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今日も今日とて、隣のコイツが腹を空かせて。皆を困らせています!!   作者: 土竜交趾
過去編 ~素敵な世界に一時の終止符を~
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第百三十二話 事の発端 その一

お疲れ様です。


本日の前半部分の投稿になります。




 砂地に横たわる巨大な肉片には未だ炎が燻ぶり鼻腔の奥をツンと鋭く突く黒煙と生肉が焼ける匂いが戦場に漂う。


 巨大芋虫の形態が辛うじて確認出来る死体から立ち昇る黒煙は遥か彼方の山の頂へと昇って行き音も無くゆらゆらと形容し難い動きを見せるとその色を消失させる。


 死闘を終えた戦士達はその煙を見つめ微かな吐息を漏らすと輝かしい勝利の余韻を味わう暇も無く一人の女性の下へ集まり、それぞれが意味深な瞳の色を浮かべて彼女を見つめていた。



「……」


 ある者は彼女が犯した不義による猜疑心の瞳を。


「……」


 ある者は許可無く縄張りに足を踏み入れた事に対する怒りを。


 そしてある者は。


「おぉ――……。ポヨンポヨンのすっげぇ大盛じゃん……」


 この場に相応しくない瞳の色を浮かべて女性のある一箇所を注視していた。


 フウタの奴、こんな時だってのに厭らしい目で見やがって……。その度胸は賞賛に値するが俺は反面教師としましょうかね。


「「……ッ」」


 ほら、シテナとチュルが大変宜しく無い瞳の色で彼を見つめていますもの。



「皆さん、先ずはお礼を述べさせて下さい。態々助けに参って下さり本当に有難う御座いました」



 ティスロが力無く砂地に座り込んだまま俺達に対して静々と頭を垂れる。



「別にお礼は要らないよ。俺達はレシーヌ王女様からの直々の依頼であんたを救助しに来たのだから。その礼は彼女に直接伝える事だね」


 ある程度の警戒心を抱いたまま今も頭を下げている彼女に対して言う。


「は、はぁ……。所で何故レシーヌ王女様がその……。不義を働いた私を救助しようとしたのでしょうか?? 私は執行部に追われる身であり王制に刃を向けた大罪人でもあるのに」


「あぁ、その事について一から説明させて貰おうかな。そこに居るチュルがレシーヌ王女様の部屋に突如として現れ……」



 数日前に起きた事件から此処に至るまでの経緯を軽く説明してやると。



「――――。な、成程。事件の真相を解明したい事と、彼女の温かな心意気で貴方達は私を救助しに参って下さったのですね」


「そういう事さ。さて、今回の依頼の核でもある真相を話して貰おうか。何であんたは彼女に認識阻害を掛けたんだい??」



 さぁって返答次第じゃあ此処に捨て置くか、それともそれ相応の罰を受けて貰う為に拘束させて貰うぞ。


 ティスロの瞳の色が驚きから真剣な色に変わると決意を籠めた声色で事件の真相を語り始めた。



「私の生まれ故郷は王都の北西にあるアーケンスという街です。王都の様な大都会とまではいきませんがそれ相応に栄えた街であり私はその街でかなりの影響力を与える家で生まれました」


「よぉ、姉ちゃん。俺様達は生まれや育ちを聞きたい訳じゃないんだぜ??」


 ティスロの体の一点を見つめつつフウタが横槍を入れる。


 と、言いますか。いい加減そこから視線を外しません?? 俺達は今現在大切な話をしているので……。


「フウタ、少し黙っていろ」


「へ――いへいへい」



 シュレンがそれを咎めると彼はムっとした表情を浮かべて傾聴する姿勢を取った。




「皆様も周知の事だと思われますが魔法を詠唱するには術式を構築しなければなりません。私の生まれた家は魔法の扱いに富んだ家系であり、街の人々に術式の構築の方法や魔法の指導を与え続け名声を得て成長しました。私も物心付いた時から両親に指導され、大人になってから両親と共に街の人々に指導を施していました。術式の構築の時は私も、そして両親も時間を忘れて取り組み程で来客があった事を使用人から知らされる事も多々ありました」



 歴史、生物、魔法の術式等々。その分野の研究職に就く人達は自分の世界に一旦入り込むと中々出て来ないからねぇ……。


 俺も幼い頃は時間が経つのを忘れて虫を観察していたからその気持は大いに理解出来る。


 まぁ昆虫と術式の構築の難易度は雲泥の差ですけども。



「そんなある日、行政に携わる人からその力を貸してくれないかという打診があり。私は暫し考えた後に了承の便りを送りました。それから私は行政の手となり足となり彼等に魔法の指導や術式の構築の手伝いをさせて頂き気が付けば魔法化学部 魔法指導部門の最高幹部の椅子に座っていました」



 この姉ちゃんは真面目に仕事をこなして、その努力が認められて最高幹部の席に着いたのか。


 見た目と言動からして真面目そうな人だと思っていたが俺の想像通りの仕事振りを発揮していたのね。



「上に立つ者になるとそれはもう毎日が忙しくて……。正直体が二つあればいいなと思える日々が続きました。そんなある日の事です」



 おや?? 急に暗い口調になったな。



「普段通り執務に取り掛かろうとすると私に一通の便りが届きました。宛名は生家でもあるローンバーク家であり、久々に目にする家族名に心躍らせて封を切ったのですが。便りの内容は私が想像した物とはかけ離れた物でした」


「ティスロ……。辛いなら此処から先は私が話すわよ??」



 彼女の右肩に留まる青き小鳥が相手を労わる優しき声色で囁く。



「ううん、これは私の口から直接言わなきゃいけない事だから」


「そっか……」


「私に送られて来た便りの内容は……。私の生家でもあるローンバーク家を反政府組織の過激派でもある『砂漠のあかやり』 の構成員が乗っ取ったという内容でした」



「お、おいおい。穏やかなじゃないな」



 彼女の口から出て来た内容に素直に驚いてしまう。



「私の両親とまだ幼い弟と使用人を人質に取った。彼等の命が惜しければ我々の指示に従う事、そしてこの便りを読んでから七日以内に此処へ来い。便りにはお世辞にも上手とは言えない筆跡でそう書かれていました。これは何かの間違いだ。きっと弟が悪戯で私に送ったのだろうと淡い希望を抱いて家に帰ったのですが……。待ち構えていたのは武装した構成員に取り囲まれた家族の悲壮な表情でした」



「ふん、大体の事は読めて来たぞ。家族を解放する事を条件に王族を殺めろと脅されたのだろう」



 相棒が鼻息荒くそう話す。



「その通りです。彼等が私に与えた指示は王族の暗殺。情報を漏洩した場合は家族の命は無い物と思えと脅迫されました……」


「酷い話だよね……。大切な家族を脅すなんて無茶苦茶だよ」



 砂地の上でちょこんと座るシテナが相手の気持ちを労わる優しい声色で言う。



「私は言いました、とてもじゃないけどそんな事は出来ません!! と。私が反抗すると両親を殴打して更に幼い弟にも酷い暴力が与えられました。そして私は泣く泣く家族の命と王家の命の天秤に乗せました。しかし……。どう考えても天秤は平衡を保ちどちら側に傾く事もありませんでした。失意の底に着いたまま王宮へと帰り、普段通りに執務をこなしていましたが家族の顔は消える事は無く、苦肉の策として私は筆を執りました。 その手紙には王族の警護は予想以上に強固であり、私一人では不可能なのでその牙城を崩す為。レシーヌ王女様に認識阻害を掛けると書きました。彼等から一応の了承の便を受け取り私は……、私は絶大な信頼を寄せてくれている彼女を裏切る行為を働きそして自分の失態と家族の命を守る為に逃亡生活に身を落としました……。これが王女様に認識阻害を掛けた理由です」



 ふぅむ……。成程。


 声色、そして表情からして彼女の口から出て来た言葉は信用するに値する。


 事件の全貌が漸く見えて来たのだが、細かい所が不明だな。



「認識阻害の魔法は高度な術式が必要とされますがそれはどこで入手したのか。それと詠唱する為に馬鹿げた魔力を必要としますが一体どのようにしてそれを実現したのか。それと……。解除の術式は承知なので??」



 そうこれらの点が不明だ。


 認識阻害の魔法の詠唱は思わず首を傾げたくなる程の力を要し。更に高度な術式の構築が必要だと、ルクトから聞いたからね。



「申し訳ありませんが解除の術式は分かりません。そして認識阻害の術式は私の家の地下書庫の奥底に眠っていました。埃の蓄積具合からして恐らく誰の目に触れる事も無く長い間放置されていたのでしょう。私はその事を思い出し万が一の時に備えて、その本を手に取り王宮に帰還。術式を構築してからは本を燃やして未来永劫不届き者が現れぬ様にしました」



「それは残念だ。現存していたのなら我等の里で保管しても良かったのだぞ」


 グルーガーさんが冗談半分な口調でそう話すと。


「ちょっとお父さん。今は大蜥蜴達との軋轢を忘れて親身に聞く場面なんだからね」


「……ッ」



 娘に咎められてしまいそれを受け取った彼は街中のチンピラも慄く顰め面を浮かべてしまった。



「本が放置されていたのは恐らく詠唱する魔力が足りないから、術者の術式の容量を優に超えてしまう物だから。この二点に尽きます。私は他の術式を犠牲にする代わりに認識阻害の術式を完成したのですが……」



「問題の一つ、詠唱する魔力が足りない事に直面したのか」


 シュレンが興味深そうな声色で話す。


「仰る通りです。この問題を解決する為に王宮の国庫に大切に保管されてある『月下の涙』 を持ち出しました」



「「「月下の涙??」」」



 この場に居るほぼ全員が同時に口を開いた。



「その水晶は月の光を集めて術者がその水晶を通して魔法を詠唱すると足りない魔力を補ってくれる優れた魔道水晶です。私はそれを国庫から持ち出し、王女様の部屋に足を踏み入れ彼女を眠らせると準備に取り掛かりました。月下の涙は満月の日にその効力を発揮します。月が夜空に昇り、沈み行く頃……。力を蓄えた月下の涙に魔力を籠めて認識阻害の魔法を詠唱しました。私の魔力及び水晶の力では王宮内が精一杯だった様なので彼女の姿が醜く映るのは王宮内の者に留まりました。私はそれから月下の涙を元の位置に戻して夜明け前までに城内を脱出。それからは反政府組織の者からそして執行部の者から身を隠す為に逃亡生活に身を落とした。これが……。私が犯行に至った真実です」



 彼女が何故凶行に至ったのか、その事実の全貌が明るみになったのだが……。



「何故周りの者を頼らなかったのだ」



 そう、相棒が厳しい口調で咎めた様に。仲間を信頼して不届き者を成敗する可能性に賭ける選択肢もあったのだ。


 しかし、これには一つの問題点がある。



「相棒。それはちょっと不味いぜ??」


「何故だ」


「反政府組織に内通する者が行政側に居たらどうするんだよ。こっちの話が突抜けで相手に伝わり、家族が皆殺しになっちまう可能性もあるんだぞ??」



 そうこの一点が気掛かりなのだ。


 彼女が反政府組織に虚偽の報告をすれば家族の命が失われてしまう可能性もある。


 王宮で働く事となれば信用に足る者かどうか、生まれた家や職歴経歴を洗い浚い調査される。そこで問題無しと判断されても後に金と名誉に目が眩んだ大馬鹿野郎が出て来る恐れもあるのだから。



「私もその点を危惧して動けないでいました。誰にも頼れず、信用して下さった者を裏切ってしまった私の罪は重い。ですが……、それでも家族の命は大切なのです」


「ふぅ――……。うん、話してくれて有難うよ。これで俺達の次の行動は決まった訳だ」



 決まったと言いますか、やらざるを得ない状況に追い込まれてしまったと言う方が正しいかな。



「と言いますと??」


「俺達はレシーヌ王女様の下へティスロを『無事に送り届ける』 依頼を請け負って此処に来た。そして、今尚家族を人質に取られているあんたを王宮に連れて行く訳にいかない。俺が言っている事は理解出来たかな??」



 ちょいと意味深な台詞を吐いて彼女を見つめると。



「そ、そんな!! 余りにも危険です!! 相手は武装した連中なのですよ!?」


 刹那に優しき瞳を浮かべるが瞬き一つの間に驚きの表情に変わった。





お疲れ様でした。


これからお出掛けをして、帰宅後に後半部分の執筆作業に入ります。


次の投稿まで今暫くお待ち下さいませ。

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