第百三十一話 戦場に轟く戦士の雄叫び その一
お疲れ様です。
本日の前半部分の投稿になります。
天高い位置から光と砂の雨が熱気渦巻く戦場に降り注ぎ戦士達の俊敏な動きに合わせて空気の中に漂う砂が華麗に舞う。
砂の雨は静まり返った白一色の白銀の世界に降り注ぐ粉雪の様に光を反射して美しく光り、そして華麗に舞い続ける。
幻想的とも見える戦場には戦士達の怒号が響くものの、彼等の闘志を上塗りしようとして巨大砂虫の咆哮が轟きその余波を受けた細かい砂が微かに揺れる。
空の覇者である白頭鷲は大きな両翼を巧みに動かすと巨大砂虫の砂の吐息を回避して戦士達を鼓舞。
地上で懸命に戦う戦士達は己が果たすべき責務を全うする為に全力を優に超える死力を尽くしてその手に勝利を掴もうとしていた。
両者の気合と戦意は拮抗しており何がきっかけでどちらに勝利が傾くのか。
それは運命を司る神々しか知り得ないかも知れないが、俺達は一つの塊となって敗北を与えようとする超生命体に今尚抗い続けていた。
「グルォォオオオオ――――ッ!!!!」
「甘いぞ!! 何処を狙っている!!」
俺達の頭上を華麗に舞う白頭鷲が地上から放たれた砂の吐息を両翼を激しく動かして回避すると。
「上ばっかり見ていると下が御留守になるぜ!?」
「その通りだ!!」
火の力が宿ったフウタの小太刀が気孔に深く突き刺さり、リモンさんの曲刀が気孔を鋭く切り裂いた。
「ギギィィイイッ!!!!」
彼等の与えた攻撃が巨躯を微かに上下させるがそれでも奴の戦意は衰える事を知らず。
「ギィィアアアアッ!!!!」
「何で俺を狙うんだよ――――ッ!!!!」
奴の死角からこ――っそりと攻撃を企てようとした俺に向かって砂の吐息を放射しやがった!!
俺はまだ攻撃を与えていないでしょう!?
御自慢の体に傷をつけた不届き者は向こうに居るってのにぃ!!!!
両足の筋力がブチ切れてもおかしく無い勢いで前方に飛び出して砂の吐息に紛れた瓦礫と砂の塊を回避。
「ぜぇっ……。ぜぇぇええ!! いい加減に根負けしやがれってんだ!!」
砂地の上を中々に笑える回転数で転がり続け、奴の体の直ぐ側で立ち上がると唯一の弱点である気孔へ向かって短剣を突き刺してやった。
「ギュルァァアアアッ!?」
黒蠍の甲殻で制作された短剣が奴の気孔内部の肉を深く切り付けると断末魔の叫び声が随分と高い位置から聞こえて来るが……。
それでも俺は突き刺した勢いを殺す事無く、己の上腕が全て収まる位置まで短剣をめり込ませてやった。
「どうだ!? 体内を切り刻まれるのは堪えるだろう!?」
気孔から右腕を引き抜き傷ついた気孔から吹き出る白濁の液体を浴びながら叫ぶ。
俺達が与えた痛み、そして戦闘の疲労によって高く聳え立つ震える上半身が徐々に地に近付いて行くが……。
「グ……。ググググゥゥ……ッ!!!!」
奴はまるで決して膝を付けぬと宣言した戦士の様に震える体を長い下半身で支え、再び頭を天高い位置に戻しやがった。
お、おいおい。これだけ傷付けてもまだお前さんは俺達に抗うって言うのかい!?
「頑丈なのも大概にしろよオラァァアアアア――――ッ!!!!」
俺と同じ気持ちを抱いたフウタが再び小太刀で切りかかるものの。
「ギィッ!!」
「「どわぁぁああっ!?!?」」
随分と遠い位置から地上へ向かって薙ぎ払われた尻尾の強襲によって地上部隊の勢いが遮断されてしまった。
「ちっくしょ――。結構な数の気孔を潰したけどまだあの野郎は元気一杯じゃねぇか」
フウタが砂虫から距離を取り、額の汗をクイっと拭いつつ話す。
「これでも大分動きが鈍って来た方だぞ。俺達の攻撃は決して無駄では無い」
「リモンさんの言う通りさ。俺達はシュレンが魔力を溜め終えるまで奴を傷付け、そして乾坤一擲となる攻撃の準備が出来次第奴の口を開けさせればいいのさ」
額から零れ落ちて来る汗を右手の甲で拭い、荒い呼吸を整えながらそう話す。
「口を開けさせるって……。どうやって」
「ん――……。先端部分の左右を思いっきりぶん殴れば開けるんじゃね?? ほら、人間と同じで痛みを与えたらアイツはあの気色悪い口を開けて叫ぶだろ??」
訝し気な表情を浮かべて俺を見つめているフウタに言う。
「成程ねぇ。じゃあ残る問題は奴を張り倒してその場に留める事、か」
シュレンが魔力を溜める時間は空を舞い続ける相棒のお陰で何んとかなりそうだが……。残り微かな体力を再燃させてあのドデカイ口を開けさせる痛みを与える事は可能なのだろうか??
疲弊した体から繰り出される攻撃で奴が口を開けなかったら??
特大の攻撃が始まる前に奴を足止めする部隊が全滅してしまったら??
頭の中に浮かぶのは最悪な未来ばかりだが……。今は暗い未来を想像するよりも問題が山積みになっている非情な現実に焦点を合わせるべきだよな。
「そういう事。ハンナの動きが大分鈍って来たし、今の内に奴の体力を削っておこうぜ」
「……ッ」
上空へ視線を送ると、狭い天蓋状の空に一羽の怪鳥が旋回行動を続けながら猛禽類特有の鋭い視線を巨大砂虫の背中へと向けていた。
本来であれば攻撃大好きな白頭鷲ちゃんは自ら率先して獲物に襲い掛かるのですが、今は俺達の盾となり奴の注意を引き付けている。
彼のその心意気に応える為にも此処は一つ暴れ回るとしましょうかね!!
「うっし!! 休憩終了!! 次は俺から打って出るぜ!!!!」
右手に持つ短剣を力強く握り締めると上空の白頭鷲に気を取られている巨大砂虫の下半身側へと向かって突撃を開始。
「食らいやがれぇぇええ――――ッ!!!!」
地面の砂が俺の行く手を阻もうとして懸命にしがみ付いて来るがそれを振り払い、もう何度目か分からない攻撃を気孔に与えてやった。
「グゥッ!?」
ほぅ!! 大層痛そうに尻尾を上げるではありませんか!!
かなり離れた位置にある平屋一階建てと同じ大きさの尻尾が痛みに反応して天高い位置までピンっと立つ。
「いい加減にくたばらねぇと食っちまうぞ!!」
此方側の巨躯の上半身にはフウタの小太刀が。
「まだまだぁぁああ!!」
反対側にはリモンさんが曲刀の雷撃を打ち込み。
「これでも食らいなさい!! 氷穿槍!!」
そしてこれはおまけだとして宙に浮かぶ淡い水色の魔法陣から氷の槍が降り注いだ。
へへ、残り少ない魔力なのに無茶しちゃって……。
攻撃の手を少し緩めて振り返ると顔面蒼白のティスロが震える足を必死に御し、辛うじで立っている姿を捉えた。
「ティスロ!! もう止めて!! それ以上魔力を使用すると死んじゃうわよ!!」
「今が好機なのです!! この機を逃したら恐らく二度と勝ちの目は訪れません!!」
その通りッ!! 魔法化学部の最高位まで登り詰めているだけあって良く分かっているじゃねぇか!!
「流れは俺達で掴み取るんだ!! 敵に先手を打たれる前に此方から打って出るのが……ッ!?」
や、やばい!! また砂の息を吐き出す気か!?
「コォォ…………」
巨大砂虫が体内に存在する残り僅かな瓦礫と砂を吐き出す所作を取ると咄嗟に身構えた。
しかし、奴は地上で蠢く矮小な俺達よりも上空で舞い続ける白頭鷲の方が脅威であると捉えた様である。
巨大な頭部を上空で旋回し続ける白頭鷲に向けて照準を定めると俺は居ても立っても居られずに喉が裂ける勢いでハンナに向かって叫んだ。
「ハンナぁぁああああ――――ッ!! 絶対に避けろよぉぉおお――――!!」
地と空。
この二点から攻め続けているお陰でコイツは攻撃に迷いが生じているのだ。
その利点が失われれば此方の形勢が一気に不利になってしまうのだから!!
「五月蠅いぞ!! そんな事一々言われなくても……。ッ!!」
や、やっべぇ!! 吐き出すのか!?
「グップゥ……。ググゥゥ……。グォォオオオオオオ――――ッ!!!!」
一度、二度吐き出す所作を見せた後。
螺旋状に渦巻く砂の息がとんでもねぇ勢いでハンナに向かって放射されてしまった。
「ちぃっ!! もっと広さがあれば容易く避けられるのに!!」
両翼を巧みに動かして地上から襲い来る砂の息を急上昇して躱し、そして体を器用に回転させて急下降する。
上下左右に素早く飛翔して回避し続けているが、これまでの戦闘によって傷ついた翼に疲労の色が見え始めており回避行動に微かな陰りが見えた。
「ハンナの奴!! 相変わらず上手く避けるな!!」
「馬鹿野郎!! あれが精一杯なんだよ!! 俺達が攻撃を加えてハンナを援護するぞ!!」
フウタには卓越した動きに見える様だが相棒と共に長時間飛んで来た俺には分かる。
ハンナにもそろそろ限界が近いってな!!
「俺の相棒にこれ以上きたねぇ吐瀉物を吐きかけるんじゃねぇぇええ――!!!!」
気孔に向かって突き出した短剣の切っ先が生の肉の感触を捉えると、万力を籠めて肉の深くに押し込んでやる。
その刹那に巨体が微かに揺らぐがそれでも巨大砂虫は砂の吐息の放射を止める事は無かった。
これでも駄目か!? それならもっと酷い目に遭わせてやるぜ!!
「ずぁぁああああ――――!! 弾けやがれぇぇええ――!!」
右手に火の力を籠めて体内で一気苛烈に炸裂させてやると。
「グボゥッ!?」
俺の放った攻撃が奴の全身から苦悶の声を勝ち取った。
どうだ!? これでいい加減に俺達に注意が……。
腕を引き抜き、遥か向こう側の頭部へ視線を送った瞬間。
「しまった!!!!」
「ハンナぁぁああ――――ッ!!!!」
我が相棒が砂の吐息の直撃を食らい、天高い位置まで吹き飛ばされてしまう様を捉えてしまった。
「テメェぇええええ――――ッ!!!! 俺の大事な家族に手を出すなぁぁああ――!!!!」
白濁の液体が大量に噴出する気孔から腕を引き抜くと疲弊した両足に喝を入れて宙へ舞う。
足が捻じ切れても良い!! ここで体力が尽きても良い!!
アイツだけは絶対に守って見せる!!!!
「これでも食らいやがれぇぇええ!! 桜嵐脚!!!!」
大木と同程度の太さを誇る砂虫の胴体へと向かい、明確な殺意を持って右足の甲を直撃させてやった。
「グギィィイイイイッ!?!?」
奴の弱点でもある気孔に俺の雷撃が着弾すると巨大な下半身部分が刹那にふわりと浮かび上がり、爪先から砂地に着地すると巨大砂虫が漸く砂の吐息の放射を止めた。
お疲れ様でした。
これから夕食を摂った後、後半部分の編集作業に入りますので次の投稿まで今暫くお待ち下さいませ。