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今日も今日とて、隣のコイツが腹を空かせて。皆を困らせています!!   作者: 土竜交趾
過去編 ~素敵な世界に一時の終止符を~
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第百四十一話 怨嗟の申し子 その一

お疲れ様です。


本日の前半部分の投稿になります。一万文字を越えてしまったので分けての投稿になります。




 息をするのも憚れた強力な緊張感は潜入活動を続ける内に徐々に収まり、今現在は高揚感と不安が入り混じる大変複雑な感情へと変化している。


 この得も言われぬ感情と同調する様に日常生活の中で行われる拍動よりも微かに早い心臓の音が体内で響き、口から取り込み肺へ送る空気の量は増え、視線は暗闇若しくは屋敷の何処かへと常に送られ忙しなく動き続けていた。


 音や気配を消失させる潜入活動に慣れて来てはいるけども、まだまだ本領発揮とはいきませんか……。


 これから始まる作戦の第三段階を前にざわつく心の水面を鎮める為。深呼吸並びに無意味な動作を行うとしますかね。



『よいしょっと』


「うぅ――ん……」



 玄関脇で気持ち良さそうに眠っている大蜥蜴の両手両足を背中側で縛り、そして宿屋で拝見させて頂いたあの芸術作品へ昇華させようとして自分なりの創意工夫を始めた。



 ん――……。亀甲縛りの縛り方は習っていないから分からないけども。


 アレよりも淫靡且芸術性を高める縛り方は無いだろうか??



『こう?? いやいや……。これじゃあ駄作じゃないか』



 長縄を背中側から体の正面に引っ張り出して野郎の股間辺りでキツク縛り、敢えてそこを強調させようとするが……。


 彼が作り上げた芸術作品には遠く及ばないと即刻で理解出来てしまう。


 フウタは一体の大蜥蜴で生命の力強さと繊細さを同時に表現していた。


 二つの相反する事象は反発する事無く共存しており、それは名立たる芸術家達も認めざるを得ない芸術性だった。



『くそう。全然駄目だっ!!』



 それに匹敵する縛り方を何度も模索するが俺の腕前では精々、生命の起源を強調する所までであった。


 畜生、このままじゃ俺は凡庸な芸術家として終わってしまう!!


 普遍の壁を越え、更なる高みに昇る為の高度な芸術性を身に着けなければ!!!!



『何が駄目なのだ』


『あ、いや。フウタの様な芸術性を発揮したいんだけどさ。それが中々上手く出来なくて』



 呆れた吐息を零して俺の所作を見つめている彼にそう言ってやる。



『股間辺りを強調させて生命の起源を表現してぇ……。そうだ!! 大自然の雄大さを感じて貰う為に木の枝を口に食ませてやるか!!』



 そうだよ、そうじゃん!!


 この無駄にデカイ体を俺達が住む星に見立てれば生命の起源と星の力強さ、更に自然の営みも表現出来るぞ!!


 我ながら大したものだと大きく頷きそうになるのだが、ここで一つ問題が発生した。



『ハンナ、あの東側の塀の近くにある木の枝を折って持って来てくれないか?? お前さんの足なら作戦行動前でも間に合うだろう??』


 そう、手短な場所に俺の芸術性を完成させる為の必要な素材が無いのだ。


『何故俺が貴様の命令を聞かねばならぬのだ』


 わぁ、すっごい怖い顔っ。


『さっきも言っただろ?? こいつの口に食ませてやるんだよ。それで芸術作品の完成って訳さ!!』



 少々大袈裟に両手を広げてこれから始まる芸術の始まりを知らせてやるとどういう訳か、彼は祝福よりも激痛を俺に与えやがった。



『下らない事に時間を使うな馬鹿者!!』


『ンブブブゥッ!?!?』


 岩をも砕く剛拳が脳天に突き刺さると呆れた痛みが全身に広がりそれから微かに遅れて激痛が脳天に広がって行く。


 痛みを誤魔化す様に頭を抑え、声にならない声を出して地面の上を転がり続けた。


『こ、このっ!! ちょっと時間が余ったからそれを有効活用しただけじゃん!!』


 大粒の涙を拭うと俺という存在を完全完璧に無視して屋敷の西側にある居間へと向かって行く彼の背を追う。


『その時間は己の心を研ぎ済ませるべき時間だ。有効活用の意味を履き違えるな』



 それはクソ真面目なお前さんの主観であって俺の主観はあの芸術作品を完成させる事によって心の安寧を取り戻せると感じたのだ。


 自分と他人の主観は本当に相容れないと、未だズキズキと痛む頭の天辺を抑えながら確信した瞬間であった。



『そろそろ時間だ。俺は居間の西側の窓から突入する。貴様は手前側の窓から突入しろ』


『……っ』


 了解。


 そんな意味を持たせて親指をクイっと立てて手前側の窓のすぐ傍に移動を開始。


「「……ッ」」


 ハンナは室内から己の姿を発見されぬ様、大きな体を器用に屈めて窓の下方を進みそして両者共に奇襲出来る最高の場所に配置した。



 数十秒前のふざけたやり取りによって生まれた心の隙を捨て去り集中力を極限にまで高めて行くと室内に潜伏する三つの強力な気配を察知する事が出来た。


 ティスロの家族と使用人を監視する連中達はどうやら中々の使い手の様だな。


 空気に乗って肌にヒシヒシと伝わって来る威圧感と武の道に携わっている者がすべからく備えている圧迫感が俺の緊張感を否応なしに高めてしまう。


 全く……。最後の最後で一番の難関が待ち構えているのは勘弁して欲しいのが本音だぜ。


 しかし、これさえ乗り越えれば祝福の女神様からの熱い抱擁を頂けると考えると多少は気分が楽になる。


 俺は不届き者三名から繰り出される攻撃云々よりも人質の命を確保する為に行動しなければならない。


 いいか?? 絶対にしくじるなよ??


 俺の怪我の心配や仲間の身を案ずるのは二の次だからな……。



『すぅ――……。ふぅぅ――……』



 心の隅にしがみ付いている弱気の尻を蹴飛ばしてやると相棒に視線を送った。



 行くぜ?? 相棒。俺達で最高の結末を迎えようや!!!!



「……っ」


 彼が静かに一つ頷く様を捉えると二人同時に立ち上がり、失敗の許されない作戦の最終段階へと移行した。


 さぁぁああって!! 悪者退治を生業とする問題児集団の登場ですよぉっと!!




「でやぁぁああああ――――ッ!!!!」


 右足で地面を蹴り、両腕を体の前に翳して窓を突き破って居間へ突入するとほぼ同時。


「失礼するぜ!!」


 居間の遠い位置にある扉が勢い良く開かれて人の姿のフウタが現れ。


「はぁっ!!」


 強力な魔力が天井を突き破りシュレンが上方から颯爽と登場した。



「フウタ!! シュレン!! 小太刀だ!!!!」



 素早く現れた彼等に装備を投げ渡して己に課された使命を果たす為に部屋の中央へと移動を開始。



「「「ッ!?」」」



 打合せ通りの完璧な奇襲に三体の大蜥蜴達の反応が微かに遅れた。


 よし!! いいぞ!! 全員面食らってら!!!!


 そりゃあそうさ、一点だけならまだしも異なる三点からの登場だ。これで驚かない奴が居ればそいつはきっと心が死んでいる奴だぜ!!



「食らいやがれ!!!!」


 俺の真正面に居る大蜥蜴にフウタが襲い掛かり。


「大人しくして貰おうか!!」


 居間の左手奥に居る個体にはシュレンが、そして部屋の中央で鋭い瞳を浮かべて人質を監視して朱き槍を携えている個体には。


「貴様の命……。貰い受ける!!!!」


 大好物を前にして涎を垂れ流す大型犬の様に、戦う事が大好きで大変わっるい笑みを浮かべている相棒が突貫して行った。



 面食らっている奴等に三名の雷撃が襲い掛かり俺は初手で完封出来ると考えていたが……。



 どうやら奴等はこれまでの連中と違って一筋縄ではいかない様だな。



「貴様等!! 何者だ!!」


「ちぃっ!! 一発で仕留めようと考えていたのによぉ!!」



「奇襲、か。悪くない作戦だったが俺達には通用せん」


「それはどうかな。某は奇襲を仕掛けなくても貴様よりも強い」



「この力……。ふっ、久々に血沸き肉躍る戦いが出来そうだ」


「それは此方の台詞だ」



 居間を占拠する三名は立ち上がりを抑えられたものの、ハンナ達の攻撃に対して冷静沈着に対処しておりそれぞれが鍔迫り合いの形となって拮抗していた。



 お、おいおい。嘘だろう??


 武の道に携わる者達の奇襲攻撃を何の苦労も無しに受け止めるかね。


 コイツ等は俺が想像している以上の力を備えていやがるな。



「ダン!! 今の内に!!!!」


 大蜥蜴の膂力を小さな体を駆使して受け止めているフウタが部屋の中央付近で力無く座り込んでいる人質四名に向かって顎を差す。


「あぁ!! 分かった!!」



 彼の言葉、そして当初の作戦通りに人質に向かって駆け出して行くのだが……。


 どうやら大蜥蜴ちゃんは此方の思惑通りに事を進めさせたくない様だ。



「死ね」


 ハンナから距離を取った槍の使い手が俺の喉元目掛けて穂先を鋭く突き出して来やがった!!


「どわぁっ!?!?」



 あ、あ、あっぶねぇっ!! 少しでも屈むのが遅れていたら今頃首に大きな穴がポッカリと開いていた所だったぜ。


 空気を切る甲高い音、そして人の急所に向かって一切の迷い無く最短距離を突き抜けて行った強烈な殺意から察するに……。


 恐らくコイツが三人の中で一番の使い手であり、しかも人を殺める事に何の躊躇もない純粋な戦士って感じだな。



「避けたか」


「へへっ、悪くは無い攻撃だったぜ??」



 怯えた表情を浮かべている人質達の前に立ちはだかるゴッリゴリに鍛えられた大蜥蜴を見上げて話す。


 大きさ的にはグレイオス隊長とほぼ同じ、そして積載されている筋力もほぼ同等。体格的に同じ二人で唯一違う点は……。




 体に纏う圧倒的で禍々しい漆黒の殺意だ。




 目に見えぬ筈の気配が体中から溢れ出して体を覆い尽くして対峙する者を圧倒している。


 漆黒の殺意を纏う個体は何をする事も無く只戦闘態勢を維持するだけなのに俺は迂闊に動けないでいた。


 迂闊に動けないのは奴が放つ殺意の影響もあるが、人質という存在も大いに関係している。



「あ、貴方達は一体誰なんですか!?」


 女性の大蜥蜴が慌てた様子で目を見開いて俺を見上げ。


「うぅっ……」


「大丈夫ですよ。何も怖い事はありませんから」


 子供の大蜥蜴は驚きと恐怖の余りに両目から大粒の涙を零し、それを使用人と思しき女性が宥め。


「泣くな、彼等は私達を救いに来てくれたのだから」


 そして恐らく彼が家長だろう。


 俺達の突入に驚きはしたが冷静さを失っていない面持ちでこの戦いを静かに見守っていた。



 おっ、戦いの流れで何となく理解してくれたかな??



「俺達はティスロからの依頼であんた達を助けに来た!! だからもう少し頑張ってくれ!!」



 自分達の娘の名、救助。


 俺の口から発せられた言葉を受け取ると一塊になっている四名の瞳に光が宿った。



「む、娘からの依頼!? 彼女は無事なのか!?」


 随分とやつれた家長と思しき大蜥蜴が口を大きく開いて俺に向かって叫ぶ。


「あぁ、元気一杯さ。訳あって何処にいるのか話せないけどね」


「そ、そうか!! あはは!! 元気なのか!!」



 数か月もの間、娘の安否が分からなかったのだ。そりゃ安堵するのも頷けますよっと。



「おい、貴様。我々を裏切ったティスロは何処に居る……」


 朱き槍を構えた個体がドスの利いた声で尋ねて来る。


「言う訳ねぇだろうが。お前さんの頭は空っぽなのか??」


「そうか。ならば貴様達も拘束して、酷い拷問を与えて奴の場所を突き止めてやる。そして……。憎き王族を皆殺しにしてくれよう」



 お、おぉ……。決意表明するのは構いませんけどね??


 も――少しだけ殺意を抑えません?? 此処に居るのは俺達の様な無頼漢だけじゃなくて戦闘が苦手な人も居ますので。


 魔力と殺意が入り混じった圧が奴の体から発せられると広い居間が微かに震え始めた。



「憎き王族?? お前さん達、反政府組織砂漠の朱き槍だっけか。何で政府にたてつこうと考えたんだよ」


「我々の祖先はシェリダンの大軍勢に殺された。祖先の果たせなかった憎しみ、怨念を我らが晴らすのだ」


「い、いやいや!! そんな大昔の話を持ちだしたらキリがねぇじゃん!!」



 数時間前、数日前の殺人なら分かるけども。数千、数万年前の殺人事件を動機にして政府に喧嘩を売るってのは如何なものかと思いますぜ!?



「ダン、コイツ等は体の髄までそれを叩き込まれて育って来た。憎しみを晴らす事だけが生きる原動の悲しい存在だ」


 相棒が少しだけ悲し気な表情を浮かべて槍を持つ個体を見つめる。


「貴様等にとっては大昔だろうが……。我々の祖先は土地を奪われ、家族を奪われて亡くなったのだ。どれだけ辛かったのか、それは筆舌に尽くしがたい」



「そこのデケェ大蜥蜴!! 筆舌にウンタラカンタラってどういう意味……。あっぶねぇな!! 俺様の首を切ろうとすんじゃねぇ!!!!」


「クソが!! 避けるな!!」


 誰だって緊迫する場面だってのにアイツは自分を決して曲げないな。


「言葉では表現出来ない程酷い有様って意味だよ」


 彼の代わりに代弁してやる。


「有難うよ――!! はっはっ――!! 今度は俺様の番でぇぇええい!!!!」


 小さな体の利点を生かして大蜥蜴の懐に踏み込むと小太刀の鋭い一閃を大蜥蜴の腹部へ叩き込むが。


「ぬぅっ!?」


「ちっ!! うめぇな!!」


 右手に持つ剣の腹でフウタの一撃を受け止めて再び距離を取った。



「えっと……。どうしても彼等を此方に引き渡す気は無いのかい??」



 これが最終分水嶺だ。


 右手に黒き短剣を握り締め、彼の憎悪に塗れた瞳を直視して問う。



「無い。今回の事件が露呈されてしまった以上、これからもコイツ等は人質として役に立って貰う。そして貴様等からティスロの居場所を聞き出し、再び拘束して我々の組織の為に血を流させるつもりだ」



 ふむふむ、成程ね……。


 元から話して分かる奴等だとは思っていなかったけどこうも此方の話が通じないと思わなかったぜ。


 善良な市民にこれ以上の苦痛を与える訳にはいかんし、それと何よりあのすんばらしい標高の双丘をテメェ等に渡す訳にはいかねぇんだよ!!



「そっか、それなら……。わりぃけど実力行使させて貰うぜ??」


 静かに腰を落としていつでも動ける様に戦闘態勢を整える。


「コイツは俺の獲物だ。手を出すな」



 ハンナちゃん?? こういう時はみんなで片付ければ早く帰れるんだよ??


 仲の良い友達の家にお邪魔して部屋を荒らしたワンパク小僧を宥める台詞を頭の中で唱えてやった。



「今日に限って我が槍が震えていた理由が今分かったぞ……」


 く、来る!!


「貴様等の血を求めていたのだとな!!!!」


「ッ!?」



 はっやっ!!!!!!


 少なく見積もって五、六メートルあった距離を瞬き一つの間に零にすると朱き槍の穂先が地面から物凄い勢いでせり上がって来やがった。


 た、頼むぅ!! 俺の体、動いてくれよ!?



「んぎぃっ!!」


 背中の筋力が捻じ切れても構わない勢いで上体を逸らすと顎先に微かな痛みが生じる。


 よっしゃ!! 薄皮一枚掠ったけど回避出来たぜ!!


「ほぅ……、反応は良し。それなら膂力はどうかな!?」



 当然そう来ますよね!!


 仰け反った体目掛けて今し方振り上げた槍を猛烈な勢いで叩き込んで来やがった!!


 これ以上体は曲げられねぇから受け止めるしか無いか!!



「フンガァァアア!!!!」



 短剣の腹と槍の穂先が衝突すると眩い火花が周囲に飛び散り、それから微かに遅れて思わず辟易してしまう力の重さが襲い掛かって来た。



 おっめぇぇええ!! 何、コイツ!? 岩でも食って生活してんのか!?


 腕の筋力が捻じ曲がっちまうってぇ!!



「ははっ、膂力も合格だ」


「ご、合格だぁ!? テメェ!! 誰に物を言っているんだ!!」



 真正面に聳え立つ壁に向かって蹴りを入れてやりたいが……。それはちぃとばかし難しそうだ。


 少しでも足の力を抜けば朱き槍の穂先が俺の体を圧し潰してしまうからね。



「これだけの実力差を見せつけられても決して折れぬ勇気。殺すには惜しい存在だ」



 相棒、頼むぜ!!


 無防備なコイツの背にすんばらしい剣技を叩き込んでやってくれ!!



「……ッ!!」



 俺の危機を捉えた彼は無言のまま剣を手に取り此方へ向かって来る。


 そしてハンナの剣技が大蜥蜴の背に迫った刹那。



「お前も良い。今の殺意は俺も危機感を覚えた程だ」


「ぐぅっ!!!!」



 朱き槍を俺に向かって振り下ろしつつ強力な筋力が備わっている尻尾を彼の腹部へと直撃させた。



 嘘だろ!? コイツ等の尻尾ってあんな早く動かせたのかよ!?


 王都守備隊の連中が見せてくれた攻撃の中に尻尾による一撃もあったが……。アレは紛い物でこっちがどうやら本物のようだな。


 尻尾が空気を炸裂させる程の馬鹿げた音を奏でると相棒の体は木製の壁を通り抜けて屋敷の広い敷地へと吹き飛ばされて行ってしまった。



「テメェ!! 俺の相棒に何を……」


「次は貴様の番だ」


 上空から襲い掛かる力の重圧に対して必死に耐えていると暗い闇の中で大変肝が冷える音が耳に届く。


「ちょ、ちょっと待っ……!!」



 止めて!! 両手が塞がっているんだからどう考えても避けようがないでしょう!?


 俺の懸命な命乞いに耳を貸す道理も無い大馬鹿野郎は有無を言わさずに強烈な尻尾の一撃をがら空きの腹に叩き込みやがった!!



「うげぇっ!?!?」


 左の脇腹に激しい痛みが生じるとほぼ同時に俺の体は物理の法則に従って壁へと直進。


『二回もぶつかって来るんじゃねぇ!!』 と。


 木製の彼から大変手厳しい言葉を体全体で受け取り、砂と草の香りが漂う地面の上を一度二度跳ねて漸く体が停止してくれた。



「い、いてて……。あのクソ野郎が!! 待てって言ったのに何で攻撃して来るんだよ!!!!」



 大変分かり易い憤り放ちつつ立ち上がり、月の怪しい光を浴びて朧に浮かぶ屋敷に開いた二つの穴に向かって叫んでやった。


 この痛み……。多分、というか確実にヒビが入っていやがるな。


 肺に空気を送るとズキっとした痛みが生じるのが良い証拠さ。



「派手に飛んで来たな」


 俺より先に敷地内に到着したハンナが正面を捉えながら話す。


「お前さんと同じ痛みを享受出来て幸いですよっと。相棒、作戦変更だ」


「変更??」


「当初の段取りでは俺が人質四名を先導する予定だったけど……」



 荒い呼吸を整えてこれからの予定を伝えようとしていると。



「……ッ」



 強力且凶悪な戦士が居間の窓を軽やかに飛び越えて月下に姿を現した。


 目に宿る殺意は歴戦の勇士をも慄かせて体に纏う圧は圧倒的強者感を醸し出す。


 月光を浴びている朱き槍は怪しく光り戦士達の血を求める様にドス黒い怨嗟の声を叫んでいた。


 ひゅ、ひゅぉぉおお……。只歩いて来るだけでも超怖いじゃん。


 まるで無念を抱いて亡くなった大勢の死人達の怨念を身に纏っているみたいだな。


 心に浮かぶ怯えを闘志によって消し去ろうとするものの体は正直者だ。奴が一歩、また一歩近付いて来る度に恐怖によって微かに震え始めてしまった。




お疲れ様でした。


これから冷やしうどんを食した後に編集作業に取り掛かりますので次の投稿まで今暫くお待ち下さいませ。

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