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今日も今日とて、隣のコイツが腹を空かせて。皆を困らせています!!   作者: 土竜交趾
過去編 ~素敵な世界に一時の終止符を~
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第百四十八話 彼等が召集された理由 その二

お疲れ様です。


後半部分の投稿になります。




「ダン……。落ち着けって」


 俺の後ろに居たラゴスが右肩に優しく手を乗せるが。


「俺達はそっちの依頼を全て滞りなく遂行して来た。それなのに最後は大切な家族の命を差し出せって!? これで落ち着ける方がどうかしているぜ!!!!」



 その手を振り払い思いの丈を叫び続けてやった。



「ダン、貴様の気持ちは俺も理解出来る。危険を共にした戦友の命が危険に晒される作戦だからな」


 グレイオス隊長が床に視線を落としつつ暗い口調で話す。


「しかし、どうか助力願えないだろうか?? この機を逃したらレシーヌ王女様に掛けられた呪い。認識阻害は二度と解除出来ないのだ。頼む、この通りだ……」


 彼が静々と頭を垂れると。


「元凶でもある私が御願いするのはお門違いかもしれませんが。私からも御願いします。どうか彼女を救う力を御貸し下さい」


「ダン、お前達には本当に済まないと思っているが彼女の心を救う為にもお前達の力が再び必要になるのだ。頼む……。力を貸してくれ」



 ティスロとゼェイラさんがグレイオス隊長に続き深々と頭を垂れた。



「あ、頭を下げたって……」


「ダン、安心しろ。俺の実力ならその魔道水晶を容易く東の果てに投棄してやれる」


 彼等に対して一歩進もうとすると相棒の手がそれを阻止した。


「ゼェイラ殿、俺の心配なら不要だ。そちらが提唱した作戦通り事を進めてくれ」



 は、はい!? 急に何を言うのかね君は!!



「本当か!? ハンナ!! 礼を述べるぞ!!」


「有難う御座います!! ハンナさん!!」


「ちょ、ちょっと待って!! お前さんは本当にいいのかよ!? この王都を容易く消失させてしまう馬鹿げた力を持つ水晶と自殺行為をするんだぞ!?」



 パァっと明るい顔で面を上げた女性二人に対して優しい瞳を浮かべている彼に詰め寄ってやる。



「術式解除から夜明けまで何時間だ??」


「あ、おいっ!!」



 ハンナが詰め寄った俺をグイっと押し退けて執務机の上に広がっている机を見下ろす。



「月の光を集めるのには最低でも七時間は掛かります。日没と同時に作戦を展開しますので凡その術式解除の時刻は……。午前二時です」


「夜明けまで約四時間、か。その僅かな時間で魔道水晶を海の果てに投棄。それから爆発範囲から逃れて帰還する。ふむ……、ダン。何んとかなりそうだぞ」


「お前……。本当にそれでいいのかよ」



 自殺行為とも呼べる作戦参加に肯定的な相棒に呆れた言葉を掛けてやる。



「もしもこれが逆の立場だったらこの場に居る全員を叩き切ってやる所だが……。今回は俺の力が必要とされている。誰かを救う為の力を有しているのにそれを使用しないのは愚行だ」


「それは俗に言うお人好しって奴だぜ??」


 やれやれ、そんな感じで肩を竦めて相棒の肩を拳で叩いてやると。


「あぁ、そうだな。貴様と行動を続けている内に悪い癖が移ったのかもな」


 彼は微かな笑みを浮かべて優しい瞳の色で俺を見つめた。



 はぁ――……。仕方がねぇ、相棒がヤルと決めたのだから俺も腹を括るとしますかね!!!!



「ゼェイラさん。先程の無礼をお許し下さい」



 俺達に対して少々申し訳無さそうな面持ちを浮かべている彼女に対して深々と頭を下げる。



「構わんさ。私もお前の立場ならもっと酷い暴れ方をしていただろう」


「今回の作戦に参加する条件ですが……。俺も彼と帯同する。これが最低限の譲歩です」



 相棒は成し遂げられると判断したがそれでも不安要素がたんまりとある作戦に参加して無事で済むとは到底思えない。


 彼の実力を疑う訳では無いが……。俺の旅に無理矢理道ずれにした相棒を先に死なす訳にはいかねぇからな。



「それは駄目だ。貴様は此処で大人しくしていろ」


「いいや嫌だね!! お前さんだけ死地へ向かわせる訳にはいかねぇんだよ」


「俺は確実に成し遂げられる!! 何故信じない!!」


「勿論、俺は誰よりもお前を信じているさ。でもな?? たった一人の家族に残される立場を考えてみろよ。これが逆の立場でもお前は俺について来ると叫ぶだろう??」



 俺がそう話すと。



「……ッ」


 彼は注意して見ないと分からない程、微かに頷いてくれた。


「だろ?? だからこれからも、そしてこれから先もずぅぅっと死ぬ時は同じって事さ」


「全く……。貴様という奴は」


「へへ、出来の悪いお兄ちゃんで御免よ??」



 俺の視線と相棒の柔らかい視線が宙で混ざり合うと酷く柔和な空気が二人の間に流れる。それは血を越えた家族という絆の本当の温かなものであった。


 そしてこの空気がそうさせたのか、それとも死地へ向かう男達の男気に感化されたのか。



「グスッ……。うぅっ、お前達って奴はぁ……。本当に泣かせるなぁ……」


 ラゴスの大きな瞳から巨大な涙がとめどなく溢れ出し。


「本当……。御二人は素晴らしい絆で結ばれているのですね」


 ティスロの瞳にも小さな涙が滲み。


「うぅぅうう!! ハンナさん!! ダンさん!! 自分は貴方達の器の大きさに参りましたよ!!」


 ヴェスコは両手で顔を覆い尽くしながら何度も首を上下に振り、挙句の果てには。


「グゥゥウウウウ!! 俺は決して泣かんぞ!! お前達が此処に帰って来るまではなっ!!!!」


 グレイオス隊長がど――見ても無理がある嘘を付いて嗚咽していた。



「ったく……。俺達が死ぬ前提で泣くんじゃねぇよ。よっしゃ!! 兎に角これで作戦の方向は決まったな!! 今の内に詳細を決めておこうぜ!!」


 両頬を勢い良くパチンと叩くと執務机の前に勢い良く駆け出し、そして机上に広げられている地図を見下ろした。



「俺達に与えられた猶予は約四時間。王都から最も近い海岸線はティスロが言っていた通り東が最も近いな」



 マルケトル大陸全体像を記してある地図に視線を落とし、大陸のほぼ中央から東の海岸線へと向かって視線を送る。


 この距離だと相棒の翼なら約六時間掛かるって所か。それを二時間短縮せねば俺達は空高い位置で爆散してしまうって事かよ……。



「ほぼ真東に飛んで海に出て……。それから魔道水晶を海上投棄。それから爆発範囲から逃れる為、死に物狂いで大陸側に帰って来る単純で簡単な作戦だけど。周囲の街や村に危険を知らせる必要があるな」



 大陸からかなり離れた位置に投棄する予定だが、夜の海や朝方に港町を出て漁を行っている漁師達が巻き込まれてしまう恐れがある。


 街自体は安全だと思われるが危険を周知させて被害を無くさなければならない。



「投下地点から最も近い街は二つ。そこの執行部に伝令鳥を飛ばして危険性を周知徹底させる……。それだけじゃ足りないから、そうだな。グレイオス隊長とトニア副隊長が隊員を引き連れて街に駐在する案はどうだろうか??」



 海岸線沿いの二つの街を交互に指して問う。



「行政側の指示と王都守備隊の周知徹底の二重策、か。悪くは無いが作戦実行は三日後だ。とてもじゃないが現場に派遣する時間が足りないぞ」


 ゼェイラさんが提唱した問題点について俺がその補足点を話そうとするが。


「ゼェイラ殿、その点に付いては心配無用だ。俺が王都守備隊の面々を海岸線に運ぶ」


 今も鋭い瞳を浮かべながら地図を見下ろしている彼が代弁してくれた。


「一度に運べる人数は何名だ」


「人の姿なら……、そうだな。十名が限界といった所か」



 グレイオス隊長の質問に対して彼が宙を睨みつつ話す。



「一班六名の分隊を二班構成してそれぞれの街に向かわせるのには二往復する必要がありそうだな。相棒、まだ疲れが抜けていないけど行けそうか??」


「無論だ」



 お前さんは大丈夫って言うけどね?? その運送の疲労が翌々日に残る恐れもあるのですよ??


 作戦実行日に疲れて間に合いませんでした――って事態になったら俺達は空中でとんでもない爆発に巻き込まれてあの世に旅立っちまうんだぞ。



「それなら結構。では、作戦全体像を今一度確認するぞ」


 ゼェイラさんがそう話すと室内に居る全員の顔に緊張の色が灯った。




「作戦実行前にハンナがグレイオス隊長を第一班、トニア副隊長を第二班とする二分隊を輸送。分隊の隊員数は各六名とする。それぞれの班が街に到着したのなら執行部並びに住民に対して本作戦の危険性を周知徹底させろ。作戦の概要は極秘事項の為、新しい魔法の実験とでも称しておけ。ハンナ達は帰還したのなら作戦実行まで休め。 そして、レシーヌ王女様の認識阻害の解除予定時刻は三日後の午後七時から。場所は王宮内の訓練場とする。ティスロが魔道水晶月下の涙に月の光を集め、魔力を高めて認識阻害を解除する。同時、ダン及びハンナが東の海へと飛翔し魔道水晶を海上投棄。海上で爆発を確認したのならグレイオス及びトニアが王宮に向かって伝令鳥を飛ばし、そしてダンとハンナの安否の確認。両名の無事を確認出来たのなら王都に帰還しろ。これが術式解除の作戦の流れだ」



 ゼェイラさんが提唱した作戦には一部の隙も見当たらないけども……。



「あ、あの。一つ宜しいでしょうか」


 周囲が沈黙する中、一人静かにおずおずと挙手する。


「何だ」


 俺の発言を受け取るとゼェイラさんの整った片眉がピクリと動く。


「今回の作戦の概要についてなのですが……。レシーヌ王女様に対して、俺達が東の海に向かうって事は伏せておいて下さい」


「それは何故だ」


「彼女は心優しき人物です。俺達が犠牲になってしまうかも知れない作戦だとすると自分を押し殺して作戦参加に渋る可能性があります。いや、可能性じゃなくて蓋然性か。これを逃したら二度と元の姿に戻れなくなってしまう恐れがありますので作戦は必ず強行すべきであると考えたからです」


「あぁ、そうだな。となると……」


「はは、憎まれ役はゼェイラさんになりそうですね??」



 大変苦い表情を浮かべた彼女に乾いた笑みを送ってあげる。



「だろうな。まぁ上官は憎まれ役と責任を負うのが仕事だ。それに対して文句は言わんよ。さて、これで全ての情報は出揃ったがまだ何か質問がある者は居るか??」



 ゼェイラさんが静かに周囲を見渡すが誰一人として口を開く者は見当たらなかった。



「よし、それなら解散する。ハンナとダンは人員輸送の為に明朝九時に訓練場に来てくれ。以上だ」


「了解しました。ふぅ――……。最後の最後でまさかこぉんな危険が待ち構えていたとはねぇ……」



 強張っていた肩の力を抜いて宙を睨む。


 何で不運ばかりが続くんだよ……。不運な神様が俺の双肩に圧し掛かっているんじゃないの??


 そうじゃないと説明出来ないもの。



「俺の翼を信じろ。必ず成し遂げてみせる」


「その言葉だけが今は頼りだぜ。それじゃ俺達一般人は庶民が暮らす街に帰りますわ」



 今も静かに地図を見下ろしているまぁまぁ身分の高い者達に対して軽く右手を上げると。



「本当に済まなかったな。改めて礼を言わせてくれ、二人共有難う」


 ゼェイラさんが態々椅子から立ち上がり深々と頭を垂れてくれた。


「お礼は依頼を無事達成してから受け取りますよ。俺達はそれ相応の超危険な橋を何度も渡って来たので奮発して下さいよね!!」


「はは、あぁ。お前達が度肝を抜く褒賞を用意してやる」


「それは楽しみです。それじゃ、また明日」



 木製の扉を静かに閉じて闇が蔓延る廊下に出るとほぼ同時。



「はぁぁぁぁ――――…………」


 死人が思わず上体を起こして労いの声を掛けて来そうな重苦しい溜め息を長々と吐いてやった。


「なぁんでこうすんなりと物事が運ばないのかなぁ……。聞いたかよ?? 爆発範囲は半径数十キロに亘り、その範囲内に居る人物は跡形もなく姿を消失させちまうんだってさぁ」


 重い鉄球を括り付けられたかの様に重くなった両足を必死に動かして廊下を進んで行く。


「今回の作戦は時間との戦いだ。俺は人生の中で一、二を争う速度で飛翔する故。背中から振り落とされない様に必死にしがみ付いておけ」


「へいへいっと……。あ、そうだ。そう言えばドナと話の途中だったな」



 城門を潜り抜け、花の馨しい香りが漂う庭園に到着するとつい数時間前に交わされた話の内容がふと脳裏に過って行く。



「確か明日の夜に飯を食いに行くって言っていたっけ。どうしよう?? 今回の作戦の危険性を話すべきかな??」


「いや、止めておけ。話した途端に俺達は身柄を拘束されてしまう恐れがあるぞ」


 でしょうねぇ……。


『は、はぁっ!? そんなの無理!! 絶対却下だからね!!!!』



 彼女の髪は怒髪冠を衝く勢いで逆立ち、双肩は怒りでワナワナと震え、二つの拳に激烈な怒気を乗せて絶対襲い掛かって来るぞ。


 約束の日の夜はしどろもどろになりながら食事を摂る事になりそうだぜ……。



「だろうなぁ。あぁ、畜生。このまま平穏な日々を過ごそうと思った矢先に厄介な話が舞い込んで来やがって。俺達には安寧の日々は訪れてくれないのかしらね」


「俺は飛翔の限界に挑戦、レシーヌ王女は呪いを解く事が出来、そしてそれを解決すれば貴様が渇望している安寧が訪れる。何事も前向きに捉えるべきだぞ」


「俺はお前さんの広い心が本当に羨ましいぜ……」


「うぉぉおお――い!! 今から帰りかぁ――!?」



 上司に叱られた帰り道の様に項垂れつつ王門に向かうと頭上から軽快な声が降って来やがった。


 いつもならここで労いの声の一つや二つ掛けてやるのだが。



「うるせぇ!! お前達は黙って警備の任に就いていろ!!」


 生憎俺の心の空模様は土砂降りの大雨。


 そんな気持ちは毛頭も湧いて来なかったので心に浮かぶ言葉をそのまま投擲してやった。


「はぁ!? 折角声を掛けてやったのにその言い草は無いだろうが!!」


「こちとら誘拐紛いで連れて来られたんだよ!! 少しは俺の気持ちを汲みやがれ!!!!」



 重装備に身を包む王都守備隊隊員と軽い戯れを終えると王門の脇の扉を潜り抜けて庶民達が跋扈する街に続く階段を下って行く。


 夜は更け、空に浮かぶ星達はニッコニコの笑みを浮かべて光り輝いているが今はその輝きさえも煩わしい。


 あの光を再び拝める事が出来るのだろうか?? 友人達と肩を並べて街を練り歩く事は出来るのだろうか??


 相棒は何事も前向きに捉えるべきだと言っていたけど人間そこまで直ぐに変われる程上手く出来ていないんだよっと。


 頭に浮かぶ負の言葉が重みを増して行き今にもその重さで崩れ落ちてしまいそうになる体を必死に支えつつ、松明の美しい光が灯る街へと向かって行ったのだった。




お疲れ様でした。


さて、彼等はいよいよ最後の御使いに出掛けるのですがその内容にちょいと躓いております。


日常パートを数話挟んだ後に最後の御使いの話が始まる予定ですが、その投稿が少々遅れてしまう可能性がありますので予めご了承下さいませ。


さて、そろそろやってくるゴールデンウイークなのですが。予定は決まっていますか??


私の場合は趣味でもあるジッポ集めとメンテナンスに汗を流そうかと考えております。家から離れた場所にあるジッポを取り扱うお店にお邪魔させて頂き新しいジッポを購入。


部屋に飾ってあるコレクション棚に加えたのなら普段から使用している物をコンパウンドで磨く……。それだけでは無く、部屋の掃除やら洗車やらで忙しい日々を送りそうな気がしますね。



それでは皆様、お休みなさいませ。

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