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今日も今日とて、隣のコイツが腹を空かせて。皆を困らせています!!   作者: 土竜交趾
過去編 ~素敵な世界に一時の終止符を~
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第百四十二話 本物の実力者 その二

お疲れ様です。


後半部分の投稿になります。




瞬閃烈破しゅんせんれつはッ!!!!」


「ぐぇっ!?!?」



 ジャルガンが中段の構えから槍を素早く俺に向かって突き出すとほぼ同時に常軌を逸した痛みが左の肩口に襲い掛かって来た。



「いっでぇぇええええ!! な、何をされた!?」



 槍の一撃を受けて後方に吹き飛ばされて地面を転がり続け、その勢いが漸く停止すると怪我の状態を確かめる。


 う、うわぁ……。左肩に穴が開いてんじゃん……。


 漆黒の装束の開いた穴の淵は朱き槍の付与魔法の影響を受けて微かにブスブスと燻ぶり、肉に開いた穴からも鼻腔が辟易する焦げ臭い匂いが立ち込めていた。



 これがジャルガンの突き技、瞬閃烈破か。


 臆病な性格が幸いして後ろ足加重にしていたお陰で貫通にまでは至らなかったがこれを胸に食らっていたら俺は今頃あの世で御先祖様達とご対面していた所だったな……。



「遅いぞ!! ハンナ!!」


「それは此方の台詞だ!!」


「い、いちち……。出血がそこまで酷くないのは野郎の炎のお陰か」



 左肩を抑えて立ち上がり今も死闘が繰り広げられている戦場へ視線を送る。


 互いの戦力は拮抗している様に見えるがその実、押されているのは相棒だな。


 素晴らしい剣技は全て炎を纏った槍に受け止められ返す技で徐々にハンナの体力が削られて行く様が如実にそれを物語っていた。


 相棒が放つ魔力と圧の方が上なのに一体何故ジャルガンは彼の攻撃を受け止め、そして更に反撃に転じる事が出来るのだろう……。


 絶対何かからくりがある筈だ。


 よく見ろ、感じろ。



「……ッ」



 獲物を前にした猛禽類の瞳を優に超える鋭い目で奴の体の筋線維、体内を流れる魔力を注意深く捉え始めた。



「そこだっ!!!!」


 相棒の体から呆れる程の力の塊が発せられると奴の上半身に向かって鋭い一撃が放たれる。


 ジャルガンはそれをハンナよりも弱い力の鼓動で受け止めようとしたのだが……。


「いいぞ!! 今のは良い攻撃だった!!」



 剣と槍が交差する刹那。


 本当に良く見ないと理解出来ない速度でハンナと同程度までに力と魔力を高めて素晴らしい剣技を受け止めた。



 ははぁん……。成程、成程ぉ。そういう仕組みだったのねぇ。


 奴の体を穴が開く程に観察していたお陰で全体像が朧に理解出来たぞ。



 ハンナの体の中に流れる魔力は常に全方位へと向かって濁流が下流へ向かう様に苛烈に流れているが、ジャルガンの体内に流れる魔力は一部に留まり。そして要所要所で炸裂させて彼の剣技を受け止めている。


 力を留め、その時が来たのなら一気苛烈に炸裂させる。要は力の流れをせき止めているって奴だ。


 それは体内に残存する魔力然り、魔力の源から流れ続ける古代種の膨大な力然り。


 魔力の容量が少ない俺が魔力を使う時と似たような仕組みだな。


 仕組みが理解出来ても俺達はどの道奴を倒さねばならない。しかし、仕組みが理解出来たのは大きな収穫だぜ。



「第一の刃……。太刀風たちかぜ!!!!」


 ハンナが微かに腰を落として切っ先から風の刃を繰り出すと。


「ぜぁぁああああ!!!!」



 ジャルガンは己の胴体を真っ二つにしようとして襲い来る風の刃を上段から繰り出す一撃で粉々に粉砕した。


 ほら、今も槍を振り下ろす時に力を炸裂させたよな?? そして、その後……。



 人が瞬きをする程度の間だが魔力が途切れるほんの微かな時間を確認出来た。



 時間の最小単位を表す言葉は知らねぇが、それよりもかなり短い時間だけど魔力を炸裂した刹那に奴の体に隙は確実に生じる。


 一秒、いいや。その十分の一にも満たない隙を穿てば勝ちの目はあるぜ!!!!



「ぬふふぅ……。よぉしっ、反撃開始としますかね!!!!」



 勝算は正直かなり薄い。


 そりゃそうだ。野郎は俺達を殺す気で攻撃に転じて来る、その微かな隙を穿とうとするのだから


 しかし漸くこの戦いに光明が見えて来たのだ。


 痛みはこの際忘れろ、後の事は一切考えるな。今は奴を倒す事だけを考えるべき。


 本当に微かだが勝利への道筋を捉えた体に力が漲って来やがったぜ!!



「やい!! そこの大蜥蜴!! 今度は俺が相手だ!!」


 徐々にハンナを追い詰めて行くジャルガンの背に向かって叫ぶ。


「はは、俺の技を真面に食らって立ち上がる処か。先程よりも強き圧を纏って帰って来るとはな。全く……」



 さ、さぁ……。来るぞ!! 俺の体よ!! 頼むから思い通りに動いてくれよ!? 


 恐怖で足が竦み、この場から逃げ出そうとする弱気な心に強烈な往復ビンタをブチかましてその時に備えた。



「嬉しさで体がどうにかなってしまいそうだ!!!!」


 げぇっ!! は、速過ぎるだろうが!!!!


 十メートル以上の距離をたった一歩で消し飛ばすんじゃねぇよ!!


「いぃっ!?!?」


 目の前に迫った槍の穂先を、首を傾けて間一髪回避。


「はぁぁああっ!!!!」


「うぉぉおおっ!?!?」



 俺の体を両断しようとして上下乱舞する槍の攻撃に対して必死に抗い始めた。


 ま、まだだ。この距離じゃあ俺の攻撃は当たらない。


 勝気に逸った奴を俺の間合いにおびき寄せてそれから反撃に転じる。



 そして、奴が俺の攻撃を受け止めて返し技を放つその刹那を狙いすませ!!!!



「くっ!! くぅぅうう!!!!」


「ちっ!! 上手く避け続けているがこれならどうだ!?」


 ジャルガンが炎を纏う槍を中段に構えて俺の胴体に風穴を開けようと素晴らしい速度で突いて来る。


「ふんっ!!」



 右手に持つ短剣で微かに穂先の軌道を逸らして相手が槍を引き付けるよりも早く前へ飛び込み、そして漸く己の間合いに置く事に成功した。



 畜生めが。間合いに入れるだけでよもやこうも苦労するとはね!!


 しかし!! これだけ近ければ槍を器用に動かせまい!!


 爬虫類特有の饐えた匂いが漂う空間の中で短剣の柄を深く握り締めて最強の拳を形成。



「甘いぞ!! 懐に潜られたくらいで俺が動揺すると思ったか!!」


 俺が拳を握るとほぼ同時、彼の手元に戻って来た槍よりも素早く目の前の大きな壁に激烈な拳を繰り出してやった。


「ちっ!!」



 これで当たれば儲けものと考えていたけど、世の中はそう甘くないよな!!


 拳に届いた感触は生肉をブッ叩く心地良い物では無く、想像以上に硬い鉄を叩いた残念な代物であった。



「惜しかったな。刹那にでも俺に焦りを生んだ貴様の攻撃を褒めてやる」



 さ、さぁ!! ここだぞ!! これを死ぬ気で躱して攻撃に転じろ!!


 上空から降り注いで来るジャルガンの言葉を受け取ると丹田にそして両足に力を籠めてその時に備えた。



「だがこれで終わりだ!! 死ねぇぇええっ!!!!」



 ジャルガンが一歩下がって俺から距離を取ると先程俺にブチかました突き技を披露する。



 そうそう!! 俺が求めていたのはこれなんだよ!!


 俺の体よ!! 避けようとするんじゃねぇ!! 前だ、前に出ろぉぉおお!!!!


 眼前に迫り来る炎を纏った穂先を捉えると左足に願いを、そして右足に勇気を籠めて宙に舞い上がった。



「ハァァアア――――ッ!!!!」


「なっ!?」



 空中で槍の突出を回避。


 前に出た勢いと宙で回転する遠心力、更にぃぃいい!! 右足に纏う炎の力を合わせた武の結晶をジャルガンの頬に向かって解き放つ。


 頼む!! 当たってくれ!!!!


 これが外れたら俺に勝ち目はないッ!!!!



「せりゃぁぁああああ――――ッ!!!!」


「うぶぐっ!?」



 俺の想いを乗せた一撃は野郎の頬に命中。


 右足の甲に心地良い感覚が一杯に広がり着地と同時に戦闘態勢を整えて現状を確認した。



「クッ……」



 お、おぉ――っ!!!! 随分とまぁ遠くに吹き飛びましたなぁ!!


 俺の烈火桜嵐脚の直撃を受けたジャルガンは吹き飛んだ後に地面の上を転がって行ったのだろう。


 かなり離れた距離で片膝を着きそして腫れた左頬を痛そうに抑え付けていた。



「どうだ参ったか!! それがテメェの弱点なんだよ!!」


「弱点??」


 荒い息を整えながら俺の隣に並ぶハンナが静かな声量で問うて来る。



「あぁ、奴の攻撃は俺の攻撃方法に似ていてさ。攻防の際に魔力を、力を留めて一気苛烈に炸裂させる型なんだ。んで、それを使用した後。ほんっっっっとうに少ない時間だけど魔力や力が弱まる時間がある。俺はそれを狙って攻撃したのさ」



 さぁどうだい?? 俺が看破した攻撃を崇め賜え。


 そう言わんばかりに胸を大きく張ってやったのだが。



「やはり俺が捉えた違和感の正体はそれか。通りで……」


 大変お強くて賢いハンナちゃんは俺を褒める処か、さも自分が先に見付けた様な言い方をしてしまった。


「あのね?? 俺が先に看破したんだから此処は素直に褒める場面なんだよ??」


「俺は次の攻防でそれを確かめる予定だった」


「はい嘘――!!!! 死に物狂いでひぃひぃ泣きべそ掻いて戦っていたじゃねぇか!!」



 強がるのもその辺りにしておけ。


 そんな感じで相棒の肩口をまぁまぁ強い力で叩いてやった。



「ククッ……。俺の戦闘方法が看破されてしまったか」



 単純な技の力、膂力の差、そして間合いの優位。


 例え奴の弱点を看破したとしてもジャルガンの優位性は変わらない。俺とアイツの実力の差はたった一つの弱点で埋まる程のものではないのだから。


 しかし、相棒と共闘するのなら話は別だ。



「お、おう!! そうだぞ!! 俺達はテメェの弱点を執拗にチクチク攻撃してやるからな!! 降参するのは今の内だぜ!?」


 ハンナと肩を組み、ものすっごい憎悪を籠めた瞳で俺の顔を直視しているジャルガンに叫んでやった。


「止めろ。気色悪い」


「おいおい、ここは肩を組み返して奴に啖呵を切る場面だぜ??」


 いつも通りに俺の腕を払ってしまったハンナをジロリと睨む。



「死が直ぐ背に迫っているのをこれ程強く感じた事は無い。やはり俺の目に狂いは無かった」


「と、言いますと??」


「お前達を強き者として認め、全身全霊の力を以て殲滅させるッ!!!!」



 ジャルガンが消えかけた槍の炎を再燃させると燃え盛る闘志を身に纏い俺達と再び対峙した。


 たった一発で萎える玉じゃねぇし、まぁこうなると思ったぜ!!



「相棒!! 最終局面に突入だ!! コイツを張り倒してさっさと帰ろうぜ!!!!」


「ふっ。あぁ、そうだな!! 共に帰るぞ!!!!」



 俺の覇気ある声を受け取るとハンナが剣を中段に構え、勇気ある声で俺を鼓舞してくれた。


 彼の声と闘気が萎れかけた気力を蘇らせて今にも倒れそうになっていた体が思い通りに動いてくれる。


 一つの火なら野郎の炎に飲み込まれてしまうが二つの火なら炎を吹き飛ばす事も可能になる!!


 俺の帰りを待つ世界中の美女達の為にも此処で死ぬ訳にはいかねぇ!! そしてど――かこれからも女の子と楽しい遊びが満足に出来る様、五体満足で帰れますように!!!!


 今も纏う炎と闘気の圧を上昇させ続けている化け物と対峙しつつ、己の欲に塗れた願望を心の中で何度も唱え続けて最終場面の時に備えていた。





お疲れ様でした。


昨日今日と春らしい天候に恵まれていたのですが……。私の鼻は土砂降りの雨といった感じですね。


相も変わらず花粉症に苛まれて苦労しています。一番辛いのは呼吸し辛い事によって執筆が遅くなる事でしょうか。空気が足りない頭では良い言葉が思いつかなくて本当に苦労しますよ……。



ブックマークをして頂き有難う御座いました!!


皆様の温かな応援のお陰で連載を続けている事が出来ています!! そしてこれからも彼等の冒険を見守り続けて頂ければ幸いです!! 本当に有難う御座いました!!



それでは皆様、お休みなさいませ。



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