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今日も今日とて、隣のコイツが腹を空かせて。皆を困らせています!!   作者: 土竜交趾
過去編 ~素敵な世界に一時の終止符を~
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第百三十二話 事の発端 その二

お疲れ様です。


後半部分の投稿になります。




「それにこれ以上貴方達に迷惑を掛ける訳には……」


 ティスロが悲し気な瞳をふと浮かべるとその視線を砂地へと落とした。



「請け負った依頼は王族直々のモノ。つまり、どの道俺達は完璧に依頼を果たさなければならない使命なのさ。と、言う訳で。ティスロが生まれた街の詳しい地理や情勢、そして敵対勢力に付いて色々教えてくれるかい??」


 暗い雰囲気に傾きつつある場を少しでも明るくしようとして陽性な感情を含めて話した。



「私が知る限りの情報を伝えます。反政府組織の構成員達の数名は私の家に居座り、家族を四六時中監視しています。屋敷の外にも警戒の任に就いている者がおりその者達は恐らくその任を交代で請け負っています」



「詳しい人数は分かる?? それと以前ゼェイラさんからティスロの生まれた家を隅々まで探したと聞いたけど……」



 ふと疑問に思った事を問うてみる。


 大罪を犯した逃亡者を捜索する為、ティスロが生まれた家を捜索するのは理に適った行動であるが……。その時にどうして執行部にバレなかったのだろう



「屋敷を占拠されてからかなりの日数が経っているので詳しい人数は分かりませんが、私が帰った時に確認出来たのは七名ですね。執行部の方々が私の家を捜索しても彼等の犯行が露呈しなかったのは恐らく……。それ相応の家ですので反政府組織の連中は自らを使用人と称して身分を偽っていた可能性が高いです。それと、余計な事を喋れば私の地位そして命が危ぶまれると家族に伝えたのでしょう。私と家族。その両者が人質みたいなものですからね」



 ふぅむ、恐らくその線が強いな。


 両者の連絡手段が断たれているので互いの安否を確認する方法は無い。しかも武器で脅されているのだ。


 真面な精神の持ち主なら家族の命を優先して反抗しようとは思わないだろうさ。



「その街の生まれで無い者が屋敷の周りをうろついていたら嫌でも目立つのでは??」



 リモンさんが至極当然な事を話す。



「屋敷は背の高い塀に囲まれていますから内部は容易に窺えません。そして外からも監視されている可能性があるので家族は迂闊な動きが出来ないかと」


「屋敷の詳しい場所を教えてくれ」


「分かりました。屋敷は……」



 ハンナの言葉に従い、ティスロが生まれた街であるアーケンスの簡易的な地図を砂地に描いて行く。


 街の規模は窺い知れないがそれ相応の大きさを持っている彼女が生まれた家は街の北西部に位置しており、他の家屋から離れた位置に建っている訳でも無い。屋敷へ続く唯一の道である正面の門は幾つもの家屋から確認出来る様になっていた。



「――――。ふぅむ、屋敷の正面の門の位置からして恐らくこの五つの家屋が怪しいな」



 屋敷の正面から少し離れた位置に存在する監視に適した家屋と思しき記号に指を差す。



「五つの内、二つは宿屋よ。どちらも二階建てで正面の門を監視するにはうってつけの地理状況ね」


 チュルが少々大袈裟に翼を動かして話す。


「だろうな。相手も馬鹿じゃない。恐らく宿屋の店主に怪しまれるのを未然に防ぐ為に代わる代わる宿を利用しているのだろうさ」



 ティスロが凶行に至ったのは数か月前。


 つまりその間、反政府組織の構成員達は交代でその宿を利用して屋敷を監視。更に塀の内部と屋敷内部の監視する者も交代している筈……。


 必要な物資もその時に譲渡しているのだろうさ。



「じゃあ俺様達が宿を利用して屋敷を監視する案はどうだ??」


 ティスロの体の一点から漸く視線を外した馬鹿野郎が俺の顔を直視する。


「フウタ達もこの作戦に参加してくれるのか?? お前さん達が果たすべき任務はもう終わったんだぞ??」


「乗り掛かった舟って奴さ!! それにすっげぇ面白そうじゃん!! わっるい奴等がうじゃうじゃ居るんだろ!? その屋敷には!!」


 いや、面白半分で人質奪還作戦に参加して貰っても……。


「フウタ。この作戦は某達の命では無く、ティスロ殿の家族の命が掛かっているのだ。その半端な気持ちで参加されても迷惑だ」


「ちっ!! わ――ったよ!! ちゃんと真剣に臨みます――!!」


「はは、シュレンも参加してくれるのかい?? 有難うよ」


 俺がそう話すと。


「う、む……。某は己を鍛える為に海を渡ったのだからな」


 何だか小恥ずかしそうに俺から視線を逸らしてしまった。



「俺とハンナ、そしてフウタとシュレンが宿屋の二階部分を利用して監視を続け。不届き者がどちらの宿に居るのかを特定。特定後は街の外から交代が来る前に宿屋の監視員を確保して、此方の作戦がバレる前に屋敷の奪還作戦に入ろう。人質を救出後、クソ野郎共を街の執行部へ軽い事情を説明して引き渡し、安全が確保される場所まで人質を移送。それから俺とハンナで今回の事件の詳細を伝えに王宮へ戻ろうか。ティスロ、屋敷内部の詳しい間取りを教えてくれるかい??」



「分かりました。後で詳しい間取りを描いた紙をお渡ししますね」



 ふぅ――……。これにて段取り終了っと。



「何だか一難去ってまた一難って感じだよなぁ――」


 フウタがだらしなく座り込み、天を仰ぎながら愚痴を漏らす。


「仕方がねぇだろう。これが俺達の依頼なんだから」


「まっ、それもそうか。よっしゃ!! 取り敢えずこんな辛気臭い場所からおさらばして!! 景気付けに派手な宴をしようぜ!!」


 彼が勢い良く立ち上がると大袈裟に両手を広げた。


「おさらばって言ってもさ、これからまたあの長い通路を上って行って。それから虫達がうじゃうじゃ居る部屋を抜けなきゃいけないんだよね??」



 シテナがうんざりした口調で瓦礫によって塞がれてしまった通路の出入口へと視線を送る。



「ん――……。体力面を考慮するとその道筋はちょいと厳しいかもね」


「じゃあどうやって帰るの??」


「へへっ、あそこを見上げて御覧??」



 彼女に軽い笑みを浮かべて随分と高い位置にある空へ向かって指を差してやった。



「成程!! ハンナさんの背に跨ってあそこから脱出するんだ!!」


「そういう事。相棒、まだ空を飛べるかい??」


「飛ぶのは何の問題は無い。しかし、普段通りに飛べるかどうかと問われたら些か疑問が残る」


 ふぅむ、頑丈な彼にも体力に陰りが見えるか。


「じゃあ重量を軽減する為にもフウタとシュレンは鼠の姿。グルーガーさん達はミツアナグマの姿で俺とティスロは人の姿で背に乗ろう」


「それなら可能だがあの穴を通過するとほぼ同時に強烈な風が襲い掛かって来る恐れがあるぞ??」


「なぁに、あれだけの死闘を乗り越えた猛者共だ。風の力なんか屁でも無いさ。そうだろ!?」



 疲れが見え始めている隊に向かって景気良く叫んでやると。



「当り前だ。ミツアナグマの戦士は恐れを知らぬからな」


「たかが飛ぶ位でビビらねぇっての!! ダン!! 懐借りるな――」


「某も借りようか」



 全員が頼もしい台詞を述べて魔物の姿に変わってくれた。



「えへへ、私もダンの懐に入ろ――っと」


「おい!! こっちは俺様が使っているから向こうに行けよ!!」


「ヤダッ!! フウタがあっちに行ってよね!!」



 準備を整えてくれるのは嬉しい限りなのですがもう少し静かにしません??


 俺も皆と同じでそれ相応に疲れていますので……。


 膨れ上がったり縮んだり、左右に引っ張られている上着の状態に行動を制限されながら隊の荷物を相棒の背に乗せ終えるといつも通りの所作で彼の背に飛び乗った。



「こっちは準備よ――し。ティスロ、さっさと乗ってくれ」


 巨大な怪鳥の足元で呆気に取られつつ此方を見上げている彼女に催促する。


「あ、はい。乗ろうとしているのですが……」


 あぁ、相棒の翼に足を乗せる事が億劫なのね。


「ティスロ!! 私のハンナの翼を絶対に傷付けちゃ駄目よ!? 慎重に登って来なさい!!」


「俺の翼は俺の物だ。ティスロ殿、俺の翼は頑丈に出来ている。大人数名が踏もうが決して傷付きはしないので早く登って来い」


「そ、それでは失礼します……」



 空に浮かぶ雲に足を乗せるかの如く。


 おっかなびっくり相棒の翼に足を乗せ、そしてたどたどしい所作で背に乗り終えると。



「わっ、凄く手触りが良い羽毛ですね」


 嫋やかな所作で彼の背を優しく撫でた。


「ふ、ふんっ。では飛び立つぞ」



 相変わらず女の子の絡みに弱い事で……。


 ほぼ童貞の相棒が口ごもった台詞を吐くと巨大な翼を一度、二度大きく羽ばたかせて宙に浮かぶ。


 翼の動きに合わせて大量に舞い上がった砂塵が空から降り注ぎ双肩に薄く重なるが、彼が旋回行動を続けて上昇して行く内に砂は風によって地上へと落下して大砂虫の死体に薄く降り積もって行く。



 お前さんに何の怨みも無かったが、そこで安らかに眠ってくれ……。


 徐々に小さくなり行く超生命体の死体に哀悼の意を唱えていると相棒の体から一際強力な力の鼓動が迸った。



「一気苛烈に上昇する!! しっかり掴まっていろ!!」


「い、いきなりは止めて!! もう少し静かにぃ……。イィヤアアアアアア――――ッ!!!!」



 俺の忠告を無視した横着な白頭鷲ちゃんがほぼ垂直の形で脱出口である山の頂上へと向かって爆進。



「ギィェッ!?!?」



 砂と死が蔓延る遺跡から命辛々脱出した俺達に超強力な砂と風の祝福が襲い掛かるものの、ハンナの巧みな体捌きと風を読む力によって振り落とされる事は無く。


 地上付近よりも何割か空気が薄まった上空に無事到達する事が出来た。



 相棒の背から落ちない様に地上を見下ろすと数分前まで居た遺跡は俺の親指程度の大きさに変化。


 その姿を捉えると双肩の力を抜いて砂が含まれていない澄んだ空気を久々に胸一杯に吸い込んで言葉を漏らした。



「は、はぁ――……。何んとか脱出する事が出来たな」


「この度は助けに来て頂いて本当に有難う御座います」


 ティスロが俺達の方へ向かって静々と頭を垂れる。


「これはレシーヌ王女様の依頼の依頼だから礼を俺達じゃなくて、彼女に述べなよ。それにまだ人質も救出していない。安心するのはそれからさ」


 まっ、礼を言われて悪い気はしないけどね。



「何から何まで頼ってばかりで……。申し訳ありません」


「ティスロが頭を下げなくてもいいって。悪いのは家族を人質に取ったアイツ等なんだから」



 チュルが彼女の肩に留まると傷付いた心を労わる様に優しい口調を放つ。



「これで一応は目的を達した訳だけどよぉ。俺様達はまだまだ気が抜けない状況が続くよな」


 フウタが右の懐から小さな顔をぬぅっと覗かせて言う。


「その通り。でも、今だけはゆっくり休もうや。不届き者を成敗するのは体力が回復してからさ」


「貴様達との旅は良い経験になった。その礼では無いが里で宴を開いてやる」


 俺の言葉を拾ってくれたグルーガーさんが魔物の姿のままで此方を見つめて話す。


「いやっほぅ!! そりゃ有難いぜ!!」


「フウタ――。五月蠅いからもう少し静かに話してよ。それと……、ねぇ。お父さん。ティスロさんの家族を救出するまで私達の家でティスロさんを匿う事は出来るかな?? ほら、色んな人に追われているけど私達の里なら誰も手が出せないし」



 大蜥蜴を忌み嫌うミツアナグマの里に大蜥蜴が足を踏み入れる。


 その結果は火を見るよりも明らかだが……。今はシテナが言った通り匿ってくれた方がこちらとしても助かるんだけどねぇ。



「そちらの事情は既に承知済みだ。人の姿で過ごすと約束してくるのなら俺の家で休ませてやろう」


 はは、顔は滅茶苦茶怖いけど気は優しい人だよな。


「やったね!! じゃあティスロさんは私の部屋で一緒に寝泊まりしようね!!」


「ほ、本当に宜しいのでしょうか??」


「お父さんがいいって言ったんだから大丈夫だよ!!」


「人質を救出したら直ぐに合流しますのでそれまでの間、宜しくお願いします」



 俺が静かに頭を下げると。



「あぁ、構わん」


 彼は俺達に背を向け、間も無く見えて来るであろう己の里の方角に顔を向けてしまった。


 うふふ、相棒と同じで恥ずかしがり屋さんですねっ。



 一件落着とまではいかないが尊い人命を救助出来て何よりだぜ……。


 王宮で待つレシーヌ王女様に一早く報告をしたいがそれはもう少しの辛抱だ。


 今日は何も考えず浴びる様に酒を飲んで、腹を空かせた体ちゃんにたぁぁっぷりの栄養を送って英気を養って不届き者をぶちのめしに北へ向かおう。



「ふぅっ……」


 全身の力を抜いて西の空へ徐々に沈み行く太陽の背を見つめると柔らかい吐息を漏らす。


『よぉ、どうしたよ』


 俺の吐息を捉えた太陽が此方へ振り返って訝し気な表情を浮かべるので、どうかお気になさらず今日も。そして明日以降も俺達を照らし続けてくれよと心の中で唱えてやった。


 俺の心の声を捉えた太陽は変な奴だなとぼやきながらいつもの通りの道を普段通りの速度で歩んで行く。


 その姿を捉えた俺は長い年月の間、決して変わらぬ自然循環の中に帰って来たと漸く自覚したのだった。



































 ◇おまけ◇




 静かに降り続ける砂の雨。


 それは彼等が立ち去った後も決して止む事は無くまだ熱が籠る巨大な砂虫の体に堆積し続けていた。


 静かに降り続ける砂が煙を消して柔らかく吹く風が黒ずんだ死体の熱を冷ます。


 肉が焼け焦げる炭の香りと戦士達が残して行った饐えた匂い、更に砂埃が混ざり合った空気が漂う砂の大地の上に横たわる巨大な死体から砂の塊が不意に地面に落下した。


 砕け散った巨大な死体の塊が震え始めそれは秒を追う毎に大きくなって行く。


 生者の新鮮な肉を求めて死者が甦る。


 森羅万象の理を捻じ曲げてしまう事象が此処で勃発したかの様に見えたが、地上の理を捻じ曲げてしまう神の御業は決して起こりはしなかった。



「「「「……ッ」」」」



 焼け爛れた肉体からこの世に数体の砂虫が生まれ落ち、粘度の高い液体を纏ったまま砂の上でうねり回る。


 乾いた砂と人に嫌悪感を与える液体を纏った小型の砂虫は自分達が生まれ落ちた肉体を静かに見上げると誰に教えられる事も無く、かつては母親であった肉体を一心不乱に食らい始めた。


 西の空に太陽が沈み夜の闇を照らす月が空に昇っても食らい続け、途方も無い時間を掛けて彼等は母親の死体を己の体内に収めていた。


 一体どれだけの時間が経ったのだろう??


 気が付けば戦地に横たわっていたあの巨体は全て消え失せ、生まれた時よりも遥かに成長した子達は砂が舞い降りるこの場所を静かに見渡していた。



「「「「……ッ」」」」



 そして自分達以外の存在が居ない事を確認すると静かに砂の中へと潜って行き、無音が漂う最深部に到達すると静かなる眠りに就いた。


 母親が残して行った肉を己の力に変え、そして来たるべき時に備えて眠りに就く。


 彼等の成長した姿を捉えるのは果たしていつになるのだろうか……。


 それは彼等も知り得ぬ。それを知っているのは人々の運命を司る神々だけ。


 己に課された使命を果たす為に彼等は死と危険が渦巻く遺跡の奥地で只々眠るばかりであった。




お疲れ様でした。


帰宅時間が遅かった為、深夜の投稿になってしまいました。大変申し訳ありません。



さて、本話でも触れた通り彼等はこれからまだまだ大変な思いをして頂く事になりました。この依頼がリーネン大陸での最後の依頼となりますので彼女を救助して、はいお終いでは味気ないですからね。


まぁその分筆者の負担が増えるのですが……。彼等も辛い目に遭うのでそこは痛み分けという事で。



そして、ブックマークをして頂き有難う御座います!!


執筆活動の嬉しい励みとなりました!! これからも頑張りますね!!!!



それでは皆様、花粉に気を付けてお休み下さいませ。

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