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今日も今日とて、隣のコイツが腹を空かせて。皆を困らせています!!   作者: 土竜交趾
過去編 ~素敵な世界に一時の終止符を~
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第百五十五話 王宮からの便り その二

お疲れ様です。


後半部分の投稿になります。




「なぁ早くしてくれよ。こちとらずぅっと待っているんだぜ」


「お疲れ様です!! 今、報酬を用意していますので少々お待ち下さいねぇ――!!」


「依頼料は確認したけどさぁ。重労働の割には安過ぎないかい??」


「申し訳ありません。報酬の増額は認められていませんのでその申し出には応えられません」



 扉を開けるなり俺達を迎えてくれたのは熱気溢れる受付所前の空気と請負人達の覇気ある声だ。


 今日も元気に業務をこなす三名の受付嬢の前に列が形成されており報酬の受け取りを待つ大蜥蜴ちゃん達は疲れた顔を浮かべてその時を待ち続けていた。


 大勢の請負人達が受付所に溢れ返るのはそれだけ彼等の力が王都で必要とされている証拠であり、彼等と依頼人の架け橋となる受付嬢ちゃん達はお店の利潤を求めて本日も嬉しい汗を流す。


 依頼人は問題を解決出来、請負人は報酬を得られ、斡旋所は僅かな斡旋料を得る。


 一人一人が経済を回す役割を担っているのですが……。貴女はも――少しその役割を自負する必要がありますよ??



「おらぁ!! いつまでそこに突っ立っているの!! 後ろが馬鹿みたいにつかえているからさっさと退きなさいよね!!!!」


「えぇ!? 報酬はこれだけ!? 聞いていた額と違うんだけど!?」


「ちゃんと此処に書いてあるでしょ!! 報酬の一部は斡旋料として徴収するって!!」


「そ、そんなぁ……」



 報酬に渋る大蜥蜴に対して臆する事無く文句を放ち、それでも退こうとしないと地獄の業火で鍛えられた悪魔さえも慄く覇気を放つ。


 お前さんがそぉんな怖い顔を浮かべていたらいつか請負人達が居なくなっちまうぞ。



「俺様達は向こうで休んでいるからさっさと今日の依頼料を貰って来いよぉ――」


「ハンナ、行こうか」


「分かった。ダン、先に休んでいるぞ」



 人の姿に変わったフウタとシュレンが入り口から左手に見える机に向かってスタスタと進んで行き、我が相棒も俺に特に悪びれる様子も無く少々疲れた歩みで向かって行く。



「あ、おい!! 偶にはお前達も並べよ!!」


「今日の依頼である店の引っ越し作業で俺様達は疲れているからなぁ――。ってな訳で後は宜しくぅ――」



 俺だって運搬作業で疲れているってのに……。


 まぁでも横着で我儘な三人の男兄弟の面倒を見るのもお母さんの仕事の内よね。ここは我慢して後でこっぴどく叱ってやろう。


 家庭内の空気を乱す子達の躾も大変ですわっ!!



「へいへい。大人しく並んで来ますよ――っと」


 優しいお母さんの気持ちを一切汲み取ろうとしない三人兄弟を見送ると強面受付嬢さんの前に出来た列の最後方に並び始めた。



「はぁ――、早く帰って水浴びしたいぜ」


 広い部屋に押し込められた大蜥蜴達が放つ汗の饐えた匂い。


「なぁ頼むよ。こっちの家庭事情も少しは汲んでくれって」


 三人の受付嬢達と押し問答を繰り返す請負人。


「さてとっ、明日は何を請け負うかなぁ――」


 そして掲示板に張られた膨大な数の依頼。


 此処に初めて来た時はそのどれもが新鮮に映ったが今となっては慣れ親しみ生活の一部となっている光景だ。



「此処を発つとこのうるせぇ光景は暫くお預けになるんだよなぁ……」


「テメェ!! 俺が先に並んでいただろうが!!」


「ああんっ!? お前の目は何処に付いているんだよ!! 俺の方が先だっただろ!!」


 鼓膜の奥から頭の奥まで響く大蜥蜴ちゃんの怒号と。


「うるさぁぁああ――いっ!! そこの蜥蜴二匹!! 他の人達の迷惑になるから喧嘩は外でヤレ!!!!」


 強面受付嬢ちゃんから解き放たれた大地を轟かす神の一撃を眺めて居ると心にふと寂しい風が吹いて行った。



 ドナ達や王都守備隊の連中、そして聖樹ルクトにも旅立ちを伝えなきゃいけないよなぁ……。


 全員に対して一気に伝えるのは困難だし、機会を見計らって伝えるとしますか。


 その際には拘束されない様に気を付けましょう。彼等、彼女達は俺の力なんて到底叶わない程の力を備えているのだから。



「おう!! そこの野郎!! ぼぅっと突っ立っていないで早く来い!!」


「へ、へい!! 只今!!」


 ドナお嬢様からの号令を受け取り速足で前方に躍り出ると懐から一枚の紙を取り出して受付台の上に素早く置いた。


「本日の依頼を滞りなく遂行して参りました!!」


「うむ、御苦労。確認するから待ってて」


「了解であります!!」


「ふふ、何よそれ。そこまで畏まらなくてもいいって」


 ドナの柔らかい笑みを受け取ると気を付けの姿勢を解除。


「長い事王都守備隊の連中と過ごしていた所為かその癖が染み付いちまったと言えばいいのかな??」


 背の高い受付台の上にもたれかけ彼女の手元に沢山積まれた書類の山を見下ろす。


 うへぇ、俺もまぁまぁ忙しいけどドナ達もかなり忙しそうだな……。


「あんたは格式高い連中に囲まれているよりも粗忽な連中と絡んでいる方が似合っているわよ」


「まぁ俺もそう思っているさ。でも、仕事上致し方無いと言うか無理矢理押し付けられてしまったと言うべきか……」



 書類の整理を続けているドナからハンナ達の方へと視線を移す。



「ふぁぁああ……。はぁ、ねみぃなぁ。明日は朝一から歓楽街に出掛けなきゃいけないし。今日は早めに寝るか」


「下らない事に体力を割くな。某達の目的を忘れたのか」


「任務任務ばかり優先しているとクソつまらねぇ人間になっちまうぞ。何事も息抜きが大事なんだよ。ハンナもそう思うだろ??」


「思わん」


「ひっでぇな!! ここでダンなら俺の意見に肯定してくれるってのに!!」



 はは、相棒。そんな顰め面を浮かべていると普段の顔までも怖くなっちまうぞ??


 その面をクルリちゃんに見られたらきっとドン引きされちまうから今の内に直しておけよ。



「何でもかんでも馬鹿正直に請け負っているといつか酷い目に遭うからね?? 気を付けておきなさいよ」


「その言葉、確と心に刻んでおきます」


「分かれば宜しい。あ、そうそう。忘れる所だった。格式高いという言葉で思い出したんだけどさ……」


 彼女が手元の机の引き出しから一枚の便を取り出して受付台の上に置く。


「これ、この前来た筋骨隆々の大蜥蜴達がダンに渡す様にって持って来たのよ」


「王都守備隊の連中が??」


「そうそう。あ、これは今日の報酬ね」



 彼女から本日の報酬と一通の便を受け取り、差出人を確認するとそこには丁寧な執筆でゼェイラさんの名が記してあった。



「ゼェイラさんから?? 何だろう??」


 多分、先日話していた褒賞授与の関連の話だと思うけどなぁ。


「後ろがつかえているからそこじゃなくて口喧しい仲間達の所へ行きなさいよ」


 大変手触りの良い高級感溢れる便箋の感触を楽しんでいると真正面から大変苦い言葉が送られてしまった。


「はいは――い。了解しました――」


「ったく、もう少しシャキっとしなさいよね。よし!! 次ぃ!!!!」


「は、はい!!」



 足元にしつこく絡みつく犬を払う手の動きを見せた彼女の指示に従い、相棒達が休んでいる机の前へと移動を果たした。



「お疲れさ――ん」


 フウタが俺の姿を捉えると間延びした声で迎えてくれる。


「ん――」


 その声と同調する様に此方も気の抜けた声を返し、相棒の隣の席に腰掛けた。


「相棒、ゼェイラさんから便りが届いているぜ」


 大変手触りの良い便箋をヒラヒラと動かして見せてやる。


「内容は」


「今から確認する所さ」



 特に興味を示さなかった彼のちゅめたい声を合図として捉え、蝋で封をしてある便箋を慎重な手付きで開封した。


 え――っと何々??



『 三日後、午後六時から王の間にて褒賞授与式を執り行う。其方に迎えの者を寄越すのでダン、ハンナ両名は正礼装にて参加されたし。


 王都守備隊長官 ゼェイラ=オクストップ 』



 大変礼儀正しい筆跡でゼェイラさんの名と三日後に行われる褒賞授与式の知らせが書いてあった。



「――――。だとさ。褒賞式に参加するのはまぁ当然かも知れないけどよ、この正礼装ってのが問題だよなぁ」


 俺達の普段着は社会に溶け込む一般人御用達の服装だし。それ相応の身分の者達が出席する場に相応しい服装は持っていないのだから。


「南大通り沿いの服屋を探せばいいじゃねぇかよ」


 全く、これだから家庭の家計簿を鑑みない次男坊は困るのですよっと。


「フウタちゃん?? よぉく聞きなさい。お偉いさん達が出席する場に相応しい正礼装ってのはそれなりの値段がするの。それに大通り沿いのお店は利潤追求の為に物価が高く設定されている。この二つが噛み合ってしまうと、しがない請負人達はその値段に目ん玉をひん剥く事になるだろうさ」



 生活して行く蓄えは一応備えてあるけど……。それに手を付けたら恐らくこの王都で生きて行けなくなってしまうでしょうねぇ。



「裏通りの店を探すか??」


 ハンナが手紙を手に取り、彼女の綺麗な筆跡に視線を落としつつ問う。


「それが妥当な線だろうなぁ。庶民の財布に優しく尚且つ正式な場でも浮かない正礼装を提供してくれるお店の捜索か。ったく、もう少し楽な場を提供して欲しかったのが本音だぜ」


「ダン、お疲れさ――ん」


「う――い。気を付けて帰れよ――」



 シンフォニアから続々と退出して行く大蜥蜴ちゃん達の中から顔見知りの奴が軽やかに手を上げて出て行くのでそれに応える為に右手を上げてやる。


 明日の朝一番から行動を開始して南大通り沿いの服屋に足を運んで相場を確認。


 それから南東地区と南西地区の裏通りの服屋を探索して目的の品を探し回る。


 簡単そうで意外と骨が折れそうな一日になりそうだ……。



「はぁ――……。王宮内の兵舎でパパっと渡してくれれば苦労する事も無いのにな」


「木造二階建ての建物内では示しがつかぬと判断したのだろう。それに一国の王が身分無き者に直接褒賞を授与するのだ。これは誉だぞ」


 ハンナが俺に手紙を返すと少しだけ高揚した鼻息を漏らす。


「誉だか何だか知らねぇけど少しはこっちの懐事情を考えて欲しいって事さ」


「お疲れ!! 三日間の便秘に悩んでいる乙女みたいな顔を浮かべてどうしたのよ」



 苦い顔を浮かべて宙を仰いでいるとドナが軽やかな歩調で此方に向かって来る。


 あれま、気が付けばあれだけ居た大蜥蜴ちゃん達が消えているではありませんか。


 高濃度の人口密度はいつの間にか解消。



「裏通りの掃除ねぇ……」


「隣街までの護衛の依頼はどうだ??」


「悪くは無いけど報酬が安くねぇか?? 野盗が大挙を成して襲い掛かって来たら割に合わねぇだろ」



 広い受付所には指で数えられるだけの請負人達しか確認出来ず、彼等は掲示板の前に集まり翌日の依頼を吟味していた。



「これまで承って来た依頼の報酬を漸く渡してくれるって知らせなんだけどさぁ。その場に出席する為には正礼装が必要なんだとよ」


 俺の隣の席に腰掛けた彼女に手紙を渡してやる。


「あぁ――、そういう事。あんた達が身に着けている服装は庶民丸出しって感じだもんねぇ」


 ドナが俺から受け取った手紙に視線を落としつつ軽く揶揄って来る。


「庶民丸出しじゃなくて上手く社会に溶け込んでいると言ってくれ」


「どっちも同じ意味じゃない。それで?? 高価な服を購入するお店の目処は付いているの??」


「全く付いていません!!!!」


 彼女から手紙を受け取り懐に仕舞うと心に浮かんだそのままの言葉を宙に放ってやった。


 目処が立っているのならこんなに悩む訳無いだろうがよ。


「あっそ。それじゃあ……、心優しく聡明で可憐なドナ様が下賤な庶民に叡智を授けてやろう!!」



 ドナがえっへんと胸を張り得意気に高揚した息を漏らすとちょいと鼻に付く台詞を吐く。


 いつもならこの台詞を揶揄ってやるのだが。それをすると貴重な情報が霧散してしまう恐れがあるのでここは我慢の一択……。



「狂暴で、武骨で、醜悪の間違いじゃねぇの……。ムグゥッ!?」


「わ、わぁ!! すいませんでしたドナ様!! つ、続きの台詞をどうぞ!!」


 余計な言葉を発しようとしたフウタの口を慌てて塞ぎ、大変遜った所作で彼女に対して頭を垂れた。



「そこの変態鼠。後で覚えておきさないよ?? ダンとハンナさんは王宮内で褒賞を受け取る正式な場に出席する予定で。それ相応の服装モノを用意するとなると財政が破綻してしまうのですがぁ……。んふふぅ。南東区画の一画にあるヴェスティって店に足を運んでみなさい。礼装から赤ちゃんの服までなぁんでも取り揃えているし、しかも安い!!!! 知る人ぞ知る名店なのだよ!!」



 ほう!! それは良い情報ですな!!



「その店の詳しい住所を教えて下さいまし!!」


「ふふん、別に構わないけどぉ……」


 あぁ、はいはい。少しばかりの報酬を寄越せって事ね。


「勿論報酬は支払いますぜ。そうだな……。褒賞授与式が終わって数日後に皆で飯を食いに行くってのは?? 支払いは俺と相棒が持つよ」


「それで結構!! ねぇ!! レストミミュン!! ダン達が御馳走を奢ってくれるってさ――!!」


 あ、いや。御馳走とまでは言っていませんよ??


 庶民の舌に馴染んだ料理店を選ぶ予定なのですけども……。


「本当!? あはは!! やった――!!」


「それは嬉しいんだけど、貴女はいつになったら片付けの作業に取り掛かるの?? 私達二人だと中々終わらないから早く始めなさいよ」


「へ――い。うっし!! それじゃパパっと片付けて来るわね!!」


「本日の業務も後少し、頑張って来いよ」


「うんっ!!」



 軽快な笑みを残して軽やかに去っていく彼女の背を見つめていると自然と笑みが零れてしまう。


 本当に元気の塊みたいな奴だよなぁ……。まぁそこが気に入っている所なんですけども。


 さて、目的の物を提供してくれるお店を確保した訳だし。後はそのお店で吟味するだけだな。


 一応の予定を頭の中で纏め終えると椅子に背を預けて清掃作業に汗を流す彼女達の姿を見つめる。



「ミミュン!! ちゃんと腰を入れて拭かないと床に染み付いた大蜥蜴の匂いが取れないでしょう!?」


「ちゃんとやってるもん!! ドナこそ適用に掃いているだけじゃん」


「はぁ!? これが適当に見えるっての!?」


「貴女達……。ハンナさん達が居るんだからもう少し弁えなさいよね……」


 二人の言い合いが清掃作業を滞らせそれを一人の女性が咎める。


「私は悪くない!! ミミュンが悪いの!!」


「それは横柄って言うんだよ!?」



「はぁ――、ったく。もう少し静かに清掃作業をしなさいよ。疲れた体に響くじゃないか……」


 何だか妙に既視感溢れる光景を眺めつつ今日もこの社会は本当に平和であると確信すると、ちょいと染みが目立つ天井に向かって今日一日分の疲労が蓄積された大変重たい溜息を吐いてやったのだった。




お疲れ様でした。


連休が終わり忙しい平日が帰って来た御蔭で体調が余り宜しくありませんね。


早くこの日常に慣れないと更なる体調の悪化を懸念せざるを得ない状況に追い込まれてしまいますよ……。


今度の週末はゆっくり過ごして体を休めるべきなのでチキンカツカレーを食べようかなぁっと考えています!!


何でカレー何だよと読者様達はお思いでしょうが、不思議な事にカレーを食べると何故か体が元気になるのです。



そしてブックマークをして頂き有難う御座いました!!


これからも読者様の期待に応えられる様に誠心誠意連載に励みたいと思います!!



それでは皆様、お休みなさいませ。

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