第百三十一話 戦場に轟く戦士の雄叫び その二
お疲れ様です。
後半部分の投稿になります。
「う、うぉおおっ!? 何だよ!! 今の一撃は!!」
「ぜぇ……。ぜぇ……。俺の技だ、よ……」
今にも膝が折れそうになるのを懸命に堪え、フウタに向かって息も絶え絶えに話す。
ち、畜生。少しでも気を抜いたらぶっ倒れてしまいそうだぜ。
「それなら俺様もとっておきの技を披露しなきゃなぁ!!」
「スゥ――……。コハァァ……」
フウタの体から腹の奥にズンっと響き渡る魔力の波動が迸るとそれを捉えた奴は此方に向かって大きな口を開きやがった。
お、おいおい。勘弁してくれよ……。こっちはもう立つのも辛い状況なんだぜ??
「へへ、芋虫野郎。俺は此処だぞ?? 上手く狙えよ??」
右手に持つ短剣を腰に収めると敢えて両手を広げて奴の注意を引き付けてやった。
さぁ、俺の体とテメェの攻撃力。どちらが上回るから勝負をしようじゃないか。
「ダン!! 避けろ!!!!」
フウタが此方に向かって叫ぶが今から回避行動を取ってもどの道避けられねぇや。
「コォォオオオオ……ッ!!!!」
奴の巨大な口の奥から生臭い香りが放射されて瓦礫の一部が喉の奥に見えた刹那。
「――――。魔笛の音だ」
熱気と死が交差する戦場に清らかな音色が響き渡った。
「うひょう!! やるじゃねぇかシテナ!!」
「シテナお嬢様!!!!」
彼等の視線に釣られて視線を向けるとそこには瓦礫の上で静かに佇み、虫払の魔笛を演奏している少女の姿を捉えた。
頭上から降り注ぐ光を浴びて演じるその様は、舞台で見事な演技を演じる主演女優の様に頼もしく見える。
それを証明する様に巨大砂虫を含め戦場に居る者達の視線をほぼ一人占めにしていた。
そう……。『ほぼ全員』 だ。
「―――――。この僅かな時は千金に値するぞ!!」
は、はは!! さっすがハンナちゅわん!!
上空にぶっ飛ばされても決して諦めなかったのね!!!!
上空から落下する勢いを利用して己の剣を奴の背中に突き刺す算段かよ!!
俺はそう考えたのだが、攻撃大好きな彼はそこから更にもっと酷い痛みを与えてやろうと考えていたようだ。
「はぁぁああ……。第七の刃!! 雷轟疾風閃ッ!!!!」
「「「ッ!?」」」
戦場の空気を揺れ動かす雷鳴が轟くと彼の体は一筋の光となって巨大芋虫の背に向かって行き、そしてその光が巨体に着弾すると。
「ギャアアアアアアアッ!?!?!?」
この戦いが始まって初めて奴が激痛によって悶え苦しむ雄叫びを放った。
「ちぃ……。両断するまでには至らなかったか……」
奴の背中から颯爽と飛び降りたハンナが悔しそうに唇を食む。その右手にはいつも握られている剣の姿は確認出来ない。
「ハンナ!! 大丈夫か!?」
あの砂の吐息の直撃を食らったのだ。
普段通りに立ってはいるが恐らくかなり無理をしているのだろうさ。
「あぁ、心配は要らん。それよりもティスロ殿!! お膳立ては済ませたぞ!!」
彼が俺達よりもずぅっと後方の位置に居る彼女へ向かって叫ぶと。
「有難う御座います!! この機を逃す訳にはいきませんからね!!!!」
彼女の細身の体からは到底想像出来ない魔力の鼓動が迸り、俺達の頭上に思わず口をポカンと開いて見上げてしまう様な巨大な魔法陣が浮かび上がった。
「轟け雷の力……。逆巻け大地を揺らす轟雷の音……。今此処に我の力を示さん!!!!」
黄金の輝きを彷彿とさせる黄色の魔法陣がティスロの魔力の波動に合わせて一際強く光り輝くと目を開けていられない閃光が戦場に放たれる。
「我が魔力よ空を、大地を、そして星を穿て!! 轟雷裂終ッ!!!!」
凄まじい稲妻の雷鳴が戦場に轟くと頭上に浮かぶ魔法陣から巨大な雷が砂虫の背に突き刺さるハンナの剣に目掛けて穿たれた。
奴の巨躯に雷が着弾した刹那。
「ググググォォオオオオ――――ッ!?!?」
「ひぃやぁぁああああ!?!?」
立つ事さえ叶わない強力な衝撃波が俺の体を襲い、巨大砂虫の絶叫に合わせて体が後方へ向かって吹き飛ばされてしまった。
い、いやいや……。もう少し加減ってものを覚えなさいよね!!
「近くに居る奴に当たったらどうするつもりだったんだよ!!」
体中に纏わり付く砂を払い落としてティスロへ向かって叫ぶ。
「はぁ……。はぁっ……。ハンナさんの剣が目印になってくれましたからね。は、外す訳はありませんよ……」
お、おおぅ……。ひっでぇ面だな。
彼女の両足はもう既に自重を支える事は叶わないのか、今は右膝を瓦礫の天辺に着けて息も絶え絶えに話している。
気を抜けば直ぐにでも失神しちまう寸前って所だな。
「ダン!! 私のハンナとティスロが活路を切り開いたんだからね!! 後は任せたわよ!!!!」
「言わずもがな!! フウタ!! 俺達で決めるぞ!!!!」
丹田に強烈な力を籠めて巨大砂虫の側頭部へ向かって駆け出すと同時に叫ぶ。
「おぉうっ!!!! この時を待っていたぜ!!!!」
俺の叫び声に呼応した彼が右側頭部へ向かって風の力を纏って苛烈な勢いで駆けて行く。
「俺様が此方側を叩く!! ダンは反対側を全力で叩け!!」
「分かっているって!!」
「いいか!? 絶対にこれで決めろよ!?」
隊全体の疲弊具合、戦意、そして巨大砂虫の動きを抑えるシテナの魔笛の演奏。
彼がしつこく俺に催促して来るのは恐らくこれらを加味しての事だろう。
これを外せば取り返しのつかない事になるってな……。
女神様からの手厚い抱擁が頂ける千載一遇の大好機が目の前にある。
しかし、その奥にはやせ細った骸骨が俺達の魂が間も無く手に入るとして背筋が寒くなる薄ら笑いを浮かべている。
好機と危機は表裏一体。
冷たい湖の上に張った薄氷をおっかなびっくり渡る様に。その決断には慎重にならざるを得ないが今は慎重になるよりも熱き想いを胸に秘め。そして奴を必ず倒すという烈火の闘志を乗せた一撃を想いの限りに放てばいいのさ!!!!
「あぁ!! 俺達で勝利への活路を開く!!!!」
「おうよ!! さぁ食らいやがれ!! これが俺様のぉぉ鍛え抜かれた拳だぁぁああ――――!!!!」
フウタの体から戦場全体の空気が震える程の魔力の波動が放たれると彼は決意を籠めた烈火の瞳を浮かべた。
「食らいやがれ!! 天衣無縫無頼拳ッ!!!!」
風の力を両足に宿し、両の拳には真っ赤に燃える炎の力が宿る。
異なる二つの属性を付与した体には魔力の扱いに卓越した者でさえも感嘆の吐息を漏らすであろう巨大な力が渦巻く。
「でやぁぁああああ――――ッ!!!!」
素早い突貫に合わせて右の拳を奴の右頬に打ち込むと。
「グググゥッ!?」
力無く砂地に倒れていた頭の先端が微かに開いた。
「これでも開かねぇのなら沢山のお代わりをくれてやらぁぁああ――――ッ!!」
避ける場所が一分も見当たらない炎の力を宿した拳の連打。
「せぁぁああああ――――ッ!!」
左右の拳の大雨が止むと今度は一切の繋ぎ目が見当たらない風の力を付与した足撃の連打が始まる。
彼の体の特徴を生かした目で追えぬ連続攻撃に思わず舌を巻きそうになるが驚くのは後で良い!!
今は奴の口を俺達の攻撃でこじ開ける事が最優先だ!!
「さぁ……。いい加減その無駄にデケェ口を開けやがれぇぇええ――――ッ!!」
巨大砂虫の左側頭部に到着すると右足に烈火の力を籠めて宙へ舞い上がり、そして俺の……。俺達の願いを込めた雷撃を解き放った。
「食らいやがれ!! 烈火桜嵐脚ッ!!!!」
体の芯を軸に目まぐるしい速度で回転。
魔力と筋力と遠心力を重ね合わせた一撃を奴の左頬に直撃させてやった。
ど、どうだ!? 俺達の攻撃は!?
着地と同時に祈る思いで巨大砂虫の先端を見つめると。
「ギィィアアアア――――ッ!!!!」
痛みに耐えられなかった奴の体の先端が四方にグパっと開き、遂に、遂に……!!
その時が訪れようとした。
「「シュレンッ!!!!」」
フウタと攻撃の手を止め、隊の最後方で今も静かに魔力を高めている彼に向かって叫んだ。
「――――。よくぞ某が魔力を高める時を稼いでくれた。この機は決して逃しはせん!! フゥンッ!!!!」
シュレンの小さな体から途轍もない力の鼓動が戦場に伝播。
「うぉっ!?」
その魔力の圧は離れている俺の体を刹那に揺らす程だ。
「さぁ……、終局の時。此処に某の力を解放するっ!!」
彼の体の前に巨大な深紅の魔法陣が浮かび上がると戦場全体の温度が数度上昇した。
「お、おいおい。シュレンの奴、俺達が近くに居るってのにあの馬鹿げた魔力を解き放つつもりなのかな??」
鉄と同程度の硬度を持った生唾をゴックンと飲み干す。
「アイツは加減ってものを知らねぇからなぁ……。と、取り敢えず俺様は退避するぜ!!」
「お、俺もちょっと離れよ――っと!!」
疲弊しきった両足ちゃんを必死におだてて巨大芋虫の巨躯から離れて行くと遂にその時が訪れてしまった。
「貴様は死すべき存在だ。某の力を受け取れ!! いくぞ……!!」
も、もうちょっと待って!!!! まだ全然距離が取れていな……。
「炎遁紅時雨ッ!!!!」
深紅の輝きを放つ魔法陣から真っ赤に燃え盛る超巨大な火球が出現すると美しい軌跡を描きながら砂虫の大きな口へ向かって周囲の空気を煮沸させながら直進して行く。
その熱量は凄まじく火球の軌跡上の砂は真っ黒に焦げ、火球の射線上に存在した瓦礫を吹き飛ばして砕け散った瓦礫は無残な石の塊となって弾け飛んだ。
間も無く閉じようとする巨大砂虫の大口径に火球が無理矢理捻じ込まれると。
「グボボゥッ!?!?」
奴の体内の奥深くで肉が弾け飛ぶ生々しい爆音が奏でられた。
嘘だろ!? あの火球を食らっても爆散しないの!?
これを逃せば俺達に勝ちは無い。
そう考え踵を返そうとしたのだが……。
「確実に貴様を殺す!!!!」
「どわぁぁああああ!?!?」
熱量を帯びた深紅の魔法陣から二つ目の火球が、更に続けて三射目の火球が放たれると二つの火球は一射目と同じ軌道で砂虫の口へと向かって行く。
砂地に刻まれた黒の軌跡は火球が放つ猛烈な熱量により砂から硝子へと変化。
それが火球の熱量の異常さを物語っていた。
な、何て馬鹿げた熱だよ!! す、砂が硝子に変化したぞ!?
その火球を一度食らっても原型を留められている巨大砂虫の巨体の頑丈さに脱帽してしまいそうだが……。
流石にアレを三発も食らって無事な生物はこの世に存在しないだろうさ。
二発目の火球が奴の口内へ侵入すると。
「グブェェッ!?」
体内で炸裂した火球が内部から肉を切り裂き、巨体の至る所に生まれた隙間から黒い煙が放出。
一射目、二射目の火球の熱量により融解して剥き出しになった開口部に三発目が侵入した刹那に俺は勝利を確信した。
「へへっ、お疲れさん。お前さんは中々の強さだったぜ??」
「グボェェアアアアアアアア――――――ッ!?!?」
至る所から黒き煙が燻ぶる体内に特大火球が直撃すると巨大芋虫の体内が異様な膨張を見せ、その巨躯でも抑えきれない熱量が迸ると奴の体が木端微塵に弾け飛んだ。
「うげぇっ!?」
爆発の余波は空高い位置で飛ぶ鳥の翼を止めてしまう程の威力を有しており、地上で真面に衝撃波を食らった体は有無を言わさずに後方へ吹き飛ばされてしまった。
「い、いちち……。さ、流石にもう襲い掛かって来ないよな……」
仰向けのまま微かに上体を起こして奴の体を確認するとそこには巨大な生物が存在したであろうと推測出来るとても大きな肉の塊が炎に焼かれて燻ぶっていた。
肉厚の体の破片は周囲に飛び散り、随分と高い位置の壁にも肉片がへばり付いている事が確認出来た。
「は、はぁぁ……。な、何んとか勝てたぁぁああ……」
力無く仰向けの姿勢で倒れ込んで直上の高い位置にある青空を見上げていると白濁の雨が体に降り注ぐ。
そりゃあれだけ派手に爆散したのだから奴の体液が飛び散るのも当たり前か。
勝利の雨としては少々きたねぇけど……、この際文句は言わねぇよ。
だが願わくば勝利の女神様からの温かな祝福を受けたかったのが本音だぜ。
肺の奥に最後まで留まって微かに燻ぶり続けていた烈火の闘志をゆっくりと吐き出すといつまでも止まない白濁の雨を浴びつつ。焦げ臭い香りが漂う戦場の中で勝利の余韻を大切に噛み締める様に味わっていたのだった。
お疲れ様でした。
これにて巨大砂虫との激闘は終了を告げ、私が勝手に名付けた呪われし姫君編の後半部分に突入します。
この大陸での活動もいよいよ終盤へと差し掛かりホっと一息を付いているのですがまだまだ道のりは長いので油断は出来ない状況が続いていますね。
後半部分を投稿する時にPVを確認させて頂いたのですが……。
皆様の温かな応援の御蔭で七十万PVに到達する事が出来ました!! 本当に有難う御座います!!
連載開始当初はよもやこんなにもPVが付くとは考えていませんでしたので素直に驚いていますね。ですが!! ここで満足しては第一部完結まで漕ぎ着ける事が出来ませんのでこれからも身を引き締めて連載を続けて行こうと考えております。
それでは皆様、花粉に気を付けてお休み下さいませ。