第百三十七話 ドキドキな潜入作戦 その一
皆様、お早う御座います。
本日の投稿になります。
本日のお月様は大変機嫌が宜しく、お淑やかな笑みを浮かべて俺様を見下ろしている。
こんな月が明るい日は可愛い子の手を握って寝床へ誘い太陽が昇る時間まで愛を語り合いたいが……。
残念な事に俺様達に与えられた責務を果たすまでそれは叶わない。
上等をブチかました野郎共をさっさとひっ捕らえて街の執行部に突き出してやりたいけども人質の命を最優先すべきだとお人好しの同士がしつこく言って来るし。
ダンの奴め。
赤の他人を救う為に己の身を切り過ぎだっつ――の。
そりゃ俺様だって助けてやりたいよ?? 人の悲しむ姿は見たくないし。
だけど、他人の為に己の身を切り続けているといつか手痛いしっぺ返しが襲って来る事を知らないのだろうか??
まぁそれがアイツの良い所でもあり悪い所でもあるんだけどなぁ。女好きで、喧嘩好きで、口は悪いけど友を大切にする性格は俺様も気に入っている。
生まれた場所、家は違うけど何処か他人って気がしねぇんだよ。
同じ穴の狢、類は友を呼ぶ、後はぁ……。何だっけ?? まぁ兎に角似た者同士馬が合うって奴さ。
「フウタ。もう少し魔力を落とせ」
っと、考え事をしていたら口煩いもう一匹の小鼠ちゃんに叱られちまったぜ。
「わ――ってるって。この塀を乗り越えてから庭に侵入。それから屋敷の壁を伝って屋根から突入するんだよな??」
作戦行動前特有の少しワクワクした感情を鎮め、体内に流れる魔力の力及び流れを徐々に抑えて行く。
魔力を一気苛烈に炸裂させるのは大得意だけど抑え付けるのは苦手なんだよ。
「その通りだ。天井裏に侵入後、二階を隈なく探索。二階が終了したら一階へ。奴等が巡回している道順、各員の癖、そして屋敷外に居る奴等の行動。某達が入手する情報は全て奪還作戦に役立つ。それを努々忘れぬ事だ」
「へ――い、へいへい。ってか、今の台詞よく一度も噛まずに言えたな??」
よっしゃ、これ位なら魔力探知に強い個体でも感知されねぇだろ。
「ふん。某が一階を担当する。貴様は二階を担当しろ」
「え?? 確か二階って誰も居ないんじゃね??」
「誰かが空いた部屋で休んでいる可能性も捨てられない。それと、ティスロ殿から入手した見取り図が正確である確証を得たい」
あ――はいはい。そういう事ね。
「ったく。本当に慎重な性格だな。男ならドンっと!! そしてガッ!! と突き進んで行けばいんだよ」
俺様の両親、そして爺ちゃん達からもそうやって教わったしさ。
これから始まる潜入作戦の景気付けとしてシュレンの大変丸っこい尻を左前足で突いてやった。
「いいか?? この救出作戦は一つの失敗も許されず完璧に遂行する必要がある。実行に当たり某達は一分の隙も許されないのだっ」
お、おう。それは理解しているけどよ。そこまで睨まなくてもよくね??
可愛い尻を叩かれたのが気に食わなかったのか小鼠の円らな黒き瞳がキッと尖って俺様を睨み付けて来やがる。
「了解っと。んじゃ……。忍ノ者の本領発揮と行きますかっ」
後ろ足で立ち上がり俺様達の前に聳え立つ壁の天辺へ向かって言ってやった。
「承知。某が先導する。着いて来い」
ここで俺様が先導するって言ったら押し問答が始まりそうだし……。今回は大人しく指示に従ってやるかぁ。
「ん――。テメェの可愛い尻を眺めながら登るとしますよっと」
「……ッ」
シュレンが再び恐ろしい瞳で俺を睨みつけると本当に静かな歩法で壁へと近付き、そして四つの足の爪先にある鋭い爪を垂直の壁に引っ掛けて登り始めた。
へぇ……。流石、登用試験で俺様を苦しめただけの事はあるな。
万人が思わず感嘆の吐息を漏らしてしまうであろう速度で壁を登って行くシュレンの足跡を辿る様に此方も登頂を開始。
「あらよっと。楽勝過ぎて欠伸が出るぜ」
彼よりも速い速度で壁を登り終えると月明りに照らされた庭へ鋭い視線を向けた。
背の高い塀に囲まれていて内部の全貌は確認出来なかったけど、中はこうなっていたんだなぁ。
正面門から屋敷へと続く道の脇には花壇と思しき場所が設置されており月明りに照らされた花達は夜風に撫でられ微かに揺れている。
屋敷の周りには剥き出しの地面では無く緑が植えられており月明りを吸収した緑が怪しく光る。
俺様達が登った東側の塀から北側に視線を送るとそこには井戸の存在が確認出来、その近くに北側を警備している大蜥蜴一体が暇を持て余す様にうろうろしていた。
そして南にも一人、東にも一人ね……。俺様の想像通りまぁまぁの警備体制じゃねぇか。
『よぉ、月明かりが強過ぎて普通に屋敷に向かって行ったら見付かっちまうぞ』
蚊の羽音よりも矮小な声を出す。
『某達の正面に居る個体が北、若しくは南へ向かったら最短距離を進みそのまま屋敷の屋根へと向かうぞ』
『了解、それが最善だな』
そんなに瞳を尖らせて疲れないのかい?? と。
思わず突っ込みたくなる瞳の角度でじぃっと大蜥蜴を注視しているシュレンの視線を追う。
「……ッ」
街中でイヤという程見て来た大蜥蜴よりも一回り大きな大蜥蜴ちゃんの左腰には殺傷能力が高そうな剣が収められており、深い緑色の鱗を覆う様に少々ボロい外蓑を羽織る。
鍛え抜かれた筋力から繰り出される攻撃は巨岩を容易く打ち砕く威力を備えており、立ち姿そして歩く所作からしてその道に携わっている者だと容易く看破出来た。
けっ、物々しい雰囲気を撒き散らしやがって。
今日は綺麗な月が浮かんでいるんだし、少し位仕事をサボれっつ――の。
動きそうでその場から動かない奴の視線を、体の動きを見守り続けていると遂にその時が訪れた。
「……」
今だ!!!!
警戒中の大蜥蜴が何気なく南側へ向かうとシュレンとほぼ同時に塀を飛び降りて無音で地面に着地。
「「ッ!!!!」」
四つの足を巧みに動かして背の低い草の上を駆け続け屋敷の壁に到達するとその勢いを保ったまま屋敷の屋根に到着した。
『ふぅ――……。塀から距離があったけど何んとかなったな』
ちょいと喧しい心臓を宥めて屋敷の東側をそ――っと見下ろすと。
「おい、そっちは異常無いか」
「ぜ――んぜん。強いて言うのならば異常が無さ過ぎる事が異常なのかな」
「ふん……。そのまま警戒しておけ」
「了解――」
屋敷の東側を警備していた者は俺達の存在に全く気付いていない様子であった。
異常が無さ過ぎる事が異常、ね。
フフフ……。もう間も無くお前さん達はとんでもねぇ異常に襲われるから覚悟しておけよ??
『ここだ……。フウタ、行くぞ』
屋根と屋敷の狭い隙間。
屋敷内部に突入出来る空間を見付けたシュレンが俺様を急かす。
『う――い。それじゃっ、打合せ通りに偵察するとしますか』
『承知。二階を偵察し終えたら此処に戻って来い。某と合流後に此処から脱出する』
そう何度も言わなくてもちゃんと覚えているって。
『しつこい奴は嫌われるんだぜ??』
『貴様の頭は空っぽだからな……』
シュレンが溜息混じりに話すと僅かな隙間に頭をギュっと突っ込み、同種且同性でも可愛いなぁっと思える丸みを帯びたお尻を左右にフリフリと振りながら体を捻じ込んで行く。
だ、誰の頭がすっからかんだって??
『さっさと入れ、この可愛い尻野郎が』
右前足の爪をピンと立てて尻のド真ん中の的へ穿ち、爪の先がムニュっとした温かく柔らかい感触を捉えると。
『ゥッ!?!?!?』
彼は声にならない声を零しつつその姿を消した。
あはっ、つい勢い余って可愛いお尻の穴に爪を突っ込んじゃった。
『――――。貴様、後で必ずこの報いは受けて貰うぞ』
狭い隙間の向こう側から小鼠の憎悪に塗れた瞳が微かに光り俺様を捉える。
『うるせぇなぁ。先に喧嘩を売って来たのはテメェだろうが』
『ふん、某は一階へ行く。へまをするなよ……』
同郷の者がしつこい位に俺様に釘を差すと闇に紛れて行った。
だから!! いつもテメェは一々小言が多いんだよ!!
一回言えば分かるって!!!!
『俺様ってそんなに頼りなく見えるのかな?? ベッドの上での女性の扱いは上手いし、社交性もある。どこぞの童貞鼠と違って器用だと思うんだけどなぁ――』
愚痴を零しつつシュレンが通った隙間に体を捻じ込み、彼の所作を模倣して尻を左右に振って体を捻じ込んで行くと……。
「うっし。潜入成功っと」
よぉぉく目を凝らさないと全く前が見えない闇の中に身を落とした。
うへぇ、くっら。闇を見通す鼠の夜目が無ければ恐らく何も見えないだろうさ。
天井板を踏んで音を響かせない様に梁の上を進んで行き、屋敷内部を見下ろせる板と板の微かな隙間を見付けるとその間から内部の様子を探る。
ん――……。俺様の予想通り、だ――れも二階には居ないな。
鼓膜が痛くなる程の静まり返った静寂が虚しく天井に漂い、人の気配が微塵も感じられぬ静謐な環境が屋敷の二階を包み込んでいた。
誰も居ない二階の様子を探るよりも一階に移動してシュレンを手伝うか??
でも、それだとクソ真面目なアイツの事だ。どうせ他所へ行けと目くじらを立てて怒り狂うだろうしぃ……。
「――――。そうだ、良い事を思いついた」
誰も居ない二階の室内に侵入して物陰に隠れつつ一階へ続く階段付近に移動。
屋敷を占拠している奴等の目を盗んで移動経路や携行している武器を確認すればいいんじゃね!?
何もしないよりも何かをして役に立つ。
遠い昔に爺ちゃんから言われた教訓に則り、ワクワク感が増して高揚した心を胸に抱くと早速行動を開始した。
取り敢えず、屋敷内部に潜入出来る場所を探すとしますか。
無駄に広い天井裏を右往左往してもこの小さな……。基、立派な体が入れる隙間は見つからず断念。
今度は壁裏の僅かな隙間に体を捻じ込んで下って行くがこの屋敷を建築した奴は相当優秀なのか、侵入出来る隙間が一分も見当たりやしねぇ。
『ちっ、仕方がねぇ。この岩をも噛み砕く前歯で壁に微かな隙間を開けてやるかっ』
直角に曲がる部屋の角に到達すると音を立てない様に中々の噛み心地を提供してくれる木製の壁を静かに食み始め、そして自分の体よりも一回り小さな穴を開けて無人の部屋に潜入した。
ん――……。ここは恐らく最西端の部屋だな。
カーテンが閉められている窓によじ登りまだまだ暗い西の方角へ視線を送った。
頭の中にしっかりと刻まれている屋敷内部の見取り図を思い出しつつ部屋全体を見渡し、自分が何処に居るのかを確認し終えると大変カッコイイ所作で床に着地した。
最西端の部屋って事はだよ?? このまま廊下に出て一階に続く階段に向かっても良いけどぉ……。
『え、えへへっ。此処はティスロちゅわんの部屋だもんねぇ――ッ』
屋敷内部の見取り図と彼女から教えられた部屋の位置割り、そしてぇぇええ!! この女っぽい家具の数々を見れば一目瞭然なのだっ!!
『探検っ、探検っ。お宝求めて大探検っと!!』
ベッド脇の鏡台に飛び乗り早速物色を開始するが俺様の性欲ちゃんを喜ばせるブツは確認出来ず、一人では手に余る大きさのベッドに飛び込みシーツに潜り込むけども中に待ち構えていたのは静謐な環境のみ。
『畜生。やっぱりあそこを開けなきゃいけないか』
シーツの中から脱出して壁の隅に配置されている箪笥へと視線を送る。
ん、んふふっ。一階の監視はシューちゃんがやっているし。翌日以降の潜入作戦に備えて心を潤さないといけないよなっ!!!!
『あらよっと』
ベッドの上から箪笥の上に颯爽と移動を開始。
取っ手にすんばらしい鼠の尻尾を引っ掛けて体全体を駆使して一番上の引き出しを開けるとそこには俺様の性欲ちゃんが真に望んでいる物がキチンと畳まれて仕舞われていた。
『ふ、ふぉぉおおおおっ!!』
嘘でしょ!? ナニコレ!? でっっかっ!!
双丘の一つを守る布の面積は俺様の体全部を余裕で包み込む事を可能としており。さり気なく右前足で柔らかい布をスっと撫でると右前足はその手触りに思わず感嘆の声を漏らしてしまった。
だ、誰も見ていないし……。に、匂いも確認しなきゃいけないよね!?
ほら!! 俺様は男の子だからそういうのも気になっちゃうからさ!!
「とうっ!!」
極上の柔らかさを求めて下着の海へ飛び込み、小さな鼻を布達の隙間に捻じ込んで肺一杯に空気を取り込んでやると……。
「あ、はぁ――……。微かな女の香りが堪らねぇぜ……」
潜入任務中である事を忘れさせてしまうイケナイ香りが俺様の体を痺れさせてしまった。
このまま暫く此処で待機してぇ……。英気を養ってから潜入任務を再開させよ――っと。
役得、じゃあないけども。偶には息抜きをしなきゃいけないしっ??
目にも心にも嬉しい薄い緑色の下着を手に取って体に巻き付けるとその勢いを保ったまま、一度足を踏み入れたら二度と抜け出せない魅惑の海へ向かって潜行を開始した。
お疲れ様でした。
これから休日のルーティーを済ませ、出掛けた後に後半部分の編集作業に取り掛かります。
次の投稿まで今暫くお待ち下さいませ。