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第十四話 紛う事無き虎皮羊質

お疲れ様です。本日の投稿になります。


日曜日の夕方、如何お過ごしでしょうか??


休日を満喫しながらご覧頂けたら幸いです。




 広大な部屋に一人の女性の陽性な声だけが無情に響く。


 その間、俺は身動き一つ取れずにその音の発生源へと視線を送り続けていた。



「それでさぁ――。お父さんの仕事関係の人にはニコニコと取り繕うような上っ面を浮かべて、私も窮屈な思いをしている訳なのよ。素敵なお嬢様ですね――っとか。家の息子と是非お見合いを――だとか。もうウンザリ!! 偶には自由奔放に過ごしたいと思っていたのよね――」


「――――――。はぁ」



 一呼吸で放った長い台詞に対し、たった一言で返すのは些か不憫だと思われますが。これが精一杯の返事なのです。


 そりゃあそうだろう。


 外見はお淑やかで、万人が認めるであろう美女足る姿なのに……。



「ちょっと、素っ気ない返事しないでよ。頭の中、空っぽなの??」



 彼女の口から放たれる言葉は常日頃からギャアギャアと喧しく放つ、深紅の龍の凶悪な言葉に類似したものなのだから……。



 これを例えるのなら、そう。



 大変綺麗に良く晴れ渡った朝空、美人の妻が物言わずとも用意してくれた朝食の食卓の席に着き。



 これから始まる食事に対して此れでもかと高揚した気持ちで生卵を机の角でパカっと割ると、卵の中から想像とは正反対のフワフワの毛を引っ提げたヒヨコが出現し。


 超絶可愛い円らな瞳でキリッ!! と此方を見上げ。




『残念だったなぁ!! 既に孵っていたのさっ!!』 と。




 鋭い飛び蹴りを顔面へと真面に食らって椅子からひっくり返って落ちてしまった。



 長ったらしく例えを出しましたが、端的に言えば。


 それだけ驚いたって事です。



「あ、いや。大変驚いてしまっているので質素な返事になってしまいました」


「あっそ。じゃあ、レイドの此れからの予定を伝えるわね」



 宜しくお願いします。


 その意味を籠めて一つ大きく頷いた。



「この四日間。私の命令に従う事、以上よ」



 単純且明瞭な命令で助かります。


 しかし……。


 もう少々詳細に知りたいので、楽な姿勢で椅子に腰掛ける彼女に問うた。



「えっと……。それはつまり……。レシェットさんの護衛に就く事で宜しいのでしょうか??」



「ちが――う――。レイドは私の玩具なの」



 いや、自分は生き物ですからね。


 道具ではありません。



「玩具の役目はなぁに??」



 にぃっと恐ろしい笑みを浮かべ、白い肌が目に付く長い足をすっと組み替えた。



「玩具の持ち主に対し、陽性な感情を与える事です」


「そう!! 正解!!」



 此方に向かってビシッ!! っと指を指す。



「つまり!! レイドには私を楽しませる義務がある訳」


「いや、自分の役割はあくまでも護衛の任なのです。陽性な感情を与えるのは二の次、三の次かと……。扉の前で待機して居ますので失礼します!!」



 これ以上此処にいたらとんでもない要求を吹っ掛けられかねん!!


 そう考え、今も怪しい笑みを浮かべる彼女から脱兎も太鼓判を押す速さで逃げ出そうとするのだが……。



「ふぅ――ん。いいのかなぁ?? 私が傷物にされたってレイドの上官に告げ口しちゃうぞ――??」



 その言葉を受け、扉の取っ手に伸ばす手をピタリと止めた。



「傷物も何も……。一切手を触れていませんが??」



 恐る恐る振り返ると。



「超簡単よ。ほぉら……。こうしてぇ。服を淫らに崩せばぁ……。誰だってぇ、私の言う事を信じてくれるでしょ??」



 上着をすっと着崩し、華奢な体に分不相応な双丘を収めるシャツの胸元を開く。


 俺も一人の男ですからね。


 興味が湧かない訳ではありませんが……。直視すれば何を言われるか分かったもんじゃ無いので適度に視線を反らしつつ叫んでやった。



「わ、分かりました!! お願いしますからそこで止めて下さい!!!!!」



「あはっ!! 最初から私の言う通りにすればいいのよ」



 此方の泣き叫ぶ懇願を受け。乱れた着衣を直し、快活な笑みを浮かべた。



「着衣の乱れが駄目だったら……。レイドの態度が気に食わなかった。十分では無い仕事の結果だった。って、幾らでも告げ口も出来るし」


「つまり……。どう足掻こうが自分に、拒否権は無いと??」



 恐らくそういう事でしょうね。



「そっ。理解が早くて助かるわ」



 こっちは全然助かっていません。


 寧ろ、窮地に追いやられています。



「では、任務を早速開始させて頂くのですが……。自分は何をすれば宜しいので??」



 床へと四つん這いの姿勢を取り、愛犬宜しく鳴けとか勘弁して下さいよ??


 大変御硬い唾を喉の奥に流し込み。彼女の命令を待つ。



「じゃぁあ……。レイドの生い立ちを教えてよ!!」



 ほっ。


 何だ、そんな事か。もう間も無く十六を迎える子に相応しい考えですねぇ。


 強張っていた肩の力を抜いて幼少期の頃からの話を伝えようとすると。



「あ、ちょっと待った。先に聞きたい事があったんだ」


「何ですか??」












「レイド。あなた、童貞??」



 全く……。


 最近の子は……。



 倫理観というか、アケスケというか。そういう事を他人に聞くべきでは無いのですよ??



「『道程』。 つまり、此処に至った道の事ですよね。王都レイモンドから此処、レイテトールまでは」


「あはっ。違うよ?? 性体験は既に済んでいるのかって聞いているの」



 まぁ、そのワクワク感が満載された顔ですとそっち方面の意味であると理解出来ましたがね。


 敢えて違う意味で捉えたのに……。



「その問いに答える義務は自分にはありません」



 敢えて感情を籠めない声色で話すと。



「ふぅん?? あっそ。それじゃっ」



 シャツのボタンに手を掛け、すぅぅっと大きく息を吸い込む所作を取ってしまった。



「わ、分かりました!! 答えますよ!!」


「最初から素直に従いなさいよ。駄犬ねぇ」


「性体験はその…………。えっと……」



 何で齢十五の子にこんな事を話さにゃならんのだ。


 この歳になってまだ未体験ってのは流石に不味いのか??



 同期の連中は粗方済ませたと聞いた事があるが……。別に未経験だからといって何も後ろめたい理由は無いよな??




「あ、ありません」



 声に出した刹那。自分でも呆れる位に理解出来てしまう熱量が顔を襲った。



 べ、別に!?


 体験済みだからって偉い訳じゃないんだからね!? 


 いずれは俺にも訪れる…………、筈ですので。別に焦る必要は無いのですっ!!




「うっそ、意外。あの可愛い人達とヤリまくっていたんじゃないんだ」


「あ、あのですね。彼女達は友人であり、大切な仕事仲間なのです。そういった目で見るのは失礼に値します」



 里を治める族長の娘、でしたり。


 大海を従える恐ろしい力を持つ娘でしたり。密林の女王様の娘でしたり。


 未来永劫飯を食い続ける者、でしたり。



 おいそれと手を出して良い者じゃないのです。



「クソ真面目なのねぇ。軍人って聞いたからにはもっと粗暴で乱暴で、横着者だと考えていたのに」



 もしもし??


 御言葉が悪いですわよ??



「軍人の中には自分みたいな真面目な者が居るのですよ」


「自分が一番強いんだ――って言う奴をさ。踏んづけて、足腰立たない位に痛め付けて。目に涙を浮かべて許しを懇願するまで指導してやろうと考えていたのに。つまんない」



 お、おぉ……。


 良かったぁ、真面目な性格で。



「あ、でも。真面目な男を屈服させるのも悪くないわよね??」


「十分悪癖です」



 ケロっとした顔で、とんでもない言葉を放つので速攻で訂正してやった。



「時間は腐る程あるし。体に馴染む様に調教してあげるから安心しなさい」



 安心、その言葉の使い方が間違っていますよ――っと。



 そう言えたらどれだけ楽でしょうかね。



「ほら、聞いててあげるからさっさと生い立ちを話しさない」


「はっ、了解しました。自分は空気も凍る吹雪の中、人一人存在しない雪原に放置されている所を運良く保護されました。それからは孤児院で育ち……」



 彼女から大変長い距離を保ち、自分のつまらない生い立ちを端的に説明していく。


 俺がどういった経緯で生まれ、育ったのか大変興味がそそる様で?? 足を組んだまま。ずずっと此方に前のめりになってしまう。


 その所為か。



 胸元の横着なお肉さんが見えてしまいそうになるので、視線を上げ。


 木製の天上に存在する矮小な染みを見つめながら、彼女から受け賜わった命令を滞りなく真面目に遂行し始めた。






















 ◇












 ボケナスと分かれ。無駄に長い廊下を進み続けていると、とある扉の前で姉ちゃんが足を止めた。



「此方へどうぞ」



 綺麗な音を立てて開く扉を潜り、引き続き踏み心地の良い絨毯の上を進む。



 ん――。


 応接室?? みたいな部屋か。



 中央にこの屋敷同様デカイ机がドンっと腰を下ろし、それを挟む様にフカフカのソファが置かれているし。



「どうぞお掛け下さい」



 黒髪の姉ちゃんに促されるまま座ると……。



『おぉ!? 何、これ!! 滅茶苦茶座り心地良いじゃん!!』



 想像の二個上を行く座り心地によって私のお尻ちゃんが大変ご満悦な顔を浮かべてしまう。



『んぉっ。本当だ……。こりゃいいや』



 我が友も満足をいく効用を得られたのか。


 阿保みてぇにデカイ胸とは真逆の、意外と小振りなお尻をポンっと一つ弾ませていた。



「では、早速屋敷の警護のご説明をさせて頂きます」



 正面にお行儀良く座った姉ちゃんがこれまた静かに口を開く。



「我々はレシェット様のお食事の用意、身支度、お部屋の清掃に携わらなければならないので屋敷の警護の任はマイ様達四名に委任させて頂きます」



『あの小娘、一人じゃ何も出来ねぇのか』



 自分の部屋位は自分で掃除しろっつ――の。



『アイシャさん達は使用人です。彼女達は己に課された仕事を全うするのが当然でしょう』



 まっ、それもそうか。


 此れだけ広いと清潔な外観を維持するのも大変そうだし。致し方ないって所かしらね。




「間も無く……。午後四時になります」



 此方から見て左手側。


 壁際に静かに立つ柱時計が指し示す時刻を確認し。



「午後四時から午前零時まで、午前零時から午前八時、そして午前八時から午後四時まで。屋敷の警護は八時間、三部制にします。班別けは其方でお決め下さい。大変な任かと思われますが……。御助力を頂けるようお願い致します」



 至極冷静な声色で残酷な仕事内容を告げてしまった。



『え――!? 八時間も突っ立ってろって言うの!?』



 暇過ぎて死んじゃうわよ!!



「続きまして、お食事の時間を説明させて頂きます」

『待ってましたぁああああ!!』



『忙しない奴め……』



 ユウが私の頭をポンっと叩く。



 仕事内容云々よりも私にとってそっち方が大切なのよ?? お分かり??


 そんな感じで片眉を上げ、至高の頭を叩いた彼女を見上げてやった。



「レシェット様のお食事時間は、午前八時、正午、午後八時の三回。皆様は警護の任を終えてから御出しする予定です」



『待機している人には出ないの!?』



 が、が、餓死しちゃう!!



「待機している方々には午前九時、午後一時、午後九時に御出ししますので御安心下さい」



 ほっ、それなら……。


 ってか、この姉ちゃん。私の心読めるのかしらね??


 私の顔を見た直後に言葉を付け加えてくれたし。



『お前さんは顔に直ぐ出るんだよ』



 あら?? そぉ??



 此方をジロリと冷たく睨むユウにえへへと笑みを浮かべると。



「では、お次に。皆様が使用するお部屋へとご案内致しますので……」



 そう話すと、黒髪姉ちゃんがすっと立ち上がり。無音歩行で部屋の扉へと向かって行った。



『はぁ――。四日間も退屈しなきゃいけないのかぁ』


『我慢しろって。本来ならあたし達は招かねざる客なんだから』



 大きな扉を潜り、再びなげぇ廊下へと躍り出た。



『ユウの言う通りです。屋敷の警護の任は退屈でしょうが、我々には幸い念話もあります。日常会話の延長を行えばあっと言う間に時間が経過しますよ』



 私の直ぐ後ろ。


 紺碧の海も嫉妬する藍色の髪を揺らしつつカエデが話す。



『まぁ……、うん。そうね……』



 探検、じゃあないけど。此れだけ広い庭園だ。


 時間潰しをしつつ昼寝し易い場所を探そうっと。



 窓の外に映る大変お綺麗な庭園を眺めつつ廊下を進んで行くと。



「では、二階へ」



 黒髪の姉ちゃんが正面出入口から見て右側の木製階段へと上って行く。



『二階かぁ――。あたし達の部屋、大きいと良いよな!?』


『あぁ、そうねぇ……』



 うぅむ……。


 私の目の前で揺れるユウのお尻……。


 これはきっと誘っているのよね?? さっきは叩いちゃったし?? 今度は優しくナデナデしてやっか。



 今もフルンっと揺れる小振りなお尻に陽性な感情を滲ませた手を添える。



 うっは。


 やわらけぇ……。只柔らかいだけじゃなく、内側からプンっと張っているって感じかしら。


 ユウの胸より、私的にはこっちの柔らかさの方が好きかも。




『――――。勝手に触んなぁぁああ!!』


『ジュブル!?!?』



 わぁっと高揚しきった口のまま触ったのが不味かったわね。


 脳天から突き刺さった衝撃で舌を噛んでしまった。



『何すんのよ!! 舌、噛んじゃったじゃん!!』



 べぇっ!! と舌を伸ばしつつ。


 大変お怖い顔で此方を見下ろすユウを見上げた。



『舌で済んで良かったなぁ?? 上顎に生え揃う歯と下顎に生え揃う歯。全部纏めて砕いてやってもいいんだぞ??』



 巨岩を打ち砕く拳をぎゅっと握って此方にまざまざと見せつける。



 おっと、それは困るわね。


 御飯が食べられ無くなるし。



『わりぃわりぃ。ついつい悪戯心がぬるりと湧いて来ちゃったのよ』



 二階へと到達し、その足でずぅっと奥まで一直線に伸びる廊下へと進む。



 直ぐに見えて来た扉の前で姉ちゃんが静かな歩みを止め、ふわぁっと広がるスカートを翻しながら振り返った。



「此方、一つ目の扉はレイド様が御使用される部屋で御座います。奥へ続く廊下の左手側に同様のお部屋が四つ存在しますので、ご自由に御使い下さい」



『何でボケナスの部屋だけ指定なのだろう??』


『それはきっと、彼が此処に来る予定だったからでしょう』



 あぁ、成程ね。



 カエデの声に一つ頷いた。



「お部屋にお荷物を置かれ、警護に就く最初の班の方は正面出入口から外へとお越し下さい。そこで警護の任についての詳細を話しますので」



 そう話すと、無音な足取りで一階へと姿を消してしまった。



『じゃあ早速移動開始と行きましょう!!』



 タタッ!! と軽快な足取りで既に見えている二つ目の扉の前に到着し。



 私の部屋は此処っ!!



 そう言わんばかりに扉を開き、颯爽と入室を開始した。



「――――――――。おぉっ!! 広いじゃん!!」



 一人で使用するには十分過ぎると思わせる空間が私を出迎え。


 入り口の扉の向こう正面の窓に掛けられていたカーテンをシャッ!! と開けると。



「んむっ。景色も中々ね!!」



 屋敷の奥に広がる広大な大地を視界に捉える事が出来た。



 窓の直ぐ下には一階部分の天井、つまり建物の屋上が存在し。この部屋は四角形の箱の上に乗っているのだと物言わずとも教えてくれる。



 って事はだよ??


 正面玄関の先に見えたあの扉の向こうはデカイ部屋なのか。


 屋敷の全体像を想像すれば容易く理解出来ようさ。



 荷物をぽぉんと木の床に置き、十二分にデカイベッドへと寝っ転がった。



 あふぁぁ……。


 何、これぇ……。


 体が沈むよぉ……。



 私の可愛い体ちゃんをしっかりと包み込み、心地良い安眠を提供してくれるベッドちゃんの柔らかさに速攻で気持ちが蕩けてしまう。


 部屋も十分ながらベッドも最高級なんて……。


 至れり尽くせりね。


 だが!!



 ここで安心するのはまだ早いの。


 そう、問題は食事よ!! これでちゃっちぃ量を出す様なものなら速攻で文句を付けてやる。


 まっ、話は通じませんので態度で示しましょうかね。



 深くゆっくりな呼吸を行っていると、体の奥からぬるりと睡魔が首をもたげて出現する。



 ふわぁぁ……。ねっみ。



『お――い。入っていいか――』



 ん?? ユウの声だ。



 扉がノックされると同時にユウの念話が響いた。



「どうぞ――」


「――――――――。へぇ。あたしの部屋と同じ作りだな」



 可愛い真ん丸お目目をキョロキョロと動かし。



「班決めなんだけどさ。カエデと相談した結果、あたしとマイ。んで、アオイとカエデで組む事にしたよ」



 私が今も使用するベッドに腰かけてそう言った。



「は?? 何で決める時に私を呼ばなかったのよ??」


「どうせベッドで寛いでいると思ったし。呼んだら呼んだで文句を言うだろうからな」



 ふぅむ。


 大正解ね。流石、ユウ。私の心を見透かすなんてやるじゃない。



「部屋割はこの隣があたし、次がカエデ。ほいでもってアオイの順に決まったから」


「了解――」



 さて!!


 昼寝をしようかしら。


 夕食までちょっと時間あるし。少し位なら眠っても構わないでしょ。


 そう考え、大きな欠伸を放って目を瞑ると。



「さ、行くぞ――」


「行くって……。何処へ??」



 街の散策にでも行くのかしら。



「何処って……。屋敷の警護だよ」


「はぁ!? 順番も私抜きで決めたの!?」



 それは了承出来ぬ!!


 ガバッ!! っと上体を上げ。ユウの横着な胸元のお肉ちゃんをブッ叩いてやった。



「いって。後だろうが、先だろうが別に構わないだろ??」


「大いにあるわよ!! い――い!? よぉぉく耳の穴かっぽじって聞きなさい」



 はいはい、分かりましたと。右手を挙げるユウにこう言ってやった。



「今から警護を始めると、終了するのは午前零時。つまりぃ!! その間、御飯を食べる事が出来ないのよ!? これは由々しき事態よ……」


「由々しき事態?? 何で??」



 ふっ。


 これだから素人は困る……。



「午前零時。つまり、一日が終わり新しい一日が始まるのはお分かり??」


「まぁね」


「ってぇ事はだよ!? 一日の最後の食事を逃す事になってしまうのよ!! 有り得ないわ!! 一日三食なんて!!」



「それがふつ――なんだよ。此処に来る前、街を散策している時に粗方食っただろ」


「ぜぇんぜんっ!! 足りないっ!! あれはおやつ!! 御飯とおやつは別腹なの!!」


「わ――ったから、ほれ。さっさと行くぞ」



 私のお腹ちゃんをポンっと叩いて扉へと向かう。


 相手を労わる強さなのが嬉しいわね。



「警護の任が終わったら食えるからそれまで我慢しようや」


「嫌よ!! そうだ!! カエデがボケナスに頼んで差し入れを持って来させよう!! うむっ、我ながら名案だわ」


「それを言うなら傍迷惑だろ??」


「喧しいっ!!」



 ユウの真ん丸お尻をパチンッ!! と叩き。その勢いで廊下へと躍り出る。


 真夜中まで我慢してね?? 私の胃袋ちゃん??


 愛しむ様にお腹を撫でていると、後頭部から衝撃が走り抜け。目玉からカッコイイお星様が飛び出てしまった。



 仕返しと言わんばかりに超絶カッコイイ右上段蹴りをユウの聳える山に叩き込むのだが……。



 私達の喧噪を聞き逃さんと言わんばかり廊下の後方から現れた藍色の髪の女性の恐ろしい瞳に直視され。致し方なく軽いじゃれ合いは半ば強制的に終了を告げ。



『早く行け』



 冷酷、且人に恐怖心を抱かせる目力によって私とユウは乾いた笑みを浮かべつつ一階へと向かって行ったのだった。



最後まで御覧頂き、有難う御座いました!!


それでは、引き続き休日を御楽しみ下さいませ。

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