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今日も今日とて、隣のコイツが腹を空かせて。皆を困らせています!!   作者: 土竜交趾
過去編 ~素敵な世界に一時の終止符を~
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第百四十九話 決して失いたくない光景 その一

お疲れ様です。


本日の前半部分の投稿になります。




 うだるような猛暑が蔓延る真夏を耐え抜き、漸く訪れてくれた涼しくて乾燥した初秋の空気は人の心に余裕を齎してくれる。


 ある人は読書に、ある人は食欲に、またある人は芸術にその余裕を向けて夏の気温によって疲弊した体を癒すのだが。もしもその猛暑が一年中続いた場合、どうなるのだろうか??


 暑さで体と心がヤラれてしまい体調を崩す人が現れその治療に追われた医者達も、続々と治療にやって来る患者の数に苦虫を食い潰したような表情を浮かべて治療に当たるだろう。


 もしかしたら猛暑から逃れる為に大陸を渡る者も現れるかも知れない。


 人間の心と体に現れる変化は環境に大きく左右されているのは間違い無い様である。


 現に俺も気温では無いが、人間関係という社会の中で生きて行く上で決して断ち切れない環境によって苛まれているのだから。



「ア゛ァ゛ッ……。つっかれたぁ……」



 仕事帰りや夕食の用意で家路に急ぐ人々でごった返す王都の主大通りを東に向かいつつぼやく。


 そして体の節々にしつこくしがみ付く疲労を払うべく歩きながら軽い柔軟を行うが。


『エヘヘ、そんな動きじゃ僕達は離れませんっ』


 俺が考えている以上に疲労は蓄積されている様であり、疲労のヒの字も拭い去る事は出来なかった。


 そりゃそうだ。激務明け早々に頭を抱えたくなる無理難題が降って来やがったのだからね!!


 昨日の朝、相棒と共に王宮の訓練場に到着すると。



『おはよう!! 飛行訓練に持って来いの天候だなっ!!!!』



 疲れている時若しくは心が萎んでいる時に最も拝みたくない暑苦しい雄の笑みが俺達を迎えた。


 これでもかと口を大きく広げて笑い声を放ち、目元は万人がお手本にすべきである柔和な曲線を描き、口から覗く白い歯が明るさに拍車を掛ける。


 美女があの笑みを浮かべれば陽性な感情がジャブジャブと湧いて来るのですけども、筋骨隆々の浅黒い肌をした野郎が浮かべれば話は別。


 東の空から徐々に頂点へと向かう太陽も彼の明るい笑みを捉えれば思わずサッと顔を背ける事だろうよ。



『おはようっす――。ってか、グレイオス隊長。人の姿の暑苦しい笑みを浮かべるのは止めて貰える?? 何だか胸焼けがして来るからさ』


『何だと!? 朝一番の挨拶は一日を迎える為に必要な事なんだぞ!? それを貴様はぁ……!!』


『分かった!! 分かったら近付くな!!!!』



 筋肉の塊が通常あるべき距離を容易く突破して来たので慌てて両手でこれ以上の侵入を防いでやった。



『ふんっ。ハンナ、東の海岸の到達は何時間を予定している』


 グレイオス隊長が俺から離れると彼の侵入に備えて身構えている相棒に本日の飛行予定を問うた。


『通常速度で飛翔すれば六時間の距離だが……。それを大幅に短縮する速度を予定しているぞ』


『ほぅっ!! それは楽しみだな!! お前達もそうだろう!?』


『『『え、えぇ。まぁっ……』』』



 既に空を飛ぶという特殊な訓練を済ませた彼にとっては楽勝なのかもしれないが、他の王都守備隊の面々は初めての飛行なのだ。しかも今回は飛行訓練を兼ねている。


 億劫になるのも頷けるぜ。



『何だその尻窄んだ声は!! 我々は恐れを知らぬ戦士だろう!!!!』


『まぁまぁそう言うなって。初めての飛行は不慣れで恐ろしいかも知れないけど、相棒の背の羽を掴んで姿勢を低くしていれば大抵の事は大丈夫だ。だけど……。突然立ち上がったりすると風の影響をモロに受けて後方に吹き飛ばされるから注意しろよ――』


『『『は、はぁ……』』』



 それでも乗る気では無い王都守備隊の連中を乗せて王都を飛び発つと苦悶の声が相棒の背に響いた。



『お、おい――!! ハンナぁ!! もう少し速度を落としてくれよぉ――!!』


『このままじゃ落ちちまうってぇ!!!!』



 人の姿をした野郎共が相棒の背の羽を必死にしがみ付きつつ叫ぶが、ハンナは速度を緩める処かその恐怖の声を力に変えて速度を上げてしまった。



『ギィィヤアアアア――――ッ!!!!』


『た、隊長――――ッ!! ラゴスが落下してしまいましたぁ!!!!』


『あの馬鹿野郎が!!!! ハンナ!! 申し訳無いが奴を救助してやってくれ!!』


『ちっ、面倒な奴め……』



 途中、一悶着あったが無事に東の海岸線に到達。


 祈る思いで太陽を見上げると、件の彼は頂点から西の空へ向かって降りて行く途中であった。



 相棒がまぁまぁの速度で飛翔したのにも関わらず海岸線に到達したのは約五時間後。


 作戦実行時にはあんな馬鹿げた速度よりも更に苛烈な速度で東に向かわなきゃいけないのか……。


 殺人的な加速度を想像すると今からでも肝が冷える思いだぜ。



 そしてその翌日、つまり本日の出来事だな。


 今度は常時無意味に暑苦しい王都守備隊の隊長とは打って変わって冷静沈着且クソ真面目な副隊長を隊長とする第二分隊を東の海岸線に送り届けた。



『ハンナ、何故貴方は生温い速度で飛翔しているの?? 私の怪我の状態なら気にする必要は無いわ』


『あ、いや。相棒はトニア副隊長じゃなくて第二分隊の隊員達の様子を窺いながら飛翔しているのですよ』



 二日連続で守備隊の隊員を空に放り出す訳にはいかず、彼はそれを見越して通常速度の維持に努めていた。


 ちょいと冷たい視線で彼の後頭部をジロリと睨んでいる彼女の端整な横顔にそう話したが……。



『そうなの?? それなら気にする必要は無いわ。彼等は厳しい訓練を受けて体を鍛えている。例え空から落ちたとしても死にはしないし、それと何より貴方は作戦実行前の予行演習を行うべき。さぁ貴方の翼の本当の力を見せてみなさい』


『ふ、ふ副隊長!! 勘弁して下さい!! 隊員の中には高所恐怖症で目を開けるのも憚れて怯えている者が……』


『そこまで言うのなら仕方が無い。大空を統べる翼の力を披露してやる!!!!』



『『『ヒィィアアアアアアアア――――――ッ!?!?』』』



 俺とトニア副隊長を除く王都守備隊隊員達の大絶叫が美しい青空の中に響き渡り、東の海岸線に到達する頃には高所恐怖症の隊員は口からブクブクと泡を吐き。白目を向いて大変気持ち良さそうな昼寝に興じてしまったとさ。



 レシーヌ王女様の認識阻害を解除する作戦実行時に伴う常軌を逸した爆発を伝える為。グレイオス隊長率いる第一分隊は到着地点から北の街へ向かい、トニア副隊長率いる第二分隊は南の街へと向かって行った。


 二つの街に駐在する執行部宛てにはもう既に行政から伝令鳥による通達がされているとは思うが……。万が一通達に従わない者達が現れた時の為にグレイオス隊長達が現地で厳しい監視の目を向ける。


 行政の通達と現場の監視と周知徹底。


 この二点で街の犠牲者を皆無にする一見完璧な作戦なのだが……。そこに俺と相棒の安否は含まれていないのが本当に残念だぜ。


 明日の日没時から王宮の訓練場へ赴きそれからティスロの魔力による認識阻害の解除を見届け、夜明け前に大変御機嫌斜めの魔道水晶と共に東の海岸線へと向かって馬鹿みたいな速度で飛翔する。


 一見超簡単な作戦なのですが爆発範囲が途轍もなく広い事と、長距離の飛翔と相俟って相棒の翼を以てしても生き残れる制限時間はギリギリなのだ。



 グレイオス隊長達が爆発を見届けたら救助の船を寄越してくれると言っていたけどさぁ……。


 爆発に巻き込まれちまったらこの体は蒸発してしまうのでほぼ無意味。


 何んとか爆発範囲から逃れたとしても衝撃波を真面に受け取ったら海面に激突して海の藻屑と化してしまう。


 危険が跋扈する古代遺跡からティスロを救助して更に彼女の家族を魔の手から救い出したってのに、なぁんですんなりと事が進まないのかしらねぇ。しかも最終最後は自分の命と引き換えの自殺行為の作戦ときたもんだ。



「ふぅ――……。ったく、いつになったら死神じゃなくて可愛い女神ちゃんが微笑んでくれるのやら……」



「今日は何処に行く??」


「君が行きたい所に行こうか」


「もぅ――、いつもそうやって私に任せるんだからぁ」



 東大通りの歩道を楽し気に歩いている二体の若い大蜥蜴の大きな背を見つめつつ本心をぼやいてやった。



「話は聞いたけどさぁ、まぁしょうがねぇんじゃね?? 現状で最も有効な作戦はハンナの翼頼みなんだし。爆発に巻き込まれて死んじまったらちゃあんと祈ってやるから安心して逝って来いや!!」


 俺の右肩で小鼠が鼻をヒクヒクと動かして楽し気にそう話せば。


「某達も同行したいが……、王都守備隊と我々の関係性は水と油だ。ダン、ハンナ。お主達二人なら必ず成し遂げられる。某は信じて待っているぞ」


 左肩に留まる物静かな小鼠は俺達の身を案じてくれる温かな言葉を掛けてくれた。



「有難うよ、シュレン。俺達が帰って来るまであの安宿で待っていてくれ」


「いでぇっ!!!!」



 右肩に留まる小鼠の尻を思いっきりブッ叩いて地面に叩き落としてやると左肩に留まる小鼠の頭をそっと撫でてやった。



「テメェ!! 俺様の尻をブッ叩いてタダで済むと思ってんのか!?」


 人の姿に変わったフウタが顔を真っ赤にして猛抗議するが。


「危険な依頼を請け負う友人を労わる事が出来ないクソ野郎のきたねぇ尻を叩いて何が悪い。ほら、行くぞ――」



 彼の地団駄を完全完璧に無視して丁度良い人通りが広がる裏通りへとお邪魔させて頂いた。



「ギャハハ!! さぁって次の店に行くぞぉ!!」


「まだ飲むのかよ!? お、俺はもう限界なんだけど!?」



 本日も飲食店が連なるこの裏通りは酔っ払いさん達がそこかしこで明るい声と笑みを放っており夜にも関わらずこの通りには明るさが灯る。


 我が心の空模様も彼等の営みを捉えると幾分か好天へと向かい、気持ちが随分と楽になってくるぜ。



「っとぉ。へへ、兄ちゃんごめんなぁ!!」


「いえいえ。お気になさらず」



 足元が覚束ない大蜥蜴さんと肩がぶつかると彼は特に悪びれる様子も無く陽性な笑みを零して飲み仲間と共に次のお店、若しくは家路へと向かって行った。



 いいよなぁ、何も考えずに浴びる様に酒を飲めて。


 俺も彼等に倣って翌日の事を気にせずに酒を飲んで心と体を労わってやりたいが、己の責務を果たすまでそれはお預けだ。


 片付けるべき依頼が一段落したら歓楽街にでも出掛けようかしら??


 ほら、この街に来てからそこの様子を足蹴に通って確かめている馬鹿野郎が居る事だし??



「よぉ姉ちゃん!! 今から何処に行くんだよ!!」


 件の彼がちょいと派手な服装の女性に声を掛ける。


「ふふっ、元気一杯ね。今から歓楽街で仕事なのよ」


「おひょう!! じゃあお店の名前を教えてよ!! 今度行くからさ!!」


「秘密――。私に会いたかったら色んなお店に通ってネ」



 彼女は潤った唇に人差し指をちょこんと当てると軽快な足取りで仕事場へと向かって行った。



「あの仕草……。くぅっ!! 辛抱堪らんぜ!! 絶対見付けてやるから待っていろよ――!!」


「フウタ、歓楽街の様子を見て回っているってシュレンから聞いたけどさ。この街には一体どれだけの数の店があるんだ??」


 夜の闇の中でも大変目立つ赤色の装束に身を包む彼の背に問う。


「歓楽街は南東の一画にあるんだけどよ。多分、四十から五十軒以上の店があるぜ」



 へぇ、そんなにあるんだ。


 四角四面の相棒が常に監視の目を光らせているからそっち方面は行けなかったけども。コイツと一緒なら男の夢を叶える事も出来るかも知れない。



「今は未だその一帯を調査中だ。調査を終えたら……」


 彼が意味深な笑みを浮かべて右手をすっと上げたので。


「すぅ――……、ふぅっ。行くか?? 戦友っ!!!!」


「おうよ!!!!」




 その心意気を買って少々派手に手を合わせて軽快な音を奏でてやった。


 初見の店に入るのには勇気がいるのですよ。


 何故勇気がいるかって??


 そりゃあ性欲に塗れた男共の相手をしてくれる優しいお姉さん達にも当たり外れがあるからですっ!!



 しかも此処は大蜥蜴が支配する国だ。



『お客様。本日はどの様な子を御指名の予定で??』


『ボインボインのバインバインな子を所望しますぅっ!!!!』



 人の柔らかな曲線の双丘を求めて店に入って。



『畏まりました。では御部屋へどうぞ……』


『あ゛ぁらっ!! 今日の相手は可愛い子ねぇ!! 私の尻尾の性技テクニックで桃源郷へ連れて行ってあげるわっ!!!!』


『急な予定を思い出したので帰らせて頂きますッ!!!!』



 高い料金を支払って出て来たのが深緑の鱗で覆われたゴツゴツの胸板の異種族だったら萎えてしまうでしょう??


 彼が言う様に綿密な調査と聞き込みが実を結ぶのさっ。



お疲れ様でした。


これから夕食を摂った後、後半部分の編集作業に取り掛かります。


次の投稿まで今暫くお待ち下さいませ。

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