの席だ!! 沢山食べて明日からの訓練に備えるぞ――!!」
「そんな馬鹿みたいに口に突っ込むと咽ちまうぞ」
「常日頃から鍛えているから大丈夫だ!!」
左様で御座いますかっと。所でハンナの奴はまだなのかよ……。
早く肉を食べたいんだけど全然帰って来る気配が無いじゃないか。
「ふぅ――……。この酒は美味いな」
「この揚げた団子も美味いがこっちのパンも捨て難い!!!!」
「隊長、此方の油を使った炒め物も美味しいですよ??」
「どれ!! 頂こうか!!」
食事と酒が進み明るい会話が交わされる席から相棒を探していると……。
あぁ、居た居た。漸く肉を貰える番になったみたいだな。
「……ッ」
前に並んでいた大勢の大蜥蜴ちゃん達がはけ、渇望していた自分の順番が回って来ると彼はこれまで蓄積されてしまった空腹による鬱憤や憤怒。これから得るであろう良性な効用を想像した明るい感情等々。
大変複雑な感情が含まれた表情を浮かべて給仕役の彼に思いの丈を伝えていた。
ハンナの要望を受け賜った大蜥蜴ちゃんは一度、二度大きく目を見開いて今一度彼に尋ねるが……。
「っ!!」
『何度も尋ねるな!! それだけの量を食らうのだから!!』 と。
遠目でも彼が何を言っているのか数舜で看破出来てしまう表情を浮かべた。
あはは、お腹が空き過ぎてイライラする気持ちは分かるけどさ。お前さんが睨むと普通の人は委縮しちまうんだぞ??
お母さんはいつも言っていますよね?? 相手を怖がらせちゃ駄目って。
腕っぷしは他の追随を許さぬ彼だが他の方面はからっきしの白頭鷲ちゃんが思わず目を疑ってしまう量の肉を受け取ると俺の姿を探し求めて方々へ視線を送った。
「ハンナぁぁ――!! こっちだぞ――!!!!」
かなり距離が離れた位置に居る彼に向かってちょいと大袈裟に手を振ってやると相棒はいつもより三割増しの移動速度で此方へ向かい始めたのだが……。
「あ、あのぉ――。ハンナさんですよね?? 今お時間ありますかっ」
「初めましてハンナさん。お忙しい所申し訳ありませんが色々と質問させて頂けます??」
「沢山お肉を貰いましたね!! 実は私料理が得意でして……。宜しければ今度手作りの焼き菓子でもお持ちしましょうか??」
彼の隙を見逃すまいとして四方八方から肉食獣が襲い掛かり進行を阻止してしまった。
「い、今は時間が無いのだ。質問は後から答えるから先ずは通してくれ」
「時間が無い様には見えませんけど??」
「わっ、凄い……。噂通り鍛えているんですねっ」
「ふ、触れないでくれ!! 肉料理が落ちてしまう!!」
「あはっ!! 本当だぁ――。腕の筋肉とか凄いですもの」
「素晴らしい腹筋ですよねぇ……。どうしたら彫刻の様な鋼の筋力を付ける事が出来るのですかっ??」
「だ、だから触れないでくれと伝えているだろう!!!!」
あ――あ、モテる男は辛いねぇ……。
いつもなら此処で助け舟を出してやるのだが今日は助けん!!!!
精々女の柔肉に囲まれながら四苦八苦するが良いさ。
「ダン!! 気付いているのだろう!?」
「知らなぁ――い。美男子はぁ、女の子に囲まれながらキャッキャッウフフしていればいいんじゃないのぉ――」
知らぬ存ぜぬを通してグレイオス隊長達が運んで来た料理に手を伸ばす。
んふっ、この炒め物の味も素晴らしいですわっ!! お酒がより進む様に辛めに作ってあるのがまた堪らないぜ。
「貴様ぁ!! 後で……。ぬぉっ!? 誰だ!! 俺の臀部に触れたのは!?」
「「「知らないで――すっ」」」
「はぁ――……、仕方が無い。お偉いさん達の目もあるし私が救助に向かおう」
ゼェイラさんが手に持っているグラスを机の上に静かに置くと柔肉を持つ獣に襲われて目を白黒させている彼の下へ向かって行く。
「あはは、宜しくお願いしますね」
「貴様といい、ハンナといい……。どうしてこうも軟弱な態度ばかり浮かべるのだ」
「処世術って奴ですよ。俺達は角が立たない様に生活していますので」
「その処世術が余計な手間を掛けさせるのだ。あ、そうそう。この晩餐会が終わったら金貨を授与する。それを受け取ったら解散だ。褒賞授与式の場で頂いた貴様の休暇の件は明日以降に予定を纏めるぞ」
ゼェイラさんが鼻息を荒げたまま俺に向かって素早く右手を上げる。
「了解です――。俺の相棒が獣に食い尽くされてしまいますので早めに救助してやって下さいね――」
「ふんっ……」
さてと、相棒の救助はゼェイラさんに任せて俺は料理とお酒を堪能しましょうかね!!
これだけの料理だ。
この機を逃したら暫く出会えなくなってしまう恐れがありますので腹がはち切れるまで詰め込むぞ!!
「ファムッ!! ホォム!! ンググ……。んまぁぁい!!」
「もう少し所作に気を付けて召し上がりなさいよ」
「副隊長の言う通りだ。腹を空かせた犬でさえもお前よりかは綺麗に食べるぞ……」
王都守備隊の隊長並びに副隊長から辛辣な言葉を受け取るものの、俺の手は止まる事無く只管に料理を口へと運んで行く。
不思議な事に幾ら食べても腹は膨れる事無く、もっとそれを寄越せと叫び続けていた。
蓄積された疲労や先の戦闘で受けた傷を癒す為、俺が思っている以上にこの体は栄養を欲しているのかも知れない。
「ングング……。プッハ――!! お代わりぃ!! と言いたいけども。何か騒々しくないか??」
「おぉ……。何んとお美しい……」
「月下に舞い降りた女神とでも呼ぶべきか……」
琥珀色のお酒で口の中の料理を喉の奥へと流し込み一息を付いていると訓練場に続く坂道の方で何やら動きがあったのか、晩餐会の会場である訓練場に居る人々が騒がしい気配を流し始めた。
一体何があったんだろう?? まっ、俺には関係の無い事ですし??
このまま食を進めましょう!!
「いい加減離れてくれ!!」
「彼の言う通りだ。この場は私が収めて……」
「ゼェイラさんには関係の無い事ですよ――」
「そうそう、此処は所謂狩場って奴です。最初に獲物を見付けた狩人に獲物を得る権利が与えられるんですよ??」
「そう言って本当はハンナさんを手籠めにするつもりなのでは?? 権力を振り翳すのはちょっと汚いですよねぇ」
「き、き、貴様等!!!! 私が黙って聞いて居ればいけしゃあしゃあとぉ!!!!」
「「「キャァァアアアア――――ッ!?!?」」」
「ゼ、ゼェイラ殿!! 落ち着くのだ!! 暴力は良くないっ!!!!」
「まぁいつもは俺が苦労しているし、偶には相棒が苦労するのも仕方が無いよねっ……。んふっ、料理美味っ!!」
穏便に救助するつもりが結局は力技に頼った行動に至ってしまったゼェイラさんの激昂する顔と、顔を真っ青に染めて両者の間に入る相棒の辟易した面をおかずにしながら素晴らしい食を進め続けていたのだった。
お疲れ様でした。
晩餐会後は褒賞授与式の話で出た休暇の件が始まります。彼等には少し過酷な依頼を与えてしまったので偶にはアメを与えないといけないと考えまして……。
バカンスを終えた後に次の大陸へ渡りますのでもう少々彼等の日常にお付き合い下さいませ。
南の大陸の話が思いの外長引いてしまって申し訳ありません。
四つの大陸の話を書こうとして、南の大陸だけは超長編にしようと気合を入れて構想のプロットを執筆しておりました。
その中で没になったプロットが三つあります。
『幽霊が出るオアシスの調査』 『商人の護衛』 『反政府組織撲滅作戦』
構想のプロットではこれらを含めた話を書こうとしていたのですが……。流石にこれだけ詰め込むととんでもない量の文字数を書かなければいけないので削除させて頂きました。
第二部では現代編の主人公達がこの大陸に訪れますので上記のいずれかを書けたらいいなぁっと考えております。
ブックマークをして頂き有難う御座います!!
これからも皆様の期待に添えられる様、執筆活動に励みますね!!!!
それでは皆様、引き続き良い週末をお過ごし下さいませ。