第百四十四話 渇望していた再会 その二
お疲れ様です。
後半部分の投稿になります。
「ダ――ンッ!!!! お帰り――――ッ!!!!」
「っと……。相変わらず元気一杯だな」
俺の腹部に勢い良く飛びつきそのまま顔を埋め続けている彼女の艶のある髪を一つ撫でてやる。
おぉっ、相変わらず良い撫で心地だ。
「えへへっ、私は元気が取り柄だからね!! それよりも……。どうやら悪い人達は退治出来たみたいだね??」
「わわっ……。はぁ、ハンナさん。有難う御座いました」
「お母さん!! 見て!! こうやって翼を滑って行けばいいんだよ!!」
「こら!! ハンナさんに失礼でしょ!!」
シテナが埋めていた顔を引っ張り上げると今もおっかなびっくりしながら相棒の背から下りているローンバーク家御一行へと視線を送る。
「御蔭さんでね。所でティスロは今何処に??」
「私とほぼ同時に家を飛び出したんだけどさぁ。ティスロさんは魔法の扱いは物凄く上手だけど体の使い方は今一なんだよね。足が遅いから置いて来ちゃった」
前回の戦い方、そして彼女が就いていた役職を加味すればそれは容易く看破出来ますけども。
「そういう時は二人仲良く登場するもんだぞ」
「いたっ」
えへっと可愛らしく口角を上げて俺を見上げている彼女の額を指先で突いてやった。
「でももう直ぐ……。ほら、見えて来たよ!!」
漸く通常の男女間の距離を取ってくれた彼女が指差す方へ視線を向けると、そこには驚愕の事実を目の当たりにして声にならない声を叫び出そうとしている一人の女性が立っていた。
「……ッ」
小さな両手で口元を抑えて両の瞳は微かに濡れ、感情の高まりと共に心の雫がティスロの瞳から零れ始めた。
さて、これからは家族水入らず。
俺達は一切触れませんので心行くまで仲良く過ごして下さいまし。
「お、お父さん。お母さん……」
ティスロが弱々しい足取りで三名の下へ歩み始めると。
「ティスロぉぉおおおお――――ッ!!!!」
「お姉ちゃぁぁああん!!!!」
それが合図となって四名は瞬き一つの間に駆け始め、そして一つの温かな塊となって心の声を素直に叫んだ。
「会えた!!!! 本当にぃ……。会えたよぉぉおおおお!!!!」
「ごめんな!! 俺達が至らないばかりにお前に迷惑を掛けてしまって!!」
「良かった!! 本当に……、本当に無事で良かったわ!!!!」
「お姉ちゃん!! 会いたかったよぉぉおお!!」
うんうん、こうやって涙の再会を見守っていると俺達の苦労が報われた気がするよなぁ。
四名の家族が互いの無事を喜び合いそして絆の深さを確かめる様に熱い抱擁を交わしている様を温かな瞳で眺めて居るとグルーガーさんが彼女達の再会を邪魔しない様、デカイ図体に似合わない静かな歩みで向かって来た。
「御苦労だったな」
「あ、お疲れ様です」
街のチンピラ程度なら一睨みで撃退出来るであろう肉体と圧は健在なのだが、何処かその様子がおかしく見えてしまう。
何かあったのかしら??
「屋敷を占拠している不届き者は無事に退治出来たのか??」
「屋敷を占拠していたのは計十名。その内の一人がまぁ――阿保みたいに強くて……。相棒と命辛々撃退した後、全員の身柄を執行部に譲渡。それから少しだけ休んで此処に舞い戻って来ました」
彼に今回の経緯をさらっと説明してあげると。
「お前達程の者が苦戦するとはな……。素直に驚くぞ」
彼は大きく目を見開き素直な驚きを表した。
「ジャルガンと言ったか。奴の実力は正にこの大陸で一、二を争う実力者であろう」
人の姿に変わったハンナが今も熱い抱擁を交わしているローンバーク家御一行を見つめつつ口を開く。
「ふっ、ソイツの実力を直に感じてみたかったな。グスッ……」
うん?? 今、鼻を啜った??
直視しては失礼に値するのでさり気なぁく、そして会話の流れからグルーガーさんの横顔をチラっと確認すると。
「ふぅ……。涙の再会、か。やはり家族の絆という物は美しいな」
悪鬼羅刹もたじろぐ強面の横顔に一筋の綺麗な涙の線が流れ落ちて行く様を捉えた。
「あはは、グルーガーさんでも泣く事があるんですね」
彼の横顔から視線を外してお互いの無事を確かめ合う様に手を取り合っている家族の姿を捉えながら揶揄ってあげた。
「や、喧しい!! これは目に砂が入っただけだ!!!!」
「お父さんは情に弱い所があるからねぇ。でも、私も家族の絆にウルっと来ちゃったよ」
家族の絆、ね。
生憎俺にはそれを確かめるべき相手が居ないのでそれを感じられる機会は金輪際訪れてくれやしない。
まぁ死んだ父親や母親が蘇ったのなら確かめられるかも知れないけども、森羅万象の理を覆さない限りそれは叶わない。例え蘇った両親と再会しても俺は呆気に取られて只普通に挨拶を交わす程度に収まりそうだな。
相棒も俺と同じ感情を持っているのか。
「……」
羨望、嫉妬、願望等々。
幾つもの複雑な感情が籠められた瞳の色で彼等を眺めて居た。
「相棒、お前さんにはクルリちゃんが居るだろ?? いつか生まれ故郷に帰ったのならちゃんと抱き締めて。んで愛を囁いてやれよ」
お前は一人じゃない。
それを再確認させるべく彼の肩を優しくポンっと叩いてあげた。
「ふんっ、分かっている」
「おっ!? ってぇ事はだよ!? 里に帰ったら式を挙げるのかい!?」
いつもの揶揄いを受けてそっぽを向いているハンナを揶揄ってやる。
「か、考え中だっ」
「クルリちゃんはきっと期待して待っていると思うぜぇ?? 何せ付き合ったばっかりの彼氏が突然遠い場所へ旅立ち、そして一回りも二回りも強くなって帰って来るのだから」
さぁさぁもぉぉっと顔を赤らめて憤死しやがれ。
彼の羞恥心を轟々と煮沸すべく、小さな火種を送り続けていると熱の臨界点に達した彼からとんでもねぇ仕返しが帰って来やがった!!
「だ、だから!! 考えていると言っているだろうが!!!!」
「アベブッ!?!?」
強力な羞恥が籠められた右の拳が俺の左頬を穿つと細かい砂が広がる大地に叩き付けられてしまった。
「て、テメェ!! 流石にグーは駄目だろう!?」
茹でられた真っ赤な蛸ちゃんから同類であると認めて太鼓判を押す程に赤らんでいる顔の野郎に向かって叫ぶ。
「こうでもしないと貴様はいつまでも俺を愚弄し続けるからなっ」
「嫌なら口で言えば済む話じゃねぇかよ!! 俺は怪我人なんだぞ!!!!」
売り言葉に買い言葉。
いつまでも終わらない相棒との口喧嘩を続けているとこの様を捉えたシテナが明るい笑い声を放った。
「あはは!! 二人共、兄弟喧嘩はそこまでにしなよ」
「そうだそうだ!! お兄ちゃんはいつも我儘な弟に苦労しているんだぞ!!」
「俺とコイツは血が繋がって居ないぞ」
「ううん、そういう事じゃないよ?? ダンとハンナさんは血は繋がっていないけど。ティスロさんの家族よりも強い絆で結ばれているって気付いているでしょ?? 二人の血族はもう居ないって言っていたけど……。この広い世界で唯一無二の絆で結ばれている人を大切にするべきだよ」
「いや、しかしだな……っ」
「ふふぅん」
それ見た事か。
優越感に浸った視線をハンナに送り続けてやる。
「た、例えその様な絆で結ばれていたとしても。コイツを兄と認めるのは些か……、では無いな。かなりの抵抗感を覚えるぞ」
「いいんじゃないの?? 真面目な弟さんに不真面目なお兄さん。お似合いの兄弟だって」
「いやいや!! 逆だよ逆!! 俺が真面目なの!!!!」
シテナの台詞を訂正する為に大声を張り上げると。
「フッ……」
あろうことか、今度は横着な弟が優越感に浸った瞳を俺に送るではありませんか!!!!
「おい、今の目ぇ。どういう意味だ??」
「さぁな、そろそろ出発するぞ。このままでは王都に到着するのは深夜になってしまうからな」
「キチっと最後まで言わねぇと放さないからな!!!!」
大馬鹿野郎が俺の態度を鼻で笑うと魔物の姿に変わる為に広い場所へ移動し始めてしまったので後ろから思いっきり抱き着いて体を拘束してやった。
「止めろ!! 気色悪い!!!!」
「この腕はぜぇぇったい放さねぇからな!!!!」
「いいぞぉ!! 二人共頑張れ――!!!!」
「おっしゃあ!! 俺様も参戦するぜ!!!!」
シテナの声援に呼応した横着者が相棒の両足にしがみ付き、そこから生まれた隙を利用して更に強力に我儘な弟の体を抱き締めてやる。
俺も、そしてお前さんも本当は互いの事を家族よりも強い絆で結ばれていると理解しているのだろう。
俺は余裕で口に出して言えるけども、恥ずかしがり屋の弟ちゃんは決して口に出そうとしませんからね。
今日はその言葉を勝ち取るまでこの体をぜぇぇったいに放しませんっ!!
◇
ダンがハンナさんの背中に必死にしがみ付きフウタが彼の両足に抱き着いて行動を制御する。二人の男性に絡みつかれたハンナさんは羞恥心を全開にした顔で憤りの声を放っていた。
大の大人達が一体何をやっているんだか……。でも、この雰囲気は物凄く好きだな。
だって全てが丸く収まった大団円って感じだもん。
ダン、お疲れ様。
もっと楽しくワイワイ過ごしてこの余韻を楽しんでね。
「ふふ、相変わらず仲が良いですね」
「あ、ティスロさん」
ダンとハンナさんの他愛の無い喧嘩を眺めて居ると彼女が静かな足取りて私の隣にやって来た。
「良かったね。家族と再会出来て」
まだ目が真っ赤に腫れている彼女の端整な横顔を見上げて話す。
おぉ――……。相変わらず綺麗に整った顔付だなぁ。私も大人になったらティスロさんみたいな顔付になるのだろうか??
お父さんの顔はゴツゴツしているからきっと難しそうだよねぇ。
「遺跡の最奥で私はこのまま死んでしまい、もう二度と家族と会えないと考えていたのですが……。彼等が己の身を切り救いにやって来てくれた。それだけでは無く家族を無事に救出してくれて……」
「むぅっ!! 私達も頑張ったんだぞ!!」
小さな拳を作ってティスロさんのお腹をポコンと叩いてやる。
「あはは、ごめんね?? 皆の協力があったお陰で私達はまた会えた。本当に有難う」
「分かってくれればいい!!」
彼女が優しい笑みを浮かべて私を見つめるので思わず顔を背けてしまった。
今の顔……。大人の魅力と心の優しが溢れていたな。
私もいつかティスロさんみたいにイイ大人になって、んでダンとその息子をろ――らくさせてやるんだから!!!!
ンフフゥ……、ミツアナグマの女性は意外としつこいんだぞ??
その時までちゃんと私達……、ううん。私の事を覚えておいてね??
「どう――だい?? どうさぁ?? 怪我で全力が出せなくて俺達の拘束を解けないだろう??」
「ギャハハ!! どうしたよ、ハンナぁ。生まれたての子犬みてぇに両足がプルプルしてんぞ!?」
「貴様等いい加減にしろ!! これでは示しがつかぬではないか!!」
悪いお手本の代表例の二人に絡まれているハンナさんが勢い良く体を動かすと、フウタの懐から凄く綺麗な布が飛び出す様を捉えた。
何だろう?? あの綺麗な青色は……。
「へっ?? えぇっ!?!? な、な、何で!?!?」
「うん?? ティスロさんどうしたの??」
風に流されて此方に向かって来た綺麗な布を拾い上げると彼女が信じられないといった表情を浮かべた。
「こ、これは。私の下着です」
「ブフッ!!!!」
な、成程ぉ……。だからびっくりした表情を浮かべたんだね。
「こらぁ!! フウタァァアア―――――ッ!!!! ティスロさんの下着を盗んだら駄目じゃないか――――!!!!」
私がそう叫ぶと。
「ッ!?!?!?」
あのお馬鹿さんはハンナさんから素早く離れ、己の懐を確かめる様に素早く触るが時既に遅し。
「あ――……。うん、それはね?? 俺様が屋敷に潜入した時にさ。ど――しても俺様に付いて来たいって言ってたから仕方なぁく懐に仕舞ってあげたんだよ。でもね!?!? 必ず帰すつもりだったんだよ!? だから俺様に非は無いのだっ!!!!」
全身から嫌な汗を垂れ流しながら誰がどう見ても狼狽えているであろうと看破出来てしまう姿勢で苦しい嘘を吐き出した。
うわっ、もう少しマシな言い訳を言いなさいよね。
子供の私でも直ぐに嘘だと分かっちゃうじゃん。
「何だ、下着位いいじゃないか」
「お、お父さん!!」
朗らかな表情を浮かべている一人の男性が今も暴れ回っているダンとハンナさんを見つめながら話す。
「彼等は私達が思う以上に疲弊しているんだ。それを癒す為なら下着の一枚や二枚」
「それでも駄目です!! フウタさん!! これは私が回収しましたからねっ!!」
「そ、そ、そんなぁ!! せめて片方だけ!! ねっ!? 片方だけでいいからぁ!!」
フウタが鼠の姿に変わると、あっという間の早業でティスロさんの服の中に侵入。
「キャァァアアアアアア――――ッ!?!?」
「うっひょ――!! 俺様が想像した通りの大盛ちゃんだぜぇぇええ!!!!」
彼女の胸元の服が内側から上下左右に揺れ始めると女性の羞恥に塗れた叫び声が良く晴れた空に響き渡った。
「「「アハハハハ!!!!」」」
その様を捉えた皆は馬鹿みたいに口を開いて笑い、そして陽性な感情をこれでもかと零し続けていた。
「あはっ!! フウタぁ!! もっとティスロさんを困らせてやれぇ――!!!!」
その明るさは太陽が顔を顰めてしまう程の光量を秘めており、私も頭上で光り続ける太陽をもっと困らせてやろうと画策して誰よりも明るい声と笑みを浮かべて笑い続けてやったのだった。
お疲れ様でした。
これから南の大陸のエピソードのフィナーレに向かうのですが……。中々筆が進まない日々が続いております。
構想は既に決まっているのですがもう少しエピソードを追加すべきかどうか、それで迷っている次第であります。
美味しい物でも食べて、気分を変えて執筆に臨みましょうかね。
それでは皆様、お休みなさいませ。