第百四十三話 死闘決する時 その二
お疲れ様です。
後半部分の投稿になります。
「第九の刃……。炎雷ノ帝ッ!!!!」
心静かに人生の終幕を迎えようとしていると途轍もない魔力の鼓動が戦場を駆け巡って行った。
何だ?? 今の衝撃波は……。
相棒の激昂にも鼓舞にも聞こえる雄叫びを捉えるとその様を確かめるべく静かに目を開けた。
「ふぅぅ……。ふぅぅうううう!!!!」
おぉ……、さっすが鍛える事が大好きな白頭鷲ちゃんだぜ。
とんでもねぇ気合と魔力の圧を纏っていやがる。
ジャルガンの背中越しに映る彼の姿はまるで闘争による熱き血潮が渦巻く世界からこの世に降り立った最強の闘争神だ。
魔力の源から流れ出る強烈な魔力が全身を駆け巡りその終着点は彼が両手に持つ金剛の剣。
美しき稲妻の閃光と火の力が混ざり合い鋼鉄は得も言われぬ美しい輝きを帯びており彼の感情と同調する様に輝きを増して行く。
火と雷を混ぜ合わせた付与魔法は人に恐れと尊敬を与えるのか。
「ハハ……。ハハハハ!! いいぞぉ!! ハンナ!! 何んと素晴らしい!!!!」
ジャルガンの闘志が刹那に揺らいだが俺の左手から槍を引き抜くと強烈な魔力を纏い彼と改めて対峙した。
「俺の家族を殺めようとしたな……」
ハンナの朱に染まった瞳が更に憤怒に塗れて行く。
「それで貴様が強くなるのなら俺はコイツを殺し、そして屋敷内部で今も戦闘を継続させている仲間の首を刎ねてやる」
「安心しろ。そうなる前に俺が貴様の命を断つッ!!!!」
「ッ!?!?」
ハンナが静かに腰を落とすと体全身に美しい翡翠の風を纏ってジャルガンへと突貫。
彼は槍の柄で防御するものの立ち上がりを抑えられた奴は防戦一方だ。
「アアァァアアアアッ!!!!」
「この常軌を逸した攻撃力と纏う闘気。そして二属性同時の付与魔法ッ!! ハンナ!! やはり貴様は最高だ!!」
古代種の力を高めたジャルガンが徐々に形勢を五分へと戻してハンナの付与魔法に対抗する。
炎を纏う槍が白き輝きを纏う剣に触れると互いの魔力が衝突して宙で混ざり合い、淡い桜色に変化して飛び散り闇の中へと消えて行く。
その様は春の終わりに訪れる満開の桜が風に乗ってハラハラと散り行く様にも見えた。
硬化質な金属同士が激突する衝突音と二人の巨大な魔力が衝突する様を眺めて居ると萎みかけていた魔力が、そして闘気が震え上がって来やがった。
ハンナ、お前はやっぱりすげぇよ……。これまで対峙した事の無い強敵に対して臆する事無く己の刃を揮い、そして武をぶつける事が出来るんだから。
それなのに俺と来たらどうだい??
体中に傷を負い、死に物狂いで絶望に抗うものの相棒に命を助けられる始末だし。
俺は一体何をやっているんだ。情けねぇ……。相棒が俺を救う為に己の命を燃やして戦っているってのにぃぃいい!!!!
自分の弱さに心底反吐が出やがるぜ!!!!
「すぅ――……。はぁぁぁあ――……」
激闘が繰り広げられている戦場の熱き空気を肺に一杯取り込み、己の魔力を徐々に高めて行く。
相棒は二つの属性を同時に……、いいや。混ぜ合わせると言った方が正しいか。
ハンナの二属性同時付与とは全く性質の異なる付与魔法を注視し、魔力の源から流れ出る彼の力の流れを掴み取る為に全神経を集中させた。
「食らえぇぇええええ!!!!」
「ハァァアアアアッ!!!!!」
ハンナの第二の心臓でもある魔力の源から暴圧的とも呼べる魔力の流れは全身を激しく駆け回り、そしてその流れを手元へ集約させている。
あの強き流れを制御出来るのは彼が幼い頃から研鑽を続けて来た結果だろう。
普段の俺の状態なら高め続けた魔力を制御する事は叶わない。しかし、今のこの状態ならほんの僅かな時間なら可能になる筈だ……。
彼の素晴らしい魔力制御と他の追随を許さぬ闘志の高さを己の心の水面に投影。
そして彼の勇姿を己に重ね合わせると後の事を一切考えずに魔力を最大解放した。
「…………ッ!!!!」
たった数十秒、いいや。数秒でも良いから思い通りに動いてくれ俺の体よ!!!!
ハンナを救う事が出来なくなって後悔するよりも玉砕覚悟でぶつかっていった方がマシだ!!!!
立ちはだかる巨大な壁を、武力の差を、そして実力差を覆す為。
俺は広大な大地に両の足を突き立てて全身全霊の雄叫びを解き放った。
「ウォォオオオオオオオオオオ――――ッ!!!! セリャァァアアアア――――ッ!!!!」
「「っ!?!?」」
体の真芯から流れ出る強力な魔力の流れが全身に駆け巡ると血が湧き立ち、心臓は耳が痛くなる程に激しく鳴動して指先が微かに震える。
少しでも気を抜けば意識を失ってしまいそうになる状態だが……。不思議と痛みは感じなかった。
俺の状態を捉えて驚く様を披露した二人の視線に釣られて己の体を見下ろすと全身に纏う魔力の圧は美しく儚い桜色であり、俺の魔力の流れに合わせて朧に揺れていた。
「クククッ……。ア――ハハハハ!! 貴様も二属性を混ぜ合わせる事が出来るのか!!」
ジャルガンが大きく口を開いて高揚した笑い声を放つ。
「今宵は本当に、本当にぃぃいい!!!! 良い夜だ!! 二人の修羅を寄越してくれた闘神に感謝せねばなるまい!!」
「ダンッ!!!! 聞こえているか!?」
「……」
相棒が何か叫んでいるが……。その言葉の意味は全く理解出来ない。
「今の貴様ではその状態は長く持たん!! 己の魔力が尽きる前に勝負を仕掛けるぞ!!!!」
よくわからねぇけど……。多分、此処が最終最後の決着の場面って事だよな。
了解だ、ハンナ。
目の前の巨大な壁を俺達でブチ破って今日の俺達よりも一つだけ強くなろうぜ!!!!
「さぁ互いの武をぶつけ合おうぞ!! そしてぇ!! 貴様等の血を糧に俺は今よりも強くなるのだッ!!!!」
「その口を二度と開かぬ様にしてやる!!!!」
「ッ!!」
相棒が光り輝く剣を構えてジャルガンに突貫するとほぼ同時に此方も奴の背に向かって突撃を開始する。
「二人共素晴らしい踏み込みの速度だな!! しかしそれでも僅かに俺の方が速い!! 乱塊疾走閃!!!!」
ハンナを一度退けた槍の乱撃が彼の体を穿とうとして正面から襲い掛かるが。
「武人に二度同じ技を使用する等言語道断だ!!!!」
彼は激しい突き技によって一つの塊に見えてしまう槍の乱撃を一つ一つ確実に見切り、剣で捌き切れない攻撃は素晴らしい体の捌きで回避し続けていた。
この好機、逃す手は無いよな!!
「ハァッ!!!!」
右の拳に力を籠めてジャルガンの背に浮かぶ巨大な隙の空間に熱き想いを乗せた拳を叩き込むが。
「ふんっ!!!!」
ジャルガンの右脇から伸び来た石突きが俺の拳の脇を通り抜けて顔面へ向かって来た。
奴の計り知れない魔力と恐怖感を覚えてしまう殺意が乗せられたこの一撃を真面に食らえば恐らく俺の顔面は粉々に砕かれてしまうだろう。
小指の先の爪程に恐怖を感じるかと思いきや……。不思議と怯え、竦む事は無かった。
強力な石突きによる攻撃が迫り来る中。
「……ッ!!」
安全を求める後退よりも勝利へと続く危険な前進の選択肢を取った体は武人が放つ研ぎ澄まされた技に向かって愚直に進み、そして石突きが俺の右頬を掠めた刹那。
「アァァアアアアッ!!!!」
「何ッ!? うぐっ!!!!」
ジャルガンの右脇の骨を打ち砕く事に成功した。
右の拳に残る素晴らしい感触が更に闘志を高め、体に纏う圧が膨れ上がって行く。
「カッ、ハァッ……」
「ここだ!! ここで確実に決めるッ!!!!」
大蜥蜴の巨大な口から粘度の高い液体が零れ落ちる様を捉えたハンナが激情と魔力を乗せた剣を勢い良く上段に構え、そして勝利を渇望する一閃を解き放った。
「グ、グゥゥゥウウ!!!! ギィィヤァァアアアアアアアア――――ッ!!!!」
ジャルガンが震える体を必死に支えて槍で防御態勢を取るが……。
彼の乾坤一擲となる最大最強の雷撃は柄程度では受け止め切れなかった。
「グゥッ!?!?」
「貰ったぞ!!!!」
炎を纏う槍が丁度中央付近で両断されてしまい、二つに分かれた槍は彼の左右の手にそれぞれ収まる。
ハンナの想いを乗せた一撃が死をせき止めていた防衛線を突破すると彼は勝利を確信したのだが……。
俺はジャルガンから一切視線を切らずに魔力の流れや筋力の動きを注視していた。
絶体絶命の場面でもお前さんは決してに諦めないだろう??
俺には分かるんだ。
どうして分かると問われてもその答えに詰まるだろうが……。これまで交わして来た攻撃の数々や彼の武人の魂に触れて来たから分かる、とでも言おうか。
ジャルガンの武の精神は己の命が絶えるその時まで死に抗い続けるのだ。
ハンナの剣が美しい太刀筋でジャルガンの頭蓋を両断する勢いで振り下ろされて行く様を見つめていると。
「ハァァアアアアッ!!!!」
彼は右手に持つ半分に別れた槍の穂先を相棒の胴体へ向かって突き刺そうとして苛烈な勢いを保ったまま突き出した。
武人が放つ相打ち玉砕覚悟の一撃は俺達の覇気を揺るがす程の圧を保っており。否応なしに死を連想させる雷撃はハンナの脳裏に微かな油断を齎してしまった。
「ッ!?」
振り下ろしている剣の軌道を変えるか、それともこの場から一旦離れて体勢を整えるか。
彼の瞳の色には刹那に迷いが生まれるが……。
ジャルガンと同じく武の道に長く携わっている相棒は断固たる決意を籠めて一気苛烈に剣を振り下ろした。
「食らえぇぇええええ!!!!」
「ギィィヤアアアアアアアア――――ッ!!!!」
相棒が一刀両断したのはジャルガンの頭部では無く右腕だ。
何物をも切り裂く彼の刃は大蜥蜴の強固な鱗に覆われている腕を容易く切り飛ばし、切断された右腕は美しい放物線を描き朱色の血を放出しながら闇の中へと消えて行った。
後退や防御では無く己に向かい来る穂先を排除しようとした彼の考えは尊敬に値するが、ジャルガンもまた尊敬に値する選択肢を取った。
「死ねぇぇええええ――――ッ!!!!」
ジャルガンが痛みを堪えて鬼気迫る表情を浮かべると左手に掴む槍の石突きをハンナの背に向かって解き放つ。
最終最後の局面から繰り出される一撃は恐らく彼の背を穿ち、心臓を確実に貫くだろう。
頭の中に嫌でも浮かぶハンナの胸から突き出る槍の姿を想像すると俺の体に炎が灯った。
絶対に……。絶対にぃぃいい!! 俺の相棒は死なせやしない!!!!
「ハァァアアアアッ!!!!」
「何ぃっ!?」
空気の、音の壁を突き破って両者の間に無理矢理体を捻じ込んでジャルガンの左手に残る槍を蹴り飛ばすと両手に闘志を籠めて深く腰を落とした。
「フンッ!!!!」
右の拳をジャルガンの腹部に深く突き刺すと。
「ゴハァッ!?」
人体の弱点の一つである頭部が絶好の位置に落ちて来やがった。
さぁ、此れでぇ……。決着だぁぁああああああ――――――ッ!!!!!!
「我が拳、刹那千撃。咲き乱れろ百華の花冠ッ!!!!」
頼む!! 最後までもってくれよ!? 俺の体!!!!
「ぐ、グググゥ……」
魔力を最大限にまで高めると左手で己の腹部を抑えるジャルガンの体に狙いを定めてこの戦いの運命を決定付ける最終攻撃を放った。
「烈火四星拳ッ!!!!!!」
両の拳に闘志と魔力を乗せるとジャルガンの顔面、左右の鎖骨、そして心臓の四点に打ち込む。
瞬き一つの合間よりも更に苛烈で猛烈な速度で放たれた俺の拳はジャルガンの肉を、骨を砕き。
拳が着弾した音よりも速く拳を元の位置に収めると彼の体は物理の法則に従って後方に吹き飛ばされて行った。
「ギャアアアアアアアア――――ッ!!!!」
地面の上を何度も跳ねて漸く勢いが停止すると奴は微動だにせず美しい月光が降り注ぐ大地の上で静かに横たわっていた。
「ぜ、ぜぇぇ……。コ、コヒュ……ッ」
き、気絶しているか確かめに行かないと……。ア、あ、アイツは意識がある限り抗い続けるからな……。
猛烈に重たい体を引きずる様にジャルガンの下へ移動しようとするが、体が頭の命令を受け付けてくれない。
う、動いてくれよ。この体……。
「――――。そこまでだ、ダン」
「あ、あ、相棒??」
右肩に違和感を捉えてその場に留まり振り返ると、ハンナが俺の労を労わる様に微かな笑みを浮かべて立っていた。
「奴は気絶している。よく見てみろ、魔力の流れが遅々足るものに変化しているだろ」
彼の言葉を受けてジャルガンの体の奥へ鋭い目を向けると……。
「ほ、本当だ……」
奴の魔力の流れは微弱に変化して体内をゆるりとした速度で循環していた。
「早く力の解放を解除しろ。そのままでは死ぬぞ」
「お、おう。分かった」
ハンナに急かされる様に深呼吸を続けて力を解除した刹那。
「ぎぃぃやああああ――――ッ!! いっでぇぇええええええ!!!!」
体中に頭がイカレてしまう程の激しい痛みが襲い掛かって来やがった!!
岩をも穿つ鋭い先端を持つ針が全身をプスプスと突き刺し、体の中に収まる筋肉は巨人が人の体を弄ぶかのように有り得ない方向へと捻じ曲がり、更に戦闘で負った負傷箇所から激痛が迸り全身へと駆け巡って行く。
余りの激痛により両腕で己の体をヒシと抱き締めて土の匂いが蔓延る大地の上をのたうち回るが……。
『ハハ、そんな程度じゃ俺の痛みは収まらねぇぜ??』 と。
俺の体に居座る痛みちゃんは満面の笑みを浮かべてこの行為は無駄であると声高らかに宣言してしまった。
「い、痛過ぎて死ぬぅぅうう!!」
「その痛みは魔力の二属性同時展開と負傷、更に先のキマイラとの戦闘で解放した貴様自身の力の反動だろう。それよりも……。何故急に俺と似た力を解放出来たのだ」
そんな事を聞くよりも先ずは心配の声を掛けるべきじゃねぇの!?
「いちち……。何んと言えばいいのかなぁ?? ジャルガンの槍が俺の心臓に向けられるとさ、ほら前にも言ったけど目の前に映る物全てがすっげぇ遅く感じ始めたんだ。それからハンナの姿を捉えて、んでお前さんはあぁして二つの異なる属性を混ぜ合わせて使用しているんだなぁって思った訳よ」
先の状況を説明しつつも地面の上をのたうち回り続ける。
「見ただけで使用出来たのか。ふむ……、それは恐らくこれまで俺と組手をし続けて得た経験と聖樹殿から受け賜った抵抗力の御業の御蔭なのかもな」
「そんな事はどうでもいい!! このふざけた痛みを何んとかしてくれよ!!」
ほ、ほら!! 槍に開けられた穴から血がわんさか出て来たし!!
「今直ぐに死ぬという事もあるまい。それに……、見てみろ」
相棒が整った顎先を東の空へ向けるのでそちらに視線を向けると。
「あん?? おぉ――……。もう直ぐ夜明けか」
巨大な光の玉が大欠伸を放ちながら東の地平線から昇って来る暁の空を捉えた。
漆黒を打ち払う光の存在が瞳の中に入って来ると多少ではあるが、痛みが和らいだ気がするぜ。
「今回も何んとか生き残る事が出来たな……」
疲労と痛みを籠めた吐息を長々と吐いて戦場に未だ燻ぶる闘志の欠片を吸い込んで話す。
「あぁ、この戦いで俺はまた一つ強くなれた。ジャルガンには礼を言わねばなるまい」
「礼が伝わる頃にはアイツは牢屋の中さ。後は人質であるティスロの家族と使用人に事情説明しないとなぁ」
果たして疲弊しきったこの体でそれを行えるかどうか、甚だ疑問が残る次第であります。
「その前に治療だ。その出血量では貴様の命はもって後一時間程度だろう」
ちょっと止めて?? 俺の死を微妙に分かり易い数値で示すのは。
「物静かな鼠ちゃんに治療を頼みましょうかね。ほら、噂をすれば影という奴さ」
俺が屋敷に向かってクイっと親指を差すと。
「うぉぉおおおお――――い!! こっちは終わったぜ――!!」
「ダン!? 貴様……。一体何が起こったのだ!?」
黒装束を身に纏う元気一杯な野郎二人が此方に向かって駆けて来てくれた。
「あの元気が羨ましいぜ……」
「今回ばかりは貴様の意見に賛成する……」
ハンナが力無く地面に座り込むと物凄く疲れた表情で俺に視線を送った。
そして彼と目線が合うとどちらが示した訳でも無く、共に笑みを浮かべた。
「ハハハ、ひっでぇ面だな」
「ふっ、貴様も人の事を言えないだろう」
「二人の男が顔を合わせて何笑ってんだよ。うぉっ!? ダン!! お前大丈夫か!?」
俺の傷口を見たフウタがギョっと目を見開いて患部を見つめる。
「こ、これが大丈夫に見えるのならテメェの目は節穴って事さ」
「だ、だろうな!! よぉ!! シューちゃん!! 先ずはダンから治療してくれ!!」
「承知」
シュレンが地面の上に横たわる俺に近付くと右手に淡い水色の魔法陣を浮かべて早速治療に当たってくれる。
「そ、そっちはどうだった??」
「うへぇ、いたそぉ――……」
さり気なく傷口をそ――っと突こうとする横着者の手を払って尋ねる。
「居間を占拠していた二名は某達が無力化。拘束した後にティスロ殿の家族並びに使用人を解放した。もう間も無く此方にやって来るだろう」
「中々の使い手でよぉ合流が遅れちまった。わりぃな、二人だけに苦労を掛けて」
「何だ、俺達を気遣えるようになったのか??」
口元をニィっと曲げて傷が目立つ黒装束を身に纏うフウタを見上げてやった。
「御所望ならもって揶揄ってやるぜ??」
「けっこ――。今は……、そう今だけはゆっくり休ませてくれ……」
大変悪い笑みを浮かべる彼から視線を外すと頭上一杯に広がる青空へ向かって視線を向けた。
本日の空模様もスカっと晴れ渡り、今日もまた暑い一日が始まるだろうと予感させてくれる。
東の空が刻一刻と光の強さを増すと夜の闇は西の彼方へと追いやられ、空は黒と青が美しくせめぎ合う色合いを放つ。
その自然豊かな光景を捉えると素直な感嘆の吐息を漏らした。
相棒は死闘によってまた一つ強くなれたと喜々とした表情を浮かべていたが……。俺は彼の様な気持ちが髪の先程も浮かび上がって来なかった。
今、心に浮かぶ素直な気持ちは……。
あぁ、今日もそしてこれからもこの美しい自然を捉えられると思うと嬉しさが込み上げて来るって感じかな。
そして気紛れでいい加減な幸運の女神様よ、出来れば次からはも――少し優しい依頼を送り届けて下さいまし。
日常の中に浮かぶ美しき空へ向かって俺の真なる願いを唱えるが。
『うふっ、当然ながらそれも却下ですっ』
意地悪な女神様は満面の笑みを以て俺の願いを右手で容易く跳ね退けてしまった。
へいへい、分かっていますよ。今も、そしてこれからも己の耳を疑いたくなる様な危険と死が迫って来る事はさ。
今の俺に出来る事は只一つ。
馬鹿みたいに眠って体の疲労と痛みを拭い去る事のみ……。
「だ、大丈夫でしたか――!?!?」
「喧しい!! 同士が死にそうなんだから叫ぶんじゃねぇ!!!!」
俺の容体を態々確認しに来てくれたティスロの父親よりも更に巨大な叫び声を放ってしまったフウタの横顔を静かに見つめていると、只眠るだけという行為ですらも困難になってしまうだろうと人知れず悟ったのだった。
お疲れ様でした。
本話で戦った大蜥蜴さんなのですが第二部でも登場予定です。彼の過去を描き切れなかったのが大きな要因なのですがその話も第二部の方がしっくり来ると感じましたので……。
これにて死闘は終わりを告げて王女様の呪いを解く作戦が始まるのですけど……。当然、すんなりと上手く行く筈も無く。彼等は三度の苦労を味わう事になるでしょうね。
そのプロット作業が難航しておりまして、次の投稿は少々遅れるかも知れません。予めご了承下さいませ。
そして、評価をして頂き有難う御座います!!!!
砂と大蜥蜴の王国編も間も無くフィナーレを迎える前に本当に嬉しい励みとなりました!!!!
滅茶苦茶嬉しいです!!
それでは皆様、引き続き素敵な週末を御楽しみ下さいませ。