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今日も今日とて、隣のコイツが腹を空かせて。皆を困らせています!!   作者: 土竜交趾
過去編 ~素敵な世界に一時の終止符を~
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第百五十話 静かなる夜

お疲れ様です。


本日の投稿になります。




 昼の明るさが徐々に鳴りを潜め夜の闇が世界を覆い尽くそうとする夕暮れ時には己自身に起きた一日の出来事を振り返ろうとする者。明日以降の予定を頭の中で纏める者や、一日に訪れた幸不幸を天秤に掛ける者等々。


 大勢の人々の多種多様な様相が街に溢れる事となる。


 顰め面で街を歩いている者を見かければあの人は今日一日きっと良くない事が起こったのだろうと考え、浮かれ調子で軽く弾みながら進んでいる者を見付ければあの人はきっと幸運に恵まれたのだろうと判断する。


 かく言う俺も例に漏れずこれから確実に起こるであろう様々な出来事を考えて目的地に向かって歩いているのだが、果たして街の人々は俺の表情を捉えるとどの様な考えに至るのだろうか??


 それは想像するに容易い。



「はぁぁ……。気が重めぇよなぁ……」



 大樽の上に乗せる漬物石よりも更に巨大な重圧が双肩に圧し掛かると自然と歩みを遅らせ、間も無く己の人生が終焉を迎えるかも知れないという耐え難い絶望感が体の危機管理能力を発現させて危険地帯から一刻も離れる様にと警告を促し続けている。


 巨大な溜息を何度も無意味に吐き出し、奴隷も憐みの視線を送ってくれる程の重い足取りで進み、背中から滲み出る哀愁感が不幸感をより際立たせる。


 きっと街の人々は俺の姿を捉えれば皆同じ考えに至る筈さ。



『あの人は今日一日本当にツイていなかったのだろう』 と。



 残念ながらそれは不正解であります。


 正確に言えばこれから俺達は君達の想像の及ばない超危険で超絶不幸な出来事とご対面するのですよ……。


 もう二度とこの街の土を踏む事は出来ないかも知れないし、世界中に散らばる美女達の微笑みを受け取る事は叶わないかも知れない。


 そう考えるとぉ。



「俺は何て不幸なんだっ!!」


 毒を吐かずには居られないって!!!!


「黙って歩け、馬鹿者」


 俺の遅い歩みに合わせて歩いていた相棒が大変ちゅめたい視線で此方を睨む。


「重罪を犯した死刑囚を断頭台に送り込む執行官みたいな冷たい声を出すなって。ここは相棒の不幸を労って優しい声を掛ける場面だぞ」


「俺も貴様と同じ危険な道を歩む事となるのだ。何故そんな下らない事をせねばならんのだ」



 うっわ、コイツの体の中には温かな血は流れていないのかしらね。


 俺がこれだけ言っても真心を込めた言葉は返ってこないもの。



「お前さんはそういう所を直すべきだって。里に帰ってそぉんな怖い口調で話していたらクルリちゃんにも愛想を尽かれてしまうぞぉ」



 医者に行きたがらない子供の様に道端にしゃがみ込もうとするが、どうやら俺の保護者は一切合切の甘えを許さぬ構えだ。



「貴様に家庭の問題を言われる筋合いは無い!!」


「イヤァァアアアア!! 誰か助けてぇ!! ここに恐ろしい人攫いがいますぅ!!」


 俺の首根っこを掴むと有無を言わさず王宮の方へ向かって大変力強い歩みで進み始めてしまった。


「ヤダヤダァ!! 世界中の美女が俺との出会いを待ち望んでいるってのにぃ!!」


「それ以上無意味に叫ぶと口を叩き切って喋れなくするぞ……」



 相棒が今まで以上に恐ろしい口調で俺の我儘を咎めたのでさり気なく後方を見上げると、そこにはチンピラ程度なら一睨みで失神させる事を可能とした鬼神が存在していた。


 青き瞳はこれでもかと尖り、双肩からは素人目でも容易に確知出来てしまう恐ろしいまでの殺気が零れている。


 お、おぉう……。とんでもねぇ気迫と怒気だな。



「街中でそんな顔を浮かべていると通報されちゃうゾ」


 現に。


「「……っ」」


 彼の恐ろしい顔を捉えた者達は物言わずとも彼にそそくさと道を譲っているし。


 そりゃあ誰だってあんな怖い顔を捉えたら慄く……。



「はぁっ……。凄くイイ男ねぇ……」


 訂正しよう。


 もの好きな女性の一部を除き恐れ慄いちまうって。


「相棒は怖くないのかよ」


 これ以上引きずられていたら本当に街の方々が執行部に通報してしまうのでお尻ちゃんにしがみ付いた砂と土をパパっと払って立ち上がる。


「怖くは無いと言えば嘘になる」


「はは、どうしたよ。今日はいつにも増して正直じゃねぇか」


 いつもなら恐怖等微塵も感じぬとか言って眉を尖らせるってのに。


「人は誰しもが感情を持つ。その一つである恐怖を感じるのは悪くない。寧ろ自然な事なのだが最も厄介なのはその恐怖に飲み込まれて動けなくなってしまう事だ」



 だろうなぁ。


 恐怖に飲み込まれて足が竦み、頭の中が真っ白になっちまったら何も出来ずに御先祖様達が待つ世界に旅立っちまうし。



「その考えには同意するけどよぉ。自分の人生が残り……、約十三時間だと知ったら誰だって思い残す事が無いような行動に移ろうとするだろ??」



 腹がはち切れるまで大好物を体に収める、仲の良い友人及び家族と過ごす、そして最愛の人との共同作業によって次の世代へ命を残す。


 この世に己が存在した証を残そうとするのが人間の自然な行動なのさっ。



「ってな訳で!! 俺は残り数十分の間に世継ぎを残して来ますのであしからず!! そこのお姉さん!!!! 今から俺と楽しい事をしませ……」


「却下だ」


「ぐぇっ!?!?」



 男の性欲を誘う丸みを帯びたお尻に向かって進もうとすると相棒が俺の襟を掴みそのまま王宮へ強制連行してしまう。



「は、放せぇ!! あの可愛いお尻ちゃんと俺は過ごさなきゃならないんだよ!!」


「そんな下らん時間を過ごしている暇は無い。第一、昨日の内に済ませておけば良かったではないか」


「あ。あぁ。そうだったな……」



 昨晩の内、ね。


 相棒に無理矢理引きずられながら昨日の素晴らしい食事会の様子を思い出して行く。


 舌と体が喜びの声を上げる真心が籠った手料理、気分を高揚させてくれる酒と友人達との会話の数々。


 親しい友人達と過ごす時間は労働の時間とは違ってとても早く過ぎてしまうと感じてしまった。


 気が付けば月が欠伸を放ち床の間へと向かう刻になっており、俺達は明日の事も考えてそろそろお暇させて頂こうとして重い腰を上げた。



『じゃ、俺達はそろそろ帰るわ』


『ん――。帰り道は暗いから気を付けてね』


『おう、それじゃあ数日後にまたお店にお邪魔させて頂きます。フウタ、いい加減起きろ。帰るぞ』


『も、もう飲めねぇよぉ……』



 活発受付嬢さんの明るい笑みを受けて扉を開き、満点の星空の下に出て横着者を支えて軽い別れの挨拶を済ませた刹那。



『ねぇ……。私に何か隠し事していない??』



 ドナが友の身を真に労わる瞳を浮かべて俺の目の奥を直視して来た。


 彼女の瞳は優しい雰囲気を醸し出していたのだが、これから訪れるであろう嵐を無意識の内に予感したのか。体全体から染み出る色は不安に染まっていた。



『隠し事?? ん――……。可愛い子のお尻を追いかけていた。それ位しか思いつかねぇよ』


 俺の心を見透かされない様、咄嗟に嘘を付いたが誤魔化せたかどうか自信は無い。


『はぁ……、相変わらず馬鹿ばかりしているのね。何て言えばいいのかな……。言葉で上手く言い表せないけどさ、ダンが何処か遠くに行っちゃうかも知れないって感じていたのよ』


 ドナが俺から視線を外し、右足の爪先で無意味に地面の土を弄りながら話す。


『あのねぇ。まだまだやるべき事が山積されているってのに他所へ行く訳ねぇだろう』


『そっか、それもそうだよね。じゃあ……、私。ちゃんと待っているから』


 ドナが此方に向かって右手をスっと差し出したので。


『今度の依頼は出来るだけ真面な奴でお願いします』


 彼女の手を本当に優しく包み込む様に握ってあげた。


『ふふっ、考えておくわ』


『考えておくじゃなくて確実にそうしなさい。それじゃ!!』



『うんっ。行ってらっしゃい』



 彼女と別れた後は千鳥足のフウタの体を支えつつ大変暗い道を進んで行き、宿に到着するとほぼ同時に眠ったのだ。


 あの時、ドナを誘えば俺と親密な時間を過ごしてくれたのだろうか??


 いや、それ以前に別れ際の挨拶の言葉が今も気になっている。



『いってらっしゃい』



 普通、これから眠る者に対してこの言葉を使用するか?? あの場に相応しい言葉は……。


 おやすみ、か。


 多分、というか確実に彼女は俺達が何かしようとしている事に気付いていた筈。


 深く踏み込まなかったのは俺達を信用しているから。そう考えると辻褄が合うよね??



「例えドナを誘ったとしても右手に憤怒を籠めた拳で容易く誘いの手を打ち砕いてしまうだろうさ」


「ふん、貴様達を見ている限りそんな風になるとは思えんぞ」


「んぉ!? 何々!? お前さんも漸く男女のイロハを覚えたのかい!?」


 ほぼ童貞の彼が男女間の目に見えぬ関係性の糸に気付く様になったとはね……。お母さんは嬉しい限りですよっと。


「そんな下らん物を覚える必要は無い。それよりも此処からは己の足で上がって行け」


「いてっ。ったく……、辛辣な事で」



 彼が俺の襟から手を離すとその勢いで尻餅を着き、ヤレヤレといった感じで溜息を吐くと見慣れて通い慣れた王宮へと続く長い階段を見上げた。



「よう!! ダン!! 今日は絶好の天候だぞ!!」


「あのね。警備の任務に就いている時は喋っちゃいけないんじゃなかったっけ??」


 階段の麓で分厚い鎧に身を包んでいる王都守備隊の隊員に向かってそう言ってやる。


「誰も見てねぇし、それより……。お前さん達と会話をしたかったんだよ」


「これが最後になるかも知れないってか?? この馬鹿野郎がっ!! 俺と相棒は死神さんも手を焼く程に頑丈なんだよ!!」



 しんみりとした口調の隊員の背から襲い掛かり、鎧の合間に手を侵入させて爬虫類特有の鱗を親切丁寧に擽ってやった。



「ギャハハ!! テメェ!! 何すんだよ!!」


「そうそう、俺達に似合うのはこういう雰囲気さ。しみったれた空気のまま出発したら上手く行くのも上手くいかないって」


「ったく……。相変わらずな奴め」


「うるせっ。相棒、行こうか!!!!」


「ふっ、漸く覚悟を決めたか」



 俺は死と隣り合わせの地で育ったお前さんと違って平和で安全な場所で育った一般人なのよ??


 そこを汲まないのは君の悪い所だと思います……。


 一段また一段と階段を上って行くと要所要所で警備の任に就いて居る者達から激励の声を受ける。



「ダン!! ハンナ!! お前達の力が頼りだぞ!!」


「その通りだ!! 二人が力を合わせれば全て上手く行く!!!!」


「必ず生きて帰って来い!!」


「俺達はお前達の帰りをずっと待っているからな!!!!」



 はいはい、分かっていますからそう声を荒げないの。


 でも……。何だろう、滅茶苦茶嬉しいや。


 これからとんでもねぇ危険と対面するってのに勇気がジャブジャブと湧いて来やがるぜ。



「頼もしい言葉だ」


「あぁ、間違いないぜ」


「覇気ある言葉を受けると……。俺の翼も逸ってしまいそうだぞ」


「いやいや!! 作戦実行は超深夜だからね!? 今から元気一杯でも困るから!!」


 拳を握ったり閉じたりしている相棒に一応の釘を差してやる。


「ふん、そんな事は分かっている」


 どうだか……。勢い余って王都周辺を飛び回らなきゃいいけど……。



 通い慣れた階段を上り終え、これまた潜り慣れた王門の脇の扉を開いて王宮内にお邪魔させて頂くと訓練場へ続くなだらかな坂を下って行く。


 ほんのりと上昇した体温を冷ましてくれる夜風がさぁっと吹くと、庭園に咲いていた花の香りを捉える事が出来た。



 美しく咲く花達も俺達の事を応援してくれているのかしらね??


 むさ苦しい男達に囲まれ、饐えた汗の匂いよりも力になる花の香に元気を分けて貰いながら訓練場に到達するとそこには俺が想像していたよりも騒々しい光景が待ち構えていた。



「「「「ダンッ!! ハンナッ!!!!」」」」



 うはぁ……。何だよ、あの集まりは……。


 広い訓練場の上には所狭しと大蜥蜴ちゃん達が集まり、俺達の姿を捉えると一斉に大声を上げる。



「……」


 訓練場の中央にはティスロが心静かに座しており、その前にはあの魔道水晶が鎮座されている。


 月明りの下に浮かぶ見慣れた王都守備隊の連中は直ぐに看破出来たがそれ以外の者達はほぼ初見って感じかしらね。


 それもその筈、黒を基調とした清楚な制服に身を包む者達と俺達はほぼ関わり合いが無いのだから。



「「「……っ」」」


 威勢の良い声を出した王都守備隊の面々とは違い、制服組は厳かな雰囲気で俺達を迎えてくれた。



「良く来てくれたな」


 今日は珍しく大蜥蜴の姿のゼェイラさんが訓練場に降り立った俺達の下に歩み寄り声を掛けてくれる。


「そりゃ今日が作戦実行日ですからね。と、言いますか……。この人口密度は一体全体どういう事なので??」



 訓練場の上に点在する沢山の大蜥蜴ちゃん達をざっと見渡す。


 皆の瞳の色はこれから始まる一大事を想像しているのか、一様に緊張の色に染まっていた。



「認識阻害の解除を確かめるべく手の空いている者が一堂に会した、とでも言えばいいのか……」


「それは建前で本音は??」


「ふっ、相変わらず勘が良い男だ。本音は……、あそこ。ティスロが再び狼藉を働かないかの監視だな」


「それにしても大袈裟過ぎるんじゃないんですか??」



 訓練場に居る大蜥蜴ちゃんは少なく見積もっても百名を優に超えているし。それとなによりあの四名の存在が気掛かりだ。



「「「「……ッ」」」」



 ティスロの脇に立つ白銀の鎧を身に纏った大蜥蜴四名は殺傷能力の高そうな長剣を装備し、何か不穏な動きを見せれば即刻彼女の首を刎ねそうな物々しい雰囲気を醸し出している。



「これはティスロ本人が願い出た警備体制だ。もしも気に食わない動きを見せれば直ぐに私の首を刎ねて欲しいと」


「一度失った信頼はそう容易く回復しない、ね。まだ時間はありそうですし、彼女に一声掛けても構いませんか??」


「あぁ、構わんぞ」


「有難う御座います。相棒、行こうぜ」


「了承した」



 厳かな雰囲気を崩さぬ様、普段よりも慎重な足取りで訓練場の中央へと向かいそして静かに座しているティスロの前に到着すると静かに口を開いた。



「よっ、元気そうでなにより」


「ダンさん。あっ、ハンナさんも……」



 彼女が静かに目を開き、俺達の姿を捉えると微かに口角を上げてくれる。


 彼女の顔には疲労の色が微かに滲み、口角を上げているのも精一杯の強がりとも捉えられるな。


 だが瞳の色は微かな緊張感が漂うものの確固たる強き意志が瞳の奥に確認出来た。



 うん、程良い緊張感が良い方向に向いている様で何よりだ。



「気負ってはいなさそうだな。良い集中力だ」


 ハンナが俺とほぼ同じ考えに至ったのか。


 友の身を労わる優しい口調で話す。


「作戦開始まで未だ時間はありますからね。それより……、私なんかよりも大変なのはハンナさん達の方です。私達は貴方達の帰還を信じて此処で待っています。ですから……」


「あぁ、俺達は必ず帰って来る。だから今は自身に課せられた任に集中するが良い」


 相棒が心優しき瞳で彼女の瞳を見つめると。


「えぇ、分かりました」


 ティスロはほんのりと頬を朱に染めて彼の温かな気持ちを受け取った。



 ちぃっ……。なぁんかイイ雰囲気になっているじゃねぇかよ。


 微妙に納得がいかないので此処は一つ、揶揄ってやるとしますか。



「なぁにぃ?? 二人共ぉ。良い雰囲気を醸し出しちゃってぇ」


「ち、違いますよ!! わ、私は只御二人の身を案じただけで……」


「ティスロ殿の言う通りだ。貴様は少々口が過ぎるぞ」


「だってぇ二人共見つめ合っていたしぃ?? そりゃあ勘繰るのも致し方ないとは思わないかい??」


「ハ、ハンナさんとはそういう関係ではありませんので……」



 ふむ、そういう関係では無いという事はだよ?? いつか機会があればそういう関係性を構築しても構わないという意味にも捉える事は出来ないかい??


 次なる揶揄いの言葉を頭の中で纏めて飛ばそうとしたのですが。



「おい、貴様。彼女の集中力をこれ以上乱すな」


 ティスロの脇に立つ大蜥蜴ちゃんからお叱りの声を受けてしまったのでそれは叶わなかった。


「へいへい。御言葉に従って俺達は後方待機していますよ――っと。相棒、行こうぜ」


 相棒の肩を優しくポンっと叩いて見慣れた王都守備隊の隊員達が待機している方へ向かって歩み出す。


「分かった。俺達は直ぐ側に居る。安心して集中していろ」


「は、はいっ」



 あ――あ、また一人の女性が彼の虜になってしまいましたか……。


 お前さんは下心無くそういった行為に及んでいるけども、それを受け取った女性は大いなる期待を持ってしまうのですよ。


 いつか時間が出来たのなら相棒に口を酸っぱくして言ってやろう。


 勘違いさせる言動は慎め、と。


 さてさて……。後は月下の涙に月光を浴びせて力を蓄え、そして王女様の到着を待つのみっと。



「ん?? ダン、どうした」


「これから数時間以上の空き時間があるからね。俺はちょいと横になっているわ」



 訓練場のまぁまぁ硬い土の上にコロンっと仰向けの姿勢で横になり、大変美しい夜空を見上げてやる。


 漆黒の闇の中に浮かぶ一月に一度の満月は己自身の美しさを強調する様に怪しく光り、周囲に点在する星達の光は彼女が放つ光によって霞んでしまう。


 世界中の男共を魅了する絶世の美女が放つ煌めきにも勝るとも劣らない満月を見上げているとざわついていた心が鎮まって行く感覚を捉えた。


 これが見納めかも知れないってのにどうしてこうも落ち着いているんだろうなぁ……。それはきっと彼の力を誰よりも信じているからだろう。



「……」



 王都守備隊の者達に囲まれて口を閉ざし、只静かにティスロの後ろ姿を見つめているハンナの横顔を捉える。


 その表情は何処か不安気でもあり何処か寂しそうにも見える。きっとあの表情の意味はティスロの身を案じた結果であろうさ。


 出会った頃は他人を拒絶しがちであった彼は自分よりも相手を労わる気持ちを抱く様になってくれた。


 言葉を交わさぬとも相棒の成長した姿を捉えると一人静かに瞳を閉じて心臓の音に耳を傾けた。


 ドクン、ドクンっと……。一定の感覚を保って鳴る拍動の音が俺の心理状態を大変分かり易く示してくれる。


 この落ち着いた状態を保ったまま作戦行動に入りましょうかね。


 しかし、俺の予定はどうやらここではすんなりと通らない様である。



『よぉ、ダン。ラゴスが頼んでいた例のアレ。手に入ったか??』



 一人の王都守備隊隊員が蚊の羽音に劣る声で問うて来た。


 集中したいって時に限ってどうしてこうも横槍が入るのでしょうかねぇ。永遠の謎ですよっと。



『今は誠心誠意精査中だよ。安心しろって、お前さん達が必ず満足するであろう至極の逸品を提供する予定だからさ』


『そうかっ!! それは良かった!!』


 分かってくれたのならも――少し静かにしなさい。俺達の極秘交渉がバレてしまったら御咎め処か罰せられる可能性があるのだから。


 ちょいと浮足立った彼の馬鹿げた姿を捉えるとこれから休日に備えた安眠に就くかの様に再び瞳を閉じ、精神を落ち着かせる為に長々とした呼吸を繰り返し続けていたのだった。





お疲れ様でした。


体力と背中の調子が良ければもう少し書けたのですが、本日はここまでとなります。大変申し訳ありませんでいた。


本日から始まる連休。


人それぞれがそれぞれの過ごし方をすると思われますが何処も混雑しているので少々出無精になってしまいますよね。


私の場合は空いている時間を狙って愛車に跨り移動しようかと考えています。


渋滞中は本当にやる事が無くて暇ですからね……。


それでは皆様、よい週末をお過ごし下さいませ。

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