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今日も今日とて、隣のコイツが腹を空かせて。皆を困らせています!!   作者: 土竜交趾
過去編 ~素敵な世界に一時の終止符を~
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第百三十話 盤面を覆す大技 その二

お疲れ様です。


後半部分の投稿なります。




「ギャハハ!! あの野郎自分の攻撃で苦しんでら!!」


 フウタが奴の巨大な口へ向かって指を差して笑うが……。


「な、何か様子がおかしく無いか??」


 俺は笑うという感情がちっとも湧いてこなかった。



 奴が苦しんでいる理由は大量の物質を体内に取り込んだから。それは容易に理解出来る。


 もしも人間が奴と同じ所作を取ったらどうなる??


 気の合う仲間達と行わる宴の中で陽性な雰囲気に釣られて呆れる程に米を食らい、肉を食らい、挙句の果てには酒を浴びる様に飲む。


 食えや飲めやのどんちゃん騒ぎは、それはもう楽しいの一言に尽きるのですが……。


 その数時間後には己の取った行動を激しく後悔するであろう。


 何故なら体の許容範囲を超える物質を摂取すれば人体はそれを 『吐き出す』 様に作られているのだから。



「お、おいおい。まさかとは思うけどぉ……」


 俺の考えを汲んだフウタの顔がサッと青ざめる。


「そのまさかだよ!! ティスロ!! 俺達に結界を張る事は出来るか!?」


「無理です!!」


 そこはせめて努力すると叫んで欲しかったのが本音だよ!!


「それなら自分の身だけを守る事に専念しろ!! 各員……。衝撃に備えろぉぉおおおお――――ッ!!!!」


 巨大砂虫の頭頂部がグッパグッパと忙しなく開口しては閉じての繰り返しを行っていたが……。



「ゴゴゴゴァァァアアアア――――ッ!!!!!!」



 俺の叫び声を捉えると大変気色の悪い口腔から大量の瓦礫と砂が含まれた吐息を此方に向かって勢い良く吐き出して来やがった!!!!



「「ぐぇっ!?!?」」



 咄嗟に両腕を前に翳して防御態勢を取るものの、近くに居たフウタと共に砂の吐息の直撃を受け取ると体が有り得ない速度で後方へと吹き飛ばされてしまった。



「ゴルルァァアアアアア――――ッ!!!!」



 いっでぇぇええ!! 何だよこの有り得ねぇ攻撃はぁぁああ!?


 大量の土砂に押し流され行くこの体の目の間に広がるのは絶望という名の闇だ。


 指先一つさえも動かす事が叶わない風圧の中に紛れる細かな砂礫や瓦礫の破片が体中を傷付け、質量を持った風の威力は体表面だけでは無く五臓六腑を圧し潰す苛烈な勢いを持つ。


 砂の吐息を食らい続けていると体がどちらに向いているのかさえも理解出来ない程に宙の中を回転し続け、その間にも体を覆う土砂と瓦礫により全身隈なく刻まれて行く。



「イ、イギギィィッ!!!!」



 どうにかしないとこ、このままじゃ確実に死んじまう!!


 微かな希望を胸に抱いて死が掌握するこの絶望的な空間から逃れようとして右腕を伸ばそうとすると。



「ぶっはぁぁああああ!!」



 突如として土砂の流れが止んで俺の体はまるで数時間振りに水の中から這い上がったかの様に新鮮な空気を求めて大きく口を開いた。



「ごっはぁぁあああ!! はぁっ……。な、何んとか生き延びる事が出来たな」



 俺から少し離れた位置で此方と同じ所作を取ったフウタがそう話す。


 彼の装束は所々破れてそこから覗く肌は朱に染まり、整ったと呼べるだろう顔にも無数の傷跡が確認出来た。



「ひっでぇ面だな……」


 砂に、汚れに、そして血に染まる彼の顔を見て素直な感想を述べてやる。


「お前さんも俺様と変わらないだろうさ。所で、野郎はまだまだ元気良くあの砂の吐息を吐いているぜ??」



「グボボァァアアアアアア――――ッ!!!!」



 俯せの状態から顔を真正面に向けると、フウタが話し通りあのクソ野郎は戦場に居る全ての戦士達を屠ろうとして今尚砂の吐息を吐き続けていた。



「一度目は何んとか耐えられたけどよぉ。体の頑丈な俺様でも二度目はどうなるか分からないぜ」


「そうなる前にぶち殺さないと俺達全員、あのクソ野郎の胃袋の中に収まっちまうぞ」


 巨大な芋虫の動きに合わせて揺れる地面の上から立ち上がり、闘志を籠めた瞳で奴を見つめる。


「隙を窺って奴の懐に入るか?? ほら、今も魔笛の影響を受けて動きが少しだけ鈍いし」


「……っ」



 グルーガーさんが己の魔力と体力を犠牲にして魔笛の演奏を続けているお陰で俺達は助かったのかも知れない。


 もしも全力に近い力で今の攻撃を受けたと思うと背筋に嫌な汗がじわりと浮かび上がってしまった。



「でも最初の方に比べると野郎の動きが元気になってねぇか??」



 フウタの言葉を受け、青ざめた表情のグルーガーさんから再び巨大砂虫に視線を戻すと……。



「――――。本当だ」



 砂の吐息を巧みに躱し続けているハンナ達を執拗に追い回している巨大な頭部に機敏な所作が見られる。


 徐々に回復していく巨体の傾向から察するに虫払いの魔笛の効果が弱まっている事が容易に伺い知れてしまった。



「グルーガーさんの体力が枯渇するのは目に見えている、か。よし、それじゃあその前に決着けりを付けねぇと」


 痛みと疲労によって震える両足に強烈な往復ビンタをブチかまして巨大砂虫の方向へ向かって歩み出す。


「前衛は楽な仕事じゃねぇよなぁ」


 俺と肩を並べて歩くフウタがヤレヤレといった感じでぼやく。


「厳しい修行をしに来たんだろ?? 理に適った戦闘じゃん」


「俺様が言いたいのは程度だよ、程度。少しでも判断を誤ったら死んじまう危険な戦場なんてまっぴらごめんだぜ」



 そう言う割には口角がきゅぅっと上がっていますぜ??


 彼の心の中には大きな恐怖と向上心がせめぎ合っているのだろうさ。



「はは、同感だ。この戦いが終わったら美味い飯でも食べて皆で仲良く一杯……。おっとぉっ!!!!」



 彼等と交わす楽し気な宴の姿を想像していたら地面と平行になって砂の吐息が襲い掛かって来やがった!!



「あっぶねぇな!! フウタ!! 大丈夫か!?」


 咄嗟にしゃがんで奴の大技を回避すると五月蠅く鳴る心臓ちゃんを宥めて立ち上がる。


「よ、余裕――」


 その割には死人もあっと驚く程に顔面蒼白ですぞ??


「俺様達に歯向かったらどうなるか、元気過ぎる野郎の体に嫌という程思い知らせてやるぜ!!」


「おう!! その意見乗った!!」



 足に力を入れて死が蔓延る死地に突撃して行った彼に続こうとした刹那……。



「お、お父さん!? しっかりして!!」


「ッ!?」


 シテナの強烈な悲鳴が俺の足をこの場に留めてしまった。


「大丈夫か!? フウタはそのまま前衛に加わってくれ!!」


「あいよう!!」



 巨大砂虫の方角では無く、随分と後方まで吹き飛ばされてしまったグルーガーさんの方角へと向かって駆けて行く。


 あそこまで吹き飛ばされたのは恐らく先程の薙ぎ払いの一撃を食らった所為だな。



「ダン!! ど、どうしよう!? お父さんが!!」


「任せろ!! 簡易的な治療ならお手の物だからな!!」


 地面に力無く倒れている彼に近寄り懐から取り出した聖樹ちゃんの森で頂いた薬草で治療を開始しようとするが。


「ち、治療は不要だ……。今此処で誰かが動けなくなれば俺達は確実に負けるぞ」


 彼は俺の手を止め、強烈な戦士の瞳の色を浮かべて上体を起こした。


「グルーガーさん……。それは分かっていますけどその体じゃもう魔笛の演奏は……」



 物理攻撃に強い筈のミツアナグマさんの体は瓦礫と砂の暴圧によってズタズタに切り裂かれ、大量の魔力と体力を消費した体では恐らく治癒は望めない。


 治癒魔法が使用出来るシュレンは今も魔力を高め続けており、魔法に長けたティスロは巨大砂虫に対抗すべく僅かな魔力を使用して現在も戦闘中だ。



「あぁ、恐らくもう戦えないだろうが……。例えこの命が絶えようとも奴の動きを止めてみせるさ」


 弱々しい足取りで立ち上がろうとするが。


「っ!?」


 今も震える両足は彼の命令を受け付ける事無く立ち上がる事を拒絶してしまった。


「こ、この情けない足が!! 何故言う事を聞かん!!」



 グルーガーさんが口をぎゅっと握り締め己の右足に向かって強烈な拳を叩き込み、強烈な悪態を吐き出すと戦場に一際強烈な魔力が迸った。



「俺は此処だぞ!! さぁその下らない攻撃を当ててみろ!!!!」


 とても広い戦場の空へ向かって巨大な白頭鷲が勢い良く飛翔して行くと。


「グォォオオオオオオ――――ッ!!!!」


 彼の軌跡を追う様に巨大砂虫が砂の吐息を上空へ向かって放射した。




『巨大怪鳥対超巨大芋虫!! 此処に雌雄を決する!!!!』




 こんな題で小説を書けば一儲け出来そうな激闘だが、今はそんな悠長な事を考えている場合ではぬわぁい!!!!



「あの馬鹿野郎が!! 俺達を守る為に羽ばたきやがって!!!!!」


 残り少ない体力を消耗したらそれこそ勝機を逃すじゃねぇか!!


「くっ!!!!」



 しかも避け方が結構際どい!!


 それもその筈、何処までも広がる青空ならまだしも此処は避けられる空間が限られているのだから。



「ハンナも己の身を犠牲にして奮闘しているのだ。俺が、俺がここで倒れている訳には……」


 彼の勇姿に触発されたグルーガーさんが今一度立とうとするが。


「お父さん」


 それをシテナの手が止めた。


「何をする!!」


「これ以上無茶したら死んじゃうよ。安心して?? 魔笛は……。私が演奏するから」



 え?? 魔呪具って所有者しか使用出来ないのでは??



「お前の様な貧相な体では演奏時間は五分ともたん。そんな微々たる時間では足止め程度にしか役に立たないだろう」


「それでもいい!! 何も出来ずに皆がやられて行くのは見たくないの!! 一生に一回位私の願いを聞いてよね!!!!」


 シテナが己の父親の双肩を力強く、強烈に握り締めると確固たる意志を乗せた瞳で彼の瞳を直視した。


「ッ」



 その瞳を捉えた彼は一瞬だけハッとした表情を浮かべ、それから暫くの間沈黙していたが……。


 シテナの熱意を本物だと理解して微かに笑みを浮かべた。



「ふっ……。あぁ、お前の心は受け取った」


「そ、それじゃあ!!」


「だが魔笛の使用はこの戦闘のみに限る。戦いが終わったら所有権限は再び俺の下に戻せ」


「分かっているよ!!」


「あ、あの――……。御取込みの最中申し訳ありませんがぁ。その虫払の魔笛って所有者しか使用出来ないのでは??」



 このままでは完全に置いていかれてしまうと考えて大変恐縮した声量でおずおずと問うた。



「ダンは知らないよね。魔呪具は継承の儀を執り行うことで使用者を変える事が出来るんだよ」



 ふぅむ、継承の儀ね。勿論初耳で御座います。



「やり方は簡単だよ?? お父さんが譲渡する意志を持って魔呪具に己の血を垂らして、それで譲受者である私の血を魔呪具に垂らす。両者の血が混ざりあえばそれで継承の儀は終了だよ!!」



 おぉ、そりゃ確かに簡単だな。



「ダン、すまないが短剣を貸してくれるか??」


「えぇ、どうぞ」


 彼に二刀ある内の一つ、生まれ故郷を発つ時におやっさんから譲り受けた一つを手渡すと彼は何の躊躇もなく短剣の鋭い切っ先で己の左手の平を薄く切り裂いた。


「ほぅ、中々の切れ味だな」


「生まれ故郷の義理の親から受け取った物ですよ。大切に研いでいますので」


 グルーガーさんから短剣を受け取り、真剣な眼差しで彼の所作を見つめているシテナに手渡す。


「そうか。ふぅ――……。これよりこの者が新たなる所有者となる。今こそ継承の時」



 彼が血に塗れた左手をぎゅっと握り締め、拳の間から零れて来る血液を経年劣化してくすんだ灰色の魔笛に垂らすと。



「お父さん。少しの間だけ貸してね」



 彼女もまた同じ所作で左手から血を垂らして魔笛の上に広がる父親の血の上に己の血を重ねた。


 互いの血が混ざりあい何か変化が起こるかと思いきや……。魔笛からは何の反応も見られず二人の血に塗れた箇所の赤色だけが嫌に目立っていた。



「あぁ、分かっている。これで継承の儀は滞りなく済ませた。シテナ、音色は覚えているな??」


「勿論だよ。物心付いた時から聞いていた曲だもん。じゃあ、聞いてね??」



 彼女が魔笛を受け取り嫋やかな唇で演奏を始めると、戦場の熱で高まった心が鎮まる澄んだ音色が微かに響いた。



「おぉ!! グルーガーさんの音色と一緒じゃん!!」


「え、えへへ。ちょっと恥ずかしいかな」


「そうだ、それでいい。後は悔いが残らぬ様に吹け。それがお前に与えられた使命だ」


「よぉし!! ダン!! 私、頑張るからね!!」


「その意気さ!! 俺は先に行っているからな!!」



 両手で拳をムンっと作った彼女の小振りな尻を一つ叩いてやった。



「きゃあ!! ちょ、ちょっと!! 女の子のお尻を叩いたら駄目って前にも言ったでしょう!?」


「景気付けだって!! それじゃ行って来るわ!!」



 微かに頬を朱に染めているシテナに対して軽やかに右手を上げると今も戦士達が懸命に戦っている死地へと駆けて行った。



 恐らくシテナの体力を考えれば、次が最後の攻防だな……。


 これを外せば俺達の命は無い。


 全く……。己の命を賭けた一か八かの大博打の作戦になるとは思いもしなかったぜ。


 だが、シテナが俺達に生き延びる機会を与えてくれなければもっと最悪な作戦を取らなければならなかったのだ。


 これを幸運の女神様から与えられた気紛れな思し召しと捉えるべきなのか、将又確実に訪れる予定であった運命だと捉えるべきか。


 それは定かでは無いがこれを生かさない手は無いよな!!


 さぁさぁこの世の理から外れた化け物さんよ。理の世界で生きる普遍的な生物達の必死の抵抗を受け取ってくれよ!!


 心に湧く恐怖心を必死に抑え付け、今も激しく砂の吐息を放射し続けている超生命体の下へ向かって断固たる決意を胸に秘め向かって行ったのだった。




お疲れ様でした。


三連休も本日でお終い。折角の連休でしたが、晴れたのは中日の一日のみで残りは雨模様でしたね。


皆様は有意義に休めましたか??


私の場合は……、そうですね。可もなく不可もなくといった感じでしょうか。


何も考えずぼ――っと過ごしたいのが本音ですがこの作品の続きを読みたいという読者様達が居ますので全く書かずに休むという事は出来なかったですね。


ですがそればっかりに固執していると体が壊れてしまいますので行きつけのラーメン店に足を運び、四川ラーメンを食して来ましたよ!!


そのお店のラーメンはどの味も美味しいのでいつかは読者様達に紹介したいですね。



そして、ブックマークをして頂き有難う御座いました!!


いよいよ終盤へと向かう大砂虫との戦いの執筆作業の嬉しい励みとなります!!!!



それでは皆様、お休みなさいませ。

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