表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
101/1225

第十三話 傾国の子女 その二

週末の深夜に、そっと投稿を添えさせて頂きます。


それでは、御覧下さい。




 歩く度に心臓が五月蠅く鼓動する。


 この拍動の上昇は歩行という運動が直接影響を与えている訳では無い。此れから彼女達を此処へと招く事に対する緊張感からだ。



 俺が信を置くといっても、彼にとっては部外者。


 それを快く快諾してくれたのは嬉しいですけども……。果たしてどうなる事やら。



「――――。成程、それで……」


「えぇ、彼女達は酷い経験を負い。言葉を失ってしまいました。しかし、行動を共に続ける内に徐々に心が開き。言葉を取り戻すまでもう間も無くかと」



 隣で歩くアイシャさんと、ピュセルさんにマイ達がどういった経緯で言葉を失ったのかを説明する。


 此方の言葉に頷き、時に悲壮な声色で返事をくれるのですが……。


 全てが嘘なので大変心苦しいのが本音であります。



 真実の姿は、時に汚い言葉を放ちつつ暴力を振るい。


 時に人を蔑む言葉を吐き捨て暴虐の限りを尽くす者と説明出来たらどれだけ楽か。




「それではベイス様。行ってらっしゃいませ」



 門の前に到着すると、アイシャさんとピュセルさんが静々と頭を下げ。



「行って来るよ。私が居ない間、留守を頼むね??」



 彼女達へと目配せをした後、彼が此方を真剣な眼差しで見つめた。



「はい。滞りなく任務を終えるつもりです」


「有難う。それじゃあ」



 アイシャさんが門を開くと。



「「「…………」」」



 見慣れた四名の女性が軽い笑みを浮かべ、横一列となって此方を待ち構えていた。



『彼がベイスさんだ。皆、静かに頭を下げて』



 俺が念話を送ると。



「「「……」」」



 珍しく此方の指示にすんなりと従い、頭を下げてくれた。



 毎回毎回こうやって素直に指示に従ってくれれば俺も楽なのになぁ……。何だか釈然としませんね。



「紹介します。赤い髪の女性がマイ=ルクスと申し……」



 彼女達の前に立ち、軽く自己紹介を続ける。


 その間、彼は。



「ほぉ……。これはまた……。綺麗な女性達ばかりだねぇ」



 まるで愛娘を見つめるかの如く。


 柔和に目元を曲げて彼女達を見つめていた。



「――――。そして、最後に。彼女がカエデ=リノアルトと申します。彼女達は精鋭部隊にも引けを取らない実力の持ち主です。ですから、どうか御安心して留守をお任せ下さい」



「総勢七名の護衛、か。少々大袈裟だけど……。用心に怪我無しとも言うからね。安心して出発出来るさ」


「有難うございます!!」



 俺に対する安心では無く、彼女達を信用して此処を任せてくれた事に陽性な感情が湧いてしまう。



 彼に向かって勢い良く頭を下げ。



「じゃあ、行って来るね」



 すっと片手を上げて、なだらかな丘を下って行く姿を見送った。



『お年を召した人の割にはカッコいい歩き方するじゃん』



 マイがベイスさんを笑みで送りつつ念話で話す。



『私達を信用してくれた事。その点に付いては評価に値しますね』



 あ、あはは……。


 カエデさんは相も変わらず辛口です事。



「皆、紹介するよ。此方がアイシャさんで、此方がピュセルさん。二人共この屋敷の使用人さんだよ」



「皆様、此れから四日間お世話になります」



 ピュセルさんが細い瞳で彼女達を見つめ。



「皆様に担当して頂くお仕事をお伝えしますのでどうぞお入りください」



 二人が小さくお辞儀を交わすと、素早い所作で屋敷へと踵を返した。



『へぇ――。この二人、鍛えているのか??』



『ユウ、気付いた??』



 二人の後を追いつつ話す。



『そりゃあねぇ。体の軸がブレていないし』



『使用人ですが……。全くの素人では無い。ふぅむ……。彼が私達をすんなりと招き入れたのも理解できますわ』



『アオイ、どういう事??』



 右隣り。


 お互いの肩が触れ合う位置に身を置いて歩く彼女に問う。



 もうちょっと離れようか。




『私達が悪事を働いても、彼女達が取り押えてくれる。若しくは……。たった二人だけでも護衛を任せられる。この二点ですわね』



 ベイスさんはそれだけ彼女達を信用しているって事か。


 裏を返せばそれだけの実力を備えている証拠。


 機会があれば一度手合わせを願おうか??



『はっ。こぉんなひょろい姉ちゃん達に私達が倒せるもんか。そうよね!? ユウ!!』



 深紅の髪の女性がユウの臀部をピシャリと叩く。



『そういう問題じゃないっつ――の』


『ドッブッ!?』



 そして、お返しと言わんばかりに手刀を彼女の頭に叩き込んだ。


 今ので数センチ背が縮んだのでは??


 良い音が鳴ったし。



「それでは皆様、お入りください」



 アイシャさんが扉を開き、本日二度目のお邪魔を果たすと……。





「――――――――。ようこそ、いらっしゃいませ。私はここの当主、ベイスの娘のレシェットと申します」



 今現在、この屋敷の当主であられるレシェットさんが素晴らしい所作で此方を迎えてくれた。



『んなっ!?!? すっげぇ可愛いじゃん!! この子!!』



 ユウがあんぐりと口を開き。



『ふむ……。彼女の体の各部分と私の体を比較した結果、残念ながら彼女が勝ち越していますね』



 カエデが冷静な分析を果たし。



『レイド様!! この娘とは必ず距離を置く様に!! 良いですわね!?』



 アオイが俺の腕を抓ると。



『は、はぁ!? 何よ、コイツ!! 小娘のぶ、分際で!! 私よりも育った胸しやがってぇええええ!!』



 マイに至っては初対面の者に向けるべきではない瞳で、彼女の双丘へと視線を送り続けていた。



 そして、貴女も世間一般からみれば十分に小娘ですのであしからずっと。



「レイド様はレシェット様の護衛に。残りの皆様に至っては屋敷の警護の任についてご説明致しますのでどうぞ此方へ」



 アイシャさんとピュセルさんの後に皆が続くのだが。



『ボケナス!! 絶対手ぇ!! 出すなよ!!』



 今にも噛みつきそうな猛犬が最後の最後までその場に留まり、俺の体中に釘を刺した。


 刺され過ぎて穴だらけになっちまうって……。



『出す訳ないだろ。ほら、ユウ達行っちまうぞ??』


『ふんっ!! 何時、何処からでも見張ってるからね!!』



 あのねぇ……。


 身分差を鑑みて御覧なさい?? それに、お偉いさんの愛娘に手を出してみなさい。


 俺の社会的身分なんて、あっと言う間に吹き飛んでしまいますから。



 最後の最後まで睨みを利かしていた女性の姿が見えなくなると。



「では、此方へ」


「あ、はい」



 レシェットさんが左側の通路へと進み出したので、慌ててそれに続いた。



 こっちも向こう側と同じ作りだな。


 大きな屋敷ですからねぇ、これなら迷いそうにないや。



 二人の足音だけが響く静かな廊下を進み、彼女が一つの扉の前でふと足を止めた。



「此処が私の部屋です。どうぞお入り下さい」


「あ、いや。護衛の任ですので、扉の前で待機していますよ」



 流石に初対面の女性の部屋に堂々と入る勇気はありません。



「――――。もう一度、言いますよ?? 入って下さい」



 ん??


 微妙な怒気が含まれている声色ですね??



 機嫌を損ねたら大事になりかねないし……。直ぐ部屋を出れば安心、か。



「分かりました。では、お邪魔させて頂きますね」



 彼女に促され、部屋に入ると。



 ほぉ……。


 これはまたしかし……。広い部屋ですなぁ……。



 左手奥に王様が使用するのかと問いたくなる巨大なベッド、その脇には化粧台が置かれ。その上には鏡と香水の瓶。


 右手側には服を収納すると思しき縦に長い箪笥と、正面には丸い机と立派な椅子が置かれ。



 彼女は真っ直ぐにその椅子へと向かい。素早い所作で腰掛けると長い足をすっ、と組んだ。


 心臓に宜しく無い姿ですので、真面に見られません。


 視線を下げ、茶色の絨毯の柄を見続けていると。










































「はぁ――。つっかれたぁ。ねぇ、レイドだっけ。私、実はすっごく退屈しているのよ」



 耳を疑う声が鼓膜を強襲した。



「――――――――。はい??」



 俺の耳、腐ったのかしら??



 先程までの淑女は何処へ??




「あなたは四日間、継承式典が終わる迄私を護衛するんでしょ?? つまり!! 私の玩具みたいなもんよねぇ。あはっ!! 丁度、暇していたんだぁ。父さんも居ないし!! 好き放題出来るって訳!! だからさぁ、私が退屈しないように喜ばせなさい!!」



 残念無念。


 俺の耳は正常だった様ですね。



 素晴らしい淑女から百八十度豹変してしまった姿に驚きを隠せず。


 狐に抓まれて……。




『何じゃ!? お主、抓って欲しいのか!?』




 師匠のお力で抓られたら肉が引き千切れてしまいますので、勘弁して下さい。


 普通の狐さんに頬を抓まれた感覚が全身を襲った。





 美しさは不変でも。



『さぁって、この玩具をどうしてやろうかしら??』 と。



 大変恐ろしくとも美しい悪戯心を満載した笑みを浮かべる彼女の姿に只々呆気に取られ。


 馬鹿みたいに口をポカンと開けて眺め続けていたのだった。




最後まで御覧頂き、有難う御座いました。


本来であれば区切らず投稿しようと考えていたのですが……。


時間の都合上、区切らせて頂きました事をお許し下さい。


それでは、良い週末をお過ごし下さい!!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ